- 252 :1/9:2005/11/18(金) 04:44:15 ID:???
広い部屋の中心には大きな円卓。それを囲む初老の男達……
企業複合体ロゴス、それは国家の枠を超えた世界企業による複合体。
それに所属する企業は家電生産から軍需産業、サービス業にいたるまで多岐に亘る。
決して歴史の表に出ては来ない組織だが、大なり小なりその影響力の及ばない国家は地球上に存在しない。
「ローマ、上海、ケベック、フィラデルフィア、そして大西洋北部……どれ程の死者と被害が出たか。
我々の同志も幾人か犠牲になった。テロリストどもがやってくれましたな……」
ある男は、それぞれの前に置かれたモニターが映すユニウスセブン落下に伴う被害報告を睨みながらつぶやく。
ユニウスセブンの地球への落下、その破片は世界中に降り注ぎ幾多の都市をなぎ払った。
円卓にも空席が歯が抜けたように所々に開いている。その空きが周りに重苦しい空気を落とす。
「何を沈んでいるのです。 この事件は確かに大惨事です。 大惨事だからこそ最高のカードに成りうるのですよ!」
そんな室内に漂う沈んだ空気を打ち払うかのように立ち上がり、周りに訴えかける男――
――ロード・ジブリール、反コーディネーターの急先鋒ブルーコスモス盟主。
Gundam Seed Injustice 第2話『戦争屋(後編)』
- 253 :2/9:2005/11/18(金) 04:46:31 ID:???
「今こそチャンスなのです! 憎きコーディネーターを殲滅する!!
地球に住む人間なら誰しも思うでしょう。 なぜこんな事に! 誰がこんな事を! と。
我々はただ教えてやればいい、包み隠さずありのままの真実を!
市民達は怒り狂い恐怖するでしょう、地球を破壊しようとする確かな脅威が自らの頭に存在する事に!
もはやどの国も中立などと言っていられない、全ての国は当事者なのですから!
そう! 地球を統一し、空の化け物どもから地球を守らねばならないのですよ! 我々は!!」
ジブリールは熱弁を振るう。それはまるで舞台役者が演劇を演じるかのようだった。
他の円卓を囲む者たちはそんなジブリールを見て、皆苦い表情をしている。
「本来ならプラントを滅ぼすのなら時を待てばよかったのだ。 連合とプラントの戦力はひらく事があっても縮むことはない。
彼らには武器はあってもそれを扱う人間がいないのだから……何にせよ予想外の事は起こるものだな」
「ただ注意することは奴らの技術力、それで前大戦では痛い目を見ましたからなぁ」
「そのためのプラント威力偵察隊、第81独立機動群『ファントムペイン』だったのだが……結局、彼らには別の目的で動いてもらうことになるな」
「テロリストどもはMSを使っていた。 プラントに協力者がいることは確かです
の捜索を拒否したのはプラント政府だ!」
「被害を受けた地球の民達はこのまま黙ってはいられまいよ、世論が動けば国も動かざるおえん。 戦争は避けられまいて」
- 254 :3/9:2005/11/18(金) 04:47:40 ID:???
居並ぶ男達も口々に開戦は不回避と口にし、ユニウスセブン落下への報復戦争への意見がまとまる。
それをジブリールは満足げに見守ると声高らかに宣言する。
「連合諸国への後押しと、コーディネーター殲滅は私に任せてもらいたい! 必ずや期待に答えて見せますよ」
今まで沈黙を守っていたロゴス長老格の老人は円卓の男達を一人ひとり見る。
そして――
「……やって見たまえ、ジブリール」
「ありがとうございます。 では私は早速行動に移したいと思います。」
この決定がなされたまさにその時、プラントとの戦争は不回避で決定的なものになった。
ジブリールは目当ての言葉を上手く引き出せたことにニヤリと笑うと、長老に一礼し部屋から出て行く。
「…………所詮はブルーコスモスもまた秩序を乱すものか」
- 255 :4/9:2005/11/18(金) 04:48:27 ID:???
長老はジブリールが完全に部屋から離れた事を確認するとポツリともらす。
「軍を掌握するのに役立つかと思いましたが、甘やかしすぎましたかな」
他の男も長老の言葉にうなずきながら答える。
「元々ブルーコスモスの思想を我々は必要としましたが、組織としてのブルーコスモスなど必要としていない」
「奴は勘違いをしておる……地域紛争ならまだしも国家の全面戦争など誰も望んではいないのだ」
「企業にとって大事なのは安定した秩序、ロゴスはその秩序を創り守るもの。
それを乱し壊すプラントは排除しなければならない。 ブルーコスモスもまたしかり」
男達は先ほどまでジブリールに追随する言葉を吐いていたのが嘘のかのようにブルーコスモスを批判する。
そしてその言葉は淡々としていて酷く冷たい。
「やはり我ら自身が直接力を持たねばならん」
長老がそう断言し、脇に控える側近に支持を出す。
「ピンクの歌姫に連絡を取ってくれ」
と……
- 256 :5/9:2005/11/18(金) 04:49:25 ID:???
――オーブ、戦艦ミネルバ。
その船内をシンは歩く。
ルナマリアと名乗った赤い服の少女が先導し、監視するかのように両脇を小銃を抱えた保安員が固める。
その扱いは当然なので良いのだが、先ほどから船員とすれ違うたびに浴びせられる好奇に満ちた視線。
見世物にされたみたいでいい気分はしない。
それにすれ違う船員に目に付くのが16〜7才程度に見える若い新兵。
その頼りなさにシンはこの仕事を請けたことを少し後悔し、仲介屋の話をよく聞かなかったことを大いに後悔した。
「艦長、ゲストをお連れしました」
ルナマリアがある部屋の前で立ち止まり、モニター越しに会話したあと部屋の扉が開かれる。
シンはルナマリアに勧められその部屋へと入っていく。
そこに待っていたのは一見して上官職と思われるデスクの椅子に座った白い服の女性と、その傍らに立つ副官らしき黒服の男。
そして壁際にはルナマリアと同じ赤い服を着き、金色の長髪が特徴の男が立っている。
- 257 :6/9:2005/11/18(金) 04:50:41 ID:???
「あなたがシン・アスカね? 私がこの戦艦ミネルバの艦長、タリア・グラディスです。
そしてこっちが副長のアーサー・トライン」
「ああ、俺がシン・アスカだ。 あんた見たいな女が艦長とは驚いたよ」
タリアの挨拶にシンは相手を挑発するような物言いと態度で答える。
そのシンの態度に副長であるアーサーは露骨に顔をしかめ、シンを睨む。
しかしタリアは内心はどうであれ、怒る訳でも無くむしろシンに対し笑みを浮かべ……
「それはよく言われるわ。 たとえ信頼できなくても信用してもらうしかないわね。
さて、挨拶も終わったことだし依頼内容を確認します」
タリアはシンの挑発を軽く受け流し話を続ける。
「シン・アスカは地上におけるミネルバの作戦行動の援護、またミネルバの護衛
依頼中はザフト軍の指揮下に入ること、つまり私の指揮下に入ってもらいます。
その代わりMS整備と弾薬補給、その他諸々の消費物資については全てこちらが負担するものとする。
あなたの艦内での待遇はパイロット待遇ですが行動は制限させてもらうわ。
あなたが立ち入っていいのはMS格納庫、各厚生設備、訓練室、ブリーフィングルーム、自室についてはまた支持します。
いいわね?」
- 258 :7/9:2005/11/18(金) 04:51:54 ID:???
「了解、それで問題ないよ」
「そう、それじゃあなたの同僚になるMSパイロットを紹介するわ。 アーサー、後を頼むわね」
「はい」
アーサーはタリアの指示にシンの一歩前に進み出る。アーサーのシンを見る顔は硬い。
そして視線をシンから逸らし、タリアとの会話中ずっと後ろで待機していたルナマリアと
そのルナマリアと並び、同じく待機していたもう1人の男に目配せをする。
「こっちの彼女はもう挨拶をしたと思うが、ザクウォーリアのパイロット、ルナマリア・ホークだ。
そしてこちらの彼はインパルスのパイロット、レイ・ザ・バレル。
インパルスとはこのミネルバに搭載されている最新鋭MSのことだ。
2人とも若いが腕は保障する。 同じMSパイロット同士だ、うまくやってほしい。
私からは以上だ」
「ルナマリア・ホークです。 改めてよろしく」
「レイ・ザ・バレルです。よろしくお願いします」
「ああ、ヨロシク」
2人はサッとザフト式の敬礼をする。そんな2人にやる気の無い返事を返しながらシンは一つ疑問を持つ。
その疑問を、まだ自分を鋭い表情で睨んでいるアーサーにぶつけて見る。
- 259 :8/9:2005/11/18(金) 04:52:31 ID:???
「なぁあんた、この船にMSパイロットはたったの2人か?」
「そうだ。 だからお前が雇われた」
チッ!
シンは聞こえないように小さく舌打ちをする。
ミネルバには自分のを含めMSがたったの3機、少なすぎてまともな作戦で使える数じゃない。
いくらザフトの新造戦艦と最新鋭機だろうが、小規模な連合艦隊にでさえ攻撃されたら戦闘にもならない。
一方的にやられてしまう。
苦しい状況だがシンは傭兵、いくらでもやりようはある……
「まあいいさ、俺は給料分働くだけだ」
シンは今回の依頼で、前金だけでも新品のMSが買えるほどの額をすでに貰っていた。
傭兵も信用商売、もらった金額分ぐらいは働かないと次から仕事の依頼が来なくなる。
「それじゃ……ルナマリア、レイ。 アスカに艦内を案内してあげてちょうだい」
一通りの顔合わせが終わった事を確認すると、タリアは2人に指示をだす。
「ではシン・アスカさん、行きましょう」
ルナマリアにそう促され2人と共にシンは部屋を出る。
- 260 :9/9:2005/11/18(金) 04:53:06 ID:???
シンの前を歩く2人は何処から回ろうかと話し合っているみたいだが、シンは先程の続きを考えていた。
前の2人と自分を合わせてMSがたったの3機、そして新兵ばかりのミネルバ……
もし連合と戦闘になったらとても勝ち目は無い、だが依頼を受けたからにはそれなりの義理を果たさなければいけない。
(そうさ、俺は給料分働くだけだ)
シンは誰にも聞こえないよう小さく、またそうつぶやく。
もし戦闘になれば前金分働き、それから頃合いを見てずらかればいい。それならばザフトへの義理も立つ。
その後ミネルバがどうなろうが自分の知ったことではない。
無理してまでミネルバを救う理由はないし、そもそもザフトなんかと心中するつもりなどシンには全く無かった。
(まあ、そもそも戦闘が起こらないことを祈るか……)
そうシンは思い、考え事中に少し開いた前の2人との間をつめる。
だがその願いを打ち破る脅威が近づいている事を知る由も無かった。
To be continued.....