15 :1/13:2005/09/06(火) 21:11:27 ID:???
『やれやれ……こんなところに一人で残るなんて、お前もよくよく馬鹿だな』

聞き慣れた声―
懐かしい兄の声―
だが兄は二年前に死んだはず―
ではこの人物は一体誰―?

ゲンの声を聞き、マユ・アスカは動揺した。
そんなマユの動揺など露知らず、ゲンはマユに声を掛ける。

『おい、お前』
「は…はいっ!」

ゲンの言葉に反応し、慌ててマユは我に返った。

『ボーッとしてないでそっち側をちゃんと押さえろ。砕きに来たんだろうが』

見ればインパルスはマユ同然に動きを止めていた。
メテオブレイカーは2機のMSで押さえつける必要がある。
インパルスが動かなければゲンのストライクMk-Uがいる意味がない。
言われてすぐにマユはインパルスの両手をメテオブレイカーに掛けた。
程なくしてメテオブレイカーは動き出し、破砕作業が始まった。

『…あとひとつの大岩の方も砕くぞ!』
「は…はいっ!」

ゲンの側にもうひとつのメテオブレイカーが漂っている―
自分と全く同じ考えで、この男はここに残っていたのか―
先日の戦闘で漆黒のストライクの存在を聞かされ、先ほどまでは敵と思っていた。
だが、今のところ敵意はなく、自分を手伝ってくれている。
"Genocider Enemy of Natural"だからナチュラルを護るのか―?そんな疑問も頭に浮かんだ。
しかし、何よりも彼の兄にそっくりのゲン声が、マユの心に不思議な安らぎを与えていた。

振り返ると、先ほどの大岩が割れようとしている。
もうひとつの大岩も割れば被害は大分防げるだろう―
そう思ったマユはストライクMk-Uにピッタリと就いていった。
やがて、もうひとつの大岩にもメテオブレイカーを打ち込むことに成功した。
これが上手く割れれば被害は最小限に防げるかもしれない―
そんな思いをマユは抱いていた。


16 :2/13:2005/09/06(火) 21:12:22 ID:???
「一体どうなってる!?」

ガーティ・ルーの艦橋でネオは声を荒げていた。
任務終了後に帰還する手筈のゲンが、いつまでたっても戻ってこない―
既にゲンより後に発進したカオス、ガイア、アビスの3機は帰還している。
ならば当然ゲンも戻ってきて良いはずであるが…

「何故戻ってこない!ガーティ・ルーの位置は教えたんだろうな!?」

苛立った指揮官は通信兵を問いただす。が、困惑した表情で通信兵は彼を見返す。

「こちらの位置座標は何度も送っています!けど応答すらありません!」

悲鳴に近い声で答える通信兵。間もなくガーティ・ルーも大気圏に突入する距離にある。
突入か、離脱か―ネオは判断を迫られた。
だが、その直後ガーティ・ルーはユニウスの異変を知る―

「2つに割れたユニウスのうち一つが…更に割れました!」

ユニウスの動きを見守っていたクルーが声をあげる。
すでにユニウスの先端は大気圏に突入しようとしている。
そんな中で割れる―まだ作業をしている人間がいるのか―?

「……あの大馬鹿野郎が!」

大気圏に捉まることを覚悟でユニウスに残り破砕作業を行なう―
応答がないということは、応答できない状態にある、つまりユニウスにいるということか―
ネオは直感的にゲンがやっていると判断した。

「大佐、本艦も間もなく大気圏に捉まります!ご決断を!」

艦長イアン・リーは最早猶予はないと告げた。
だが、逆に言えば突入してもガーティ・ルーは問題ないとの裏返しでもある。
無論、大気圏を突破するだけでなく、周囲の破片に気を配らねばならないが…
それでもリーは、突入に反対せず、ネオに判断をゆだねた―そして指揮官は断を下す―

「好き勝手やってる癖に…とは言ったが、好き勝手やれと言った覚えはないぞ!
 全MS及びMAを固定しろ!機関最大!これより本艦は大気圏に突入する!
 対空監視要員は警戒を!通信でゲンの呼び出しを続けろ!
 ローエングリン起動!ゲンの回収と最終破砕作業を並行して行なう!」


17 :3/13:2005/09/06(火) 21:13:13 ID:???
「インパルスが戻っていないですって!?」

同じ頃、ザフト軍新鋭戦艦ミネルバのブリッジでもタリア・グラディス艦長が声を荒げていた。
つい先ほど、最高評議会議長ギルバート・デュランダルをボルテールに移乗させた。
これからミネルバは大気圏突入し、主砲による破砕作業を行なう手筈―
が、インパルスのテストパイロットであるマユ・アスカは未帰還―

「間もなく大気圏に突入します!」

副長のアーサー・トラインが決断を迫る―
主砲による破砕作業は必然的に多数の岩盤を撒き散らす。
大気圏に突入中のMSにとっては、フェイズシフト装甲のインパルスであっても危険を伴う。
運良くボルテールかルソーに行っていれば良いが…
そんなタリアの思いは直後に裏切られる―

オペレーターのメイリン・ホークがユニウスの異変を告げたのだ。

「艦長!二つに割れたユニウスの一方が…更に割れます!」

この状況でまだ破砕作業を行なっている者がいる―
大気圏突破能力のないザクでは不可能な荒業を行なう者―
それは、マユ・アスカがまだユニウスに残っていることを告げていた。

「メイリン!マユからの応答は!?」

可能ならばミネルバ収容後に破砕作業を行ないたい―
それがタリアの本音であったが…

「ありません…。ユニウスの戦端は大気圏に突入しています。
 そのための電波障害の影響で……通信はおろか、位置さえわかりません」

最早収容も不可能な状況―
だが、一人のパイロットとプラントの明日を天秤にかければ迷う余地はない。
被害を最小に食い止めなければ、再び戦端が開かれることになりかねない。
苦渋の決断をタリアは迫られた―

「これより本艦は大気圏に突入する!並行して主砲、タンホイザーによる破砕作業も行なう!
 破砕の際、岩盤の破片に警戒せよ!」


18 :4/13:2005/09/06(火) 21:14:01 ID:???
ユニウスの大気圏突入が始まっていた。
マユとゲンは、もう一機のメテオブレイカーを打ち込み、作動させた。
メテオブレイカーは振動と共に埋まり、間もなく打ち込み終わった。
だが、割れない―

『そんな…』
「チッ…」

マユは落胆し、ゲンは舌打ちした。
メテオブレイカーは本来数機を打ち込み破砕するものである。
マユもゲンもユニウスの破片の総量から打ち込む位置を計算し、打ち込んだのだが…
ユニウスの余りの質量で、もう一方の大岩は割れることはなかった。

間もなくインパルスもストライクMk-Uも大気圏に飲み込まれ、機体の自由が利かなくなる。
あるいは打ち込んだメテオブレイカーに、更に何らかの衝撃を加えれば割れるか―?
逡巡の末、ゲンは賭けに出た。

「おい、お前。少し離れろ」

ゲンはマユに指示を出し、インパルスを遠ざけ、予備の推進剤タンクを切り離す―
大気圏突入に必要な分だけ機体に確保してあることを確認し、メテオブレイカーの脇に置く―
そしてストライクMk-Uの頭部バルカン砲を放った。

「砕けろぉ!」

弾丸を撃ち込み、推進剤タンクを爆破させる。
直後に砲弾は推進剤に引火、メテオブレイカーを衝撃が襲う。
次の瞬間、ゲンは岩に辛うじて亀裂が入ったのを確認した。

「これでいい…上手くすれば大気圏突入時の衝撃で割れてくれる」

安堵と共にゲンはインパルスの元へと向かった。
どのみちもう打つ手はないのだ。大気圏突入時にどうなるかは運任せ―
だが、その前にゲンは一つ確認しておきたいことがあった。

「ザフトのお嬢さん、お陰で地球は最悪の事態は免れそうだ。礼を言おう。
 が、ひとつ気になることがある。良ければ質問に答えて欲しいんだが…?」


19 :5/16:2005/09/06(火) 21:15:29 ID:???
ゲンの言葉にマユ・アスカは瞠目した。
この男は自分の兄、シン・アスカでないか―?
自分の声を聞いて、妹であると認めたのか―?
だが、そんなマユの淡い思いは裏切られることとなる。

『お前、これからどうするつもりだ?』
「……」

現実に引き戻される―
ゲンの指摘は少女の心を現実に戻した。

言われて気づいた。
相対する漆黒のストライクの機体は既に赤く染まっている。
もう間もなく彼女の乗るインパルスも大気圏に突入するのだ。
眼前のモニターの機器も警告を発している。
大気圏への突入は避けられない。

が、ゲンに指摘されるまでの間、マユは何も考えずにユニウスに残っていた。

目の前でユニウスが地球に落ちる―
ユニウスが落ちればまた大勢の人が死ぬ―
もう誰も死なせたくない―
これ以上自分のような人間を増やしてはならない―

そんな思いが彼女をユニウスに残していた。
だから、マユはユニウスを砕いた後のことを何も考えていなかった。
現実に引き戻され、慌てて思考を巡らす。
フェイズシフト装甲のインパルスなら突破は出来よう。

だが、その後はどうする―?
大気圏突入は可能でも、その後減速する手段はない―
この場合、母艦が近くにあれば着艦できようが、この状況ではミネルバに帰りつけるか―?

そこまで考えてマユはゾッとした。
自分がやったことは、地球の大勢の人を救えるかもしれないが、自殺行為に限りなく近いもの―
今更インパルスのコントロールマニュアルを参照するが、やはり解決策など見つかりはしない。
困り果てたマユは、おずおずとゲンに問い返した。

「あの……これからどうしたら良いんでしょうか?」

20 :6/13:2005/09/06(火) 21:16:44 ID:???
「……」

少女の問いかけにゲンは言葉に詰まった。
実のところ、ゲンもマユ同様に、衝動的にユニウスに残っていた。
ゲンにもシン・アスカだったころの記憶は、深層心理に若干だが残っていた。
知らず知らずのうちに、故郷に住む者たちの身を案じてこのような行動に出たのだ。

だが、洗脳を受け記憶を操作されている本人は知る由もない。
残ってユニウスを砕きはしたものの、ガーティ・ルーも地球に下りてくる保証はない。
降りてきたとしても、砕かれたユニウスの破片に遮られてコンタクトをとれるかは分からない。

ゲンは、少女に問いかけながら自らも大気圏突入後のことを検討していた。
仮に突入できたとしても、母艦がなければ海面に叩きつけられ機体は四散するだろう―
選択肢の一つとして、コアブロック式のコクピットを戦闘機として分離させる方法があった。
この方法なら、機体は失うものの、自身の安全は何とか確保できよう―
あとは最寄の連合の基地にコンタクトを取るだけ―

しかし、これはストライクMk-Uの本体を捨てることになる最終手段。
愛着のわいた機体でもあり、できることなら避けたい手段であった。

そこで考え付いたのが、目の前の少女を利用する方法だ。
投降するふりでもしてミネルバに着艦さえできればこっちのもの―
着陸か着水か、戦艦が地上に降りさえすれば、あとは逃げるだけ―
Mk-Uの能力ならコロイドを展開すれば目くらましはできよう―

あわよくば…そんな期待を膨らませていたのだが…
少女の様子だと、どうやらミネルバとのコンタクトを取れるかどうかも怪しい。
恐らくは自分同様、ろくに考えもせずユニウスに残っていたのだろう。
呆れながらも、自分も同じ考えであったことに頭を抱える。

やむを得ず、少女の乗るMSに思いをめぐらす。
確かアウルとスティングがこのMSのことを『合体野郎』と呼んでいた―
腕と体と脚がそれぞれ戦闘機になっていたと言っていたか―?

「コアブロック形式の機体ならコクピットだけ戦闘機になるだろう?
 なら大気圏突入後は、機体は放棄して脱出しちまえばいい」

もっとも地球の拠点が少ないザフトでは、救助を待つのも大変だろうが―
そんなことを思いながらもアドバイスはしたが、敵である少女に助言してやる筋合いはないのだ。
ただ、ユニウスの破砕を手伝ってくれた礼代わりにはなろう―
そんなことをゲンは思っていた。


21 :7/13:2005/09/06(火) 21:17:46 ID:???
やがてMk-Uのモニターが警告を発してきた。
間もなく大気圏に突入するという合図だ。

「おしゃべりはここまでだ。時間だぜ」

Mk-Uもインパルスも既にユニウスから距離を置いている。
既にユニウスの大半は大気圏に飲み込まれている。
間もなく彼らも突入するのだ。

だが、見ればインパルスの動きがおぼつかない。
Mk-Uよりも早く既に大気圏に飲み込まれようとしている。
見ていられずにゲンは更に助言をせざるを得なかった。

「摩擦熱による機体のオーバーロードに注意しろ!
 機体の冷却機能を活用、それと耐熱防御!フェイズシフトを切らせるな!
 突入後も極力機体を減速させろ!減速できなきゃ分離もできないぞ!」

『は…はいっ!』

マユの声に舌打ちする。
なぜ自分は目の前の敵に助力をしているのか―
本来なら大気圏突入でインパルスが燃え尽きてしまえば儲けものだが…
このときもゲンの深層心理が影響していたのだが…これも彼には知る由もなかった。
実の妹が目の前の少女とは知らずに―


一方のマユも目の前の男を不思議に思っていた。
ゲンの予想通りマユはインパルスの操作に手間取っていた。
非凡な才能を見せるマユ・アスカでも、地球の引力は初めて味わうものだ。
機体の大気圏突入のための姿勢制御に精一杯で、それ以上は手が回らなかった。
しかし、ゲンの助言ですぐにコントロールパネルからやるべきことを悟った。

それと同時に彼女はゲンの言葉に、再び先ほどまでの疑念を強めた。
やはりこの男は自分の兄ではないのか―?
言葉は乱暴だが、的確な助言で自分を助けようとする―
本来なら敵同士のはずなのに―
だが、兄なら自分の声に気づくはず―

「貴方は……誰なんですか?」

22 :8/13:2005/09/06(火) 21:18:41 ID:???
「またその質問か?
 アレックスといいお前といい、ザフトの連中はそんなに敵が気になるものなのか?」

ゲンは半ば呆れながらマユの質問を受けた。
本来軍人であれば、軍の指揮の下、敵と認めたものは殲滅する以外ない。
それなのに、ザフトの連中と来たら自分のことを二度も問いただす―
大気圏突入に備え、計器類に目を配りながらも、その質問にウンザリしていた。

「おしゃべりは終わりだって、言ったはずだがな」

特殊部隊のファントムペインが、自らの素性を明かせよう筈もない。

だが、幸か不幸か状況がそれを遮る―
目前のユニウスの破片が突如インパルスとMk−Uを叩く。
突如ユニウスの破片が砕け、シャワーのように細かい破片が2機を襲った。

「何だ!?エネルギー反応!?」

ゲンが前方を注視すると、大気圏の熱とは違う反応を認めた。

戦艦クラスの陽電子砲の反応が二つ。
一方はミネルバとしても、もう一つは―?

「ガーティ・ルー!降りてきたのか!?」


「Mk-Uの補足は出来ないのか!?」

ネオ・ロアノークはブリッジで声を荒げていた。
破砕作業の最中、懸命に通信兵が位置の特定を急いではいたのだが…

「大気圏突入時の電波障害で、位置は掴めません!」

せめてゲンの位置さえ分かれば、陽電子砲を撃つ箇所も変えられようが―
このままではローエングリンの砲撃に彼を巻き込みかねなかった。
舌打ちしながらネオは第二射のローエングリンを用意させる。

「第二射発射準備に入れ!通信は続けろ!何としてでもゲンとコンタクトを取るんだ!」

23 :9/13:2005/09/06(火) 21:19:47 ID:???
同じ頃、ミネルバもタンホイザーの第二射の準備に入っていた。
また、タリア・グラディス艦長もネオ同様に身内のパイロットの心配をしていた。

「インパルスの位置は把握できないの!?
 金属反応でも何でも良いから、チェック急いで!」

が、副長のアーサー・トラインはすぐにその命令を遮る―

「金属反応なんて…ユニウス自体が金属を多分に含んでいるんです!
 だいたい、この状況じゃ大気の摩擦熱でわかりゃしませんよ!」

なんとか破砕は続けている―
このまま砕けば被害は最小限に抑えられる―
そんな最中、唯一マユ・アスカの安否だけがタリアの気がかりであった。

「艦長!エネルギー反応です!」

オペレーターのメイリン・ホークの言葉にタリアはハッとする。

「インパルス!?位置は?」

だが、返ってきた答えは、彼女の期待したものとはかけ離れていた。

「いえ、違います…陽電子砲の反応です!
 ミネルバと隕石をはさんで反対側の…戦艦クラスの陽電子砲の反応です!」

メイリンの言葉に耳を疑う。
この場にミネルバクラスの戦艦がいるとでもいうのか―?
とっさにボルテールとルソーの各戦艦の名が浮かぶが、ナスカ級に陽電子砲などない。
一体誰が―?
しかし、目下のところ破砕が最優先事項である。

「対空監視を厳重に!陽電子砲発射位置の特定も急いで!」

破砕作業、インパルスの捜索、陽電子砲の発進位置の特定…
いくらなんでもこれは無理な命令―
そんなことを考えながらも、命令せざるを得ないのが指揮官たる者の勤め…
頭を抱えたくなる気持ちを抑え、指揮を続けていた。

24 :10/13:2005/09/06(火) 21:21:10 ID:???
「くっ…!これが地球の重力か!」

ミネルバとガーティ・ルーの陽電子砲の煽りを受け、臨戦態勢に入った。
無数の破片に阻まれ、既にインパルスの位置すら掴めない。
機体の姿勢制御で精一杯の状態であった。

その先に彼が見たもの―
赤く染まる地球が青く変わっていく―
それはMk-Uが大気圏を突破しつつあることの表れでもある。
そして機体に地球の重力が加わった。
大気圏突入時とは異なる衝撃が体を襲い、ゲンは胃からこみ上げる不快感を抑えた。

「アイツは…大丈夫なのか?」

知ってか知らずかマユ・アスカの身を案じるゲン。
一方その頃、マユも地球の重力の洗礼を浴びていた。

「……っ!」

急に体が重くなり、重力をその身に受ける。
プラントにも重力はあるが、地球のそれはやはりプラントのものより重い。
女性で、しかもまだ若いマユの体格では、ゲンよりも不快感は大きかった。
だが、その不快感はすぐに消える。
彼女にとっては、これは故郷への帰還でもあったのだ。

「地球……帰ってきちゃったんだ」

二年前オーブから大洋州連合へと渡り、更にプラントへと渡った。
故郷で家族を失い、生きるために軍幼年学校へと入り、インパルスのテストパイロットに―
まさかこんな形で地球に帰ってくることになるとは…

感慨にふけっていたが、そんなマユは直後に現実に引き戻される。

『こちらミネルバ!インパルス応答願います!』

ミネルバのオペレーター、メイリンからの通信が入る―
この時点でゲンに相談して得た、機体を放棄するという手段は潰えることとなった。
メイリンの声に安堵したが、彼の助言が意味を成さなくなり、マユは心の中で少し残念に思った。


25 :11/13:2005/09/06(火) 21:22:26 ID:???
『中尉、大した身分になったモンだな?』

ガーティ・ルーもミネルバと同じように、Mk-Uとの接触に成功していた。
もっとも、通信が繋がると、すぐにネオの皮肉が耳に入った。
どうやらゲンの身を案じて、共に破砕作業をしながら地球まで来てしまったらしい。
本来なら今頃は月基地に向かっている手筈だったのだが―

『命令違反の懲罰、覚悟しておけよ?』
「一応、俺は地球を救ったヒーロー……って言い訳は無理か。
 それにしても労わりのない職場だぜ」
『何か言ったか?』
「いえ、別に」

それでも、自分のために地球まで降りてきた母艦のクルーに、心底感謝していたが―

「これで、地球まで降りてきた甲斐があったというものですな」

ガーティ・ルーの艦橋で艦長イアン・リーはネオに話しかける。
地球まで来たのはゲンを回収するため―
彼とコンタクトできなければ彼らの地球への帰還は徒労に終わるのだ。
それにしても大気圏突入の混乱の最中、よくも無事でいたものだとリーは感心する。
だが、それと同時に一つの疑問が浮かぶ。
なぜ彼はこうも生き延びられるのか―?
数多くの困難な任務をこなし、ユニウスの岩盤とともに大気圏に突入してもなお無事―

「…運命をねじ伏せる男とは、こんな強運を兼ね備えているものですか?」
「だから言っただろ?アイツのは強運なんてモンじゃない。
 これからも俺達の任務の中で、アイツは俺達を導いていくのかもな」

だが、会話を状況が遮る―

「拙い……8時の方向、距離12000にミネルバ!」

共に大気圏に突入したミネルバとガーティ・ルーの接触を通信兵が告げていた。
すぐにネオは副官のリーと善後策を検討する。

「振り切れるか?」
「ご冗談を。ガーティ・ルーの性能を舐めてもらっては困りますな。急速潜行準備!
 Mk-Uの回収が終わり次第潜るぞ!あとはカリフォルニアで地球帰還の祝杯を挙げる!以上だ」


26 :12/13:2005/09/06(火) 21:23:27 ID:???
「ボギーワン!?なんでヤツがここに!?」

ミネルバにもガーティ・ルーとの接触の報は入っていた。
副長のアーサーは驚愕と共にその状況への疑問を口にする。

「陽電子砲を撃ってたのは、あの連中……そういうことよ」

艦長のタリアがそれに応じる。
ユニウス破砕作業現場にカオス・ガイア・アビスがいたことから、彼らがいても不思議ではない。
しかし、陽電子砲まで兼ね備えた戦艦となると、相手は地球連合軍以外ありえそうもない―
そんなことを考えながらも彼女は次々と指示を出す。

「相手がやる気なら戦闘になるわ!
 対艦、対MS戦闘用意!ブリッジ遮蔽、コンディションレッド発令!」

直後に大気圏突入を終えたばかりのミネルバクルーは、蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。
もっともそれは杞憂に終わるのだが…

「艦長!ボギーワンが……着水後に潜行しました!」
「何ですって!?」

いち早くミネルバの存在に気づいたガーティー・ルーは着水後、即座に潜行した。
これにより、ミネルバは地球降下後の戦闘という事態は免れた。
だが、タリアはその動きの素早さと艦の能力に瞠目する。

「ミラージュコロイド、陽電子砲、それに潜行能力……
 まるで持てる限りの技術力を戦艦に与えた……そんな感じね」

相対する敵の力に彼女も驚きを隠せなかった。
ボギーワンの反応が消失した後、警戒態勢が解除され、クルーは安堵感に包まれる。

が、その中でマユ・アスカだけは別の感情を抱いていた。
先ほどまで破砕作業を共に行なっていた黒いストライクのパイロット―
死んだはずの兄、シン・アスカと同じ声の男―
一度は共に地球を救おうとしたが、現実には彼が敵であることにかわりはない。
マユからの問いかけにも彼は応答しなかった。
返らなかった問いを少女は反芻する。

「黒いストライクのパイロット……。貴方は……一体誰なの?」

27 :13/13:2005/09/06(火) 21:24:37 ID:???
「で、そのザフトの新鋭機と一緒に破砕作業をしていたってわけか」

ガーティ・ルーに収容されたゲンは、艦橋に呼び出された。
そしてユニウスでの一部始終の報告を、指揮官のネオに行なっていた。
当然話は破砕作業の件に及び、インパルスとの共同作業の説明をせざるを得なかった。

「…状況が状況で、戦闘ができなかったのは分かるが、あまり敵と馴れ合うな」

アレックスとの一件もあり、上官から一応の注意はされた。
だが、意外なことに説教はこれだけであった。
命令違反の処分はカリフォルニア寄港後に下される、とだけネオは言い渡した。

部屋に戻って休むよう指示を受けたゲンは、ネオの指摘を反芻していた。
何故あの時、自分はあの少女を撃たなかったのか―?
相手がザフトの新鋭機である以上、大気圏突入時の助言も不要だったはず―
なのに自分はあの少女を助けようとした―
内心と行動との不一致をゲンは不思議に思っていた。

そんなゲンを仲間が迎える―

「よう、ヒーロー。お帰り」

艦橋から自室への道すがら、ゲンを待っていたスティングが声を掛ける。

「でも、一人で先走りって、感心できねーよ?」

アウルは持っていたドリンクをゲンに放り投げる。
言葉とは裏腹に、飲み物を持ってくる心遣いがゲンには嬉しかった。

「……これからは、気をつけろ…って言えってスティングが……」

何故か締めにステラからお説教を受けた。
指示をした当人であるスティングは、作戦失敗とばかりに苦笑いをしている。
しかし、そんな様子がゲンには微笑ましかった。
自分の居場所はここであることを認識させられる―

「ただいま。これからは気をつけるよ」

同時に先ほどまでの少女への想いは消え失せる。
敵なら殲滅するだけ―それが俺達ファントムペインの使命―
思い直したゲンは、3人と共に休息に入る―これからの戦闘に備えて。

ユニウス・セブンの落下からしばらくの後、地球連合はプラントへの宣戦を布告する。
そして、彼らファントムペインは、歴史の表舞台に登場することとなる。