- 859 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/05(月) 16:11:25 ID:???
- 第一話
- ―――第二次ヤキン・ドゥーエ戦後、プラントのとある一画
黒い長髪の男―――ギルバート・デュランダル国務省員が、側近の報告を聞いていた。
「『SEEDを持つ者』4体のうち、2体の回収に成功したとのことです。ご覧下さい」
同時にモニターに二つの影…茶色の髪の少年と黒髪の少女が映し出された。
「残り2体は?」
「1体はエターナルに健在。1体はオーブでの戦闘に巻き込まれ行方不明とのことです。
捜索させますか?」
「いや、いい。それよりラクス・クラインの確保を優先してくれたまえ。彼を餌にすれば簡単だろう?」
「了解しました」
機動戦士ガンダムSEED-DESTINY 影の少女 ガンダム強奪〜追撃まで
あの戦争が終わってから、2年後。
地球・プラント間には緊張感が漂っていた。
一ヶ月前起こった新造艦「エターナルU」強奪事件。
プラントはこれを地球軍の仕業ではないかと疑い、連合はそんな物を製造しているプラントは戦争の準備をしていると憤った。
そんな情勢を憂慮したオーブ首長、カガリ・ユラ・アスハは各国を訪問し、戦争の愚かさを説いていた。
マユは指令のもと、エクステンデッドの三人をザフト基地へ案内していた。全くの無表情で、必要な事以外何も喋らず。
こんな少女が自分たちの仕事を手伝うこと、更にその態度に驚くアウル、彼女の境遇を悟るスティング。
だがその途中、エクステンデッドの一人、ステラ・ルーシェはあちこち寄り道し、予想以上に時間を食う。
怒るアウルとスティングに対しステラは「だって面白いもの見たいから」とぽけーっとした表情で答える。
彼女がエクステンデッドだと知らされていたマユは、彼女の行動様式に驚きを隠せない。
そんなマユを見て、やっと表情が出たと面白がるステラだった。
議長との会談が終わり、議長の側近に軍基地を案内してもらうカガリとアスラン。
自らの軍の偉容を自慢する側近、キレるカガリ。
そこの脇で突然爆発が起き、三機のガンダムが暴れ出す。
エクステンデッドの三人が機体を強奪したのだ。
あらかじめレイが仕組んだセキリティ・プログラムバグによる対応の遅れが完全に響くザフト。
唯一そのバグが関係なかった(ように仕組まれていた)ブラストインパルスが現れ、迎撃する。
だが―――マユの狙いは奪われた三機のガンダムではない。
「ふふ・・・身一つで逃げ回る気持ち、お兄ちゃんの分まで教えてあげるよ!」
- 860 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/05(月) 16:12:40
ID:???
- そう、彼女の狙いはたった一つ―――事故に見せかけてカガル・ユラ・アスハを葬り去ること。
更にそうすれば連合に罪を着せ、オーブをザフト側に付かせることもできる。そう指令が来ている。
私的にも公的にも問題はないのだから、迷う理由なんて無い。
もっとも、事故に見せかけ、連合に罪を着せるためには直接狙うわけにはいかない。
アビスを誘導して弾を当てさせようしたり、建物を破壊して破片を降らせたり。
カガリが必死に走り回る様子を見て、満足げな笑みを浮かべるマユ。
だがふざけたそんな戦いをしている隙を突かれ、ガイアにブラストシルエットが破壊される。
無表情に戻り、素早くフォースシルエットに換装する。
アスランはその一瞬の隙を突いて、カガリを連れてザクに乗り込みミネルバへ逃走、窮地を逃れる。
また増援に他のMSが出撃してきたことで、三機の奪われたガンダムもまた逃亡した。
その後ミネルバは三機の追跡に向かう事となり、結果そのままミネルバに乗り込むことになったアスランは、インパルスのパイロットについてルナマリアに聞く。
ルナマリアはマユについて話した。子供が乗っていることに驚くカガリ。
「あの子、一人なんです。オーブが攻められたときに家族を全部無くしちゃって、たった一人で生きてきて。
でも、明るくて優しい、いい子ですよ?戦闘の時は何か怖いですけどね」
インパルスはカガリを殺そうとしていたのではないか?と疑念を持つアスランは、その子に会わせてほしい、と頼む。
カガリとアスランはルナマリアにマユの部屋に案内される。
エクステンデッドを案内した時とは全く違い、笑顔で丁寧に優しく三人を迎えるマユ。
だが、アスランだけは一瞬マユが殺意を込めた鋭い目つきでカガリを見つめたのを見逃さなかった。
マユが自分を殺そうとしていたとは欠片も思わないカガリは、マユと会話を弾ませる。
一方、アスランはルナマリアになぜこんな子供が軍に入れたのか、と質問する。
答えは上層部がその才能を知ってアカデミーに入れさせたらしい、だった。
そしてアカデミーは上位の成績で卒業して今でも議長と直接会ったりする、と付け加える。
ここで急遽警報が鳴り響く。ガーディ・ルーと合流した地球軍艦が、二隻で共にミネルバを待ち伏せしていたのだ。
マユは挨拶も無しに話を止めて格納庫へ急ぐのだった。
- 861 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/05(月) 16:14:01
ID:???
- 出撃したマユ、レイ、ルナマリア。
作戦ではマユとレイが艦を一つずつ落とし、ルナがミネルバの護衛という予定である。
だがルナはマユを心配して離れようとしない。そんなルナにレイはきっぱりと言う。
「ルナマリア、マユの制服の色はなんだ?」
言われて渋々諦めるルナ。
インパルスの迎撃担当となったステラは、再び出てきたインパルスを舐めきっていた。
同じく迎撃担当となったスティングは警告するが、ステラは「さっきはボコボコにしてやった」と言い返してインパルスへ直進する。
そんなガイアの動きを見たマユは、自分を侮っているのを見抜きくすりと笑う。
「さっきはアスハの馬鹿が狙いだったけど・・・今回はあなた達が狙いってこと分からない?」
スラッシュエッジ(ビームブーメラン)でガイアのビームライフルを切り落とすソードインパルス。更に返す刀でダガーLを両断。
驚くステラ、ため息を吐いて援護に回るスティング。それを見て無表情に戻るマユ。
それでもマユのソードインパルスは2機と互角の戦いを見せ、ガーティ・ルーに近づいていく。
ミネルバを墜とす部隊に回ったアウルは、ルナマリアを着々と追いつめていく。
とどめを刺そうとした瞬間、ネオから通信。
合流した艦が白いザクに墜とされ、ガーディ・ルーに迫ってきたので撤退するとのことだった。
舌打ちして艦に戻るアウル。
艦に戻ったエクステンデッドの三人を迎えたのは、艦長ネオ・ロアノークの叱責だった。
更に機体を損傷させたステラを殴ることさえするネオ。
怒るアウルを、スティングは必死に押さえつける。
ミネルバでは、アスランがマユのインパルスが戦う映像を議長の許可のもとタリア艦長に見せて貰っていた。
「やっぱり動きが違う。最初の戦いの時とは全然・・・」
アスランの疑念は、確信へと変わる。
そんな彼を、レイと議長が見つめていた。
- 143 :名無しさん@そうだ選挙に行こう :2005/09/11(日) 19:13:40 ID:???
- 第二話
- 廃コロニー・ユニウスセブン。
今までただ静寂のみがあったそこが、急激に騒がしくなっていた。
「ブースターの取り付け急げ!巡視艇は破壊したな!?
気取られる前にケリを付けるのだ!」
素早く指示を出していくサトー。その表情に迷いはない。そこへ新たな報告が入る。
「隊長、例の物が届きました!」
「うむ、分かった」
「しかし・・・隊長、一つ疑問があるのですが」
報告した男が、不安げな顔をしてサトーに問いかける。
「我々にこんなMSとあんな人形のようなパイロットを渡して・・・あの男はいったい何を考えているのでしょう?
新型のテストをしたいなどと言っていますが、それなら他にも方法があるのではないでしょうか?
いったい何を考えて・・・」
「黙れ、オキタ」
そんな男を、サトーは一喝した。
「あの男の目的など、どうでもよい。我々は我々の為すべきことをするだけだ。わかったな!」
「は、はっ!」
その語気に気圧されたように、オキタと呼ばれた男のジンは持ち場に戻っていく。
それを確認して、サトーはため息を吐いた。
「それを言いたいのは私のほうだ・・・だが、今さら引き返す事はできんのだよ」
そう言って彼は送られたMS、リファインドブリッツとそのパイロット、茶髪で紅い目をした少年をモニター越しに見つめた。
機動戦士ガンダムS-DESTINY 影の少女
「どうか落ち着いて聞いてほしい、姫。
ユニウスセブンが地球に向かって進行中である、という報告を受け取った」
議長が発した言葉に驚くミネルバクルー、そしてカガリ。
更に議長はミネルバにユニウスセブンの破砕作業に加わり、その後カガリをオーブまで届けろ―――オーブが残っていたらの話だが、と命じる。
その言い方にキレるカガリだったが、議長にあっさり論破される。アスランに援護を求めようとするも、彼はもういなくなっていた。
アスランは廊下でルナマリアと話し込んでいた。目的はマユについて詳しく聞くため。
始めは楽しく話すルナマリアだったが、しつこくマユについて深いところまで聞こうとするアスランにイライラしてくる。
そしてカガリが狙われたという危機感から、早く情報を得たいとアスランも焦っていた。
結果、口喧嘩になる。
「いい加減やめて下さい!あの子は普通の子です、そんなに気にすることなんですか!」
「普通の子が軍に入れるわけないだろう!」
「努力しただけです、死ぬほど!親がいないあの子の気持ち、分かるんですか!?」
「じゃあ君は分かっているって言うのか!」
「分かりますよ!私だって親、いないんだからっ!」
言ってルナマリアは去っていった。しばらく呆然としたアスランは、言い過ぎたと後悔する。
- 144 :名無しさん@そうだ選挙に行こう :2005/09/11(日)
19:14:39 ID:???
サロンでは、マユ、ヴィーノ、ヨウラン、アビーの四人がユニウスセブンの話で持ちきり。
マユがしばらくしたあと、唐突に爆弾発言をした。
「いっそ落ちたほうが手っ取り早いんじゃないの?
間違いなく敵の連合もよく分からない立場のオーブも消えて、困らずに済むしね」
唖然とする三人。マユはそれを見て冗談だよ、と慌てて付け足す。
レイに極秘で指令を渡した後、迎えに来た艦でアーモリーワンへ戻る議長。
それを確認した後、ミネルバはユニウスセブンへ向かった。
しばらくしてユニウスセブンで破砕作業を行っていたジュール隊から通信が入る。
15機ほどのジンとアンノウンに襲われ、破砕作業を妨害されているとの事だった。
急いで対MS用装備に切り替え、出撃するインパルスとザク。
その途中、レイはマユに接触通信で議長からの指令を伝える。
それはRF(リファインドの略)ブリッツのデータ採取、ザクとジンが戦う様子の録画という指令だった。
「ふぅん・・・じゃああたしは敵を殺さなくてもいいんだ?オーブを助けなくても?」
「元から助ける気などないのだろう?」
レイの言葉にくすりと笑って、マユは通信を切る。
一方、ルナマリアはユニウスセブンを暗い表情で見つめていた。昔のことを思い出しながら。
「父さん、母さん・・・住んでたこれを壊さなくちゃいけないの・・・?」
彼女の両親が眠る、無機質な大地。その大地にビームが当たり、爆発する様子を見て思わず目を背けるルナマリア。
そこへジンが襲いかかる・・・が、そのジンはブレイズザクのライフルに撃ち抜かれた。
「ボーッとするな!死にたいのか!?」
叱咤したのは艦長の許可を貰って出撃したアスランだった。さっきの事が尾を引いているルナマリアは、怒りをぶつける。
「あなたに何が分かるっていうんですか!?このコロニーは・・・」
「俺の母だって、ここに眠っているさ。・・・君の親と同じくね」
「!?」
「タリア艦長から聞いたよ。君がユニウスセブンで両親を失った事は。
・・・だから砕かなくちゃいけないんだ。母上はここをこんなことに使われるのをきっと望んじゃいない!
君の親だって、そうだろう?」
そう言って、アスランは敵へ突っ込んでいく。ルナマリアも慌てて後を追った。
- 145 :名無しさん@そうだ選挙に行こう :2005/09/11(日)
19:15:40 ID:???
- イザークとシホはアンノウン―――RFブリッツをくい止めていた。
「くそ、何なんだこいつは!?強い・・・姿こそブリッツだが、この動きはまるで!」
思わず前大戦で戦ったストライクを思い出すイザーク。
更に悪いことに、ジンがメテオブレイカーに近づいているとの報告が入る。
イザークは覚悟を決め、シホもメテオブレイカーの防衛に加わるよう命じる。
シホはいくら隊長でも1対1ではやられてしまうと反対するが、イザークは更に強く命令を繰り返す。
だが、そこへアスランとルナマリアのザクが応援に駆けつける。
イザークはアスランに驚きつつも、シホの代わりにアスランとルナマリアに破砕作業の援護を頼むのだった。
マユはジン四機を同時に相手にしていた。しかしインパルスは回避に専念し、攻撃する様子はない。
「うざったいなぁ・・・さっさとメテオブレイカー壊しに行けばいいのに。
それとも、わざわざ攻撃してあげてないのを攻撃できないって勘違いしてるの?
せっかく任務じゃないから見逃してあげようとしてるのにさ」
それに答えるかのように、一機のジンが抜刀して斬りかかる。しかし、その右腕はインパルスに撃ち抜かれた。
更に左腕、右足、左腕、頭部。順番に撃ち抜いたあとくすりと笑って、残りのジンに通信を繋ぐ。
「どうする?あなた達もこうなりたい?邪魔しないんなら見逃してあげるけど?」
答えはジンがインパルスの前から逃げていくことで示された。それを見てマユは満足げな笑みを浮かべる。
「せいぜい頑張ってよ?落ちて貰ったほうがあたしは嬉しいんだから。さて、任務に集中しようっと」
そう呟いて、モニターをRFブリッツに向ける。ちょうどシホのザクが片腕を撃ち抜かれたところだった。
一方アスランとルナマリアは破砕作業を進めさせる傍ら、それを妨害するジンと戦っていた。
二人が加わったことで、戦闘は優位に働きつつあった。
ついに限界行動ぎりぎりで、ユニウスセブンは二つに割れる。
少し複雑な顔をするルナマリア、素早く次の作業に取りかかるアスラン。
- 146 :名無しさん@そうだ選挙に行こう :2005/09/11(日)
19:16:32 ID:???
- だがそこで、突如サトーのジンから戦場全体に向けて通信が入る。
「我らコーディネイターにとって、パトリック・ザラの唱えた道こそが、唯一正しい道なのだ!
それをこの墓標は示している!何故分からぬか!」
その声に戦場のほとんどのMSが動きを止める。ユニウスセブンの事件は、今だコーディネイターの中で悪夢として語られる事件だから。
それを破ったのはアスランの全体通信だった。
「違う!パトリックはただ、妻の仇を討ちたくてあんなことをしただけだ!そんな道が正しいものか!
それに、パトリックの妻はそうは思っちゃいない!
レノア・ザラはナチュラルの友人をたくさん持って、大切にしていた!」
「なぜ分かる!」
「俺が二人の息子だからだっ!」
その声に怯むサトー。その隙を見逃すアスランでは無かった。
苛烈な攻撃にサトーのジンは中破し、撤退を図る。
だがそこに現れたのは、レイのザクだった。
「あれを見た物を消す・・・それが俺の任務だ」
レイが呟くと同時に、ザクファントムのビームアックスがサトーのジンを両断した。
そしてレイは二人に限界行動のため帰還を提案し、自らも艦に戻っていった。
ザクとゲイツRが帰還していく様子を見て、RFブリッツはミラージュ・コロイドを展開、消えた。
こうなっては機体が小破しているイザークとシホに打つ手はない。シホと共にヴォルテールに帰還する。
完敗したことを悔しがるイザーク。だが一方、シホは帰還していくインパルスに目を向けていた。
「あのMS、ずっとこっちを見ていたみたい・・・戦闘に参加する余裕はありそうだったのに、どういうこと?」
タリアはMSを全機収容後、大気圏に突入しながらタンホイザーを発射し、ユニウスセブンを砕くことを決める。
危険だと反対するアーサーの意見を、どうせオーブにカガリを送り届けなくてはいけないのだと反論して退けた。
他の三人より先にミネルバに戻ったマユは一人で宇宙用テラスに行き、ミネルバのタンホイザーがユニウスセブンを砕いていく様子を曇った表情で眺めていた。
「そのまま落ちちゃえばよかったのに・・・」
その呟きは、誰にも聞かれることは無かった。
- 338 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/17(土) 22:40:24 ID:???
- 第三話
- オーブ官邸ではセイラン親子が善後策を講じていた。
「我がオーブもある程度の被害を受けたか…これでは、民衆もザフトへの制裁を望むだろう」
ウナト・エマ・セイランが悩ましげに言った。
「困った物だ、オーブのルールは常に何よりも自国の安全を優先する…他国の争いを脇で見ながら発展する。
そのための裏工作をするのがセイラン家であり、サハク家なのにねぇ。仕事が増えそうですね、これじゃ」
ユウナ・ロマ・セイランが独特のしゃべり方でのんびりと言った。
「そうだ…せっかくそれを勘違いしたウズミの馬鹿者が死んでくれたというのに。
ギナも死んでしまうし、先が思いやられる…」
「まぁまぁ父上。連合に対しては表面上だけ取り繕えばいいのですよ。
僕らにはプラントへの切り札があるでしょう?議長殿がお喜びになる、とっておきのプレゼントがね」
そう言って、ユウナはモニターの電源を入れた。
そこには暗い監獄と、そこにいる少年が写される。
彼の名前はシン・アスカ。
だが、彼の顔には、何の表情も浮かんでいない。まるで、死んだ魚のように。
機動戦士ガンダムS-DESTINY 影の少女 オーブでの一幕
ミネルバは、何の障害もなくオーブ近海までたどり着いた。既に入港許可も出ている。
カガリはひとりその甲板から、自分の国を眺めていた。
「帰ってきたのか…何もできずに!」
思わずそう愚痴を垂れる。先ほどまで艦内で見ていた放送を思い出したのだ。
ミネルバ艦内のテレビに、一人の男が映っている。
「ご覧下さい!この惨状を!」
ブルーコスモス新盟主、ロード・ジブリールが地球の各地へ向けて演説を行っていた。
彼の背景に写る写真には、ユニウスセブン落下による被害を受けた人々の写真が映し出されている。
「世界各地で、このような事を見ることができます…それほどの悲劇です!
被害者は十万を越えるとの報告すら入っています!なぜ、このような事態になったか!
それは、あの宇宙(そら)にコーディネイター共がいるからです!」
ジブリールは最後の一行を大声で、かつ腕を突き上げながら言った。
「このような惨劇を引き起こした奴らを、放置して置くわけにはいきません!
奴らはいつでも地球を滅ぼせるのです!こちらが殺らなければあちらが…」
そこまで聞いたところで嫌になって、カガリはその声が聞こえない場所へ逃げ出した。
大西洋連邦、ユーラシア、プラント。諸国を巡った結果がこれだ。
「このままじゃ、またザフトと連合が戦うことになってしまう…」
「そんなこと、心配してる場合ですか?」
「え?」
声がしたほうを振り向くと、マユが挑戦的な目つきで立っていた。
- 339 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/17(土) 22:41:26
ID:???
- 「オーブにだって破片はいくらか落ちたんでしょう?そっちを心配するのが筋じゃないんですか?」
「な、マユ?そりゃ、そっちだって心配だけど…」
「それに、オーブだって今回は中立というわけにいきませんよ。被害を受けたんですから」
「だ、だけど、オーブはいつだって中立で…平和の形を示して」
カガリはとまどっていた。当然だ。
彼女はマユは明るい、普通の女の子だと思っていた。マユに疑念を持っていたのはアスランだけだ。
こんな厳しい言い方と目つきをする子だとは思っていなかった。
「世界平和のほうがオーブより大事ですか。あなた達にとって、オーブは何なんです?
世界を平和にするためのモビルスーツと兵士の生産工場ですか?」
「ち、違う!世界が平和になればオーブも平和だろ、だからオーブはいつだって中立で・・・」
「そうやって、連合にまたやられるんですか?あたしのような、孤児を量産するんですか?
どこまでも無能ですね、あなた達親子は」
「お、おまえ!」
カガリが怒りのあまり顔を紅潮させたが、マユは涼しい顔で続ける。
「オーブ一国平和にできない無能に、世界が平和にできるわけないでしょう。
理想を語りたいなら…いえ、『騙』りたいなら宗教でも作ったらどうです?」
「!!!」
「マユー!?どこ行ったのー!?」
カガリがそれに反論しようとした瞬間、遠くからルナマリアの声が響く。マユは思わず舌打ちした。
自分の本当の性格は、ルナマリアには見せられない。本当はこの馬鹿女にも見せる気は無かったが、あまりに腹が立ってついやってしまったのだ。
「ふぅ…あたしもまだまだ子供ね。じゃ、さよなら」
明らかに子供の姿でそう言って、マユは立ち去った。
カガリにできることは、ただそこで呆然と立っていることだけだった。
ミネルバはオーブの港に入港し、カガリとアスランはオーブへ戻っていった。
「やっと…といったところかしら。これからも大変でしょうし…」
そうぼやきながらもタリアは艦長席で伸びをした。ブリッジには彼女とアーサーを除いて誰もいない。
クルーの大半には休息のため自由行動を与えているが、彼女は艦長である以上そうそう艦を離れるわけにはいかないのだ。
ため息を吐きながらも副長のほうを見ると…席で居眠りをしていた。
「…アーサー。居眠りしてないでちゃんと」
「艦長?あの、いいですか?」
いつのまにかブリッジに入ってきたルナマリアが、所在なさげにタリアに話しかけた。
「ん?どうしたの」
「マユと一緒に行こうと思ったんですけど部屋にいなくて。少し艦内カメラの記録を見てもいいでしょうか?」
「ああ、それなら私がやるわ。ただじっとしているのも飽きたしね…どうやら射撃場にいるみたいよ」
「ありがとうございます、艦長!」
そう言って走り出すルナマリアを見て、タリアはため息を吐いた。
「ホント、マユに入れ込んでるわねルナマリアは。
死んだ妹の代わりを求めるのは彼女の勝手だけど…戦場では少し危ないんじゃないかしら?」
- 340 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/17(土) 22:42:40
ID:???
- 「…行かない」
「えー、行こうよ!せっかく故郷に戻ってきたんじゃない!」
ここはミネルバの射撃場。マユはここで一人、射撃練習をしていた。
ルナマリアは一緒に遊びに行こう、と提案したのだがマユはそれを拒否したのだ。
「故郷だから、行かないの」
そう言ってルナマリアを振り向かず、射撃練習を続けるマユ。
その態度にルナマリアは少しムッとした。
「なんか最近、怖いよマユ。どうしたの?」
「…どうもしてないよ」
「なら行こうよ」
「行かない」
「行こうよ!ね、面白いところ案内してよ!」
「…分かったよ、行くよ」
マユはため息を吐きつつ、折れた。一つの条件を出して。
「そのかわり、私に付いてきて。一つ確認したいしたいことがあるの」
「…くそっ!」
イライラしながらカガリは廊下を歩いていた。何もかもが腹立たしい。
ユウナのヘラヘラした態度、ウナトの偉そうな態度、マユの賢しい態度。そして…自分の無力さ。情けなさ。愚かさ。
拳を握りしめながらアスランの部屋の前に立った。愚痴でも聞いて貰おうと思ったのだ。
「おい、アスラン、いるか?」
「カガリ?ちょうどいいところに来た。見せたい物があるんだ」
「え?見せたい物?」
そう言ってカガリは部屋に入る。アスランはパソコンの前に座って手招きしていた。
「これを見てくれ」
「これは…デュランダル議長からのメール?」
『お久しぶり…というには、日が経っていないかな。
ともかく、用件だけ言おう。
ユニウスセブンの落着で、地球ではブルーコスモスを支持する者が多数出ているようだ。
更にまずいことに、新型MSの強奪、条約違反のミラージュコロイド使用艦の出現でザフトの世論まで過激になっている。
ユニウスセブンを落としたザラ派テロリストを支持する声まで出てきているのだ。自然、ザラ派も台頭しつつある。
そこで、君の力を借りたい。
パトリック・ザラの息子である君が演説をすれば、ザラ派に大きな影響を与えることができる。
既にこちらに来ているラクス・クラインと共に演説すれば、その効果は更に絶大だ。
君の立場は分かっている。だが君の故郷のために、プラントに住む一個人としてよい返事を願う』
- 341 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/17(土) 22:43:32
ID:???
- 「ラクス!?ラクスがプラントに来てたのか!?ずっと行方不明だった!」
「ああ…らしいな」
興奮するカガリ。当然だ。ずっと行方不明だった友人が見つかったのだから。
だが、アスランの表情は対照的に重い。
「どうした?アスラン。行く気になれないのか?」
「いや、行きたいさ。父の残した置き土産を俺が消せるんならそうしたい。
プラントの内情も知りたいし、ラクスにも会いたいしな…キラもいるかもしれない」
そう言いながら、アスランはマユの姿を思い浮かべた。彼女の裏に、何か後ろ盾があるとすれば…
それはプラントだけではない、世界の危機だ。それを探るのもいいかもしれない。しかし…
「だが…オーブは連合と同盟を組むことに決まったんだろう。俺がプラントに行っていいのか?」
「な、なんで知ってるんだお前!?」
「ユウナに聞いたよ。まだ君が不満だったら俺が説得しろだとさ」
「あ、あいつ!」
憤慨するカガリだったが、アスランはやはり冷静だ。
「確実に疑われるだろう。下手をすれば連合に攻められかねない…」
「ああ、それは問題ないよ、アレックス」
「な、おまえ!?」
二人が振り向いた先に、開けっ放しだったドアから入ったユウナが立っていた。
「あいつ呼ばわりとはひどいねぇ、カガリ。
それはさておき、アレックス。ちょうどザフトにプレゼントしたい物があるんだよ。
そこで民間機に偽装したシャトルを用意したんだが…君もそれに乗せてあげよう」
「ザフトにプレゼントォ!?」
「…何のつもりだ?連合との同盟を推進したのはセイラン家だろう?」
「そりゃあもちろん、ザフトとのパイプを残しておくためさ。
こうすれば連合が勝ってもザフトが勝ってもオーブはいい待遇を受けるだろう?
理想を語るだけじゃ、国は守れないからね」
素っ頓狂な声を上げたカガリと疑わしげなアスランの視線を気にもかけず、いつも通りの軽い調子でユウナは答えた。
「ただし乗る場合、積み荷は絶対に見ないという条件付きだがね。どうする?」
「おい、どうするんだ?」
「俺は…」
- 342 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/17(土) 22:45:09
ID:???
- マユとルナマリアは、ある豪邸の前に来ていた。
その豪邸は規模こそ大きいものの庭は草が荒れ放題であり、主がいないことを物語っていた。
「ねぇ、マユ…ここって?」
「あたしの『元』家」
「え!?」
驚くルナマリアをしり目に、マユは指紋照合式の鍵を開けてその家に入っていく。
ルナマリアは戸惑いながらも、マユに続いた。
「中は思ったより荒れてないのね。やっぱりみんなアスカ家の一族を捜してたのかしら…馬鹿らしい」
マユは笑みを浮かべて言った。そんな人々を嘲笑するかのように。
「マユ…あなたって、実は結構なお嬢様だったの?」
「結構な、なんて物じゃないよ?なんせ…アスハ家とは親戚関係にあるんだから」
「え、ええ!?」
また驚くルナマリア。マユはため息を吐いた。
「昔、オーブに兄弟がいたそうよ。
そしてその片方は政治家としてオーブの建国に尽力し、片方はモンゲレーテの原型の会社の幹部として尽力した」
「それが…アスハ家とアスカ家?」
「ええ。二つに別れた時点で名字を変えたらしいよ、ご先祖様は。もっとも一文字しか違わないけど。
その後もアスハは公の主導者として、アスカは民の主導者として活躍していった。
そんなわけでこの二つの家はしょっちゅう政略結婚したそう。私のお兄ちゃんも、カガリと婚約する案が持ち上がってたんだから」
「へぇ。でも何でそんな家が…その…」
「こうなったか、って?簡単よ。政府の命令でアストレイシリーズを密造したのが、連合にばれちゃったの。
アスカ家はその責任をとらされて、モンゲレーテをやめさせられた。
アスハ家は復職を約束したけど…それが命取りになったのね。
オーブが攻められたときアスカ家は、モンゲレーテ社にあるシェルターに入ろうとした。実際入れるはずだった。アスハに許可を貰っていた。
だけど、モンゲレーテ社に入れなかった。社員じゃないからって。理由は知らないけど、政府の手違いかな。
ともかく、あたし達は他のシェルターに走るしか無かった…そして」
「い、いい!いいよ、マユ、もう!ごめん、聞くべきじゃなかったよ…」
暗い顔で話すマユを見て、ルナマリアは慌てていった。
「別に気にしなくていいよ。あたしだって前にルナ姉ちゃんの親や妹が死んだときの話を聞いたし、これでおあいこだよ」
「だけど…私とマユのケースは全然違うよ…」
「…そう。だから来たくなかったんだ、こんな国。許せないもの。
私は家族みんなが死んだあと、できるだけの資金を持ってザフトに移住して、金を使って軍に入れさせた。
自分の身を守れるように。誰もあたしを傷つけられないように」
そう言うマユの目は、冷たかった。ルナマリアにできることは、ただその場に立っていることだけだった…。
- 457 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/23(金) 18:17:08 ID:???
- エターナルU。
かつてザフトの物だったこの艦は、今は逃亡した少年少女達の物となっていた。
「間違いないと思いますよ。カナードさんが手に入れた情報ですし」
桃色の髪をした少女、メイリン・ホークが念を押した。
「となると、行かなくちゃいけないんじゃないの?やっぱさ」
黒肌金髪の軟派そうな青年、ディアッカ・エルスマンがまるでおつかいにでも行くような調子で言う。
「簡単に言うわよね、あんた。かなり難しい任務になるわよ?ザフトに気付かれる前にやらないと」
茶髪の少女、ミリアリア・ハゥがたしなめる。
「でも、僕たちはいかなくちゃならない。これ以上デスティニープランの犠牲者を増やすわけにはいかないからね」
茶髪でアメジスト色の瞳を持つ少年―――キラ・ヤマトが言った。
「総員、第二種戦闘配置!モビルスーツ、最終チェックを急がせて!
僕はストライクフリーダムで出るよ、メイリンは艦長代理頼むよ!」
「え、でもあれって未完成ですよ?サーペントテールの皆さんの改修が上手く行ってるかも分かりませんし…」
「短時間の戦闘なら大丈夫さ」
機動戦士ガンダムS-DESTINY 再会
「プラントへ、帰るのか…」
アスランはシャトルの中から地球を見ながら呟いた。それにはオーブがぽつんと写っている。
「プラントへ行くんなら、それなりに覚悟しておいた方がいいんじゃないかな、アレックス?」
「覚悟?どういうことだよ!」
ユウナの言葉にカガリが食ってかかった。だがアスランは冷静に答える。
「いくらパイプを残すと言え、それは裏の話。
表向きはオーブとザフトは敵対関係になるんだから、いったん言ったら戻るのは困難…そう言いたいんだろう」
「さすがはザラ議長のご子息だね。よく分かってる」
ユウナが笑顔で褒めたが、嫌味にしか聞こえない。
それを無視してアスランはカガリの方を向いた。
「カガリ、君がどうしても行くなって言うなら俺は…」
「いや、いいよ。行け。ずっといなくなってたラクスだっているんだし、それでプラントの主戦派が収まるんだったら嬉しいしな。
…そのかわり、条件がある」
すねた顔で、それでもどことなく心配そうにカガリはいった。
「まず、戦争が終わったら絶対帰ってくること。それと、一回でいいからラクスをオーブに来させることだ」
「なんでラクスまで?」
「ずっといなくなって心配かけたんだ。ぶん殴ってやらなきゃ気がすまないだろ!
お前も心配かけたらラクスと一緒にぶん殴るからな!」
その言葉にユウナは大爆笑し、アスランも思わず笑ってしまった。
- 458 :2/5:2005/09/23(金) 18:18:28 ID:???
- 「全く、カガリらしいな」
思い出し笑いしていると、シャトル内に突如警報が走った。
アスランは急いでシャトルのキャプテンに呼びかける。
「いったいどうしたんだ!?」
「宇宙海賊だ!前後を囲まれた!」
「なにっ!?」
それと同時に、シャトルの目の前に一機のモビルスーツが立ちはだかる。
アスランはその姿を見て驚かざるを得なかった。
「フリー…ダム!?」
そんな彼に追い打ちをかけたのは、通信機から流れるそのモビルスーツのパイロットの声だった。
「無駄に命を奪いたくはない。積み荷を渡せば見逃す。
…ただし、拒否するというのなら強引に奪わせてもらう!」
その声は、まさしくキラ・ヤマトの声だった。
一方、マユとルナマリアはオーブ最大のデパートで買い物中だった。
もっとも買うのはルナマリアばかりで、マユはくだらなさそうにそれを見ているだけだったが。
「ねぇ、マユ!これいいと思わない?」
「いいんじゃない?」
「この服も可愛いよね〜」
「うん、そうだね」
「このアクセサリーもさ〜」
「…あのさ、あたし他に寄りたいとこあるからここで買い物してて」
いらいらした顔をしてマユが言った。そんなマユにルナマリアは心配そうな声を返す。
「一人で大丈夫、マユ?迷ったりしない?」
「馬鹿にしないで。たかが買い物で迷うなんて、子供じゃあるまいし」
「何なら一緒に…」
「いい。すぐ済むことだから一人でいい」
「…そこまで言うならいいけど」
しぶしぶ、という感じでルナマリアは言った。
- 459 :3/5:2005/09/23(金) 18:19:24 ID:???
- フリーダムに乗っているのがキラだと気付いたアスランは、シャトルの通信機に走った。
「こんな所で何をしているんだ、お前は!?」
「アスラン!?何で君がそれに…」
「それはこっちのセリフだ!前の大戦のあと、みんなお前を捜していたんだぞ!
そんな物に乗って何をしている!」
叫ぶような調子のアスラン。だがそれに答えるキラの声は、氷のように冷え切っていた。
「人助けさ。それも、僕と同じ境遇の人間をね。
…アスラン、君はそのシャトルが何を運んでいるのか知っているのかい?」
「シャトルの荷物とお前がやっていることに何の関係があるって言うんだ!」
「あるさ。それも密接に。そのシャトルには…」
「おい、キラ!敵だっ!」
キラの通信機ごしに、シャトルの後ろにいた黒いザクのパイロットの声が聞こえた。
その声もまた、アスランのよく知っている声だった。
「ディアッカ……!!?おい、キラ!どういうことだ!」
それに対応する声はない。突然現れた謎のモビルスーツにより後ろにいたザクが半壊、フリーダムは戦闘に入っていた。
そしてその相手のモビルスーツの姿は…
「ユニウスセブンでイザークと戦っていたブリッツか!?どうなってるんだよ、いったい!」
思わず壁を殴りつけるアスラン。もう彼にはどうしてこうなっているのか理解不能だった。
一番早く立ち直ったのはシャトルのキャプテン。素早く指示を出した。
「よし、今のうちに逃げるぞ!方向修正急げ!」
「だ、だが!?」
とっさに異を唱えようとするアスラン。
「俺の任務はあくまであんたと荷物を送ることだ、あいつらの調査は含まれていない。
調べたきゃあんたがプラントで調べてくれ。俺は巻き込まれて死ぬのは御免だ」
「くっ…」
見事な反論。事実だった。アスランは黙るしかない。
何も分からぬまま、シャトルはその場を離れていった。
- 460 :4/5:2005/09/23(金) 18:20:23 ID:???
- 「シャトルが!?くそっ!」
キラは思わず拳を握りしめた。せっかくここまで来たのに…!
だが、敵はまだいる。ディアッカを見捨てるわけにはいかない。キラは気持ちを切り替え、ビームライフルをRFブリッツへ放つ。
しかし、RFブリッツのトリケロスはそのビームをあっさり曲げた。
「こいつ、連合のガンダムと同じ装備まで追加したのか!?…ならっ!」
ストライクフリーダムの背部ユニットが持ち上がり、アルミューレ・リミュエール―――全方位ビームシールドを機体の周囲に展開する。
そしてビームサーベルに持ち替え、ブースターを噴かして接近を図る。もちろん、そのままただで接近できるはずもない。
RFブリッツがビームやランサーダートを放った。いくつかは直撃コース。
しかし、それらは全てアルミューレ・リミュエールに防がれた。
そのまま一気に接近するSフリーダム。だが、ビームサーベルを振り上げた途端RFブリッツが消えた。
「くっ!またミラージュコロイドか…」
急停止し、回りを探るキラ。
全方位をカバーするアルミューレ・リミュエールを展開していれば、隠れたまま攻撃されても防げる。
「攻撃が出てきたところを撃てば!」
そう思いながら見渡す…その瞬間、何か光った。
とっさにSフリーダムをのけ反らせる。その前をビームで光った槍が通過した。
「バリアを貫通した!?」
素早く後退するSフリーダム。しかし、警告が入り、同時にアルミューレ・リミュエールが消えた。
「エンジンが強制停止!?くそっ!」
その一瞬の隙に、槍が向かってくる。
かろうじて回避するも、槍と機体とを繋ぐ糸に触れた左腕が切り取られる。
「糸にもビームが張られているのか!」
思わず歯がみするキラ。勝ちを確信したか、RFブリッツが姿を現れた。
「まだだ!主電源を予備バッテリーに切り替えれば!」
素早く操作し、ロックも無しに目視でフルバーストを放つ。背部ユニットから発射したビームがRFブリッツの左足を奪い去った。
すぐさまRFブリッツは素早く後ろを向いてその場を離脱、その途中でミラージュコロイドを展開して消えた。
「撤退した、って考えてよさそうだ。ディアッカ、無事?」
「なんとか、な…」
通信機からは少し弱々しい声がした。見ると負傷している。二人掛かりということを考えると完全敗北した、と言っていい。
思わずキラは「くそっ」と毒づいた。だが、そんな余裕はない。素早く頭を切り換える。
「ザクの腕でフリーダムの右手を掴んで。ザフト正規兵に見つかる前にエターナルに戻るよ」
「ああ…シャトルは?」
「見失ったよ。今頃ザフトの…議長の手に入ってるさ。僕をずっと閉じこめていたあいつの手にね…」
キラが忌々しそうに言った。
- 461 :5/5:2005/09/23(金) 18:21:10 ID:???
- 一方、オーブ官邸の応接間ではウナトが珍客をもてなしていた。
「あなたがザフトの特殊士官…でよろしいか?」
「ええ」
金の長髪の青年…レイ・ザ・バレルが冷静に答える。
「これを。オーブからのもう一つの手みやげだ」
「ディスク…なんのデータを?」
「サハクが開発した、コロイド技術を応用し機体エネルギーを吸収する特殊装置のデータだ。
そちらが欲しがっているとい聞いた物でね。
またおまけとして、あなたの艦を狙ってオーブへ向かっている連合艦隊のデータもお付けした。
もっともいかんせん時間が無かったため、モビルスーツの種類や量は分からないが…」
「いえ、それだけで結構です。ありがとうございます。貴国の好意は議長へお伝えしておきましょう」
「ありがたい。これからも、オーブはプラントの味方ですぞ」
それだけ聞いたのち、レイはディスクを受領してその部屋を出る。
そして無表情なまま吐き捨てた。
「あくまで『ザフトが勝ったら』味方なのだろう…狸が。まあいい、保険は既に掛けてある」
「ここがこのビルの空調管理施設ね」
一人、換気用ファンが大量にある暗い部屋に立ってマユは言った。
その顔には血の滴らしき物が数滴付いている。
「来る途中で見つかっちゃうとはあたしも未熟だな。ちゃんと事故死に見えるよう処分したから問題無いけど。
さて、任務をしようかな」
そう言ってマユは懐から密封されたシャーレを取りだした。
「みんなが降りた後一人でこっそりミネルバから降りて気付かれないように任務を遂行する予定だったのに、
ルナ姉ちゃんったらしつこく付きまとってくるし。気持ちは嬉しいけど、迷惑だよ」
ぶつぶつ言いながらシャーレの中の粉をファンに向けて散布するマユ。
そんな彼女に答えるのは換気扇の重苦しい音だけだ。
「ま、結果は変化しなかったから文句無いか。うまく馬鹿アスハにまで感染してくれるといいんだけど」
そうして彼女はくすりと笑った。復讐と嗜虐の快感を合わせた、暗い笑みで。
- 87 :通常の名無しさんの3倍:2005/09/30(金) 20:03:46 ID:???
- 「……ふぅ」
落ち着かない。
この感覚には慣れたはずなのに、またぶり返している。
「……」
ビデオの内容が写されているモニターを見る。
そこにはわたし…いや、わたしと同じ顔、同じピンクの髪を持つ少女が演説をする様子が写っていた。
あくまで強気に、迷い無く。ビームが交錯する、恐ろしい戦場の中で。
「怖く、無かったのかな…」
「それは君が良く知っているはずだ。君がやったことなのだからね」
「議長さん…」
声の人物は、わたしが初めて「知った」人物、ギルバート・デュランダル議長だった。
もちろん、前のわたしだったらもっとたくさんのひとを知っているんだろう。
でも、それは…
「だけど、わたし…」
「『記憶が無い』かね?
大丈夫、君なら、ちゃんと演説を成功させてプラントの皆様を平和と導かせることができる。
練習ではちゃんと言えたし、歌えただろう?」
「…そうだと、いいんですけど。私、分からないんです」
「何が、かね?」
そうやって優しく話しかけてくれる、この人はパパみたいだ。優しくて、あったかくて。
わたしには、パパ「だった」人の記憶なんて無いけど。
「なんだか、自覚が無いんです。
前の自分が凄すぎて…今の自分とは違いすぎて、とてもわたしだとは…」
思わず声が震える。怖くて。かつての自分が持っていた物が、怖くて。
そんなわたしに、議長さんは諭すように言ってくれた。
「そんなことはない。あれが君本人だというのは、あらゆるデータも実証しているさ。
なあに、ずっとやれば分かってくる」
「そう、でしょうか?」
「そうさ。遺伝子は、君が君であると記してあるのだからね。彼女ができたことは君ができて当然なのだよ」
「……はい」
それでもわたしの表情は、まだ不安げだったのだろう。議長さんは切り口を変えた。
「ふむ。そんなに不安なら、アスランに会ってきたらどうだ」
「アスラン…アスラン・ザラ」
思わずその名前を反復する。
かつて、わたしの婚約者だった人。私をよく知っている人。
たった一人だけ、「わたし」を前の「私」につなげてくれる人。
「外に車を手配させよう。そろそろ港に着くはずだから、行ってきたまえ」
「は、はい!ありがとうございます!」
議長さんの気遣いに感謝しながら、わたしは部屋を出た。
機動戦士ガンダムS-DESTINY 絶たれた過去
- 88 :2/4:2005/09/30(金) 20:04:31 ID:???
- ミネルバクルーは急いで出航するため、艦に呼び戻された。無論、パイロット三人も。
「まーったく、何で急に召集されなきゃいけないのよー」
ルナマリアが頬を膨らませながらぶーを垂れた。それにレイが反論する。
「諜報部が連合艦隊の接近を知らせたんだ。しょうがないだろう」
「タイミング悪すぎ。マユはまだ一個も買ってなかったのよ?おみやげ」
「いや、あたしは別におみやげいらなかったし…」
マユは笑顔で否定して、軽くレイの肩を持った。それが余計ルナマリアには気に入らなかったらしい。
「だいたい諜報部って何よ?いっつも所属コードだけ明らかにしてどっからか情報送ってくる、怪しさ抜群の組織じゃない。
名前も顔も明かさないなんて、送った奴が凄い馬鹿だったらどうするのよ?」
ルナマリアのその言葉に、レイは眉をつり上げ、辛辣な言葉を言い放った。
「土産を買ったはいいが財布を忘れ、マユに金を払ってもらった馬鹿の言うことではないな」
「な、なんですってぇ!?…なんで知ってるのよ!」
「マユから聞いた。怒鳴ってる暇があったら部屋から借りた分の金を持ってきたらどうだ?」
「くっ…はいはい、分かりましたよっ!」
怒りを軽く受け流され、壁に八つ当たりしながらルナマリアは艦の廊下を歩いていく。
その様子を見て、マユは彼女に聞こえないように配慮しつつため息を吐いた。
「結構、子供というか単純というか。気を遣ってくれるのはありがたいから、そこだけ直して欲しいなぁ」
「お前が言うな」
「レイだって、『怪しさ抜群』だの『凄い馬鹿』だの言われて軽く怒ってるんじゃない?」
レイの突っ込みに素早く切り返すマユ。だがレイは軽くいなした。
「その怒りをうまく扱うのが大人というものだ。それより戦闘にでる心の準備をしておけ」
「え、何で?」
「セイランはあくまで中立を望む…汚い手を使ってでも、だがな。そいつらがザフトだけに情報を渡しているはずがない」
「なるほど…そうゆう」
「マユ、ストップだ」
話はそれで打ち切りになった。アビーが前方から急いで走ってきたからだ。
一般兵の前で話せる内容ではない。
「マユ、ここにいたの?」
「何、アビーさん?」
「あなたにお客さんよ。それもビッグな。外にいるから急いで会ってきたら?」
「ビッグな…?」
- 89 :3/4:2005/09/30(金) 20:05:17 ID:???
- 一方アスランは、プラントに到着していた。そんな彼を出迎えたのは、紛れもない…
「えっと…アスラン、ですよね?」
「ラクス!?」
思わず驚くアスラン。どことなく以前とラクスの様子が違うようにも感じたが、そんな事より聞きたいことが山ほどあった。
「本当にいたんだな。今まで二年間どこ行ってたんだ?何でここに?」
「あ、わたし、その…」
「連絡がちっとも無かったけど、何か事件に巻き込まれてたのか?」
「えっと…そういう話は後にしません?とりあえず車に乗りましょうよ」
「…?分かった」
ラクスの態度に疑問を感じるアスラン。
話し方や物腰が以前と微妙に違うし、明らかにこの話題を避けている。
とりあえずラクスと共に車に乗り込み、運転手に運転を任せ議長の待つ官邸へ向かう。
その途中、アスランはラクスに違うことを聞くことにした。
「プラントはどうなっているんだ?」
「とりあえず、政府は今のところユニウスセブンで被害を受けた地域の救助に回ってるだけみたいです。
戦争が起きないように交渉も行ってるみたいだけど、成果は無いって議長さんが嘆いてました」
「世論はなんて?」
その問いに、ラクスは少し考えてから答えた。
「かなり過激になってます。こっちから宣戦布告してしまえなんて言いだしかねないぐらい。
多分原因は地球や月でのコーディネイター迫害。
子供のいじめなんかしょっちゅうで、傷害事件や殺人事件も起こってるとか。
それどころか基地に対しテロが行われた、ってのもあったそうで…」
「アーモリーワンの他にも?」
「はい」
うなずくラクスを見て、思わずアスランは愚痴を垂れた。
「何のために前大戦で俺達は頑張ったのか、分からなくなってこないか?」
「ええ、まあ」
「カガリだってずっと頑張ってきたのに…」
「そ、そうですね」
「…。何か君、おかしくないか?」
明らかにこちらに合わせる様な調子で返事をするラクスに、アスランは思わず問いつめた。
その言葉に、ラクスは泣きそうな表情をした。
「あ、ごめん。何か悪いこと言ったかな?」
慌ててなだめにかかるアスランに対し、ラクスは首を振った。
「いいんです。最初に言っておくべきでしたね。
わたし…記憶を無くしちゃったんです」
「…えっ!?」
- 90 :4/4:2005/09/30(金) 20:06:19 ID:???
- 「まさかあなたに会えるとは思いませんでした。何の用です?」
マユは壁に寄りかかって腕を組みつつ、一国の代表にそう言い放った。
一介の軍人が国家代表に取る態度ではない。しかし…彼女はオーブにおいてはただの民間人ではない。
「…君がアスカ家の唯一の生き残りであることは、聞かせて貰った」
カガリは目を逸らしながら、そう言った。マユの眼光がいよいよ鋭い物となる。
「へぇ。じゃああたしはあなたをカガリお義姉さまとでも呼べばいいのかな?」
「よせよ。シンとの婚約は解消されたんだし…」
「ええ、あんたらが殺したんだもんね。間接的にだけど」
マユの態度はとりつく島もない。それでもカガリが必死に話を続けた。
「その件については…その…父の分まですまないと思ってる。そこで、せめて補償がしたいんだ」
「……」
「オーブに住めるように超法規的措置で手配する。資金から土地から学校から全部だ。
何ならアスハ家の次女として迎えてもいい。五大氏族の一員として…」
「却下」
辛そうに話すカガリに対し、マユは冷たく言い放った。
「その程度の補償なんていらない。アスカ家の遺産がまだ億単位であるからね。
だいたい、あんた本当に父の分まで悪いと思ってんの?」
「あ、ああ!」
「この件についてはあんたの馬鹿親父に責任があるとは?」
「お…思って…る」
「意地を張って、連合との同盟を締結しなかったことまで?」
「……そ、それは」
明らかにしどろもどろになっていくカガリを見て、マユはくすりと笑って言葉を紡いだ。
「じゃあさ、土下座して言ってよ。『私の父親は間違った国策を行い、国民を死なせた愚かで無能な為政者です』って」
「!!!」
あんまりな言いぐさに絶句するカガリ。その様子を見て、マユは壁から背中を離した。
「結局自分の父親は間違っていなかった、そう思ってるんだね。ただ父親の罪を消して自己満足したいだけか」
「ち、違う!」
「違わない。あんたの父親が正しかったら、当然責任なんて無いでしょ。
結局あんたはあたしという父親のミスから生まれた存在を自分なりに助けて、父親のミスの具現を消して、
父親が完璧な人間だと思いこみたいだけなんだ。
こんな馬鹿が治めてるんじゃ、まだ軍にいたほうが生存率が高いかな」
そう言うだけ言って、マユは艦に戻っていく。カガリはその背中に叫ぼうとした。
「違う、私は、私は…っ!」
しかし、その声は喉で止まった。反論する言葉が、全く思いあたらなかったから。
「う…うう…っ!!!」
カガリは泣いた。父親のやったことが信じられなくなりつつある自分が、悔しくて。