- 95 :1/9:2005/12/20(火) 04:25:56 ID:???
連合艦隊旗艦ヨークタウン――
「スカイアイより入電、目標は想定のコースを進みオーブ領海外へ出ました。
距離30で第1戦ラインに到達。 オーブ艦隊も領海警備のため展開しています」
「ダガー第一、第三中隊発艦完了、第二中隊も発艦準備を終了し予備兵力として待機中」
「スピアヘッド隊もいつでも出せるように準備急げ!」
艦の中枢たるCDCは刻一刻と迫る戦闘に向けて艦隊指揮に追われている。
その艦隊を統べる艦隊司令はモニターの海図を睨んだまま傍らの副官に話しかける。
「怖いぐらいに順調だな」
「はい」
モニターに映し出されているのは、作戦領域上空の早期警戒機から送られてくるリアルタイムの敵情報だ。
敵を示す赤いマークがオーブ領海を越え、味方の青いマークが徐々に包囲していく。
現在、連合艦隊は大きく二つに分けられている。
スペングラ―級MS搭載艦2隻を中核とする一群は敵艦へ左舷後方から、旗艦を含むもう片方の艦隊は敵艦の前面から接近していく。
目標はオーブ領海が壁となり、連合軍に挟撃される形となる。
- 96 :2/9:2005/12/20(火) 04:27:11 ID:???
「“あれ”の準備はどうだ?」
「まだ調整に手間取っている様です。 なにぶん今だ試作段階のモノですから」
「早く終わらせろ。 調整が終わっても敵がいないでは話にならん」
司令はニヤリと笑う。
その顔は絶対の自信に満ちていた。
圧倒的な戦力差と周到に準備された作戦、どう考えても負けるはずは無いのだ。
司令の自信も当然のもの……
その時、モニターに赤い光点が一つ増えた。
「敵艦よりMS1機発進! ダガータイプです!」
「ダガータイプ? ザフト正規軍のものではないようですが?」
「大方傭兵だろうが……運の悪いヤツだ」
予想外の事だがたいした事ではない、作戦に影響は無い。
むしろザフトに雇われた哀れな傭兵に司令は同情してやる。
予定外なのは傭兵の方だろうから。
「艦隊前面にアンチビーム爆雷撒布。 MS隊は攻撃開始、敵のダガーLは叩き落とせ。
相手との距離に注意しろ、陽電子砲の射程ギリギリを維持するんだ!」
司令は部下への指示を出すと一呼吸いれる。
そして今度は命令ではなくCDC要員全員へと声をかける。
「よし行くぞ! 各員、訓練の成果を見せてみろ!」
Gundam Seed Injustice 第4話『オーブ沖海戦(前編)』
- 97 :3/9:2005/12/20(火) 04:28:44 ID:???
- 戦場に飛び出したシンが見たのはミネルバを取り囲もうとする連合軍。
そしてミネルバを監視するかのように自国領海にとどまるオーブ艦隊の姿。
「MSだけでも20機以上……逃げる事も出来ないか」
2個MS中隊、計24機。
ほぼミネルバを包囲し、鼠も逃さない陣形でミネルバを沈めに優々と接近してくる。
絶望的な状況だ。逃げる事も出来ず、遅かれ早かれ袋叩きで殺される。
なんとも糞ったれな戦場だった。
「来た……」
発艦してきたシンに、ダガーL2機が編隊を離れて襲い掛かってくる。
連合MSはすべてシンと同じ、ジェットストライカー装備のダガーLだ。
もっともシンのダガーLは自分に合わせて改良してある。
OSをコーディネーター用に変え、装備も正規品とは違う。
大きな違いはその武装だ。
腰のビームサーベルを外し、側部腰アーマー形状を改良して各種グレネードを両腰に2個ずつ装備する。
さらに後ろ腰には予備のビームカービンを備え付けていた。
また両腕にハードポイントを付け、そこにビームガン、サーベル両用の隠し武器を装備しそのまま使用できる。
そしてそれらの武器の取り回しをよくするため、アンチビームシールドは一回り以上小さい。
このように武装面では連合軍所属機と全く違う、ただ機体性能自体はバランスを重視して手を加えていないのでオリジナルと差は無い。
「くっ!」
シンはダガーLがしきりに撃ち出してくる閃光を、機体を捻り回避する。
ダガーL2機は1機が牽制をしつつ、もう1機の射線へと次第に追い込む。
その1機も常にシンの死角に回り込もうとする相互に連携した巧みな攻撃だ。
シンもそれを分かっているので2機に手に持つビームカービンを撃ち込み連携を乱す。
もつれ合うように戦う3機のダガーL、性能が同じで正面から戦えば機数が多いほうが有利だ。
<アスカ機、ザクの発進が遅れています。 もう少し踏ん張ってください>
開きっぱなしの回線からMS官制の指示が聞こえる。
だが管制官の指示など多数の敵に囲まれ、援護も無いこの状況で全く意味は無い。
それに味方が1機や2機増えたところで何が変わると言うのか。
「この程度っ!」
ビームがシンのダガーLの装甲をかする。
まだ戦闘は始まったばかり……
- 98 :4/9:2005/12/20(火) 04:30:20 ID:???
ハァ、ハァ、ハァ…………
荒い息、はち切れそうな位に鼓動する心臓。
時折
ズンッ!
ズンッ!!
と船体に響く爆発音。
「ザク、ブレイズウィザード装着完了しました! グゥルも後少しで!!」
「グズグズするな! 早くグゥルを準備しろ! 今外にいるのは1機だけなんだぞ!!」
そしてそんな格納庫の喧騒さえ耳に入らず。少女――
ルナマリア・ホークはただ1人愛機の狭いコックピットで怯える……
何も今日が始めての出撃ではない。アーモリーワン、ボギーワン追撃戦、そしてユニウスセブンでも戦った。
しかしそれらの時と今回は決定的に違う。
絶望的な戦力差、生きては帰れないだろう出撃……
まだ経験の少ない彼女が恐怖に竦むのも当然の状況。
<グゥル、カタパルト、発進準備完了。 ルナマリア機、発進準備に移ってください>
<…………お姉ちゃん……必ず生きて帰って>
ルナマリアをハッとさせる妹の声。
通信の最後に付け足したその小さな声は、死地へ赴く姉を思うメイリンの心痛。
「大丈夫よ! 連合軍なんかみんな私がやっつけちゃうんだから!!」
恐怖に振るえそうになる自分の声を必死に隠し、ルナマリアは答える。
- 99 :5/9:2005/12/20(火) 04:31:42 ID:???
この世でたった2人の姉妹。
いつも自分を慕ってくれる妹に、自分の弱いところを見せるわけにはいかない。
ルナマリアはいつもメイリンにとって強い姉で在りたかった。
(生きたい! 私はこんなところで死にたくない! メイリンを死なせたくない!!)
胸の奥から湧き立つ強烈な衝動、それは潰れそうだった心を奮い立たせる。
『ルナマリア、大丈夫か?』
突然レイからの通信が入る。
通信モニターから見えるレイはいつもと変わらず無表情だ
こんな状況でも眉一つ動かさないその顔、いつもはつれなくて面白みに欠ける。
しかし今、そんなレイの態度になぜかルナマリアを安心させた。
そんな事で安心した自分が恥ずかしく、ルナマリアはそれを気取られないように軽口を叩いた。
「レイ、誰に言ってるつもり? 私を心配する前に自分の心配をしたら」
『大丈夫そうだな、それならいい。 ルナマリア、出たら俺と2人で組んで戦闘をする。
俺がインパルスで前に出る。 ルナマリアは後方から援護をしてくれ』
「分かったわ、任せて」
『それと…………』
「まだ何かあるの?」
そこでレイは一つ言葉を区切り、その仏頂面を崩し彼がめったに見せない穏やかな表情を浮かべる。
『必ず生き残れ、どんな生だろうと、生きているということはそれだけで価値がある。
明日があるということだからな』
ルナマリアは思わず唖然としてしまった。
表情もだがそのセリフは普段のレイからは想像できないものだったのだから。
だがルナマリアは言葉の意味を理解すると顔を綻ばせる。
「もちろんよ! レイ、あなたもね!」
そう答えたルナマリアに、レイは小さく微笑んだ気がした。
- 100 :6/9:2005/12/20(火) 04:35:11 ID:???
「ぐうぅっ!」
シンは連合機2機からの執拗な攻撃を高速でのランダム機動で回避した。
ランダム機動の急上昇に急下降、急停止と急加速で強力なGがかかる。体が悲鳴を上げ、気を失いそうだ。
シンもただ回避している訳ではない。
常に相手に対して有利な位置へと回り込もうとしている。
連合機もその行動を理解していているから、彼らもまたシンを逃がさない為に高速での戦闘を余儀なくされる。
数的不利を補うため逃げながらの高速戦闘――
連合機はシンの思惑に乗ってくれた。
我慢比べ、後は相手パイロットより自分の体が持つ事と自身の腕前を信じるだけ。
「もらった!」
シンを追走していた連合機の1機が、高速機動に耐え切れず思わず安易な動きをしてしまった。
シンはその隙を逃さず、一撃でコックピットを撃ち貫く。
ダガーLは一瞬、身震いし爆散して海面へと消えた。
僚機をやられ優位を崩されたもう1機は、それでも落ち着いて戦法を変えた。
連合機はビームカービンを連射してシンとの距離を取ろうとする。
シンもその射撃を落ち着いて避けつつ、距離を離されないようにしながら隙を窺う。
逃げる連合機にシンが止めを刺そうとしたその時、シンは自分の背後にゾクリとした嫌な感覚を感じた。
慌ててスラスター、ブーストを全力で吹かし、機体を半ロールさせると横へと逸れる。
それとほぼ同時に、寸前までシンが占守していた空間をビームの閃光が駆け抜けた。
シンが振り返った先には、新たにダガーLが2機。
「なんて間抜けだ、俺は!」
僚機をやられた連合機は眼前の敵を手強い相手だと判断し、誘い込んで味方と包囲する事を選んだのだ。
敵にまんまと填められた。
前の敵に集中し、後方確認を怠った。
たったひと時だろうが敵が圧倒的多数である事を忘れかけていた。
頬をつたう冷や汗を感じながら、シンは自分の迂闊さを呪う。
- 101 :7/9:2005/12/20(火) 04:36:14 ID:???
完全に包囲されていた、シンは先ほどの手は使えない。
<ザク、インパルス発進完了。 アスカ機は、そのまま単独での防空戦闘を続行>
「援護は無しか……チッ!」
予想通りだが無常な管制官の言葉。
シンは包囲した連合機からの攻撃を避け、あるいはシールドで防ぎながら考える。
連合機は絶えずにシンへ火線を送ってくる。連合軍らしい見事な連携。
だがただ1機、なかなか有効打を与えられない事に苛立ってか、ビームカービンを連射し無駄弾が目立つ機体がある。
最初に戦い、僚機を撃ち落したその相手だった。
「やってやるさ……」
感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。
今からやる事は賭け以外の何者でもない。何かへまをしたり、想定通りに行かなければお陀仏だ。
シンは口元が自嘲気味に歪むのを抑えられなかった。
その間にもシンを取り囲んだ連合機はしつこく回避する敵を撃ち落すべく、攻撃を続ける。
シンは3機の敵機の火線を回避するため、ロールをしながら上空へと逃れる。
一閃――
ついに連合機のビームがシンを捉えた。
当たった場所は右手に持つビームカービン、機体に損傷は無かったがビームカービンが誘爆してシンのダガーLは大きくバランスを崩す。
そのちょうど真後ろ、シンからは完全に死角になる位置にいた連合機パイロットは歓喜した。
たかが1機、しつこく逃げ回りあまつさえ僚機まで落としてくれたその相手が、無防備に背中を向けていたのだ。
残り少なくなったエネルギーを節約するためビームサーベルを抜き、一気に接近し切りかかる。
死角をつき、武器も持たぬ相手――
連合機パイロットは勝利を信じて疑わなかった。
- 102 :8/9:2005/12/20(火) 04:37:36 ID:???
その時、連合機パイロットには何が起きたのか分からなかった。
切り伏せようと相手の目前まで接近した、まさにその時。
死角だったはずの敵が、まるで初めからすべてそ分かっていたかのように素早く振り向いた。
そして何も持っていなかったはずの腕からはビームサーベルが――
『なぜだ!』
連合機パイロットはその身をビームサーベルに焼かれ、意識が消えうせるその瞬間まで疑問を抱いたままだった。
ビームサーベルでコックピットを貫かれ、パイロットを失ったダガーLがゆっくりとシンの機体から離れて海へと向かって落ちていく。
その姿を最後まで見届けることなく、シンは後ろ腰から予備のビームカービンを抜いて荒い息を吐いた。
「ハァハァハァ……クソ! こんなこと、命がいくつあっても足りやしない」
わざと隙を作り、敵が釣られて飛び込んだところをカウンターで仕留める。
エネルギー残量が少なく、倒せない事に焦っていた敵は見事に罠にかかった。
結果はほぼシンの思惑通りに進んだ。
だが、わざと自身のビームカービンを撃ちぬかせることや、前も警戒したまま後ろの敵をギリギリまで引き付けること
神業とも言える技量、何か一つでも上手くいかないと失敗するそれは、シンの精神と労力を大きく削った。
またやれと言われて出来るものでもない。
- 103 :9/9:2005/12/20(火) 04:39:26 ID:???
間抜けを叩き落とした後、シンはすぐに追撃が有るだろう事を予想して身構た。
だがいくら待っても攻撃が無く、逆に残っていた連合機2機はシンを一見すると離れて行く。
遠く、ミネルバに取り付いていた機や、同じく防空戦闘をしていたインパルスとザクの方の機体も離れて行くのが見えた。
「どういうことだ……?」
ミネルバ隊も引いていく敵に呆気に取られ追撃をしない。
いっとき、戦場に奇妙な静けさが漂った。
連合軍が圧倒的に押しているにもかかわらず、諦めた訳では無いことは戦っているシンにはよく分かっている。
それだからこそ連合の動きは不気味だった。
<12時方向、連合艦隊に正体不明機! MS隊は注意してください!!>
シンは思わず目を疑った。
遠くからでも確認できる。前方の連合艦より巨大な何かがせり上がってきたのだ。
MAだろうそれの登場はこれからが本番だという事を告げていた。
To be continued......