- 552 :マユAD:2005/09/25(日) 20:14:55 ID:???
- 「マリューさん!」
激しい銃撃戦の最中、キラ・ヤマトは叫ぶ。
「この襲撃の狙いはおそらく僕だけだ!敵を引きつけます!その隙に、とりあえず子供達を連れてシェルターへ!」
泣き叫ぶ子供達をほおってはおけないキラ。
「キラ君!…でも!」
「いいから早く!」
そういってマリュー・ラミアスを促し、キラは敵に語りかける。
「投降します!銃を収めて下さい!お願いします!」
硝煙と火薬の臭いが薄まる。
「…ラクス・クラインも出せるか」
「彼女は…ここにはいません!」
そう答えながら僅かに外を覗く。敵の姿は確認できない。
「くっ!」
再び銃撃。
キラは考えた。狙いにはラクスも含まれている。ならやはり敵は自分達の戦争への介入を恐れているもの。
犯人は誰だ?連合?ザフト?それともただのテロリストか。分からない。誰に恨まれてもおかしくないようなことを自分達はしてきた。平和の為に戦ったはずなのに。なぜ--場違いな疑問。すぐに身を掠める銃弾で現実に戻される。
それよりも今は現状の打開。しかし…状況最悪だ。こちらは拳銃3丁、相手の全体数は掴めない。迂闊に動けば銃弾の雨。
仕方なくキラもシェルターへ逃げ込む。
「くそったれ!まずいぞ、これは…」
悪態をついているバルトフェルド。
「どうしたんです!」
「少年、フリーダムがない!」
「えっ?」
そのとき島全体に震動が走った。
一瞬にして天井をビームサーベルで刻み、盾を構えてそれを吹き飛ばし島の上空に舞い上がる天使。一回転して停止、排気。翼を広げる。
そしてキラは驚愕する。シェルターの中にはマユの姿がないことに。
「まさか!?」
マユ-ANOTHER・DESTINY-PHASE-03〜「選択」〜
- 553 :マユAD:2005/09/25(日) 20:20:22 ID:???
- 突然の揺れに驚き孤児院を襲撃した部隊の隊長、クレイブ・ドットも外に出る。そしてそれを目撃する。
「フリーダム!?バカな!!」
先程の銃撃戦では弾筋から判断しても、情報通り3人しかいなかったはず。ならば、今あれに乗っているのは--。
いや、いいだろう、それは。撃墜すればいいだけの話だ。しかしそこには確信に近い、些細な疑問が残った。
前大戦時最強のMSと、ザフトの最新鋭MS5機。どちらが上か。いや考えるまでもない--。
「MS部隊、作戦変更だ!発進してフリーダムを落とせ!破壊してもかまわん!」
<<了解。アッシュ隊、起動します。地上部隊は一時、撤退して下さい。>>
島に上陸し目標のフリーダムに早速ミサイルを撃ち放つアッシュ。それも1機ではない、5機のミサイルが雲霞のごとくフリーダムに襲いかかる。
その中の少女が叫ぶ。
「きたわね!いくわよ!よく見てなさい!」
(何を!?)
少女は自分に向かって語りかける。
「MS戦のセオリーよ!」
降り注ぐミサイルを一身に受けるフリーダム。凄まじい爆炎。
「やったか…」
クレイブは安堵にも似た声を漏らす。所詮は旧式。最新鋭機のましてや5機に勝てるはずなど--。そう確信しかけた矢先。
「まずは敵の虚を突く!」
爆炎の中から赤い閃光が2線。2機のアッシュの胸部を貫いた。
「なに!?」
パイロット達に動揺が走る。それは機体の動きにも顕著に現れた。慌てて両腕を構え直し、フリーダムがいた場所にビームを撃ち始める3機のアッシュ。
「そしてヒット&アウェイ!」
煙の中から現れたフリーダムは素早く抜刀、複雑な軌道を描きながら接近。通り過ぎ様に、一閃、ニ閃。2機のアッシュの胸部を斬り裂いて飛び去るフリーダム。
- 554 :マユAD:2005/09/25(日) 20:26:06 ID:???
- 「武装を最大限に活かす!」
装備していたラミネート・アンチビームシールドを敵に向かってブーメランのように投げつける
「クソ!」
それをビームで弾き返そうとするアッシュ。
「当たれ、当たれぇ!」
恐怖のためか上手く狙いが定まらない。ようやくビームがシールドに当たり軌道を変えた頃には--
「よし、やっ…な!?」
シールドが弾き飛ばされたその裏にはすでにフリーダムが眼前まで急速接近していた。ビームサーベルをアッシュの腹に深々と突き刺し、それを逆袈裟に振り抜く。
「ウワァァ!」
爆発を起こすアッシュを蹴り、再び上昇し浮遊するフリーダム。シートに座るは少女は至って冷静にこう言った。
「ふぅ。こんなもんかしら?どう?参考になった?」
しかし少女の中のマユは全く見ていなかった。
(…ねぇ)
「ん?」
(言ったよね?さっき。私が何度もMSに乗ったことあるって。でも私…こんなことしたこと、一度もないよ?私には子供の頃から…)
「あんたじゃないわよ。あ・た・し。あんたの中のあたしがやってたの。あんたの体でね。それに…くっ!」
(どうしたの?)
「タイムリミットみたい…失敗作の限界かしら…?戻るわよ」
「え?」
再び体がマユのものになる。襲いくる疲労感。それでもなんとか体の感触を確認する。マユの指示通りに動く手足。それはマユ本人と、そしてフリーダムにも言えることだった。
操作レバーをつかむ。
「動かし方が…分かる。…なんで?いつ覚えたの?それにさっきのは…」
戸惑いながらも、マユはみんなの身を案じ、島まで帰還する。
- 555 :マユAD:2005/09/25(日) 20:28:40 ID:???
- 敗北の将、クレイブ・ドットは、アッシュ部隊全滅の確認の後、部下を船に集め、武器を回収した後、そのまま部下全員射殺した、血まみれの小型船を運転しながら1人、考えていた。
今回の任務の不可思議な転末を。
一つにラクス・クラインの件。
殺せと命じてをおきながら、いないと報告した時のあの応答の態度だ。事前に調べて、「居る」とこっちに言っておきながらあの反応では明らかにおかしい。
普通なら激昂するか、中止を言い渡してもおかしくない。感づかれていた、そう考えるのが妥当だからだ。
つまり始めから調べてなどしていなかったか、本当に知らなかったのか。それともいないと知りつつ偽ったのか。
しかしいずれにせよ特殊部隊に曖昧な意図の任務はありえないだろう。
二つ目にフリーダムを操縦していた人間について。
あれはキラ・ヤマトなのか。彼はフリーダムを強奪し、乗り換えた後は不殺を通していたと聞く。
前大戦の最も大規模な地球降下作戦、オペレーション:SPIT・BREAK時のイザーク・ジュールなど赤服も含む多数のパイロットの奇跡的な生還はあまりにも有名な話で、
作戦に参加せず本国にいた人間にすら知れ渡っていたのだ。
「不殺の天使」。その彼がアッシュのパイロットを皆殺しにした。返り血を浴びた天使が頭から離れない。あれは完璧に殺す気でいた攻撃だ。
全機体、コクピットを一撃でやられていたのだから。それに…あの卓越した腕前。
- 556 :マユAD:2005/09/25(日) 20:34:31 ID:???
- 自分は経験こそ短いが、何度もMSにテストパイロットとしても、戦闘員としても乗ったことはあったし、
それは決して、例えば赤服にさえも遅れを取るものではない。そう自負していた。間違いなくあの機体、いやパイロットの強さは、そうそうお目にかかれるものではない。解答としては考えを変えたか、彼と同等の力を持った者がまだいたのか、あるいは---。
ザフトにとって最も最悪のシナリオ。オーブで新型のOSが開発され誰であってもあのキラ・ヤマトと同等程度の力を発揮できるようになった、か。
大戦時のオーブの主力戦闘機、M1アストレイのOSを開発したのは彼だという。ならさらにその上をゆく物を開発できてもおかしくはない。十分に現実味を帯びた話だった。
しかし今更そんなことはどうでもよかった。そんなことよりもっと大切なことがある。
どのみち、自分は失敗したのだ。還れば折檻されるだろう。ことによっては消されるかもしれない。そんなことを思い、彼は笑った。
ならば罰を受けに帰る必要もない。部下は全員処分した。後はこの船を消せば事故に見せかけおさらばできる。
地図を確認し、目的地に着いたことを確認した彼は機関室にC4を仕掛ける。
大事な「商品」をアタッシュに詰めこみ、タイマー式の自動航行装置を作動させて船を降り、男は闇の中に、消えた。
- 557 :マユAD:2005/09/25(日) 20:41:05 ID:???
- 孤児院の前でフリーダムを止める。くたくたになって降りてきたマユを取り囲む子供達。
「マユ、カッコよかったよ!」
「マユ姉スゴーイ!」
「マユ姉ちゃんボクにも乗り方教えてー!」
何とも言えない反応。どう答えていいか分からずオロオロしていると
「マユちゃん!!」
キラの声。
「どうして君はあんな無茶を!君は死ぬ気か!!」
やっぱり…どやされた。
「…ごめんなさい…」
「謝って済む問題じゃない!死んだら…どうにもならないんだぞ!?君の言う平和だって叶えられない!
君が死んだら悲しむ人がいっぱいいるのに!それなのになんであんなことを平気で!」
嘗てのストライクに乗った自分と同じ、考えなしの行動に激怒するキラ・ヤマト。それを宥めるマリュー・ラミアス。
「まったく…。それにしたってよく乗れたものね。昔のキラ君みたい…」
「…マリューさん!!」
「ご、ごめんなさい!失言だったわ…」
そこに割ってはいる「砂漠の虎」。
「ま、まあまあ!落ち着け。今回のことは、とりあえず置いとこうや?それより、これからの方が問題だ。」
…確かにそうだった。またここにいては敵のいい的だ。どこかに逃げなければ。
マリューは提案する。
「とりあえず…オーブに戻った方が良さそうね。状況が変われば「あれ」が必要になるかもしれないし…」
「そうだな。それに戦争が始まっちまったらまた歌姫の身も心配だろ?」
ラクス。確かに心配だ。彼女は自分たちのように襲撃を受けてはいないだろうか?いまだ宇宙に残る彼女。
連絡を取って無事を確認したい。
「まぁ、とりあえず!オーブに帰ろうぜ?な?」
振られたマユも
「う、うん。そうだよ!帰ろうよ!」
と声の調子を上げてこう答え、頷く。出来ればこのことはすぐにでもみんなに忘れて欲しかったかから。
しかしそんなマユの変化を、誰よりも鋭い観察眼で捉えていたのは他でもない、アンドリュー・バルトフェルドだった。