202 :マユif :2005/08/03(水) 02:01:47 ID:???


PHASE−14 明日への航路


現れたフリーダムに、アッシュ部隊は皆動揺する。
隊長のヨップ・フォン・アラファスもその空を駆ける翼に愕然とした。
だが、直ぐ様フリーダムに向けて砲撃を開始する。
ヤキン・ドゥーエの攻防戦で、ラクス・クラインの乗ったエターナルと行動を共にしたモビルスーツだ。
今ここで現れたとしても、不思議ではない。
フリーダムの逸話はザフト軍人なら皆知っている。
しかし、それで臆するほど自分達は弱くはない。
自分達もあの大戦を生き抜いた戦士なのだから。
地上から降るビームとミサイルの雨を掻い潜り、フリーダムは猛然とアッシュの戦闘力を奪っていった。
人命を奪わず、その戦闘力だけを奪う戦い方も変わっていない。
フリーダムのパイロットは前大戦のままということを、改めて確認するヨップ。
暗殺の対象のラクスだけではない。キラもマリューもバルトフェルドも、リストに入っていた。
「それで、自分の正義を貫いているつもりか!」
通信を繋ぎ、ヨップは声を張り上げる。
「正義と信じ、わからぬと逃げ、知らず聞かず、その果ての世界だ!地球は悲鳴を上げて、また殺し合うことになった!!
この間、ラクス・クラインは、アスラン・ザラは、カガリ・ユラ・アスハは、そしてお前は何をしていた!!」
訴えにも聞こえるその声。
「まだ苦しみたいか!」
ヨップの言葉に、キラは汗を流し、クッと唸る。
「やがていつかは平和になると、そんな甘い毒に踊らされ、
いったいどれだけの時間をこの国で安穏と過ごしてきたァッ!!」
かつてラウ・ル・クルーゼから言われた言葉に似たその叫びに、キラの心は揺れ動き、操縦を鈍らせる。
ヨップはその隙を突き、一気に接近してフリーダムに取り付くと、自爆装置を作動させた。
「各機、証拠隠滅のため機体を破棄し撤退する撤退する」
ヨップからの命令に、部下達もアッシュの自爆装置を起動させ、機体から脱出する。
機体から降り、ヨップも仲間達と合流した。
「彼女の歌は好きだかな、世界はそれほど甘くはない」
静かに漏らした呟きと共に、キラ達を襲った謎の部隊は森の中へと消えていった。

203 :マユif :2005/08/03(水) 02:04:19 ID:???
続き


アッシュが次々と爆発していき、フリーダムに取り付いたアッシュも爆散した。
PS装甲によって損傷は軽減されているが、爆発による衝撃は大きい。
キラは歯を食い縛り、必死にそれに耐えた。
その場には、フリーダムだけが残る。
ゆっくりと深呼吸をし、鼓動を落ち着かせる。
不意に、いつから乗り込んでいたのか、トリィが肩にとまり無邪気に鳴いた。
その光景にキラは微笑む。
だが、突然襲ってきた猛烈な吐気に口を覆った。
そして徐々に全身に回っていく倦怠感。
拒否反応のようなその感覚に耐えきれなくなり、キラは苦しみに蹲った。

数日後――
地球連合と遭遇することもなく、無事にカーペンタリアへ到着したミネルバ。
先の地球連合艦隊との戦闘で損傷した箇所を修理している間、各員には自由時間を与えられた。
マユとレイとルナマリアのパイロット三人は、艦長室に呼ばれる。
後で皆に通達されるが、パイロット三人には先に話しておくとタリアは言った。
その胸には、羽を模した記章がつけられている。
それに逸早く気付いたのはレイだった。
マユはなんなのかわからずルナマリアに訊く。
フェイス…議長直属の特務隊、軍部のエリート。
それに任命されたということは、何かあるのだろう。
三人は息を飲んだ。

204 :マユif :2005/08/03(水) 02:09:17 ID:???
続き2
タリアは口を開く。
ミネルバが出撃可能になり次第、ジブラルタルに向かい現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ、と。
説明のため、タリアはデスクトップに映像を流した。
酷く凄惨な映像にルナマリアは驚き、マユは両手で口を押さえた。
ユーラシア連邦の一部の地域が分離・独立を訴え、各地でゲリラ活動を起こしている。
これはその映像なのだとタリアは語る。
積極的自衛権の行使を掲げているため下手な介入はできないが、ミネルバが向かうところはそういう場所なのだ。
次に、タリアはアーサーに目配せし、何かを持ってこさせる。
デスクに置かれたのは、小さめの赤服のジャケットに、純白のミニスカートとハイソックス。
今までルナマリアやメイリン借りたぶかぶかの軍服を着ていたマユに用意された特注品だった。
タリアは言う。
カーペンタリアに着き、ここでパイロットを補充すれば、マユは降りることができる。
元々民間人のマユを何の処置もしないまま、乗せておくことも出来ない。
シンも復帰して、地上に降りることはできないが、現在宇宙で戦っているという。
マユを軍に組み込んでインパルスの正式なパイロットにしたい。
そうタリアはマユに告げた。
選択権はマユにある。
承諾するのも拒否するのもマユの自由だ。
マユは静かに口を開いた。
「頑張ります」と、力強く言う。
地球連合艦隊を撃滅した時のように、また怖い人間になってしまうかもしれない。
けれど、マユはルナマリアやレイのいる、この暖かい場所にいたいと思った……。





236 :マユif :2005/08/03(水) 23:42:51 ID:???


PHASE−15 それぞれの戦場


モルゲンレーテ、地下ドッグ。
そこには、かつての戦争で新造艦としてGATシリーズと共に開発されていたアークエンジェルが存在していた。
数日前のあの襲撃で館は破壊され、キラ達はアークエンジェルに移る。
情報は重役となったエリカ・シモンズにより改竄され、首脳陣やセイランにも知られてはいない。
フリーダムも密かに積み込まれ、アークエンジェルにはフリーダム、そしてオーブ軍の次世代機ムラサメを改修した機体が置かれていた。
キラ、ラクス、マリュー、バルトフェルド。
コジロー・マードック、アーノルド・ノイマン、ダリダ・ロラーハ・チャンドラ二世と、懐かしいクルーが集まる。
挨拶も程々に、皆ブリッジに向かおうとしていると、忙しない声がドックに響いた。
キラ達が目をやると、マーナが何やら手紙を持って近付いてくる。

――キラ、すまない。
ちゃんと一度自分で行って、話をしようと思ったんだかな。ちょっともう、動けなくなってしまった。
オーブが世界安全保障条約機構に加盟することは、もう無論知っているだろう。
そして私は今、少しの間だが休暇を取って、アスランと共に屋敷にいる。
この先、世界とその中で、オーブがどう動いていくことになるかはまだわからないが、
例えどんなに非力でも、私はオーブの代表として、すべき事をせねばならない。
今、この休んでいる間、ゆっくりとオーブのことや、世界のことを、考えていこうと思う。
皆が平和に、幸福に暮らせるような国にするために、私も頑張るから。――

237 :マユif :2005/08/03(水) 23:44:58 ID:???
続き


手紙にはそう綴られていた。
キラに代わってラクスがマーナに休暇のことを尋ねると、マーナは暗い顔をして話し始める。
ミネルバの脱出の支援するために同盟を結ぶ前とはいえ、地球連合に攻撃を加えたことを糾弾され、
カガリは現在、休暇と称してはいるが、館で軟禁のような状態になっているという。
しかしカガリはこれを利用し、情勢を静観し、一歩引いたものの見方で世界を捉えてみようと考えていた。
熱い信念と、それを貫き通したいと思う強い意志。
今もそれはある。だが、信念ばかりでは、気持ちばかりでは駄目だと、カガリは感じていた。

甲板から、海を眺める少女…ステラ。
蒼い海の色や、潮風を匂いは彼女のお気に入り。
海は好き。
ネオも好き。アウルも好き。スティングも好き。
好きが、たくさんある。
ステラは膝を立てて座り、微笑んで海を見ている。
そんなところに、スティングとアウルもやってきた。
アウルがステラに何をしているのか訊く。
ステラは、海を見るのが好きだからと、ゆっくりと答える。
アウルもステラの隣に座って、共に海をみた。
自分が奪い乗っているモビルスーツも、海に関係した名。
嫌いではないし、むしろ好きである。
それに母なる海という言い方が、口にはしないが大好きだった。

238 :マユif :2005/08/03(水) 23:47:16 ID:???
続き2
アウルも加わって二人揃って眺め始め、スティングは呆れる。
ステラを呼びにきたのに、これでは意味がない。
溜め息をつき、そのことを指摘しようと口を開くと、アウルが手で作った水鉄砲を発射する。
案の定、顔に海水がかかり、口の中は濃度の高い塩辛さに満たされた。
海水を吐き出し、アウルを睨むとスティングはアウルを追いかけ回す。
アウルは無邪気に笑い、ステラにネオが呼んでいることを告げると、スティングから逃げていった。
スティングもステラに振り返り優しい笑みを向ける。
本気で怒っていたわけではないとわかってステラは安心し、二人の後に続いて楽しげに走っていった。

三人に召集をかけたネオはというとブリッジでモニターを凝視している。
カーペンタリアから出発したミネルバ。
その熱紋反応を確認し、ネオの口元は冷笑を浮かべた。
「見付けたぜ、仔猫ちゃん」

ミネルバ、ファントムペイン、アークエンジェル、そしてカガリ。
その意味は違えど、それぞれの戦場で彼等は戦う。
何が正しいのか、自分は正しいのか、信じるものは同じか、それとも違うのか…。
その答えを見付けるため。




378 :マユif作者 :2005/08/07(日) 23:59:17 ID:???


PHASE−16 インド洋の深淵


カーペンタリアを出たミネルバはボズゴロフ級潜水艦と共にジブラルタルへ向かう。
だが、ネオはそれを突き、ミネルバを討つことを画策した。
出撃のため、格納庫に集まるスティング、アウル、ステラ。
ガイアは基地の防衛に当たるため、ネオやスティング、アウルとは戦えない。
寂しそうにするステラをスティングとアウルがなだめていると、ネオがやってきた。
ネオの顔を見て顔が明るくなるステラ。
ステラの頬を撫で、ネオは優しく諭した。
納得はしていないものの、ネオの言葉は正しいのだと素直に思いステラは頷く。
こちらを見るスティングとアウルの視線に気付いたネオは、二人の頭をポンと叩き信頼を込めた笑みを見せた。

ネオ専用カラーのウィンダム、カオス、アビス。
建設途中の対カーペンタリア前線基地に配備されたウィンダム全機も借り、一気にミネルバを攻める。
熱紋を感知したミネルバは、その数の多さに驚くが戦闘態勢に移った。
コアスプレンダーが発進し、レイのザクは甲板にて砲撃、ルナマリアのザクは別命あるまで待機となる。
合体し、フォースシルエットを装着したインパルスは、迫るウィンダムの大群とカオスに息を飲む。
インパルスを見付けたスティングは怒りが込みあげる。
アーモリーワンでの初戦、デブリ、ユニウスセブン、何度交戦しても落とせない機体。
「今日こそはお前を落として」と、叫び散らしビームを発射する。力が無いと、役立たずと、言われるのはもう嫌だ。
カオスが放ったビームを辛くも回避し、マユは焦りに顔をにじませる。
インパルスに向け八方から撃たれる撃たれるのウィンダムのビームをかわし、シールドで受ける。
トリガーを引く指が重い。
戦闘力を奪うだけ。そんな器用な戦い方は自分にはできない。
だから願うしかなかった。
死にませんように、家族の元に帰れますように、と。

379 :マユif作者 :2005/08/08(月) 00:03:46 ID:???
続き
自らが選んで進んだ道なのに、苦しい。
歯を食い縛り、重い指を引いてビームライフルを発射する。
近付いてくればビームサーベルを抜き、ウィンダムの腕部や脚部を分断していった。
しかし、その中を一機のウィンダムが駆け抜ける。ネオの乗ったウィンダムである。
ネオのウィンダムはレイのザクとミネルバを目掛けて、高速で接近していった。
「なんの因果かねぇ、白いボウズ君!」
「また…この感じ…くッ!」

ミネルバはウィンダムの接近と共に、海中からの熱源の接近を感知した。
ボズゴロフ級からの通信も併せ、熱紋照合からアビスと判明する。
タリアはルナマリアにアビスの対応を命じ、ミネルバはウィンダムの迎撃を続けた。

「アッハハハ!ごめんね〜、強くてさぁ!!」
ボズゴロフ級から出されたグーンを次々と撃破し、ミネルバへ直行するアビス。
そして、ルナマリアのザクと対峙する。
ルナマリアは水中戦の経験もなく、ザクは水中戦用の装備でもない。
焦りの色が隠せないルナマリアは、バズーカを発射し応戦する。
しかし、水の抵抗を受けたバズーカの弾道は予測するのも避けるのも簡単である。
「ハッ!そんなんでこの僕をやろうってぇ?ナメんなよ!コラァッ!!」

380 :マユif作者 :2005/08/08(月) 00:06:34 ID:???
続き2

インパルスを仕留められないスティングは、地上にいるガイアと共に挟撃するため海面に向けて降下していく。
インパルスはそれを追い、カオスにビームを撃つが、なかなか当たらない。
もう一度ビームライフルを撃とうとトリガーを引こうとした直後、機体に衝撃が襲う。
海岸から突如現れた四足歩行形態のガイアに取り付かれ、飛行したま態勢を崩し浅瀬の海面に打ち付けられた。
即座に身を起こし、態勢を立て直すインパルス。
カオスとガイアに挟み撃ちにされ、焦りが募る。
マユは片方どちらかを離すため海岸沿いのジャングルに入った。
一人の残されたせいもあってか、ステラはネオ達の役に立ちたい一心でインパルスを追う。
深い森のせいで上空から狙いが定まらなくスティングは唇を噛んだ。
自分の取った策が失敗した悔しさに舌を打つ。
互いにビームサーベルを振るうインパルスとガイア。
ガイアは攻め、インパルスは後退しながら反撃している状態だった。
次の瞬間、インパルスの背部に連続して何かが当たる。
その方向にカメラを移すと、そこには機関砲の銃座の点在していた。
カムフラージュされていた基地の存在にマユは目を疑う。
再び振り下ろされるガイアのビームサーベルを避け、距離をとるとマユは今一度その基地を見回した。
そして、彼女にまた驚きが襲う。
明らかに軍人とは思えない者達が、労働を強いられていた。
近くのフェンスには、女性や子供が必死に呼びかけている。
戦闘の際に壊れたのか、窪みが出来たフェンスの下から家族のもとへ逃げ延びる者達。
だが、それに気付いた地球連合の兵達が、容赦なくライフルを乱射した。
撃たれ、血を吹き出し、倒れ込む人々。
マユの顔は恐怖で引き釣った。

381 :マユif作者 :2005/08/08(月) 00:08:02 ID:???
続き3

レイのザクとミネルバの奮闘により、何とかネオ機以外のウィンダムを全機撃墜する。
ネオは自分の采配の甘さに苦笑を漏らした。
カオス、アビス、ガイアに撤退するようと伝える。
しかし、アウルは不満の声を上げる。
「大した成果は上げてないんだろ?」というネオの言葉に憤慨したアウルは、撤退命令を無視してボズゴロフ級に向かった。
急速に接近するアビスに反応できず、アビスはそのままボズゴロフ級に魚雷四発を放つ。
回避行動が遅れ、ボズゴロフ級は直撃を受けた。
とどめとばかりに連装砲を発射し、ボズゴロフ級を撃沈する。
アウルは勝ち誇った顔をし、撤退していった。

ネオ達は撤退し、対カーペンタリア前線基地の面々は降伏する。
落ち着きを取り戻した基地。
インパルスのモニターには、撃たれてもう微動だにしたい男性に泣きすがる家族が映っていた。
マユの手が静かに震える。
何故こんなことをするのだろう。
マユの瞳からは涙が流れ、コックピットには激しい慟哭が響いた……。

431 :マユif :2005/08/09(火) 22:08:19 ID:???


PHASE−17 戦士と、家族と


モルゲンレーテ地下ドッグ。
ブリッジにてチェックを進める各員。
カガリが情勢を見据えようとしている今、自分達は何が出来るのだろう。
キラは考えていた。
あの戦闘の後、再度フリーダムに登場したが拒否反応は相変わらずだった。
検査をしたが異常もなく、心因性のものではないかと結果が出る。
無理をして乗ろうとしているわけではないのに、拒否反応は拭えない。
またラクスや他の者達が襲われた時のため、力が必要だと言うのに。
今の自分達は成すべき目的も、貫く正義もない。
漠然とした不安を抱え、守りに徹しているようなものだ。
そんなキラを気遣って、ラクスは声をかける。
バルトフェルドも特製のコーヒー片手に、キラの状態を気にした。
マリュー達も作業の手を止めて、キラを見る。
キラは素直に思った。
こんなにも暖かい家族と呼べる存在がいるのに、世界は何故こんなにも暗雲に包まれているのだろうと。

あれからマユは、独り閉ざしていた。
同室のルナマリアの声も聞かず、シーツにくるまって膝を抱え何もない空間をぼーっと眺めている。
強制労働。虐殺。
戦争なんだからこういったことも仕方ないと、簡単に飲み込めるなら良いのだろう。
しかし、マユにはそれができなかった。
地球連合に対する怒りは消えない。
だからといってその怒りを地球連合にぶつけ、敵機を撃墜しろ、殺せ、というわけにもいかない。
自分は非力なんだ。
力を持っていても、それをうまく扱えない。
みんなを守りたい、死なせたくない、そう思っても鬼にはなりきれなかった。
そういった思いが、マユを閉ざしていた。

432 :マユif :2005/08/09(火) 22:10:59 ID:???
続き
そんなマユを心配して、タリアが部屋にやってくる。
マユに対する疑念は未だ残っていたが、タリアはマユを信じてみようと思った。
モビルスーツの操縦技術も、オーブで暮らしてきた経緯も、デュランダルが何を隠しているのかも。
全てまとめて信じてみようと決め、タリアは部屋を訪れた。
ルナマリアを退室させ、マユと二人きりになって、タリアは話しかける。
――私はを産むことはできない――
突然の告白に、マユは驚き顔を上げた。
コーディネイターの出生率の低下が今も尚続いているのは、マユも知っている。
その解決策が未だ判明していないのもだ。
珍しいことではないが、タリアがそうであったことにマユは驚く。
子供は産めない。
だが、レイやシンも、ルナマリアもメイリンも、勿論マユも、実の子供のように愛しい。
ミネルバの者達は皆、家族のように思っている。
そうタリアは語った。
だから気負う必要はない。
足りないところは、皆で補えばいい。
独りで全部抱え込まなくていいからと、マユを優しく抱き締めてタリアは言った。
マユはその暖かさに、懐かしい誰かの面影を、タリアに重ねる。
家族のいる暖かさに安心して、自分で全て背負わなくていいのだと知った。

こうしてミネルバは、マハムール基地に到着する……。






493 :マユif :2005/08/12(金) 21:12:16 ID:???


PHASE−18 ローエングリン攻略作戦


マハムール基地に到着したミネルバ。
タリア、アーサー、そしてマユ、レイ、ルナマリアは、出迎えに来た基地司令ヨアヒム・ラドルと挨拶を交す。
マユを見て一瞬、驚きとどよめきが響いた。
だが、フェイスであるハイネ指揮下の部隊所属するエースパイロット・シンの妹だとわかり、すぐにどよめきは収まる。
セイバーを駆り、多数の地球連合機を落としてきたシンの名声は、ザフト中に知れ渡っていた。
シンの妹、それに加えオーブ近海での一戦の事も届いている。
そんなマユならパイロットもこなせるだろうと、皆納得していった。

互いに挨拶も済ませ、本題に入るため司令部に場所を移す。
コーヒー豆が名産らしく、皆にはコーヒー、マユにはカフェオレが出された。
各地勢力の位置関係も、その戦況の深い話も、マユにはよくわからない。
だが、タリアやラドルの真剣な顔付きから、深刻な話なのだと悟った。
そして、ミネルバが向かうことになるガルナハンの話となる。
突破の要点となる渓谷には地球連合が見越し、陽電子砲台とリフレクターを持つモビルアーマーが存在しているという。
リフレクターと聞いて、アーサーが声を上げた。
ザムザザーそのものか、それと同系のモビルアーマーがいるのだろう。
マユはあの時のことを思い出し、唇を噛んだ。
だが、ラドルは自信に満ちた表情を浮かべ、「ミネルバなら」と既に勝ったような言い方をする。
ミネルバの噂が一人歩きしている結果なのだろう。
ユニウスセブン、オーブ近海戦。
タリアは苦笑し、軽く流した。
「私達にこんな道作りをさせようだなんて、一体……どこのタヌキが考えた作戦かしらね」
溜息と共にそんな呟きを漏らし、タリアはコーヒーを飲み干す。
ミネルバを英雄にでもして何かさせるつもりなのか。
深く考えることはやめ、タリアは作戦を了解し、ラドルと握手を交した。

494 :マユif :2005/08/12(金) 21:16:39 ID:???
続き


あまり休んでもいられず、数日後、ミネルバはマハムール基地を発つ。
もう既にガルナハンは近く、レセップス級とピートリー級が先行し、ミネルバも進む。
途中、現地協力者のレジスタンスが乗るバギーを収容した。
そのレジスタンスをブリーフィングルームで待つマユ達。
長くかからず到着したレジスタンスの少女・コニールと、マユは目が合い、互いに同じことを思う。
子供じゃないか、と。
作戦内容の説明にあたるアーサーに言われ、コニールは凝視していたマユから目を離し、ディスクを渡した。
アーサーはそのままディスクをマユに渡す。
コニールは更に驚き、不安の混じった声を上げた。
アーサーにマユがパイロットなのか問いかけると、アーサーは当然とばかりに頷く。
コニールの表情は暗くなり、訴えかけるような瞳をアーサーに向けた。
「失敗したら町のみんなだってマジ終りなんだから…」
コニールの言葉にあたふたするアーサー。
しかし、当の本人のマユは落ち着いた顔をしていた。
「大丈夫だよ」
「――えっ?」
「私だけの作戦じゃない。ルナマリアも、レイも、みんながサポートしてくれるから」
マユは微笑む。
マユの両隣にはレイとルナマリア、そして周りにはパイロット達が頼もしい顔付きでコニールを見ていた。
アーサーも説明に入る。
いつもとは違う凛々しいアーサーの口調も、その頼もしさを一層高める。
コニールは不思議と、安心していた。

三隻は行動を開始。
マユも、コアスプレンダーで発進する。
後にはコアスプレンダーからのビーコン誘導によって、チェスト・レッグフライヤーが続く。
三隻とモビルスーツ部隊が地球連合の部隊を引き付け、マユはコアスプレンダーで坑道を抜け、砲台を討つ。
引き付け役も、マユも、互いにタイミングがずれれば命取りになる。
だがマユには、タリアの言葉があった。
皆が頑張ってくれるから、自分も頑張れる。
何もかも抱え込まなくていい。

495 :マユif :2005/08/12(金) 21:22:37 ID:???
続き2
そう安心し、目的の坑道に入った。
坑道内部は不可視状態。
コニールから託されたデータだけが頼りになる。
岩盤に機体を擦りながら、コアスプレンダーは突き進んだ。
ガルナハンの町の者達にこれ以上、コニールのように暗い表情はさせたくないと、マユは思う。

三隻に気付き、地球連合も部隊を展開する。
その中に、リフレクターを装備したモビルアーマー・ゲルズゲーの姿もあった。
各機出撃し、ゲルズゲーの引き離しにかかる。
ミネルバは上昇し前へ出ると、タンホイザー起動させた。
ミネルバ前方上昇には、ダガーL群が展開している。
向こうはミネルバがそれを一掃し、一気に攻め込んでくるものと考えているだろう。
しかしそれは陽動。
タリア達や射線から離れた場所にいるレイとルナマリアは、相手が引っ掛かってくれることを願った。
ミネルバがタンホイザーを放つ。
巨大な閃光がダガーLの部隊目掛けて飛び、直撃目前でゲルズゲーがリフレクターを張った。
タンホイザーは阻止され、無傷のゲルズゲーがまだそこにはいる。
前に出たゲルズゲーを引き離すため、ザクや、レセップス級とピートリー級から出撃したモビルスーツが動きだした。
激しく弾丸が交差し、爆炎と土煙を立てる。
そして、地球連合もローエングリンを起動させた。
直ぐ様ミネルバは回避行動に移る。
タンホイザーと同等の光の一線が、ミネルバ上方をかすめた。
何とかローエングリンを避けるミネルバ。
ゲルズゲーを食い止めるルナマリアとレイは、ミネルバの無事に安心すると同時に、マユの成功を祈った。

坑道の終りが見え、コアスプレンダーはミサイルを放つ。
崩れた岩塊を突破し、コアスプレンダーは坑道を抜けた。
その場所はまさにローエングリンの直下。
コアスプレンダーはフライヤー二機と合体し、インパルスとなって一気にローエングリン砲台を目指す。
機銃をかわし、ダガーLからのビームを避け、着地すると同時にナイフを砲台に突き刺した。
砲台はナイフを深く受け完全に機能を失う。
ゲルズゲーもザク二機のコンビネーションに翻弄され撃破された。

496 :マユif :2005/08/12(金) 21:24:58 ID:???
続き3
部隊も大部分が落とされ、基地はもう降伏する他なかった。

町は基地陥落の吉報に、歓喜の声で沸き上がる。
しかしそれと同じくして、決起した町の住民が基地に攻め入る。
兵士達を広場にひざまづかせ、処刑とばかりに頭を撃ち抜いた。
マユはその光景をコックピットから黙って見ながら、ミネルバに帰艦する。
マユがインパルスから降りると、そこにはコニールが待っていた。
嬉しそうに笑い、マユに礼を述べる。
コニールの表情とは反対に、マユの顔は冷たい。
マユは口を開く。
「この町の人達が撃って、殺した地球連合の人達にだって、家族はいるの」
マユの口から出た言葉に、コニールの顔が氷つく。
「その家族は、殺した人を、この町のみんなを、どう思うのかな」
続け様にマユは言う。
マユが思い描いた町の人達の顔は、確かにこんな笑顔のはずだった。
けれども、この結果をマユは望んでいない。
「こんなことしてたら、なくならないね」
マユは静かにそう漏らし、コニールに背中を向けて歩き出す。
一度も振り向くことなく、マユはその場を後にした……。

556 :マユif1:2005/08/16(火) 21:19:02 ID:???


PHASE−19 真実は盲目


ガルナハンの地球連合軍基地を陥落させたミネルバ。
そのまま内陸部を抜けて黒海の沿岸都市ディオキアの基地へ向かう。
「流石はミネルバ」と勝ち誇った様子のラドルの言葉が、タリアの耳の中に残っていた。
噂の先行でミネルバは過大評価されている。
やはりデュランダルは自分達を英雄にするつもりなのだろう。
対カーペンタリア前線基地の強制労働者、ガルナハンの町の住民のように、地球連合から圧力に苦しむ人々を助ける。
それを続け、勝っていけば、ミネルバはまさに正義の味方。
タリアは深く溜息をつき、次の基地ではゆっくり休みたいと願った。

ミネルバから出たマユの顔が明るくなる。
蒼い空、白い雲、緑の山々、澄んだ海。
ディオキアの景色にマユの気持ちは安らいだ。
このところ、気を張り詰めることの多かったマユにとって、豊かな自然の風景は心和む。
マユの顔を見て、ルナマリアは安心した。
だが、静かな雰囲気が似合うこの場所に、軽快なテンポの音楽が響く。
上空では真紅の戦闘機…セイバーがLacus Clyneとピンクの煙で綴った。
マユ達が音楽が聞こえる方へ急ぐと、そこにはコンサートステージが設けられている。
集まった士官の数は尋常ではなく、マユ達は圧倒された。
セイバーが描いたピンクの煙を割って、数機のモビルスーツがステージへ降下する。

557 :マユif2:2005/08/16(火) 21:20:53 ID:???
一機はザクでピンクのカラーリング、胸部にはLOVE!とペイントされ、掌には一人の少女が立っていた。
「みなさーん、ラクス・クラインで〜す!」
スピーカーを通してミーアの声が響き、集まっていた士官達の歓声が轟いた。
共に降下したディンとオレンジのモビルスーツ、そしてモビルスーツ形態に戻ったセイバーは、ステージ裏に下がる。
マユは不思議そうに、目の前で歌い踊るラクスを見た。
ラクスならオーブで会った。
アレックスが運転する車でオーブを見ている時、キラという人物とラクスは一緒にいた。
短い時間だったがあの時のラクスと、今ここで歌っているラクスとは、雰囲気がかけ離れている。
マユがミーアを凝視していると、ルナマリアが嬉しそうに呼びかけた。
そのままマユを引っ張りステージ裏に連れていく。
ルナマリアに引っ張られつつ、ステージ裏に来たマユは目一杯の笑みを浮かべた。
「久しぶり、マユ」
「お兄ちゃん!!」

慰問コンサートの様子を現地住民達に紛れながら、カメラに写すミリアリア。
その顔は厳しく、重苦しい。
今歌うラクスは、本物のラクスではない。
本物のラクスは、キラと共にオーブにいるのだ。
そしてラクス達がコーディネイターの特殊部隊に襲撃されたことも耳に入っている。
だからこのラクスが何者なのか疑念が募る。
慰問コンサートを見ていたのはミリアリアだけではなかった。
スティング、アウル、ステラも車から慰問コンサートを眺めている。

558 :マユif3:2005/08/16(火) 21:23:52 ID:???
しかし楽しげに見ているとはいえず、その瞳には興味すらなかった。
スティングとアウルはむっとし、ステラは無関心。
止めていた車を、すぐに発進させた。
ネオが与えてくれた数日間の自由行動。
たまにはゆっくりとしてこいよ。そう飄々とネオは告げた。
逆にそれが終れば、ミネルバを討つために忙しくなるということだった。
スティングとアウルは敵意の籠った瞳を見せた。
「ファントムペインに、敗けは許されねぇ」
重い口調で、スティングは呟く。

マユとルナマリアとは別に、タリアとレイはデュランダルが宿泊している軍保養施設にやってきていた。
夜にはマユ、ルナマリア、そしてミネルバに復帰するシン、ミネルバへ配属となるハイネを呼び、会食する。
ミネルバのクルー達には久々の休暇となり、今日だけだがタリアとパイロット五人は軍保養施設に宿泊できる。
皆が揃うその前に、デュランダルはタリアとレイを先に寄越した。
久しぶりの再会に、デュランダルはレイに暖かな言葉をかける。
レイはそれだけで心の中が満たされた。
幸せそうな笑顔を見せて、レイはデュランダルに抱きついた。
デュランダルがレイの後見人ということは知っている。
余程レイはデュランダルのことを親愛しているのだろう。
深い事情までは知らないが、タリアはその様子を微笑んで見ていた。

夜になり皆が集められる。
赤服が五人揃い、席につく。
デュランダルがマユに声をかけると、マユは「お久しぶりです」と静かに返した。

559 :マユif4:2005/08/16(火) 21:26:14 ID:???
マユ、シンとデュランダルは知り合いである。
トダカの知人で、彼の頼みもあって、オーブからプラントに移住できるようデュランダルが手配をした。
少なからずシンとマユがオーブでどう暮らしていたかも知っている。
だからデュランダルはマユをインパルスのパイロットとして後任させた。
デュランダルは、マユのオーブ近海での一戦やガルナハン基地陥落などの功績に、叙勲の申請をせねばと愉快げに話した。
しかしマユはそれを拒否する。
自分はそんなもののために戦っているわけではないし、そんなものが欲しくて戦っているわけでもないと言った。
マユは手早く食事を済ませ、その場を逃げるように後にする。
追いかけるシン。
マユに追い付き注意するシン。だが、マユはシンから顔を背けた。
「だってあの人、好きじゃないんだもん…」
嫌そうな顔をしてマユは呟く。
デュランダルはマユとシンをプラントに移住できるようにしてくれは恩人だ。
しかし、マユには彼の言葉がいまいち信用できない。
確かにデュランダルの言葉は、説得力もあって正しいのかもしれない。
だがマユには、デュランダルが心からその言葉を言っているようには聞こえなかった。
「お父さんとお母さんと同じなの…デュランダル議長は」
シンにそう言うと、マユは廊下の奥に走っていってしまった……。




603 :マユif1:2005/08/19(金) 00:38:41 ID:???


PHASE−20 Life Goes On


戦争が始まったのは、私が10歳の時だった。
戦っているのは、ナチュラルの地球連合と、コーディネイターのプラント。
オーブに住んでいた私達には余り関係のないことだったけど、私とお兄ちゃんは違った。
私達兄妹は、お父さんとお母さんが勤めるモルゲンレーテでモビルスーツの操縦訓練をさせられていた。
M1アストレイのOS改良が目的ってお父さん達が言ってたけど私にはよくわからなくて、
操縦できるようにするのは何かあったときの備えなんだって教えてくれた。
ヘリオポリスがザフトに攻撃されて、私達にも戦争が無関係じゃなくなってからは訓練はより多くなって。
ナチュラルにもコーディネイターの友達にもそんなことしてる子なんて一人もいない。
なんで私達だけ?
そう思うこともいっぱいあった。
お父さんとお母さんは、私達のことちゃんと見ていない。
家族のはずなのに、家族の気がしない。
家族揃ってバーベキューしたりハイキングに行ったりしたけど、やっぱりそれも義務的な気がして。
厳しいわけじゃない。
どこかぽっかり穴が空いた、そんな感じ。
そんな日々が続いて、とうとう戦争の火種がオーブまでやってきた。
地球連合軍がオノゴロに侵攻して、いくら訓練したからって私達は子供だから逃げるしかない。
私達家族は森の中を必死で駆けて避難用の船に向かっていた。
けど、近くにはモビルスーツが戦ってて、ビームが交互に飛んでいる。

604 :マユif2:2005/08/19(金) 00:40:54 ID:???
そしてそのビームは私達の近くに落ちて……。

――マユはゆっくりと目を覚ました。
オーブで暮らしていた日々が、夢となって思い出される。
ビームによって吹き飛ばされ、気絶してしまったマユが気が付いたのは船の中だった。
父と母は助からなかった。
シンはそのせいで、絶望に染まった形相でマユの隣に座っていた。
その際に知り合ったのがトダカで、色々とマユとシンを援助してくれたのだ。
色々と思い出し、長く息を吐いて落ち着こうとするマユ。
まだ夜中、シンは隣のベッドで寝息を立てている。
マユはシンを見て微笑み、静かに部屋を出た。
夜風に当たるため、中庭にマユはやってくる。
ベンチに座り夜空を見上げた。
空気が澄んでいるためなのだろう。星が綺麗に見えた。
マユが星空を眺めていると、「ハロ!ハロ!」と両手におさまるサイズの赤く丸いロボットが飛び込んでくる。
マユは驚きながらもそのロボット・レッドハロを掴み、振り返ると、そこには昼間歌っていたラクス…ミーアの姿があった。
ミーアは軽く謝り、マユの隣に座る。
彼女も議長と同じ待遇なのだからここにいても不思議はない。
ミーアはニコッと笑い、「眠れなくて」とマユに喋りかけてきた。
マユも「同じようなものです」と静かに返す。
「そんな顔して、どうかなさいましたの?」
ミーアにそう訊かれ、マユはまだ自分が夢のことを引きずっているのだと気付いた。
そして、今の自分に不安があることも。
「…役割で戦っているような気がして」

605 :マユif3:2005/08/19(金) 00:42:34 ID:???
モビルスーツの操縦訓練をさせられていた自分。
そして、結果的にそれが理由となりインパルスに乗り、数々の戦果を上げた。
戦うこと、それが自分の役割になっている。
「役割だっていいじゃない」
ミーアが明るくそう言った。
マユはミーアに顔を向ける。
「ラクス・クラインはいつだって必要だから。一般人の人達も、兵士の人達も、歌って、笑ってあげれば喜んでくれる。
それが役割だって、必要とされるなら立派なことなの。貴女は、必要とされてないで、戦っているわけじゃないんでしょ?」
笑ってミーアは話した。
マユは、ミーアが本物でないことを確信する。
だが、そんなことより、彼女の言葉に心打たれた。
彼女は本物ではない。だが悪者ではないことがわかる。
例え偽物でも、彼女にはそれがすべき役割で、必要とされていることなのだと。
自分もミネルバという居場所がある。
自分は皆を必要としている。きっと、皆も自分を必要としてくれている。
必要とされているなら、マユは役割でもいいと思った。
安心し、マユはミーアに別れを告げ、部屋に戻る。
今度はいい夢が見れそうだ。
明日はシンと休暇を楽しむのだから早く寝ないといけない。
マユはベッドに入り、ゆっくりと深い眠りに入っていった……。


629 :マユif1:2005/08/21(日) 23:39:52 ID:???


PHASE−21 五人の眸


翌朝。
今日はほとんどのミネルバクルーが休暇となる。
私服に着替えたマユ達は、早めに朝食を済ませると早速街に出るつもりだ。
階段を降り、ロビーに差しかかると、デュランダル、タリア、ハイネ、レイ、ミーアが揃っている。
ミーアはマユを見つけると笑って手を振った。
マユも嬉しく思い手を振り返す。
デュランダルはマユ達にも聞いてほしいと、三人を呼んだ。
「世の中には、戦争を産業と考えている者達がいるようだ。戦争が終れば自分達が儲からない。だから戦争を起こす」
ロゴス。その言葉が出る。
軍需産業。ブルーコスモスの母体。
デュランダルはそのロゴスが戦争ん引き起こしている張本人ではないかと睨んでいる。
シンも、ルナマリアも、その話に驚かされロゴスに怒りを覚える。
しかしマユは、反論はしないにしろ、デュランダルの話を疑ってしまう。
彼の言葉は、両親と同じ。
納得させようとしている裏があるような気がする。
だが、それは単に気がするだけ。マユは自分の考えを振り払った。
デュランダルの話が終わる。
デュランダルはこのままミーアと共に各地を回ることになっている。
デュランダルとミーアはヘリに乗り、飛んでいった。
ミネルバに戻るタリア、レイ、ハイネとは別れて、マユ達は街に向かう。
現地で合流したメイリン、ヨウラン、ヴィーノと街を巡った。
服を見たり、カフェで盛り上がったり。

630 :マユif2:2005/08/21(日) 23:42:30 ID:???
そんな時間をルナマリア達と過ごして、シンとマユは別行動を取った。

シンはバイクを借りて、マユを後ろに乗せて走る。
海が見たい。二人はそう思った。
オーブの海。二人で巡った各地の風景。
また思い出を増やそう。
バイクは海を一望できる崖に着く。
そこには、既に車が止まっていた。
鼻唄を口ずさみ、踊っているブロンドの少女。
それを離れたところでそれ見ているライトグリーンとマリンブルーの髪色の二人の少年。
マユとシンもバイクを降りて、しばらく海を眺めた。
ふとマユはブロンドの少女を見ると、足元が崩れそうになっていることを発見する。
マユは急いで少女をその場から引き離そうと少女の腕を掴んだが、足場は崩れマユと少女は海に放り出されてしまった。
シンと二人の少年は、マユと少女が海に落ちたことに驚き、助けようと海へ飛び込む。
少女が暴れ、マユも溺れそうになった。
シンはマユを離し、少年二人に任せると、少女を後ろから抱きかかえ共に砂浜へ上がる。
マユ達も上がり、五人はしばらく休んでいた。
だが、シンは少女を、少年二人はマユをずっと抱き締めていたことを思い出し、慌てて身を離す。
マユは顔を赤らめて空笑い。
少女はきょとんとしていた。
ふと、シンは少女の足首から出血していることに気付く。
シンはハンカチを取りだして水に浸けて絞ると、少女の傷口に当て応急手当てをする。
少女はじっと作業をするシンの顔を見て、終わって顔を上げたシンと目が合って、少女は微笑んだ。

631 :マユif3:2005/08/21(日) 23:45:09 ID:???
シンは顔を赤くして目線を外し、とりあえず濡れた服を乾かそうと提案する。
二人の少年も、少女も、拒否する理由はない。
それに、なんとなくだが、この雰囲気を終らせなたくなかった。
五人は互いに名乗り、服を乾かすために準備を始める。

マユ、シン、ステラ、スティング、アウル。
五人は着ていた服を木にかけ、乾くのを待つ。
今日は快晴。この調子なら日没までには乾くだろう。
マユとステラは遠くで楽しそうにしている。
二人は何かを探すことにした。
ステラはその何かを見付けると、シンのところへ走っていく。
マユもそれを追った。
「ありがとう」
その言葉と共に、ステラはシンに貝殻を差し出した。
シンは嬉しそうな表情を浮かべて、その貝殻を受け取る。
マユも、アウルに巻き貝、スティングに砂の入ったガラスの小瓶を渡す。
マユはシンと海に行くと、いつもその砂浜の砂を自分とシンの分を記念に採ってきている。
シンには貝殻があるから、マユはスティングに小瓶を渡したのだった。
それを見て、アウルは羨ましそうに小瓶を見つめる。
巻き貝を貰ったのが嬉しくないわけではない。だが、アウルはマユと同じ物がいいと思った。
スティングに巻き貝と代えてくれと訴えるが、スティングは聞き入れない。
不貞腐れるアウルを見て、マユはアウルの頭を優しく撫でた。
「これで我慢してね?」
マユの言葉に、アウルは何かを思い出した。
暖かい表情、暖かい言葉。
懐かしい人の面影がマユと重なって、アウルは一気に嬉しい気持ちになる。

632 :マユif4:2005/08/21(日) 23:46:49 ID:???
だが、そんなアウルの顔に、水飛沫が当たった。
スティングが放った水鉄砲。
「前にやられたような気がしたからそれのお返しだ」
意地悪く笑うスティングに、アウルは怒って追いかけ回す。
その光景に、シンとマユとステラは笑って見ていた。
楽しい時間。幸せな時間。
五人の眸は、笑っていた。

服も乾き、日も落ちて、とうとう別れの時がくる。
短い時間だったのに、五人は互いに名残惜しい気持ちで一杯になった。
スティング、アウル、ステラは車に乗り込んで、発進する。
ステラとアウルは振り返ってシンとマユが見えなくなるまで手を振り続け、スティングもミラー越しにマユとシンを見ていた。
マユとシンも手を振って、彼等を見送る。
堪えきれずマユの瞳は濡れ、シンを見た。
「また…会えるよね?」
「会えるさ、きっと」

677 :マユif1:2005/08/25(木) 01:10:00 ID:???


PHASE−22 舞い降りる剣


帰ってきたスティング、アウル、ステラ。

アウルは、一目散にアビスのコックピットに向かった。
シートの脇に巻き貝を隠す。
ここなら誰かに見付かって取り上げられる心配はない。
それに自分は絶対に落とされない。
だから大切な物はここに置いておけば大丈夫だ。
アウルは笑って、マユの顔を思い出した。

スティングは、自室に砂浜の砂が入った小瓶を置いた。
人の部屋など誰も入らないだろう。
それにアウルのようにコックピットに置いておいたら、激戦の時は衝撃などでコルクの蓋が抜けて砂がこぼれてしまうかもしれない。
いつの間にか心の中に色濃く残っていたマユとお揃いの物。
こぼして砂が少なくなったりしたら、それだけでマユが消えてしまう気がした。

ステラは、ハンカチを肌身離さず持っていることにした。
シンのこと、一秒でも忘れたくない。
ステラを助けてくれたシン。ステラの怪我の手当てをしてくれたシン。
最初に助けてくれたマユも、その後ずっとステラを抱き締めて砂浜に上げてくれたシンも暖かかった。
ハンカチを巻いてくれたシンの顔は、今でも鮮明に覚えている。
だから、忘れたくない。

しかし、そんな三人の強い想いも虚しく、その記憶は固く閉ざされてしまう。
戦闘マシンに余計な感情は必要ない。
余計な感情は戦闘に支障が出る。
支障が出れば三人の命に関わる。
だから記憶など無いほうがいい。

678 :マユif2:2005/08/25(木) 01:12:15 ID:???
生き残るためには。
それが研究員達の、ネオの考えなのだ。

オーブ。
カガリは未だ謹慎中。
その間、セイラン家が国を取り仕切っている状態にある。
そんなオーブに、世界安全保障条約機構、つまり地球連合から寄越された戦線投入の要請。
軍司令部にて、ユウナはトダカとその副官のアマギ等を呼び出した。
ユウナを軍の総司令官とし、旗艦タケミカズチの艦長に任命した。
カガリが席を外している今、国の姿勢は明確にしておかなければならない。
にやりと笑いユウナは言う。

カガリはふうと溜息をついた。
相変わらず館の中の狭苦しい生活。
その上、軍司令部から帰ってきたアレックスからの報告に頭を抱える。
世界安全保障条約機構に加盟した時から予想はしていたが、ユウナもウナトも他の首脳陣も、既に国の理念など完全に棄てたのか。
カガリの溜息は尽きない。
アレックスに向き合い、カガリは口を開いた。
自由のきかないカガリの、新たな頼み。
静かに、アレックスは頷いた。

ハイネのため、ミネルバを案内するマユ、シン、レイ、ルナマリア。
新任の隊長であり、フェイスの称号を持つハイネ。
マユやルナマリア、レイは敬語を使っていたが、ハイネは笑って敬語を使う必要はないと言った。
気さくなハイネにとっては、上下の関係など些細なことなのである。
と、案内の途中、パイロットに招集がかかり、五人は艦長室へ向かう。
艦長室に入ると、タリアとアーサーが重苦しい表情で待っていた。
ミネルバに新たな命令が下される。

679 :マユif3:2005/08/25(木) 01:14:21 ID:???
地球連合に増援があり、ミネルバはそれに対する守備につくことになった。
その増援には、カオス、ガイア、アビスを持つ地球連合空母J.P.ジョーンズ。
そしてオーブ軍。
マユ、そしてシンの顔が曇る。
それを横から、ハイネが見ていた。

甲板から景色を眺めるマユ。
覚悟はしていた。
だが、いざその時が来ると辛い。
そんなマユに、ハイネは声をかけた。
マユのことはシンから聞いて知っている。
驚きはしたが、別にマユを特別扱いする気も、子供扱いもするつもりはない。
「戦いたくはないか?オーブとは」
ハイネの問いかけに、マユは静かに頷いた。
マユにとっては、オーブも大切な国。
「じゃあ君は…どことなら戦いたい?」
ハイネはまた問う。
その言葉に、マユは動揺する。
どことも戦いたくなどない。
戦わず済むならそれがいい。
「どことも戦いたくなんかないよな」
「…はい」
「そういうことさ。だから割り切れよ。今は戦争で、俺達は戦うことが仕事なんだからさ……でないと、死ぬぞ」
特別扱いも子供扱いもしない。
ハイネはきっぱりとマユに言う。
「シン…あいつも、割り切ったぜ」
マユはただ頷いて、ハイネの言葉を受け入れた。

タケミタズチのブリッジにて、ネオや地球連合の士官を交えて作戦を詰める。
ユウナは意気揚々と話を進めていった。
ネオはそれを見て、深く考える。
一度はオーブでミネルバに補給を受けさせたが、彼はミネルバをどうとも思っていないように見受けられる。

680 :マユif4:2005/08/25(木) 01:17:33 ID:???
国民を守るためなら容赦はしないということか、それとも……。
ネオは黙ってユウナの口振りに耳を傾けた。

ダーダネルス海峡に入り、ミネルバは守備についた。
オーブ軍が進軍し、ムラサメとM1アストレイが多数発進する。
ミネルバもフォースインパルスとセイバーを出撃させた。
オーブ艦隊は一斉に砲撃を開始する。
インパルスはそれを掻い潜り、M1アストレイに向けてビームサーベルを抜いた。
――割り切れよ。
ハイネの言葉を思い出し、唇を噛む。
マユは躊躇う気持ちを振り払って、M1アストレイを両断した。

ミネルバはタンホイザーの起動準備に入る。
物量は明らかにオーブと地球連合が上。
ここは一気にオーブを薙ぎ払い、地球連合との戦闘に構えなければならない。
マユはハッとミネルバを見た。
やはり駄目だ。
割り切るなんてことはできない。
カガリやアレックス、トダカを討つなんてことはできない。
ミネルバにタンホイザー発射の停止を呼びかけようとした。
だが、時既に遅く、タンホイザーはエネルギーの収束を開始している。
発射されるその刹那、タンホイザーの砲口をビームの一線が貫いた。
タンホイザーは大破し、ミネルバは大きな揺れに見回れる。
ミネルバも、オーブ軍も、地球連合も、皆ビームが撃たれた上空を見上げた。
蒼天より舞い降りる一機のモビルスーツ…フリーダム。
そして各軍に通信が発せられた。
「私はオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ。オーブ軍はただちに戦闘を停止せよ」

747 :マユif1:2005/08/27(土) 23:24:41 ID:???


PHASE−23 輝く光が照らし


カガリの登場に、騒然となる戦場。
上空には未だフリーダムがおり、その後方からは戦艦…アークエンジェルが現れる。
タンホイザーが撃たれなかったことに一瞬は安堵したものの、マユはフリーダムとアークエンジェル、そしてカガリに混乱していた。
発射直前のタンホイザーが撃たれたせいで船体が激しく損傷し、ミネルバは着水する。
マユは震えながら声を上げ、シンは愕然とミネルバを見た。
撃沈されてはいない。それがわかり二人は安心した。

「オーブは軍を退け」
カガリの声が響く。
「他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない」
モニターに映るカガリの鮮明な表情、そして堂々とした声。
それを見たユウナは信じられない顔を向けた。
カガリは謹慎して、身動きは取れないはず。
いや、モニターの背景は室内。どうやらその館で撮影されている。
「今、この状況下にあっても、私はそれを正しいと考える。
世界安全保障条約機構に加盟したからには、その役割は全うしよう。
だが、オーブはその理念を曲げてまで、いらぬ血を流すことはできない。
オーブは地球連合に全て従うような国にはなれない」
カガリはそう言い切った。
全身が冷えるような空気に包まれ、ユウナの顔は焦りがにじむ。
自由を奪っていたはずなのに。
だからこそ、こうして自分達の思い通りに事は進めていた。
しかし今この時、事は全て崩れた。
ユウナは声を上げる。

748 :マユif2:2005/08/27(土) 23:27:13 ID:???
「本当の、ちゃんとした僕のカガリなら、こんな馬鹿げた…僕に恥をかかせることをするはずがないだろうッ!!」
あくまでも己の考えを推し進めたいユウナ。
だが、トダカは横目でそれを見ながら、静かに口を開いた。
「カガリ様は貴方より、“国”をお思いになられたんでしょうな」
冷めた口調で言い放たれたトダカの言葉に、ユウナは驚愕して振り返る。
「何言ってるんだ!?僕はオーブのためにここまで来たんだぞ!」
「オーブのためを思っているのは、カガリ様も同じです」
「ならここまで来て、それを今更ハイやめますで済むかぁッ!?」
「それをどうにかなさるのが貴方達、上の人間の仕事でしょう!?
オーブは全軍転進、撤退する!」
トダカはユウナを一蹴し、撤退命令を出した。
アマギ達は晴れやかな表情を見せ、全艦に通信を送る。

撤退を始めたオーブ軍を見て、キラは安心した。
アレックスから託された、カガリの思いが詰まった映像ディスク。
カガリの思いが、無事オーブ軍に通じた。
だが、安心したのも束の間、キラに例の拒絶反応が出る。
嘔吐感と虚脱感が襲い、キラは苦渋の表情を浮かべた。
帰艦するのを余儀なくされ、フリーダムはアークエンジェルに戻る。
オーブ軍が撤退する今、アークエンジェルがこれ以上介入する必要はない。
フリーダムを収容すると、アークエンジェルも戦場から離脱した。

オーブ軍とアークエンジェルが撤退していく。
ネオは短い溜息をつくと、各機の発進を急がせた。

749 :マユif3:2005/08/27(土) 23:29:49 ID:???
所詮あの男に軍を動かせる采配は無かった。
そうユウナを蔑み、ネオはミネルバを見据えた。
撤退するオーブ軍を攻撃しても意味はない。
ここでミネルバを落とさねば。
敵意を露にして、カオス、アビス、ガイアはミネルバに向かう。
戦う相手はマユとシン。
しかし、互いにそのことを知る由もなく、そしてスティング達の記憶からは二人のことが忘れ去られてしまっていた。

ミネルバもハイネの乗るグフイグナイテッド、レイのザク、ルナマリアのザクを発進させる。
ミネルバは弾幕を張り、甲板からザク二機は砲撃を行った。
グフは迫るダガーLやウィンダムをレーザー重斬刀で次々と落とし、空を駆け抜けていく。
グフに向け撃たれるビーム。
相手は、ガイア。

海から放たれるアビスの連装ビームを避け、インパルスはアビスに向けビームライフルを発射する。
だが、アビスは軽々と海中に潜り攻撃を躱した。
カオスは兵装ポッドを射出し、セイバーに攻撃を仕掛ける。
シンはセイバーを変形させ急速上昇し、兵装ポッドからのビームを避けると反撃を行う。
互いに譲らない戦闘。
一度は心通わせたというのに……。

ガイアの猛攻がグフを襲った。
だが、ハイネは臆することなく、ガイアから撃たれるビームを掻い潜り一気に接近する。
スレイヤーウイップを抜き、ガイアに向け放った。
伸びたスレイヤーウイップはガイアに当たり電撃を与える。
それはコックピットにも到達し、ステラを苦しめた。
怒りと憎しみが籠った目でグフを睨み、ビームライフルを構える。

750 :マユif4:2005/08/27(土) 23:31:25 ID:???
しかしビームライフルとそれを持つ腕部にまたスレイヤーウイップが絡み、電撃がほとばしる。
ビームライフルは爆発し腕部も激しく損傷してしまった。
圧倒的な力の差に、ハイネは勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべる。
「ザクとは違うんだよ、ザクとはな…!」
いくら攻撃を受けようと、負けは許されない。
ステラが更なる攻撃を仕掛けようと距離を詰める。
だが、艦隊の方向から信号弾が発射された。
起死回生ともいえるミネルバの快進撃は、地球連合との物量の差を覆して、地球連合を撤退まで追い込んでいた。
ステラは悔しげにグフを睨みつけ、変形すると海岸伝いに撤退していく。

戦闘が終了し、ミネルバは船体の修理のためマルマラ海のポートへ向かった……。

151 :マユIF1:2006/01/09(月) 00:59:34 ID:???
          機動戦士ガンダムSEED DESTINY〜IF STORY MAYU〜
             PHASE−24 重なりあう視線

 誰もいない会議室のドアがゆっくりと開いた。
 入ってきたのは、軟禁状態から解放されたカガリ。
 首長席に座り、カガリは深い深い溜息をつく。
 口から出任せを言ったわけではない。
 こうしてここに座っているのは、紛れもなく自分が行動を起こしたからで、現にオーブは新たに動きつつある。
 世界安全保障条約機構を脱退したわけでないが、オーブは大西洋連邦の圧力に屈せず自国の理念を曲げない道を選んだ。
 課せられた存在意義はより大きくなり、外交での身動きも更に悪くなる。
 だが、ここで負けてしまったら、それこそ前大戦でのオーブの二の舞になる。
 それだけは絶対にしたくない。
「マユ…私はやるよ…必ずな」
 誰もいない会議室でぽつり、カガリが呟いた。

 戦闘終了後、ポート・タルキウスに着いたミネルバ。
「資材はすぐにディオキアの方から回してくれるということですが、タンホイザーの発射寸前でしたからねえ。艦首の被害はかなりのものですよ」
「はぁ…」

152 :マユIF2:2006/01/09(月) 01:01:00 ID:???
 エイブスの報告を受けて、タリアは頭を抱える。
 タンホイザー自体の被害、タンホイザーが爆破された際の艦への被害、そしてタンホイザーの爆発を付近で受けたクルーの被害。
「さすがにちょっと時間がかかりますね、これは」
「そうね。ともかく、出来るだけ急いで頼むわ。いつもこんなことしか言えなくて悪いけど」
「いえ、解ってますよ、艦長」
 軽く頭を下げ、エイブスは作業に戻っていった。
 それと代わるように、今度はマユがタリアの元にやってくる。
「あの、艦長…」
「マユ、どうかしたの?」
「お願いがあるんです」

 潮風に当たりながら、マユはぼーっと海を眺めていた。
『自由時間が欲しい?でも、ディオキアでそれはあげたでしょう』
『はい…でもちょっと考えたいことがあって。艦内じゃ集中できないというか、駄目というか…』
『要するに外へ出たいということね。…しょうがない。いいわ、許可します』
 すんなり許可が出て、マユは安心した。
 許した当の本人は渋々といった感じで、タイホイザーに加えて問題が更に増えたとまた頭を抱えている。
 そんなことなど知らず、マユはただ静かに考えたかったからタリアに願い出た。

153 :マユIF3:2006/01/09(月) 01:02:42 ID:???
 戦うことの意味。自分がここにいる理由。
 幼い自分は、いったい何ができて、そして何をすればいいのか。
「そんなところにいると、危ないわよ」
 不意に声をかけられて、マユは振り返る。
 そこには、カメラを首から下げた女性が立っていた。
「波が荒れてきてるみたいだから。地元の子じゃ、ないんでしょ?」

 マユが艦を離れた直後。
『尾行?どうして?』
 艦長室を訪れたハイネが、マユの尾行を申し出た。
 だが、タリアはその意図がわからず、思わず聞き返す。
『いえ、女の子が一人で出歩くってのは、危ないでしょう?』
 飄々と返答されはその言葉は、今ここにいないアーサーでも何か裏があるというぐらいわかるだろう。
 ハイネがフェイスで、ミネルバに寄越された時から、タリアは警戒していた。
『……いいわ。でも、ルナマリアもつけます。異義はないわね』
『えぇ…別に何も』
 ハイネがマユを監視するというのなら、ハイネにはルナマリアという監視をつければいい。
 “マユ自体”に何かあるのか、それとも“マユの後ろ”に何かあるのか…。 
 立て続けに入ってくる問題に、タリアの心配は尽きない。

 カフェで、マユと首からカメラを下げた女性が何か話をしているのを、物陰から眺めなるハイネとルナマリア。

154 :マユIF4:2006/01/09(月) 01:04:07 ID:???
 マユはとても深刻そうに話をしている。
「マユ…どうしたのかしら」
 真剣にその光景を見ながら、ルナマリアがぽつりと漏らした。
「案外あの子、オーブか連合のスパイだったりして」
 冗談ぽく言うハイネを、ルナマリアが睨む。
「ば、馬鹿なこと言わないでください。マユは、私達と違うんです。
この前のオーブのことだってあるし、色々悩むことがあって…」
 そう自分に言い聞かせている。
 それを確認させるような自分の言動が、ルナマリアを余計に嫌な気分にさせた。
(独りで悩むくらいなら、私に相談してくれたっていいのに…)
 心の中で、自分を信用してくれないマユに対して文句が出た。
 ユニウスセブン破砕の前は自分に胸の内を話してくれたのに、と。

「そう…貴女も色々苦労してるのね」
 ミリアリア・ハウと名乗った女性は、マユが話してきたことを一つ一つ飲み込んで、口を開いた。
「でも話して良かったのかな?ミリアリアさん、戦争を扱ってる記者さんでしょ?」
「大丈夫っ!これでも私は口が堅いのよ。それに、こんな大事な話を公にするほど、人のこと考えない人間じゃないしね」

155 :マユIF5:2006/01/09(月) 01:05:28 ID:???
 そう言って、ミリアリアは安心させるように笑ってみせた。
「それでマユちゃんは、本当はどうしたいのよ?このままパイロットを続ける?それとも降りる?」
 そして、本題はそこになる。
 戦うことができる自分。
 だが、戦うことを嫌がる自分。
「……」
 マユはうつむいて黙り込んでしまった。
「それで迷ってるからこうなっちゃってるのよねぇ…。でもね、あなたの本当の気持ちが、正しいんだと思うよ」
 本当の気持ち。
 顔を上げて、マユはミリアリアに見る。
「今は迷って、迷って迷って迷って、それで結論を出せばいいじゃない」
 ミリアリアの笑顔は変わらなかった。
「それとも、今すぐに答えが必要なのかな?」
 親身になって考えてくれるミリアリアに、マユは笑って首を横に振る。
 まだわからない。
 だが、もやもやとしたものは少しずつだか消えていくような気がする。
「それじゃ、私はもう行くね。そうそう!うじうじ悩んでもいいけど、自分を責めちゃ駄目だからね〜!」
 乗り出して、マユの頭をくしゃくしゃ撫でた。
 マユは楽しく笑う。

156 :マユIF6:2006/01/09(月) 01:08:23 ID:???
 そしてミリアリアは席を立ち、ボーイにマユの分も含めた料金を渡すと、マユに手を振って店を後にした。
 マユもミネルバに戻ろうと立ち上がる。
「マユ!」
 すると、そこにルナマリアとハイネが慌てながら走ってくる。
「ルナ、ハイネ隊長、どうかしたの?」
「レイが、レイが倒れたって!」
「えッ!?」
「研究施設の調査任務に出たみたいでな。ガスかなんかを吸ったか…ま、とにかく戻ろうや」
 ハイネの言葉に、レイはもちろんシンにも何かあったのではないかと心配するマユは深く頷いた。
 そんなマユを、ハイネは気付かれないように、凝視する。

――レイ。レイ。
(だ…れ…)
 遠くから声が聞こえる。
 聞いたことのある、懐かしい声。
――私だよ。私は、君自身だ。
 懐かしく、そして自分も同じ声の持ち主で…。
 その声がどこから聞こえるのか探しても、わからない。
(どこにいるの?顔を見せてよ)
――何を言っているんだ。私はここだ。
(どこ?どこなの?)
          こ

          こ

          だ







157 :マユIF7:2006/01/09(月) 01:10:17 ID:???
 レイはゆっくりと瞼を開いた。
 目覚めたばかりとあって初めは意識が朦朧としていたが、数秒してそこがミネルバの医務室だということに気付く。
 閉められたカーテンの外から、シンと軍医の話声が聞こえた。
 レイはカーテンを開き、ベッドから降りる。
「すみませんでした。もう大丈夫です。ありがとうございました」
 軍医に礼を言う。
 まだ休んでいてもいいと心配してきたが、レイにはそんなつもりはなかった。
「いえ、本当にもう大丈夫です」
 冷たさを含む言葉。
 シンもレイを心配そうに見ているが、レイは黙って医務室を出ていく。
 その姿は、どこか別人のような気が、シンにはした。

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188 :マユIF1:2006/01/11(水) 23:22:18 ID:???

PHASE−25 僕たちの行方

 ロドニア。
 シンとレイが調査に向かった施設だ。
 今、本格的な調査部隊が組織され、内部をくまなく調査している。
 マユ達が戻ったことを確認すると、ミネルバもロドニアのラボに向かった。
 そして、ミネルバでも今一度、施設内を調査するメンバーが組まれることとなった。
 タリア、アーサー、ハイネ、シン。彼等がラボへ向かう。
 マユ、レイ、ルナマリアは艦内待機を言い渡され、三人は談話室でじっと皆の帰りを待っていた。
「ねぇレイ、本当に大丈夫?」
 やはり気になっていたのか、マユがレイに訊く。
「あぁ、なんともない。気にしなくていい」
 素気なく返された答えに、マユは少し寂しそうに「そっか」と呟いた。
 そして話題もなく、しばらくの沈黙が流れる。
 誰も喋らない。喋ろうとはしない。
 段々と気まずい空気が漂っていた。
「マユこそ大丈夫なわけ?」
 そんな沈黙を打ち消すように、ルナマリアが声を発する。
 ルナマリアの声と顔は怒気を含み、荒れていた。
 マユはそれに少々恐さを覚え、何故ルナマリアがこんな態度なのか不思議に思う。

189 :マユIF2:2006/01/11(水) 23:23:59 ID:???
「私は別に大丈夫だよ。なんでそんなこと訊くの?」
「だって…なんか悩んでたみたいじゃない」
 ルナマリアの言葉に、マユはハッとした。
 心配してくれていたルナマリアに、マユは心が暖かくなる。
「もうあれはなんでもないの。ごめんね、心配させて」
 これ以上の心配をかけまいと、マユは笑って否定した。
 だが、それが作り笑いだとわかったのか、ルナマリアの顔は緩むどころか余計に強張っていき…
「なんで!?なんで私には何も相談してくれないわけ!?」
 糸が切れたように、憤慨したルナマリアが怒鳴りつける。
「ルナ……」
 それに対しマユは、驚いてただ唖然とルナマリアを見ているしかできない。
「そんなに私は信用されてない?」
「違うよ…そうじゃないの!」
 制服の袖を掴まれ、必死にすがる瞳がマユに訴えかける。
 しかし、もう気にする必要はないのだ。
 わかってほしいのに、マユは言葉が見付からない。
 曖昧なマユの態度がルナマリアを更に逆撫で、掴んでいた袖を振り払うと、込み上げる怒りと共に立ち上がった。
「もういい!どうせ私なんか頼りにもならない、ただの同じパイロットなだけですからね!!」

190 :マユIF3:2006/01/11(水) 23:25:33 ID:???
 キッと睨み、ルナマリアは激しく靴音を鳴らして談話室を出ていった。
 ルナマリアを追おうとするマユだが、レイに腕を掴まれそれを制止させられてしまう。
「今行っても逆効果になるだけだ」
「でも…でもこんなのヤだよ!心配かけたくなかっただけなのに…こんなことになるなんて…」
 涙が溢れ出した。
 ずっと信頼してくれていたルナマリアの心を、自分が踏みにじってしまった。
 マユは、ルナマリアも艦の皆も大好きで、だから心配かけまいと一人で考えようとしたのに。
 結果としてそれが、思わぬ災難を導く。
「俺が様子を見てこよう。マユはしばらく、ルナマリアとは接しないほうがいい」
 暖かい言葉をかけるでもなく、レイはそう言うと、談話室から出ていった。
 一人残された部屋で、マユは止まらない涙を流し続ける。
『自分を責めちゃ駄目だからね〜!』
 不意に、ミリアリアから言われた言葉がマユの中に響いた。
 しかし今のマユにはそれも戒めにはならない。
「でも…これは私のせいだよ……」
 両手で顔を覆い、マユはうめきあげる。
 談話室からは、マユのしゃくり泣く声が、ただただ聞こえていた。

 しばらくして、ラボに行っていたメンバーが戻ってくる。

191 :マユIF4:2006/01/11(水) 23:26:54 ID:???
 ラボの惨状、ブルーコスモスのエクステンデット育成施設。
 その情報は、瞬く間に艦内に知れ渡った。
 それはマユも例外ではなく、赤く腫らした双眸で、入ってきた情報に目を通す。
「………酷い」
 ぽつりと、呟きが漏れた。
 ルナマリアと同室であるため部屋にも帰れず、行く場所もなく独り格納庫の隅でいる。
 膝を立てて蹲るように座り、床の冷たさが伝わってくるが、マユは構わない。
「マ〜ユ!」
「どうかしたか?」
 そんな時、やってきたのはヴィーノとヨウランだった。
「なんでもない」
 顔を上げて笑ってみせる。
 その顔はとても笑顔には見えなく、二人を慌てさせるだけだった。
「マ、マジでどうしたの?お腹でも壊した!?」
「馬鹿。俺達コーディネイターだろ」
「でもさ、てかこれって普通じゃないって!」
「まぁ…確かにな。マユ、本当にどうしたよ?」
 心底心配して、覗き込むヨウランとヴィーノ。
 角度なのかなんなのか、マユには二人のその顔が面白く見えて、思わず吹き出す。
「えぇ!?なになに?」
「やっぱりどこか痛むのか?痛みが上回ると逆に快感になるって」
「それなんか違くない?」

192 :マユIF5:2006/01/11(水) 23:28:28 ID:???
 そしてコントのような二人の会話が、余計にマユを笑わせる。
「アハハハハッ!アハッ…はぁ…はぁ…。ごめ、ごめんね、本当にもう大丈夫なの」
 腹を抱え笑って、笑いすぎて疲れてしまうほどだった。
 二人に向けた今度の笑顔は心地良く、明るさに満ちている。
「なんか二人見てたら元気出たし、ありがとう♪」
 礼を言われた当の本人達は、複雑な顔をしていた。
「そりゃどーも…」
「まぁ、マユが元気になってくれて万々歳じゃない?」
「なにぃ?このポジティブヤローが〜!」
 意地悪そうな笑みを浮かべたヨウランが、ヴィーノにプロレス技をかけ始めた。
「うわっ!ギブギブ〜!!」
「許さん!落ちるまでやってやる!」
 二人を見て、マユはまた笑いだす。
 心の中では、次に会ったら絶対にルナマリアに謝ろうと誓って。
 そんな和やかな雰囲気を打ち消すように、アラートが鳴り響いた。
 そしてメイリンの声が続く。
「コンディションイエロー発令!モビルスーツパイロットは、搭乗機にて待機願います」
 アナウンスを聞き、マユは立ち上がった。
「じゃあ私は行くね!二人共、本当にありがとうっ」

193 :マユIF6:2006/01/11(水) 23:30:18 ID:???
 笑って走っていくマユを、ぼーっと見送るヨウランとヴィーノは、エイブスにどやされるまでそこに立ち続けているのだった。

 木々を薙ぎ払い、ガイアがラボへ突き進む。
「母さん、守る」
 自らブロックワードを口にしてしまったアウルが苦しみながらうめいた。
 母さんが死んじゃうじゃないか、と。
 それに連動するように、ステラは飛び出していた。
 ラボの有り様など知らぬステラにとっては、守るもののために戦うだけ。
「はぁぁッ!!」
 目の前に飛び込んできたインパルスに、ステラは叫ぶ。
「くぅぅぅ!」
 ぶつかりあい、弾き跳んだ二機。
 衝撃に揺れるコックピットの中でマユが声を上げる。
 迎撃に出たのはインパルスとセイバー。
 特殊な装備を持っているかもしれないため、爆散させずに倒せとハイネから命令されている。
「大丈夫か、マユ!」
「平気!」
「回り込めるか!?」
「やってみる!」
 近付くガイアを引き付けつつ、インパルスは距離をとる。
 そして、素早く背後に回り込み、ガイアの注意をそらした。
「お兄ちゃん!今ッ!!」
「よし!てえぇぇいッッ!」
 セイバーの一撃が、ガイアのコックピット付近に入った。

194 :マユIF7:2006/01/11(水) 23:31:23 ID:???
「あ!キャアアァァッ!」
 激しく揺さ振られ、コックピットハッチの残骸が内外問わず舞い散る。
 ガイヤは地面に倒れ、動きは止まった。
 インパルスとセイバーのカメラが、コックピットの中の映像を映す。
「…え?」
 マユが、小さく声を上げた。
「あの子…」
 シンも呟く。
 映し出されたコックピットの中にいたパイロットは、二人にとって見覚えのある顔。
 それは、ステラ。

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205 :マユIF1:2006/01/14(土) 12:26:38 ID:???

PHASE−26 決意と覚悟と、大切な約束

 機体から降り、マユとシンは一目散にガイアへ走った。
「ステラ…何で君が…」
「ステラぁ…しっかりしてぇ…」
 ステラを抱き起こすシンと傍らで涙を浮かべるマユ。
 頭部を打ち付けたのか血を流し、ステラは血の気はどんどん退いていく。
 咳き込み、意識があるのかないのかもはっきりしない。
「…死ぬの…駄目ぇ…」
 かすれた声で、ステラが呟いた。
「怖い…まも…る…」 うめくその声は弱々しく、シンとマユは互いに顔を見合わせた。
 考えは、同じだ。
 シンがステラを抱き上げて、セイバーに乗り込んだ。
 ステラを助けたい。
 マユもインパルスに乗ってセイバーに続いた。

 二機が緊急帰艦するとあって、ミネルバは慌ただしくなる。
「インパルスとセイバーが帰投?」
 振り向いて、ヴィーノがヨウランにきいてみた。
 ヨウランもわかるはずなく、ただ首を傾げるばかり。
「なんだいきなり?」
「わかんないけど…」
 顔を見合わせて、二機の帰りを待つ。
 セイバーが着艦し、ステラを抱いたシンが険しい形相で降りてきた。
「なんだよシン、いったい…」

206 :マユIF2:2006/01/14(土) 12:28:00 ID:???
「ウルサイ!どけッ!」
 ヴィーノを突き飛ばし、周りに目もくれずシンは先へ進む。
「ヴィーノ、ごめんなさい!お兄ちゃん待って!」
 続いて到着したインパルスから降りたマユが一言謝ると、シンを追った。
 シンの酷く焦った険しい顔に対し、マユはとても深刻な暗い表情だった。
 どちらもステラを助けたいという思いは変わらない。
 鬼気迫る表情でシンは通路を駆け抜けた。
 マユは必死でそれを追う。
「…守る…」
 ステラがまた、声にならない声を絞り出した。
「大丈夫、もう大丈夫だから!君のことはちゃんと、俺がちゃんと守るって!」
「ステラ、私もいるからね!だからしっかりして!!」
 二人は医務室へ入る。
「先生!この子を!早く!」
「怪我してるし!体調も悪いみたいなんです!!」
 叫ぶシンとマユに、軍医と看護兵が驚いて振り向いた。
 だが、ステラを見ると更に驚きが増した顔になる。
「恐い…守る…」
 またステラが声を上げた。
 ステラの顔はみるみる血の気があせていき、今にもう息が絶えそうな…
「お願いします!!ステラが……ステラが死んじゃったらどうするのよッ!!!!」
 涙を溢れさせ、マユが声を張り上げて叫んだ。

207 :マユIF3:2006/01/14(土) 12:29:43 ID:???
 大人しいマユがこんなにも顔を歪ませ声を荒げた姿に、シンは目を疑う。
 そしてマユが叫んだことによって起こった、腕の中のステラの異変にまた驚くことになる。
「あぁ…死ぬのは…駄目ぇ…」
 瞳孔が見開かれ、焦点が定まらない。
「うわわぁぁ!!」
 突然声を上げ、シンの腕を振り払うと、ステラはマユに飛びかかった。
「きゃあぁッ!!」
「やめろ!ステラ!」
「うェェい!!」
 ステラとマユはそのまま倒れ込み、仰向けになったマユの上にステラが覆い被さる。
 生き延びること。
 それだけを必死に、ステラは目の前の標的を排除するのみ。
「うぅ…ぅぁ…」
 ステラはマユの首を絞め、マユは苦しげに声を上げた。
 ステラはただ唸るような声を発し、手の力を強める。
 薄れそうな意識の中、マユは自分の手をなんとか動かして、ステラの手の上に重ねた。
 そして、暖かい微笑みを浮かべる。
「ごめんね…ステラ」
 かすれた声でマユが言った。
 ステラがハッとする。
「もうあんなこと言わないから…安心…して…」
 ステラの力の入った手が少しだけ緩んだ。
 マユはシンに目配せし、こちらへ呼び寄せる。

208 :マユIF4:2006/01/14(土) 12:31:13 ID:???
「…ステラは…私と、お兄ちゃんが守るから…ね?」
「そうだよステラ。俺達で君を守るから」
 ステラの背中を、シンが包んだ。
「マユ…シン…」
 二人を名を、ステラは呟く。
 首から手を離れた。
 動きが止まり、ステラが大人しくなったのだと、マユとシンが安堵した直後、
「うわあ゛あ゛ぁ!!」 再び発狂し、ステラは叫ぶ。
「いやあぁぁぁ……」
 そして、気を失った。

 事態は一旦の終結を見せ、マユとシンはタリアにこってりと説教と注意を受けた。
 軍法に違反と抵触し、軍人としては明らかに失格である。
 その後、ステラとの関係を訊かれ、二人は渋々と答えた。
 タリアもねちねちとこんなことしたくはないのだ。
 だが、彼女は二人の上司であり、二人より大人で、二人が大切だからこそ、注意しなければならない。
 その後、医務室から通信が入る。
 どうやら、ステラについて何かあるらしい。

「あぁ…何でこんなこと!怪我人なんですよ彼女は!そりゃさっきは興奮して…」
 医務室に入るなり、シンが声を荒げた。
 全身をベルトで縛られ、拘束されたステラ。
 衝撃的な光景だが、衝撃はそれだけではなかった。

209 :マユIF5:2006/01/14(土) 12:33:02 ID:???
 軍医がステラはエクステンデッドではないかと話す。
 検査をしたところ、ステラの身体から異常な数値が検出された。
 予想していたのか、タリアが「やっぱり」と呟く。
 シンとマユは余りのショックで、絶望したような表情になりながら、ステラを見つめた。
 タリアと軍医が話を続ける中、ステラがゆっくりと目を覚ます。
「あ!ステラ!」
「大丈夫!?ステラ?」
 絶望したような表情から一転、笑顔になったシンとマユが駆け寄る。
 しかし、そんな二人にステラは冷たい視線を向けた。
「……何だお前等は…」
 敵意に満ちた声。
 そして自分が置かれた状況に気付き、ステラは暴れだす。
 ベッドが激しく上下し、力を入れた拳の間から爪が食い込んで血が流れ出る。
 そんなステラを止めるため、シンはステラを抱き締めた。
「ステラ!大丈夫だよ!俺達がいるから!!わかるだろ?シンとマユだよ!」
 一瞬、動きが止まり、ステラが二人を見る。
「…知らない…あんた達なんか知らない!!ネオォッ!ネオォォッ!」
 二人の知らぬ名をステラは叫び、体を揺さぶる。
 意識や記憶も操作されている。だから無駄た。そう軍医がマユとシンを止めた。

210 :マユIF6:2006/01/14(土) 12:35:47 ID:???
 その軍医の言葉だけで人を殺せそうだと、マユはそう感じる。
「黙れ!!」
 怒りに包まれた形相のマユが、軍医を睨みつけた。
「あなたになにがわかるの!?無駄なんかじゃない!無駄なわけあるもんか!!」
 ステラに笑いかけ、マユは口を開く。
「私とお兄ちゃんと、ステラとスティングとアウルで、一緒に海を見たでしょう!?
怪我したステラはお兄ちゃんにハンカチ巻いてもらって、ステラはお兄ちゃんに貝殻をあげたよね!?」
 必死に訴えかけるマユを、ステラは黙って見つめていた。
 ステラの瞳は段々と、怒りや恐怖が薄れていき、安らぎを生む。
「マ、ユ」
「ステラ…わかる?」
「うん。シンも、わかる」
 シンを見て、ステラは笑った。
「二人に会いに来た」 その言葉とその暖かい表情に、マユとシンは涙を流して喜んで、ステラの手を握る。
「私とお兄ちゃんはいつでも側にいるから、今ゆっくり休んで、ステラ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ、ステラ」
 マユとシンと見つめ続けながら、ステラは瞼を閉じる。
 そして、寝息を立て始めた。
 マユを涙を拭うと、また軍医やタリアを睨む。

211 :マユIF7:2006/01/14(土) 12:36:55 ID:???
「ステラに酷いことしたら、私は絶対に許しません。
ステラはステラ。物じゃない、私達と同じ人間なんです」
 マユの言葉は、その幼い年齢に見合わない凄みがあり、タリア達は巨大な圧迫感に襲われた。
「軍の規則なんか関係ない。ステラに何かするなら、私があなた達を…」
「マユ!…それ以上は言っちゃ駄目だ」
 シンが制止する。
 ハッとして、マユは口を塞ぐ。
「俺も同じ気持ちです。ステラは確かに連合のパイロットだったけど、無理矢理戦わされてただけだった。なら、助けます」
 ステラのベッドの前に立ち、守るように行く手を阻んだ。
 二人の決意と覚悟は、揺らがない。

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