- 585 :マユ種のひと :2006/01/27(金) 20:02:30 ID:???
第三十七話
打倒セイランを掲げて迫りくるザフトを前に、オーブは騒然としていた。国民は各々が戦禍から逃れるべく行動し、軍人は迎え撃つ準備を整え、政治家は緒戦の結果が出るのを待っていた。
出航前のアークエンジェル。キラとラクスは抱き合い、しばらくして身を離した。行ってくる、待っています。そして、二人は別れた。
オーブ近海。戦艦の砲撃が両陣営を行き交い、空母よりディンやムラサメが飛び立つ。そして、海中ではグーンやゾノと水中用M1アストレイが切り結ぶ光景が繰り広げられた。
一方、アークエンジェルはその遥か上空。下のザフト艦隊に攻撃する命を受けて、そこにいた。また、予測の範囲内ではあるが、アークエンジェルが目指すポイントを、ミネルバもまた目指していた。
報告を受けたマリューはその事実をクルーに伝えた。重ねて、最速にして最大の攻撃力を有する本艦は紛れもなくザフトの脅威であったこと、故に我々と同質のミネルバはオーブの脅威になる、よって我々が最優先ですべきことはミネルバの撃沈であることも伝えた。
出撃前の格納庫、バルドフェルドはキラに、本当にマユと戦えるのかと問う。キラは、どこにも居場所がなかった自分とラクスに、オーブは居場所を用意してくれた。この戦いはその恩返しでもあるし、たった一つの自分達の居場所を守る戦いでもある、だから誰が敵でも戦える。
アークエンジェルとミネルバが撃ち合う中、ムラサメを先頭にM1アストレイ隊が出撃。フリーダムは後方、アークエンジェルの傍、ここでザクやミネルバに対処する。
ミネルバより出た五機のザクとバルドフェルド隊は交戦。味方を釘づけにする敵MSに狙いを定めるフリーダム、同時に、MS同士の混戦を迂回しながら上空からアークエンジェルに迫る五つの機影も捉えた。
キラの意識がその五つの機影に向いた時、内三つの機影が重なる。合体、間違いなくインパルス。キラが狙う標的を変更すると同時に、フリーダムに匹敵する攻撃が寄越された。
それを回避するフリーダムと僅かに被弾したアークエンジェル。フリーダムは遠くのインパルスに打ち返す。その時、三つの機影はさらに重なってフリーダムの攻撃を軽やかにかわした。
想像だにしなかったインパルスの挙動に戸惑うキラ。しかし、ミネルバからの砲撃に苦心するアークエンジェルを見て、すぐさま戸惑いを打ち消し、インパルス迎撃のために飛び出す。現状で対艦装備の充実したインパルスがこられてはどうしようもなくなる。
キラは的確な牽制で相手に狙い打つ余裕こそ与えないものの、互いの距離が縮まる毎に攻撃の際どさが増していく。それでも、フリーダムの高い機動力を盾に接近し続けるキラは、ついにインパルスを目で捉える。
チェスト・レッグのフライヤーを空飛ぶ足場にして応戦するブラストインパルスの姿がそこにあった。
高出力ビーム砲を構えるインパルス、フリーダムはその狙いから逃れながらビームライフルを撃つ。足場の動きでビームをかわしつつ、インパルス本体はミサイルを繰り出す。追尾してくる攻撃をフリーダムはバルカンとシールドで以て切り抜ける。
キラは、マユがブラストを選んだ理由を理解した。今のような一対一でも、手堅い撃ち合いならバッテリー式で燃費の悪い今のフリーダムが先に息切れをする。後は遠くからアークエンジェルを狙い撃てばいい。
キラは覚悟を決めた。多少の被弾は覚悟の上で、フリーダムは手数を増やした。自分が攻めきるか、マユが凌ぎきるか、そういう戦いに持ち込んだ。
オーブ旗艦、タケミカヅチのブリッジ。ユウナはザフトの地上軍にオーブを攻める余裕なんてないのに、と、ため息混じりにいう。隣のトダカは、そこが使われる人間の辛いところです、と言い添えた。
気を取り直して勝算を問うユウナ、トダカの答えは、現状は拮抗しているが長期戦を乗り切れるのはオーブ側であり、連合からの援軍もあればこの戦いは有利に行える、と。
ユウナは一考。自分達は何ら特別なことはせず、じっくり戦えばよいのか。トダカは頷き、特別なことは彼等に任せましょう、と頭上を見上げた。
- 586 :マユ種のひと :2006/01/27(金) 20:03:32 ID:???
- アークエンジェル、ミネルバ相手に苦戦を強いられ、バルドフェルド隊も敵ザク隊のために身動きが取れない。現状を伝える言葉が乱れ飛ぶ中で、フリーダムのエネルギー残量が危険域に入ったと報告を受けたマリュー。
いくらなんでも早すぎる、マリューはフリーダムに帰艦を指示、さらに艦をMSの乱戦の中を突っ切ってミネルバに攻めるようにも言った。悔しいが、こちらの方が先に切り崩される。できれば、敵に雪崩れ込むと思わせて、やり過ごせれば最高だが‥‥。
フリーダムの強引な攻めは何の実りにもならず、いたずらにエネルギーを消耗した。加えて、帰艦命令を受けて、思わず攻撃の手が緩む。すると、今まで抑えていたブラストの凄まじい大火力がフリーダムを襲う。
キラは回避の前に撃ち返す。そうして挟んだ一動作は直後に際どい瞬間を作ったが、それは撃ち返されたインパルスも同じだった。攻防の流れが途切れた。
この瞬間、キラは突撃を選んだ。ブラストの火力に臆することなく、牽制をまじえながら近づくフリーダムはビームサーベルを構えた。対するブラストはジャベリンを構え、切り結ぶ‥‥素振りに、キラは引っかかった。
ブラスト、分離。ジャベリンを構えたまま突っ込んでくる上半身をかわしたフリーダム。だが、その僅かな時間でフォースに合体したインパルスは、ビームサーベルで、同じくサーベルを握るフリーダムの腕を切り裂き、近距離からビームライフルを撃ち込んだ。
何とか堪えたフリーダム。残った腕でビームサーベルを抜く、がしかし、抜いた直後に光の刃は消え、ボディは色を無くし、そして宙に留まる力も失い、落ちた。
フリーダム、堕つ。この事実はアークエンジェル、ミネルバの両陣営を駆け巡った。
落下するフリーダム、その中でキラはミネルバを見る。この時を待っていた。フリーダムへの警戒が解かれる、この時を。キラの操作の元、フリーダムは生き返る。狙うはミネルバ、決めるは一瞬。
だがしかし、インパルスが追ってきた。フリーダムはインパルスのバルカンに弾かれ、射撃のタイミングを逸し、あまつさえ、応戦の間もなく抱きつかれ、背中にナイフを突き立てられた。キラは、それがフリーダムにとって致命的な一刺しであることを知っていた。
キラは、なぜ欺けなかったのかを訊ねた。マユは、キラには絶対に生きて帰ると約束した人がいることを覚えていた、だから、エネルギーの少なくなったフリーダムで敵に向かってくる筈がない、と答えた。そして、フリーダムは事切れた。
落下の勢いがつきすぎた機体を空中で立て直すことを諦めたマユは、何とか降りられる場所を探し、見つけた。激しい対空砲火を抜けて、フリーダムを抱えたインパルスが降り立った先は、なんと、タケミカヅチだった。
偶然にも、こんな派手な参上を決めたインパルスを、総司令であるユウナ自らが甲板に下りてまで出迎える。そして、降参の意思を、その口で伝えた。一瞬、我が耳を疑ったキラは、フリーダムから飛び出す。
キラを確認したユウナは、ここで変に意地を張って総司令が艦と運命を共にして、指揮が混乱したら大変だ、だから不本意ながら、また仕方なく降参をした、と弁明する。が、キラからの返答は言葉ではなく、強く、強く、握った鉄拳だった。
艦橋からそれを眺めていたトダカは、大きなため息をついてから、全軍にユウナの降服を伝えた。
ユウナ「僕だって本当は降参なんてしたくないんだよ。でもね、なんたって、ほら、僕って現場で一番偉い人間でしょ。だから、負けるなら負けるなりの命令を出さないといけないからさ。いや、本当は断腸の思いってやつで‥‥えぶしっ」
- 183 :マユ種のひと :2006/02/04(土) 23:09:06 ID:???
-
第三十八話
ユウナが捕らえられ、オーブ本国のセイラン家もあっさりと降伏。そのため、ザフトもオーブもほとんど無傷で戦争は終わってしまった。
オーブに堂々と入港したミネルバ。一度はオーブに降りたことのあるルナ達は、前とは打って変わっての物々しい空気に息が詰まる思いだった。しかし、マユはこの空気を知っている、連合との戦争を前にした、あの頃の空気とよく似ていた。
プラント行政府。議長室に通されたカガリは、持っていた手荷物を机の上に叩き付け、散々乗り継いで、今まさに地球、つまりはオーブへあと少しという所で、半ば連行してまでプラントに連れ戻した真意を、デュランダルに問う。
デュランダルはそれに答える前に現状を説明する。歴史的大勝利を収めたこの状況は、プラントにとって望ましいものではない。打倒セイランを掲げながらも、実際は、セイランはそのままで港を幾つか占領して睨み合ってくれるのが理想だった。
今、連合が仕掛けている戦争は宇宙から地球への干渉を嫌う者達が引き起こしたもの、ならばプラントのオーブ統治などその者達を最も刺激する行為だ。
オーブにしても、ユニウスセブン落下事件で宇宙への不信感が根付いたまま、中心が不在でそれ以外は健在という現状、かなり直接的な反発も起こりうるし、それを助長させようとする何らかの働きかけがあることも充分に考えられる。
そこでカガリが割って入る。だから自分は一刻も早くオーブに戻りたいのだ、と。しかし、カガリをただ帰してはこちらの目的、連合との停戦は予定していたほど前進しないだろう、そうデュランダルは続け、やっと本題に入る。
カガリの帰還は我々の手で大々的に執り行いたい。それは一般市民には目に見える形での終戦となるし、ロゴスにはプラントがオーブ統治を諦めた取り敢えずの証にもなる。オーブにしても、カガリが返り咲くためのいい準備期間になるだろう。
すると、カガリは打って変わって冷静に、見返りは停戦締結への協力か。あとはより良い国交を、とデュランダルは付け加える。が、それは今後の外交次第だ、と言い放ったカガリは、叩き付けた手荷物を持って議長室を後にした。
総司令に手を上げて拘留中のキラ、カガリが戻るまで身を隠しているというラクスの伝言を旨に秘め、明日の我が身を案じる。すると、キラは特命のために釈放となった。そして、出てきたキラを迎えたのは、同じく特命でミネルバとの合流を命じられたアレックスだった。
タリア、マリューの両艦長に下された命令は、ミネルバとアークエンジェルでオーブに降下するカガリの護衛だった。全宇宙で最も有名な現ザフト艦と元連合艦がオーブ要人をエスコートする画はあまりにも露骨だ、というのが、二人の率直な感想だった。
何はともあれ、タリアからミネルバクルーにその命令が伝えられる。その日はまだ先だが、クルーの多くは終わりが見えたことで、少し肩の荷が降りた。しかし、マユは違った、それを聞くなり、いつもより険しい顔でインパルスの調整に臨んだ。
- 184 :マユ種のひと :2006/02/04(土) 23:11:46 ID:???
カガリを乗せ、ミーアに見送られて出発したシャトルは、つつがなくミネルバやアークエンジェルと合流。ここまで護衛をしてきたザフト艦隊との引き継ぎを済ませ、別れる。あとはシャトルが両戦艦を連れて大気圏を抜ければ、オーブに到着である。
まさにその時、蒼き地球を背に、一機のMSが彼等の進路を塞ぐ形で突如として現れた。謎のMSのビームライフルから放たれた一発目はシャトルを掠め、その飛行能力を奪い、続けて二発、三発と放たれたビームはアークエンジェルが体を張って防いだ。
本当に来た。タリアはマユの言葉通りになって頭が痛くなった。自分達の敵は劇的なものを好む、だからカガリの帰還には何か起こる、と。劇的だから、ただそれだけの理由で、停戦への足がかりを打ち砕くのか。しかし、タリアは考えるのを止めた。今は火の粉を払うだけだ。
謎のMSのパイロット、ネオは、新しい愛機・デスティニーに戦闘の始まりを告げる。そして、デスティニーは光の翼を広げ、シャトルに向けて、その身を走らせる。
マリューはバルドフェルド隊をシャトルの周りに配備、アークエンジェルは引き続きシャトルの盾。そうして、カガリの身柄確保をミネルバに打診。タリアはそれをアレックスに任せ、さらに他の伏兵の可能性を示唆した上で別れたザフト艦隊に救援を求む。
何度か殺し合った間柄だが、タリアの早い対応が心強いマリュー。しかし、デスティニーが気軽に撃ってきたビームライフルの威力は、戦艦の主砲を思わせる。故に、あれはMSという枠では捉えきれない底知れなさを、マリューは感じていた。
優先的に守りを固める中、先陣を切ったヒルダ、マーズ、ヘルベルトの黒いザク三機。必殺の連携を仕掛けるが、デスティニーは幾つもの残像を作り出し、全く噛み合うことなく一気に通り過ぎた。
キラは考えた、突如として現れたのがミラージュコロイドによる効果なら、先程の残像もそれの応用。ならば、消えても増えても全て吹き飛ばすまで。マユも、結論のみは同じようだ。
猛スピードでシャトルに向かうデスティニーの進路に、ブラストインパルスとフリーダムが並ぶ。マユとキラ、呼吸を合わせ、同時一斉発射。対するデスティニーはビームシールドを展開、攻撃の全てを弾きながら、勢いそのままに突っ込んでくる。
デストロイを彷彿とさせる防御力。二人は、二機の凄まじい火力をより集中させた。が、すり抜けた。途中、デスティニーは残像と入れ替わり、自身は姿を消していた。
姿を現すなりデスティニーはビームライフルを撃ち込む。直撃は避けたものの、ダメージまでは免れることはできなかったインパルスとフリーダム。それを確認し、デスティニーは光の翼を羽ばたかせ、より勢いを増してシャトルを目指す。
- 185 :マユ種のひと :2006/02/04(土) 23:13:34 ID:???
近づけさせないと、バルドフェルド隊とアークエンジェル、レイとルナのザクにミネルバが分厚い弾幕を展開。しかし、デスティニーはそこで高エネルギービーム砲を構えた。狙うはカガリの乗るシャトル、引いては、その前に陣取るアークエンジェル。
アレックスは、カガリのみを回収してシャトルを離れた。それはシャトルの同乗者達の総意、停戦を願う者達の総意だった。
アレックスから回収完了の一報を受け、回避するアークエンジェル、他のMS達も退いた。一瞬遅く、デスティニーより放たれた凄まじい熱量のビームは、一機のシャトルを蒸発させた。
物凄まじいビームの通過に誰もが呆然とする中、レイは逸早くビームライフルでデスティニーを狙う。その時、違和感を持ち、閃いた。あのデスティニーは残像、本体はもうすでに。
レイの必死の呼び掛けはアレックスの警戒を喚起、同時に、姿を現したデスティニーはセイバーの間近にまで迫っていた。セイバーはビームサーベルを抜き、向かってくるデスティニーに切り付ける。
自らに迫る光の刃に、デスティニーは手をかざし、掌よりビームが撃たれた。その一撃はセイバーのビームサーベルを貫通して左腕を打ち砕いた。そして、もう一撃が決まる、より早くレイの援護が間に合った。
攻撃の機を逸したデスティニーに、コアスプレンダーが、ソードインパルスが追いついた。二本の対艦刀を抜くインパルス、ビームまとう大剣・アロンダイトを構えるデスティニー。
全速で、全力で、対艦刀を振り下ろすインパルス。アロンダイトで迎え撃つデスティニー。剣と剣が、真っ向からぶつかった。
振り抜いたのは、デスティニー。対艦刀は折られ、インパルスの首は飛ぶ。そして、愛機が全力を持って放った一撃を弾き返された衝撃は、マユの体に叩き付けられた。インパルスは当たり負けた。だが、デスティニーの勢いは止まった。
勢いを殺され、ザフトの艦隊も接近している、今が潮時とネオは判断した。マユはやらせない、レイとルナのザクが詰め寄る中、デスティニーはアロンダイトを納め、幾つもの残像を作り、消失し、戦闘から離脱した。
ネオ「試運転なら、これぐらいでいいだろう」
- 315 :マユ種のひと :2006/02/10(金) 20:44:35 ID:???
第三十九話
オーブの報道で大きく扱われるのは、華々しい帰還を果たしたカガリと、間近に迫ったオーブで行われるプラントと連合の停戦協定の調印式だった。その一方で、デスティニーの襲撃はなかったことにされた。
カガリやアークエンジェルと共にオーブに戻り、留まるミネルバ。誰が言い出したのかは定かではないが、ミネルバクルーは艦の大掃除をしていた。戦争の終わりを迎えるにあたって、何かしらしておきたかった。
オーブに入り、厳重に警備された宿泊施設の一室で、やっと一息ついたデュランダル。部屋で一人、今まで気を張っていた反動か、デュランダルはまどろむ。
さすがに疲れた。これからのことを考えると休んでもいられんが、今はこうしていよう。
しかし、私がプラント最高評議会議長になろうとは、あの頃は考えもしなかった。
まだ学生だった頃、私はラウ・ル・クルーゼとタリア・グラディスという友人を得た。ラウは肚を割って話せる間柄で、タリアとは程なく恋人の間柄になった。三人の関係は良好だったが、学生の終わりにこの関係は終わった。
ラウが突如として音信不通となり、結婚を考えていたタリアからは、遺伝子不一致で二人の間に子供が作れず、それを理由に結婚を断られた。
それから三年、遺伝子研究者として過ごしていたある日のこと、ラウから連絡が入り、秘密裏に遺伝子の検査を頼み込んできた。様子は少しおかしかったが、再会の喜びは私の目を曇らせた。ラウの希望通り、ラウと、ラウに似た子供の遺伝子を検査した。
そして、検査結果から導き出された結論は、二人は何者かのクローンという事実だった。
結果を知ったラウは、連れてきた少年を殺そうとした。私は体を張って、それを止める。しかし悲しいかな、ラウに一方的に打ちのめされた。格好はつかなかったが、それでも食い下がって子供の殺害を食い止めた。私はその子供、レイを引き取った。
その日以来、ラウはたまに私を訪ねてきてくれるようになった。しかし、失踪のきっかけや、失踪中どこで何をしていたのかは、ついぞ語ってはくれなかった。
レイを引き取って以来、私はコーディネーターの差別意識について調べるようになった。調べる前から薄々知ってはいたが、遺伝子の調整度合いで人間を判断する風潮が、これほど深く根付いているとは思わなかった。
これではナチュラルどころか、同じコーディネーターの中でも軋轢が生まれる。ましてや、最初から老化した細胞を持って生まれるラウやレイなどは‥‥‥。
私はその風潮を少しでも解消すべく活動した。その活動はシーゲル・クラインの目に留まった。私は氏の元に赴き、幾度も意見を交わした。そして、氏を通じて政治の世界へと足を踏み出した。
私が政界でも一角の人間として評価され、自身である程度は立ち回れるようになった頃、血のバレンタインが起こり、世界は戦争へと傾いた。
その最中、シーゲル・クラインは死に、私も政治の中枢から遠ざけられた。戦争の様相が、ナチュラルの、またコーディネーターの駆逐に移行していく中、ラウは、あの激しい憎悪の中で己を見失い、狂気の赴くままに振舞った挙句、死んだ。
あの戦争は双方が指導者を亡くし、プラントは私が属するカナーバ一派が、連合はロゴスが舵を取ることで一気に終息した。
- 316 :マユ種のひと :2006/02/10(金) 20:47:08 ID:???
- 戦後、アイリーン・カナーバは臨時最高評議会議長に納まり、国としての機能回復に尽力した。その仕事に目処がたつと、カナーバ女史は議長の座を退いた。独裁者の是正が目的の政権奪取、故に長く居座るわけにはいかないという考えからだった。
地球側のMS技術の確立、ニュートロンジャマーキャンセラーのリーク、抑止力であったジェネシスの喪失。連合も良い材料は少ないだろうが、プラントはロゴスのように一枚岩ではない、それが一番の問題だ。そんな中、カナーバ女史の後任は私に選ばれた。
私は最高評議会議長として、プラント国民やオーブ等の難民を食わせていくため、いかなる苦労も厭わなかったつもりだ。
一方で、クライン嬢の役割をミーアに割り振った。人心をまとめるためもあるが、これは戦中のクライン嬢が行ってきた地下活動を、現政府がある程度認めたことも意味する、つまり、このままではコーディネーターに未来はない、と。
新しい未来、いわば新しい社会の構築、私にはその構想があった。遺伝子から成長の傾向等を予測して、ある程度の人生設計をたてる。その計画書を元に適当な環境を幾つか用意し、選択させる。コーディネートなど、その微調整であればいい。
多忙を極める中、レイがザフトに志願した。私はその成長を嬉しく思う反面、遺伝子差別の根強いこの社会にレイを送り出すのは不安だった。レイは私以外の人間には決して弱味を見せまいと、頑なに心を閉ざしている。しかし、一度こうと決めたレイの意志は強かった。
それから私とレイは、互いに筆不精ながらも、手紙でやり取りするようになった。
ある日のこと、レイはザクのテストパイロットの一人に選ばれた。それについてレイは、手広くデータを採るという意図がなければ選ばれなかった、と。謙虚で綴られた手紙を寄越してくれた。
そういえばテストパイロットという人種で一人、気になる人間がいる。大人達が満足に扱えない試作MSを、見事に乗りこなす少女。その少女はコーディネーターらしいが、どの程度の調整かは明らかになっていなかった筈だ。
そう考えた私は、その少女、マユ・アスカの調査を命じた。
仕事が落ち着き始めたことを実感する日々の中、マユ・アスカの調査結果を受ける。彼女の能力を数値化して仔細に記されているが、そこに至る要因は特定できなかった、と。つまり、件の少女は特別なコーディネーターではない、ということが証明された。
私はこの調査結果と共に、マユ・アスカという少女の名を記憶した。遺伝子の調整だけが絶対的価値でないことを証明してくれた、この少女のことを。
数日後、私宛の手紙に見慣れない名前があった、差出人ルナマリア・ホーク。レイがすごく悩んでいます、会って話しをしてやって下さい、と非常に簡素な内容だった。逆にそれが気になった。奇跡的に時間のとれた私は、その四日後、レイと会う。
- 317 :マユ種のひと :2006/02/10(金) 20:55:36 ID:???
- 久しぶりにレイと顔を合わせた。レイの隣には同年代の女性がいた、彼女がルナマリアか。レイが私への挨拶を済ませると、隣の彼女に、私の手を煩わせたことに対して謝罪するように言った。ルナマリアは心配かけたレイが悪い、と返し、二人は口論になった。
二人の話をまとめると、クローンという事実が重荷のレイ、原因は知らないが軽い気持ちで相談に乗ろうとしたルナマリア。そして、今のような口論。売り言葉に買い言葉で自分の出生を告白したレイ、ルナマリアはそれがどうした私は双子で妹がいると豪語。そして今に至る。
要するに、初めての大喧嘩で仲直りの仕方がわからず、ルナマリアの方が私に助けを求めたが、私が来た頃には二人の関係はすっかり元通りになっていた。そういうことだな。
私は取り敢えず、二人を言い包めて互いに頭を下げさせることで決着とした。そして今後、二人の問題は二人で解決するように言い聞かせ、この場を去った。他愛もない出来事に振り回された。しかし、悪い気はしなかった。
ミネルバ進水式。ザフトの新MSのお披露目であり、言い換えれば、戦後のプラントが行ってきたことが、どの程度実を結んだか披露する場でもあった。ところが、式に出るMSにインパルスの名前はなかった。
私がそのこと問い合わせてみると、パイロットのマユ・アスカが検査中のため出せない、という答えが返ってきた。私が依頼した調査の結果は出ているのに、一体何を調べているというのだ。胸騒ぎを覚えた私は、その検査データを寄越すよう、手配した。
後日、送られてきたデータに目を通して、私は愕然とした。検査した者達は、この少女の体から、コーディネーターがさらに強化できる要因を、徹底して暴きだそうとした。私は即刻中止を命令した。
私は考えた。この凶行、私が構想する新しい社会の中では、珍しくないのかもしれない。システムの中で例外とされた者は、その原因究明という大義の下、徹底的に検査されるのではないのか。そして、システム維持という大義は、他、多くのものに適用される、と。
明くる日、私は予定の全てをキャンセルして、まだ生きているマユ・アスカの迎えに行った。その時の私は、何の心の準備も出来ないまま、出会った。不思議そうに私を見るマユの姿は、あまりに少女然としていて、あの凶行を忘れそうになった。
デュランダルは目を覚ました。夢を見たついでに、もう少し、マユのことを思い返してみる。
もし、進水式で何も起こらなければ、デュランダルはその席でマユを大々的に紹介するつもりであった。あの凶行についても、一部公表していたかもしれない。しかし、戦争という状況はそれを許さなかった。
自らが構想する社会の構築を諦めたデュランダルだが、悪い気分ではなかった。やり直せばいいだけだ、マユや、レイや、ルナや、ミーアや、ラウや、タリアを思い描き、ただ静かに、心中で決意を固める。もうすぐ、戦争が終わる。
その時、誰かがデュランダルの部屋に、そっと入ってきた。その誰かとは、赤服を着こなしたシン・アスカだった。
合成写真の中にしかいない筈の人物が目の前にいて、デュランダルは呆気にとられる。次の瞬間、デュランダルの胸は数発の銃弾に貫かれた。
ネオ「運がなかったな、デュランダル。マユの存在を公にしていれば、ジブリールの悪趣味に巻き込まれなかったろうに」
- 360 :マユ種のひと :2006/02/16(木) 17:03:26 ID:???
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第四十話
夕暮れ時、オーブの兵士がミネルバを取り囲んだ。訳のわからないクルー達、これを指揮する人間は、タリアにデュランダル暗殺と容疑者シン・アスカという事実を伝えた。
その少し前、カガリは車の中からプラントとの話し合いを済ませた。先方の混乱がひどく、ほとんどのことは臨時議長が内定するまで保留ということになった。ただ一つ、ミネルバの捜査権は取り付けた。
尤も、マユを知るカガリは、ミネルバに犯人がいるとは思っていない。とはいえ、ポーズだけでもとっておかなければならない。プラントもそう考えたから、オーブという第三者の捜査をあっさり認めたのだ。
カガリは、プラントと連合の間に立つ者として、これからの自分の采配がどれだけ重要かわかっていた。だからこそ、その前に、どうしても確かめておきたいことがあった。
カガリが訪れた場所、そこは敗戦責任の追及を待つユウナが軟禁された屋敷だった。カガリ訪問の喜びを全身で表現するユウナ、しかし、カガリは素っ気なく、単刀直入にユウナがわかる範囲で、今回のことがロゴスの本意かを問う。
すると、ユウナは世界の新聞を何部か手渡す。その新聞の赤丸で囲んである記事に目を通す。全て違う事件だが、政財界で名を馳せたが今は一線を退いた古老達の死亡記事だった。カガリは難しい顔をした。何故なら、彼らがロゴスのメンバーと知っていたからだ。
まだ死亡記事はあると断った上で、ユウナ曰く、プラントからの停戦を協議するため、一度、ロゴスの中でも有力者の集会があった。死因はまちまちでも、死亡の日付はその協議以降になっている。その事実が表に出たのは、大体、今日の朝刊の時点で、だ。
この暗殺事件、どうやらロゴスの暗躍ではなく、ブルーコスモスの暴走のようだ。
しかし、周到な企みとカガリは読む。望みは戦争の継続、目的はコーディネーターの抹殺かその後の宇宙での利権の独占か。何か違う、いや足りないのか、ブルーコスモスとその支持者以外の、何者かの動機が深く絡んで、ロゴスにまで牙を突き立てたのだ、と。
夜、ミネルバ。最初は戸惑ったクルーだが、事情を説明され、今は落ち着いてオーブの監視下にいる。最初にこの国で受けた仕打ちを思えば、充分、筋が通っている。
自室にて、タリアはデュランダル暗殺という事実を前に、悲しみよりも先行きの不安が大きかった。それは、三人でいたあの頃とはもう違い、今は部下の命を預かる身であることを実感した。
ルナは、レイの部屋を訪ねた。机に向かうレイはいつもの調子で、今は一人にしてくれ、と呟く。ルナは拒否。人前では泣けない、とレイが返す。レイの場合、一人でいても泣くのを我慢する、とルナは語る。そんなことはない、レイが否定したその時、初めて涙を滲ませた。
- 361 :マユ種のひと :2006/02/16(木) 17:10:32 ID:???
- インパルスの中、マユは一人、デュランダルに謝った。ネオと戦って、刺し違えてでも殺さなかった、自分の落ち度について。今度こそ、兄を。決意を固めるマユ、しかし、その決意が強ければ強いほど、胸が苦しくなる。戦争はまだ終わらない、マユはそう思った。
連合領内の空港にて、空港利用客は近頃発表があったオーブでの暗殺事件を話題にする。そんな数ある客の中、「ゲン・ヘーアン」を名乗る車椅子の男が、荷物とパスポートを受け取り、空港を出た。彼は、外で待っていた高級車に迎えられた。
車中で変装を解いていく車椅子の男、ネオは、車中で待っていたジブリールから労いの言葉を貰うが、彼は煩わしそうに、ジブリールにここに居る理由を問う。ジブリールは鼻息荒く、プラントを糾弾し、その精神を打ち砕く会心の原稿が完成したので目を通してくれ、と。
やっとの思いで時間を作り、キラはオーブ国内にあるラクスの隠れ家に到着。そこでキラが目にしたのは、部屋の一室でテレビやらラジオやらパソコンやらで作った壁を凝視し、足元に読み終わった各種新聞を散らかしているラクス・クラインの姿だった。
キラが声を掛けるより前に、ラクスは真後ろのキラに質問。本物のインパルスのパイロットとはどんな人ですか。キラは、普通の女の子、としか答えようがなかった。ラクスは、質問の意図をもう少し詳しく説明する。
先日、空白だったプラント最高評議会臨時議長はアイリーン・カナーバが就任したが、他のメンバーの多くが、エザリア・ジュールを筆頭に前大戦で抗戦派だった人間と入れ替わっている。デュランダル暗殺が停戦を望まぬ人間の仕業なら、これは都合が良いことになる。
その一方で、プラント・オーブの両マスメディアで容疑者を特定していなかったのに、一部連合のメディアは第一報の時点でシン・アスカを容疑者として報道した。これが犯人の仕業なら、何故にプラントの世論の怒りを、外ではなく内に向けさせるようなことをするのか。
ラクスの言葉に嫌な予感を覚えたキラは、マユの過去を打ち明ける。直前、ラクスの用意した情報媒体全てが、連合大統領の演説を生中継した。
大統領は、デュランダルの死に、改めて哀悼の意を述べ、地球と宇宙の平和を願うデュランダルを亡き者とした犯人は、巷で騒がれているシン・アスカではない。それどころか、その犯人は実在しないシン・アスカなる人物をでっち上げてまで、この凶行に及んだ。
そして、その証拠を示した。マユ・アスカが研究対象にされていた頃の記録映像を、証拠として。
- 362 :マユ種のひと :2006/02/16(木) 17:13:23 ID:???
- ミネルバの甲板の上で、ルナは、マユが託してくれた携帯電話を握り、うなだれていた。
連合大統領のあの演説、あれからあとは聞くに堪えなかった。ユニウスセブン落下事件、マユへの非人道的な研究、これらを並べてコーディネーターの差別意識を誇張し、結局、暗殺事件の背後関係は有耶無耶に片付けられた。
それはともかくとして、艦のみんなは驚きを隠せなかった。一時、マユは腫れ物のように扱われたこともあったが、レイやルナ達が注意を重ねていくうちに、マユを囲む環境は元通りになった。マユはそれがとても嬉しくて、ルナの前で少し泣いた。
物思いに耽るルナを、時間が来た、とレイは呼ぶ。ルナは艦内に戻った。同様に、作業中の人間も、このひと時は手を止め、各自、モニターを見た。プラントもまた、演説という形でメッセージを発信する、その壇上に、マユも上がる予定だった。
最初に壇上に立ったアイリーン・カナーバは、奇しくも二度目の臨時議長就任の不幸を踏まえて挨拶し、暗殺という卑劣極まる行為は毅然とした態度で臨むことを宣言した。そして、アイリーンは下がり、マイクをマユに譲った。マユは、壇上に立つ。
集まった聴取や、カメラのおびただしい視線に、マユは少し目眩を覚えた。やっぱり、現実感がない。ここでの自分の仕事はわかっている、あの研究には自分から体を提供して強制の事実を否定すること。そうすれば、特別待遇の社会保障を受けられる、要するに口止め料。
マユの弁明の後、連合のエクステンデッドの存在を公にし、今度は連合の罪悪を喧伝する予定になっていた。自分の、心も、体も、踏みにじって、今度はステラ。意を決する。
マユは、おもむろに上着を脱いだ。そして、大きな傷跡が残る上半身を衆目に晒した。心静かに、ゆっくりと、声を張って、あの時体験した全てを、包み隠さず話した。もう、戦争を続けたくないから。
マユ「こんなことを、軍人の私が、みなさんにお願いするのも、変、なのかもしれません。でも、私は、謝罪も、補償も、いりません。みなさんが、家族と、友人と、恋人と、過ごしたいと思う、ただ、平和な時を、私に下さい」
P.S.あと10話
- 340 :マユ種のひと :2006/03/09(木) 14:01:14 ID:???
第四十一話
さる宇宙港で物資の積み込みをするヴェサリウス。そのブリッジには、白服で身を包み、フェイスのバッチをつけたマユがいた。傍らにイザーク、オペレーターの仕事をするアビー、ディアッカもマユの目の届かない場所で仕事をし、艦内の人間は各々の仕事に従事していた。
表向き、彼等全員がマユの部下だった。この事実に実感の湧かないマユは、自分がプラント最高評議会に出席した日を思い出す。
マユに対して議員達から刺すような視線が注がれる中、アイリーンは穏やかに語りかける。しかし、それを遮ったエザリアは社交辞令を省き、単刀直入に説明を始める。
コーディネーターの未来を模索するという生前のデュランダルが固めた下地の上で、マユの演説があった為、プラント国民は顕在、潜在を問わず大きく動揺している。特に低コーディネート層やオーブ難民を始めとした難民層は騒然としている。
それ故に、マユには彼等の精神的支柱、つまりは第二のラクス・クラインになって貰いたい。これが聞き入れなかった場合、一部市民の暴走を避けるために取締りを強化することになる。
マユは、それで拘束されるであろう多くの人達の処遇について尋ねる。エザリアは、かつてマユがいた難民キャンプぐらいの扱いになると説明。それから逡巡の間も少なく、マユは新たな偶像となることを受け入れた。
宇宙港を出たヴェサリウス。心ここにあらずのマユに、イザークはうやうやしく、これからデュランダルの葬儀に出席する以上、相応の態度で臨んで欲しいと述べる。マユは適当に頷いた。そんなマユの視界の隅で、アビーが難しい顔で通信のやり取りをしている。
マユは説明を求めると、付近の宙域で食料の貨物船団が連合に襲われている、ゲイツで応戦しているが状況は厳しい、とアビー。行って間に合うか、とマユが重ねて問う。アビーは足の速いMSが先行すれば、と言い掛けた所でイザークが怒鳴られ、アビーは咄嗟に口を抑えた。
後の祭り、マユは踵を返してブリッジから出る。イザークは、出入口でマユと擦れ違ったディアッカに出撃すると言い、アビーには葬儀の出席に遅れる旨を打診するように言った。
格納庫、突然の出撃で大わらわの整備士達を尻目に、マユはさっき積み込んだばかりの機体、白服とフェイスのバッチ同様に与えられた機体、レジェンドに乗り込んだ。マユは早速、アビーに船団の位置と距離を訊く。
上手い言い訳やら何やら考え中だったアビーは、マユに訊かれたことを一気に答えた。イザークは通信越しに、もう少し時間を稼げ、とアビーに怒鳴る。実際、マユは出撃準備を済ませており、あとは目的地を聞くだけだった。
- 341 :マユ種のひと :2006/03/09(木) 14:05:05 ID:???
- カタパルトに乗るレジェンド。急いでザクを起動させようとするイザークだが、それに待ったを掛けるマユ、自分が単機で先行して敵を引っ掻き回すからイザークは隊を万全にしてくるように命令した。大丈夫なのか、とディアッカは軽口ながらも尋ねてくる。
性能にものを言わせて逃げ回る、と前置きした上で、自分が駆けつければ警備の人達は一杯やる気をだすのでしょう、とマユは口走る。イザークとディアッカは言葉を失った。そんな二人を置いて、マユの乗るレジェンドは、ヴェサリウスより飛び立った。
意外と頑張れる。プラント最高評議会に出席する前にあった、あの出来事がなければ、きっとこんな気持ちになれなかった、マユはそう思っていた。
あの演説の後、マユは連行されて、時計も何もない部屋で、外部からの情報も、外部からの接触もなく、ただ無為の時間を過ごしていた。
その時、誰かがドアをノックする。入ってきたのはミーアだった。マユは驚いた。ミリアリアの人脈のお陰で、プラントには内緒でお話をしに来た、とミーアは言う。そんな危険を冒してまで会いに来る意味を、マユは真っ先に問う。
ミーアは、デュランダルの葬儀でラクスの遺言が公開されるので、自分はラクス廃業と告げた。ラクスの遺言とは、デュランダルが画策した偽ラクスが実はラクス本人が画策したこと、と臨終間際のラクス自らが語った映像で、いわばミーアのことが露見した際の保険だった。
呆然とするマユ。しかし、ミーアが言うには、デュランダルの訃報を受けた時にもうラクスを続けていく気力がなくなっていたので、むしろ調度よかった、と。
マユはすごく寂しげな眼差しを向ける。ミーアは、自分は平気、元の顔に戻るだけだから、精一杯に作った笑顔で答えた。マユは納得した振りをした。ミーアは最後に、負けないでね、と言った。
レジェンドで戦場に駆けつけると共に、駆けつけたのがマユ・アスカであることを報せる。喜びの声が上がる。入り乱れる通信の中で誰かが口にした、我等のジャンヌ・ダルク、という言葉はマユの心に苦い思いが湧く。しかし、マユは闘志を鈍らせない。
敵、アークエンジェルの同型艦ドミニオン一隻とウィンダム五機。まずい、囲まれたら振り切れる相手じゃない、とマユ。それを察したように五機のウィンダムはレジェンドに殺到した。マユは素早く操作、レジェンドのドラグーンが広がる。
レジェンドを中心に五機のウィンダムをも範囲に収めたドラグーンのオールレンジ攻撃。ゲイツのパイロットはマユの思い切った行動に感嘆の声を上げ、ならば、とビームを打ち込む。マユにしてみたら冗談ではなかった、単なる操作ミスでこうなっただけなのに。
ウィンダム。一機は逃げ遅れて撃墜。ドラグーンの範囲外に逃れようとするレジェンドを追う二機、一機はゲイツのビームに、もう一機はレジェンドのビームに落とされた。残る二機は別々の方向に逃れるも、マユが操作し直したドラグーンに背後または側面を撃たれて、堕ちた。
- 342 :マユ種のひと :2006/03/09(木) 14:09:52 ID:???
- 最後の操作でマユはドラグーンの感覚を掴む。そして、前に比べて簡単に扱えるように改良してあると説明されたことを思い出す。前のドラグーンは知らないが、確かに使い易い、これならフライヤーを操作する方が大変だ。
と、その時、ドミニオンから新手のMSが飛び出した。それは黒いフリーダム。マユは背筋が凍る。あれの凄まじさは身を以て知っている。一刻も早く撃墜しなければ、この規模の船団など瞬く間に全滅だ。
黒いフリーダムは全砲門を構えつつ、最高速で移動。フリーダムの火力が最大限に発揮される位置を目指して飛び、それを見切ったマユは、そこに重なるようにビームライフルを撃つ。
レジェンドの一撃をかわしながら、黒いフリーダムはその凄まじいスピードを緩めず、照準が完全に定まらぬまま撃ち込んでくる。船団に当て、掠め、ゲイツを堕とし、傷つけ、レジェンドを牽制した。
黒いフリーダムの動き、それはオーブ戦でキラが見せたフリーダムの全性能を引き出した動き。だが、短い稼働時間を気にする気配がない。まさか、動力は核。
それだけではない。まともに狙いが付けられないのを承知の上で、あのスピードを維持。それはドラグーンに囲まれないため。敵はオールレンジ攻撃に慣れている。なら、普通にドラグーンを使ったところで、黒いフリーダムは倒せない。
ドラグーン展開、同時にレジェンドの突撃。レジェンド自らが肉薄し、黒いフリーダムの行動を制限。その上で諸共、オールレンジ攻撃。ドラグーンの脅威が平等に降り注ぐ中で一騎打ちを仕掛けるマユに、黒いフリーダムのパイロットは気後れした。
その瞬間、マユは全てを読み切った。ドラグーンを回避した黒いフリーダムの行き先にビームの一撃。掠めて動きが鈍るフリーダム、レジェンドはそれを逃さずビームジャベリンの刺突。フリーダムはシールドで受け止めるが、全ドラグーンの銃口はフリーダムを狙っていた。
やっぱり強いな、あの人の妹は。八門のドラグーンに撃ち抜かれる直前の、黒いフリーダムのパイロットが漏らした言葉をレジェンドは拾い、マユに届けた。
まさかのMS隊全滅にドミニオンは遁走するが、間に合わなかった。追いついたイザークとディアッカが駆り、率いるザクと、ヴェサリウスの攻撃の前に、あえなく沈んだ。
生き残った貨物船団の人間達は、虎口を脱した喜びを、マユ・アスカを讃える声に変換し、高らかに謳った。しかし、当のマユの眼差しは、寒々しいまでに冴えている。
食料への攻撃、恐らくはエクステンデッドの乗るフリーダムの投入、それが示す事実はただ一つ。戦争は、まだ続く。
マユ「‥‥‥まだ戦争がしたいんだ、あの人達は」
- 268 :マユ種のひと :2006/04/06(木) 22:03:24 ID:???
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第四十二話
がらんとしたミネルバのブリッジ。ぼんやりとしているタリア。気の抜けきった上司に、体でも動かして気晴らしを勧めるアーサー。タリアはそれも悪くないというものの、一向にそうする素振りを見せなかった。そんな空虚なやり取りに乱入者が一人、カガリだった。
突然のカガリ登場に、タリアもちゃんと驚いてみせた。カガリは、敗戦国としてオーブは一応ザフトの駐留は認めているが、その数少ない駐留軍の一つであるミネルバが、ここまでだらけているのはどうかと思う、と滔々と語った。
それを言うためだけにわざわざ来たのか、とタリアは問う。カガリは否定し、視察がてら息抜きに来た、と返す。タリアは怪訝な表情をした。カガリは気にせず話し始める、自分の帰還の際に襲ってきたMSの正体がわかった、と。タリアはともかくアーサーの食いつきがいい。
名前はデスティニー、前大戦中、ロゴス主導で造られた地球圏初のニュートロンジャマーキャンセラー搭載のMS。しかし、完成を前に大戦は終結。ところが、MSの性能限界を見極めるという目的で開発は続行。そうして完成したロゴス公認の「最強のMS」だ。
アーサーは頷きながら、あの事件を計画したのはロゴスか、と問う。カガリは否定、デスティニーは乗りこなせる人材がいなかったこともあって、ロゴスの中では芸術品扱いだった。その芸術品を使いたがっていたのは、ブルーコスモスの新盟主だったと、ユウナの証言を述べる。
カガリの説明は続く。あの事件のころには、ブルーコスモスはロゴスをかなり掌握していた。尤も、ロゴスとブルーコスモス有力者は多く重複し、連合への影響力が強いのはブルーコスモスの方で、今のところはロゴス不在で混乱という事態は避けられている。
そうなると、デュランダル暗殺を誰がやったのかわからなくなる、と語ったのはタリア。カガリは肯定するも、アーサーはよく理解していないようで、タリアは解説、そこまで実権を握っていたのなら、ブルーコスモスは戦争継続よりも組織の地盤固めの方に腐心する、と。
アーサーは怯えた声で、犯人はプラント、と口走る。なら、真贋は別にして暗殺者はすぐ捕まっている、そんなあからさまな火種を残す筈がない、なにせプラントは連合以上に戦争を続けたくはないのだから。ちなみにオーブでもない、とカガリは一言添える。
アーサーは訳がわからなくなった。タリアもそうだった。何となく、戦争が始まろうとしている、カガリの言に、二人は息を飲む。
ユニウスセブンのこと、デュランダルのこと、真相は曖昧でも手を上げる理由はある。しかし、落とし所はない。そして、それを収める人間もいない。泥沼化は目に見えているのに、突き進むしかない。まともな人間なら、絶望するしかない。
カガリは、タリアに向き直る。腐るな、明日はどう転ぶかわからないのだから。
ブリッジの外に控えるアレックス、久し振りにこうしていると自分を鑑みる。そんなアレックスに、切羽詰ったメイリンが駆け寄り、姉とレイが艦に残れるように取り成して欲しいと懇願してきた。
確かに、その二人を連れて行くため、アレックスはミネルバに来た。だからこそ、ちゃんと説明する。二人は実績を買われて、取り返したガンダム三機の、地上でのデータ採集のためのパイロットに選ばれた。これは名誉なことだ。
- 269 :マユ種のひと :2006/04/06(木) 22:04:32 ID:???
- すると、メイリンは苦々しく言葉を紡ぐ。タリア艦長はフェイスの権限を剥奪された、ザクは機体も部品も全部持っていかれた、ヒルダ・マーズ・ヘルベルトは宇宙へ行った、マユも帰ってこない。明らかに自分達を……
アレックスは右手でメイリンの口を押さえ、改めて言って聞かせる。プラントは開戦前、連合も充分に軍備が整っていないと見越し、大規模な戦争にならないと考えた。この機に乗じて、宇宙の連合勢力を少しでも排除しようと色気を出した。
戦略に組み込まれなかった地上に与えられた指令は現状維持。ミーアやフェイスは、デュランダルがその権限の中で行える援助だった。この戦争の主戦場は宇宙であり、線引きのはっきりした地上では精々小競り合いが繰り返されるだけだ。
はっきり言って、宇宙より地上の方が安全だ。ヒルダ達が新型MSのテストパイロットという本来の任務に戻った場合を除けば、ミネルバクルーは宇宙から遠ざけられた形になる。私見だが、マユが現状を受け入れた見返りが、ミネルバの今なのかもしれない。
一通り語り終わってから、アレックスは手を離す。すると、メイリンは涙ながらに訴える、マユはどうなる、インパルスが他の人より上手に扱えるだけの、ただの女の子でしかないマユは、と。それには、アレックスは何も答えられなかった。
格納庫。解体してあるインパルスを前に、ヴィーノとヨウランはあれこれ言い合っている。それを遠目に眺めるエイブス。そのエイブスに声を掛けるルナ、向き直ったエイブスはルナに軽い挨拶をし、その隣にいる女性に、ラクス役、ご苦労さんという言葉を送る。
ミーアがインパルスを見たいというから案内した、とルナ。エイブスは了解して、今は修理中とも言った。最近、動かしたのかと尋ねるミーア。エイブスは否定、カガリを迎えに行って壊した分がまだ直らない。
ミーアは不思議そうな顔をする。エイブスは弁明。インパルスは試作機で換えのパーツも少ない、ザクのパーツを流用したり何だりで騙し騙しやってきたが、あんな重大な欠陥を抱えた機体ではここいらが限界だろう。欠陥のことはルナも初耳である。
エイブス曰く、脆い、装甲ではなく骨格が。原因の多くは合体機能にあるが、マユに言わせれば、これでも桁違いに良くなったのだそうだ。尤も、無傷で、しかも戦場で合体できるのはマユぐらい。マユはそんなに凄かったのか、とミーア。しかし、エイブスはそれも否定した。
エイブスはあくまで仮説と断って。当時の開発者達は早急に結果を求めた。だから、マユがインパルスのために技術を磨くこと、インパルスをマユのために調整することに多いに力を注いだ。それは良き結果となって報われた。後はその繰り返し。
ミーアは驚いた、それではザフト新型機開発ではなく、マユ専用機の開発ではないか、と。エイブスはあくまでも仮説と念を押した後、インパルスの修理を巡って意見を戦わせ、挙句、激しく白熱しつつあるヴィーノとヨウランを注意しに行く。
そして、ルナとミーア。ルナは尋ねる、参考になりましたか、ラクス・クライン、と。はい、とても、と答える偽ミーアこと、ラクス。
- 270 :マユ種のひと :2006/04/06(木) 22:05:36 ID:???
- ルナから尋ねる、本当に宇宙へ。ラクスは答える、古い知り合いを訪ねに。戦争を止めるため、とルナ。できれば、ラクスは歯切れ悪く答える。遺言が公開されて、晴れて自由の身になれたのに、そうルナは呟く。死人だからこそ、自分は宇宙に行ける、ラクスは言い切った。
甲板で佇む、レイとキラ。本来なら終わっていた戦争が、相手への恐怖や不安を動機に、戦争という外交手段ですらなく、ただの殺し合いになる。今の形は、ある意味で前大戦末期に近いのかもしれない、とキラは言う。
前大戦はニュートロンジャマーキャンセラーのリークにより、核という抑止力の復活とエネルギー問題の解決、それに大規模降下作戦の失敗が契機だった。今の場合はもっとわかり易い、マユの言葉を真摯に受け止めればいいだけ。
それを受け、レイは淡々と語る。あの日、マユが平和を訴えて以降、連合は「邪悪を浄化する正義の使者」から「巨悪を駆逐するための必要悪」へと方向転換し、プラントは「我々の手で過去の過ちを償うために」をスローガンに国民へ一致団結を呼び掛けている。
両陣営は自らの正義を手放し、大儀のみを掲げた。そうして手放した正義、言い換えれば一時代の正義を、マユは背負わされることになった。そして慈しみ深いが故に敵として立ち塞がることを、心優しいが故に平和のために戦うことを、強制されている。
戦争が劇場化している、とキラは嘆いた。言い得て妙、というのがレイの感想だった。劇場化という言葉に、キラはふと、クルーゼを思い出す。クローンである自分に存在意義を見出せなかった男、世界は滅びるべくして滅ぶと叫んだ男。
もしも、彼が最悪の殺し合いを回避するために、自分から進んで悪役として立ち回っていたのなら、クルーゼは、プラントを裏切ってまでしたことが無意味に、ある意味で、世界に裏切られたことに……。
キラの中で、マユとクルーゼが重なった。出生が原因の理不尽にして過酷な半生、故に全人類さえも抹殺し得る動機、そして、今まさに世界はマユを裏切ろうとしている。こうなると同型機に乗っていることすら事実の裏づけのように思えてくる。
顔面蒼白のキラをレイは気遣う。平気と片付けるキラ、レイは追求せず、キラに別の質問をする、宇宙へ行くのは本当か、と。キラは頷く。レイは、マユの兄が生きており、敵に回っていることを告げた。キラは言葉も表情も無くし、レイは構わず話を続ける。
マユの兄は、ガンダム強奪の指揮を任されたであろう程の人物で、宇宙でマユと戦う可能性は非常に高い。自分とルナは身動きがとれない。だから、マユを頼む。
返答に詰まったキラ、その僅かな間に、レイを呼ぶルナの声が届いた。レイは改めてキラに、マユを頼むとだけいって、ルナの元に赴いた。
一人残されたキラは、拳を、強く、強く、握った。
レイがルナの元に来た頃には、自分等を見送る人達が、もう集まっていた。
エイブスからは握手。ヴィーノ、ヨウランからはエールを貰う。感極まったアーサーからは体に気をつけるように、と。調子の戻ったタリアからは、二人で一緒なら大丈夫でしょう、と簡単に済ませる。また、ラクスとカガリもそれぞれに二人の無事を祈り、握手。
最後に、アレックスに背中を押され、メイリンは二人の前に。どうしていいのかわからない。そんな妹に、ルナは、マユから預かった携帯電話を託した。
ルナ「縁結びの究極アイテム。何せ死んだと思った人とまで引き合わせてくれるんだから、ご利益は抜群よ。……まあ、ぶっちゃけ、今の私じゃ、ケータイ一つすら守りきれそうにないからさ。メイが、預かっといてくれる」
メイリン「お姉ちゃん。うん、わかった。だから、お姉ちゃんも無理しないでね。あと、レイ、お姉ちゃんを守ってね」
レイ「……ああ、約束する」
- 328 :マユ種のひと :2006/05/10(水) 11:24:16
ID:8rDy6vlT
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第四十三話
宇宙。マユの乗るレジェンドがドラグーンを展開、さらに射撃。編隊を組むウィンダムの足並みが乱れる。そこを透かさずイザークの号令の下、ディアッカを始めとしたザク達のビームがウィンダムを脅かす。ウィンダムは堪らず撤退する。
敵の撤退を確認して、アビーはマユ達にヴェサリウスへの帰艦を呼び掛けた。
戦場より離れて、姿を隠しているガーディ・ルーのブリッジにて。敵の戦力を測るリー。傍らには、新型であるレジェンドの性能を目の当たりに、にんまりと笑うアウルがいた。
ヴェサリウスは、一般市民もいる近くのコロニーに入った。市民達はヴェサリウスを大きな歓声で迎えた。観衆の誰かが、マユがブリッジの窓際に立っていることを指摘した。
こういう時、人目につくところに立って応えるのも仕事と割り切るマユ。その最中、観衆の中に、多分、幼い妹を肩車する兄の姿を見つけた。彼等がじゃれている隣の中年の男女は、きっと二人の両親。マユは、彼等に向けて微笑んで、そして、手を振った。
その模様はニュースで流れる。議長室、アイリーンはそれを楽しげに見る。そこに入室したエザリア。
アイリーンは上機嫌のまま、国をあげてマユを祭り上げたのは正解だった、と立案者にいう。なにせ、マユが行う、ゲリラ戦を仕掛けてくる連合軍のモグラ叩きの成果を報告するだけで、プラント国民の意識を戦時中の緊張状態に繋ぎ止めておけるのだから。
エザリアは肯定する。アイリーンは月への交渉の経過を尋ねる。もう一押し、エザリアはそう答える。万事順調に進む事態に、アイリーンは今一度破顔する。しかし、エザリアにそれはなく、月のことは当初の予定にはないこと、とアイリーンを嗜めた。
ヴェサリウスの医務室。出入口付近に腰掛けるアビーは、戦闘後のマユの健康診断が終わるのを待っている。終わって、マユが上着に袖を通す最中に、ノックの音。マユの了解を得て顔を出したのはディアッカ。
この後に予定されていた、マユと市民の交流会が、市民の選考で不正があったのを理由にイザークがキャンセルしたことを伝えた。マユは再び了解し、それから医務室を出る。
すれ違いざま、ディアッカからマユに、最近ミリアリアと何かしら連絡を取ったことがあるか、と訊いてきた。マユは唐突にミリアリアの名前が出て少し驚くが、ない、と正直に答えた。ディアッカは目に見えて残念そうに頷いた。
マユは改めて部屋を出る。アビーはその後を追い、行き先を尋ねる。レジェンドの調整、と一言で済ませ、艦内にいるのに監視をするつもり、と質問を重ねる。アビーは笑ってごまかした。
すれ違う隊員達と気軽に挨拶を交わす。ふと、マユは、ここの人達は自分を見る目が他の人と違う、と漏らした。それには理由というか因縁があるから、とアビーはいう。マユは興味を持った。
アビーはまず、ガンダム三機を強奪した一味が正体不明の戦力としてプラントの勢力圏を荒らしていた、と説明。そう言われてマユは、あの事件の背後関係が公になっていないことに気付く。そして、あの時、ステラからどれだけのことを搾り出そうとしていたのかも。
- 329 :マユ種のひと :2006/05/10(水) 11:25:36 ID:???
- アビーの説明は続く。宇宙の秩序を乱すこの敵を討つため、プラントはかなりの力を割いてきた。この隊の前身であるジュール隊もその例に漏れず、戦い、辛酸を舐めた。
こちらの作戦は読まれ、イザークとディアッカは愛機を失い、隊員の三分の一は死亡し、三分の一は重傷。その重傷者の中には、イザークが懇意にしている女性もいた。
そんな因縁があるから、この前、ウィンダム隊と核動力のフリーダムを倒すまで、マユがあの強敵達を打ち倒したインパルスのパイロットという事実を、古参の隊員ほど信じていなかった、と語った。
すると、マユは不思議そうな顔をしてアビーを見上げた。アビーは必死に、でも今は、みんな真面目に尊敬している、と懸命になって言葉をつなぐ。
その時、艦内に警報が鳴り響く、ガーディ・ルーがコロニーに迫っていたからだ。隊員達の動きは素早く、マユから指示されるまでもなく準備を整える。そして、コロニーからの正式な要請を受けて、ヴェサリウスは、ガーディ・ルーを迎え撃つために出港する。
そうして、マユがレジェンドのシートに座った時、アビーの戸惑う声が通信で伝わった。その理由は、あろうことかガーディ・ルーからマユ宛の電文が届いたからだった。内容は、オーブの会食の続きはコロニーでしよう、と。
そんなものは無視しろ、というイザークを遮って、マユは単独で戻ると言った。驚きを隠せない隊員達、それはイザークもだが、彼はそれを飲み込む。詳しい話は後で聞くが、戦うべき敵は同じか、とマユに問う。マユは、もちろん、と答えた。
コロニーに向けて飛び立ったレジェンド。ザクもまた発進。同時にガーディ・ルーもMSを四機、出す。正体不明の四機、イザークは嫌な顔をして、部下に警戒を呼び掛ける。そして、それは的中する。接近し、目視した四機は、蒼いジャスティスだった。
外部作業用のMSの出入口から、ゲイツと隔壁を次々に破壊して侵入する、MSが一機。コロニー側の警備MS・ゲイツ隊は、最終手段として中で待ち構える。
最後の隔壁が破られる。猛スピードで飛び出した飛行物は、ゲイツの後方まで一気に抜ける。ゲイツ隊は、咄嗟に向き直ってビームを撃つ。その中の一機が、ワイヤーに捕まり、煙も立ち上る隔壁跡に引きずり込まれた。
敵がいる。ゲイツが再び前方にビームライフルを構えた刹那、煙を払って飛び出したMSは、先に飛び出した飛行物は、同時にビームの刃を展開、それぞれが瞬く間にゲイツを切り裂く。飛行物・ファトゥム01は、MS・∞ジャスティスと合体、コロニーに入る。
∞ジャスティスのパイロット、アウルは、尚も群がるゲイツの奥に、レジェンドの姿を見つけた。そして、突っ掛ける。目が合った瞬間から、こっちに仕掛けてくる確信したマユ、距離においては自分が先手を取れる筈が∞ジャスティスの瞬発力はそれを覆す。
図抜けたMS二機が交わす一合。マユはこの時、アウルの語りかけをはっきり聞いた、自分達はこのコロニーを潰しにきた、と。
蒼いジャスティスに苦戦するイザーク率いるザク隊。その最中、ディアッカがイザークに語り掛けた言葉は、あれはジャスティスではない、だった。
レジェンドの記録を見る限り、フリーダムは、ほぼそのままフリーダムだった。だが、蒼いジャスティスの動きの基本はウィンダムのそれ。恐らく、動力の大幅な強化がなされ、それに伴って武装等も強化されたウィンダムが、蒼いジャスティスの正体だ。
要するに、対ジャスティスではなく、対ウィンダムで臨めということか、とイザーク。ディアッカは肯定。イザークも納得の上で、部下に改めて命令を出す。とはいえ、そっちの方がずっと質が悪い、ともイザークは漏らした。
- 330 :マユ種のひと :2006/05/10(水) 11:26:24 ID:???
- マユは、ドラグーンでは追尾しきれない程の速い敵に、振り切られないようにするだけで精一杯だった。アウルは、∞ジャスティスを縦横無尽に動かし、コロニーの支柱を壊して回るが、レジェンドを振り切れないのが面白くなかった。
ゲイツ隊は∞ジャスティスの性能をきちんと把握していなかったため、事態に対処できず、右往左往する格好となり、結果的に敵を助け、対処できているマユの邪魔になった。
コロニーの市民は頭上を仰いでそれを見る。市民の誰かが、∞ジャスティスがコロニーを壊そうとしている、と指摘。その通りの動きをするから、市民は戦々恐々した。同時に、それを阻もうとするマユとレジェンドに、多くの市民は希望を見出し、声援を送った。
これ以上の破壊行為はコロニーの瓦解を招く。ゲイツ隊は一か八か、∞ジャスティスが選べる進路の一つに集まり、壁を作る。そして、この企ては成功した。マユは呟く、自分ごと撃て。ゲイツ隊は、前方より迫る∞ジャスティスとレジェンドに向けてビームを乱射した。
乱射の直前、レジェンドはドラグーンを、∞ジャスティスはファトゥム01を、分離。そして、ビームシールドを張る二機。同じく、ビームを展開したファトゥム01が突入、早々にゲイツの壁に穴ができる。
∞ジャスティスはそこに飛び込む。尚も行く手を塞ごうとするゲイツを両手両足のビームサーベル切り裂きつつ、またわざと討ち漏らしてレジェンドから狙い撃たれないための壁として利用し、一気に抜けた。
あとは支柱へ一直線。前方で行く手を阻む者も、後方から追いつく者もいない。アウルから笑みがこぼれた。その直後、∞ジャスティスがロックされた。
レジェンドは、まだゲイツの壁の向こう。だが、縦に、横に、大きく、広く、展開されたドラグーンは、確かに狙いを定めていた。ドラグーンの狙撃、∞ジャスティスを頂点に閉じようとする光線の網の目、それでも回避しきる、アウルの反応が勝って。
∞ジャスティス、数瞬の遅延。ついに、レジェンドが追いついた。
レジェンド、ビームジャベリンの突撃。∞ジャスティス、ビームシールドで受け流しながら、ビームサーベルを伸ばした脚で蹴り上げる。同時に、レジェンドは腰に一門だけ残したドラグーンからビームを放つ。
相打ち。しかし、凄まじい速度の中で厳しい体制からの攻撃は決め手にならなかった。両機は空中での制御を失い、同じく凄まじい速さで落下した。
∞ジャスティスは、分離していたファトゥム01に自身を攫わせ、ゲイツ隊が呆然としている間に逃げた。そういう機能のないレジェンドは、落下速度を減速しつつも、地面への落下を免れることはできなかった。
レジェンドの中、マユは、あの速度で落下して、自分がまだ息をしていることを素直に嬉しく思った。その後で、周囲の様子を探る。被害は出ている。避難の遅れた市民はレジェンドの墜落に巻き込まれて、阿鼻叫喚だった。
その中に、マユが微笑みかけて、手を振った兄妹の姿があった。両足を失くし、瞳孔が開いて横たわる兄。その近くで、視力を失くした妹がその場をぐるぐる回っていた。そして、兄に躓いて、転んだ。妹は、わっと泣き出した。
少女「お兄ちゃん、どこぉ、どこ行ったの、お兄ちゃん、返事して、どこにいるのぉ」
マユ「……それだよ」
- 613 :マユ種のひと :2006/05/24(水) 16:08:05 ID:???
第四十四話
小汚い部屋で、ミリアリアは飲料水を飲みながらTVを眺める。ニュースは、マユ達が出港した模様を伝える。また、停泊していたコロニー内の戦闘で被害を最小限に抑えて敵を追い払い、戦災を被った僅かな人達に温情を注ぐマユの行いを讃えていた。
ミリアリアはそれにうんざりする。と、同時に、部屋の隅の黒い袋がうごめく。ミリアリアはそれを開くと、中からラクスの顔のままのミーアが出て、自分は宇宙に捨てられたのに、と呟く。ミリアリアは手短に、自分が拾ったから、と答えた。
ミーアは呆然として見つめ返し、それは現プラント政府に反する、と言った。必ずしもそうではないけれど、と漏らしてから、ミリアリアは少し自分の昔話を始める。
前大戦の時、ザフトを抜けた友達がいて、そいつが戦後、軍事裁判にかけられた。極刑にしたくなくて証人として出廷したけど、実は自分もそいつと同じ身分で、地球に帰ったら連合の裁判が待っている。それを何とかしてくれたのがデュランダルだった。
肉親も故郷も捨てざるをえなかったけど、後悔は、まあ、してない。それで、生前のデュランダルが自分に下した唯一の命令は、何があっても最後までミーアの味方であること。
ミーアは、ミリアリアに泣きついた。そして、泣き喚いた。
宇宙、ヴェサリウスのブリッジ。マユは、次の作戦の概要をアビーから説明されていた。連合の軍事拠点の攻撃に参加。占領の必要はなく、拠点の破壊を前提にした作戦である、と。マユはそこで疑問に思う、それ用の武装を積んでいない自分達の役回りである。
アビーが答える言葉を選ぶ中、イザークが代わりに答える。重要な拠点を占領したいがために攻めあぐねていたが、状況は変わり、その必要もなくなった。元々はこちらが有利で、今は拠点を包囲している。自分達の任務は、この約束された圧勝に華を添えること。
居ればいいだけ。マユはそう理解し、他には、と聞いてみる。新型MS、またMSの新武装などの新兵器を、テストも兼ねて多数投入する予定だ、とイザークは答えた。
すると、マユは淡白に了解し、今回は自分が端役か、と付け加えた。マユが口にした端役という言葉に、イザークは出港前のことを思い出す。
そこは病院屋上。私服のイザークは、男物の服を着て変装したマユと二人でいた。イザークは、目元を包帯で覆った少女が、結局は一言も口を聞かなかった、と語りかけた。
あの少女が、自分の美談の端役として目の手術を受ける前に会っておきたかっただけで、最初から寛容は求めていない、とマユは言葉をつなげる。その時、カガリにすごく酷いことしたんだ、というマユの寂しげな独り言を、イザークは聞き逃さなかった。
と、ここで、マユは唐突にイザークへ向き直り、フリーダムの動力は何か、と尋ねる。核に決まっている、と即答、他に何がある、とも言った。マユは微笑み、改めて話を聞いてくれるか、と、さらに尋ねてきた。イザークは頷く。そしてマユは口を開……。
レジェンドの調整に行きます、マユのその一言で、イザークは現実に引き戻された。マユが退室してすぐ、ディアッカはイザークに、お忍びで外出に付き合った成果を尋ねた。
敵が同じということを再確認しただけ、それ以外のこと、例えば敵との因縁等は何一つ語らなかった、イザークは答える。ディアッカは、不信の根が残ることを懸念した。最高評議会は本気でマユを試すつもりか、とイザークは漏らす。
今度の作戦は、相手が軍人といえども恐らく無抵抗に近いナチュラルに徹底的に攻撃を仕掛ける、マユがナチュラルの命をどう扱うか試す上で絶好の機会となる、とイザークは言い切った。ディアッカは眉をひそめ、アビーは感情的に反発した。
二人の反応を受け、イザークはブリッジ全体に聞こえるように言う。前大戦、ラクス・クラインが当時の体制に反旗を翻した時、プラント国民はどれだけ不安に陥ったと思っている。マユは今やラクスと同等かそれ以上だ。なら、早々にマユを見極める必要がある。
- 614 :マユ種のひと :2006/05/24(水) 16:10:16 ID:???
- 静まり返るブリッジ。その中でアビーは訴える。前大戦中、地球でずっと捕虜だった自分に当時の宇宙はわからない、わかるのは、捕虜の時の、本当に辛い経験を経て凝り固まったナチュラルへの憎悪が、マユの言葉を受けて氷解し始めていることだけ、と。
アビーの訴えは続く。きっと、自分と同じように受け止めている人間が他にもいっぱい居るに違いない。だから、こんな風にマユを試すのは嫌だ。しかし、イザークの答えは、仕事に戻れ、これは最高評議会の決定だ、とアビーを見ずに言った。
連合拠点を包囲するザフト艦隊。それを指揮する人間達は、我等のジャンヌ・ダルクが到着するのは作戦開始からかなり後になる、なら彼女が来る前に地ならしを終わらせよう、それは名案だ、とのやり取りの後、作戦開始時刻と同時に拠点への攻撃命令を下す。
ザフト艦隊の動きに合わせて、包囲の外で姿を隠していた黒い戦艦も動き始めた。
ヴェサリウス。アビーが伝える、ガーディ・ルーと複数の蒼いジャスティスが包囲中のザフト艦隊に攻撃を仕掛けているという報告に、艦内は騒然とする。イザークが現場への急行を促すが、格納庫のマユはジャスティスの性能で大軍をどうにかできるのかを問う。
そこでイザークは冷静に考える、あの組合せは高い機動力と突破力を備えてはいるが、大軍相手なら撹乱が精々。それに逃げ足も速い。別の、本命を感じた。
イザークは前言を撤回し、今の速度を維持することを命じた。
ザフトの新型MS・バビは為す術もなく、∞ジャスティスに狩られていた。パイロットのアウルは、不甲斐無い敵に対して、乗りこなせもしない新型に乗るな、と吐き捨てた。
そんなアウルに、リーからの通信が入り、ヴェサリウスが静観の構えを取ったことを知る。アウルは、宿敵に振られた腹いせを、前菜にもならない不甲斐無い敵にぶつける。
他方、ヴェサリウスの動きは、出撃前のコックピットに控えるスティングも知り、恐らくはこれから戦うであろうマユに、思いを巡らす。最初は赤服、次は私服、その次はパイロットスーツで、今は白服、軍服が似合っていない、そう思うに留めた。
出撃の時がきた。スティングの駆るSt(ストライク)フリーダムがドミニオンから飛び立ち、黒いフリーダムもそれに続いて飛び立った。
ドミニオン二隻とフリーダム七機に正体不明が一機、確認した直後、艦隊の一角は消滅した。ヴェサリウスの行く先は決まった。
イザークより、包囲しているザフト戦力は拠点攻略用、もしくは慣れない新兵器群で多く構成されている。そのため、この宙域のザフト戦力で対MS戦最強は恐らく自分達だ。我々がもし敵・フリーダム隊に遅れをとれば、この戦闘の勝敗はわからなくなる。
レジェンド、ザク、発進。直後、超遠距離から八機のフリーダムの一斉射撃が見舞われる。目も眩む弾幕を前に、ヴェサリウスは後退を余儀なくされ、ディアッカはイザークの言葉を一部訂正する、自分達が何とかできなかったら、この戦闘は負ける、と。
ディアッカのザクは同じ距離から相手を狙撃。この距離なら敵もかわすが、その瞬間に弾幕の一部が薄くなり、そこからレジェンドやザクは接近を繰り返す。
こちらに正確な射撃をさせない狙撃手の存在、それを信頼する淀みない動き。スティングは、単純に大火力を叩き付けるだけでは仕留められないと判断し、部下を散らせた。
フリーダムに包囲されることを嫌ったイザークは、同じく隊を散らすしかなかった。その上で、マユ以外は二機ずつでフリーダムに当たる方法を選んだ。
- 615 :マユ種のひと :2006/05/24(水) 16:11:10 ID:???
- 広く散開したザクと黒いフリーダム、その流れの中で一機になったレジェンドは、敵のドラグーンに脅かされた。咄嗟のビームシールドで事なきを得たマユとレジェンド、自分を襲ったドラグーンが戻る先に居たのは、スティングのStフリーダムだった。
レジェンドはビームライフルを構え、Stフリーダムは全ての火器を構えた。二機とも、かわしながら撃ち合い、ドラグーンを飛ばす。この二機の周りは、ビームで満たされる。
抑えきれなかった黒いフリーダムが、僅かな隙をついてレジェンドを狙い撃つ。ザクがそれを阻むためにビームで牽制すれば、別の黒いフリーダムがザクを狙い撃つ。
イザークも、またディアッカも苛立った。ザク二機掛かりでも、撃墜どころか黒いフリーダムの攻め手を封じることで精一杯だった。前の蒼いジャスティスを相手にした時もそうだったが、MS以上にパイロットの性能が高い。
マユが思い知った自分と眼前の敵の戦力差。一発撃てば十発返ってくる火力の差。オールレンジ攻撃の性能と運用の技術の差。そして何より、パイロットの体力の差。
限界が近いと感じるマユは、隊員達に、他のフリーダムは一瞬だけ何とかするから、自分の前にいるフリーダムを一斉に狙い撃って欲しいという。全員が狐につままれる最中、イザークは迷わず受け入れた。その行為は、他の隊員の心も一つにした。
それは同時の行動。全ザクの銃口がStフリーダムを狙い、レジェンドの各ドラグーンは黒いフリーダム各機に狙いを定め、撃った。一瞬にして攻撃を仕掛ける者全てが入れ替わった一斉射は、思考の死角をつき、その対応だけで一杯になる瞬間を敵全員に与えた。
今しか懐に飛び込めない。レジェンドは、Stフリーダムに向かって飛ぶ。しかし、Stフリーダムが体勢を立て直す方が、一瞬早かった。良くても相手の火力に押し返される、マユが覚悟を決めた刹那、レジェンドの脇を抜けるビームが一閃。ディアッカだった。
Stフリーダムは、ビームシールドを使わされた。ジャベリンでは受け流されると判断したマユは、そこにレジェンドのビームシールドを展開し、ぶつけた。反発しあう二機の強力なビームの防壁は、後に弾けて拡散し、どちらも傷つけ、吹き飛ばした。
しかし、スティングはこの状態でなおドラグーンを正確に操り、レジェンドを狙う。ドラグーンのビームが一点に重なる直前、イザークのザクがマユのレジェンドを抱いて共に回避、そして一気に離脱した。
レジェンドの中、大詰めを迎え、ザフト艦隊がより激しく連合拠点を攻め立てる様子を眺めるマユ、不意に、イザークから無事か、と聞かれて、慌てながら無事と答え、艦には一人で戻れるからイザークも早くディアッカ達の所に戻った方がいい、とも言った。
イザークは了解し、ザクはレジェンドを離す。マユがイザークに、ありがとう、といったのはその時で、また同時に、連合拠点からザフト艦隊に向けて凄まじい熱量のビームが放たれたのも、その時だった。
さらに二発目、三発目の圧倒的熱量のビームがザフト艦隊を焼く。
連合拠点。高エネルギービーム砲を収めるデスティニー、パイロット・ネオは、今までしぶとく生き残り、戦い抜いた兵達に、今ここで反撃の狼煙が上がったことを高らかに宣言。そして、デスティニーは先陣を切り、連合兵も一丸となって切り込んだ。
ザフト艦隊の指揮官は、不測の事態の連続に恐怖し、護りを固める指示を出す。そうして炙り出された艦隊の頭に、ガーディ・ルーは、∞ジャスティスは喰らいつき、仕留めた。
アウル「ごめんねぇ、強くってァ」
- 107 :マユ種のひと :2006/06/04(日) 07:39:54 ID:???
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第四十五話
地上。朝。折り重なりながらも、ぐっすりと眠る妙齢からやや上の女性達が一つの部屋を占める。その様子を見取ったコニールは、視線を、少し年下からずっと年下の子供達に囲まれる、茶色の髪のステラに向けた。
子供の一人が、ザフトのすごいMSを見つけたから皆で観に行こう、と誘う。ステラは、それが多分、軍事機密に関わると考えて止めるように言った。しかし、その子供は、ザフトの人から今度は皆で観に来ればいい、と言われたことを告げた。
他の子供達も観たい観たいと言い出したので、ステラは思い悩む。すると、コニールから、こっちの面倒は自分がみるから、一緒に行ってくるように言われた。ステラは難色を示すが、子供達は勝手にMSのところに行くとコニールに言われて、渋々同行を決めた。
ヴェサリウスの格納庫。マユはレジェンドの応急処置が終わるのを待っている。その最中、イザークやディアッカ等のザクが戻ってきた。彼等の元に一刻も早く駆けつけたかったマユは、この帰艦が嬉しくも、驚きを以て見守っていた。
イザークはその場で説明、あの後、フリーダムは全てドミニオンに戻り、後退した。しかし、諦めたとは思えない、恐らく機を窺っている。
ブリッジから、アビーが他方の現状を伝える。方々でウィンダム隊の出現を確認、ザフト艦隊に攻撃を仕掛けながら、その中心、デスティニーとの合流を目指している模様。
差し出がましいと知りつつ、アビーは進言、今の内なら、拠点付近の特機が率いる戦力を叩けるのではないか、と。しかし、マユは素っ気無く却下、今のヴェサリウスの戦力で問題の特機を倒すのは難しい。
あのMSを知っているのか、ディアッカは尋ねた。ミネルバとアークエンジェルの戦力総掛かりでも無傷だった化け物、とマユ。そしてイザークが、個々に撤退の始まった今、味方の危機を減らすため、自分達が戦う相手はフリーダム隊であることを明確にする。
ヴェサリウスの進路は二隻のドミニオンに向けられた。直後、七機の黒いフリーダムとStフリーダムの出撃を確認。艦内が眼前の脅威に備える中、レジェンドに飛び乗ったマユは遥か遠くを見詰め、貴方の思い通りに動かない、そう呟いた。
ジブリールは、部下から受けた報告で凄まじい不快感を顕わにし、舞台袖でウロチョロする鼠が、と吐き捨てた。しかし、瞬く間に表情を整えて、ある人物との会談に臨む。その人物とは、プラント最高評議会臨時議長、アイリーン・カナーバだった。
まずはアイリーンから握手を求め、ジブリールも応じる。大局を見据えた正しい選択をされた、とアイリーンの絶賛。ジブリールは否定し、ロゴスからの出向盟主が人徳のなさ故に地球を追われ、惨めに保身を計っただけ、と謙遜した。
地上。ザフトの演習地。居並ぶカオスとアビスに目を輝かせる子供達、その子供達にこのMSがどれだけ素晴らしい物かを語るザフトの技術者。それから少し離れて、ステラが佇み、その隣にレイとルナがいた。
レイは自己紹介と現・カオスのパイロットをステラに伝える。ルナもそれに習い、現・アビスのパイロットであることを盛り込んだ自己紹介をする。ステラも、名前だけ明かす。
そして、ステラから、これは大丈夫なのか、と聞いてきた。
ルナは、ここでの演習は今日までで、明日からここに配備されるから、まあ、自分達の頼もしさを事前に喧伝していると思えば。それに、今更隠し立てする機体でもないから。一通り答えてから、ルナはステラに質問、あの子供達は何。
- 108 :マユ種のひと :2006/06/04(日) 07:40:48 ID:???
- コニールの家は今、夜中にザフト相手に仕事をしている女の人達の溜まり場になっている、それで駄賃を貰って仕事中の母親に代わって面倒を見ている子供達。あれが全部、と目を丸くするルナ。ステラは否定、数えると何人か余るから、多分、孤児も混ざっている。
そんな大雑把でいいのか、ルナは改めて尋ねる。ステラの答えは、コニールとも話し合って決めたけど、追求して事実を明らかにしたら、その子を追い出さないといけなくなる、子供の親の有無は何となくわかるから、だから、そのままでいい。
ルナは心配そうな眼差しを送る。察したレイは、マユが渡した金があれば当面の間は大丈夫だろう、とルナに語りかけた。すると、ステラはすごく言い辛そうに、そのお金はコニールのお父さんが全額持ち逃げした、と説明した。言葉を無くすレイとルナ。
でも、父への恨み言、転じて世の男供への愚痴をつらつら並べるようになったお陰で、コニールはすぐに皆と仲良くなり、皆がコニールの家に集まるようになった、とステラは苦笑して語る。そして最後に、色々あるけど何とかやっている、で締めた。
と、その時、目を輝かせた子供達がレイとルナに殺到、口々にインパルスの、マユ・アスカの話が聞きたいと言ってきた。向こうで謝る技術者。期待の眼差しを向けるステラ。レイとルナは目配せで意思確認、そして、最初の出会いは、で切り出した。
無傷なMSが一体もないヴェサリウスの格納庫。整備士達は急ぎ仕事に取り掛かる。その整備士の一人に、邪魔だから退くように言われたディアッカは、去り際、特にひどく傷つき、シートが赤く染まったレジェンドを一瞥した。
ブリッジ。アビーは周囲に敵の不在を確認し、味方の艦隊と共に何とか逃げ延びたことをイザークに報告。その後で、アビーはイザークに、マユを見舞いたい、と懇願する。しかし、イザークは突っぱねる、それは無事に帰還してからだ、と。
マユは今、医務室のベッドで眠っていた。
プラントのニュース。このほど行われた連合拠点を巡る攻防で、連合はMS強奪犯にしてコロニー破壊未遂のテロリストに協力を求め、見た目だけを真似て量産した似非フリーダムを投入してきた。しかし、我等のザフトは敵拠点に大打撃を与え、見事、凱旋を果たした。
画面はその時の映像として、レジェンドの勇姿が映し出されていた。番組の評論家は、レジェンドのドラグーンはいずれ一般の武装となるザフトに対し、欠点の多い前時代の最新機・フリーダムに頼らざるをえない連合はまさに脆弱である、と断言した。
プラント行政府。仕事の片手間で聴いたニュースを、エザリアはさすがに白々しいと感じていた。同時に、出撃前の、実子・イザークの進言も思い出していた。
ジャスティスの一団はコロニーの破壊を狙っていた。目的は避難民を増やすこと、水も空気も住む空間も限定された、いわばプラントへの兵糧攻め。自分達はあの神出鬼没の敵に柔軟に対処できるだけの武装と権限がある。だから、次の作戦は見合わせて欲しい。
エザリアも、できることならそうしたかった。しかし、無理だった。そして、自分が画策して立ち上げた現政権も、マユも、急速に自分の手を離れつつあることを思い知った。
ジブリールを乗せ、月への帰路を行くシャトル。そのシャトルの傍ら、ミラージュコロイドを解いてデスティニーは現れた。単刀直入、ジブリールはネオに指令を下す。
信じられない話だが、外部から何者かが月に侵入し、情報を奪い、現在逃走中だ。このため、不本意ながらアイリーンとの密談に応じ、譲歩しなくてはならかなった。これ以上、不本意な事態を誘発させないためにもファントム・ペインの総力を以て処理に当たれ。
了解。ネオの返答が宙に消えると共に、デスティニーも消失した。
- 109 :マユ種のひと :2006/06/04(日) 07:41:37 ID:???
- プラント最高評議会の席で、アイリーンはジブリールとの密談の成果を語る。
一部を除いて、連合の支配宙域を侵さなければ月の戦力は動かない。また月基地の地下にはサイクロプスがあり、もしもの時はその使用も躊躇しない。不戦については今後を見守るしかないが、サイクロプスについては基地再建から監視して集めてきた情報がそれを裏付けている。
議会はどよめく。先の戦闘で底力が証明された連合の宇宙戦力との衝突回避と、月基地の占領が最終目標として密かに掲げられていた事実が、彼等にそうさせた。
アイリーンは地球の情勢についても語る。現在、連合を牛耳るブルーコスモスの強硬派は、ユニウスセブン落下事件に触発され、あくまで外交として今回の戦争を終結させようとしたロゴスを排し、自らの手でコーディネーターを粛清しようと目論んでいる。
前大戦を彷彿とさせるが、前大戦と違い、ロゴス排除の凶行と勝算なき戦争の継続で、連合内でも賛同者は少ない。むしろ、密かに是正を望む者の方が多いだろう。
そして、アイリーンは提案する、連合本拠地であるヘブンズ・ゲートへの大規模降下作戦の実行を。またも議会はどよめくが、言の葉に乗るのは希望に満ちた憶測だった。
そんな中、エザリアは鋭く言い放つ。ならば性急に動かず、連合の自滅を待った方が良い。我々は幸いにも、国民に現政権が消極的と責められる心配はない、ただの小競り合いをさも一大決戦と国民に誤認させてくれる、優れたカードを持っているのだから。
アイリーンは答える。降下作戦の成否を分ける、月の連合戦力は確実に動かない。月の事実上の支配者でありながら、地球とも宇宙とも孤立しているジブリールは、殺されるか、もしくは降下作戦を黙認するしか、ブルーコスモスと無関係と証明する術はない。
実際、降下したとしても、最悪、ヘブンズ・ゲートにサイクロプス設置の懸念もあるが、それを念頭に置いた上で立ち回れば前大戦のような損害はない。第一、事実上、連合が地球圏で孤立している以上、ヘブンズ・ゲートを失えば連合は終わりだ。
逆に、時間を掛ければ苦境を打破するため、連合、いや、ブルーコスモスが核を使用する可能性もある。そうなったら、それこそ前大戦の再現になる。
しかし、エザリアは食い下がった。そもそも戦争継続の発端であるデュランダル暗殺事件、その真相は評議会でも未だ憶測でしか語られていない。血のバレンタイン、ユニウスセブン落下事件、どちらも背後関係が明らかだったから戦争に踏み切れた筈だ。
すると、アイリーンは笑った。暗殺者の正体はもう判明している。
ヴェサリウス。私服のマユは、部下達全員の前で、入院している間中、ずっと考えた結論を告げる。ガーディ・ルーとの浅はかならぬ因縁の存在と、今はそれを語れない事情があることを説明、いつか全てを話すことを約束し、頭を下げた。
そして、マユが恐る恐る頭を上げると、お祝いの花束を渡された。呆気にとられたマユだが、徐々に、年上の部下達が、自分の復帰を祝ってくれていると実感した。
それからすぐ後、まだ全員がいる前で、マユは連行される。理由は、死んだ筈の実兄との、現在の関係について、であった。
ディアッカ「ま、俺達もガキじゃねぇし、マユが信頼できるかどうかは、今までの行動が教えてくれる、ってな」
イザーク「要するに、これからもよろしくお願いします上官殿、だ」
マユ「え、あ……、その、こ、こちらこそ、よろしくお願いします」
- 109 :マユ種のひと :2006/08/20(日) 07:29:21 ID:???
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第四十六話
アイリーンや多くの評議会メンバーとザフトの大戦力を伴って、移動要塞メサイアは 地球へと進路をとる。地球への大規模降下作戦の急場の拠点となるために。
同時刻、プラントのニュース。アイリーンは力強く訴える、デュランダル暗殺犯が連合軍特務隊のゲン・ヘーアンなる人物であり、地球の敵意が明らかになった、自分は先の激戦で負傷し、長期療養中のマユ・アスカに代わり、戦って平和を勝ち取ることを宣言した。
エターナルのブリッジでそのニュースを見たキラは一抹の不安を覚える。バルドフェルドから惚けるな、と渇を入れられる。横目にそれを眺めたラクスは、改めてエターナルが向かう廃コロニーを見つめた。
エターナルの挙動を電子の地図上で見るネオ。この先は一応プラントの領内と語ったリー。同時に、先に結んだ密約で賊が出没することが容認された宙域でもある、とネオは言葉をつなぐ。
廃コロニーの宇宙港。ラクスとキラはミリアリアに挨拶し、手持ちのケースをミリアリアに渡した。そして、傍らのミーアには握手、ミーアはそれに応じつつ、死んだと聞かされたから死ぬ気で頑張ったのに、と嘆いてみせた。
ラクスは欺いたことを謝罪し、続いて、ミーアが立派にやってくれたから今日まで生き長らえた、と感謝した。同じくキラもミーアに感謝の言葉を送った。ラクスとキラ、並んだ二人の雰囲気を察して、ミーアはやってられない、とむくれた。
和む三人とは別に、ケースの中の資料を改めながら、ミリアリアはこんなことを呟く。
ジブリール家が、言ってみれば昔からの貴族で、その家が毎晩催すパーティーの中でロゴスの始まりとも言える人間の繋がりが形成された。そして現当主、ロード・ジブリールはロゴスの名誉党員である。これ以外に付け加えることはあるか、とラクスに尋ねる。
資格を保持していただけの歴代当主と違い、現当主はロゴスの活動に積極的に参加した。戦後すぐ、ブルーコスモスの盟主に納まり、ロゴスを説き伏せて月基地の大規模な再建に尽力し、ジェネシスの影に怯える連合寄りの月中立都市住人の地球移住にも貢献した。
退去した住人に代わり入ってきたのは、表向き、戦争で家族や帰る場所を無くした孤児、母子など。しかし、実際に移り住んだ人間は、エクステンデッドの素体や、復讐を動機にブルーコスモスに参加した者達、こうして月都市は、反プラント分子の巣窟になった。
ラクスは、デュランダル暗殺犯・ゲンにも触れる。ゲンの公式な記録は三点、ゲンが連合に籍を置いていること、前大戦中にオーブで戦死者の一人だったこと、戦後に月からそれを撤回したとこと。それ以外、ゲンに関する記録はない。
そして、ラクスは最後の資料を手渡した。数点の写真と設計図。両方に目を通したミリアリアは嫌な顔をした。レクイエム、膨大な熱量のビームと、その軌道を変える衛星を用いてプラントを狙い撃つ戦略兵器、いや、虐殺の道具。
ミリアリアは頭を振り、何人死んだ、と聞く。月に降りた者は全員、と答えたラクス。ミリアリアはしっかりこの情報を受けとり、プラントに戻ることを約束。ラクスもミーアをオーブに送り届けることを約束した。しかし、ミーアには寝耳に水だった。
- 110 :マユ種のひと :2006/08/20(日) 07:30:51 ID:???
- これがエザリアの協力を得る条件だった、そうミリアリアは切り出した。エザリアが逃亡者や死人を当てにする程、今のプラントは当てにできない。この情報にしても怪文書として扱われるのが落ち。だから、これを有効に活用できる人間に、誰かが直接届けないといけない。
今にも泣きそうなミーアに、ミリアリアは大丈夫と優しく諭し、オーブで落ち合うことを約束した。そこに飛び込んできたバルドフェルドは、外部との接触が断たれていることを告げ、敵が、ファントム・ペインが来ると断言した。
蒼いジャスティス達を引き連れデスティニーを駆るネオは、リー、スティング、アウルから獲物の反応はない、と通信を受けた直後、出港するエターナルとミーティアFr(フリーダム)を発見した。
ミーティアFrの中でキラは、蒼いジャスティスの中心にいるデスティニーを凝視する。あれにマユの兄が乗っている、そう呟いた。
デスティニー率いる一群、ミーティアFrの両方が火気を構える。しかし、先制はラクスの、相手に武器を収めろという訴えだった。デスティニーからビームの返答、蒼いジャスティス等も倣う。露骨な問答無用に、ミーティアFrは厚い弾幕でエターナルを護る。
砲火と敵意が渦巻く中、ラクスは怖じず、尚も訴える。この戦争は、相手を殺し尽くすしか終わりの見出せない所に行き着こうとしている。ネオは、今度は言葉で答えた、我等の雇い主は宇宙開拓時代から宇宙百年戦争時代への移行を熱望している、と。
ラクスは激した、全人類の半分を戦争で殺すつもりか。ネオは事もなげに言う、もっと死ぬだろうな。そこまでわかっているのなら何故、とラクスは問わずにはいられない。
平和の中では、莫大な維持費を必要とするエクステンデッドは処分される、復讐者はその怒りを黙殺される、故に我等ファントム・ペイン、決して平和の犠牲にはならない。
その言葉に強い衝撃を受けるキラ。しかし、同時に、ラクスもネオと同じだけの強さを以て、その悪意を挫くことを宣言する。ネオは改めて部下に命令する、皆殺しにせよ、と。
蒼いジャスティス達が全ての火器を展開し、一斉射の構えを見せる。しかし、ミーティアFrのミサイルが、ビームが、相手に狙いを定めさせず、かつ足並みを乱し、機動力を伴った巨体は縦横無尽に戦場を駆け抜けた。
両陣営、同じ驚きを感じていた。ミーティアFrの奔放な動きは、エターナルの守備を放棄した動き。ブリッジはキラを諌めようとするが、ラクスがそれを止める。
片や、ネオは納得している。ミーティアFrの荒々しい動きに対処するため、エターナルの包囲が徐々に歪に、かつ遠巻きになっている。となると、自分の行動も決まってくる。蒼いジャスティス等が下がる中、デスティニーはエターナルに向かって飛ぶ。
その瞬間、デスティニーは孤立した。キラは、即座にミーティアFrでデスティニーを追いつつ、その火力を全体から単体へ切り替え、放った。そのビームやミサイルは、デスティニー本体ではなく、その周囲、いわば避けた先、全てに殺到した。
ミラージュコロイドを使う意味さえない状況で、ネオはあえて、猛追してくるミーティアFrを迎え撃つ。ミーティアFrが対艦ビームソードを振り被る。デスティニーはアロンダイトを抜く。真っ向から切り結び、アロンダイトは、ソードごとミーティアを一刀両断にした。
が、フリーダムはその直前、分離して逃れた。ミーティアの爆発。デスティニーはそれに巻き込まれまいとビームシールドを張る。その間、高速で飛び出したフリーダムは、エターナルを足場にして、強引に真逆の方向、デスティニーの方向に跳ぶ。
- 111 :マユ種のひと :2006/08/20(日) 07:31:56 ID:???
- この動きに、蒼いジャスティスのエクステンデッド等は驚愕した。フリーダムはビームサーベルを構え、デスティニーの無防備な背中から刺突。
フリーダムのビームサーベルは、深々と根元まで押し込まれた。だが、デスティニーが背中に回した掌は、サーベルの放つビームを易々と弾いていた。この時、ネオはキラに語りかける、これをかわした直後の至近距離から、一斉射で仕留めるつもりだったのか、と。
デスティニーの手が、サーベルごとフリーダムの手を握り潰し、そのままフリーダムを投げ捨てる。そして、デスティニーは、フリーダムにはビームシールドを構え、エターナルにはビームライフルを構えた。
キラは息を呑み、フリーダムはエターナルへと飛んだ。蒼いジャスティスのビームを潜り抜け、エターナルのブリッジをデスティニーが撃ったビームとの間に、辛うじてフリーダムのシールドが滑り込む。止めた、キラが確信した直後、ビームはシールドを貫通した。
わずかに着弾点が逸れたビームの一撃は、エターナルのブリッジを吹き飛ばし、ラクスを外へ。フリーダムの残った片腕は、ラクスに届いた。コックピット、キラは傷ついたラクスを抱きとめる。
しかし、エターナルは直後の猛攻で戦闘能力を奪われ、Stフリーダムや∞ジャスティスが率いる一部隊も間近に迫る。そんなキラの腕の中から、本物のラクスとミリアリアのためにもう少し逃げ回ってくれ、とミーアは頼み込み。キラは従った。
それを見取って、ミーアはマユに呼び掛ける、こんな自分でもあの人と同じ天国にいけるだろうか、と。キラは、すぐに何とかするからしっかりしろ、と励ました。
ベッドの上に横たわり、虚ろな目をしたマユがいる狭い部屋に、アビーは訪れた。アビーはほとんど手の付けられていない食事に目をやり、ちゃんと食べるように言った。暗い眼差しのマユは、アビーに自分を殺してくれるように頼んだ。アビーは拒否した。
なら、危険を冒してまで会いに来なくていい、兄のことが露見した以上、自分はもう終わり、とマユは言う。アビーはそれでも励ますが、マユは、家族を犠牲にしてまで拾った命で散々人を殺したからバチが当たった、と返した。
アビーは、マユの手を握り、何でもいいからやり残したことを思い出すように言った。マユは何の抑揚もなく答える、コーディネーターを皆殺しにしたい、代わりにナチュラルを幾ら殺しても気が晴れなかったから、と。
一瞬、呆けてしまったアビー。しかし、すぐに己を取り戻し、マユのその願いを叶える約束をした。そして、耳元で誓う、マユを決して、平和の犠牲にさせない、と。
色さえも失ったフリーダムの中で、物言わぬミーアを抱いたキラの目に、ザフトの基地が見える。すると、その基地から、キラが見たこともない三機のMSが出撃し、発砲。キラは回線を開くが、通信は妨害されていた。驚愕するキラ、警告もなしに攻撃された訳を理解した。
なす術もなくビームを射掛けられる最中、コックピットの中でキラは訴え続ける。だが、フリーダムは、三機のMSのビームサーベルに貫かれ、程なく爆発した。
ガーディ・ルーのブリッジ。人知れず顛末を見取ったリーは、闇雲に逃げていただけか、と吐き捨てた。
ミーア「……いい歌、次、これ歌お…ぅ……」
- 122 :マユ種のひと :2006/08/21(月) 05:47:02 ID:???
第四十七話
人気のない所で倒れこむミリアリア。傷口を押さえつつも、そこから体の力が抜けていくことを実感する。しかし、ミリアリアは満足していた。
敵は、自分の情報撹乱のために完全にラクスを見失った。だから、囮の自分にここまで必死に食い付いてきた。ラクスは今頃プラントの勢力圏に入っている。あとはエザリアが上手くやってくれる、マユも協力して、きっと混沌の種を取り除いてくれる。
そして、ミリアリアはミーアとディアッカを思い、ごめんね、と呟き、目を閉じた。
プラントのニュース。これは二時間前の映像と断りを入れて、メサイヤから発進したザフトの第一陣がヘブンズ・ゲートに降下する、一大降下作戦の模様が映し出された。
同じく、現在飛び込んできた映像。プラント本国にて、ザクを引き連れたレジェンドが、繁華街上空を低い高度で飛ぶ。そして、白服を着たマユがコックピットから身を乗り出して、全快した自分はこのまま降下作戦に参加すると明言。市民達はこの演出に熱狂した。
レジェンドは人の多い所を低空で飛行し、宇宙港に市民を詰め掛けさせ、市民達に宇宙へ出るのを見守らせた。後、こちらの追跡を振り切り、消息を絶った。エザリアを欠いたまま始まるメサイヤでのプラント最高評議会で、アイリーン等はマユ脱走の顛末を聞く。
今すぐ指名手配にしよう。理由はどうする。子供のすることに一々説明はいらない。それは良くない、ゲンとの関係を公にしよう。それではマユがプラントを見捨てたことになる。こちらの足元を見た上でのあの脱走だ、ここで目にもの見せないでどうする。
アイリーンは、現在遂行中の降下作戦に比べればマユの脱走は小事、それ故にこのことは公開せず、捕縛次第、秘密裏に処分することを提案し、決定とした。
宇宙、デブリ帯。アビーは用意してあった燃料をレジェンドに補給し、マユも自身の栄養補給。アビーがコックピットに戻ってすぐ、レジェンドは飛ぶ。ずっと無口なマユに、アビーは自分の権限では組織の呼称も明かせないと前置きしてから、語り始める。
前大戦の時、ナチュラルと仲良くなろうと努力してコーディネーターに爪弾きにされてコーディネーター嫌いのコーディネーターになった自分を受け入れてくれた人達だから、マユも受け入れてくれる、何より、コーディネ−ターより優しい人達ばかりだ、と。
マユの脳裏にステラの傷跡が過ぎる。そして、レジェンドの瞳に、廃コロニーが映った。
本国の防衛隊に組み込まれたマユの元部下達は、テレビで知った突然のマユ解放と、それについて自分達に何の音沙汰もないことを議題にして議論を始めた。
ディアッカはそれに参加せず、傍らのイザークに、マユのことで抗議し過ぎて謹慎を食らったアビーも安心しているかな、と語りかける。イザークは曖昧に返事し、その後、フリーダムの動力は何かと尋ね返した。ディアッカは「核」と即答。
藪から棒な質問の理由を、ディアッカは聞き返した。イザークは、地上に一機だけバッテリー式のフリーダムがあるとマユが語ったのを思い出した、と答えた。ディアッカは初耳の新型フリーダムを燃費が悪そうだ、で片付けた。
イザークは今、その続きを思い出す。
今戦争中、宇宙でしか活動していなかったこの隊の隊員で、「核動力」のフリーダムといった人がいる。万が一、バッテリー式のことを知っていて口走った言葉なら、その人はオーブと内通しているか、新たにフリーダムを造った連中と内通しているかもしれない。
- 123 :マユ種のひと :2006/08/21(月) 05:48:24 ID:???
- イザークは考えすぎと言い、マユも概ね同意し、だからイザークにだけ打ち明けた。
その時のことをイザークは、身の丈を超えた多くの不安を抱えたマユが生んだ疑心暗鬼と考え、自分がマユにとって信頼に足る人物になろうと、密かに誓いを立てた。しかし、今のニュースを見て、自分がマユを信じていなかったことを思い知らされた。
小さなノートに目を通すネオに、マユが来た、というリーの通信が入る。ネオはノートを閉じ、レジェンドの方を見やる。
廃コロニーの中、レジェンドが降り立ったのは、黒いフリーダムや蒼いジャスティス等が居並び、その中心にStフリーダムと∞ジャスティス、そして、デスティニーが立つ所。出迎えとしてレジェンドの前に立ったのはネオ一人、あとは全員、MSの中。
一足先にアビーが降りる。ネオは難事をやり遂げたアビーを労った後、降りずにその様子を見下ろすマユに向けて、読んでいたノートを掲げる。これが戦利品であり、ミリアリアのノートであること告げ、その中の一文を聞かせる。
「全てを憎んでいると少女は告白した。しかし、私は知っている。仲間が全て死んだと聞かされた時の少女の絶望は、古い悪友の慰めさえも必要としたあの時の哀惜は、全て仲間を思うが故。その確かな繋がりの前では、憎悪など些細な揺らめきでしかないだろう」
そして、ネオは苛烈に問う、今のマユにとってミネルバは何だ。マユは大きく息を吐き、胸を張り、不敵に笑って、家族、と返答、そしてレジェンドに飛び込んだ。ネオは即座に敵と判断、攻撃を指示した。
黒いフリーダムの砲撃が交差する。レジェンドは一瞬早く飛び上がって逃れるも、蒼いジャスティスがそれを追う。ほぼ真下から迫る敵、レジェンドはドラグーンと共にビームを撃ち込む。蒼いジャスティスの接近を阻むが、その間に空中で黒いフリーダムに四方を囲まれた。
全フリーダムとジャスティスの、一点を狙う一斉射撃。空は閃光に染まる。
この時、スティングとアウルは地面に逃れたレジェンドを見逃さなかった。間髪入れずに飛び出すレジェンドの前に回り込んだStフリーダム、∞ジャスティス。両機はドラグーンを、ファトゥム01を分離する。が、レジェンドは構わず突っ込んできた。
追突の瞬間、三機は同時にシールドを構えた。Stフリーダムと∞ジャスティスは左右に弾かれ、レジェンドはそこを一気に抜けた。その先に佇むのは、デスティニー。
レジェンドはドラグーンを展開。だが、デスティニーが光の翼を羽ばたくと、ドラグーンは明後日の方向に飛んでいった。ミラージュ・コロイドはドラグーンの操作や索敵に干渉し、無力化した。しかし、それでも、レジェンドは突っ込む。デスティニーも応じる。
レジェンドはビームジャベリンに手を掛けるが、デスティニーの踏み込みの方が速く、先に掌が伸びる。ジャベリンは抜かない、代わりにレジェンドはデスティニーの掌にビームシールドを押し付けた。だが、デスティニーの掌からの一撃は、そのビームシールドでさえも貫いた。
- 124 :マユ種のひと :2006/08/21(月) 05:54:14 ID:???
- デスティニーに容易く押し返され、ビームに右肩を根元から抉られたレジェンド。さらにファトゥム01に両足を切り飛ばされ、ドラグーンが頭部とバックパックを破壊、残った胴体部分にビームの火傷を刻み込む。そして、レジェンドは仰向けに倒れた。
コックピットの中、マユは血を吐き続けていた。意識が朦朧とする。黒いフリーダムや蒼いジャスティスがドーム状に自分を取り囲む光景は、ますます意識を遠退かせる。死を前にして、マユは、インパルスの中で死ねないことを、未練に思った。
その時、空の一角が穿たれ、そこから真っ赤な流れ星のような物が三つ入ってくるのを、マユは見た。その三つ流星は数多くのビームを弾きながら、レジェンド目掛けてやってくる。近づかれてマユは、三つの流星の正体が全身をビームのようなもので覆ったMSと認識した。
直後、ファントム・ペインの囲みの中から鮮やかにレジェンドを攫った三つの流星、ドム・トルーパー。言われるままレジェンドからドムに乗り移ったマユが、そこでヒルダと再会したのも束の間、奥の方へ倒れ込んで、そのまま眠った。
一気に囲いを抜けたドム三機、その中でヒルダのドムは追撃の一群の鼻先に半壊したレジェンドを投げ込む。そして、ヒルダがマユに代わって礼と別れの言葉を送った後、ドムのビームでレジェンドを撃ち抜き、爆散、追撃の出鼻を挫く。
絶対に逃がすなと叫ぶネオ、それに応えるアウル、スティング等のエクステンデッド達。何が何でも逃げ切ると叫ぶヒルダに、マーズとヘルベルトは応えた。
オーブ、マスドライバー。宇宙に出るための準備を着々と進めるオーブとザフトのスタッフ。その一角で、アレックスとその部下、さらにレイとルナ、そしてステラを、敬礼で迎える、タリア以下ミネルバ・クルー、マリュー、トダカ。
そこにやってきたユウナは、カガリからマスドライバー使用の黙認を取り付けたと全員に報告、あとの責任は全部自分が持つし、戦後処理はその手腕でロゴスにも一目置かれたカガリが上手くやってくれるから、君達は思う存分やってくれ、と軽く発破を掛ける。
すると、マリューは今回のユウナの行動が意外だったと正直な感想を述べる。ユウナは少し申し訳なさそうに答える、前戦後ロゴスと接触したくて、ジブリールに、オーブで回収したフリーダムを手土産にしたことに責任を感じている、と。
すると、アレックスはこんなことを語り始める。フェイスとして降下作戦を独自に助けるという建前で出る自分達に、ザフト地上軍司令部はこう言った、英雄になってこい、と。そうすれば全て帳消しになる、とも言った
さる施設の中で、スタッフ総出で傷ついたドムの面倒を見る。それを見守るヒルダ、マーズ、ヘルベルトの三人に、バルドフェルドはコーヒーを振舞った。
ベッドの上で意識を取り戻したマユは、傍らのキラにここがどこかと尋ねる。ジャンク・ギルド、ザフトの基地に戻っていたら間違いなく攻撃されていたから、とキラは答える。
マユは釈然としない、それではヒルダ達が試作MSを持ち出して脱走した疑いが掛かる。ヒルダや、彼等に付いてきた多くの基地の人間達は、全て納得した上でやったこと、ともキラは言った。
その後でキラから、マユに会わせたい人がいる、と切り出して小箱を手渡した。中には一束の桃色の髪、マユはそれをミーアと呼んだ。キラは、損傷が酷くて保存ができない時間も長かったから、それだけしか残せなかった、と語り、黙り込んだ。
マユはミーアの遺髪を手にとって、頬に寄せた。
マユ「貴女のこと、大嫌いだけど、貴女に会えて、良かった」
- 129 :マユ種のひと :2006/08/22(火) 05:50:50 ID:???
-
第四十八話
ジャンク・ギルド。マユを見舞いに来たヒルダは、マユが眠っている間にキラがアークエンジェル合流のために発ったことを報せる。そんなに長い時間、自分は寝ていたのか、と尋ねるマユに、ヒルダはゆっくり休めと言うに留める。
直後、マユは少量の血を吐く。マユは、確かに休まないと体はもたないと自覚した上で、戦争を終わらすためなら、どんな無茶でもする、そう言って憚らなかった。
プラント、エザリアの邸宅。湿っぽく紅茶を囲むエザリアとラクス。黙々と資料を読んだエザリアは、降下作戦に最後まで反対したために自分は発言力を奪われ、また、マユもいない今、国民に強く訴える方法はない、つまり手遅れ、とラクスに語った。
ミーアを、ミリアリアを、バルドフェルドを、そしてキラを、囮として使い捨ててまでここにきたラクスは、ひどく落ち込んだ。本当にただの女の子だから接触しなかったマユの不在がために、最後の最後で全てが頓挫するとは思わなかった。
月連合基地の司令部。メサイヤより発進した降下部隊第四陣が地球に降下したのを確認。
地球の連合大統領は降下部隊を易々と素通りさせるジブリールに猛抗議、当のジブリールは聞き流し、これが作戦であると説明して、一方的に切り上げた。
ジブリールは傍らのネオに語る、マユになら、新時代の到来を告げる歴史的引き金を譲ってもよかった、と。マユなら、その前に自分達を暗殺するための引き金を迷わず引くだろう、とネオは素っ気無く答える。
ジブリールは、平和だった頃のオーブに戻りたいと泣き喚いていたマユを知っている、と漏らした。ネオは、その時にマユは進むべき道を定めたのだろう、と言った。それを受け、ジブリールは過剰に悲しみを滲ませ、マユに宣戦布告をする。
そして、レクイエムは放たれた。
月より放たれた超エネルギーのビームは、反射衛星を経由し続けながら方向を変え、プラントのコロニーを数基、破壊した。
メサイヤでもレクイエムの挙動を察知したが、アイリーンを始め、多くの人間が事実を理解しきれていない。そして、レクイエムの二発目は護衛艦隊の半数以上を飲み込んで、メサイヤに直撃した。
メサイヤの防護フィールドで辛うじて絶命を免れたアイリーン。しかし、メサイヤの機能は徹底的に破壊し尽くされ、絶命を免れなかった者も多く、中は地獄絵図になった。
プラント市民は頭上を横切った凄まじい光を目撃し、それがもたらした結果に恐怖した。泣く者、喚く者、嘆く者、許しを請う者、そういった市民達を前に、全てのメディアがラクスの姿を映し出した。
画面の中のラクスは、自分がミーア・キャンベルという偽者であることを語った。そして、地上の統治支配で現地のナチュラルと仲良くしているコーディネーターのことや、生まれ故郷のオーブ人の人の好さを訴え、みんなで一緒に地上へ逃げようと呼び掛けた。
市民の奇行が一瞬だけ止んだ。そこに切り込むように、ザフトのプラント防衛隊や公職員が率先して市民を誘導する。一部の市民はそれに触発され、プラントからの脱出を図る。また、その行為はさらなる広がりを見せ、プラント市民の大避難が始まった。
部下から上々の報告をエザリアは聞き、ラクスにこの調子で頼む、とも言った。ラクスは胸が痛んだ。
- 130 :マユ種のひと :2006/08/22(火) 05:54:16 ID:???
- 月基地。初運転にして連続発射したレクイエムの総点検に多くの人員が駆り出される。このため、次の発射までにかなりの時間を要するが、ジブリールはこの結果に満足していた。両方を一気に叩かなければ、市民の避難と軍人の反撃の機会を与えてしまうから。
しかし、プラント本国は市民の避難が始まっている。この迅速な対応に、ジブリールは仕掛けた保険が有効に機能すると確信しながらも、急遽、レクイエムの第三射を命令した。
宇宙にて、プラント市民総退去という前代未聞の避難劇の中で、人一倍、気を吐いて臨むイザークとディアッカ等、ジュール隊。
彼等は、こちらに近付いてくる機影を察知する。それはドミニオン四隻と黒いミーティアFr。ドミニオンからも黒いフリーダムの発進を確認。さらに後方に連合戦力もいる。
コーディネーターを殺し尽くそうとする徹底した布陣を前に、ザクや戦艦も並ぶ。そして、ザフト戦艦と黒いフリーダムは一斉に撃ち合っていた。次の瞬間、イザークとディアッカは弾幕の多くが正確にザフト戦力を撃ち抜いていく黒いミーティアFrに戦慄した。
黒いミーティアFrのコックピット、複座で凄まじい処理速度で敵の索敵と行動予測を行うアビー。それは高い命中率という形で反映された。
黒いミーティアFr。あれがエターナルにあった物と理解し、それがプラント市民の命を奪っていることに対して、ラクスは深い絶望を覚える。さらに後続の連合戦力と同規模の一群も接近、増援の増援に、間近で戦況を見守るプラント市民も、絶望に沈んだ。
その時、新たに現れた一群の、ある者の宣言が、この宙域、全ての者に伝わった。自分達はこの空前絶後の虐殺を止めるために参上した義勇団である、凶行に加担する者も良心に従って退くのなら見逃す、残る者は全て討ち倒す。発信者、マユ・アスカ。
プラントの市民が、ザフトの軍人が、歓喜に包まれた。
月基地。まだ抵抗を見せるプラント、そこにレクイエム第三射、準備完了の報告を受けたジブリールは、即座に発射を命じた。連続で反射衛星を経由し、最後の一点を経由する直前、最後の反射衛星の反応が消え、レクイエムの一撃も虚空に消える。
何事か、と叫ぶジブリールに、オーブ艦隊が反射衛星を破壊した、という報告。どうやって反射衛星の正確な位置を知ったのだ、ジブリールはその疑問を口にしていた。
その只中で、ネオは大画面のモニターの一つに目を配り、混戦のプラントに近付く一つの機影を見つける。そして、規模と速度から、それが強襲艦と推理した。
イザークやディアッカのザクが、ヒルダ達のドムが、バルドフェルドの、マユのM1アストレイが、ザフトが、義勇団が奮戦し、市民達の応援し、祈る。しかし、黒いフリーダムは、黒いミーティアFrは、その砲火で多くの命を奪っていく、戦う者も、そうでない者も。
イザークとディアッカは黒いミーティアに突っかける。が、その行動はアビーの予測通りだった。黒いミーティアFrの先手は、ディアッカのザクを狙い撃って攻撃能力を奪い、イザークのザクに押し寄せた弾幕の波に攻撃力と機動力をもっていかれた。
仕留められることを覚悟したイザーク。だが、トドメの一撃が届く前に、マユのM1アストレイがイザークのザクを抱いて、飛ぶ。しかし、行く手を黒いフリーダムとドミニオンが、来た道を黒いミーティアFrが阻む。
- 131 :マユ種のひと :2006/08/22(火) 05:55:09 ID:???
- その時、遠くから届いた戦艦の主砲がドミニオンに直撃し、沈む。同時に、凄まじい火力が黒いフリーダムを振り払い、黒いミーティアFrは何者かのオールレンジ攻撃に晒された。敵が土壇場にきっちり間に合わせてきたことに、アビーは怒りを滲ませる。
マユのM1アストレイに取り付いたガイアは、二人の離脱に手を貸す。ステラに大丈夫か、と聞かれたマユは、思ってもみなかったステラの声に驚いて生返事で答える。その時、マユに早く愛機に乗り換えろ、というレイとルナの催促の通信が入り、カオスとアビスが擦れ違った。
見えてきたミネルバ。メイリンの着艦の案内。続いてタリアから黒いミーティアFr撃墜を命令される、そして、インパルスは直してある、と言い添えた。
ミネルバへと身を躍らせる黒いミーティアFr。敵の馬鹿げた火力と、精度の高い行動予測にレイもルナも面食らう。その時、マユからの通信、上手くいけば黒いミーティアFrを初手で仕留められるかもしれない、だから一旦退いて、と。
失敗はちゃんとフォローする、と答えたレイ。次いでルナは、牽制のためにアビスでビームをばら撒く。その直後、ミネルバより、最初からMS状態のインパルスが飛び立つ。そのスピードからアビーはフォースと予想、そして行動予測、詰みの一手までを計算する。
高い機動性で黒いミーティアFrのミサイルと収束ビームを次々かわすインパルス。しかし、それこそがアビーの誘導、黒いミーティアFrは一つのルートを取らされたインパルスの前に回り込み、対艦ビームソードを叩き込んだ。
次の瞬間、対艦ビームソードと真っ向からぶつかる、ソード・インパルスの対艦刀。そうして鍔迫り合う中、インパルスは右肩からブラストの長距離ビーム砲を取り、黒いミーティアFrの鼻先に構え、引き金を引いた。アビーは、光の中に消えた。
月。ネオはジブリールに、レクイエムの四発目にはどうしても長い時間を要することを理由に、プラント本国に送った部隊の撤退を進言した。ネオの進言を受け入れたジブリール、しかし、彼は怒りに震えていた。
レイやルナ、他にも多くのクルーが集まって見守る中、右肩に長距離ビーム砲、左肩に対艦刀を装備した、フォースのようなインパルスがミネルバに着艦した。
インパルスから皆の前に降りて、マユはヘルメットを取る。その時、クルーは驚いて沈黙し、ステラは思わずマユをネオと呼んでしまった。マユは、長かった髪をばっさり切り落としていた。
そんな中、マユはインパルスを修理、改造してくれた人物が誰かと尋ねる。一歩前に出たのはヴィーノとヨウラン。マユは二人の前まで行き、優しく微笑んだ。後、ヘルメットで二人を思い切り殴り飛ばした。
対艦刀を振るだけで腕は壊れ、長距離ビーム砲は10メートル先も狙えず、挙げ句に分離もできない、インパルスをよくもこうまで……。マユは、心底怒っていた。
取り押さえようと飛び出すレイとルナ、ステラも手伝えと言われるがオロオロするのみ、ヴィーノもヨウランも腰を抜かして這って逃げる、まだ殴り足りないとマユは暴れる、メイリンは形見の携帯電話を握ったまま、固まっていた。
メイリン「返すの、もう少し後のほうがいいかな……」