128 :マユAD:2005/10/01(土) 22:01:09 ID:??? 
あの日から世界が変わったのかも知れない。
お父さんが死んだ日。お母さんが死んだ日。お兄ちゃんが死んだ日。そして…私が死んだ日。

その日、私は友達のユキという名前の女の子と遊んでいた。結構、仲良かったみたいだった。私はその子をユッキーと呼んでいた。しょっちゅう遊んでたようだった。
町中に鳴り響く警報。突然のことでなにがなんだか分からなかった。2人で顔を見合わせていたら、お母さんみたいな人が部屋に入ってきて、急いで支度をしなさい、ユキちゃんも早くお家に帰りなさい、って言った。
だから私はお気に入りらしいピンクのポーチに、お財布とお兄ちゃんが12歳の誕生日に買ってくれた携帯電話だけをもって部屋を出た。
家を出てユキとお別れした。明日になったらまた会えるって思ってたみたいだった。結局それっきりだったけど。
別れたそのあと、家の近くのシェルターまで行ったけど人がいっぱいで入れなかった。
港に船があるからそこに行け、って言われて、それで山の中を息を切らせて走った。もうちょっとで着くから頑張れ、って、私の手を引きながら、お兄ちゃんがそう言った。
そのときだった。
「光」が頭の上をかすめていったのは。
怖くなって思わず振り向いた。
そして、見えた、あの、天使。私にはあれがなにかすぐわかったみたいだった。
でも天使はすぐにどこかへ飛んで行った。そして。入れ違いに光が飛んできて--。

気が付いたらベッドの上にいた。病院かどこかのベッド。どこだか分からない。部屋には誰もいなかった。
お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、ユキも、誰もいない。声をかけたけど誰も答えてくれなかった。仕方がないから、ベッドを降りた。服は着てた。
あの日と同じ服。汚れも傷も全くない。外に出た。やっぱりどこだか分からなかった。知ってるようで知らない町。そんな町をしばらくフラフラしてた。
知らないおじさんとおばさんに話しかけられた。私が子供に見えたのだろうか、"こんなところに1人で歩いてちゃいけない、お父さんとお母さんといっしょにいなさい"って言ってきた。
お父さんもお母さんも見つからない、って言ったら"じゃあお家に帰った方がいい"って言った。お家もないみたいって言ったら2人とも驚いてた。けどしばらく話し合ってから…私にこう言った。
"じゃあ、お友達を探してみる?"

それが、あの生活の始まり。


マユ-ANOTHER・DESTINY-PHASE-05〜願うこと〜
129 :マユAD:2005/10/01(土) 22:02:58 ID:???
「ダメだったらダメだー!」
オーブ連合首長国の国防総省。おおよそ厳粛なこの場に不釣り合いな少女が男に五月蝿く抗議をしていた。
「ハニーもしつこいねー。そんなこと言ってもしょうがないじゃない」
男は軽くあしらう。
少女の名はカガリ・ユラ・アスハ。そうは見えないが実は政治家。つい先日もプラントに出向き大事な話し合いをしたばかりだった。しかしその疲れも感じさせないほどの剣幕で男になにやら怒鳴りつけている。
「オーブの理念はどうなる!?」
口癖のようにそればかり唱えていた。
そしてこちらもとてもそうは見えない、なよっとした感じの頼りなさそうな男だがオーブ連合首長国の現宰相、ユウナ・ロマ・セイラン。
オーブの名家、セイラン家の出で何かと鼻にかけたような嫌な性格の持ち主だったが、一年前の父との別離を経て、
その嫌みな性格も落ち着き、有能な政治家として腕をふるい、国民からも高い信頼を得るようになった。
一応名目上は緊急会議と称して話をしている2人だが、一見すればすぐわかる。これは会議などでは全くない。
一方が怒鳴りつけ、もう一方は全く聞いていない。いつまでも続くような、聞いてる方が嫌になる不毛な演説のようだった。
しかしその会議も終わりを迎えようとしているところだった。
「…ならオーブがなくなってもいいのかい君は?」
少女の我が儘に飽きたのか、男も漸く反論を始める。
「口説いようだけどねー、これから戦争が始まるんだよ、間違いなく。連合とプラントの戦争がね。そして僕達オーブはそのどちらかの側に着かなきゃならないだ」
「なぜだ!?今まで通り中立で」
男は言葉を遮る。
「通せる分けないじゃない。そんなこと言ったら、また連合に攻められちゃうんだよ?まさか君は自分のお父様の死も、国のためだと忘れられるのかい?」
「ぐっ…」
黙り込む少女。言い返す余地がない。男は言い過ぎたと思ったのか口調を変えた。
「…いいかい?現状ではオーブは孤立している。明らかなのは1人ではいれないことだ。僕もいろいろ考えたんだよ。だけどこれし方法がないんだ。」
「…いろいろ考えてこの決断なのかよ?お前だったら…少なくともこの国の将来を、他の奴らとは違う形で考えていると思っていたのに!こんな決断しか、できないのかよ!」
部屋を飛び出すカガリ。それを見届けユウナも溜め息をついた。
「これしかないんだ、今は…ね」
130 :マユAD:2005/10/01(土) 22:05:26 ID:???
すっかり日も落ち辺りは暗くなり始めていた。それでも、少女はいまだ慰霊碑の前に座りこんでいた。
先ほどまで石碑を見つめていた彼女の目。そこから溢れていた大粒の涙はもう乾いたようで、今の彼女は何か思索にふけっているようだった。

後ろから近づく人影。
「まだ…ここにいたの?マユちゃん」
キラ・ヤマトだった。
「迎えに来たんだ。もう夜だし、そろそろホテルに帰ったほうがいいよ」
しかしマユはそんな彼の気遣いを全く聞いていないようだった。しばらくしておもむろに少年に尋ねる。
「これからどうするんですか?」
前にバルトフェルドに聞いたものと全く同じ質問だった。勿論少年は彼ほどユーモアがない性格だったので至って真面目に答えた。しかし
「…またフリーダムに乗ろうと思う」
彼と同じ戦うという答えだった。
「どうしてですか?」
「守りたい人がいるんだ。その人のために、僕はまた剣をとる。」
守りたい人。私にはそんな人がいるだろうか?もう家族はいない。なら孤児院の子達?マリューさんとかキラさんとか?
しかしキラの次の発言はマユのそんな考えを止めた。
「君には…オーブに残ってもらおうと思ってるんだ。」
「なんで…ですか?」
「君はきっと戦えないだろうから。後のことは…僕の姉に全部任せておいたから。安心」
聞き終わる前に言い返すマユ。
「戦えますよ。フリーダムにも乗れました」
「あれは…偶然だよ」
「キラさんだって偶然だった。偶然から始まったんです。私も偶然から始める。私、絶対行きます」
「……」
語気は強かったが本当はマユは恐れていた。あの時の自分、フリーダムに乗った時の自分を。怖かった。意志とは無関係にMSを動かし、敵のそれを倒していく自分が。
二度とあんなことはごめんだと思っていたのに。それでも…行きたい。あの時、唯一MSに乗って良かったと思ったことがあったから。子供達もみんなも、守れたこと。
私は守る。私の平和を。みんなの平和を。そうしていたほうが1人にされるよりはずっとマシだと思った。
「…辛い道のりだよ?人を殺すことになるかもしれない。僕達の中の誰かも死ぬかもしれない。君だって…死ぬかもしれない。それでも…行くの?」
「はい」
迷いはなかった。みんなは私が守る。そのためになら、捨ててもいい。
キラも仕方なく聞き入れる。
「…わかった。じゃあ後でマリューさんとかに相談しておく。とりあえず、今日は帰ろうよ」

131 :マユAD:2005/10/01(土) 22:07:53 ID:???
「ふー!買った買った!たーくさん買っちゃった!」
「お姉ちゃん買いすぎだよ…」
買い物に出掛けていたミネルバの少女らも暗くなったので仕方なく帰路に着いていた。しかしその荷物足るや相当な物だった。
しかもほとんどがルナマリアの生活用品や化粧品ばかり。そしてそれらの荷物の殆どはメイリンが持っていた。ユキもメイリン程ではないが荷物を持たされている。
突然ルナマリアが駆け出す。
「ちょっと、お姉ちゃん!?待ってよ!」
「やーっぱりあんたらだった!」
ルナが呼び止めたのは…レイだった。前にいたヨウランとヴィーノも振り返る。
「あれ?ルナじゃん?」
「おまえ達も今から帰るのか?」
「うん!」
「にしても…スゴい荷物だな…」
両手で荷物を抱ながら後ろからなんとかついて来ているメイリンを見てのヨウランの一言。
「まあまあ、いいじゃない?せっかくオーブに来たんだしさ!多分もうここに来る機会無いと思うし」
弁解するルナマリア。しかし逆にメイリンに言われてしまった。
「これ…殆どお姉ちゃんのなんだけど」
「マジかよ?」
「…しゃーねぇな。少し持ってやるよ!」
ぶっきらぼうにメイリンから荷物をとりあげるヴィーノ。その頬は僅かに赤 みがかかっていた。
ふふん、と鼻で笑うルナマリア。
「な、なんだよ?」
「べっつに〜」
ユキもヨウランに荷物を持ってもらい少し体が軽くなった。

「そういやあんたらなにやってたの?」
もとから何も持っていなかったルナマリアが言う。
「整備終わって暇だったからかわいい子を探してぶらぶらしてた。」
「アホね。捕まえてもここにはいれないんだからしょうがないじゃない?」
「ま、それ以前に捕まんなかったけどな。」
ユキはレイに話しかける。
「レイさんは何やってたんですか?」
「俺はずっと艦にいた。お前らの迎えを頼まれて出てきただけだ」
「あんたはどうせ議長とでも電話してたんでしょ?」
「なっ!ルナマリア!貴様何を!」
「…」
あながち的を得ていそうな解答にユキは何も反応できなかった。
138 :抜かしてた五番目 :2005/10/01(土) 22:27:18 ID:???
その時だった。月の光を背に受けながら向こうから2人組が歩いてくる。少年と少女、兄妹のようだった。すれ違う一行。なんとなく相手の顔を覗きこんだユキ。
「あ…」
思わず声が漏れてしまった。ユキの歩く足が止まったのに気づきレイがユキに話しかける。
「どうしたユキ?」
「な、なんでもないよ!」
「なになに?さっきの男の人、かっこよかったの?もしかして一目惚れとか?」
悪戯っぽくちょっかいをだすルナマリア。
「ユキとお前を一緒にするな。ユキはお前と違って冷静、だ。付き合う相手はきっと顔や容姿ではなく性格で選ぶだろう」
レイは先刻のお返しとばかりに冷やかにルナマリアを嘲笑する。
「なんですって〜?私そんな面食いじゃないわよ!」
2人の言い争いを余所にユキはまだその場から動くことが出来なかった。

そんな。いくら何でもあり得ない。あの小さな女の子が…似てた。マユに。ちょっと変わった髪型も綺麗なスミレ色の瞳も。背の高さもそのまま。あの時と同じ、そのままのマユ。

ユキは自分の目を疑った。かつて一番の友達だったマユ。いつも自分といてくれたマユ。ネックレスをくれた優しいマユ。なのにあの日失ってしまったマユ。そのマユが。マユがまだ…生きている…?
もしマユなら呼び止めたい。呼び止めて今すぐにでも話がしたい。あの後の自分の経緯、マユがいなくなってから今までのこと、色々話したい。マユのことも色々聞きたい。

しかし…どことなく違和感があった…。
何かが違う気がする。…そうだ、背の高さ。二年もたっているのだ、背が全く伸びないはずはない。
振り返ればまだその後ろ姿が見えた。小学校高学年ぐらいの子供に見えた。

やっぱり…マユじゃない。ほんの少し期待していた、そんな自分が少しくやしかった。いつまでも過去に引きずられている自分。
部屋でもそうだったがやはり軍に入ったからには私情は捨てなければ。こんな甘いようでは駄目だ。私にも今は守るべきものがあるのだから。少女は前を行く仲間のもとへ追いつくように走っていった。
132 :マユAD:2005/10/01(土) 22:09:54 ID:???
薄暗い部屋の壁にはめ込まれ並んでいるテレビ画面。ざっと数えても30以上はある。そしてその中のいくつかはこちら向いた老人を何人か映しだされている。
テレビからやや離れた位置の椅子に腰をかけながら、男は静かに言った。
「では…開戦、とゆうことでよろしいですね。」
画面の向こうの老人達も頷く。
<<うむ、そもそもこんなことをせずとも我々の答えは決まっていたがね>>
<<後のことは好きにするが良い。まかせたぞジブリール>>
「おまかせを」
男はその言葉を聞き終わると、テレビ画面を全て消した。
「予定通り、だ」
まったくだった。全てがこの男の予定通り。プラントの襲撃、MSの強奪、ユニウスセブンの落下、そしてこれから始まる戦争。全て男が考えたシナリオ通り。
「そして…このさき連合は勝つ」何やら手元の操作盤をいじくり回す。するとスクリーンが降り、映写機が動きだす。
画面に映し出されたのは…

ZGMF X000A DREADNAUGHT
ZGMF X09A JUSTICE
ZGMF X10A FREEDOM
ZGMF X11A REGENERATE
ZGMF X13A PROVIDENCE
そして男は懐からMOディスクを取り出し、操作盤の差し込み口にそれを入れながら懐かしそうに語る。
「アカデミーの頃からそうだった。君はいつも肝心なところでどこか抜けていたなぁ、ギルバート・デュランダル。そんなことだからパトリックに先を越されたのだよ。
もっとも、そのおかげで今、私は連合を勝利に導くことが出来るのだがね…。」
左足にすり寄ってきた猫を両手で抱え、膝の上に乗せその背中を優しく撫でる。
「今は議長になったが…やはり凡小な君にプラントを動かすのは荷が重すぎたようだ。せめて友として」
スクリーンに項目が追加される。
ZGMF X42S DESTINY
ZGMF X666S LEGEND
「君の美しくしき人生の、最後の幕引き役を担おうじゃないか」

翌日、地球連合がユニウスセブン落下に対する報復措置としてプラントに宣戦を布告。今再び、戦争が始まる--。