- 389 :マユAD:2005/10/08(土) 17:25:04 ID:???
- 大西洋連邦大統領、コープランドの開戦演説の後、地球の連合の主要な軍事施設や各国の首都では戦時体制が敷かれた。
無論、一時的な措置とは言え連合に加盟した、オーブとてその例外ではなかった。
そのオーブのオノゴロ島。中心街の一角にある、近代化した街並みに溶け込めていない一軒のレトロな感じの店。中は喫茶店のようだった。
その店の入り口脇に黒髪の少年、セネカ・レビィナスがいた。誰かと電話で話をしているようだ。しかしその語気からあまりいい内容の話ではないのが伺える。
「わかりましたよ。そーいうつもりなら最初っからそういって下さいよ?まったく…ええ、それを見てから帰ればいんでしょ?明日には着くようにしますよ。
…は?買いましたよ!そんな下らないこと心配してどうするんですかあんたは!あいつら待ってるんでもう切りますよ!」
そう怒鳴って電話を切るとさっさと喫茶店の中に入っていった。
「おせぇーぞ」
入ってすぐに聞こえたのは一番奥のボックス席からの少年の声。セネカもそれに気付き、少年の方に近づいて行く。席には少年が2人に少女が1人。
「悪いな、スティング。退屈したか?」
「俺はお前に心配されるほど子供じゃねーよ」
手に持っている本を持ち上げぶらぶらと振って見せた。もう1人の少年、アウルは小さなゲーム機に夢中になっている。横スクロールのシューティングゲームのようだ。
その隣に座っている少女、ステラはヘッドホンを着けて音楽を聞きながら机にうつ伏せになって眠っていた。三者三様、それぞれ好きなことをやって暇を潰していたようだ。
「あっそ…あ、マスター、アイスカフェオレ1つ」
セネカの注文に呆れた感じでスティングは「お前の方がよっぽどガキだな…。」
しかし少し気にかかることがあったようだ。
「…つかやけに慣れた感じだな。常連だったのか?」
「まあ昔は良く来てたかな」
「ふーん…」
たわいもない会話。だかここからは仕事の話。ゲームに夢中になっていた少年もようやく一区切りつけ、ゲーム機をズボンのポケットにしまう。
「で、何だって?おっさんは?」
「ん…?」
少女も眠たげながら目を覚ます。少女が起きたのを確認し、セネカは与えられた指令を伝える。
「ああ、『試合を観戦てから帰って来い』、ってさ」
オノゴロ島からやや離れた遠海。そこにはすでにオーブに向けて連合の艦隊が迫ってきていた。
マユ-ANOTHER・DESTINY-PHASE-06〜初戦〜
- 390 :マユAD:2005/10/08(土) 17:26:16 ID:???
- 「やっぱり、こうなるのね…」
ザフト軍所属、最新鋭艦ミネルバの艦長タリア・グラディスは艦橋でそう呟いた。周りにいる他の乗組員も席で各々の作業を急がせているが、その顔はどことなく暗い。
「どうしたんですか?艦長?」
「オーブからの警告よ。これを見なさい」
タリアは先ほどブリッジに入ったばかりでうまく状況を飲み込めていないミネルバ副艦長、アーサー・トラインにモニターを見るよう促す。アーサーは画面に表示された文字を読み上げる。
「えー『貴艦、直ちにオーブ領海内から離脱せよ。聞き入れない場合攻撃もやむをえない。なおこの通告を持って最終通告とする。
こちらに交戦の意志はない。貴艦の誠意ある行動を望む。』…って!これは!」
あからさまに驚くアーサー。初めて見た人なら誰でも「わざとらしい」と思うだろうが、これが彼の普通である。
付き合いの長さからそれを知っていたタリアは気にも留めない。
「戦争が始まったんだから当たり前といえば当たり前なんだけどね…」
「しかし!だからっていきなりは!」
先ほどからタリアの隣にいたレイがようやく話に加わる。
「これが今のオーブのギリギリ譲歩出来る内容、ということでしょう。オーブは連合に加盟した。
本来なら我々が逃げるのを待つ必要はあちらには全くないし、奇襲されていてもおかしくはない。これは寧ろ優しいものですよ」
核心を突くレイの言葉。
そんなことは分かっている。今すぐ動かなければならないことも。事は急を要する。遅れれば連合にも囲まれてしまう。
「分かってるわよ、そんなこと。…仕方ないわ。これよりミネルバはオーブ領海を離脱、ザフト軍、軍事拠点カーペンタリアに向け進路をとる。
脱出の際、連合からの攻撃を受けることも予測される。十分に注意せよ。発進は2時間後。総員を準備を整えて!」
- 391 :マユAD:2005/10/08(土) 17:27:11 ID:???
- ミネルバのパイロット待機室。艦長のコンディションイエローの令を受ければ本来なら相当の数のパイロットがここにいてもいいはずだが、
この艦に限ってはパイロットの不足も助けてたったの2人、ユキとルナマリアしかいなかった。
「始まるんだね…」
「ええ…そうみたい」
ユキとルナマリアはパイロットスーツに着替え、いつでも発進できるよう待機していた。
地球の重力下での戦闘は2人とも初めてということもあって、特にユキは緊張しているようだった。ヘルメットを抱える手がわずかに震えている。
初の重力下での戦闘でしかもこの危機的状況。考えれば無理もない。
いくら自分達と同じ赤とは言えユキはまだ自分と比べれば若く、経験も浅いのだ。
それで姉としてなんとか妹を落ち着かせようとするルナマリア。
「でも大丈夫。私とレイがしっかり援護するから!ね?ユキもしっかりやんなさいよ!」
軽く背中を叩く。幾分緊張感かほぐれた感じのユキ。ぎこちなく微笑み返し頷く。
レイが部屋に入ってくる。彼も既にスーツに着替えていた。彼専用の白いパイロットスーツに。手にはブリーフィング用の簡易情報端末を持っている。
「準備は出来ているようだな。今回の任務を簡単に説明する。」
端末の電源を入れ2人に渡す。
「まずは持ち場だが…話す前に初めに言っておくがこの艦はザクの換装用のバックパックは積んでいない。
今後補給するまではそれに基づいて指揮を行う。まずルナマリア、お前のガナーザクは重力下の海上戦ではブーストの持続性能が低いことから分が悪い。
したがって艦上を中心に敵機を撃墜するのが得策だろう。もともとそのためのオルトロスだからな。だが落ちても拾ってはやれない。お前はこちらを狙う敵を落とすことだけに集中して艦の上にいろ。」
「意地悪ね…」
「俺のブレイズザクとユキのインパルスはある程度は飛べるから遊撃は俺たちの役目だ。俺は艦の前方を守る、ユキは後方は頼む」
「うん…」
「任務の内容は至って簡単だ。艦を守れ。それだけだ。余計な功績は上げようとするな。生きて帰るのも任務だからな」
この状況ではなかなか的確な指示だったといえる。流石はザフトレッドと言ったところか。
「…それと朗報だ。カーペンタリアからこちらに援軍が向かって来ているそうだ。」
「援軍?」
「ああ、その中にユニウス落下の時に世話になった、アレックス・ディノもいるらしい。…間に合うかどうかは別だがな」
- 392 :マユAD:2005/10/08(土) 17:28:10 ID:???
- その頃、オーブ軍戦艦用ドッグ。そこではオーブ軍所属艦の修繕作業が行われていた。
「準備の程は順調ですか?」
「ええ、進んでいますよ。後2、3日もあれば終わるでしょう」
めまぐるしく回転する作業員を後目に、先程までその回転に混じっていたマリュー・ラミアスとレドニル・キサカは話をしていた。
彼らが話していたのは目の前にある大型艦アークエンジェルについて。
前大戦終結後、強奪されていたザフト軍宇宙戦艦エターナルとともに行方知らずとなっていたが、どうやらオーブが匿っていたようだった。
大戦の時に出来た損傷はほぼ完全に無くなっている。
「予定日よりは早めに終わりますから出航までには間に合いますよ。…それよりご用とはなんでしょうか?」
「いえ、それが気になることがありまして…」
言いにくそうに話しをきりだすキサカ。
「アークエンジェルに配備予定のMSのことなのですが…。ヤマト准将のフリーダム、バルトフェルド一尉のムラサメ。
ここまでは分かるのですが…なぜストライクルージュを?」
マリューにはキサカが何を心配しているのかがすぐに分かった。ようは誰が乗るのか、とゆうことだ。
「ご安心下さい。カガリ様ではありませんよ」
胸をなで下ろすキサカ。
「そうですか…では誰が…?」
「マユ・アスカねぇ…」
資料を適当にペラペラとめくるユウナ。資料には右上にマユ・アスカという名前が記されていて後は戦闘訓練のデータばかりを載せている。
「大丈夫なのか?そいつ?」
「うん、多分。ちゃんと返せると思う」
ユウナとキラはMS実験用の地下施設で話をしていた。2人の話はストライクルージュの借用許可について。
あの後結局マリューも折れ、マユはアークエンジェルに乗ることになった。なったはいいがいざ考えてみるとマユの機体はなかったのだ。
それでとりあえず、フリーダムと共に保管してあったルージュに乗ってはどうか、とゆうことになったのだが、
フリーダムもストライクルージュも、アークエンジェルがオーブ軍に編入されたと同時にオーブ軍の部隊の所属となっていたのだ。それで一応許可を得ようということでユウナの元に来たのだった。
呼んでもいないのになぜかカガリもいた。自分の愛機が誰に乗り継がれるのか気になったらしい。
フリーダムはキラが乗るのなら、と言うことですぐに許可が降りた。しかし流石に得体の知れない人間は乗せられない。
それで色々試験を行うことになったのだ。
- 393 :マユAD:2005/10/08(土) 17:29:12 ID:???
- 「訓練の結果をみる限りではハニーよりはずっと上手いとは思うね」
3人が話しているところからは窓越しに飛びまわるルージュとムラサメが見えた。
ペイント弾の演習形式でオーブ軍の主力戦闘機とテストマッチをしているのだが、その腕前足るやかなりのもので、ムラサメから一発も被弾することなく相当の数の弾を当てて見せている。
機体の数を増やしても同じ。2機相手でもこの狭い場所で全くとりつく隙を見せない。
「悪かったな、下手くそで。それよりそのハニーってのやめろ。気色悪い」
「じゃあカガリンでどう?カ〜ガリ〜ン」
「余計に気色い!」
「うわっ!ちょハニー!」
大切な話をしているというのに2人揃うといつもこれだ。先日喧嘩したばかりなのにもう仲が良さげな2人を見てキラは若干呆れた。
会議で憤慨し、家に閉じこもってユウナと口も聞こうとしなかったカガリをキラが必死に説得したのだ。
数時間に及ぶ説得の末何とか怒りも収まり、ようやくユウナの考えに同意させたのはつい5時間程前。ようするにキラはほとんど寝ることが出来なかった。
機嫌が戻れば後は相変わらずである。本当に一国家のナンバーワン・ツーに見えない。
この二人はいっそ結婚してしまえば…と口には出さなかったがキラは思った。家柄もいいし、どちらも両親はいないからちょうどいいだろうに。
余り姉弟としての情がないからこんなことが考えられたのだろうか。
しばらく間をおいて本題に戻すためキラは少し大きめの声で言った。
「ではストライクルージュも、こちらでお借りして宜しいですね?」
しかし、ボロボロになりながらもユウナはあっさりと言い放つ。
「ダメだね」
「なっ?どうしてです?腕はいいって認めたじゃないですか!?それは…確かに軍の筆記関係は全然でしたけど…そんなの後からいくらでも!」
予想外の返答にたじろぐキラ。カガリも納得がいかないとばかり猛反対する。
「そうだそうだ!お前が駄目でも私が許可する!キラ!持ってけ!」
「まあまあ待ちなよ?僕は何も貸さないとは言ってないよ?いい腕前なんだからさ、それに見合うような高性能なやつの方がいいじゃない?」
両者を宥め、落ち着いた身振りで同意を求めるように2人に指を指すユウナ。
「どうゆうことだ?」
上手く理解できてないカガリとキラ。
「苦労したけどね、モルゲンレーテに頼んで造ってもらったんだ。つまり…デッドコピーはアスハのお家芸、ってことさ」
- 394 :マユAD:2005/10/08(土) 17:30:12 ID:???
- 海上を進むミネルバ。いつもなら美しい水面を讃えるオノゴロの海も今日ばかりは閃光と迫撃砲の轟音が飛び交う、戦場となりそうだった。
「ひえぇ…あんなに戦艦が…MSも…」
「かなり多いわね…」
敵艦の数は…11。一艦に対してこの数は多い。だが今更引くことは出来ない。
「コンディションレッド発令!ブリッジ遮蔽!対艦、対MS戦闘用意!今から敵陣を突破するわ!MSのパイロットは全員発進させて!」
オーブ領海を抜けたミネルバを待っていたのは連合艦隊の手厚い歓迎だった。
艦隊にあっという間に包囲されるミネルバ。扇状に展開した艦隊はミサイルを幾重にも射出して、ミネルバを狙う。
しかしあわや命中という時になると、それらは全てミネルバの対ミサイル迎撃用砲塔CIWSに撃ち落とされてしまった。
「くそ!いくぞ!MS隊!」
ならばとばかりに、ジェットストライカーを装備した、いくつものダガーLが空中から攻撃、ビームを連射する。
しかしラミネート装甲がビームを打ち消し全くダメージを与えられない。逆に艦のイゾルテに反撃され何機かは落とされてしまう。
「ちぃ!ビームが効かないのか!なら!」
ビームサーベルを抜き取り接近するダガーL。直接叩くつもりらしい。
「やらせないわよ!」
しかし艦上の赤いパーソナルカラーに染まったガナーザクのオルトロス長射程ビーム砲が凄まじい威力のビームで一撃の元にダガーLを爆散させる。
「落ちて!」
「ええいっ!」
空中でもユキのフォースインパルスとレイのブレイズザクファントムはダガーLを圧倒していた。
ザクファントムは前方にミサイルを拡散させることで弾幕を張りつつ艦を守り、インパルスは後方から近づくものをビームで撃墜してゆく。
数の差を埋めんばかりの3機の戦闘能力。連合のMSは殆ど手が出せない。
「タンホイザー!ってー!」
艦長タリア・グラディスの命令とともに驚異的な破壊力を持つ陽電子砲は艦を沈めてゆく。そしてミネルバはようやく脱出路を見いだす。
「行けるわ!機関全速前進!この海域を離脱する!」
連合は先手を仕掛けたにも関わらず、状況は防戦一方、敗戦の色さえ伺える程だった。
- 395 :マユAD:2005/10/08(土) 17:31:12 ID:???
- 島の東部、山を囲むようにできた道路。その弧を描いた道の途中の、飛び出した部分に設けられた駐車場。そこは海を、いや戦場を一望するには丁度良い場所だった。
並みの人間なら目を背けたくなるような光景を、喜々として見ている者達。アウル、スティング、ステラ。そしてセネカ。
「やってるやってる!くー!僕もいきたいなー!」
「……」
「で、強そうなやつは増えたか?」
「いーや、前と全然面子変わってねー。あー、でも一匹減ったかな?」
「お前ら…そうじゃねぇだろ?何しに来たと思ってんだ?敵の戦力・性能・連携!そーゆうのを把握するためにわざわざ今回俺達は出なかったんだ!」
ネオにはまず今後自分達の攻撃目標となるであろうミネルバの戦力を自身でしっかり分析しろ、そう言われた。敵を知り己を知れば云々、とかいう奴だ。
任務をあくまで真面目にこなそうとするセネカだが他の3人は全くやる気がない。それどころか逆にカリフォルニア基地での訓練でへたな自信をつけてしまったようだ。
「まあまあ、次は僕が全部落としてやるからさぁ!海の上ならアビスが最強に決まってんじゃん!」
「次…ステラ達…勝てる…いっぱい…練習…したから」
「それに連携なんか全然ねぇよ。そもそも3機じゃな…」
確かにスティングの言ったことは正しかった。
彼らは各々が自分の持ち場にばかり偏り過ぎて他の者のミスをフォローする余裕がない。艦にラミネート装甲がなければこうは持たないだろう。
まあ敵の数に対してたった3機しかいない、つまり隊のまとめ役がいない事を考えれば当然といえば当然か。
「それよりさ、変なの、来たよ」
アウルが指指す先には、激しい水しぶきと共に一機のMA。ようやく来た。このまま敗戦する気かとセネカは少し心配になっていたところだった。
「よし、あいつの能力を評価すんのも俺らの仕事だ。よく見とけよ。」
この戦闘の明暗を分けるその巨体は海上を滑りながら、ミネルバに高速で接近してゆく。中では通常のMSではありえない、3人の男達がそれを操縦していた。
「あーあ、やっぱ普通の奴らじゃ勝てないみたいだぜ?ヨーブ?」
「こいつが勝てばそれも変わる。そのための俺達だ。準備できてるか?ケント?」
「ああ、油圧も電圧も他も全部オールグリーン。バッチリ快調だ」
「よし、いくぞお前ら。コーディネーターのバカ共に、一発一泡吹かせてやるとしようぜ!」
- 396 :マユAD:2005/10/08(土) 17:32:24 ID:???
- 一早く危険を察知したのはユキだった。
脱出しかけている艦を守るために奮戦するルナマリアも、インパルスの挙動に異変を感じる。
「どうしたのユキ?」
「…気をつけてお義姉ちゃん、レイ!まだ何か、来てる!」
その存在はすぐにミネルバクルーにも知れた。艦橋に鳴り響く警告音。流石に艦長も驚きを隠せないようだった。
「何なの!?」
「艦に高速で接近する機影!データバンクにない機体です。…でかい!MAのようです!」
「くらえぇ!!」
突如閃光がインパルスを襲う。しかし間一髪で盾でその身を守る。
「っ!」
「大丈夫!?ユキ!?」
ルナマリアもようやく敵の存在に気付く。オルトロスを構えるが…早い。狙いの定めようがない。
「タンホイザー!ってー!」
MAに向けて火を吹くミネルバの陽電子砲。しかしMAが前傾姿勢になったかと思うと
「ケント!」
「了解。リフレクターシールド展開!」
バリアを展開してそれを防いでみせた。直撃したにも関わらず全く無傷のMA。
「ハッ!たいしたもんじゃねぇな!新型の最高攻撃力ってのは!」
そう吐き捨てると艦にMAを接近させる。
「こいつ!」
艦との間に割って入りミサイルを乱射する白いザクファントム。しかし全て目標に届く前に爆破されてゆく。敵は迎撃用砲塔も備えているようだった。
MAは突然飛び上がったかと思うとザクファントムより数倍でかいその巨体で体当たりを食らわせ、軽々とそれを吹き飛ばす。
更にそのまま空中から4筋のビームをミネルバに向かって乱射する。それに便乗して一気に攻撃を仕掛ける連合艦隊。
「か艦長!迎撃が追いつきません!」
「マズいわね…」
急速に上昇する艦の温度。このままではラミネート装甲の排熱が間に合わない。このままでは艦が…
「やめて!」
させまいと、抜刀してMAに斬りかかるインパルス。しかしハサミのようなものが展開されそれを弾く。
「もらったぁ!」
逆に左足を切り落とされてしまう。斬られた足はそのまま海に沈んでいった。
そしてMAはもう一方のハサミでインパルスの腹部を抉ろうとする。インパルスは盾を構えようとするが間に合わない。
「やられちゃう…!」
その瞬間。一筋の閃光がハサミを撃ち抜く。ガナーザクのオルトロスだった。
「ユキを離しなさい!このヤシガニ!」
更に隙を与えず連射、中心部を撃ち抜いてゆく。半壊したMAは水柱を立て沈む。
「言ったでしょ?私が援護するって!」
「お義姉ちゃん!」
- 397 :マユAD:2005/10/08(土) 17:33:22 ID:???
- 誰もが倒したと安堵しかけたそのときだった。
再び浮かび上がるMA。武装はほぼ全て潰されていたにもかかわらずエンジン部分だけはかろうじて何とか生きていた。
そのMAの中、血まみれのコクピットで唯一まだ生き残っていたのは3人のリーダー格、ブロウだった。
頭がぐらぐらする。気持ちわりぃ。やたら音が耳に響く。
にしても…三年も前からだ。三年も前から俺達はチームを組んでコイツを、ザムザザーを乗りこなすためだけに訓練に訓練を重ねてきたのに。
初めて会った時は3人共めちゃめちゃ仲悪くて他のチームと比べて成績もダントツ悪かった俺達。
けど日を重ねる毎にそれもよくなってきて、仕舞いにはトップになって結局コイツのパイロットに選ばれた俺達。
この戦争を絶対生き抜いて世界を変えてみせようと研究所で互いに誓った俺達。
そんな俺達がようやく日の目を見ることが出来たのが今日、今さっき。
なのに…たった1日、それもたった1時間たらずでゲームセット、か。それも量産予定の雑魚野郎にやられて、だ。ちくしょう。
負けたんだ。俺達は。今更ながら実感出来る。ナチュラルはやっぱどんなに頑張ってもコーディネーターには…。親父が死んだのは事故じゃなかったんだな。軍なんか入らなきゃよかった。
他の2人は…呑気に居眠りこいてやがる。まったくなんてざまだ。ダサすぎてこっちも死にたくなっちまう。だが俺達は…ただでは死なない。それが、エクテンデット。
「おおおぉぉぉ!!」
吠えるブロウと共に甲板に上っていた赤いザクに向け突込んでゆくザムザザー、そして最後に残った右手のクローで強引に赤いザクを捕らえ、離さない。
「ちぃ!引きずり込む気か!」
「お義姉ちゃん!」
ユキの心に不快な感情が沸き上がる。
…また?
またなの?守られて何もできない私。守るつもりが守られる私。取り残される私。
…いやだ。もう何も…失いたくない
ユキの中で何かが、弾ける。
「いやあぁぁぁ!」
盾を投げ捨てビームサーベルを抜く。ニ刀を敵に向けて構え、通常では制御仕切れない速さで急接近する。
反撃できる武装がないザムザザー。
ちっ、結局ここまでかよ。悪いな。ヨーブ、ケント。完封負けらしいぜ、この試合。
既に鉄塊になりかけていたそれを凶の字に斬り裂くインパルス。ギリギリ着水直前で解放されたガナーザクはなんとかわすことができた。体勢を立て直すルナマリア。
「危なかったわ!ユキ!ありがとう!」
- 398 :マユAD:2005/10/08(土) 17:34:30 ID:???
- 「あああぁぁぁ!」
しかしインパルスは止まらない。敵艦隊の方まで戻って、砲撃を避けながら敵艦の塔部を全て斬り落としてゆく。MSすら逃がすことなくビームライフルで撃ち落とす。
「ユキちゃん!どうしたの!?」
通信を聞いていたメイリンも様子がおかしいと心配になりユキに声をかけるが応答しない。レイも通信を試みる。
「何をやっている!?ユキ!艦もルナマリアも無事だ!これ以上戦う必要はない!戻れ!」
「まだ!まだなの!!守らなきゃいけないの!私は!私はぁ!!」
沈みかけながらも逃げようとする艦に更に追い打ちをかけようとするインパルス。だがその前に突如紅いMSが立ちはだかる。
「落ち着け!インパルスのパイロット!もう戦いは終わったんだ!大人しくミネルバに戻れ!」
聞き覚えのある声の主はアレックス・ディノだった。やはり救援は遅れたらしかった。タイミングとしては良かったようだが。
「いやよ!私はまだ!」
戦える。ユキがそう言おうとした矢先、インパルスは色合いを失い黒に変色する。VPS装甲は切れたのだ。ユキも冷静さを取り戻す。
「……」
互いの間にしばらく沈黙が流れる。
「…ごめんなさい…」
先にユキがそう謝ってインパルスはミネルバに戻っていった。敵が引き上げるのを見届け、アレックスもまた戦場を後にする。
「あーあ、ボロ負けだったね!」
「お前はあれだけ見てそれ一言かよ」
「また一匹増えたな…厄介なことになりそうだ…」
ミネルバの離脱を見送り、セネカ達も帰りの空港に向かって歩いているところだった。すでに黄昏の色が辺りを包んでいた。
この戦い、負けはしたが結果として情報は十分得られた。元はとれるだろう。次に自分達が勝てば。
「おーいセネカ!急げよ!」
ちょっと先で立ち止まりアウルが呼んでいる。
「だったらお前がこいつおぶれよ!」
そう言ったセネカの背後ではステラがすやすやと眠っていた。
「やーだよ!」
「ったく!何で俺はいっつもこんな役ばっか…」
「そう言うなよ!本当は嬉しいんだろ?」
「バ、バカ言うな!」
「またまた〜隠すなよ!」
いたづらっぽく笑っているアウル。スティングはこちらに呆れている。
笑いながらセネカは思った。こうやって馬鹿やってられるのも、今日が最後だと。それでも俺は逃げない。臆すことなく戦う。いつか必ずこの日々が帰ってくると信じて。
戦争はまだ始まったばかりで。彼らの平和はただ、遠ざかっていくのみだった。