- 117 :1/9:2005/11/08(火) 21:30:37 ID:???
赤い髪と、ピンと跳ねたくせ毛が特徴の少女――
ルナマリア・ホークは宇宙戦艦ミネルバ内のMS格納庫を歩く。
本来なら十数機のMSが並んでいるはずの格納庫には、自分の搭乗機の赤いパーソナルカラーに塗られたザク・ウォーリアと
予備機のノーマルザク・ウォーリア1機の計2機だけ。
ミネルバには他にも1機、別にMSがあるがザクの1機は予備機なので戦力になるのはたったの2機。
強奪事件による芋ずるしきの出撃と、その後の戦闘で元々定数に満たなかった搭載機は、ほとんどやられてしまった。
その格納庫はガランとしてなぜか寒々しく感じる。
Gundam Seed Injustice 第2話『戦争屋(前編)』
- 119 :2/9:2005/11/08(火) 21:32:22 ID:???
「お? なんだ、ルナマリアも見に来たのか?」
後ろからかけられた声にルナマリアは振り向く。
そこにはアカデミーからの友人、オレンジ色の前髪が特徴的なMS技術スタッフのヴィーノ・ディプレと
同じく友人でMS技術スタッフのヨウラン・ケントが笑いながら立っていた。
「違うわよ。 私は任務!」
「そうなのか、俺はルナマリアもゲストを見に来たのかと思ったよ」
「そうそう、だってルナマリアはこういう話題好きそうだもんな〜」
ミネルバ艦内は今、これから来るゲストの話題で持切りだった。
ゲストと言っても本当に客人と言った訳では無く、ミネルバに不足しているMS戦力を一時的に補うために司令部に雇われた傭兵のことだ。
苦肉の策だが、中立国に補給を送ることも世界情勢が悪化している昨今、カ−ペンタリアの戦力を動かす事もザフトには出来なかった。
かと言って新造戦艦のミネルバをそのままにしておくことも出来ない。
そのためフリーの傭兵を雇い戦力を補うことになった。
ルナマリアの任務とはその、これから来る傭兵の出迎えと案内だ。
「でもさ、ゲストってどんな奴なんだろうな?」
ヴィーノの言葉はルナマリアも持っていた疑問だった。
アカデミーを卒業して間もないルナマリアは当然傭兵に会ったことなどない。
簡単なプロフィールなどは教えられていたが顔などは知らない、イメージとしては……
筋肉質で厳つい男。
交戦的で笑いながら人を殺せる卑劣漢。
そこまで考えて顔を思わずしかめた。
わずかな間とはいえ自分は同じパイロットとして同僚になるのだ、そんな人間は出来れば勘弁してもらいたい。
とその時、艦内放送がかかり聞きなれた妹、MS通信官制担当のメイリンの声が流れ出す。
- 120 :3/9:2005/11/08(火) 21:34:20 ID:???
『“ゲスト”が着艦します。 各員、持ち場に付いて下さい』
放送と同時に格納庫の扉が開き、巨大な影がゆっくりと進入してくる。
ルナマリアはその影へ一歩進み出る。
「おい、ゲストのMSってダガーLじゃないか!」
その影を見てヴィーノは思わず叫んでしまった。
ルナマリアも当然その格納庫に入ってきたMSは知っていた。
プラントの宿敵である地球連合軍の主力MS「ダガーL」
そのダガーLは正規軍のスタンダードカラーとは違い、深い緑のジャングル迷彩に塗られ
右肩の前面部には串刺しにされたライオンのエンブレムを付けている。
「あの背中の、あれが連合のジェットストライカーか……腰には各種グレネードホルダー、胸や肩に付けてあるのは対人スチール・レインか?
結構イジってあるな。 特に対人装備がかなり充実してるみたいだ」
後ろでは、誰も聞いていないのにヨウランがゲストのMSの解説をしている。
ルナマリアも目の前で動くMSを見上げる。
中立国内なので武装を外しているようだが、あちらこちら傷つき歴戦を窺わせる外見だ。
そのMSは誘導員にしたがいハンガーに固定されると、すぐにコックピットが開いた。
(いよいよ降りてくる……)
ルナマリアはガラにもなく少し緊張する。周りにいるスタッフも同じようだ。
- 121 :4/9:2005/11/08(火) 21:35:57 ID:???
降りてきたのは予想に反して小柄な人影だった。
宇宙用の密閉型パイロットスーツではなく、少し大きめの連合空軍の戦闘機用パイロットスーツを着ている。
そのヘルメットをゆっくり取ると、短い茶色の髪が広がりその顔がのぞく。
現れたその顔はルナマリアの想像とはかけ離れていた。
目の前の傭兵は、ルナマリアより少し幼いくらいの少女に見えた……
「あなたが……シン・アスカ?」
「ああ、そうだ。 まあヨロシク頼む」
その言葉とは裏腹にその傭兵は蔑むような笑みを浮かべ
そこからは本当に友好関係を結ぶ気などカケラも感じられなかった。
- 122 :5/9:2005/11/08(火) 21:37:30 ID:???
オーブ行政府。
そこではユニウス落下テロと、それに続き大西洋連邦から突きつけられた安全保障条約への加盟、それへ対応に追われていた。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ! 同盟など認められるはずが無い!!」
居並ぶ閣僚を前にし、オーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハは孤独に自身の考えを訴え続けている。
しかし閣僚達はその訴えを本当に真面目に聞いているのか、白けきっている。
皆分かりきっているのだ、こんな会議をしたところでオーブが進む道は一つしかない事に……
そんなカガリに、閣僚の1人ウナト・エマ・セイランは苦虫を噛み潰したような表情の顔を向ける。
「代表……あなたも分かっているはずです。 我がオーブにはこの同盟を跳ね除ける事など出来る訳がありません」
確かにカガリにもわかっていた。
今のオーブにはこの圧力にあがなうことは出来ない。
でもしかし、それでも……
「それではオーブ中立はどうするのだ! それをよりによって2年前、オーブを焼いたその国と同盟を結ぶと言うのか!」
「ですがオーブを復興させたのもまたその国です。 それにオーブ資本にも深く食い込まれているのです。
もはやオーブが大西洋連邦に反抗する事など出来ないのですよ……それともプラントとでも結ぶつもりですか? 代表は?」
- 123 :6/9:2005/11/08(火) 21:38:21 ID:???
オーブを復興させるにはどこか、支援国が必要だった。
それを名乗り出たのが大西洋連邦だった。
そしてオーブ復興に関して、大西洋連邦は多方面でその影響力を落としていった。
実質、属国と言っても差し支えが無いほどに。
今大西洋に付かないということは中立どころか孤立になってしまう。
それが嫌だからと言ってプラントに付くわけにも行かない。
ブレイク・ザ・ワールド事件は全世界的な反プラント感情を生み出し。
それこそ、ブルーコスモス強硬派に匹敵するプラント殲滅論が当たり前に聞かれるようになった。
そのプラントに付けばオーブも全世界から同じ憎しみを向けられることになる。
「しかし! それでは父上の……」
「文句ならその父上、ウズミ様に言う他に無いですな。
大元の原因を作ったのはウズミ様なのですから」
ウナトの突き放すような言葉にカガリは力なく椅子にうなだれた……
そしてそのまま閣議は終了し、カガリと閣僚は一同に重い足取りで部屋を出て行く。
それを見送りつつウナトは一つ、深くため息をついた。
- 124 :7/9:2005/11/08(火) 21:39:36 ID:???
「憎まれ役も辛いですねぇ父上♪」
締まりの無い声、それはウナトの実の息子。
カガリとの話し合い中には一言もしゃべらず、傍観を決め込んでいたユウナ・ロマ・セイランだった。
閣議が終了しガランとした室内にはセイラン親子2人だけ……
「大西洋連邦との同盟、それはいいとしてプラントはどうするのです?」
「戦端がひらかれたらアレックス……いやアスラン・ザラに行ってもらう」
「へぇ〜カガリの恋人様をねぇ。 役に立つのかい、そいつは?」
ウナトの答えにユウナは少し思案する。
ユウナとカガリは親が決めた結婚相手、許婚同士。
しかしユウナからはその相手を思いやる気配など微塵もしなかった。
「アスラン・ザラ個人には何も期待していない、必要なのはザラの性だ。
それにもうプラントと話は付いている。 プラント、議長にはザラが必要なのだ。
議長の傍らにパトリック・ザラの息子が付いている……それは旧ザラ派を納得させるにはもってこいだ。
連合と戦争になるときにザフトを一つにまとめねばならぬからな
それにオーブのプラントへの交渉チャンネルにもなる。 チャンネルは多ければ多い方がいい」
「なるほど、それはいいよ。 でもカガリが承知するかな……?」
「どんな事があろうと、カガリ様には承知してもらう」
- 125 :8/9:2005/11/08(火) 21:41:05 ID:???
ウナトは強い口調でそう断言し、ユウナは少し眉をひそめる。
「まあ仕方ないね、そこら辺は僕に任せてよ。
しかし僕達がこんなにも国の事を考えてるのにカガリは中立、中立……それしか言えないのかね?」
「そう言ってやるな、カガリ様とて頭ではわかっておるのだ。 ただ……」
「ただ……なんです?」
ユウナはあくまでヒョウヒョウとした態度でどこまで真剣なのかわからない。
ウナトはその息子の様子に心底疲れたと言うような顔をする。
また一つため息をするとゆっくり口を開く。
「今は亡き父、ウズミ様の亡霊にいまだ取り付かれているのだ。
カガリ様はまだお若い、それに代表としての経験も未熟だ。 父の取った中立政策が一番良いことだと思い込むのも無理はない。
本来ならばもっと経験をつむ時間が必要なのだ。 だが今のオーブにはそのような事も言ってはられぬ……
だからこそ我々はカガリ様を支え、正しい方向に導かねばならん」
ウナトの表情には深い苦悩が浮かんでいるかのようだった。
- 126 :9/9:2005/11/08(火) 21:41:54 ID:???
「そんな役立たずの代表なら、いっそのこと更迭して父上が代表になれば良いのですよ」
さもいいことを思いついたかのように、ユウナは愉快そうに恐ろしい事を口走る。
「な! 馬鹿のことを言うな、そのような事をすれば下手をすれば国が割れるぞ!!」
「たしかに、アスハ派の海軍や宇宙軍は『セイランがオーブ代表を手に入れるため、カガリ様を更迭した』などと言い出して暴発するかもしれないね。
でも陸軍はこちらに付いてくれるよ。 彼らは2年前を忘れたわけではない……」
「ユウナ、いい加減にしないか! オーブの代表は常に綺麗であるべき、影であるセイランではだめなのだ。
オーブ代表首長のためのアスハ家であることは、お前も分かりきっていることではないか!!」
ユウナの言葉は事実上のクーデターを起こせと言っているも等しい。
さすがにウナトもそれを聞き流す事はできなかった。
「父上、冗談だよ。ジョ・ウ・ダ・ン♪」
「冗談でも言っても良い事と悪い事がある!」
ユウナは何でも無いかのように笑みを壊さず、おちゃらけた口調でウナトに答える。
しかしウナトは、その目が全く笑っていないことに気が付いてはいなかった……
To be continued