334 :1/9:2006/07/30(日) 00:15:10 ID:???
 オーブは、私の故郷だ。たとえもう家族がいなくても。
 できれば、またあそこに戻って、のんびり海を眺めたり紅葉を見たりしたい。
 でも、闇に生きる自分にはその自由はない。

SEED DESTINY ASTRAY M 第五話 「自由」

 ドレッドノートに敗北してから半月後。
 私のガンダムは改修を施され、私もきっちり怪我が治っていた。もっとも、今度からは
生体CPUがガンダムに乗るらしい。元々私があれに乗ったのはその生体CPUが調子を
崩したから、要するに代役であった以上当然の結果。ちょっと名残惜しいが、仕方ない。
 今回私が来たのはとある山地だ。なんでもガルナハンに住んでいるゲリラに武器を売る
らしい。どうやらユーラシアを混乱させるマティスの策略はまだまだ続いているみたいだ。
森の中、トレーラーを走らせながら待ち合わせのポイントへ向かう。
 木がまったく生い茂っていない山の麓の、今走っている森がちょっと切れる空き地。
そこで案内役は待っている。マティスの情報によると連合が目を付け出しているらしいし、
さっさと終わらせるべきだろう。スピードを上げて数分後、待ち合わせ場所が見えた。
そこにいたのは……

「……子供?」

 待ち合わせ場所にいたのは、茶髪のポーニテールを持つ女の子だった。見る限り、私と
大して年齢は変わらなさそうだ。もっとも、相手も同じ感想を持ったらしいけど。
 そう判断した理由は簡単だ。トレーラーから降りた私に、彼女はこう言ったから。

「……子供?」

 いきなりの反応。相手には悪いとは思いつつ、私はくすりと笑っていた。当然、相手は
咎めてくる。

「お前、なんで笑ってるんだよ!」
「うん、ちょっとね……」

 なにも、リアクションまで同じじゃなくていいんじゃない?
 この言葉は、心の中にしまっておいた。きっと相手は怒るだろう。今のちょっとだけの
やり取りでも、相手がストレートに感情表現をするタイプだというのは十分に分かった。
もし私と同じ年齢だとすれば、若気の至りとか何とかと言えるのかもしれないけれど。
 ――若気の至り、か。

「なんだよ? ボーッとして?」
「ああ、なんでもないよ」

 頭の中の考えを振り払い、普通の表情で会話する。彼女には関係ないことだ。

「とりあえず、道案内よろしくね。えっと……」
「コニールだ。コニール・アルメタ」
「そう。私はマユ・アスカ。マユでいいよ」

 相変わらずどこかつっけんどんな彼女の態度を気にせずに、私は言った。

335 :2/9:2006/07/30(日) 00:16:13 ID:???
 コニールの案内に従いながら、山道を走らせる。
 運んでいる品物の関係で、トレーラーは相当大型な物を使っている。それに連合に目を
付けられていることもあり、自然と走る道は地元の人間しか知らない狭い道に限定される。
おかげで操縦しにくいことこの上無い。
 ……もっとも、それを分かるからコニールもこんな事を聞いたんだろう。

「お前、ずいぶんスイスイ運転してるな。
 しょっちゅう通ってる私だってこうはできないぞ?」
「うん、私は二年前から色々やってるからね。モビルスーツの操縦ももう慣れっこだし」
「……私も二年間色々とやってたけど、モビルスーツの操縦なんてできないぞ」

 そういうコニールの顔はムッとしたものになっている。……なるほど、そういうことか。

「同じぐらいの歳で、同じ性別の子がこうも上手いと気に障る?」
「べ、別にそういうことじゃない!」

 さらりと言ってのけた私の言葉を、コニールは大声で否定した。ミエミエだ。ま、子供
らしくていいことなんだろう。……私と違って。
 ためらいながらも、コニールは続けた。

「あのさ……お前、二年間何やってたんだ?」
「? なんでそんなこと聞くの?」
「それを参考にすれば、少しはお前みたいになれるかな、って思って……」

 多少恥ずかしそうにそっぽを向いているが、コニールの声は真剣なものだ。
 気になって、少しだけ聞いてみた。

「なんで、私みたいになりたいわけ?」
「街を守りたいんだ」

 街を守りたい、か。
 事前に調べた情報だと、ガルナハンは確か陸路の中では比較的重要なルートであり、
連合がたびたび制圧しようと軍事行動を行っていた、という話だった。
 もっともあくまで「比較的」である以上、ゲリラの抵抗を完全に潰してまで得る必要が
あるものではないのだが。逆に言えば、ゲリラとしてはある程度の抵抗をして他のルート
を連合に選ばせることが必要になる。街を守るために。

「もう、ただ何もせずに見ているだけなのは嫌なんだよ、私は」

 そうコニールは続ける。
 相手は正規軍だ。被害が出るのは当たり前のことだろう。誰かが死んだり、街が荒らされたりして、守りたいと思って立ち上がる。よくある話だ。
 ――私だって、オーブをそうしたいと思った事はあった。
 ここまで来てやっと、私は答えた。

「私のやってた事は普通じゃない。多分、真似は無理だと思うけど」
「なんだよそれ、自慢か? 私だってかなり頑張って訓練とかやってたんだ。
 どんな事やってたんだよ、お前」

336 :3/9:2006/07/30(日) 00:17:07 ID:???
「そうね……
 目が覚めたら誘拐されてて、監禁されて兵器として訓練されたってぐらいかな」

 さらりと言った私の言葉に、コニールは絶句している。当たり前の反応だろう。それを
無視して続けた。

「そういうわけだから、私みたいになろうと思わない方がいいよ」

 そうして。ずいぶん私はつまらない事を言ったな、と思った。まあ理由は簡単だろう。
同じ子供だから。そして彼女は私の持っている物を欲しがっていて……私は彼女の持って
いる物を持っていない。それは……

「おい、あれ……なんだ?」
「え?」

 コニールの言葉に、とっさに現実に意識を戻して前を見る。
 そこにいたのは……

「まずいっ!」
「う、うわっ!」

 とっさにハンドルを切った。コニールが悲鳴を上げたが、そんなことに構っている暇は
無い。その証拠に、脇に砲弾が着弾する。
 そこにいたのは、リニアガン・タンク。文字通りリニアガンを装備している戦車。急に
ハンドルを切ったトレーラーは道を外れ、斜面と言うには角度が付きすぎている坂を滑っていく。

「おい、こっちは道じゃ……!」
「言われなくても分かってる!」

 ブレーキとハンドルを駆使して、なんとかトレーラーを安定させる。横転でもしたら、
確実に大怪我間違いなしだ。必死の操縦のおかげで、トレーラーは無事坂を下りきった。

「ふう……ったく、なんで戦車があんなとこに!」
「どうやらバレてたみたいだね。わざわざ戦車を持ち出す辺り、大掛かりね」

 もっともモビルスーツがある今戦車の必要性なんてないから、モビルスーツをケチった
結果戦車を持ち出すことになったのかもしれないけど。
 とりあえず今はそんなことより打開策だ。いくらなんでも来ている戦車が一つだけ、と
いうのはないだろう。ガルナハンへの輸送を妨害する以上、ルートを封鎖する必要がある。
そして、まさか封鎖を一台だけで行うはずはない。どうする?
 考え込む私に、コニールが案を出した。

「積荷を使えばいいんじゃないか? 操縦できるだろ」
「できるけど……一度降ろしたらトレーラーに積みなおすのは難しいでしょ。
 連合は空も監視してるだろうから、そのまま街まで飛んでいく訳にもいかないし……」
「大丈夫。考えがある」


337 :4/9:2006/07/30(日) 00:17:54 ID:???
 積荷のコックピットの中で、OSを起動する。トレーラーの荷台にかけてあった覆いは
既に外されているから、積荷のグレーのボディ――制式スカイグラスパーの姿はむき出し
だ。わざわざ大きなトレーラーを運転していたのは、これを輸送するためだった。
 とはいえ、仮にも商品を使っていいのかという気もするし、さっき言ったように色々と
輸送の点で問題があるのだけど。

「ま、コニールを信じるしかないか」

 少なくとも、トレーラーや生身で戦車と戦うのは無理だ。バズーカやパンツァー・ファ
ーストでもあれば別になるかもしれないけど。一度見られた以上、うまくやり過ごすのも
難しい。こんな山道なら尚更だ。
 トレーラーからスカイグラスパーを下ろして、離陸。レーダーを確認する。リニアガン・
タンクが二台。まあ、ゲリラの輸送を断つには妥当な戦力かもしれない。

「私には、三倍は必要だけどね」

 呟いて、機体をさっき撃ってきた一台へ向ける。リニアガン・タンクはザウートよりも
機動性があるけど、比較対象がザウートじゃ大したことはない。こちらに砲を向ける前に
ビームカノンを撃ち込んで撃破。
 相手は道を封鎖するため、ある程度密着させていたのが仇となった。撃破され爆発した
一台の煙や熱が、もう一台の視界を遮っている。その隙を突いて、撃破。あっけない。

「……もっとも、大変なのはここからか」

 こんな戦闘をすれば、連合が気付くに決まってる。下手をすると、新型ストライカー・
ジェットストライカー付きのダガーLさえ増援に来かねない。コニールはそこまで考えて
提案したのか……そうじゃないと困る。
 ともかく彼女の考えを聞くため、スカイグラスパーを一旦着陸させることに決めた。


338 :5/9:2006/07/30(日) 00:18:44 ID:???
 コニールの考えは単純明快だった。戦闘機ぐらいなら通れる、地元の人間しか知らない
坑道があるから、スカイグラスパーでそこを通って街まで行こうというもの。元々、トレ
ーラーはスカイグラスパーのおまけとして売る予定の物で、私は民間の便で帰還する予定
だったからここに捨てていくことは私には問題は無い。ゲリラにはあるかもしれないけど。
 幸いスカイグラスパー以外の品を入れているコンテナはストライカーパックと同じプラ
グが取り付けられており、スカイグラスパーに取り付けられる(案外マティスはここまで
見越していたのかもしれない)。その点でも不都合は無い。
 ただ、二人でスカイグラスパーに乗るとなると問題がある。ただでさえこういった物に
搭乗した事が無いコニールがノーマルスーツもベルトも無しで乗るのは危険だ。その事を
彼女に言うと、返ってきたのはムッとした表情と言葉だった。

「……お前は乗ったけど平気そうじゃないか」
「慣れてるから」

 コニールはその答えに不満そうだったけど、とりあえず私の説明――無闇に動かない、
ベルトを全力で掴んでいる、口を開かない、吐き気がしたら我慢しない(窒息する危険が
ある)、など――を大人しく聞いていた。もっとも彼女の性格上、吐きそうになっても絶対
我慢しそうな気もする。
 一通りの説明とコンテナの取り付けを終わらせ、スカイグラスパーに二人で乗り込む。
離陸する前に、あらかじめその坑道の入り口をデータ上でマーキングして貰った。多分、
離陸した後は一々ルートを指示する余裕はコニールには無いと思ったからだ。理由は簡単。
連合の増援が来る前にここから離脱するため、とばすから。
 コニールには悪いがいつもの速さで離陸、飛行する。できるだけ負担が掛からない様に
はするが、それも速さを殺さない程度でだ。ちらりと横を見ると、彼女の額には多少汗が
浮かんでいた。それでも表情には出していないだけ、彼女は頑張っている方だろう。
 そのまま飛ぶこと、数十分。バッテリーや推進剤を半分ほど消費した所で、レーダーに
二つ反応が現れた。

「おい、あれ……」
「分かってる。あんまり喋ると気分悪くなるよ」

 コニールの声を脇で止めた。いたのはよりによってジェットストライカー装備のダガー
L二機。しかも偶然か知っているのか、坑道のある場所の前にいる。少し迷って、決めた。

「いい、コニール。とりあえず一気に突っ込んで急襲して、駄目だったらうまくあの坑道
 から引き離すっていう作戦を取るけど……今まで以上にきつくなるから、私の言った事
 をちゃんと守ること」

 コニールは無言で頷いた。さっき喋って多少気分が悪くなってるんだろう。……多分、
もっと気分が悪くなると思うけど。
 スカイグラスパーを一気に加速させ、ダガーLへ突っ込ませる。推進剤には目的地まで
の距離を考えれば多少余裕があるけど、それでもあまり手間取ってしまえば推進剤が足り
なくなる可能性もある。それを防ぐためにも、短期決戦で決まるのが一番いい。
 ダガーLがジェットストライカーの空対空ミサイルを撃ってくるが、それを回避しつつ
接近。ビームカノンやミサイルを発射すると同時に急転換、離脱する。要するに、私は
一撃離脱戦法を取ったのだ。もっともこれはパイロットに負担がかかるし、ベルトさえ
締めてない(締められない)コニールは頭を打ちかねないけど……モビルスーツに
戦闘機が勝つにはこれぐらいしかない。

339 :6/9:2006/07/30(日) 00:19:33 ID:???
 しかし、ダガーLは二機ともあっさりと回避し反撃してくる。その動きは、エールストラ
イカー装備機体のように滑空なんてレベルじゃない。思わず舌打ちしていた。予想以上に
ジェットストライカーは優秀らしい。
 ともかく、今度は相手を引きつける為にその場から離れていく。ダガーLが何の躊躇い
も見せずに追ってくるところを見ると、坑道の存在には気付いていないようだ。もっとも、
上手くおびき出してもあのストライカーの性能じゃ振り払うのに手間がかかりそうだ。

「……コニール、しっかり掴まってて」
「?」

 あらかじめ警告を出して、そのまま高度を少し上げつつ飛行する。射撃に影響するほど
ではないため、相手は高度を上げる気配はない。だが、こっちがダガーLの斜め上に位置
しているのは確か。だから……

「う、うわっ!」
「……っつ!」

 急停止&急上昇すれば――相手は勝手に下を通り抜けていく!もちろん、その際にGは
かなりかかる。コニールが床に転んだけど、計器類にぶつかったりもしてないし、受身も
何とか取れてる。それで十分だ。後は反転して坑道へ潜り込むだけ。
 だけど……予想外なことに、ダガーLは下を通り抜けるどころか、急停止していた。

「読まれてた……それとも性能差!?」

 こちらを追って急上昇してしてくるのは時間の問題だ。かといって反転なんてのは更に
無理だ。相手に何の策も無く突っ込んでいくのは、ただのバカでしかない。つまり、また
今までと同じ方向へ飛ぶしかない。

――どうする?

 ダガーLが止まれたのが機体性能にせよ操縦者の技術にせよ、厄介な事に変わりは無い。
時間を掛ければ推進剤の余裕も無くなっていまう、だけどこいつらをすぐに振り払う手段
なんて思いつかない……!
 思わず焦りが顔に浮かぶ。そんな時だった。

「おい、マユ!」

 突然コニールが声を上げた。ただ、唇でも切ったらしく血が滲んでいる。

「ちょっと、口閉じてって……」
「……そんな場合じゃないんだろ。あそこ、入れ」

 そういってコニールが指差したのは、私達が目指している坑道とは違う坑道。とはいえ
結構大きな坑道で、ダガーLも入れない訳じゃなさそうだけど……
 そんな疑問に答えるかのように、コニールは多少辛そうな顔になりつつも続けた。

「あの中は入り組んでて迷路みたいになってるから、連合にはあそこから入ってどこから
 出るか分からない。だから、入ったら途中で坑道を崩して、追えない様にすればいい」

340 :7/9:2006/07/30(日) 00:20:53 ID:???
「こっちも崩した坑道に巻き込まれる可能性があるよ」

 思わずちょっと軽口を叩いたが、コニールが反論しようとするのを見て慌てて続けた。

「口を開かないで、そろそろ辛いでしょ。分かってるよ、上手くやってみせる」

 言って、スカイグラスパーを坑道へ潜り込ませる。かなり暗いが、飛べない訳でも無い。
ダガーLは一瞬躊躇したのか、二機ともいったん止まってから坑道内へ入ってきた。

「コニール、どの辺で崩せばいいか分かる?」

 返ってきたのは頷き。つまり、肯定だ。

「分かった。指示頼むよ」

 言って操縦に集中する。さすがにこっちも余裕は無い。洞窟の崩落を恐れたかダガーL
は攻撃を控えてはいるものの、トーデスシュレッケン(イーゲルシュテルンの後継火器)
だけは撃ってきている。この火器の口径は12.5mm、洞窟の崩落が起こる可能性も低い代わり
スカイグラスパーでも当たり所が悪くない限り少しは耐えられる。だけど、さすがに貰い
続ければ危険だ。できるだけ避けるしかない。
 狭い坑道の中で、持っている技能全てを使って弾を避ける。とはいっても、こんな狭い
坑道で避け続けるのはいい加減限界がある。数発を貰った底部に警告が出て、思わず私は
声を出していた。

「コニール、まだ!?」
「もう少し……」

 その瞬間ダガーLが、とどめと言わんばかりにトーデスシュレッケンを連射してきた。
思わず歯をかみ締めて――一気に地面スレスレへ降下する。トーデスシュレッケンは上を
通り過ぎていき、同時に視界にいくつもの坑道が集中している広場が現れた。

「広場の前に入る崩せ! ルートは左にある坑道だ!」
「うんっ!」

 素早く全火器を開放する。全てが坑道の天井に当たると同時に、岩に亀裂が入った。
天井が崩れ、大量の岩が落ちてきたのは私達のスカイグラスパーが通り過ぎたすぐ後。
通路は完全には塞がっていないが、モビルスーツが通る余裕なんて無い。
 思わずコニールも私も、ため息を吐いていた。

341 :8/9:2006/07/30(日) 00:21:39 ID:???
 その後、私達は迷路のような坑道を出て、街のすぐ側へ繋がっている坑道へ入った。
 今までの事が嘘のように何事もなくあっさりとガルナハンへ到着、これで任務完了だ。

「よくあそこまで暗記してたよね、コニール。相当調べてたんだ」

 街へ着いて、引渡しも終わって。帰りの便を待っている間、私は言った。

「馬鹿にするなよ。言ったろ? 色々やってたってさ」

 言葉の内容とは裏腹に、コニールの顔は嬉しそうだ。口はともかく、本当に顔は素直。
 そうしてしばらく後、コニールはぽつりと言った。

「なあ、いつかまた来てくれるか?」
「え?」
「お前、本当に上手いってことがよく分かったからな。
 できれば、色々と教えてほしいんだけど……やっぱ報酬無しの依頼は駄目かな?」

 そう言うコニールの顔は、本当に期待している顔だ。多分、私を認めていて……もしか
すると、友情も持ってるかもしれない。それは嬉しいことだ。だけど。

「別に、報酬なしでも私は構わないよ?」
「本当か!? じゃあ……」
「でも……ごめん。私には……どんな依頼を受けるか決める権利は無いんだ」

 そう。今の私は、マティスの権力の中で生きているにすぎない。
 そこから抜け出そうとすれば……マティスはあらゆる手段を使って私を消そうとする。

「なぁ、私にはお前の立場が良く分からないけどさ。お前を誘拐したところから脱走とか
 できないか?」

 どうやら、彼女は私がまだ兵器として育てたところに使われていると思っているらしい。
……まあ、変わらないけど。

「逃げるのはできるよ。暮らすことも、できないことはない。
 ……でもさ、追手が私を殺そうとすれば、自然に巻き込まれる人が出ちゃうでしょ?」

 これが、私がオーブで暮らせない最大の理由。
 私は故郷を嫌ってはいない。アスハは嫌いだけど、それでもオーブは好きだ。「サーカス」
での生活は、精神的にも私の成長を強制し、落ち着いて広く物事を見られるようにした。
だから、そういった事はちゃんと分けて考えられる。そして、他の事も分かる。私はもう真っ当な生き方はできないという事が。いるだけで、周りに迷惑をかけてしまうのだから。

「だから、ここに来ることもできないんだ。私は、コニールを巻き込みたくないからね。
 ……私みたいになろうと思わない方がいいよっていうのはこういうことだよ。
 あなたは少なくとも、自分の思うとおりに、自由に力を使うことができる。
 私にはそれさえ、自由さえない……」
                     フリーダム
 ……おまけに、家族の仇の名前が「自由」なんだから、世の中はよくできている。

342 :9/9:2006/07/30(日) 00:22:38 ID:???
 そうして、ここまで来てこんな事を話している自分が嫌になった。こんな暗い話をして
……コニールに暗い表情をさせて、何になるんだろう。
 だから、無理やり明るい顔をして、冗談めかしてこういった。

「いい、コニール。
 これから色んな戦いに巻き込まれるかもしれない。大切な何かを失うかもしれない。
 けど、自分の思ったとおり、自由に力を振るって。後悔しないように、ね。
 約束だよ?」
「あ、ああ……」

 対するコニールの顔は、どんな顔をすればいいか分からないといいたげなものだった。
……それはそうだろうな。私だって、分からない。このあとどう続ければいいか。
 幸いなことに帰りの便が到着したという話が入り、私達はどう続けるべきか答えを得た。

「さようなら」と。