81 :1/13:2006/03/24(金) 08:52:59 ID:???
ミネルバ艦長、タリア・グラディスは決して諦めない女だった。
今まで彼女は、自分自身が決めたことは常にやり通して来た。
努力を積み重ね、ザフト最新鋭宇宙戦艦の艦長を任されるまでになった。
子供の生まれにくいコーディネーターであっても自分の子供を持つ事を諦めなかった。
そして、傍目からは絶望的と思える今の戦況でも決して諦めない。

「艦対艦ミサイル、左舷甲板に直撃! B−2、B−3区画大破炎上!! さらに5発が接近、迎撃間に合いません!!」
「CIWS、2、4、10番被弾沈黙、ディスパール迎撃ミサイル残弾15、本艦迎撃能力74%にまで低下!」
「チャフ弾発射! 面舵20! ダメコン急で、ここが正念場よ!!」
「オーブ艦隊より入電! 『貴艦は我が国領海に侵入しつつあり、即刻進路を変更されたし、これは最終勧告である』以上!」
「艦長!」
「くッ! オーブ領海ギリギリまで寄せて、取り舵30。 今オーブにまで攻撃される訳にはいかないわ
最後の最後、死ぬときまで諦めないで! 諦めたら助かるものも助からない!」

タリアは部下達に激を飛ばす。
ブリッジに詰めるクルー達の焦りと悲愴感がタリアには手に取るようにわかる。
確かにミネルバが不利な事に偽りはない、しかし策が無い訳ではなかった。
いや、策と言えるほどのモノでは無いかもしれないが……。

「アーサー、まだ敵艦隊はタンホイザーの射程に届かないの!?」
「敵艦隊の攻撃は、我が艦の進路を巧みに誘導しています! このままではタンホイザーの射程距離まで近づけません!!」

タンホイザーで敵艦隊をなぎ払う。
それがミネルバの唯一取れる生存への方法だった。
しかし、連合艦隊とMS部隊による熾烈な攻撃に回避行動を取っているため、ミネルバは一向に連合艦隊を射程に捉えることができなかった。
――間に合わないかもしれない。
タリアの頭に不安が掠めたその時、策敵とレーダーを担当しているバート・ハイムが叫んだ。



82 :2/13:2006/03/24(金) 08:53:48 ID:???

「艦長! 敵MS隊が引いていきます!」

タリアも慌ててモニターを見る。
確かにミネルバの周りを取り囲み五月蝿く飛び回っていたダガー達がゆっくりと離れていく。
ミネルバMS隊と交戦していた機体も同様だった。

「どういうことだ……?」

誰からとも無く困惑した声が聞こえる。
タリアも内心は困惑しつつも、部下の手前顔に出さず、指示を出す。

「まだ終わってないわ! バート、敵に変化は?」
「敵MS群は、我が艦の距離3000を保ちつつ包囲、攻撃を仕掛けてくる様子はありません。 連合艦隊からの攻撃も止んでいます。
 その他には……いや、待ってください!
前方12時方向、連合艦隊から新たに大型反応、ライブラリーに照合―――ありません正体不明! 光学映像、出ます!」

バートはモニターを切り替える。
一瞬、タリアを含むブリッジ全てのクルーが目を奪われた。
遠目でさえ分かるほどの巨体。
半球体の大きな胴体の四方から、本の太い足が突き出る。
ヤシガニを思わせるその奇怪な姿。
その機体はMSやMAと言った機動兵器と言うよりも小型艦艇と言ったほうが近い。

「あれは……」
「MA? デカイ!」
「あんなものに取り付かれたらミネルバは……」

敵艦よりせり上がって来るその機体を見ながら、タリアは舌打ちをした。
MSも艦隊もおまけでしかなかった。
連合軍の本命はこれだったのだ。


83 :3/13:2006/03/24(金) 08:54:53 ID:???
タリアは苦虫を噛み潰したような顔を必死で隠し、MS官制のメイリンに振り返る。

「MS隊へ敵機警告! MSは全機生存しているわね!?」
「は、はい! MS3機、全機健在」

タリアは何かを決めるかのように目を瞑り、深く息をついた。
そして目を開く、そこには確固な意志を湛えた顔があった。

「アスカ機を敵MAの前面に、ザクとインパルスは距離をおいてアスカ機の援護、アスカ機以外は敵MAに接近させないで。
 一瞬でもいいわ、なんとしても敵MAの動きを止めさせてちょうだい」
「はい! アスカ機は敵MAの…………」

メイリンにそれだけを命じると、タリアは次にアーサーに振り返る。

「アーサー」
「はいっ」
「タンホイザーの照準を敵MAに、動きが止まったら連合艦隊もろとも焼き払って」
「ハッ? それでは他の機はともかく、アスカ機は巻き込まれて……」
「――ええ巻き込まれるわね。 でもそれが何?」

その言葉の冷たさに、思わずアーサーは息を飲んだ。

「たった一人の傭兵とミネルバ、優先すべきなのはどちらなのか……分からない訳ではないでしょ?」
「しかし……」
「――沈みたいの!?」
「はい! い……いいえ!」
「なら……あなたも覚悟を決めなさい」

タリアは押し黙ってしまったアーサーを無視し、タンホイザーの射程に敵連合艦隊を入れるため
操舵手、マリク・ヤードバーズに指示を出す。

「機関最大! 回避は考えなくていいわ、出来るだけ連合艦隊との距離を詰めて!」
「アイサー! 機関最大全速前進」

自分の考えに案の定うろたえたアーサーをタリアは横目でチラリと見る。
アーサーの言いたいことはもっともな事だ。誰だって最初から味方を犠牲にすること前提な作戦など賛成できないだろう。
でも主義、陣営関係ない傭兵なら……。
ザフト兵士ではない今回限りの味方。たとえ死んでも何処からも問題はでない。
艦長たる自分はミネルバを救うためなら喜んで生贄に差し出す。

しかし――
だがしかし、心のどこかでそんな自分を非難する声が聞こえる。
――――1人の人間を騙して、味方が後ろから撃つのか?
――――そんな女がどの面を下げて子供に会うのだ?

我ながら弱いと思う。だがある意味それが救いだった。
まだそう思えることが……しかしすべては言い訳に過ぎない。
思い悩むのも懺悔する事も全ては生き残った後、そう自分に言い聞かせタリア・グラディスは指揮を執る。

84 :4/13:2006/03/24(金) 08:55:40 ID:???


<アスカ機は敵大型MAの進攻の阻止。 ザク、インパルスはアスカ機の援護。
 援護機は敵MAに近寄り過ぎないように注意してください>
<了解>
<ええ、わかったわ>
「ああ……了解だ」

メイリンから敵MAへの対処の指示、ルナマリアやレイは素直に返事を返す。
ただシンだけは内心、指示へ舌打ちを返した。
正体不明の敵MA。
ブリッジにとって、後腐れない傭兵はあのMAがどんな相手なのか探るための体の良い実験台なのだろう。
誰だって身内は可愛い。危険な任務にほぼ部外者の傭兵を使う事は、ある意味当然なのはシンにも分かっている。
しかし、それをあからさまに言われて気分の良いものではない。

「俺が奴の頭を抑える。 あんたらは両脇からヤッてくれ!」

シンはレイとルナマリアに一方的に指示を出すと返事を待たずに自機を敵MAへと飛ばす。

<了解した>
<あっ! ちょっと!>

レイとルナマリアもシンの後を追う。
目指すMAは海面数メートルを滑るように移動している。
見かけの鈍重な姿とは違い、そのスピードは速く彼らの距離は見る見る縮んでいく――

85 :5/13:2006/03/24(金) 08:56:44 ID:???

その光景を、男もまた眺めている。
この世界で誰よりも待ち望んでいたその光景を――

「司令、ザムザザー……遂に、ですね」
「ああ」

モニターが、海上を力強く進むMAを映し出す。
その姿を連合艦隊司令長官である男はモニターを考え深げに見ている。
YMAF−X6BD「ザムザザー」
地球連合軍が開発した大型MA。
重火力重装甲、攻防兼ね備え機動兵器の一つの到達点に値する最新鋭機だった。

「身びいきかもしれんがね。 これからの主力はああいった新型のMAだと私は考えている。
 ザフトのまねして造った蚊トンボのような兵器じゃなく、ね」

司令も計画段階初期から関わり、技術部と共にザムザザーを造り上げた。
その性能には絶対の自信を持っている。
ザムザザーは絶対に落ちることはない、たとえ陽電子砲が直撃したとしても。



86 :6/13:2006/03/24(金) 08:59:02 ID:???

距離をつめていくうちに、シンは改めて目標であるMAの大きさに驚愕した。
このMAの前では18メートルを超える自身のダガーLでさえ小さく感じる。

「大きい……だがなぁ!」

シンは向かってくるMAへビームカービンを撃ちこむ。
が、MAはその大きさにも関わらず鋭い機動性を見せ右へ機体をそらし避ける。
意表を付かれ、思わず動きが単調になったシンを今度は敵機両足のエネルギー砲、ガムザートフが襲う。
直撃寸前のところでシンもその光条を避けるが、このわずかな攻防で敵機はすぐ目の前まで迫っていた。
MAは左腕に収納していたクローを展開し、その鋭利な爪でシンのダガーLを引き裂こうと狙う。
シンは瞬時に横や後ろへ回避するのではなく、むしろMAの懐へ飛び込む事でクローをかわした。
高速でスレ違う両機。
MAの攻撃はまだ終わらない。
すれ違いざま、シンのダガーLへ追撃のイーゲルシュテインの火線が絡みつく。
シンはとっさにシールドでガードするも、全てを防ぎきることなど出来ない。
75ミリの大口径弾がダガーLの上で次々と弾け、緑の迷彩装甲に痛々しい弾痕を刻んでいく。

「ファック! なんて火力と機動力! 迂闊に近寄ったら蜂の巣だ!」

シンはMAの後方脚部からの砲撃を避けながら毒づく。
コックピットにアラームが鳴り響く、先ほどの被弾でどこかをやられたのだ。
シンがアラームに気を取られた隙にMAはシンを無視してミネルバに接近していく。

「――やられた!」

予想以上の攻撃力に防戦一方となり、MAの進行を抑える事が出来なかった。
シンはすぐに反転するとMAを追うが、このままでは追いつけそうに無い。
しかしシンから一歩遅れていたインパルスとザクがその様子を確認し素早MAを抑えにかかる。

<ミネルバには行かせないわ!>
<ルナマリア待て迂闊だぞ! 距離を取って攻撃するんだ!>
<ミネルバにはメイリンもいるのよ! 行かせない! 絶対に!!>



87 :7/13:2006/03/24(金) 08:59:50 ID:???
レイの声が聞こえないのか、ルナマリアのザクは指示を無視して逆落としにMAへ襲い掛かる。

「あいつ、何を考えている?」

ルナマリアの突然の行動にシンは怪訝そうな顔をする。
あのMAをMS一機だけで止めることが出来ない事をルナマリアも分かったはずだ。
だがルナマリアはそんな事お構いなしで一人攻撃を仕掛けようとしている。
しかし……。

「まあ、頼んでもいないのに援護してくれるって言うんだ。 ありがたく援護してもらおうか……」

口元を軽くゆがめ、誰にとも無くつぶやくとシンはMAを追う。
ルナマリアが何を考えているかなど、シンにとってはどうでもいいことだ。
シンはただ『あれが作ってくれるはず』の機を逃さないようにするだけだった。


「ミネルバにはメイリンもいるのよ! 行かせない! 絶対に!!」

そう叫んだとき、ルナマリアは全てのことが吹き飛んでいた。
頭にあることは一つ。
――妹の、メイリンのいるミネルバを守る。
それだけだ。

<ルナマリア! 聞こえないのか!? ルナマリア!>
<お姉ちゃん!? 待って、ダメ!>
「ハァァァァ――――――!! 落ちろぉぉ!!!!」

もはやその瞳には敵MA以外入っていない。
ルナマリアはブレイズウィザードから大量のミサイルをMAに撃ち出しながら突貫する。
雲を引きながら飛ぶミサイル群は、目標にとどく前にMAのイーゲルシュテインの厚い壁に阻まれ次々と落とされて空に大輪の華を咲かせていく。
結局ミサイルがMAを捕らえる事は無かった。
それでもルナマリアは止まらない。
ルナマリアのザクはミサイルの爆煙を煙幕にしてMAに接近すると、ビームアックスを抜き切りかかる。

「もらったぁ!!」

――吹き飛び、宙を舞うザクの右腕。
ビームアックスの光も消え、海へと消えていく。
MAの単装砲が右肩を貫き、渾身の力を持って振り下ろすべき腕は、振り上げたまま根元から消えた。

「そんな!」

続いて襲ってくる追撃の一撃をルナマリアは何とか避ける。
だが彼女が出来たのはそこまでだった。
強い衝撃と突然地面が無くなった感覚。
妹の悲鳴と、なぜだかゆっくりと海が近づいて来るのを見た後、ルナマリアの意識は唐突に途切れた。

88 :8/13:2006/03/24(金) 09:00:39 ID:???

視界の端、赤いMSが煙を吐いて落ちていく。

「期待通りの援護をありがとよッ」

聞こえるはずの無い相手に向い、シンは感謝の言葉をかける。
ルナマリアが時間を稼いだおかげで必殺の位置へ移動できた。そしてMAの隙さえも作ってくれた。
どんな人間でも敵機を撃ち落したその瞬間、少なからずそちらの方に意識が行ってしまう。
今、無謀な突撃をしてきた敵機を撃ち落したMAのパイロットもまた――
MAはルナマリア機を撃墜した後、油断したのか動きを緩めた。

シンはその隙を逃がさない。
MAの真後ろ、決して外すことのない一撃を撃ち込む。

「なっ!?」

シンの攻撃は確かにMAを捕らえたはずだった。
しかし、そのビームはMAの手前で見えない壁に阻まれたかのように弾き返された。
訳も分からないまま唖然とするシン。そこにさらなる災厄を告げる声が飛び込んだ。

<MS隊緊急回避! タンホイザー、てーッ!>

反射的に顔をミネルバに向けたシンの視界に、白い閃光が弾けた。


89 :9/13:2006/03/24(金) 09:01:44 ID:???
「うっ…………俺は……どうなった?」

猛々しく鳴っているアラームの音でシンは目を覚ました。
シンは自分が見慣れた愛機のコックピットにいることを確認し、自分が生きていることをズキズキと疼く額の痛みで知った。

「あのビッチ、とんだ食わせ者だ!」 

出港の前に会った女艦長を思い浮かべる。
頼りなさそうに思えたがなかなかどうして、シンにMAの足止めを命じておいてシンごと躊躇無く焼き払おうとした。
シンはタリアの評価を改める。生き残るためにいくらでも冷酷になれる女だと。

「しかし……何で俺は生きているんだ? 確かに直撃したはず……」

タンホイザーが放たれてからシンが気付くまで1分に満たない僅かな時間。
タンホイザーが掠めた海から舞い上がった大量の水蒸気で、周りがどうなったか窺い知れない。

「クソッ左足がやられたか……ミネルバ! 官制! 聞こえるか!?」

機体損傷のチェックをしつつ、状況を知るためシンはミネルバを呼び続ける。
機体損傷は左半身が酷く、左足は膝から下が綺麗に無くなっていた。
サブスラスターを細やかに操作して何とか空中にとどまっているが重量バランスが崩れていて機体は非常に不安定だ。
しかし、本当に陽電子砲が直撃してこの程度で済むはずは無い。
『損傷』ですむ訳はないのだ、直撃すれば陽電子の対消滅によって文字どおり消えてしまうのだから。


90 :10/13:2006/03/24(金) 09:02:33 ID:???

「応答しろ! ミネルバ!」
<ガ……ッ……しろ!……ガガッ……>
「チッ、通信機もいかれたか?」

いくら呼びかけてもミネルバと通信がつながらない。
とその時。
風が吹き、周りを覆っていた蒸気が流れ次第に視界を覆っていた蒸気が晴れていく。
通信機を弄っていたシンは、自機のすぐ前に何かがいる事に気が付いた。

「こいつのおかげで助かったのか……」

それを見たとき、シンはなぜ自分が陽電子砲の直撃から助かったのか理解した。
シンと共に陽電子砲の光に飲み込まれたはずのMAが、何事も無かったかのように悠然と浮いている。
よく見ると、そのMAは薄い光の膜のようなものを機体の周りに展開していた。
光波防御帯。
シンもそういう兵器が連合軍にはあると噂で聞いた事があった。
MAがビームカービンの攻撃を弾いたのも、陽電子砲の直撃に耐えられたのも、このビーム、実弾兵器共に無効化する鉄壁の盾のおかげだ。
シンが助かったのもMAが陽電子砲の盾になったからだった。

MAはシンの見ている前で、ゆっくりとシンの方へと振り向く。
シンがとっさに操縦桿を引くのと同時に、ビームの光線が機体をかすめる。
先ほどまでシンをはがにもかけなかったMAが、今度は積極的に攻撃を仕掛けてきた。
シンは思うように動かない機体を必死に操縦する。
ビービービー……。
無機質に繰り返される電子音が、自身のダガーLの悲鳴を代弁する。
MAを振り切ろうとスラスターレバーを踏み込もうにも、踏み込んだ瞬間ギリギリ保っているバランスはいとも簡単に崩れる。
今はまだMAの攻撃をかわせていても、シンがビームの閃光に貫かれるのは時間の問題だった。


91 :11/13:2006/03/24(金) 09:04:22 ID:???

「クソッタレが! 俺みたいな小物をかまってないでミネルバに行きやがれ!」

ビームカービンを2発、3発と放つがMAは避けようともしない。
元より避ける必要など無いのだ、光波防御帯がある限りMAを傷つけることなど出来ないのだから。
案の定シンの放ったビームはMAを撃ちぬくこともなく手前で弾かれ、お返しに倍のビームがダガーLに殺到する。

4発は避け、1発シールドで防ぎ、最後の1発がダガーLの頭部を吹き飛ばした。
強い衝撃が襲いコックピットスクリーンが一瞬ブラックアウトして、すぐに補助カメラの映像に切り替わる。
また一段とアラームが五月蝿くなった。
満身創痍の機体に化け物みたいな敵MA、シンを包む強烈な死の予感。
だがシンの命運が尽きたわけではなかった。

止めを刺そうと接近してくるMAに、シンとMAの戦闘に気付き側面へ回り込んだインパルスがビームを撃ち込む。
撃破できなくとも気を引くには十分だった。その間にシンは体勢を立て直す事に成功した。
機を逃がしたMAはそのまま攻撃せずにすれ違い、一旦遠ざかっていく。
シンの窮地を救ったインパルスが近づき、接触回線を開いた。

<ザザッ……スカ……か? アスカ、無事か?>

モニターに映るレイ・ザ・バレルの涼しげな表情と、その物言いがシンの癇に障る。
この機体状況を見てそんなこと言うのかと。

「ああ見ての通り無事だよ、スカシ野郎」
<大丈夫そうだな。 時間が無い、手短に作戦を伝える>
「……何か考えがあるのか?」
<これから送る場所までMAを誘き出してくれ。お前が協力してくれればあのMAは確実に倒せる>



92 :12/13:2006/03/24(金) 09:05:24 ID:???

インパルスから現海域の地図と位置データーが送られてく。
本来ならば捨て駒にされた時点で、シンはザフトに協力する気など無い。
しかし連合軍に完全に包囲されている状況、しかも頭部と左足を失った機体で逃げれるわけもなく、まして連合軍に投降する気もなかった。
結局はミネルバと一蓮托生なのだ。分が悪い賭けだろうが何だろうがシンに取れる道は他に無かった。
それを分かっていてレイも話を振ってきたのだ。

「気に入らないが……お前に乗ってやるよ、ブレイク!」

シンの声と共に2機は散開する。旋回してきたMAが2機へと迫る。
MAはシンをターゲットに決めたのか、気を引くまでもなく食いついてくる。
それを見てシンは背を向け、おびえて逃げるようなふりをしてポイントへ誘導する。
いや、演技だけではなく必死に逃げる。

「くッ追いつかれる……ポイントまで持たない!」

機体が鈍い。
後ろからは強烈なビームを連射しながら迫るMAのプレッシャー。
ポイントまでの距離が恐ろしく遠く感じる。
MAとの距離が見る見る縮まっていく。

「こいつ……」

―――いたぶって楽しんでやがる。
シンはMAの機動を見て思わずつぶやいた。
MAはしとめるようと思えばいつでも出来るはずだ。だが必殺のタイミングが何度かあったにも関わらず攻撃をしてこない。
MAにしてみればミネルバとていつでも沈められるのだ、それをわざわざたいした戦力でもないMSを狙ってくるのは楽しんでいるからだ。
絶対強者の立場から逃げ回る哀れな弱者を見下ろしている。

(いいさ、その方が好都合だ)

ダガーLの腰からグレネードを2つ引き抜くと、爆発とMAの時機が合うように海へ投げ込む。
一瞬、爆破と同時に水柱が立ち上りMAへ目くらましとなる。追撃が僅かに緩んだ。
それで十分だった。シンはポイント上に到達した。


93 :13/13:2006/03/24(金) 09:07:22 ID:???

ザムザザーが装備する陽電子リフレクター。
機体上部を完全に被い、どんな攻撃をも通さない。
この鉄壁の盾にも一つだけ弱点があった。それは、リフレクターを展開していない場所は防御できない。
当たり前といえば当たり前の話。
ザムザザー唯一リフレクターを展開しない場所、陸上なら展開しなくても全く問題の無い場所。
機体腹部。
だが今回はそれが勝者と敗者を分けることになった。


海中から図ったかのように飛び出てきたインパルスが、ザムザザーの腹部にビームサーベルを突き刺した。



To be continued......