288 :新人の小説Vol.1:2005/10/22(土) 10:20:14 ID:???
果てし無い宇宙の闇と、星の光を遮るアステロイドがコクピットのスクリーンに広がっている。
聞こえるのは機体の駆動音だけであり、それらがただ続く中、
白いパイロットスーツを身に纏ったあどけない顔立ちの少女が、
スラスターの僅かな噴射と慣性機動で機体を制御し、アステロイドベルトを進ませる。
友軍からの通信を知らせるコールが鳴り、スクリーンの端にウインドウが開く。
ややノイズが混じっているが、アステロイドベルトに於いては良好な通信状態だろう。
ウインドウに映る知的な容貌の女性が、丁寧に言葉を紡ぐ。
「こちらミネルバ。インパルス、状況の報告をお願いします」
インパルスと呼ばれたモビルスーツを操縦する少女は、彼女の母艦であるミネルバの艦載機オペレーター、
アビー・ウィンザーからの要求に従い、静かな口調で答える。
「担当宙域に異常は有りません。任務遂行時間の誤差も予測範囲内です」
「……確認しました。哨戒を終え、帰艦して下さい」
「了解」
ウインドウを閉じ、機体を反転させかけた少女だったが、その瞬間、
レーダーが辛うじて捉えた機影に気付く。
「……ふぅ…………」
軽く息を吐いて、ミネルバへの通信と、センサーに依る解析を行う。
「こちらインパルス。所属不明の艦船とモビルスーツを捕捉。ライブラリ照合……………………、
 アガメムノン級1、ストライクダガー4」
「付近の友軍機を向かわせます。合流を待って下さい」
「いいえ、これより本機は敵勢力の排除に移行します」
アビーの提案を却下して、少女が兵装システムを起動させると、
ヴァリアブルフェイズシフト装甲が展開され、インパルスのカラーリング系統は灰から青に変化する。
370 :『killing ranker』Vol.2:2005/10/24(月) 13:09:35 ID:???
「インパルス、交戦は認められません。友軍機と合流し、慎重な対応をするべきです」
アビーが語気を強める。しかし、インパルスは装備しているフォースシルエットを稼働させ、加速していく。
「マユ君、まだ何も分かっていないのに、仕掛けちゃ駄目だよ」
コールが鳴って、もう一つウインドウが開き、呑気そうな青年が少女を咎める。ミネルバの艦長、
アーサー・トラインである。
「フェイスの権限で、自らの判断に基づき交戦します」
少女――マユ・アスカは、そう言うと、二人の映るウインドウを一方的に閉じた。
アガメムノン級とストライクダガーがインパルスに気付いて、応戦する動きを見せる。
その態勢が整う前に、インパルスは一機のストライクダガーにビーム・ライフルを撃つ。
ビーム弾に胸部を貫かれた機体が爆発し、閃光がアステロイドベルトを照らす。それを背に、
他のストライクダガーは、ビーム・ライフルをインパルスに向けて連射する。
インパルスは加速を続けながら機動防盾を構え、重大な損傷を被る以外のビーム弾は回避せずに、
機体の防御力で受け止める。そのままCIWSの発射で牽制を掛け、
次の狙いに定めたストライクダガーへ接近した。
機動防盾のグリップを保持していた左手にビーム・ライフルを持ち替えると、
右手でフォースシルエットの上部にマウントされたビーム・サーベルの基部を抜き放つ。
目標のストライクダガーと擦れ違う瞬間に、ビームの刃を発生させ、相手の胴体を切断する。
更に、自機の後方に位置する別のストライクダガーに左腕部のみを向け、ビーム・ライフルを連射して、
その内の一発を直撃させた。ほぼ同時に二機を撃破したインパルスが、急激に減速し、
膝関節を折り曲げて衝撃を緩和しつつ、アステロイドに接地する。直ぐにアステロイドを蹴り、
反動で離れるインパルスの居た場所に、アガメムノン級からの艦砲射撃が降り注ぐ。
インパルスは大きく回り込み、最後のストライクダガーに近付くと、機動防盾から機体をぶつけた。
体勢を崩すストライクダガーの腹部に、弾道を集中させてCIWSを発射し、コクピットを破壊する。
「……ふ」
マユが短い息を吐き、機体にバルカン砲の弾幕を掻い潜らせながら、アガメムノン級へ照準を合わせる。
ビーム弾を艦体の各所に受け、アガメムノン級が爆散した。
機体を静止させて、レーダーを確認すると、マユは再びミネルバへの通信を行う。
「こちらインパルス。敵勢力の排除を完了。これより帰艦します」

48 :『killing ranker』Vol.3:2005/11/02(水) 08:39:14 ID:???
増え過ぎた人類が、地球を食い潰す前に、宇宙へ生活の場を広げようとしたのは必然であったのだろう。
絶滅の危機の実感が、地球圏の統一を地球連合という形で成し遂げさせ、
人類は種の存亡を賭けて新たな舞台に上がった。地球連合の結成から半世紀の後、
人類初のスペースコロニー群が完成。それから更に半世紀を掛けて、
第十番スペースコロニー群までの建造と、宇宙への移民が完了する。
これを以って、西暦に代わる年号、コズミック・イラが制定され、人類は賭けに勝ったかと思われた。
しかし、地球連合にとってスペースコロニー群は植民地でしかなく、その自治権は限定されていた。
年月が経つに連れて不満の声を増大させる各スペースコロニー群に対し、
地球連合は軍事力による恫喝という強硬な手段で事態の収拾を図るが、
互いの隔たりを取り返しのつかないものとするだけであった。コズミック・イラ30、
地球から最も遠く離れて位置する第七番スペースコロニー群はプラントを名乗り、独立を宣言した。
プラントは独立に賛同した他のスペースコロニー群を併合、保有の戦力を再編成して国軍を設立する。
コズミック・イラ36、地球連合とプラントは戦争状態になる。
幾度の勝利と敗北が繰り返されても戦争は終わらず、人類は疲弊していった。コズミック・イラ70、
休戦協定としてユニウス条約が締結されるが、軍備の回復が目的の時間稼ぎである事は明らかだった。
そして、コズミック・イラ73、仮の平穏は破られる。
78 :『killing ranker』Vol.4:2005/11/04(金) 08:28:56 ID:???
アーモリーワン――。プラントに属するスペースコロニーで、大規模な軍事施設を有し、
アステロイドベルトに於けるザフトの重要拠点である。ここにミネルバは寄港していた。
「何故、戦闘を強行したんだい?」
「彼我の戦力差を考慮し、私のみで敵勢力の排除が可能と判断したからです」
「あー、そうじゃなくてさ……」
ミネルバの艦長室。マユはアーサーの問い掛けに答える。
「あれが、領域を侵犯していた地球連合軍の部隊だと確認は出来たよ。けど、やり方が乱暴じゃないかな?」
「プラントへの脅威に対して寛容である必要は無いでしょう」
「警告を与えるくらいはするべきだね。あの時点で敵勢力だと見なすには情報が少なかった」
「武装して領域を侵犯していれば、攻撃する理由には十分です」
溜め息を吐いて、アーサーが椅子の背もたれに寄り掛かった。
「見解の相違かな?」
「はい」
きっぱりと返事をするマユに、アーサーはもう一度溜め息を吐く。
「武力行使は一つの手段でしかないよ」
「極めて有効ですが」
「……まあ、良いさ。適当に報告書を――」
机に備え付けられた端末のコールが鳴り、アーサーが通話の操作をすると、
ディスプレイに開かれたウインドウに映ったのは、ハイネ・ヴェステンフルスだった。ミネルバの副長だが、
はっきり言って、艦長のアーサーよりも威厳が有る。
「何かな、ハイネ君?」
「イザーク・ジュール議員から、艦長とマユに出頭要請です」
「ん?」
「案内はさせるそうです」
「……直ぐに行くよ」
通話を終えると、アーサーは椅子から腰を上げてマユに言う。
「それじゃ、付き合って貰おうかな」
「はい」
「心当たりが多過ぎて、何の事で呼ばれたのか分からないね」
「そうですか」
「…………その原因の殆どは君なんだけどな……」
アーサーは困った顔をして呟いた。
192 :『killing ranker』Vol.5:2005/11/14(月) 11:26:43 ID:???
マユは艦長室を出るアーサーの後に続きながら、思考する。
(アーサー艦長は、イザーク議員の目論見に気付いているの?)
アーサーの心当たりが、ミネルバに配属されてからのマユの行動に起因するものならば、それは杞憂だ。
フェイスは直接にプラント国防省の指揮下に置かれ、最終的に自らの判断で行動する事が許されているが、
これに伴う責任はフェイス自身が負うのだから、マユの所為でアーサーが責任を追及されはしない。
(そんな事はアーサー艦長だって分かっている筈だわ。それでも、
 心当たりの原因の殆どが私だと指摘するのは、出頭要請の理由をある程度予想しているからでしょうね)
そこまで考えて、ふと疑問を懐き、マユはアーサーに声を掛ける。
「アーサー艦長」
「ん?」
「案内をする人物と何処で会うのかはご存じなのですか?」
アーサーは、再び困った顔をして、片手で頭を掻きながら返事をする。
「あー、訊くの忘れてた……。まあ、良いさ。何とかなるよ」
「…………」
アーサーに非難の視線を向けて、マユが黙っていると、ハイネの声で艦内放送が響き渡る。
「アーサー艦長、取り敢えずの合流場所に指定されたのは、
 アーモリーワン第二番港湾ブロック到着ロビーです」
「ああ、丁度良かったね」
艦内放送を聴いて、アーサーが満足気に言う。
「……時々、私は貴方が有能なのか無能なのか判らなくなるのですが」
マユの暴言にも、アーサーは呑気に微笑むだけだった。
176 :『killing ranker』Vol.6:2005/12/24(土) 10:16:56 ID:???
アーモリーワン第二番港湾ブロックは、コロニー外部に露出する形で増設され、軍事艦船を主に扱う。
普段であれば、多くのザフト艦が停泊しているのだが、現在は、
ミネルバを含めて数隻の艦影が見えるのみである。ここ最近、
地球連合軍に因るプラント領域の侵犯が頻発した事から、ザフトは大規模な哨戒を行っていた。
ユニウス条約の破棄が現実味を帯びる中で、地球連合に対する牽制としては過剰な軍事行動である。
地球連合に先制攻撃の口実を与えてしまうとの指摘も少なくなかったが、それでも、
民意を酌んで挑発に乗らざるを得ないのがプラントの実情だった。
アーモリーワンに駐留するザフト第七番艦隊も、戦力の大半を哨戒に投入し、
艦載機を受領する為に寄港したミネルバでさえ、支援に駆り出していた。飾り気の無い通路を抜けて、
到着ロビーに足を踏み入れた二人を、落ち着いた雰囲気を持つ女性が迎えた。
「シホ・ハーネンフースです。ジュール議員の滞在しているホテルへご案内しますので」
「ああ、どうも、アーサー・トラインです。よろしく。で、こちらが――」
アーサーの言葉を遮り、マユはシホに訊ねる。
「イザーク議員はいつからアーモリーワンに?」
「昨日です。今回の件については、ジュール議員自らが話されます」
「あれっ?」
きょとんとして、アーサーが声を上げ、マユとシホは彼に視線を移す。
「あー、そっか、うん」
しかし、アーサーは勝手に納得した様子で、何度か頷いて見せた。マユは徹底抗戦論を支持しており、
それを主張する強硬派の政治家であるイザークとは、良好な信頼関係を築いている。
ザフトには階級が存在せず、肩書きがその人物の地位となるが、
フェイスと呼ばれる特務員に任命されると、多くの権限が与えられる。そして、数少ないフェイスに、
マユは史上最年少で選ばれた。だが、この異例の人事は、
イザークが彼女をフェイスに推さなければ行われなかっただろう。
いかにも秘書に見える――事実としてイザークの秘書なのだが――シホと顔見知りでもおかしくはない。
「…………」
「…………」
「……あっ?」
少しの沈黙の後、彼女達は歩き出し、それに気付いたアーサーが慌てて追い掛ける。