- 651 :1/17:2005/08/24(水) 05:20:40 ID:???
- 「あ〜あ、何でこんな岩っころの監視なんてしなきゃならんのかね?」
「おい、お前不謹慎だぞ」
小型巡視艇の中で二人の男が会話している―
「不謹慎って言われてもなぁ、身内が死んだってわけじゃないし…」
「だが、ここにはまだ数多くの人が眠っているんだ。言葉は選べよ」
彼らの眼前にあるのはユニウス・セブン―
かつて農業プラントとして生産活動の中枢にあったコロニー。
ブルーコスモスの手により核ミサイルが放たれ、このコロニーは崩壊した。
今では慰霊碑とその残骸を抱きながら宇宙を漂っている―
「よおし、異常なしっと。終わったから戻ろうや」
「…おい、まて!MSがいるぞ!」
監視任務を終え、帰ろうとした二人であったが、一人の男が異常を認めた。
「あん?ありゃあ…ジンじゃねえか?他のチームが来てるのか?」
「そんな話聞いていないぞ…ん、こっちにくるぞ!」
ジンは巡視艇に手を掛け、接触回線が開かれた。
巡視艇のスタッフがジンを問いただす―
「おい、お前一体どこのチームだ?今日はうちだけの監視のはずだぞ?」
返事はない―が、おもむろにジンは構えていたライフルを巡視艇に向けた―
「―――!!??」
ライフルが火を放ち、声にならない悲鳴をあげた巡視艇の二人は、爆散後ユニウスを漂うデブリと化した―
ジンを駆る男は、彼らに惜別もなしに吐き捨てるように言った。
「撃たれた者達の嘆きを忘れた愚か者どもめ…!せめて彼らと共に…これから起こる事を見守るがいい」
- 652 :2/17:2005/08/24(水) 05:21:44 ID:???
- 「ユニウス・セブンが動いてる?」
ザフト軍新鋭戦艦ミネルバの艦橋で、最高評議会議長ギルバート・デュランダルは報告を受けていた。
「でも、あれは百年の間、安定軌道にあると聞いていたけど?」
ミネルバ艦長、タリア・グラディスが疑問を口にする。
それを受けて報告していたミネルバ副長、アーサー・トラインが更に続ける。
「はっ…!私もそのように聞いておりましたが…
本来動くはずのないものが動いており、周回予定の巡視艇からの連絡が途絶えているとのこと…
これは最早、何らかの力が働いているとしか考えられません」
アーサーの報告は事の重大さを物語っていた。
本来、プラント本国にデュランダルがいれば、すぐに対応策を立てていただろう。
だが、彼もアーモリーワンでの新型MS強奪事件に遭遇し、ミネルバに居合わせ追撃の指揮を取っていた。
そのため、彼に報告が届くまでにタイムラグが生じていた。
「副長、シュライバーはどのような指示を?」
議長不在の折は、最高評議会の面々が対応することになっている。
だが、緊急事態に際しては、国防委員会委員長であるタカオ・シュライバーの権限が勝る。
デュランダルに変わって何らかの指示を出せるのは彼であろうとの推測から、彼の名を出した。
「はっ…!国防委員長指揮の下、地球軌道艦隊所属、ジュール大隊が現地に急行したとの事。
ジュール大隊の編成はナスカ級2、ボルテールとルソーで構成され、所属MSは16機。
到着後は、メテオ・ブレイカーによる破砕作業を行なうとの事です」
タリアはアーサーに、他には何もないかと目で合図をしたが、アーサーは首を軽く振る。
現状、これがミネルバで知りえる全てであった。
「ふむ…」
ミネルバの艦橋に映し出された大型モニターに映し出されるユニウスと地球。
破砕作業に成功しなかった場合、間違いなくユニウスは地球を直撃する―
徐にデュランダルは口を開いた。
「タリア、ミネルバをボルテールとルソーの援護に回せないか?」
- 653 :3/17:2005/08/24(水) 05:22:49 ID:???
- 議長の申し出にタリアは逡巡した。
アーモリーワンを襲撃し、カオス・ガイア・アビスを奪ったボギーワン。
彼らザフト軍襲撃犯ジェネラルとの戦いで負った傷は深く、艦の修理に丸二日掛かった。
また、パイロットの数も問題であった。
就航後に他の部隊から送られてくる筈の人員もおらず、正規パイロットはルナマリアとレイの二人。
マユ・アスカはテストパイロットであるし、アスラン・ザラも今はオーブのアレックス・ディノ―
悩むタリアを見て、デュランダルは言葉を続けた。
「先の大戦から2年、だがその傷跡はプラント、地球を問わずなお残っている。
2年という月日は、そんな傷を癒すには、短すぎる時間だ。
もしユニウスが落下するようなことがあれば…下手をすれば再び戦端が開かれかねない」
現状よりも憂うべき未来の姿は、タリアに決断を迫った。
「わかりましたわ、議長。アーサー、艦の進路をユニウスへ!
総員第二戦闘配置!これより本艦は、落下中のユニウス・セブンの破砕作業を援護する!」
同じ頃、ユニウス・セブンの異変はガーティ・ルーにも伝わっていた。
ザフト軍の暗号通信を傍受した通信兵が暗号を解読、ネオたちの知るところとなった。
「あれだけの質量を持ったモノが、そう簡単に動くことはない…か」
傍受した暗号には、ユニウス・セブンの異変についてテロの可能性を示唆。
ザフト軍のナスカ級2、ボルテールとルソーが破砕作業を行なうとの事であった。
月に向かっていたガーティ・ルーは、幸か不幸かユニウスを補足できる位置にいた。
だが向かうかどうかは別問題―
「さて、どうするね、少佐?」
ネオは、ガーティ・ルー艦長、イアン・リー少佐に話を振る。
ただ意見を聞いたのではない。燃料や弾薬の状況、あとどのくらい行動できるのかを問うたのだ。
リーは手元の小型モニターを見ながら、想定される状況を考慮に入れ、結論を出した。
「テロリストがいるとして…その規模・装備がわからねば申し上げにくいですが…
武器弾薬、燃料はあと一会戦分。偵察には差し支えありませんが、ザフトに見つかるとやっかいです」
- 654 :4/17:2005/08/24(水) 05:23:55 ID:???
- 正直、リーとしてはこれ以上の戦闘は避けたかった。
軍用プラント、アーモリーワンの襲撃した後、追撃してきたミネルバを振り切る―
如何に特殊部隊であろうと、連戦は肉体的にも精神的にも堪える。
艦のクルーの疲労も考えると、月に直行したい気分であった。
暗に難色を示すリーの意見を聞きながら、ネオはクルーに指示を出した。
「近くにいる連合の艦隊は?地球軌道艦隊は間に合うのか?」
暗号を解読した通信兵が、現在の地球軌道艦隊の位置を大型モニターに映し出す。
「大佐、残念ながら連合の地球軌道艦隊はユニウスの裏側にいます。
全速で飛ばしたとしても、間に合うことはないでしょう」
チッ、とネオは舌打ちする。その隣でリーは制帽を被りなおす。
状況把握にしろ、戦闘にしろ、ガーティ・ルーが向かう他なかった。
意を決したネオが断を下す―
「総員第二戦闘配置!これより本艦もユニウスに向かう!
偵察行動か、戦闘かは現地の状況次第だが、こちらの思うように事態は動かん。
全員、心して掛かってくれ!」
ピピピッ―
室内を警告音が鳴り響く。
まだ疲労が抜けない―が、行かねばならない。
この警告音は戦闘か、あるいはそれに準ずる状況のときの呼び出しだ。
ゲンは体を起こすと、まだ暗い室内を手馴れた仕草で立ち上がり、室内の簡易モニターを点ける。
見ると、ネオ・ロアノークの仮面が画面に広がる。
「大佐、何かあったんですね?」
画面越しのネオの表情は心なしか厳しく見える。
すぐに全身に緊張感が走り、頭に残っている眠気を振り払う。
が、ネオの言葉は、少しではあるが彼に余裕を持たせることになる。
『10分後にブリーフィングルームに来てくれ。パイロット全員召集だ』
- 655 :5/17:2005/08/24(水) 05:25:03 ID:???
- 上官の言葉で、艦が危機的な状況に陥ったわけではないことに安堵を覚える。
時間的余裕もあり、ブリーフィングもできるということは、暫くの後に何かがあるということだ。
「了解」
そういって、モニターのスイッチを切ろうとしたゲンだが、ネオがそれを遮る。
『ところで、ステラの姿が見えないんだが、何処に行ったか知らないか?』
ファントムペインの紅一点、ステラ・ルーシェの所在不明―
だが、連戦から自室に戻り、暫しの睡眠から起こされたばかりのゲンは知る由もない。
「いや、知りませんけど」
それを聞くと、ネオはわかったとだけ言い通信を切った。
ステラの所在不明は心配だが、彼には居所など分かるはずもない。
仕方無しに、着替えてから彼女の行きそうな場所を当たろうかと考える。
とりあえず、部屋の明かりを点けようと思い、スイッチを押す―
だが、次の瞬間、彼の目は驚愕に見開かれ、僅かに残った眠気は彼方へ追いやられることとなる。
「うわっ…!ス…ステラっ!?」
彼のベッドに、丁度彼が寝ていた隣にステラ・ルーシェの姿があった。
先ほどの警告音にも、ゲンの驚愕の声にも起きることはなく、いまだ眠りの中にいた。
幸か不幸か軍服姿で、着衣に乱れなどはない。
焦りながら記憶の糸を辿るが、ゲンにとっては身に覚えのないことであった。
「どうして…俺の部屋に!?」
自分の姿を見ると、上半身が肌蹴ている―
連戦の疲れから、帰還後はパイロットスーツを着替え、インナーの上着を脱いだまま寝てしまったのだ。
とにかくまずは自分が着替えて、それからステラを起こそう―そう思って動き出した彼だが…
『おーい、ゲン!起きてるか?』
部屋の外のモニターを通してスティングの声が聞こえる。慌てて室内のモニターまで行き、返事をする。
「ああ、今起きた、起きたよ!」
- 656 :6/17:2005/08/24(水) 05:26:32 ID:???
- 知ってかしら知らずか声が大きくなる。
拙い―こんな状況を知られたら、あらぬ疑いを掛けられる―
そう思ったゲンの焦りが声を大きくさせたのだ。
幸いモニター越しには、こちらの様子は声だけしか伝わっていない。兎に角着替えねば―
扉がロックしてあることを確認し、着替えに向かう―
『ところで、ステラ来てない?アイツ探してるんだけどさぁ、何処探してもいないんだよね』
アウルまでいた―
おまけに当のステラを探しているらしい。最悪のタイミングだ…
「さ、さぁ?俺のところにはいないぞ!」
慌てて取り繕う。
とりあえずは服だ。服を着替えてステラを起こし、前後の状況を確認してそれから―
あたふたと室内に備え付けのロッカーを探り、着替えを始める―
まずは上着を着る、それからズボンを履き替えて…
だが、上着を着て、ズボンを履き替えようとしたところで異変が起きる―
バシュッ――
突如部屋の扉が開かれる音が聞こえる―
そんな馬鹿な!ロックはしてあるぞ!何で開くんだよ!?―
ズボンを履きながらの間抜けな格好で振り返ると、扉を開けたステラの姿があった。
そして室内の光景―無論、ステラの所在とゲンの格好を見た二人の同僚は…
スティングは固まったまま―アウルは「ひゅ〜っ」と口笛を吹く―
「ネオが呼んでる……早く来い……」
数秒の硬直から抜け出したスティングが、それだけ言うと足早にその場を去る。
拙い―完全に誤解された……
アウルはニヤニヤしながらこっちを見て、それからスティングの後を追っていった。
何笑ってんだよ、この野郎……
そして、なぜか扉を開けた当の本人、ステラも彼らの後を追っていく。
ちょっと待ってくれ!せめて口裏……じゃない!ああっ…もうっ!
「一体、何なんだよおおぉぉぉ!!!!!」
一人部屋に残されたゲンの絶叫が部屋に木霊した…
- 657 :7/17:2005/08/24(水) 05:28:04 ID:???
- 「よぉ、遅かったな。色男君!」
動揺から立ち直ったゲンがブリーフィングルームに着くと、開口一番ネオが声を掛けた。
折角立ち直ったはずが、再び奈落のそこに突き落とされたような気分になる。
ネオは、先ほどゲンを呼び出したときの緊張感のある表情とは全く逆の顔…
アウル、スティング、ステラは何事もなかったかのようにゲンを見る。
「まぁ、事情はステラから聞かせてもらったよ。若いねぇ?」
聞いたって……何を聞いたんだよ……?
訝しげにステラを見るが、キョトンとした顔で小首をかしげる。
ゲンは、頭を抱えたくなる気持ちを抑えて自分の席に着く。
そして更にネオが言葉を続けた。
「聞いた話によると、最適化を終えて部屋に戻ろうとしたけど、お前のことが気になったんだそうだ。
で、部屋に来たら鍵が掛かってなくて、入ってみたみたはいいが、お前はご就寝。
つついてもつねっても起きないもんだから、諦めて隣で寝ちゃったそうだ」
……なんだよ、そりゃ
ホッと胸をなでおろし、ようやく安堵感に包まれるゲン。
だが、隣でスティングはプッと吹き出し、アウルと一緒に笑い出す―見るとネオまで笑っていた。
「よくよく考えれば、単独潜入、単独暗殺、単独帰還、それにミネルバの単独強襲…
たった一人でこれだけの任務をこなした後で、そんな元気あるわけない…か?」
ネオの軽口は事実といえば事実なのだが、ゲンには最後の一言が気になった。
……一体どんな元気だよ?
キョトンとしてるステラ以外の男性陣の笑いが収まると、ネオが本題に入った。
「さぁて、任務の話に入ろうか」
笑っていたスティングとアウル、キョトンとしていたステラの顔が引き締まる。
そしてゲンも同じように緊張感に包まれていった。
- 658 :8/17:2005/08/24(水) 05:29:30 ID:???
- 「以上が今回の作戦だ」
同刻、ミネルバ艦内のブリーフィングルームでも作戦内容が明かされていた。
MS隊の正式隊長が決まっていないため、副長のアーサー・トラインによる説明が行なわれた。
ミネルバが破砕作業の援護に向かうこと、状況によってはテロリストとの戦闘が予想されること―
聞いているのは、ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレル、マユ・アスカ、そしてオーブのアレックス・ディノ…
「で、アレックス。君はどうする?」
話題を振られたアレックス・ディノは、困惑してアーサーを見返す。
「君はオーブの人間だ。我々の作戦に参加する義務はない。
もっともこんな事態だから、助力してもらいたいのは山々だが…」
ブリーフィングに参加してもらったが、アーサーの立場でアレックスに命令することはできない。
作戦に参加するか否かの判断は彼と、同伴しているオーブ代表の意志に任せる。
アーサーの質問の意図はそれであった。
「ユニウスが落ちれば、周辺を海に囲まれたオーブがどれだけの被害を蒙るかわかりません。
後ほど代表から許可を取り付けますが、参加させてください。代表も私と同じ思いの筈です。」
隕石の落下だけでなく、それによる二次被害も考えれば、オーブは危機的状況にある。
アーサーの説明でそれを感じ取ったアレックスは、迷わず即答した。
それを聞いて、アーサーは了解したと言う風に頷いた。
ブリーフィングが終わったあと、アレックスはブリーフィングの間から気になっていたことがあった。
パイロットの中に一人だけ、明らかに年の若い少女がいることが気になっていたのだ。
ここにいるということは、パイロットなのだろうが、ザフトにこの年のパイロットなどいる筈はない…
かつてザフトに軍籍を置いていた頃の知識から、少女が何者であるのかが気がかりだった。
アレックスは少女を呼びとめ、軽く自己紹介した後に仔細を尋ねた。
少女はマユ・アスカと名乗り、軍幼年学校に籍を置くインパルスのテストパイロットであることを告げた。
マユはそれだけ言うと、軽く会釈をし、足早に退室してしまった。
「……嫌われたのか?」
心なしか避けられているように感じたアレックスだが、そんな彼を呼び止める人物がいた。
「あの子、貴方の事嫌ってるわけじゃないんですよ。気を悪くしないで下さい」
- 659 :9/17:2005/08/24(水) 05:31:20 ID:???
- アレックスを呼び止めたのは、女性のザフト・レッド。
彼女は、ルナマリア・ホークと名乗り、自分がマユ・アスカと同室で普段から一緒にいることを告げた。
ルナマリアは、マユ・アスカの先ほどの非礼を詫び、知る限りの範囲で少女の過去を語った。
マユ・アスカがオーブ出身であること―
2年前の大戦で、戦闘に巻き込まれ両親と兄を失ったこと―
身寄りをなくした彼女は、移民を募っていたプラントに渡り、新設軍幼年学校に入ったこと―
そこでパイロットとしての適性を見出され、新型MSインパルスのテストパイロットに抜擢されたこと―
マユ自身の簡潔過ぎる自己紹介と異なる点は、彼女がオーブで悲劇に見舞われたことであった。
が、なぜ自分を避けるのか―気になったアレックスは、更にルナマリアに問いただした。
「オーブの前代表のウズミさんは、オーブの理念を護ろうとしたけど…
結局彼女の家族の命までは護ってくれなかった…
その娘のカガリ代表と彼女が率いるオーブには、余り良い感情は持っていない…
そういうことだと思いますよ」
あくまで推測の範疇だが、ルナマリアの話には納得できる点もあった。
理想のために国民を犠牲にした―戦災に見舞われた少女の視点から見れば、それは事実であろう。
アレックスは、ルナマリアに礼を言うと、ブリーフィングルームを後にした。
だが、事の真相を知ったものの、彼の心は晴れず暗澹たる気分だった。
先のオーブでの大戦には、アスラン・ザラとして防衛戦に参加していた。
当時の最新鋭機ジャスティスを駆ったものの、大西洋連邦の物量攻勢の前に撤退を余儀なくされた。
敗北したオーブは、ウズミ・ナラ・アスハ代表の自決後、降伏する運びとなった。
しかし、それはカガリのせいではない―
ルナマリアの代弁するマユ・アスカの思いに、唯一彼が反論したい点はそこにあった。
ならば誰がその責めを負うのか?その疑問は自責の念に行き着くことになる。
「護れなかったのは…俺ってことか…」
それと同時に、今自分の為すべきことを考える。
ユニウス・セブンが落ちれば、悲劇が繰り返されることに繋がる。
「今度こそ…護ってみせる」
アレックスの思いは、再び彼を戦場に駆り立てることとなる―
- 660 :10/17:2005/08/24(水) 05:32:32 ID:???
- 「…ったく、何て任務だよ…」
ストライクMk-Uのコクピット内―ゲンは今回の任務を聞かされ愕然とした。
彼に与えられた任務はユニウス・セブンの偵察であった。といってもただの偵察ではない。
ユニウスの状況を映像に収め、テロリストの数の把握し、ユニウスの推進機器を突き止める―
ミラージュコロイド装備のストライクMk-Uには造作もない任務ではあったが…
「これって…偵察隊の任務だろ?」
彼の報告とザフト軍の展開次第では、カオス、ガイア、アビスも発進―
状況によっては、テロリストと思しき集団との戦闘も想定されていた。
つまりは、ゲンの状況把握にガーティ・ルーの命運が掛かっていたのだ。
並みのパイロットでは、ガーティ・ルーのMS隊と敵対勢力の戦力差の把握すら困難―
そんな理由から、彼がやらざるを得なくなったのだ。
『そう文句を言うなよ、色男。戦場に行けば好き勝手やってるくせに』
どうやらブリッジのネオに愚痴が聞こえていたらしい。
先ほどの醜態を思い出させられ、更には先日のアレックスとの一件を指摘される。
反論の余地もなく、ゲンは沈黙するしかなかった。
「……」
ふとゲンは、眼前のモニターを見やった。
モニターが点滅し、愛機に見慣れない機器が取り付けられているのに気づいた。
背後に備え付けられたエール・ストライカーパックの側部に見慣れない棒状の装置がある。
長い棒切れが左右にひとつずつ…
「大佐、これ何です?」
ゲンは疑問に思い、ネオを問いただす。
『ああ、それか。予備のバッテリーと推進剤のタンクさ。
戦闘に移行した場合、偵察終了後にデータだけこっちに転送してもらう。
そんでもって、そのまま戦闘に参加してもらおうって寸法さ』
連戦連戦、また連戦…最早ゲンには愚痴を言う気力もなかった。
「…やれやれだぜ」
- 661 :11/17:2005/08/24(水) 05:34:17 ID:???
- 「こいつ等、一体何なんだよ!?」
ミネルバとガーティ・ルーが向かうユニウスでは、既に先方部隊は交戦に入っていた。
先行したジュール隊所属、ディアッカ・エルスマンは愛機ザク・ウォーリアの機内で舌打ちをした。
彼の指揮の下、ジュール隊のMS部隊は所属不明のMS部隊と接触していた。
最新のMSザクを多数保有するジュール隊と対したのは旧式のジン―
だが、ジン部隊の動きはディアッカの予想を超えた動きだった。
瞬く間に味方のザク3機が撃墜される。
「奴等…素人じゃない!」
仮にも正規軍のMSパイロットがこうもあっさりと撃破される。
機体の性能差を覆す相手は、間違いなく戦闘経験豊富な歴戦のパイロットだ―
そう判断したディアッカは、ボルテールで指揮を執る指揮官に増援を要請した。
「イザーク、増援を頼む!全機出してくれ!」
「…ザフトの兵も質が落ちたものだな」
テロリスト部隊の隊長を務めるサトーは毒づいていた。
ジン部隊の攻勢に一時撤退を余儀なくされたディアッカたちを見て、彼はザフトの将来を憂いた。
こちらをただの海賊か何かと勘違いしたのか―
サトー達は、ファーストコンタクトで迂闊にこちらの間合いに入ったザク3機をあっさりと撃破した。
「まるで素人ではないか?」
だが、お陰でこちらの作戦はやり易くなる―
思いなおしたサトーは部下に指示を送る。
「第二波、すぐに来るぞ!ここからが正念場だ!気を引き締めてかかれよ!」
そう―
ここからが彼らの正念場―
地球にユニウスを落とし、再び戦端を開かせる―
「我々は、2年間待ったのだ。この刻のために…!」
- 662 :12/17:2005/08/24(水) 05:35:44 ID:???
- 「何でこうなるんだ!」
イザーク・ジュールはディアッカの要請を受け機上の人となった。
指揮官用のスラッシュ・ザクファントムに乗り込み、後続の部隊の指揮を執っていた。
だが、ディアッカの報告によれば、敵は熟練のパイロットでこちらに応答せずに攻撃してきた―
ナチュラルが地球を崩壊させようとする筈はない。
恐らくは離反し行方不明となったザラ派の強硬派―
『ジュール隊長!ミネルバ到着の模様!』
共に発進した僚機からの通信が入る。
天佑とはこのことか―
「増援は何機だ!?」
『…4機です』
「……クソッ!」
僅か4機の増援で阻止できるか…イザークは不満を押し殺した。
だが、何としてでもユニウス落下を阻止せねば、再び戦端が開かれかねない―
意を決して指示を送る。
「ミネルバの4機は戦闘にのみ参加せよ!
ジュール隊はこれより所属不明のMS部隊と交戦に入る!
……時間がない!メテオブレイカーの設置と戦闘を同時に行なう!以上だ!」
我ながら無茶な指示だとイザークは思った。
相手がディアッカの話どおりの手練なら、メテオブレイカー部隊が狙われるだろう。
時間は刻一刻と過ぎる―倒してから設置しては手遅れになろう。
設置部隊を護りながら勝てる相手か―だが迷っている時間はない。
「いくぞ!」
迷いを振り切るように叫び、イザークは部下達を率いユニウスに向かった。
- 663 :13/17:2005/08/24(水) 05:38:32 ID:???
- 「ユニウスを動かした正体はコレか…」
ミネルバより一足早くガーティ・ルーはストライクMk-Uを発進。
ゲンはミラージュコロイドを展開し、単独でユニウスに取り付いた。
そこで見た物は、10数機にのぼるジンの部隊と、ユニウスに取り付けられた無数のフレアモーター…
証拠となるかは分からないが、現場を映像に収め、その場を去ろうとする。
しかし、ゲンはユニウス周辺に一隻の艦艇も存在しないことに違和感を覚えた。
仮にユニウスを落としたとして、あのジン部隊は何処へ行くつもりなのか―?
その答えを理解したとき、ゲンは慄然とする―
「……こいつ等、生きて帰るつもりなんてないってことか!?」
片道切符の特攻部隊―
ジンのパイロット達の決意はゲンですら寒気を覚えるものがあった。
そのとき、ゲンの眼前で戦端が開かれた。
イザーク率いる破砕部隊とサトー率いるジン部隊が交戦に入ったのだ。
「チッ…!」
舌打ちし、状況を確認する―
望遠を最大にし、戦闘に巻き込まれない範囲から戦場を見渡す。
イザーク達は、当初こそ攻勢だったものの、メテオブレイカー部隊に狙いを付けられ反撃にあう。
「ザフトの連中、こんな状況で設置なんて…思うようにできないぞ!」
見れば、早速メテオブレイカーを持ったザクが撃破されている。
イザークの不安は見事に適中した。それほどサトー達は手練だったのだ。
虎の子のメテオブレイカーを一機失い、更にジン部隊は攻勢を掛ける。
やむを得ず、ゲンはガーティ・ルーに回線を開いた。
「こちらゲン!
ユニウスを動かしているのは所属不明のジン部隊!数は10数機!
フレアモーターを使ってやがる。映像は転送するが…状況が最悪だ。
ザフトの破砕作業は遅々として進まず…ジン部隊は相当の手練だ!
ガーティ・ルーからも増援を!急がないと手遅れになるぞ!」
- 664 :14/17:2005/08/24(水) 05:41:08 ID:???
- 「ザフトは何をやってるんだ!」
ゲンからの報告を受けたネオ・ロアノークは、ザフトの動きの鈍さを罵った。
同時に、カオス、アビス、ガイアに出撃命令を出そうとする。
しかし艦長、イアン・リーはそれを阻む。
「大佐、お待ち下さい!ザフトを援護するおつもりですか!?
今ザフトの前に出れば、カオス、ガイア、アビスは攻撃を受けます!」
だがネオは即座に反論する。
リーの言葉は正論ではあったが、このままでは地球が危うい。
ネオは言葉を選びながら、しかし有無を言わせぬ口調で宣する。
「この状況で連中にそんな余裕があるとは思えん!
が、万が一こちらが攻撃を受けたら即座に撤退させる!
ユニウスの破砕まで手伝ってやる必要はない!ジン部隊の破壊が最優先、以上だ!」
直後にアウル、スティング、ステラの3人は戦場へと赴いた。
そしてネオ自身も不測の事態に備え、エグザスの元へと向かった。
一方その頃、破砕部隊は更に危機的状況に陥っていた。
ジュール隊とミネルバ隊の数はテロリスト部隊を上回ってはいた。
が、メテオブレイカーを持つMSもいるため、そのMSを護るために戦力を割かねばならない。
総合的な彼我の戦力差は完全に逆転していた。
「このままじゃ…ユニウスが地球に落ちてしまう!」
アレックス・ディノ、かつてのザフトのエース、アスラン・ザラは臍をかんだ。
サトーたちのジン部隊は、完全に連携が取れており、破砕作業の牽制に徹していた。
彼らの目的はユニウスを地球に落とすこと―アレックスたちの撃破が目的ではないのだ。
逆に、破砕部隊はジン部隊の撃破とメテオブレイカーの設置の両方を行なわねばならない。
その面でも破砕部隊は不利を背負っていた。
そんな状況を打破するべく、アレックスは賭けに出る。
「何故こんなものを地球に落とす!?これでは地球が寒くなって、人が住めなくなる!」
アレックスはザフト軍の広域回線を開き、テロリスト部隊への接触を試みた。
一か八か、説得で翻意してくれれば破砕は完遂することができる。
甘い考えとは分かっていたが、今の彼には他に打つべき手段がなかった。
だが、意外にも答えは返ってきた―
『ここで無残に散った命の嘆き忘れ、撃った者たちと何故偽りの世界で笑うか!貴様等は!』
- 665 :15/17:2005/08/24(水) 05:43:00 ID:???
- テロリストの隊長、サトーの叫びに戦場が一瞬動きを止める。
ザフト共通のチャンネルであったが故、新旧両部隊の全員がその声に聞き入る。
『軟弱なクラインの後継者どもに騙され、ザフトは変わってしまった!何故気づかぬか!
我等コーディネーターにとって、パトリック・ザラの取った道こそが唯一正しきものと!!』
アレックスは、父パトリック・ザラの名を出され、完全に硬直した。
かつて息子を撃ってまでしてパトリックが貫こうとした強行路線―
最終的にはナチュラルの抹殺にその矛先を向けた父の言葉―
それこそを正しいと叫んだ男の意志―だが、何よりもアレックスの母、レノア・ザラこそがここで死んだのだ。
そのときは自身も一度はナチュラルの抹殺に同意した過去もあった。
さまざまな感情がアレックスを奔流となって襲い、彼の動きは完全に止まった。
サトーの言葉は続く―
『私の娘も嘗てここで焼かれ死んだ!
わが娘のこの墓標!落として焼かねば世界は変われぬ!』
アレックスは直感した。この男はかつての自分と同じだ―
愛するものを奪われ、復讐心に心を奪われた自分と―だが、男の言葉を否定する者がいた。
『私も…戦争で父と母と…兄を亡くしました。でも…でも…こんなことをしたいとは思いません!』
少女の声―彼女の言葉はアレックスを現実に引き戻した。
マユ・アスカの声が戦場に響き渡る。
『地球には、大勢のコーディネーターもいます!
今ユニウスが落ちれば、みんな死んでしまいます!お願いだからもう…こんなこと止めてください!』
マユの言葉は、破砕作業を行なうものたちの意思を代弁していた。
地球にもザフトの拠点は存在する。ジブラルタル、カーペンタリア、アフリカ諸州…
友軍、あるいは同胞ですら滅ぼしかねない行為への反発が彼らを支えていた。
『だが…消せぬのだ…!この恨み!この憎しみ!
この2年、何度も忘れようと足掻いた!だができぬのだ!この想い…!だからナチュラルどもに!!』
サトーの言葉もまた、テロリスト達の意思を代弁していた。が、そう叫んだ彼の身に異変が起きる―
『なら…消してやるぜ!アンタの憎しみごとなぁ!』
- 666 :16/17:2005/08/24(水) 05:45:35 ID:???
- 戦場にいる誰もが目を疑った―
叫んだサトーの機体を閃光が穿つ―
彼のコクピットを背後から貫いたのはビームサーベルの光―
だが彼の後ろにはMSの存在など確認できない。
その異変の正体にただ一人気づいたものがいた。
割って入った声の主、そして今サトーを殺めたその人物を―
「Genocider Enemy of Natural!!」
アスランはその声の主を悟り、その名を叫んだ。
嘗て自分が倒した筈のストライクを駆るMS乗り―
そしてザフト軍襲撃事件の犯人、デュランダルの命名した敵対勢力ジェネラル―
やがて、爆散したサトーの機体の背後から一機のMSが姿を現す。
「ス…ストライク!?」
イザーク・ジュールは謎のMSの出現に呆然となった。
嘗て自分が追い求め、必ずや討ち果たそうと誓いながら撃てなかったMS―
そのMSが今また彼の眼前に聳え立っていたのだから。
ストライクの出現と同時に、次々とテロリスト達のジンが打ち抜かれる―
カオス、ガイア、アビスがジン部隊の背後をつき、次々と撃破していく―
「アーモリーワンで強奪された機体!?何でここにいるんだ!」
ディアッカ・エルスマンは疑問を口にする。
彼の言葉はまさしく新たな敵の出現を意味していた。
しかし、新たな敵は眼前の敵を撃っている―
敵だが、今は敵じゃない―
そう思ったアレックスは、味方に指示を出す。
「今だ!メテオブレイカーを設置しろ!手の空いている者は敵機の撃滅を!」
あれほど連携の取れていたテロリスト部隊は、ストライクと3機のMSの奇襲により崩壊した。
背後の敵と眼前の敵に挟まれ次々と散っていく―
奇襲に成功したカオス、ガイア、アビスはすぐにその場を離れる。
ジン部隊を奇襲、混乱させ、アレックスたちが攻勢に転じたことで、彼らの任務は終わった。
見ればストライクの姿も消えていた。
- 667 :17/17:2005/08/24(水) 05:47:19 ID:???
- だが事態は好転したわけではなかった。
「隊長!ジュール隊長!間もなく大気圏に入ります!離脱を!」
間もなく大気圏突入という知らせが、旗艦ボルテールから入電される。
もはや一刻の猶予もなかったが、幸いメテオブレイカーが作動し、ユニウスは二つに割れた。
「グゥレイト!やったぜ!」
ディアッカが歓声を上げる。
しかし、全長八キロに及ぶユニウスが二つに割れたところで、まだ危機を脱したわけではない。
「まだだ!もっと細かく砕かないと!」
アスランは叫ぶ。そう―もっと砕かねば被害の拡大は防げない。
だが、最早彼らに残された時間はもう残っていなかった。イザークは断腸の思いで決断を迫られた。
「全機撤退せよ!今からの作業では摩擦熱で焼かれる!これは命令だ!全機撤退!」
最善を尽くした上で、部下に死ねとは言えない―指揮官としては当然の判断であった。
だがそんな命令を無視し、なおもユニウスに向かう機体があった。
それを見たアレックスは驚愕し叫んだ。
「マユ!やめろ!もうすぐ大気圏に突入するんだぞ!」
だが、彼の声は聞き入れられない。
フェイズシフトのあるインパルスなら大気圏も突破できようが、彼の機体はザク―
追おうにも追えない―そんな自らの非力さをアレックスは心の底から呪った。
「もっと砕かないと…このままじゃ皆死んじゃう!」
マユ・アスカはジュール隊が放置したメテオブレイカーを一機持ち、単身ユニウスに残った。
なんとかブレイカーを打ち込み、作動させようとするが、安定しない―
本来MS2機が左右から押さえつけて作動するのがメテオブレイカー…
マユのインパルスが如何に強力でもこればかりはどうしようもなかった。
悲嘆にくれるマユ―だが、意外なところから救いの手は差し伸べられる―
『やれやれ……こんなところに一人で残るなんて、お前もよくよく馬鹿だな』
漆黒のMSが―彼女の兄、かつてシン・アスカと呼ばれた男―ゲンの駆る機体が眼前にあった。