138 :マユ種のひと :2006/08/23(水) 20:24:33 ID:???


第四十九話
 ミネルバの格納庫。新生インパルスの中で眠るマユに、毛布を掛けるルナ、傍らにはレイ。ルナは、三機のシルエットの使えるパーツで無理やり修繕したインパルスを見やり、何にしてもマユとインパルスが一緒なら勝てる気がする、と口にする。レイも同意する。
 そんなご利益はないよ、とマユが答えた。起こしたことを詫びるルナ。もう起きるつもりだった、で済ませるマユに、レイは疑問をぶつける、どうしてコーディネーターのために戦えるのか、と。マユは少し困った顔をしてから、目の前の二人を抱きしめた。
 出会ってすぐ、命を大事にしろと怒って、自分達で護ろうと言ってくれた、ルナとレイを死なせたくないと思った。それが始まり、ミネルバの皆を大好きになれたのも、他人の死に無頓着でなくなったのも、全部。
 レイとルナ、二人で、マユを抱きしめた。

 月基地。ネオは、リーやアウルやスティングを始めに整列するファントム・ペインの兵士達の前に姿を現し、状況を伝える。
 プラントから、地球へ向かう避難民と月攻撃のザフト、この二つの船団が出航した。メサイヤ付近ではアレックスが護衛艦隊の残存戦力を纏め上げ、ユウナ率いるオーブ艦隊と合流。我々が最初に迎え撃つのは、この混成軍になる。
 連中がプラントの戦力到着を待たないのは、避難民のため、せめて我々だけでもここに足止めしておきたいという思惑からだ。だが、我々の現状も好くない。正規の連合宇宙軍はこちらの出動要請に消極的で、ヘブンズゲートの両軍は睨み合ったまま動かなくなった。
 ネオは語る。諸君等が体感している通り、次の戦いは我々ファントム・ペインと、大きい意味でそれ以外の人間達の、生存を賭けた戦いになる。そして、命令を伝える、レクイエムを死守し、敵対する全てのモノを滅ぼせ、我等の時代を勝ち取るのだ。

 月に迫るオーブ・ザフトの混成軍に向かって、ドミニオンやガーディ・ルーが来襲。それ等の艦より、黒いフリーダム、蒼いジャスティス、Stフリーダム、∞ジャスティス、デスティニーが出る。
 ユウナの号令でオーブ艦隊は応戦。アスランがセイバーに乗って飛び立つと共に、ザフト艦隊からMSが展開。アークエンジェル、キラは遠くのラクスを想い、不可能を可能にしてくると呟き、青く染まったエール・ストライク・ルージュで出撃した。

 避難民の船団の中、ラクスは、カガリに届けてほしいと、マユから手渡された小箱を眺める。中には、桃色と、黒色の、二束の髪。辛い役回りばかり、これはミーアを死なせた罰なのだろうか。
 そう悩むラクスに声が掛けられる、同じく不安に押し潰されそうなプラント市民を和ますために、ミーアとしてステージに立つ。

 月付近。ファントム・ペインの凄まじい攻勢に、劣勢の混成軍。その只中でムラサメ隊の決死の突撃が敵陣の中央に綻びを生む。トダカの指摘を受けたユウナの指示の下、オーブ艦隊は前進し、敵陣中央に穴を作る。月までの道が拓いた。
 まさにその時、ミネルバとプラントから駆けつけた援軍もすぐそこに。勢いづく混成軍だが、タリアは敵が中央にできた穴を広げる方向に動いていることに気付き、急ぎ全軍に月からの攻撃への注意を呼び掛けた。


139 :マユ種のひと :2006/08/23(水) 20:26:46 ID:???
 その直後、レクイエムの一撃は戦場を通過。ユウナの乗るクサナギ共々、オーブ艦隊の多くを飲み込んだ。恐怖の走る混成軍を突っ切って、ミネルバはレクイエムの一撃が通過してできた敵も味方も一機もいない空間を一気に駆け抜ける。
 第二射を恐れないミネルバの行動に両軍は仰天。だが、アークエンジェルはこれに習う。リーは逸早くミネルバ追撃を指示。デスティニーと∞ジャスティスも追撃。しかし、Stフリーダムはその移動をアレックス、イザーク、ディアッカに阻まれた。

 マリューは、先陣を切るミネルバとそれに詰め寄るガーディ・ルーの図抜けた速さに歯痒い思いをした。アークエンジェルの戦力では追撃する黒いフリーダムと蒼いジャスティスを牽制するのが精一杯。だから、キラを単独で、ミネルバ援護に行くよう命令した。
 横に並んだガーディ・ルーとミネルバは激しく撃ち合い、互いに攻撃を受けながらも月基地との距離を縮めていく。そして、ミネルバからの一撃はガーディ・ルーの足を奪った。
 それでも食い下がろうとするリーに、ネオは一時退却を命じ、デスティニーと∞ジャスティスはガーディ・ルーを追い抜く。そして、月からも基地防衛隊のMSが出撃する。
 先程の撃ち合いの損害で、進めばミネルバでの帰還は不可能になると知らされたタリアは、ミネルバで特攻を仕掛ける旨をクルーに伝えた。

 ミネルバから、無傷のインパルス、アビス、カオス、ガイア、ドム三機が出撃すると共に、ミネルバを襲う月防衛隊からの砲火を、三機のドムが盾となり、四機のガンダムが銃となり、ミネルバの進路を確保し、ミネルバはその中を突き進む。
 慌ただしいミネルバの中、ブリッジでは、メイリンが一人でもある程度は艦を操縦できるための調整を終えた。タリアはアーサーに、避難民の中に自分の子供がおり、母がどれだけ身勝手な女だったのかを伝えて欲しいと頼み、改めてクルーに退避を命じる。
 ついに追い付いたデスティニーと∞ジャスティス。後続を顧みないミネルバの突出に特攻の意思を読み取ったネオ。それを受け、アウルは一気に仕留めると息巻く。ネオは、ここから仕掛けることを告げ、両機は一気に動いた。
 ファトゥム01に乗った∞ジャスティスが飛び出し、デスティニーはその場で高エネルギービーム砲を構える。デスティニーの狙いがミネルバに定まった時、そのデスティニーを狙うビームが一閃、瞬時にかわしたデスティニー、ストライクも追い付いた。
 後方の異常を察しつつも、アウルは攻撃を続行。月まで間近に迫る全速のミネルバに、∞ジャスティスはみるみる距離を詰めていく。
 ∞ジャスティスより離れ、ミネルバのかわしきれない勢いでファトゥム01が迫る。ドム三機は最大出力の防御フィールドで受け止め、圧し合う。が、ファトゥム01と同等のスピードの∞ジャスティスは一気にそれらを飛び越え、ミネルバに切り掛かる。
 反応の遅れたレイとルナに代わり、それを阻んだのはガイアの体当たりだった。その時のもつれの中で、アウルはステラの存在を認識し、戸惑いを生む。まさにその刹那、インパルスは二本のビームサーベルで∞ジャスティスを刺し貫いた。
 ガイアは∞ジャスティスに手を伸ばす。しかし、インパルスに腕を引かれて届かない。∞ジャスティス、核爆発。ステラは絶叫し、マユは会食の続きは地獄で、と言った。

 ネオは、その爆発でアウルの死を知る。そして、デスティニーの掌部ビーム砲を警戒しながら戦うキラのストライクに、デスティニーの蹴りが決まる。ネオはコックピットを潰した感触もそこそこに、ミネルバへと意識を向ける。


140 :マユ種のひと :2006/08/23(水) 20:28:04 ID:???
 特攻を仕掛けるミネルバ。しかし、その行く手はレクイエム発射口から外れている。防衛隊はレクイエムを最優先で護り、ミネルバへの攻撃は弱い方だ。この時、これがミネルバ側の計算通りなら、という仮定を立てたネオに、特攻で撃ち抜く標的が見えた。
 ミネルバは、広大な月基地の一角に体をぶつけた。地表を突き破り、地下施設に半分ほど突き刺さった状態で止まった。タリアは館内に通信、エイブスはそれを待っていた。タリアの号令の下、手動で、主砲・タンホイザーは放たれた。
 月基地地下の司令部が激しく揺れた。ジブリールは状況説明を命じる。特攻したミネルバの距離マイナスで撃った主砲は、地下に複数設置されたエネルギー供給施設で最大の物を破壊、これによりレクイエムの発射が大幅に遅れる、と。
 歯噛みするジブリール。しかし、宿敵の決死の一撃が供給施設破壊という幸運を呼び込んだ、と思い直し、外からの脅威に対し、レクイエム防衛により力を入れろ、と厳命した。

 ミネルバの作った大穴の中で、蒼いジャスティス等を相手に大立ち回りを演じるドム三機の中心に、デスティニーはわざわざ降り立った。ドムは防御フィールドを展開しつつ、仕掛ける。次の瞬間、デスティニーの周囲は『闇』に包まれた。
 ヒルダは斬られた感覚を受けた後、『闇』を一閃して晴らしたデスティニーのアロンダイトを収める後ろ姿を見る。ミラージュコロイドで周囲の光を弾き、レーダーも目視も利かない『闇』を作り出す、このMSが化け物であることを、改めて理解した。
 ネオは矢張り陽動と確信し、デスティニーが飛び立つ。直後、ドムは爆ぜた。

 ミネルバから飛び立った小型の脱出艇はアビスとカオスを伴って戦場から少し離れた場所を移動していた。生き残ったクルー達がうな垂れる中で、アーサーは、自分達はまだマユ救出を成功させないといけない、と気を吐いた。クルーは、少し持ち直した。
 そして、彼等を救助するため、脱出艇の前方からアークエンジェルが来る。次の瞬間、一筋のビーム光がアークエンジェルの片足をもぎ取った。驚きに包まれる一同、Stフリーダムはそこに降臨した。

 ミネルバに続いて月に雪崩れ込む混成軍と、基地防衛に総力を注ぐファントム・ペインが混戦する最中、デスティニーは人気のない地下通路を行く。その先で通路を塞ぐようにガイアが立つ。そして、コックピットを開き、ステラは生身の自分を晒した。
 ミネルバが正確にエネルギー供給施設を破壊できるほど基地の内部に精通していた理由を、ネオは静かに受け止めた。その上で、ネオはステラに戦場に戻ってきた理由を尋ねた。護りたい人がたくさんいる、でも戦争が続けば自分一人で護りきれないから。
 そして、ステラはネオに、エクステンデッドの自分が平和の中でも生きていられたこと訴え、さらに皆に今すぐ戦うことを止めるように言って欲しい、とも訴えた。
 ネオはアウルのこと口にする。ステラは、マユを許すことはできないと断った上で、それでもネオやスティングやリー艦長や皆に死んでほしくないから。
 ネオは、デスティニーの掌に光を蓄えさせ、それをガイアに向けて放った。

ネオ「マユは、この先か……」

158 :マユ種のひと :2006/08/24(木) 22:09:54 ID:???


最終話
 ヴェサリウスの格納庫。壊れたザクとセイバーを前に、イザークは自分を適当にあしらっただけのStフリーダムへの雪辱に燃える。ディアッカは、生きて還れただけでも有り難いと諭す。アスランは、あの強敵を無傷で行かせたのが口惜しかった。

 Stフリーダムのドラグーンを交えた一斉射撃は、アークエンジェルを散々痛めつけ、ムラサメを次々落としていく。脱出艇を庇いながら戦うルナは、激しい撃ち合いの中で徐々にアビスの武装を削られていった。
 しかし、レイは違った。Stフリーダム本体の攻撃に対応し、ドラグーンの攻撃を読みきり、変形したカオスで一気に距離を詰める。スティング、一斉射はまだしも、敵は何故ここまでドラグーンに対処できる。レイは生まれて初めて、自分がクローンであることに感謝した。
 そしてMSに変形したカオスはStフリーダムを飛び越え、背中から羽交い絞めにした。正面にビームシールドを張れず、使用できる武器も制限されたStフリーダム。レイはルナに、自分ごとStフリーダムを撃ち抜くように言った。
 スティングはドラグーンを操作、レイもガンバレルを展開。ドラグーンをガンバレルが脅かし、脱出艇や、ルナのアビスを護った。しかし、自分の護りを捨ててまで。
 早く撃てと急かすレイ。引き金に手を掛けたルナ。ドラグーンの猛攻に耐えるカオス。お互いを狙い、胸部の発射口にビームを蓄えるアビスとStフリーダム。そして、ルナは引き金から指を外した、どうしても撃てなかった。
 Stフリーダムの胸部から、ビームが放たれた。その瞬間、アビスを押しのけ、ストライクが割って入った、が、受け止めたシールド諸共、爆発。ルナは息を呑む。
 その爆煙を裂いて、真紅に染まったストライクが現れる。コックピットも剥き出しに、ひび割れた装甲から紅の粒子を放出しつつ、最大出力でビームサーベルを抜刀。
 身動きの取れない二機を、一閃。切り裂かれたStフリーダム、そしてカオスは、触れる直前に、ストライクがその光の刃を消していた。
 生き残ったことに戸惑うレイに、スティングから、爆発するから離れろ、と通信が入った。その言葉に従うレイ。程なくして、Stフリーダムから『核』の火が上がった。

 ジブリールは現状を問う。混戦模様ではあるが、自軍の優位は動かない。避難民の船団はどうか、自国の勢力圏の領土、他にオーブにも多く降りようとしている。レクイエムはどうか、発射に要する時間は増えたが発射そのものに問題はない。
 ジブリールはレクイエムの攻撃目標をオーブに定める。戦争終結に向けて立ち回るカガリとオーブを焼き払い、次の戦争への狼煙とするために。
 その時、作業用MSの進入口を突き破り、インパルスがレクイエムの中に飛び込んできた。ジブリールと司令部の人間は晴天の霹靂にうたれた。まさにその直後、同じ場所からデスティニーが飛び出した、マユは大して驚きもしなかった。


159 :マユ種のひと :2006/08/24(木) 22:10:55 ID:???
 司令部はレクイエム発射を中断し、応援のMSを呼ぼうとするが、ジブリールは両方止める。レクイエム発射までの時間を稼ぐことが敵の狙い、足手まといになりかねない応援を送るより、ここはネオに任せ、他の侵入者が入らないようにしろ、と厳重に言い渡した。
 そして、レクイエムの底にインパルスとデスティニーが降り立った。

 ネオから。ここでは手持ちの飛び道具は使えない、どれもが威力がありすぎてレクイエムの機能を奪いかねない、と語り、デスティニーは自身のビームライフルを握り潰す。だから、この手で直接インパルスを撃ち抜く、そう宣言した。
 マユから。こちらは撃ち放題で、そちらは対艦武装でレクイエムに致命打を与えさせないためにこれ以上距離を離せない、そう言いつつ、マユはインパルスにビームライフルを構えさせる。が、そのビームライフルをデスティニーに向けて放り投げた。
 デスティニーは飛び出し、ビームライフルを叩き払う。同時に、インパルスはバーニアの噴射を絡めた踏み切りで、一瞬にしてデスティニーの目前に。ビームサーベルを予想し、受け止めようと構えるデスティニーに、インパルスの掌がそっと触れた。
 インパルス、全身で留めるために右足を踏み出した状態でバーニアを噴射、その時に発生した推進力は触れた掌を伝い、デスティニーを吹き飛ばした。
 遠ざかるデスティニー、マユはインパルスを右肩の長距離ビーム砲へと手を伸ばすが、デスティニーの輪郭がぶれるのも見逃さなかった。咄嗟に、インパルスはバルカンをばら撒く。すぐそこの何もない空間が弾丸を弾いた後、デスティニーは現れた。
 デスティニーが連続して繰り出す両掌、それら全てをインパルスの両腕は叩き落し、内一つを手に取り、デスティニーの腕を引き込みながら、相手を背負い、投げる。
 叩きつけられることを忌避したネオの執念は、デスティニーを宙へと逃げさせる。しかし、マユはそれも織り込み済み、インパルスは即座に追い付いた。宙で組み付かれたデスティニーは、インパルスと共に錐揉みながらレクイエムの底に落ちていく。
 落下速度と同時に回転速度が速まる。その回転からインパルスは弾かれ、大きい動作で勢いを殺しながら軽やかに着地。一方、その回転と落下の速度を落としながら、デスティニーは緩やかに着地。二機のMSは、互いに見詰め合う。

 マユは、自分から回転を速めて遠心力で以てインパルスを振りほどく、という脱出方法に呆れていた。尤も、ネオに言わせれば、逃げ回ってレクイエム破壊の機会を窺わずに自分を仕留めに来たマユに呆れていた。マユに言わせれば、倒した方が早い、だった。
 徒手空拳でか、というネオの問いにマユは肯定で答える。合体機能を排除してまで全体を補強したインパルスなら、共に学んだ全ての技を駆使できる、とも答えた。
 あくまで決着を望むマユに、ネオは、デスティニーが機密保持のため、ダメージ等で機能停止した際、強制的に核の自爆機能が作動することを告げた。マユは妙に納得して、それぐらいやりそうだ、で片付けた。それを受け、ネオは苦笑した。


160 :マユ種のひと :2006/08/24(木) 22:12:14 ID:???
 酷く傷ついたアークエンジェル。怪我のために意識不明で医務室に搬送されるキラ、付き添うレイ、ルナ、メイリン。格納庫では、ヴィーノ、ヨウラン、マードックがアビス、カオス、ストライクの修理に匙を投げた。
 ブリッジ。マリューは、レクイエム破壊後のマユ救出を諦め、このまま戦場を離脱するよう提案したアーサーの意思を、今一度確認をする。アーサーは頷く。混成軍の攻勢の波が引いていると見たマリューは、今度もマユが戻ってこない覚悟をした。

 レクイエムの底。激しく繰り出されるデスティニーの手刀、インパルスは両腕で受け流す。デスティニーはもう片方の掌を押し付けるが、インパルスは懐に潜り込んで回避しつつ掌を添える。同時に、デスティニーはバーニアを噴射、全身でインパルスを弾き返した。
 マユは思う。性能に甘えていない、インパルスを遥かに凌ぐパワーも空回りさせず、的確に捻じ込んでくる。一度でも捌き方を間違えれば、そのパワーで、やられる。
 よろめくインパルス。飛び出して掌を繰り出すデスティニーだが、バーニアを絡めて飛び退くインパルスはデスティニーの一撃を綺麗にかわす。そして飛び込み返したインパルスの脛で打つ蹴りは、デスティニーの腹部に直撃した。
 ネオは思う。地面の蹴り方が巧い、こと地上戦に限れば、確実にデスティニーを凌ぐ瞬発力と機動力だ。一瞬でも気を抜けば、数多の必殺『技』で、やられる。
 蹴りを受けたデスティニー。しかし、その瞬間、デスティニーもインパルスの胸部に手刀を叩き込み、両者、大きく体勢を崩した。
 マユとネオ。神経をすり減らしながら、一度のミスも許されない命のやり取りを、生き残った肉親同士で行う、家族を奪った戦争を続けるために、ただ利用し尽くすコーディネーターのために。そんなに、ファントム・ペインが、ミネルバが、大切か。
 転倒をさけるため、二機とも手を付き、同じ動作で、同時に、並んで、側転。両機の足が頂点に差し掛かった瞬間、インパルスは倒立状態から渦巻く回転、開脚した足が、無防備なデスティニーの胴体に再度直撃した。

 辛うじて間に合った受身から体制を整えるデスティニー。ネオは追撃を懸念してビームシールドを張る。その動作のわずかな間にインパルスが行ったことは、手も届くデスティニーとの至近距離で、長距離ビーム砲の早撃ちを決めることだった。
 高出力のビームを受け止めさせられたデスティニー、このままでは強烈なビームの炸裂が発生すると直感したネオは、咄嗟にビームシールドの下から掌部ビーム砲で眼前のビームの塊を撃ち抜き、さらにビームシールド越しにそれを打ち払った。
 炸裂から逃れるために少し距離を置いていたマユは、瞬く間に霧散し、全ての光の粒子が昇って消える様を見せ付けられた。インパルスは砲身の熔けた長距離ビーム砲を投げ捨て、対艦刀を抜き、デスティニーに突っ込む。


161 :マユ種のひと :2006/08/24(木) 22:13:18 ID:???
 ネオは、この時を待っていた、こちらが迎撃に回るこの時を。アロンダイトを抜きつつ、ミラージュコロイド高濃度散布、デスティニーから『闇』が広がった。『闇』に飛び込むインパルスの中で、マユは、目を閉じた。
 直後、『闇』は十字に切り裂かれた。そこに現れた光景は、対艦刀を振り下ろしたインパルス、アロンダイトを横に振り切ったデスティニー、そして折れた一振の大剣の刃は宙を舞い、レクイエムの底に突き刺さる。折られたのは、アロンダイト。
 ネオは戦慄する。こちらの横切りが読まれていたとしても、目視もレーダーも利かない『闇』の中で、マユは正確にアロンダイトを狙って対艦刀を振り下ろし、斬った。

 折れたアロンダイトを手放し、振り返ったデスティニー。インパルスも同様に向き直るが、対艦刀を握る右腕から火花が散り、対艦刀はその手から滑り落ちた。ネオが見逃す筈もなかった。
 次の瞬間、デスティニーは地面を蹴ると同時にバーニアを噴射、自身を一気に最高速まで持っていく。事ここに至って、自分の技術を盗まれたマユは、次のデスティニーの一撃はかわせないと悟った。デスティニーの手が、インパルスの胴体を掴み、光を蓄える。
 しかし、ネオは、あまりに軽い手応えに戸惑った。勢いに押されたインパルスがふわりと浮いた後、ほんの少しバーニアを焚く。くるりと3/4回転、真横に働いていた凄まじい勢いはデスティニー諸共、真下へ。さらに、インパルスの左拳はデスティニーの胸元に触れる。
 デスティニーが、自身の勢いで強かに地面に叩き付けられる瞬間、インパルスもフルバーニア。ありったけの力が集約した左拳は、それ自身を砕きながらもデスティニーの胸を貫き、レクイエムの底に突き刺さる。そして、インパルスとデスティニーは、『色』を失った。

 目の前の出来事に、司令部一同は硬直し、各人崩れ落ちていく。しかし、ジブリールは逸早く行動に移り、踵を返して司令部から出て行った。

 体中が痛む中、ネオは、インパルスの腕が自分を外れていることに驚いていた。その時、マユからの通信が入る。激しく何かを吐いた後で、兄にステラと長生きするように言った。
 ネオは気付いた、デスティニーの掌はインパルスを掴んだままで、光を孕んだままだった。止めようとするネオ、しかし、デスティニーは操作を受け付けず、最期のビームを放った後、そのままデスティニーの火は落ちた。
 真っ暗なコックピットの中で、ネオはうな垂れる。再び火の入ったデスティニー、それは自爆のための再起動だった。この時、生き返ったモニターに映ったのは、『色』を取り戻したインパルスが、威力の激減した掌部ビーム砲を見事に耐え切った姿だった。
 その後、再び『色』を失ったインパルスの体は崩れていき、上半身だけが前のめりに倒れた。そして、むき出しになったコアスプレンダーは下半身より飛び立ちレクイエムの中を上昇していった。その時。ネオは確かに見た、マユが終始、気を失っていたところを。


162 :マユ種のひと :2006/08/24(木) 22:16:28 ID:???
 ジブリールは停泊していたガーディ・ルーに駆け込み、今すぐ地球に向けて出航するよう命令した。まだ味方が戦っている、とリーは意見するが、ジブリールは取り合わない。
 その時、司令部のネオから、全軍に向けての通信が入った。エネルギーが臨界に達したレクイエムの中でデスティニーが自爆する、被害の範囲は月基地全域に及び、ファントム・ペインの敗北で終わる。だが、生きたい者は迷わず逃げろ、我々は平和の中でも生きられる。
 攻撃を止めたファントム・ペインの戦艦、MSは、次々に月へと降りていった。混成軍は、その光景に戸惑った。
 その様子をガーディ・ルーのモニターで見たジブリールは、改めて地球に行くことを命じ、より完璧なエクステンデッドを造って必ず再起する、と吐き捨てた。リーは銃を構えた、エクステンデッドはもういいでしょう、そう呟いてすぐ、ジブリールを射殺した。
 地下司令部。ネオは仮面を外した。そして、インパルスに何か言おうとした。レクイエムのエネルギー臨界到達と、デスティニーの自爆が重なった。月基地は、地下も、地上も、何もかも、光に飲み込まれた。

 コアスプレンダーの激しい揺れで、マユは目覚めた。生きていて、外にいて、コアスプレンダーに乗っている、訳が分からない。しかし、下の有様、赤く、鈍く、輝く月面を見て、戦争が終わったことだけはわかった。同時に、これは自分がやったこと、とも。
 すると、自動操縦のコアスプレンダーに、頭部を失ったガイアが並ぶ。コックピットを開放し、身を乗り出すステラ。マユも、コックピットを開けた。そこに飛び込むステラ、マユはしっかり抱いて、受け止める。
 ステラもマユを抱きしめて、そして、嗚咽混じりにマユのことは大嫌いで絶対に許さないと言ってから、マユの胸で泣いた。マユは、何もしなかった。
 マユはふと、形見の携帯電話を手に取る。メールが一件、ステラを頼む。そして、アークエンジェルが見えてきた。通信から皆が口々に、マユへと呼び掛ける。マユは皆の声を聞きながら思う、自動操縦の行き先でアークエンジェルを設定したことは一度もないのに、と。
 そうして、マユの頬に一筋の涙が伝った。

マユ「さようなら、お兄ちゃん。さようなら……、……さようなら、イン……パルス」