- 86 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/02(金) 20:37:30
ID:???
- ちょっと前々から考えていたネタがあったので、投下してみます。
ただ他の作品と比べるとかなり違うというか、なんというか……
それで少し迷っていました。
では、予告編みたいな物から。
- 87 :1/3:2006/06/02(金) 20:38:22 ID:???
- とん、と軽い足音と共に、私は母国の土を踏んだ。
正確に言えば、空港のアスファルトだが。
「一年と半年ぶり、なんだ……」
周りを見て、改めてそう実感する。
自分の記憶にあった風景とはまるで変わってしまったオーブ。戦争で焼けて、それを再建したからか、それとも……私の思い出の中で、美化されていたからなのか。
例え後者だとしても、それは当然だろう。いきなりあんな所へ連れ去られたら誰だって……!
いや、今はそのことを考えるのはよそう。せめて今だけでも、捨ててきた過去に囚われたくはない。
失った過去を取り戻すために、私はここに来たのだから。
私の名前はマユ・アスカ。14歳で、コーディネイター。本来は学校にいかなくてはならない年齢だが、私はそういったことはしていない。
原因は二年前の6月15日、オーブと連合がついに戦うことになった日。その日まで、私には父さんも、母さんも、兄さんもいた。
だけど……
長い間、ずっといなかった国。どうなっているか知ることさえ難しかった国。見慣れない風景も多く、まるで異国のよう。もっとも、一年半という時間の間に私が体験したことを考えれば、平和になったこの国で私が異分子となるのは当然かも知れなかった。
そして、私に帰るところが無いのも……自然。
住んでいた家には、違う家族が住んでいた。
役所では、父さんと母さんの遺体だけが確認されていた。
戦争中の混乱で資料が散逸し、兄さんの足取りは全く掴めなかった。
もう、宛てもない。
ただ何かに期待して……現実から逃れようとするために歩いた。希望にすがるために歩いた。そうして、そこにたどり着いた。
「……慰霊碑」
思わず、周りを見渡す。
……私は、ここを知っている。忘れるはずが無い。例えこんな風に、傷痕を綺麗に繕っても、あの荒れきった山道は忘れない。
ここは、私が最後に、家族と一緒にいた場所だった。
- 88 :2/3:2006/06/02(金) 20:42:12 ID:???
- ……蒼い翼の天使のようなモビルスーツが、砲を構えている。
それが、私がオーブで最後に見たものだった。そのあと起きた爆発で、私は
意識を失っていた。……それでも、私は大した後遺症もなく生きていたのだが。
今思えば、それが幸運だったか、不幸だったか判別はつかない。その後の生
活は、それまでの物と大きく変わってしまった。私の身柄が、「サーカス」と呼ば
れる組織に引き取られたからだ。
「サーカス」とは、遺伝子の操作に失敗したコーディネイターの捨て子を貰い
うけ、兵士として育て上げる組織だ。最終的には、企業などに私兵として売り
渡す。私が「サーカス」に拾われたのは、技術の発達で遺伝子操作の失敗が
減ったこと、モビルスーツの登場で更にコーディネイターの兵士の必要性が
高まったことで、需要と供給がアンバランスになり、戦争によって孤児となった
コーディネイターも貰い受けるようになったかららしい。
「サーカス」を抜ける方法も存在する。まず、「的」となるという方法。一人で
「サーカス」のメンバー五人を同時に相手し、勝利したら「サーカス」を正式に
抜けられるというものだ。当然、そんな事ができる者がそうそう出るわけでも
ない。知っている限り、これで抜けられた人物はただ一人だけだ。
これも幸運か不幸か分からないが、私には才能があったようだ。たった
一年半で「サーカス」にいる人物の平均レベルぐらいにはなんとかたどり
着けた。しかし、それでも五人同時に戦って勝てるわけがない。となると
抜ける手段はただ一つ、脱走することだ。「サーカス」の構造は先に上げた
供給不足などで崩れてきていたのか、なんとか脱走に成功した。
それでも、自分が元の生活に戻れるとは思えなかった。脱走者を増やさ
ないため、組織の構造を保つために、みせしめとして殺すために私には
追っ手が来ているだろう。それに何より……私はもう、何人も人を殺して
いるのだから。
……そうと分かっていても、ただ確認したかった。実は家族が生きている
という幻想を持ちたかった。
だけど、そこに慰霊碑はあった。
ここで一つの惨劇が起き、一組の家族が死んだと示すように。
そう――私の幻想に、とどめを刺すように。
「…………っ!」
思わず、涙が出る。
「サーカス」で生活する中で、友達になった子もいる。その子を裏切ってまで、
自分の命を懸けてまで、まともな人生を送れないことも分かっていてまで、ここ
へ戻ってきたのに……!
「くっ……」
涙を拭って、足を遠ざける。
役所でアスカ家について調査したことは、すぐに追っ手に勘付かれるかも
知れない。この国に長居は無用だ。行く宛てもないし、そもそもどう生きれば
いいか分からない。だけど、むざむざ死ぬ気にもなれない。なら、早くこの国を離れなくてはいけない……。
- 89 :3/3:2006/06/02(金) 20:43:33 ID:???
- こうして私は、何も取り戻せないままあちこちを転々とすることになる。
アストレイ
「王道ではない」
そして私は皮肉にも戦乱の中で……母国で愛用されているモビルスーツの名、
そのものの生活を送ることになっていった。
機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ASTRAY M
- 90 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/02(金) 20:46:11
ID:???
- 要するに、マユ版アストレイです。
とはいえ、デスティニーアストレイを読んでいないと分からない作品にするつもりはありません。
できるだけ本編のサブキャラを使って書いていきたいと思います。
後、二つ目改行ミスって字数がバラバラになりました……次はちゃんとします。
では。
- 123 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:26:06
ID:???
- 戦争は終わった。今は平和だ。戦いなんて遠い彼方。
それが一般的な認識であり、普通の人はそう考えている。
だが、そう考えていない人がいるから――傭兵に仕事が来る。
ガンダムSEED DESTINY ASTRAY M 第一話 「残党」
コンソールを叩いて、レーダーを呼び出す。一通り確認した後、私は呟いた。
「……敵影なし。機体状況オールグリーン」
映っているのは、護衛対象の大型車両と殺風景な冬の荒野だけ。今のところ任務遂行に
問題はない。
私は今、GAT-01「ストライクダガー」に乗っている。場所はヨーロッパの人里離れた土地。
依頼は護衛任務。補給物資を届けて欲しいというものだ。軍からの依頼ではない以上、
依頼人はテロリストの類だろう。
この依頼を受けたのは、姿を晒さずに請けることができたため。傭兵として生きるうえ
で、私の年齢は大きな足かせとなる。弱冠14歳の無名の傭兵に依頼をする人はそうそう
いないだろう。「サーカス」出身だということを使う手もあるが、足がつくのは避けたい。
一度契約してしまえば後はこちらのものだ。文句を言われようと陰口を叩かれようと、依
頼を遂行すればいい。
幸い今までは何の障害も無く進んでこれた。確か予定では、ここで依頼者が護衛を追加、
ここからの道案内をしてくれるはずだが……
と、ここでレーダーに反応。黒塗りされたジンがモニターに映る。同時に通信が届いた。
「こちらサトー。依頼した傭兵と物資で間違いないか?」
サトーと名乗る男はいかにも歴戦の戦士という感じのいかつい風貌の男だった。依頼主
が言っていた護衛で間違いない。パイロットスーツからすると、ザフト脱走兵だろう。
「ええ。今のところ、物資に損傷は無いよ」
「ん……? 子供、なのか?」
私の声に相手は驚いたようだ。……当然の反応といえば、そうだろう。
「だから何? 今更契約破棄とは言わないよね?」
「……まぁ、よかろう。実力があるのなら構わんが、それにしても……」
「なに?」
「気にするな。独り言だ」
サトーはそう言い捨てて、来た方向へジンを歩かせだした。ついてこい、というわけだ。
少し車両を先行させてから、私は出発した。サトーが前面を守り、後ろは私が守るという
布陣をとるためだ。
- 124 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:27:29
ID:???
- しばらく進んだが、依然敵影なし。しかし風景は少しずつ変わりつつある。平地だった
地形が段々と傾斜がつき始めた。サトーの話によると、山の上に廃墟と化した町があり、
そこに物資を運ぶのだという。
「……止まれ」
サトーからの通信が入る。どうやら異変に感づいたらしいが……私には普通の山道にし
か見えない。レーダーには敵は映っていないし、MSの足跡やキャタピラの跡も無い。
「敵影や、それらしい兆候はないけど?」
「空からはそうは見えてはおらん。ディンから通信が来た。敵機を発見したようだ」
「え? ディンなんてどこに……」
「ワタリガラスだ、気づかれずに敵機を探知できる。車両は目的地へ先行させて、我らは
敵機を撃退する。よいな?」
「……了解」
ワタリガラス――おそらく、ディンレイブンのことだろう。この機体は少しだけしか量
産されていないはず、なぜこんな残党軍が持っているのか。どうやら相当な人物が背後に
いるようだ。案外、依頼人を辿っていけばとんでもない人物にぶつかるのかもしれない。
ともかく、今は任務だ。ストライクダガーにバズーカ(減衰率の関係上、大気圏内では
ビームライフルの威力は落ちる。電力も食うので、私は実弾を好む)を構えさせながらサ
トーのジンと共に来た道を戻る。大して歩かないうちに、レーダーが警告を出した。
「砲撃っ!?」
咄嗟にダガーを跳ばせた。今までいた地点に、レールガンが着弾する。私より早く避け
ていたサトーが、敵機を見て呟いた。
「……ふん、ナチュラル共め。まだあのような物を使っているか」
その言葉に釣られて見た先には……赤茶色に塗られたダガー。「サーカス」時代、私もあ
れに乗ったことがある。GAT-01D「ロングダガー」。コーディネイターと同等かそれ以上
の能力を有するパイロット向けに開発された高性能機。もちろん、ナチュラスにそんなパ
イロットはそうそういない。連合はこの機体を主としてソキウス――戦うために作られた
コーディネイターに配備したという経歴がある。サトーが憤慨するのも当然だろう。しか
し反乱などに対する不安から、ソキウスは全て処分されたと聞いたが……。
「……どのみち、強敵には違いないか」
少なくともロングダガーを扱えるという時点で、相当なレベルのパイロットである事に
間違いない。それに、相手の素性なんて、傭兵の私には関係の無いことだ。
「散るぞ。敵はフォルステラを装備している以上、固まっていても利は無い」
「ええ」
- 125 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:28:46
ID:???
- サトーの指示を受け、私は左へダガーを走らせる。サトーのジンは右だ。同時に、二機
とも手持ちの武器でロングダガーへ攻撃をかけた。しかし……
「アイツ……速い!?」
ロングダガーは大きな推力を持つバーニアを持つことで、その機体重量にも拘らず高い
機動性を誇る。だから、速いのは当然かつ普通のこと。だけど、あれはそういうレベルじ
ゃない。パイロットの判断と反応が的確で速い。
機銃とバズーカの弾幕を避けながら、ロングダガーはリニアキャノンとミサイル、そし
てビームライフルを撃ちこんでくる。その狙いは的確だ。その上、たった一機なのにこち
らの火力を上回っている。……なら。
「勝ち目があるのは……接近戦!」
リニアキャノンの砲がこちらを向くと同時に、ストライダガーを前へ跳ばせた。リニア
キャノンは音速より速い。そんな武器を避けるには、砲の向きで弾道を予測するしかない。
機体の下をリニアキャノンが通り過ぎると同時に、ミサイルが飛来する。弾速の違いを利
用した時間差攻撃だ。イーゲルシュテルンで素早く撃ち落としながら着地。ビームライフ
ルはジンへ向けて発射していたはず、武器を再発射される前に接近できる……!
「愚か者が……退けっ!」
「……えっ!?」
サトーからの警告。そしてモニターに映っているのは、ロングダガーのシールド。
……まさか、投げた!?
シールドは質量がある。だから、直撃させればバランスは崩せる。しかし、それ以上に
防御力を失うというデメリットが大きいから、普通はシールドを投げるなんて事はしない。
――だから、奇襲として成り立った。
シールドはコックピットに命中し、私は激しく揺さぶられた。バランスを保てなかった
ストライクダガーは転倒する。意識が一瞬飛びかけながらもなんとか持ち直し、モニター
に目を向けた。映っているのは、こちらを向いているリニアキャノンの砲。
「ふん、手間を焼かせる!」
思わず覚悟を決めた瞬間、脇からサトーのジンが躍り出ていた。リニアキャノンにシー
ルドごと左腕が吹き飛ばされてなお、ジンは真正面からロングダガーへ突進する。その右
手には既に重斬刀が握られていた。……いくらなんでも無謀だ。
「ちょっとっ!?」
「貴様はそこで好機を待て!」
そう通信を返すと同時に、サトーのジンは跳躍していた。視界の外へ消える物を、目で
追ってしまうのは人間心理として当然だ。先ほどまでロックを合わせていた物なら尚更。
ロングダガーのゴーグルカメラが上を向く……
- 126 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:30:11
ID:???
- 「……そういうわけね!」
サトーの意図……囮になるという考えを理解した私はダガーを起き上がらせるのももど
かしく、倒れたままバズーカを撃った。狙った通り、弾は頭部……フォルステラに守られ
ていない弱点に命中する。メインカメラが破壊され、ロングダガーの動きが途端に悪くな
った。同時にサトーのジンは軌道を変え、重斬刀を突き出しながら突っ込んでいく。だが
その瞬間、ロングダガーが光を放った。
「きゃっ!」
「閃光弾か!」
許容量以上の光に、一瞬モニターがホワイトアウトする。機能が回復した時、残ってい
たのは廃棄されたフォルステラだけだ。……要するに、逃げられたらしい。
「サトーさん、だった? 一つ聞きたいんだけど」
護衛任務は完了した。連合の機体と交戦してしまった以上、おそらくザフトの脱走兵で
あろう彼らは他にもしなくてはならない事ができたのだろうが、それは私の任務じゃない。
帰還する前に、私は彼に一つ質問をした。
「……何だ」
「なんで私を庇ったの? あの状況下なら、私を囮にして接近戦を仕掛けた方が成功率は
高いよ」
「ふん。そうしてほしかったとでも?」
「別に。でも、傭兵ってそうされてもおかしくない立場でしょ?」
大した感慨もなく、私は言った。
一般的には傭兵は碌な扱いをされない。あの有名な傭兵部隊・サーペントテールも、そ
の名の由来はそういった傭兵の扱いからだ。そんな傭兵をかばう、なんて行動をする人間
は滅多にいない。
しばらく黙り込んだ後、サトーはゆっくりと話しだした。
「黄道連合、とは知っているか?」
「?」
「ザフトの前身と言える組織だ。俺はその組織で、パトリック・ザラの警護を担当していた。
……我が戦友、クリスティンと共にな」
サトーの話すところによると、クリスティンは昔からずっと縁があった存在らしい。二人は
共にあらゆる任務を達成していき、黄道同盟がザフトという名に変わってもその縁は続いた。
「だが……奴は死んだ。ブルーコスモスのテロで俺をかばってな。
死に際に頼まれたのだよ、家族を頼むと。俺はそれを了承した。……この写真だ」
- 127 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:31:31
ID:???
- サトーは一枚の写真を取り出して見せた。気のよさそうな男と、女の人が写っている。
「これには写っていないが、奴には娘がいてな。……貴様に似ていた」
「……その人たちは、今どこに?」
「死んだ。『血のバレンタイン』でな」
「……」
沈黙が満ちる。しばらくして、感情を抑えたような声でサトーは言った。
「俺は連合の奴らなどとの和平を認めん。あのような手段で民間人を殺す奴らとはな。
この身が尽きるまで戦う……誓いを守れなかった俺が、奴の魂を慰める方法など
他にあるまい」
例え抑えていても、その声からはにじみ出る物がはっきりと感じられた。
そして……最後に向き直って、サトーは別れの挨拶を言った。
「さらばだ、幼き傭兵よ。俺のつまらんエゴだが……貴様が死なん事を祈る」
とある海に面した豪邸。そこでは、一人の女がモニターに向かっていた。
「……驚いた。彼女が撤退させられるなんてね」
そう呟く視線の先には、金髪の少女の画像。名前は「ステラ・ルーシェ」とある。
言葉とは裏腹に、その女の表情には笑みがあった。
「脱走兵はともかく、問題は傭兵の方。ふふ、サーカスにいた頃から見込みがあったそ
うだものね、彼女。手駒として使えば、意外と成長してくれるかも……」
そうして、彼女は電話を取り上げた。一言二言伝えただけで、相手は彼女が誰かすぐ
理解する。
「ええ、確か人手が必要だったわね? 傭兵を雇わせなさい。名前? マユ・アスカよ。
私の見込みに狂いはないわ。任せなさい」
――彼女の名はマティス。
地球連合軍特殊情報部隊を率いる身でありながら、独自の信念に基づいて動く女。
彼女の軌跡は、マユの軌跡に大きな影響を与えていく――
- 128 :通常の名無しさんの3倍:2006/06/06(火) 19:35:03
ID:???
- 投下終了。
こんな感じで本編の脇キャラを使って書いていくことになると思います。
ただ、イワンとかマーレはこのスレでも出てるからメインで使うかも……
アストレイ読んでいない人は、マティスについて「誰?」と思うかもしれませんが、
偉くて何か企んでる嫌な女という認識で結構です。