395 :Injusticeの隙間 :2005/11/23(水) 04:37:07 ID:???

「それじゃ……ルナマリア、レイ。 アスカに艦内を案内してあげてちょうだい」

「ではシン・アスカさん、行きましょう」

シンがルナマリアとレイに連れられて部屋を出る。
部屋の扉が完全に閉まったあとタリアは思わず額を押さえ、一つため息をついてしまった。

「司令部の考えも分かるけど……厄介なものを送ってくれたわね」
「あの傭兵のことですか?」

タリアのもらした言葉にアーサーが反応する。

「全く! 艦長に対してあんな無礼な態度を取るとは! 
開戦まで秒読みのこの時期に艦内でなにか問題を起こさないか不安ですよ!!」

普段温厚なアーサーにしては珍しくシンに対してかなり怒りを覚えたようで、それをタリアに一息にまくし立てる。
タリアとしては自分の事で怒ってくれるのは嬉しいが、アーサーの弁は自分の言葉の意味とは的外れなものだ。

「アーサー、そう言う意味じゃないわ。 艦長としては自艦の戦力はキチンと把握しておきたいのよ。
でも、あの傭兵がどれくらい使えるか……それが分からないと作戦の立てようがないの。 
もし土壇場で裏切られたら……」
「そんな! 裏切るだなんて!」

『裏切る』という言葉にアーサーは先ほどまでの威勢が嘘のように静まり顔を青くする。
タリアは軍人にしては人を疑うことをせず、人の良い彼を少し脅かしすぎたかと思いなおし訂正しておく。



396 :Injusticeの隙間 :2005/11/23(水) 04:38:00 ID:???

「裏切りは言い過ぎたわ。 司令部もそれなり信用できるから彼を送って来たのだろうし
でも傭兵と言っても金次第で犯罪ごとだろうが何だろうがする連中よ。 油断はできないわ。
まあこちらとしては彼の生死は考えなくていい、捨て駒だと思っておけばいいわ」
「す、捨て駒ですか……」
「ええそうよ。 彼はザフトではないの、彼が死んだところで誰も文句は言わないわ。
さあ話は終わり、オーブが大西洋と同盟を締結する前には出港しなくてはいけないのよ
あなたも早く仕事に戻りなさい」

アーサーはタリアへ敬礼をし、部屋から出て行く。
その姿は傍目から見ても覇気が無く沈んでいる、タリアの言った非情な言葉がよほど堪えたようだ。
そんな姿を見ながらタリアは思う。彼は優しすぎると。
彼もこれからのザフトを背負っていく若手の有力株と見なされているが、タリアからすれば彼は軍人には向いていない。

指揮官は時に非情にならなければならない、時には友軍を見捨てなければいけない時もある。
彼にその決定を出来るだけの決断力が有るのか、それを不安に思うことと同時に傭兵とは言え味方を平気で捨て駒と言える自分に嫌気がする。

タリアは椅子に深く座りなおすとデスクの上に置きっぱなしだった傭兵――
シン・アスカの資料へと手を伸ばす。
その資料に名前と年齢、コーディネーターであること意外は簡単な戦歴ぐらいしか分からない。
彼がなぜあの若さで傭兵などやっているのかは元より、国籍すら書かれていない。
彼の境遇についてはタリアには想像も出来ない事があったのだろうが、そんな事タリアには知るすべは無い。

ふと、デスクの写真たてがタリアの目に映った。
そこには微笑む自分と一緒に笑っている息子。
タリアにはいつもと変わらない写真たての中の息子が
あの若者を捨て駒にしようとしている自分を責めているように見えた……


To be continued......