- 508 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 02:49:44
ID:???
- オノゴロ島。その北部にある美しい邸宅の中で。
「…はい。やはりこちらの予測通り。かの部隊は間違いなく動いているようで。…ええそうです。あれも明後日中にはおそらく…。実際の画像もご覧になりますか?」
なよっとした感じの男が調度品に彩られた部屋で電話の応答に追われている。敬語混じりの言葉から話す相手の地位の高さが伺える。
「そうですか。ではお送りしておきます。…ちなみに例の件のお返事は?…そうですか、それはありがたい。必ずや我々オーブもそちらのご期待に答えてみせましょう。
ええ、アークエンジェルもフリーダムも、そのパイロットもいまだオーブに。心配入りませんよ。
奴らが来た時の対処作もすでに手もうってあります。…いえ、宣言はその後で。戦争が始まるのは間違いないことでしょうから。焦る必要はありませんよ。
時期をみてまたこちらから…。はい、それでは、大統領。ええ、『新の』青き正常なる世界のために。」
おかれた受話器はようやく男に解放されたことを喜んでか、せいせいしたと言わんばかりにガチャリと大きな音をたて、さっきとはうって変わって沈黙する。
「ふぅ…」
ため息をついた男…現・オーブ連合首長国宰相、ユウナ・ロマ・セイランは呟く。
「青き正常なる世界のために、か。全く、どっちが異常なんだか?」
マユ-ANOTHER・DESTINY-
PHASE-02〜崩される平和〜
- 509 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 03:05:28
ID:???
- それから数日後。
オーブ近海の孤島。夕暮れの海岸で子供達がなにやら戯れている。鬼ごっこをしているようだった。無邪気に駆け回っている彼ら---その中に1人だけやや年の離れた栗色の髪の少女。
「マユお姉ちゃーん、マリューおばさんがご飯出来たって。みんな集めて、ってー」
丘の上から少年が声をかける。
「そっか、ありがとー!さっ、みんなーご飯だって!お家に帰ろっか?」
「「はーい!」」
何人かの子供を残してほとんどの子供達は素直に家に帰って行く。残った何人かの対応に向かうマユ。
「やだよー!まだ遊びたいよー!」
「僕も!」
ワガママをいう子供達。マユがこうゆう子供達に言う言葉はいつも決まっている。
「もー!そんなこと言ってると君達の分のご飯、お姉ちゃんが食べちゃうぞ?」
極めつけは
「それに〜夜になったらお化けがでちゃうぞ〜?」
「「…ヤダー!」」
いつも通りいっせいに家に向かって走りだす少年達を見送ってニッコリと微笑むマユ。…そして振り返り浜辺に残り座り込んでいる最後の人影に近づいてゆく。
「…もう、暗くなっちゃいましたよ?キラさん?」
「…うん。…わかってる。」
- 510 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 03:14:59
ID:???
- 「戦争のこと…ですか?」
「…うん。また始まるのかな、って。そう思うと…少し嫌な気分になるんだ」
「また…戦うんですか?」
「わからない…でもこうして僕達は安全に暮らしているけど、影で怯えながら暮らしている人達もいる…。それなのに僕ができるのはできるだけ早く戦争が終わるように…」
戦うことだけ。
マユは知っていた。
彼はかつて、ただの工業カレッジの学生だったということ。
それが偶然にもそこで開発された新型MS「ストライク」に乗ったことで運命が変わっしまったということ。
その後もパイロットを続け幾戦かを経てかつて友達だった者と本気で殺し合って死にかけたということ。
そこをプラントの歌姫ラクス・クラインに助けられたということ。
それでも戦争を止めようと必死に努力したということ。
その途中、自分が住んでいた国を守ろうとして戦ったということ。
しかし守りきれず、その国から逃げ、宇宙へ昇ったということ。
その戦いで自分の家族はとうとう自分を残して1人もいなくなってしまったということ。
それは、もしかしたら----彼、キラ・ヤマトのせいかもしれない、ということ。
だが今の彼女にはそんなことはどうでもよかった。
私は生かされた。なら死んだ父や母、兄の分まで生きるだけ。
そう考えていたから。恨みや憎しみからはなにも生まれない。それがここ、マルキオ導師の孤児院での生活で唯一学んだことだった。
- 511 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 03:36:47
ID:???
- しかし同時に彼女はときどき考えしまう。
もし---仮にもし自分が孤児院に入ることなく生きていくことになったら。もしかしたら復讐心にかられ、
おかしくなって、何かとんでもないことをしでかしていたのではないかと。そしてそれがもしかしたら今後起こりうるかもしれない。
それが今のマユの問題だった。
--イヤだ。戦争は嫌いだ。自分は今の生活が好きだ。ここにいたい。ここでみんなに囲まれてずっと平和に生きていたい。そのためならなんだって---。そう思った瞬間だった。
(…な・ん・だ・っ・て?何でもするの?)
…するよ。なんだって
(他人を不幸にすることでも、何でもするの?あなただけ幸せならそれでいいの?)
…そんなこと!
(でもそーゆうことよ。生きることって。隠す必要ないわ。…それに)
…それに?
(あなたなら出来るじゃない…あなたには、その『力』がある---。)
「…ユちゃん。マユちゃん?」
我にかえるマユ。頭がフラつく。
「は、はい?」
「寒くなったし、みんなのとこに帰ろうか。」
「…はい」
突然、心に映し出された不愉快な何か。気分は悪かったが…それほどでもなかった。それよりは夕飯のメニューの方がむしろ気になるぐらいで。
家に入ってゆく彼ら。それを遠方の船から監視する男。通信機で何者かと話している
「ターゲットは屋内へ移動。…しかし歌姫の姿は確認できず。…OVER」
<<了解した。一石二鳥とは行かないものだな…。まあいい。作戦は予定通り行う。シークレットオペレーション:ENGEL・WITH・DIRT。作戦を開始する。ザフトのために。…OVER>>
「ザフトの…ために」
そう言って通信機の電源を切った男、クレイブ・ドットの腕は、小刻みに、震えていた。
- 512 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 03:56:02
ID:???
- 家の中では子供達に交じってマユも食事をとっていた。マユは食べながらずっと考えていた。これからの自分達のことを。
料理を残さず食べ終え、
「バルトフェルドさん」
マユはちょうど自分の真後ろにいた、食事もとらずに椅子に座りテレビを見ている男に話しかける。コーヒーを飲んでいるようだった。
「んー?どうした?」
「バルトフェルドさんはどう思います?」
「何がだね?」
分かっていながら知らないフリをしているようだった。だいたいテレビを見ていて気づかないわけがない。
そんなわざとらしい態度が気に入らなかったのか、マユも若干感情を高ぶらせる。
「ユニウスセブンのことですよ…!」
「あああれか。あれがどうかしたかね?」
「はぐらかさいで下さい!あれが落ちたんですよ?間違いなくまた戦争が始まりますよね!?あなたはなんとも思わないんですか!」
八つ当たり気味に言うマユ。
「思ってどうなる?」
「思いがなかったらなにも出来ないじゃないですか!」
「…あっても同じさ。同調しても同調しない敵と戦う。反対しても同調しろと攻撃される。態度を示さなくても攻められたら戦うしかない。
わかるか?どう足掻いても戦うしかないんだ。それが戦争」
キラはこのとき、ある光景を思い出していた。二年前、自分に銃を向けるバルトフェルドとその時言われたこと。
どちらかがその命尽きるまで戦い続けるしかない。
そして…ラウ・ル・クルーゼ。
彼もまた争いを肯定していた。
戦う。
それしかなかった。戦争を生き抜いた彼がその果てに辿り着いた究極にして最悪の真理。
斬られれたらこちらはそれより強く斬り返す。前の大戦もそのようにして終結したのだ。いずれ彼女も同じ真理にたどり着く--。そんなことを考えていた。
- 513 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 04:04:19
ID:???
- しかし彼女の答えは違った。
「なら…約束すればいいじゃない!もう戦わないって!戦うのがイヤなのはみんな同じのはずでしょ!誰かが言わなきゃ!戦争は終わらない!」
「戦争はボードゲームとは違う。子供の約束みたいにはいかんのだ。それに戦争したいやつはいないわけじゃない」
「そんな言い訳!」
そのときだった。不意に開く玄関のドア。
何かが投げ込まれる。
「伏せて!」「ちっ!」
いち早く反応するキラとバルトフェルド。次いで炸裂音。
「キャ!」
思わず悲鳴を上げるマユ。耳が痛い。なにも聞こえない。突然体が持ち上がる。煙の中を走ってゆく。
「なに?どうなってるの!?」
自分を抱えていた者は止まり、自分を下ろしたかと思うとマユの体は滑り出す。
「ちょっと!?」
「そこで大人しくしてて!」
今度はハッキリ聞こえた。キラだ。そしてようやく滑っていた体が止まる。
「イタタタ…、…ここ、どこ?」
射撃訓練用のスペース、いくつも並ぶパソコン。それに…正面には余りにも有名なMSが二機。
「あれは…フリーダムに…ストライク!?やっぱりバルトフェルドさんは…。」
MSに続いて彼女を驚かせたのはパソコンに映し出されている映像。
「島にMSが!?嘘でしょ!?それに…なんなのコイツ等!?」
特殊部隊らしき者達が次々と孤児院の中に侵入してゆく。
- 514 :マユ-ANOTHER・DESTINY-以下マユAD:2005/09/25(日) 04:09:59
ID:???
子供達の恐怖に歪む表情。泣いてる子供もいる。必死に応戦しているキラ達。しかし状況は非常にまずいようだ。
「どうしたら!?」
マユはとっさに手近にあった銃に手を伸ばす。そして構え、引き金を引く。…しかし一向に撃てる気配がない。
「なんで!?なんで弾がでないの!?」
安全装置など知る由もない彼女は、壊れたと思い込んだのか、そのままピストルを投げ捨て…
「戻れないし、やっぱり…乗るしかないよね!?」
MSに駆け寄るマユ。
「フリーダムの方が強いかな…でも操縦難しそう…」
(フリーダムがいいわ。)
「……」
フリーダムに飛び移るマユ。シートに飛び込む。途端に何故が体の芯から懐かしさがこみ上げ、力が抜けてゆく。
(この感覚…私、MSに乗ったことが)
「…あるわよ、何度も」
ポツリと呟き、独りでにキーボードを叩きOSを確認し初めるマユ。
(あれ…?なんで!)
「あんたは中に引っ込んでて…私がやるから。もう何も奪わせない。あいつらも…私の敵!」
突然語調を変えたマユ。
PS装甲を展開、瞬く間白色が機体を包む。フリーダムの両脚部に力が込められ、機体は急速上昇する。フリーダムは左の腰からビームサーベルを抜き取る。
「行くわよマユ!MSの使い方!しっかり思いだしなさい!!」