- 51 :マユAD:2005/09/29(木) 06:34:55 ID:???
- プラント評議会議長、ギルバート・デュランダル。
コーディネーターの総意を決定する政治機関、評議会がおかれるプラント「アプリリウス」の、彼個人の書斎で、1人、パソコンのディスプレイを眺めていた。
開かれているファイル名は--D・PLAN。そのとなりに並べられた少年と少女の写真。そしてアーモリーワンでの3機強奪時の写真。
「やはり…少々強引だったかな…出来れば成功して欲しかったが…」男はそういいながら、しかし本心では彼らの成功にはあまり期待はしてはいなかった。
ラクス・クライン。あそこにいなかったとなれば、こちらはほぼ完璧に見失ったことになる。しかしそのままにしてはおけない。
彼女の人を動かす力は大きな物だ。前大戦におけるエターナルの強奪も、連合とザフトの争いの一時的な終結も、全て彼女の力が作用している。
いや…彼女の人を「惑わす」力、と言った方が正しいだろう。
いずれにせよ同じ失敗を繰り返すほど馬鹿なことはない。あの力はこちらの手中に収めておく必要がある。
しかし本物が見つからなかった以上、予備を使うしかない。あまり効果は望めないが、とりあえずはあれでも役割はなんとか果たせるはずだ。
本物には消えてもらうとしよう。居場所は分からなくとも…行く場所は分かる。
孤児院襲撃の件が彼女に露見すればこちらを疑ってかかるだろう。そしてクライン派が彼女に私の「不穏な」情報を流せば、あそこに手を出し私を調べようとする筈だ。
こちらは網を張ってそれを待てばいい。
- 52 :マユAD:2005/09/29(木) 06:37:06 ID:???
- そして…キラ・ヤマト。気にはなるが…彼のことはおおよそ大丈夫だろう。連合に裏切られた彼なら今後は間違いなく「オーブ側」かラクスにつく。
彼女に着かないよう手懐ければこちらに害はない。少なくとも計画の実行までは。セイラン家に感謝しなくてはなるまい。
奪われた3機はどうするか。恐らく乗っているのはソキウスか何か。
並のパイロットでは恐らくザクウォーリアはおろか、最新のグフイグナイテッドでも勝てないだろう。パイロットの腕が違いすぎる。
…しかし大した問題ではない。Tステージの開発は進んでいる。あれが完成すれば、敵ではない。
それまではミネルバの彼らに頑張ってもらうしかない。レイとルナマリアではパイロットが同等程度、機体の性能で負けているとなれば、現状太刀打ちは困難。2機で1機を抑えるのが限界。
ミネルバに1機、ここに1機とG型のSステージはあと2機。
3対3で引き分け--か。いや我々は勝たねばならない。絶対に。ならば、やはりそれを覆すのもパイロットの技量。
<<議長、オーブ連合首長国特使、アレックス・ディノ様がお見えになりました>>
「わかった。彼女のところに招いておいてくれ。すぐそちらに向かう」
負けはしない。計画を実行し、世界を変えるまでは。
男は静かに席を立ち、部屋を立ち去っていった。
マユ-ANOTHER・DESTINY- PHASE-04「始まり」
- 53 :マユAD:2005/09/29(木) 06:45:49 ID:???
- ユキはミネルバの自室で1人ベッドの上で膝を抱え、考えていた。顔を俯かせ、一点を凝視している。彼女を悩ませたのは…今は亡きユニウスセブンを落とした犯人達の首謀者、サトー。
--なぜだろう。彼らの言葉。
自分も犯人達の言葉が正しく聞こえなくもない気はした。
もしかしたら、もし地球の人がみんな死んだら、それで「人」と「人」との無益な争いが終わるかも知れない。そう思った。
だが…ユニウスセブンがメテオブレイカーに砕かれた時、やっぱり安堵している自分がいた。落ちなくてよかった。誰も死ななくてよかったと。
甘いのかもしれない。軍人としては。でも地球に落ちても月にもまだ「人」はいる。なら落ちても終わらない。
やっぱり話し合いも必要だ。言い訳かも知れないけど。そう考えてしまった。やはり戦うことは間違っていると。
ならなぜ自分は軍に入ったのだろう?
鮮明に思い出されるあの日の光景。マユだ。彼女を失ったのが悲しかった。
弱い自分。友達1人守れない自分。そのとき言葉で戦争は終わらないことを知った。だから剣をとったのだ。
そして今は力がある。戦争を終わらせるための力。だから戦う。容赦なく敵を倒す、つもりだった。
なのに…できなかった。たったの1人も。ビームは撃ったが致命傷を与えられず、サーベルを握っても四肢ばかりを狙っていた。
軍に入ったのは言葉では解決しなかったから。力で終わらせるしかない。だけど人を殺せない。だから話合いで解決したい。しかしそれでは戦争は終わらない。なら結局力押ししかないのだろうか。
「…」
誰が答えてくれるはずもない。部屋には自分1人。分からない。自分が正しいのか。確かな答えが欲しい。ネックレスを握りしめ、今ある一つの答えの源にすがる。
「マユ…私、どうしたらいいの?」
ユキを現実に引き戻す、来客を示すチャイムが鳴る。
「ユキ?いるよね?」
ルナマリアだった。
「開いてるよ…」
ドアが開く。
「大丈夫?」
声をかけたのはメイリン。2人ともユキの事を心配して来たようだった。
ミネルバが地球に降下してすでに6日。
なのにユキは一度も部屋を出ない。誰であっても何かあったのかと心配になる。
ルナが話しかける。
「買い物、行かない?3人でさ。ね?いつまでも閉じこもってると体によくないよ?」
今悩んでも仕方ない。ユキもそう思ったのだろう。
「うん…!」
3人の少女達はひとまず艦を後に町に向かって歩きだした。
- 54 :マユAD:2005/09/29(木) 06:48:09 ID:???
- --こちらは、カリフォルニア基地。陣営は違えど、ここにもミネルバと同時に地球に降下していた艦、「ガーティー・ルー」があった。その艦の一室、戦闘以外は特にすることのない彼らは遊びに興じていた。
「ちっ!つまんねぇつまんねぇ!」
水色髪の少年、アウルがボヤいている。
「うるせぇな…何回目だそれ?こっちはマジなんだ、黙ってやれよ。お前の番だ」
真剣な顔でスティングが言い返す。
「だってさぁ、この遊び?いつまでたっても終んないじゃん!」
隣のセネカのカードを一枚、慎重に抜き取る。
黒髪の少年は笑った。
「はい、1着あーがり!」
「くそっ!なんでだよ!最後も関係ないやつじゃん!」
怒るアウル。スティングがアウルのものの中から1枚取り出す。
「ちっ、2着かよ…」
最後の手札を捨てた。それに驚くアウル。
「なっ!いつの間に!?ちくしょー次は俺だからな!ステラ、カード出せ!」
「はい……」
無表情な顔で手札を広げるステラ。
「…これだ!」
引き抜いたカードを見て震えるアウル。道化師の笑顔。
「…てめー!ステラァ!!」
「バーカ。洞察力不足なんだよ。八つ当たりすんな」
「まあ、あの顔じゃ何考えてるかわかんねぇよ。超ポーカーフェイスだからな」
「ちくしょー!やめやめ!プロレスやろうぜスティング!」
「おう!かかってこいや」
「…………」
暴れ出すアウルとスティング。ボーっとしているステラはいつまでもカードを広げている。
「まったく。あのリーダーにしてこの関係あり、か。これじゃチームワークもヘったくれもない。俺が出るしかなくなるわけだ…」
セネカはそう言いながら昨日の基地副司令官からの指令を思い出していた。
- 55 :マユAD:2005/09/29(木) 06:49:39 ID:???
- 「え!?自分も戦闘に…ですかぁ?」
柔らかな光が差し込む副司令官の書斎。窓から今まさに離陸せんとしている戦闘機が見えた。突然の指令を受け流石に驚きを隠せないセネカに帽子をとった白髪の老人は言った。
「うむ…。さし当たって、とりあえずはこちらが極秘に開発していた「ストライクMk2」を与える。NJC、を搭載し、ミラージュコロイド、PS装甲をも備えた機体だ。
今までまともに乗りこなせる人間すら1人もいなかったとんでもない代物だが…君なら使いこなせるはずだ。とはいえ、それは2年前の」
しかしセネカはようやく気付いた。
「ニュ!NJCでありますかぁ!?それにミラージュコロイド!?しかしそれは条約で」
「…わかっている。落ち着きたまえ。君が出るのは開戦してからだ。」
そういいながら頭を掻いている。頭の様子からは彼の心労がうかがえた。
しかし少年はまだ納得いかない様子だった。
「お、落ち着いてます!しかし、なぜ私なんです?ネオ・ロアノーク大佐ではなく!私がみる限りでは…その、パイロットとしての技量ではむしろ、彼の方が私より上かと。それに私は」
「そう謙遜しなくてもいい。操縦の腕は君の方が上だ。データから見てもそうだったし、大佐もそれは認めていたよ。
確かに生体CPUの調整技師としての、君の艦での役割を考えれば彼の方が出るのが妥当に見える。だが彼は佐官、君は尉官、文句を言える立場ではないだろう?そして彼は作戦の立案を行う役だ。それに…」
副司令官はそのおいぼれた皺のよった手で、こちらに手招きをする。口外しにくい話があるようだ。
「ここだけの話なんだが…。ファントムペインの結成に関しては艦の造艦から…生体CPUの作成までそのほとんどがブルーコスモスの資金によって成されたものだ。
MSの強奪こそ成功したが一部から戦略的な部分が欠けている、多額の投資に見合った戦果を挙げることができるのか、と疑問視され初めていてね。
そこの盟主ロード・ジブリール氏へのお膳立てなのつもりなのだろう。、あくまでも成功を装いたい。だから君。そういうことだ。」
話し終わって呆れたように溜め息をつく。
- 56 :マユAD:2005/09/29(木) 06:53:14 ID:???
- 「まったく酷いものだよ。地球のために協力し、戦うはずがいつまにかコーディネーターを倒すことが目標になっている。すべてブルーコスモスが原因だよ。
今回君に指令を言い渡す役が私なのもそのためだ。「上」がブルーコスモスに所属しているからという理由だけ。「コーディネーターには会いたくない」だとさ…。まったくふざけているよ…。」
連合軍の大半の兵はブルーコスモスに所属している。彼らが戦う理由は1つ。コーディネーター撲滅そのためだけである。
その一方でただ平和を願い軍に入る者もいる。が、その多くはまともに昇進すらできないという現状がある。
上位の官職はほとんどブルーコスモスのそれも地位の高いものに独占されている。
尉官以上はブルーコスモスに入るか、もしくはその幹部から推薦を受けなければなることはできない。それが軍の暗黙の領域。ブルーコスモスに支配された形だけの軍隊。
それが連合軍の腐敗しきった現状だった。
「そういうわけだ。すまないが彼らの補佐ををよろしく頼む。君達はとりあえず開戦したらザフトの新型艦を中心に追うように、とのことだ。
しかし言われてはいるが…まだ3機のデータ収集が終わっていない、その上に開戦もまだしばらく先だ。しばらくの間は待機していてくれ。以上だ。」
呼び出しを受けて、勲章の一つでももらえるのか、などとは思わなかった。
だが、しかしせっかくG3機うばったのにお褒めの言葉一つ頂けないとは。現実は思ったより厳しいようだ。
そんなことを考えているとネオから通信が入った。至急、皆を集めてブリッジに集合して欲しい、任務がある、と。
- 57 :マユAD:2005/09/29(木) 06:57:56 ID:???
- しかし彼らはその命令の内容に唖然とした。
「オーブに行ってこい」
「「「は?」」」
セネカ・スティング・アウルは申し合わせたように声を揃えていった。ステラはまだボーとしている。どうでもいいのだろうか。
「なんだその面は?暇なんだろ?まだ後数日かかるらしいから、ちょっとした社会勉強だよ!行ってこい!」
「だからって社会科見学はないだろー?ガキじゃあるまいし。もっと楽しそうなやつにしろよ!MSに乗って戦うとかさ!オーブのMSとも戦ってみたいし」
「同感だな。せめてMS乗るぐらいはしたい」
「……」
「ダーメーだ!いいから行ってこいての!ほら飛行機出ちまうぞ?早く行け!ああ、それとお土産、忘れんなよ!」
ブリッジをでる4人。
「はー…。ホントに行くのかよ?」
「だりーな…」
又してもボヤくアウル。今度ばかりはスティングもそれに同調していた。それに対してセネカはそっけなく
「まあすることないのは事実だしな…とりあえず行くか?あそこに行けるかも知れないしな」
と言う。スティングは察したようだった。
「なるほどな。…確かに行けるかも」
「あ?どこだよ?」
「どこ?」
「懐かしの出会いの場所、だよ」
- 58 :マユAD:2005/09/29(木) 06:59:59 ID:???
- <<なるほど、ではまだ「どこがやった」、とは断定は出来ませんわね>>
「うん…。戦争が始まるからだよ。それで犯人達は僕達を狙ったんだと思う。僕達が前みたいにオーブに味方すると邪魔になるから、って。だとしたら犯人はプラントの方だ」
一方、オーブのとあるホテルでは狭い画面一枚を隔ててキラ・ヤマトとラクス・クラインは話しをしていた。その2人の話に割ってはいる、アンドリュー・バルトフェルドとマリュー・ラミアス。
「どうかね?あながち、連合かも知れんぞ?戦争好きのあいつ等がいるからな」
「そうね、「平和の歌姫」が出てきたら戦争を始めるのに都合が悪いのは彼らだわ。プラントから戦争を仕掛けるとは考えにくいし。
戦争を始めて直ぐに反戦運動が始まっちゃったらそれこそお話にならないわ、彼らにとっては」
オーブに着いたキラ達は宇宙にいるラクスと通信をとっていた。孤児院襲撃の話もそうだが、主な話は自分たちはこれからどうするか。
「戦いたくはないよ…。誰かを傷つけるのも…誰かに傷つけられるのも…もうたくさんなんだ…」再び戦いに身を投じたくはない様子のキラ。しかしラクスは言う。
<<ですが…奪われてから後悔するようでは遅いのです。それは前の戦いからも学んだことでしょう?
何もせずにただ平和を享受しているだけではいつかその平和すら崩して仕舞いかねません。
平和でありたいと願うなら、それを叶えるために武器をとることもまたやむを得ないのです。…矛盾ではありません。悲しいことですが…私達の平和と彼らの平和とでは多少なりとも違うのですから…>>
「ラクス…」
<<だけどキラ、決めるのはあなたです。今すべきことを、よく見極めてください>>
そう言い残して通信を切ったラクス。
キラは思った。彼女だけは失いたくない。僕の心の支え。生きる理由。その人が言うのなら…僕にとっては是非もない。
「マリューさん、バルトフェルドさん」
「やっぱ…そうなるのかねぇ?」
「しかたないわね、発進の準備をさせるわ。なんだか、セイランさんの思惑通りになるみたいでやな感じだけど」
そのときマユは1人だった。無数に名の彫られた慰霊碑の前で。そしてその名を見つけだす。
「マユ・アスカ」、「シン・アスカ」。そして--「ユキ・シラトリ」。それら一つ一つを指でゆっくりとなぞりながら、泣いていた。