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*注意:多少のグロ描写があるかも知れません。
- 395 :プロローグ「ドナドナ」:2005/10/26(水) 02:25:59
ID:???
CE71 6/15 オーブ連合首長国オノゴロ島―――
「お兄ちゃんどこに行ったのかなぁ? お兄ちゃん…………」
飛ぶMS、燃える町、死んでいく人々……激しい戦闘を繰り広げる戦場を、少女はただ1人さ迷い歩く。
厳しくとも優しかった父。
その顔に笑顔を絶やすことのなかった母。
そして少女のことをいつも守ってくれた大好きな兄……
数時間前まで少女が持っていた大切なモノ、つい数日前まで一緒に暮らした暖かく優しい世界。
その全てを失い今は絶望と死、狂気が少女の世界を支配している。
時は戻る―――
少女の運命が変わったあの時へ―――
マユ死種「injustice(仮)」
- 396 :通常の名無しさんの3倍:2005/10/26(水) 02:28:10
ID:???
- オノゴロ島は燃えていた。
中立国の中で、世界を揺るがす大戦中でありながら栄華と平和を誇ったその島が。
政務者の失策によって地球連合の侵攻を招き、国民は突然の事態に混乱を極めた。
ある者はシェルターへ避難し、またある者は島外へと逃げた。
そんな逃げ惑う一家がここにも……
「がんばれ! 後もう少し!」
先導するかの様に少年が先頭を走り、その後ろを父親と少女の手を引いた母親が林道を懸命に走る。
戦火を避けながら自分達が割り与えられた避難船が待つ港へと続く道を、ある一家族が懸命に――
そんな家族の頭上をMSが我が物顔で飛び回り、あたり構わず災厄を撒き散らす。
「きゃっ!」
「大丈夫!? ほら立って、もう少しだから!」
石に足を取られて転んでしまった少女に、慌てて母親が駆け戻り手を差し伸べる。
少女も急いで顔を上げ、その手を取ろうとする。
しかし、顔を上げた少女の目に飛び込んできたのは手を差し伸べる母親の姿だけではなかった。
―――天使のようにその青い翼を広げ、少女にライフルを向ける白いMS―――
そんな事はなどありえない、上空を飛ぶMSが少女を狙うことなど。
だが少女の目には、その白いMSは自分達家族を殺そうとしているようにしか見えなかった。
そして……
光が……
見えた気がした……
- 397 :プロローグ「ドナドナ」:2005/10/26(水) 02:30:55
ID:???
それからどれくらいの時間がたったか。
爆風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ気を失っていた少女は薄らと目を開ける。
少女にはいったい何が起こったのかわからなかった。ただ気付いたのは自分の上に何かが覆い被さっていること。
それを、身を起こしどかすと少女は立ち上がる。
体が所々ズキズキと痛む、しかし骨折などはしておらずたいした怪我はない。
自分はたいした怪我が無かった事を確認すると少女は家族を探して周りを見渡す。
家族と必死に走った道は砲撃により大きくえぐられ、周りの木々は爆風になぎ倒されてあたりに動く影はない。
あまりの惨状に呆然としていた少女は、砲撃によって出来た穴の近くに力なく転がる人影を見つけた。
それは確かに人の様に見える、しかし人にしては可笑しな格好をしていた。
その手足は人間にはありえない方向に折れ曲がり、うつ伏せに血溜まりへと沈みなりながらも
その空虚な瞳は空を見上げている。
始めはそれが少女の父親だとは気が付かなかった。それに気が付いたとき少女は、全身が凍りついたように感じた。
「う、あぁ……そんな……お父さん……?」
信じられないものを見てしまった少女は思わず一歩下がってしまう。
自分が何か柔らかいモノを踏んだ事に気付いた少女は恐る恐る足元のそれを見る。
それはさっきまで少女に覆い被さっていたモノ。
手足は爆風によって吹き飛ばされ千切れて無くなり、体はビームに焼かれ半分近くが炭化し
何かに驚いたかの様に大きく目を見開いたまま地面に転がるその母親だったものは少女を見上げていた。
「あぁああぁぁ…………」
目の前に広がるあまりに悲惨な現実、まだ幼い少女には重過ぎる絶望に少女は言葉にならない声を出しながらへたり込んでしまう。
両親を失った悲しみ、突然訪れた理不尽への憤り、そして何より目の前で起こった死への恐怖。
その全てが混ざった激しい、嵐のような激情が少女を襲いその精神を蝕む。
- 398 :プロローグ「ドナドナ」:2005/10/26(水) 02:32:14
ID:???
「――――ハハ……アハハ…………アハハハハッハハハハハハハハッ!!」
「ねえ――お兄ちゃんどこにいるの! ほら見てよ! お父さんとお母さん死んじゃったぁ!」
少女は気が狂れたように笑いながら、まだ見つからない兄の姿を探す。
程なくして爆発で開いた穴の近く、積み重なった土砂の向こう。
兄の着ていた白い服の袖口をまとわり付かせた右腕を見つけた。
そう、右腕だけを。
少女はフラフラとした足取りで兄の右腕に近づいて行くとそっと腕を持ち上げる。
「お兄ちゃん、腕落っことしてどこに行っちゃったんだろ? まったくもう! お兄ちゃんはいっつも忘れ物するんだから……
じゃあこれは私がお兄ちゃんに届けてあげなきゃね……アハッ」
焦点の定まらない瞳、壊れたようにその顔に笑みを浮かべ、少女は兄の右腕を抱きしめドコヘとも無く歩き出す。
少女は歩く。
家族と平和に暮らした家の前を。
少女は歩く。
兄と一緒に遊んだ公園を。
少女は歩く。
全てを燃やし尽くす戦火の中を。
誰もが自分が生きる事で精一杯な戦場で、そんな少女の事を気に留める者はいない。
どれほど歩いたか、ついに少女は歩き疲れたのか道端に足を抱え座り込む。
やがて空は赤らみ、辺りに響いていた戦闘の音が消えていく。
多くの命を奪い取った爆音が嘘かのような不思議な静けさ、それでも座り込んだ少女は顔さえ上げることさえしない。
そんな少女に近づく怪しい男。
- 399 :プロローグ「ドナドナ」:2005/10/26(水) 02:33:35
ID:???
「やあ、お嬢さん……パパとママはどうしたの?」
近づいてきた男は少女のまえにしゃがみ、優しく微笑みながら話しかける。
しかし少女は座ったまま固まり、男の言葉に全く反応せず顔を上げようともしない。
男は小さくため息を吐くとさらに少女に近づき、先ほどよりさらに優しく少女に話しかける。
「おじさんの名前はリュウジ・カワサキって言うんだよ。もう大丈夫、おじさんはお嬢ちゃんを助けに来たんだ」
男の優しい声に少女はゆっくりとその顔を上げる。
少女は焦点の定まらない虚ろな瞳を男に向け、目の前にいて辛うじて聞き取れる程の小さな声で男に問いかける。
「私のお兄ちゃんどこにいるか知らない? 忘れ物届けないといけないの……」
そう言い男に少女は兄の泥と血に塗れた右腕を見せる。
それを見て男はわずかに顔をしかめたが、すぐに人の良さそうな微笑みでそれを打ち消すと少女の頭優しく撫でる。
「ああ、お兄さんはおじさんが知っているよ。 さあ、お兄さんがお嬢ちゃんを待ってる……おじさんが連れてってあげよう」
男は少女にスッと手を差し伸べる。
無表情だった少女は両親の死から始めて、壊れた笑顔ではなく感情のある笑みを浮かべ、その差し伸べられた手を取る。
「ホント!? ホントにお兄ちゃんがいるの!?」
「ああ、ホントだとも……そういえばお嬢ちゃん、お名前は?」
「マユ! マユ・アスカ!! そんな事はいいから早く行こ! シンお兄ちゃんの所へ!」
少女は気が付かなかった。
そう言い手を取った時、男の目が怪しく光ったことを。
そして―――
少女は知らない、差し伸べられる手は必ずしも救いの手ではないことを……
少女は知らない、これから先待っている自分の運命を……
To be continue.