267 :通常の名無しさんの3倍:2005/06/28(火) 13:02:58 ID:???
第十四話
 オーブを脱出したミネルバ。ブリッジでは、ミネルバ艦長・タリア、元オーブ元首・カガリ、通信で参加のプラント最高評議会議長・デュランダル、そしてインパルスパイロット・マユで、非常に政治的な話し合いが行われた。
 マユは、オーブでの戦闘行為の責任を追及されるため、こんな場違いなところにいるのだと考えた、カガリの存在を意識すると居心地の悪さはさらに増す。ところが、その話題は早々に上り、処分はタリアに委ねられただけだった。

 ミネルバの食堂、ルナとメイリン。妹は、姉に大きな不安を打ち明けていた。マユの処分について、である。メイリンの独断もマユ暴走の範疇に入っているので、マユの罪が水増しされたのではないかと、気が気ではない。
 しかし、ルナはさして心配しているようでもないので、専らメイリンを落ち着かせることに心を砕いている。一応は、メイリンを落ち着かせて、二人は食堂をあとに。
 そんな姉妹のやり取りに聞き耳を立てていたヴィーノとヨウラン。ところが、覚えているのは妹の狼狽ぶりばかり、二人の会話はおのずとマユに下される処罰に集約される。
 しばらくして、佳境に入った整備士二人の話は、食事休憩をとってきたアーサー副艦長の耳に入るのであった。

 オーブ事件や地球の説明をタリアとカガリから受けたデュランダルは、戦争そのものが目的ならガンダム強奪は連合の手によるものかもしれない、と漏らす。タリアはその意見に否定的だが、カガリは有りうる話と感じる。ちなみに、マユは黙ったまま。
 ここで、デュランダルからマユにザムザザーと手合わせした時の率直な感想を求められた。マユは、ここにいる理由がやっとわかった。

 妹の言葉が気になったルナは、杞憂と知りつつもレイに相談。彼は開口一番、議長はそんなことしないと断言した。最悪、あっても除隊処分でその後の面倒はちゃんと見てくれるとも付け加えた。
 ルナには予想通りの返答だった。議長がレイの養父であることは知っているが、実際耳にタコができるほど、ルナはレイからデュランダルの素晴らしさを聞かされている。そんなレイの身びいきを差し引いても、ルナも概ね同じ見解だった。

 その頃、アーサーはメイリンを抱えて医務室にいた。
 ヴィーノ達の話を聞いて不安になったアーサーは、より詳しい話を聴くためにメイリンの元へ。ヴィーノ達の誇張が多分に混ざったマユが受けるであろう極刑のおぞましさに、メイリンは気を失った。
 その医務室で、「マユはインパルスに蝕まれている」という自説を曲げない医者の言葉にあてられて義侠心をたぎらせたアーサーは、何一つ事実確認をしないまま、マユのために決起した。

 マユはザムザ・ザーとの戦いを一通り語った。新技術だけを勝算に戦争を仕掛けてくる訳ではないだろうが、その性能にデュランダルは素直に驚いた。
 デュランダルの都合で、この会談は幕を引く。デュランダルは非常に有意義だったと述べ、一番に退席。マユもそれに続く、この居心地の悪い場所から抜けたかった。
 退室したマユがそこで目撃したのは、外で護衛をしていたアレックスに締め上げられるアーサー副艦長の姿だった。アレックス曰く、やたらと興奮していて危険そうだったから。
 さらにアレックスはその姿勢のまま、マユに処分がどうなったのかを尋ねる。マユは極刑は免れたことを伝えると、アレックスは微笑んだ。ついでにアーサーも締められたままで微笑んだ。
 アレックスはともかく、アーサーの苦しげな中で作られた精一杯の笑顔を、マユは非常に気味悪く思い、そそくさと足早に去っていった。

マユ「どうしたんだろ、今日のアーサーくん。ちょっと気持ち悪かったけど」


290 :通常の名無しさんの3倍:2005/06/29(水) 17:15:30 ID:???


第十五話
 ザフトの勢力圏を目指して洋上をいくミネルバ。
 ミネルバにそうさせた原因である元オーブ元首・カガリ、彼女はアレックスが止めるのもきかず、ミネルバの雑用を買って出た。カガリの真面目な仕事ぶりと親しみ易い人柄は、すぐにクルー達に認められた。しかし、マユ以外は。
 タリアは、独断での戦闘行為によるマユの処分を雑用全般で片付けた。そのため、マユとカガリで同じ仕事をすることもあったが、何をいっても返ってくる言葉はただ事務的で、全く心が篭もっていない。
 タリアからマユがオーブ難民であることは聞いていた。だから、カガリはマユのことが気になった。何も、いきなり仲良くなるつもりはない。ただ、恨み言でも何でもいいから、言葉を交わしたかった。でも現実は、それ以上の拒絶だった。

 ミネルバをとらえたガーディ・ルー。ネオが攻撃命令を下すより早く、アウルのアビスが飛び出し、スティングのカオスも仕方なく飛び出す、最後にステラのガイアが続く。ネオはガーディ・ルーに待機を命じ、リーはそれを復唱した。

 ミネルバの対応は素早く、マユのインパルス、レイとルナのザクを即座に展開する。
 モニター越し、リーが、自分達が苦戦していると呻く。それはネオにもわかっているし、原因もわかっていた。ミネルバ側の連携が格段に巧くなっているからだ。インパルスの分離・合体の際、ザクの援護がスムーズに行われている。
 ネオは思案の末、自身も出撃するといった。

 確かな優勢に勝利を確信するミネルバに、ガーディ・ルーより放たれたネオの駆るウィンダムが迫る。狙いは艦のみ。それはさせないとインパルスがビームサーベルで刺突。しかし、ウィンダムはそれを切り払い、逆に海に叩き落した。
 ルナのザクは敵の機動力に追いつけない。ウィンダムよりミネルバを襲う致命的な一撃、そこにレイのザクが割って入り、身を挺して防いだ。さらにザクのヒートホークはウィンダムに一撃を加える。
 ネオは撤退を指示。ガンダム三機も、攻撃をし過ぎと受け過ぎで、エネルギー残量が底をつきかけていた。

 ルナは深手を負ったザクに呼びかける。メイリンは海に浮かぶインパルスに呼びかける。どちらからも返事はなかった。ルナも、メイリンも、必死に呼びかける。しかし、返ってくるのは沈黙だけだった。

ネオ「相打ち?狙うな、そんなもの!」

312 :通常の名無しさんの3倍:2005/06/30(木) 18:58:49 ID:???


第十六話
 マユは手術台の上にいる。体は動かない。周りに白衣を着た人達。皆メスを持っている。マユは、この人達が自分の体を解体したがっていると知っていたから、とても怖かった。

 夜、ミネルバの医務室のベッド。跳ね起きたマユ、その小さな体を抱きとめたのは、マユの看病をしていたカガリだった。とても怖い夢にマユはびっくりして慌ててしまったが、インパルスが海に落とされた衝撃で意識を無くしたことを思い出し、落ち着いた。
 マユはカガリから離れようとするが、ミネルバが大きく揺れ、再びカガリの胸に沈んだ。ミネルバは戦闘中だった。アビス・カオス・ガイア、さらにウィンダムとガーディ・ルーもつぎ込んでの総力戦、対するミネルバはルナとアレックスの乗ったザク二機。
 外を見ずとも、艦の揺れ具合でどれだけ不利かが伺える。体調はかなり悪いが、マユはそれでも戦おうとする。カガリは止める。そして、カガリは、敵の狙いが恐らく自分であることを看破した上で、ミネルバのために我が身を差し出す決心を、マユに告げた。
 マユは思い切りカガリを殴った。血路を開くために戦ったカガリの兄と、何より今戦っているクルーの皆を思えば、手を上げずにはいられなかった。
 カガリを振り払い、マユは戦場へと向かう。医務室から出る前、同じくベッドに横たわっていたレイが続く。体が言うことをきかない者同士、やることまで同じだった。
 マユは思う。理念が人を殺すことは身を以て知っている、カガリもそれで大事な人を亡くしたことを知っている。為政者の娘だから、それを犠牲で片付けていると思った。でも本当は、他人の犠牲を一番嫌う、どうしようもなく甘ったるいお姫様。だから、放っておけない。
 レイが思ったこと。敵を何とか相打ちにまで持ち込んだ。その無茶は意識不明の重態に導いた。その中で幾度か意識がつながった時、いつもそばにいるルナの姿。
 絶対に切り抜けてみせる。思い描くものは違っても、二人は強くそう思った。

 半病人の二人が出撃しようとしても、それにどうこう言えるほどミネルバに余裕はない。出撃前、マユはある思いつきを口にする。レイとルナはそれに乗り、メイリンも了解。一連のやりとりを聞いていたタリアは、その思いつきはもっと大物が狙えると考えた。
 ミネルバが敵MSへの分厚い弾幕を展開する最中、マユのコアスプレンダーが発進、続いてフライヤー二機も発進。それにいち早く反応したのはネオ、合体の瞬間を狙って体ごとぶつけてくる様に切り込んでくるウィンダム。
 しかし、マユは合体せず、全機散開した。一機飛び出したウィンダム、それに逆に切り込んできたルナのザク。揉み合いながらも何とか引き剥がし、ウィンダムは空中で体勢を立て直す。その時、ウィンダムの動きが止まる一瞬を、レイのザクは確実に撃ち抜いた。
 ネオが撃たれ、動揺の走るステラのガイアにインパルスが突っ込んでくる。ビームサーベルで受けようとするが、それもろとも、ソードインパルスはガイアを切り裂いた。
 再び分離、そして上昇。アウルは追おうとしたが、スティングが今ザクに狙われていると怒鳴る。直後、ザク三機の銃撃。応戦しようとするガンダム二機の頭上高く、インパルス合体、ブラスト。二人が気付いた瞬間、二機は十字砲火に飲み込まれていた。
 危機的状況の僚機を収容すべく、リーはガーディ・ルーの前進を命じる。しかし、それに待ったをかけたのは、その危機の只中にいるネオだった。ミネルバの本命はガーディ・ルーで、近づいてきたところを一気に沈めるつもりだと推理した。
 タリアは、敵艦の挙動からこちらの狙いが知れたことを察する。即座にMSへ集中していた攻撃をガーディ・ルーに絞り込む。MSへの支援を行わせないために。
 ものの見事に形勢がひっくり返った。ネオは、個別に離脱し、後に合流を指示。ただ、今回の任務にネオの個人的な思い入れを感じ取っていたリーは質問を返す。ネオはそんなものに部下を付き合わせる気はないと断言。ファントム・ペインは個別に離脱していった。

 次々に戻るザク、華々しい勝利の喜びを分かち合うクルー達。そして、着艦したコアスプレンダー。メイリンが呼びかけるも返答はない、代わりに小さな寝息が聞こえてきた。メイリンは、そっとしておこうと思った。
 夜が明ける。もうすぐ、プラントの勢力圏だ。

メイリン「マユ、マユ?‥‥‥‥マユ、おやすみなさい」
400 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/04(月) 22:19:41 ID:???


第十七話
 ミネルバは地球におけるプラント勢力の港に寄港した。ここで本格的な整備をするミネルバクルーのマユに、急ぎプラント本国へ赴くカガリとの別れが待っていた。
 最後の時、カガリはマユに掛ける言葉を探していた。子供相手に試行錯誤のお姫様、仕方なくマユから、もう一度ディナーに誘って欲しい、と。面食らったカガリは、次こそ出席するようにと釘をさす。二人は再会を約束して、別れた。

 身を潜めるガーディ・ルー。その中でネオに食って掛かるアウル、まだ戻ってないステラを探しに行くといってきかない。それを止めるスティングは、時間ぎりぎりまで帰りを待つという、ネオの立場で精一杯の譲歩をしていると諭していた。

 設備や街の規模などオーブに比べると格段に見劣りするが、この平和は何物にも代え難いと漏らすアーサー。タリアも、オーブ軍に比べて領海の警備に対する心構えは格段に劣っていると感じても、平和云々のくだりには同調した。

 人気のない岩場の上、ミネルバが入港した港を遠くに見据えるステラは、一人悩んでいた。ガイアに乗って合流地点を目指すか、カガリ暗殺を強行するか、ステラの見立てではどちらの成功率も五割を下回っている。
 ステラが途方にくれるその時、誰かに自分の名前を呼ばれた。驚いたステラはバランスを崩し、海に落ちた。そんな自分を助けるため、飛び込んできたマユと目が合った。
 そして、ステラは助けにきて溺れたマユを助けて、岸に上がった。ずぶ濡れの服を天日で乾かす。人気はないが、マユの提案で乾くまでの間、裸の二人は物陰に身を隠した。
 質問はマユから、なんでここにいるの?ステラはさっきよりも悩んで、自分の乗っていたMSが壊れて流されて、もがいている内にここに来たと説明。加えて、早く仲間のところに帰りたいとも言った。
 マユは大きく目を見開いてステラを見た。ステラは目を合わせられない。しかし、マユが見ていたのは、目ではなく体、それもある一部分だった。
 再び質問、この傷跡は何?マユがいったのは、ステラの強化実験で体を切り開いた時のもの、痕が残らないようにする配慮などなかったから、残った。しかし、本当のことは当然言えず、ましてや嘘も思いつかず、ステラは言えないとしか答えられなかった。
 マユはそれを受け、考え、そしてMSの修理を手伝うと言った。必要な物を持ってくるから服を着、有無を言わせずステラを待たせた。マユの素早い行動をぼんやりと眺めたステラ、その間ふと目に留まったのは、マユの体に刻まれた、自分のとよく似た傷跡だった。
 しばらくして、マユはスクーターに乗って戻ってきた。ステラは相乗りしてマユをガイアの隠し場所まで案内する。全く人の気配がない海岸で、巧みに隠されたガイアと対面したマユは、一瞬だけ渋い顔をしたが、こうと決めた時のマユはやはり素早かった。
 確かにガイアの損傷は酷いが、全壊という程のものでもなく、一応動くには動いたので、目的地に戻れるようにする分には何とかなりそうだった。それから日暮れまで二人で懸かりきりになって、ガイアはステラの希望を叶えるだけの性能を取り戻した。
 別れ際、ステラはマユがここにいる理由を尋ねた。マユは養父の仕事の都合と言った、そして機械がいじれるのも養父の真似事をしているからとも付け加えた。ステラはそれを信じ、マユに迷惑を掛けないため、今日のことネオにも黙っておく決心をした。

 その頃、ミネルバクルーのみならず、地球・プラントを含めた全世界が騒然となっていた。それは、連合からプラントに向けて宣戦布告を行ったからだった。

 ガイアが飛び立って一人ぼっちになったマユは、遠くへ行ったステラに別れの言葉を送り、もう二度と出会わないことを願った。

マユ「神さま、お願いです。もう二度と、私とステラを引き合わせないで下さい」


412 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/05(火) 21:36:07 ID:???


第十八話
 カガリの亡命を助けたキラは、その原因であるユウナに招かれていた。まず、ユウナはカガリに手荒なことをしたとキラに詫びた。
 努めて冷静でいようとしていたキラだが、最初から我を忘れそうになる。そこを堪えたキラは、先の戦争でオーブに侵略した連合と組んで戦争をしようとする真意を問う。
 ユウナは戦争がしたくて連合と組んだ訳ではないという。さらにこの戦争は、ユニウスセブン落下事件と、ミネルバがカガリの亡命を直接手助けしたこと、その際に連合艦隊と戦ったことを地球への干渉として、ロゴスを説き伏せたブルーコスモスの策謀といった。
 連合という各国の寄り合い所帯を一つにするため、宇宙の仮想敵と曖昧なスローガンを提供するブルーコスモスは格好の材料だった。ロゴスはそれを後押しすることで、連合の結束力強化と実権を握ることに成功した反面、ブルーコスモスの影響力も増した。
 ユウナの説明はさらに続く。やり方はどうあれ、戦争さえも視野に入れた地球圏の恒久的かつ安定した経済の維持を目的としたロゴスは、特にプラントによる干渉を嫌い、最初は戦争に難色を示していたロゴスも、本腰を入れて戦争すると結んだ。
 一通り話を聞いたキラは、自分がここに招かれた理由を考える。次の戦争で自分がオーブ軍での参加を望んでいるのか、と口にしてみた。ユウナは笑う、正解のようだ。犯罪者であるキラに、他の選択肢はない。

 デュランダルと一対一で向き合うアレックス。デュランダルはカガリの様子を尋ねる。戦争の引き金が自分だと悔やむカガリは酷く憔悴していると、アレックスは語った。
 デュランダルに言わせれば、カガリに責任などなかった。本来なら一国の政府の、政治の一幕でしかないものを、さも地球圏全体の問題にまで拡大解釈したのは連合で、それをわかっていた上で、ロゴスはプラントへの牽制だけが目的で煽った結果がこれである。
 ユニウスセブンの件にしても、地球・プラントの両陣営を交えた裁判で、これに関わった人間を処罰したいとも打診したが、今となっては。
 残念ながら、ユニウスセブンの件に触発されてか、政府内でも地球への強硬派が台頭し始めた。市民レベルでも、例の事件の犯人達に同情的な意見が集まっているという。
 そして、デュランダルはもう一人のラクスを知っているかと尋ねる。アレックスは頷く。政権は得たものの、その基盤は非常に脆い。ラクスの偽者でも用意して担ぎ出さなければ、やってこれなかったと、デュランダルは零した。
 カガリの傍らにいたアレックスは、デュランダルがカガリと同じ苦悩を抱えていると感じた。だからなのか、アレックスがフェイスの誘いを受け入れたのは。

 ラクスの元に戻ったキラは、オーブ軍として戦争に参加することを伝える。彼女はただ頷いた。さらにセイラン家がラクスを保護することも伝えた。彼女はただ頷いた。だから、ラクス一人でも大丈夫だからと言った。彼女はただ頷いた。
 それから、キラは戸棚の隠し戸の小銃を手にし、これは預かっておくよ、と言った。ラクスは頷けなかった。何故なら、それはラクスがキラにも内緒で用立てていた自殺用の小銃だったから。
 キラは今、自分がマユに掛けた言葉を思い出す。そして、どんなことがあっても、生きる方を選択してくれとラクスに頼む。だから自分は、絶対に生きて帰ることを約束した。ラクスは堪えきれず、キラの胸に飛び込んだ。

 アレックスを迎えたカガリは、疲れを滲ませながらも精一杯笑った。
 何を隠そう、カガリを一番苦しめているのはマユだった。あの子が戦争をする、あんな子がまた増える。マユと関わったことで、戦争をより具体的な形で思い描いていた。
 だからアレックスは、マユのような子も、カガリのような人を増やさないため、戦争の早期決着に自分が役に立てるならと、ザフトに舞い戻った。
 アレックスは意を決して、カガリにザフトに戻ったことを告げ、指輪を手渡した。戦争が終わったら考えて欲しい、アレックスはそう言った。そして、今にも泣き出しそうなカガリを抱き寄せる。

 誓いの品を受け取り、唇を重ねる。でも、こうしていられるのは最期かもしれない。戦争はもう、始まっているのだから。

アレックス「オレはアレックス・デュノのまま、ザフトに戻るよ」
433 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/07(木) 13:31:42 ID:???


第十九話
 連合によって開戦の理由にされたミネルバも、プラント本国では間違いなく英雄だった。ザフトはタリアを正式にフェイスに任命。他のクルーにも昇進などの厚遇措置がとられた。
 しかし、マユは未だに階級もなく、名指しで指令書をよこされただけ。しかも、こと細かく書かれた文章を要約すると、マユ自身は目立つなと命令していた。マユは命令に従って一人指令書を焼却する最中、胸の奥から込み上げる苦い思い出を何とか飲み込んだ。

 拠点攻略の応援に向かうミネルバ、その進路を先行していくのは分離状態のインパルス。進路からやや外れたところに気になる反応。了解をとって調べに行くマユ、そこは建設中の連合の基地だった。しかし、少し近づきすぎて中途半端な対空砲火に遭う。
 その時、マユが空から見たもの。現地の男の人が働いている。それを監督というより監視している連合兵。基地外から現地の女子供に老人が武器を手に突っ込む。連合兵の機銃掃討。それでも突き進む人達の内一人がマユの方を見上げ、大きく手を振っていた。
 勘違いしている、偵察しに来ただけなのに。しかし、基地の戦力はストライクダガー数機、インパルス一機でもどうにかなる。マユが攻撃に移ろうとしたその時、ミネルバにダガーLの大部隊が迫る。一刻も早く戻らなければミネルバが危ない。
 マユは苦い思いを飲み込み、ミネルバに戻った。

 ダガーL部隊を後ろから衝く形になったフォースインパルス。多対一でも、名の通ったインパルスに色めく連合パイロット達は、そのままインパルスを狙った。
 そこにレイとルナの援護。ダガーLの囲いを抜け、フォースからブラストへ。そしてミネルバの上に陣取り、艦とともに分厚い弾幕を彩る。そしてザク二機が、個別に敵を落としていく。先手を取ったミネルバの、一方的な戦いだった。

 こうしてダガーL部隊を退けた後、マユはタリアに事情を説明し、再び基地に行こうとする。だが、タリアはそれを止め、ミネルバはその基地を無視することを告げた。
 反論するマユ、しかしタリアは、今、向かっている拠点を攻略すれば、その建設中の基地は戦略的な意義を失い、結果、現地民の解放につながる。そして、他にも同じような惨状は幾つもあり、一刻も早い拠点攻略が結局は被害が一番少なくなると説明した。
 マユは言葉を失う。つい今しがた、自分で素早い行動の重要性を示したばかりだった。そして、タリアの命令に服した。どうしようもなく、苦い思いを噛み殺して。

タリア「辛いのはわかるわ。でも、軍隊はヒーローごっこをするところじゃないの」


441 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/08(金) 20:23:08 ID:???
第二十話
 連合は渓谷を利用し、巨大な陽電子砲台と、その陽電子砲台の直撃に耐えるMAを中心に堅固な基地を築いた。そこで敵のMAとMSを引き付け、インパルスが秘密の坑道を抜けて陽電子砲台を叩く作戦。無茶、でも、これが一番早く勝てると、マユは考えた。

 作戦会議が終わってすぐ、マユ・レイ・ルナの三人は坑道の情報を持ってきた少女・コニールに捕まる。この作戦の要になるインパルスのパイロットに是非とも言っておきたいことがあると言う。思い詰めている様子のコニールに気を遣い、四人は場所を変えた。
 まず、マユがそのパイロットであると告げられてコニールは驚き、つい過去を尋ねる。マユは家族が死んだことだけ語った。マユの告白にコニールはまたも驚くが、その一方でどこか嬉しそうだった。コニールは大人達の聞きかじりも混ざった昔話を始めた。

 この地域は連合と仲が悪かった。連合が軍事力で支配しようとした時、皆はそれを拒んであちこちでレジスタンスが結成された。けれど、力の差は圧倒的。兵士を捕虜にする法律はあってもテロリストにはない。それを逆手にとって、連合はひどい弾圧をした。
 活動家に仕立て上げられた父は連れて行かれ、そこで殺された。そんな連合の非道を聞き、母と自分はレジスタンスに協力。そして、母も連合に殺された。だから、この作戦を成功させて町を解放してほしいと精一杯頼み込んで、コニールは去った。
 切なる願いを受けたマユの表情は曇っていた。ルナもマユの過去は大まかにしか知らないが、同じく曇った顔。そこでレイは、あまり入れ込まないように忠告する。マユは、素直に忠告を受け入れた。

 作戦決行。ミネルバチームを中心にバクゥ隊とディン隊が陽動を仕掛ける。レイは、敵の対応が早いとつぶやく。ルナもそれがわかるから、陽動に徹しようと思った。
 分離状態のインパルスで坑道に入るマユ、無茶と思っていたが、思っていた以上の無茶を要求されていた。

 陽電子砲台を警戒し、味方の支援もままならないザフト戦艦。一方、その防御力を武器に立ちはだかるMA・ゲルズゲーは、思うがままにMSを叩き潰す。勢いに乗るダガーLも攻め立てる。ザフト軍は苦境に立たされた。
 そして遂に、陽電子砲台の照準がミネルバを収める。その時、坑道を抜けてきたインパルスが割って入る。ミネルバ諸共、撃ち抜こうとするが、早撃ちでは勝負するまでもない。
 陽電子砲台を破壊し、守備の手薄な基地に切り込むインパルス。しかし、基地を守備する筈のダガーL等は早々に基地から飛び出す。そして、基地の自爆が始まった。基地の司令官は、この基地を放棄し、中央突破に活路を見出した。

 大きな被害を与えたものの、ゲルズゲーを始めとした基地守備隊は逃げ切った。気持ちよくとはいかないが、ザフトの勝利である。

 マユはインパルスに乗ったまま、コニールのいる町へと赴く。町の人達は大歓声でインパルスを迎えた。が、広場で、逃げ遅れた連合兵が集められ、住人の手によって殺されていた。そして、コニールが銃を手にしたところで、インパルスが割って入った。
 連合の兵士はザフトの捕虜で勝手に殺してはいけないと、マユは言った。しかし、コニールは納得できない、家族を殺された恨みを晴らしてはいけないのか、マユも恨みが動機でインパルスに乗り、連合の人間を殺しまくっているのではないのか。
 マユは、その問いに対する明確な答えを持っていた。人が憎くて殺したことは、ただの一度だってない、そう告げた。
 コニールにはわからなかった、憎くもない人を殺し続けるということが。相手を人間と思っていないのか、それともゲーム感覚なのか。そして、コニールはマユを罵った、人殺しと罵った。
 しかし、本当はコニールに同調していても、住人達はコニールの口を塞いだ。何故なら、インパルスが怖いから。

コニール「親が二人とも殺されたんだ!二人ぐらい殺してもいいだろ!」

464 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/11(月) 16:23:05 ID:???


第二十一話
 インパルスの整備をしているヴィーノとヨウランに飲み物と笑顔の差し入れをするマユ、それを見ながら作業服を着たレイとルナが一息つく。弱音を吐くルナ、これは仕方がないとたしなめるレイ、その二人にまだ仕事は残っていると怒鳴る技術班長・エイブス。
 拠点攻略隊、転じて守備隊は、一丸となって敵の襲来に備えていた。自爆で機能を失った基地、最も警戒していたゲルスゲーにも逃げられた。何より苦しいのは大きな戦力補充の滞り、司令部がミネルバの異例な働きに困惑して起こったことだった。
 皮肉にも、勝利を得た側が苦境に立たされていた。

 撤退した基地防衛隊とおぼしき敵を確認。タリアは、敵が開けた場所にいる内に仕留めるべく、ディンを伴って打って出る。狭い渓谷で乱戦になった時、ゲルスゲーが圧倒的に有利だからだ。
 タリアの希望通り、敵部隊が開けた場所にいる間に接触。先手をとったミネルバは射程ギリギリから、隊の中心に陣取るゲルスゲーに主砲発射。なんと命中、粉砕した。
 この結果を受けるなり、タリアはマユに基地防衛を命じた。本物のゲルズゲーはそこに現れると予想、実際、ミネルバが撃ち抜いたのは有り合わせのパーツで作った張子。そして、今の戦力でゲルスゲーを討ち取れるのはインパルスぐらいしかいない。
 ミネルバチームとディン部隊はそのまま戦闘を続行。マユはソードを選び、基地に向かった。ここまではタリアの想定内のこと、しかし基地へと向かうマユは、戦闘を確認した基地へ行く途上で、ストライクダガーの一群と遭遇した。
 一方、ミネルバは厳しい現実と遭遇していた。事実を伝えるメイリンの声は震え、アーサーは取り乱し、タリアは彼を怒鳴ることで自分の平静を保った。ルナは笑いながらウンザリし、レイは歯を食いしばる。連合の伏兵、こちらの倍近く、まだ増える。
 拠点を攻略され、分断された連合の戦力と、これから攻撃されるであろう連合基地からの戦力がもう既に掻き集められ、それぞれに雪崩れ込んだ。これは重要拠点奪取が目的ではない、世界に最も知れ渡ったザフト艦・ミネルバを落とすためでもあった。

 ストライクダガーの一群を文字通り切り抜けたソードインパルス、戦火はコニールのいる町まで飛び火していた。拒絶された、でも助けたい。胸に宿る想いをインパルスに乗せ、連合のダガーシリーズを切り伏せながら、町の中心で猛威を奮うゲルスゲーに斬り込む。
 この町はもう終わりだ。逃げ遅れたコニールは、半ば自暴自棄になりながらそう思った。ザフトがやられそうだ、また連合に酷いことされる、ゲルスゲーが近くにいる。このまま踏み潰されると諦めたその時、ソードインパルスがゲルスゲーに切り掛かった。
 マユは切り結んでから気付いた、足元近くのコニールの存在に。

 ルナのザクが倒れ、レイのザクがそれを支える。味方機はあと僅か、ミネルバも物量に押し潰される寸前で、タリアにいよいよ最期の時かと観念させた。そこでメイリンの援軍到着を報せる歓声がブリッジに響き渡った。
 セイバーを受領したアレックス・デュノが指揮をとる、ミネルバ救援のために選りすぐりで構成されたディン部隊は、瞬く間に劣勢を跳ね返す。

 マユはコニールのことが気掛かりで、インパルスで思い切り踏み込めず、防戦一方。巧く切り払い続けるも、パワーに押されて体制を崩す。トドメの一撃を加えるべくゲルスゲーが振り被った。
 だが、ゲルスゲーが振り被った一撃は鞭に絡めとられた。不測の事態、ゲルズゲーのカメラが見たのは、ヒートロッドを構えるグフ・イグナイテッドの姿。
 今だ、ソードインパルスの対艦刀、一閃。そして、ゲルズゲー爆散。咄嗟にコニールを庇うインパルス。その庇護の下、コニールはガタガタ震えていた。マユはコニールをインパルスのコックピットに放り込む。すすり泣くコニール、マユは言葉を掛けなかった。
 町に大量に侵入した連合軍は、援軍として到着したグフと、その指揮下の右肩をオレンジ色に染めたザク部隊によって駆逐されていく。
 最早、勝ち負けは決まったに等しかった。しかし、マユは今にも気を失いそうな自分を奮い立たせ、自らに課した二つの仕事を完遂すべく、インパルスを駆る。基地防衛と、ミネルバへの無事生還である。

マユ「インパルス、私も頑張るから、あと少しだけ頑張ろう」
474 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/12(火) 22:07:17 ID:???


第二十二話
 アレックスもハイネ隊も、次の戦地に赴いていた。一方、ミネルバは新たに補充された隊と共に、町の復旧作業に勤しんでいた。

 タリアは司令部に出頭した時のことを思い出す。ミネルバは重要拠点の攻略を臭わせ、連合の目を引き付ける位でよかったと言われた。あの激戦の後だから、タリアも素直にそう思えた。そして、英雄的行動は慎むように、とも言われた。
 先の戦闘で怪我をして未だベッドの上にいるルナ、メイリンが姉の話し相手になっている中、レイが見舞いに来る。すると、メイリンは取って付けたような急用を思い出して退室。そのあからさまな態度に、レイとルナは絶対に勘違いされていると思った。
 只今マユはインパルスやザフトの皆さんと一緒に作業中、その甲斐あって、最初のころは瓦礫と死体と危険物で埋まっていた町も、今では人が生活できる環境を取り戻していた。
 あの戦闘後、コニールは結局この町に戻った。町の惨状を思えば、マユは不安になった。しかし、そのコニールを思えば、やる気が湧いてくる。ふと、物陰からこちらを伺うコニールを見つけた、インパルスで手を振る。コニールは驚いて走り去った。先は長い。
 そんなインパルスの様子を、ミリアリアは場に不釣合いなリムジンの中からカメラに収めていた。

 マユはミネルバに帰ってくるなり、ヨウランが鼻息荒く凄い客が来ていると言い、ヴィーノは顔を真っ赤にしながら惚けている。艦内の雰囲気が、妙に浮ついていることに気付いた。マユは、外にあった見慣れないリムジンとの関係を疑う。
 その時、ミリアリアを伴い、足早に移動しながらも周りに愛想を振り撒く偽ラクスことミーアと、マユが出会った。凍りつくミーアはマユの名を呼び、マユは訝しみながらもミーアの名を呼ぶ。ミーアは顔を引きつらせ、逃げた。マユは鬼の形相で、追いかけた。

 大暴れのマユ、ミーアが艦内を逃げ惑うものだから被害は拡大、同僚のレイと療養中のルナを駆り出して、ようやくマユを取り押さえることができた。タリアはその場でマユに説明を求める。
 マユは、ミーアが同じ難民キャンプの出で、水・食料・毛布等の配給品を横取りした根性の腐った腹黒女と言い切った。マユはそれよりも、返せ返せと喚いていた。
 マユの発言に頭を抱えた唯一プラント公認のミーア番記者ミリアリアは、自分の後ろで震えるミーアに成り代わり、応対する。取り敢えずマユに落ち着いてもらおうと、ミリアリアは自分の鞄の中からある物を取り出す。
 それを見るなり、マユの嘘のように大人しくなった。そしてゆっくりミリアリアに近づき、それを受け取った。それとは、古い型の携帯電話、マユの兄の、形見の携帯電話。

 落ち着いたところで、タリアは情報を整理。彼女は偽者で、オーブ難民、そしてマユに意地悪し続け、気付いたら形見の携帯電話まで盗んでいた。ミリアリアは頷いた。タリアは、マユの名前が出るなりミーアが話を切り上げた訳だと納得した。
 タリアは、ミーアが次にここでするコンサートにインパルスの協力を求めていたが、このような話を聞いた後では。一応、そのことを打診してみると、マユはあっさりOKした。

 コンサート当日。コアスプレンダーに無理矢理、取り付けた後部座席に乗り込むミーア、ミリアリアはファインダー越しにそれを見るが、あまりにも覇気の無いミーアに、彼女は不安を募らせた。
 集まった観客の遥か高くで、分離状態のインパルスは大空にLove&Peaceの文字を描き、合体。インパルスはコンサート会場にやんわりと降り立つ。
 インパルスの中、エチケット袋使用中のミーアに、マユは一言、私より歌が下手だったら踏み潰すから。その返答、調子に乗るなクソガキ。マユはやっと、自分の知るミーア・キャンベルに再会した。
 そして、ミーアはコックピットから踊り出る。

ミーア「皆さ〜ん、ラクス・クラインで〜す」
483 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/13(水) 20:29:43 ID:???


第二十三話
 ミーア番記者のミリアリアは撮った写真を検閲に回し、残った写真と諸注意を元に記事を書く。ミネルバの中で撮った写真ほぼ全てと他いくつかが没。注意点はマユを記事にしないこと。ミリアリアはこの時、使える写真にマユが一枚も写っていないことに気付いた。

 未だ町に駐留しているミネルバの食堂にて、マユ、レイ、ルナ、ヴィーノ、ヨウランが食卓を囲む。クルー全員に緘口令は敷かれているが話題はミーア、最初は引いたがコンサートで持ち直したというのが大まかな話の流れ。
 すると、発言を控えていたマユがポツリと一言。その美声と健康を維持するため、私から略奪を繰り返したし‥‥‥。食事と空気が一気に不味くなった。そこにメイリン登場、彼女はミネルバの特集が組まれたプラント本国の新聞を持ってきた。
 空気一新を狙い、話題は新聞に移行し、早速、新聞を広げる。「インパルス操縦者、シン・アスカ、ロングインタビュー」という見出し。一同、狐につままれた。しかし、当のマユは何かに納得し、固まってる同僚にこう説明する。
 十三歳で戦争に参加している時点で不味い。そんな幼い女の子が戦っている事実は不要な反発と過剰な戦意を煽る。だから、上層部は死んだ兄をパイロットにした、と。皆は一様に納得した、マユがついた嘘とも知らずに。

 場所は宇宙、ガーディ・ルー。同じ新聞を読むアウルは遠く離れた怨敵に闘志を燃やす。それに目を通したスティングは記事の嘘を一目で見破ったものの、嘘を付いている理由まではわからず、このことは胸に留めておくだけにした。
 ブリッジ、ネオに会いにきたステラ。でも、いない。リーは出て行くように言おうとしたが、ステラの思い詰めた顔を見るなり、待つなら仕事の邪魔にならないようにと言った。
 ネオは今、モニター越しにジブリールと対談していた。ジブリールの第一声は、君がザフトのエースパイロットとは思わなかったよ。仮面の下からでもネオの嫌な顔がわかった。
 無論、ジブリールはそれがプラント側の用意したでっち上げとは承知しているが、そんな冗談を口にしたくなるくらい、新聞のシンは本物と瓜二つだった。しかし、出生の方は別で、新聞のシンは健康面以外にあれやこれやと強化されたコーディネーターだった。
 ジブリールは調査を持ちかけてみるが、ネオは今の任務を優先して興味も示さない。ジブリールは、ネオのその態度に満足気な笑みを浮かべ、引き続き任務の遂行を言い渡し、通信を切った。
 ネオがブリッジに戻るなり、目標確認の報告を受ける。現場の指揮をリーに預け、自らも出撃すべく格納庫に向かう。そのネオの後を付いてくるステラは、自分が皆とはぐれた時にマユと会って、二人でガイアを直したことを告げた。
 ステラはうまく文章にできていないが、ネオは何が言いたいのかはわかった。ミネルバのいるところでマユと出会う、と。ステラもあの記事を読んで、同じアスカ姓のマユとミネルバを一つに結んで考えて、それで、どうしようもなく怖くなっての告白だった。
 ネオは隠していたことを責めず、むしろ告白した勇気を誉める。そして、全て自分に任せて、次の出撃でお前はいつも通りに働いてくれればいいと言った。

 地上軍の戦力補充を目的に、地球へ降下を始めたザフト降下部隊。それをファントム・ペインが強襲した。ザフトは護衛艦とゲイツ、シグー隊がこれを迎え撃つ。
 ガーディ・ルーの砲撃はMS隊の陣に切れ込みを入れ、エグザスとカオスのWガンバレルが敵陣を切り裂く。個別に分断された敵はガイア、アビスの手に掛かった。
 気合の入るステラ、負けてられないとアウル、遅れるなよとネオはスティングを急かし、スティングはそれに乗る。この勢いは止めようがない、四機は途中の護衛艦を蹴散らし、その奥の降下部隊に迫る。そして、射的の的を撃つ如く次々と落としていった。
 護衛戦力が立て直しの気配を見せるなり、ファントム・ペインはその勢いのまま逃げに徹し、一気に逃げ切った。

ネオ「マユ、お前は無関係だよな、戦場とはさ」
484 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/14(木) 12:59:48 ID:???


第二十四話
 ザフト地上軍は、本来ゆっくりと進軍していく筈だった。しかし、陽動の役のミネルバが重要拠点を攻略、そのことでミネルバは連合の大規模な戦力と戦うも、援軍として到着したフェイス隊員と共にこれを撃退した。
 それは拠点周辺の連合戦力が大きく低下したことを意味し、ほぼ無傷のハイネ隊とアレックス隊は連合領内の拠点を瞬く間に制圧、さらに本隊は連合と分断された各拠点を制圧する。こうして、ザフトは急速ながらも足場を固めつつ、連合の奥深くに進攻していった。
 戦線の拡大に伴い、戦力の補充が急務といえるザフト地上軍に、宇宙から増援が降下する。地上でのお迎えも兼ねた護衛に、ミネルバは数隻の艦と共に出航した。

 久し振りの任務に活気付くミネルバクルー。何事もなければ行って帰ってくるだけの任務だが、それで済んだ試しがないのがミネルバ、わざわざ口にする者こそ少ないが、艦長以下全員が敵地に乗り込むが如き気の入りようで臨んでいた。
 そんな前途を暗示するかのように、海上の降下ポイント兼合流地点には暴風雨が近づいていた。ところが、その暴風雨を追い抜くスピードで迫る艦が一隻。ミネルバとザフト艦は、辛うじて謎の艦の進路上に回り込むことに成功した。
 謎の艦、それはアークエンジェル。ミネルバと接触するなりMSを展開、バルドフェルドの乗るムラサメと、その指揮下のM1アストレイ部隊を出撃。ザフトもそれに応じてディンやゾノ、それにザクとインパルスを出す。

 確かに、アークエンジェルやバルドフェルドの指揮する部隊は手強い。だけど、こちらの有利を覆せる程ではない。ブラストで後衛に回ったマユは、その一歩引いた目線でそう分析していた。
 この戦場から離れた降下ポイントに、増援部隊が降下して来た。が、しかし、その増援部隊は、降下ポイントから謎の攻撃で次々に撃墜していった。そして、その攻撃はミネルバ、同行のザフト艦、あまつさえMSにまで向けられた。
 戦艦はかわしきれなかった。レイは何とか回避、ルナはかわしきれず掠めた一撃でザクの右腕は動かなくなった。インパルスは特に念入りで、マユは攻撃の多くをかわしたにも関わらず、武装のほとんどを削り取られた。
 タリアは叫ぶ、艦隊の規模は。MS一機です、それが答えだった。

 雨雲はいつの間にか追いついて、一帯を覆い、さめざめと雨を降らせる。稲光を受け、照らし出されたMSは羽を広げてそこにいた、キラ・ヤマトの駆るフリーダムが、そこに。

メイリン「これって、もしかして‥‥」
アーサー「あ、ああ、あぁぁ‥‥」
タリア「やってくれたわね、連合も」
ルナ「嘘でしょ、なんで、こんなところに」
レイ「また、敵に回るのか」
マユ「‥フリー‥‥ダム」
495 :通常の名無しさんの3倍:2005/07/15(金) 13:07:52 ID:???


第二十五話
 海上、推進力を奪われた戦艦や戦闘力を奪われたMSが雨に打たれる。彼等、ザフトの増援をこのようにした張本人、フリーダムは、そこから離れながらミネルバ等を狙い撃つ。
 インパルスはブラストからフォースへ、さらにソードのシルエットを後続につけ、フリーダムに向かって飛び立つ。タリアはマユに制止を促すが、通信は切られた。白い悪魔が自分の大切な物をまた奪いにきた、マユはそれを振り払うため、怒りに身を投じた。
 レイの直感は、オーブ難民・フリーダム・マユの命令無視から、一気に正解を導き出した。ルナも同時に同じ結論に至った。止めることが無理なら、せめて援護だけでも。
 しかし、バルトフェルドのムラサメが阻む。二人の実力を認めるからこそ、キラの元へ行かせる訳にはいかない。それぞれが戦友のために、三人は激突した。

 一列に並ぶフォースとフライヤー、正面から見れば一枚の盾に三機の飛行物体が隠れ、右に左に動いても隊列は全くぶれない。さらに、そんな状態でも構えたビームライフルは正確にフリーダムを狙う。つまり、列を崩さず、護り、かわし、撃ってくる。
 キラは火力を集中、ミネルバと戦艦も含めての一斉射撃がインパルスのみに狙いを絞ったものに変わる。一層厳しい中を行くフォースインパルス、ライフルを撃ち抜かれ、ついにはシールドも砕かれた。しかし、かなり近付いた。さらに分離、そのまま突進。
 フリーダムはビームサーベルを構える。インパルス、ソードに合体と同時に対艦刀を振るう。切り結ぶ二機。当たり負けたのは、フリーダムだった。

 雨は大粒となり、風も出てきた。もう少ししたら、海は荒れるだろう。
 フリーダムのために囮となったアークエンジェルは、マリュー艦長の叱咤も空しく、頭数で勝るザフト軍に押し切られようとしていた。ところが、この局面でオーブ艦隊が現れた。そして、船酔いで潰れているユウナに代わり、トダカがザフトに告げる。
 降下してきた部隊の戦闘力は奪ったが、被害は最小限である。オーブは彼等を捕虜として捕らえるつもりだが、ザフト側が戦闘を続行する場合、我々は戦闘を優先する。但し、天候が酷くなれば、それだけ捕虜の収容が困難になる。その点は踏まえて頂きたい。
 タリアは怒りを顕にする。要は、もし戦えば君達の同胞を荒れた海に置き去りにすると言っているのだ。しかし、その怒りは飲み込むしかない。ミネルバはともかく、他の艦の損耗が酷く、天候次第では帰港もままならい。この海域で戦う意味は、もうないのだ。

 ソードインパルスの荒々しい斬撃と、それを辛うじて受け流すフリーダム。
 マユはいつまで経っても仕留められないことで、繕った怒りは剥がれ落ち、恐怖が滲み出る。少女にとって、白い悪魔は怒りの対象ではなく、悲劇と恐怖の象徴でしかなかった。
 キラは苦しかった。何故なら、今のフリーダムはバッテリー式であり、エネルギーの残りは僅か。無理に引き剥がして撃ち合いに持ち込みたいが、相手の技量を鑑みれば今のエネルギー残量内でそれは無理。だから、キラはここで賭けに出た。
 初めて、フリーダムが切りかかってきた。インパルスは切り払う、直前、ビームの刃が消失、対象を失った対艦刀は大きく空振り。そこにフリーダムの拳が炸裂。距離が空いた。フリーダム、一斉射撃。
 しかし、ボロボロになりながらも、インパルスはその銃撃の中を突き進む。この恐怖を振り払いたい、その想いだけが、マユを駆り立てる。フリーダムは今一度、ビームサーベルを構える。狙うは、コックピット。
 無傷のフリーダムに、瀕死のインパルスが貫かれる‥‥筈だったが、分離。キラは驚いた、当然だ、マユも驚く位なのだから。恐らく、ダメージの蓄積が引き起こしたこと。しかし、この突然の分離は、マユも外に投げ出した。キラは咄嗟にフリーダムで受け止める。
 フリーダムの掌の上、マユは、あの無茶な分離の所為なのか、さらに壊れていくインパルスを見る。ミネルバに来るよりずっと前から一緒だった愛機の無残な姿、マユは、目の前の現実を否定しながら、気絶した。
 そして、フリーダムは、横たわるマユを雨から守るため、そっと手を重ねる。

キラ「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

561 ::2005/07/19(火) 02:05:30 ID:???


第二十六話
 目覚めたマユは、枕元にいる青年を死んだ兄だと思った。もちろん違う、彼はキラ。そのキラの話で、ここはアークエンジェルの医務室で、自分が丸一日眠っていたことを教えてくれた。そして、キラは食べ物を持ってくると言って出て行った。
 マユは一人になった。カメラも含めて監視なし、先生もいない。さらに拘束具もされてない。捕虜が好き勝手に出歩ける待遇、これがオーブ流なのかな。
 しばらくして、キラはマユの食事とバルドフェルドを伴って戻ってきた。マユは早速、出された食事に箸をつける。四年か五年振りかの味噌汁に、心が和んだ。
 マユの食事後、バルドフェルドに連れて行かれたのは会議室、中で待っていたのは艦長のマリュー一人だけ。案内したバルドフェルドは普通に着席。本当はこの二名だけだったが、同行していたキラも出席を希望、マリューの計らいで彼の出席も許可された。
 マリューから。一般的にインパルスのパイロットはシン・アスカという青年だが、マリューが受けた報告ではマユがインパルスを操縦しているらしい。その説明を、マユ本人に求めた。マユはキラを見、そしてうっすら目を閉じ、心を決めた。
 少し長くなりますよ、そう言ったマユが見せた憂いを含んだ微笑みは、十三歳のそれではなかった。

 生まれはオーブ。優しい父と母に見守られ、優しい兄にも恵まれた。コーディネーターっていっても強化されたのは健康だけで、あとはナチュラルと全然変わらない。だからマユ・アスカは、オーブで暮らす平凡なナチュラルって言うのが、一番わかりやすいかな。
 前の戦争で、父も母も兄も、フリーダムの砲撃で死んだ。一人逃げ延びて宇宙に上がったけど、宇宙も戦場になって、難民の配給も滞りがちになって、皆すさんで、ボロボロになって、やっと終戦。
 それから少しして、デュランダル議長が難民でも働き易くしてくれたから、孤児でも三食食べさせてくれるところで、しかも人手不足に悩んでいるザフトの学校に入学。
 落ちこぼれは放り出されるから、体格にも年齢にも性別にも左右されず、しかも重宝されるMSの操縦技術を必死で勉強した。基本がしっかりできるようになった頃、突然、新型MS開発部に呼ばれた。なんでも、基礎を何度でも正確にできる人が欲しかったんだって。
 それがインパルスとの出会い。インパルスは他の子と全然違うから、最初から教えてあげないといけなかった。結果が出なければ捨てられる、同じ境遇と思った。それからインパルスに基本動作を覚えさせて、初めてのお仕事は完了。
 でも、三ヶ月くらいして、また呼ばれた。他の人が全然乗れてなくて、藁にも縋るというやつで。それから、飛行機の操縦やMS戦の近接戦闘や射撃とかを猛勉強。大変だったけど、インパルスの良いところを、少しでも引き出してあげたかったから。
 でも、その甲斐あって最高の関係を築けた。だから、最高の結果が出せる間柄にもなった。


562 ::2005/07/19(火) 02:07:00 ID:???
 絵本なら「そうして二人は幸せになりました。めでたし、めでたし」なんだけど、でもね、ほとんどナチュラルの女の子がちゃんと乗れて、すっごく強化されたコーディネーターの大人がちゃんと乗れなかったのが、いけなかった。
 理由を探された。強化されたのが健康面だけだったのか、とか。薬とか催眠術で過去の記憶を調べられたり、とか。体を開いて器官を一つ一つ調べてみたり、とか。あと、脳の神経細胞はどうなのか、とか。もう、ず〜っと、ず〜っと、やってる。
 ずっと言ってるんだよ。インパルスは、信じてあげたら応えてくれるって。でも、そんな曖昧な答えじゃ納得できないって。
 それで、パイロットとモルモットの日々が続いて、気がついたら強奪事件やら落下事件やら亡命に関わって、そして戦争。そういった血生臭い騒動になし崩し的に関われたお陰で、ほんの一時の自由を得た。
 でもね。優秀なコーディネーターが一人も乗りこなせなかったMSに乗っている英雄はナチュラルとほぼ同じです、それも十三歳の女の子です、そんなことありえないので何度も体をバラバラにして調べました、でも何にもわかりません。‥‥‥言えないでしょ。
 で、お兄ちゃん、シン・アスカが出てくるの。優秀なコーディネーターの中でも特に優秀なコーディネーターが優秀なMSに乗って英雄になってます、って具合に。記録では生死不明だけど、記憶通りなら死亡確実だから、便利に使われちゃったんだと思う。
 これが、インパルスのパイロットがシン・アスカの理由だよ。

 マユの話に、マリューはただ呆然とし、バルトフェルドは深く考え込む。そしてキラは、沈痛な面持ちでいた。しかし、マユの話は終わってはいない。
 自分が今まで生きてこられたのはインパルスがあったから、でも、今はもういない。だから、本国に帰ればきっと、口封じも兼ねて標本される、と。そして、マユは鋭いガラス片を喉に当て、自殺を図った。
 咄嗟に飛び掛ったキラがそれを止めた。しかし、マユは死なせて欲しいと暴れる。その痛々しい姿に、キラは、自分がフリーダムのパイロットであることをマユに告白する。

キラ「もし、どうしても死にたいのなら、僕を殺してからにしろ!僕は君の家族を殺して、君の愛機を壊して、君の人生を滅茶苦茶にした、フリーダムのパイロットだ!」