- 910 :マユ――隻腕の少女 予告編(1/3):2005/09/10(土)
11:12:05 ID:???
それは、消えない痛み。
失って初めて思い知る、「あたりまえ」なものの大切さ。
そして新たな「あたりまえ」を得ても――
逃れられぬ欠落が、嫌でも記憶を蘇らせる。
「……どうした、お嬢ちゃん。寝付けないのかい?」
「右手が……痛いの……」
「そうか。でも仕方ないな。鎮痛剤も効きにくいからなぁ、コイツは」
「アンディも……痛むの? その――左腕」
「まあな。だからこうして、月を眺めてる。
最も――アイツが帰ってくるなら、残る手足をくれてやっても惜しくはない。
本当に痛みを感じているのは、手足じゃなくて、心なのかもしれないな――」
それは、代用品(オルタナティブ)。
失って初めて必要とした、望まざる力。
そしてそれが完璧だったとしても――
逃れられぬ違和感が、嫌でも欠落を意識させる。
「『ファントムペイン』……?」
「そう、そいつが俺たちの部隊名。直訳すれば『幻の痛み』。
要するに事故などで切断され、なくなったはずの手足が痛む、という症状のことでね」
「幻の、痛み……」
「戦争は終わった。傷も塞がった。
しかし失われたものは決して戻らず、痛みはなお消えることはない、ってことさ………」
「……大佐は、一体何を失われたんですか?」
「あれぇ? この仮面見てもわかんない?
失われたものを人工物で補ってる、ってのは、嬢ちゃんと同じでね。
ハンパ者同士、仲良くやろうぜ」
- 911 :マユ――隻腕の少女 予告編(2/3):2005/09/10(土)
11:13:03 ID:???
それは、あやまち。
見失い初めて気づかされる、自分自身の行動原理。
そして行き場を見失っても――
逃れられぬ記憶が、嫌でも人を縛り、突き動かす。
「殺せ! さっさと殺せ! お前らに話すことなんて、何もない!」
「…………」
「アタシがここで死んでも、ガルナハンの同志がきっと復讐を完遂する!
何年かかろうとも、必ず……あんたらの国にも、同じ思いをさせてやる!」
「…………」
「何だよ、その目は! 殴るなら殴るがいいさ!」
「ミス・コニール……。
あたしには、あなたを殴れない。殴れないよ……!」
それは、残酷な運命。
奪い奪われ最後に辿り着く、二人の始発点。
そして二人は剣を交え――
逃れられぬ罪が、いやがおうにも運命を加速する。
「お前は……『フリーダム』! どうしてこう、俺たちの邪魔を!」
「やっと出て来た、『インパルス』!」
「お前のせいで、みんな死んだ! お前に殺された!」
「あなたのせいで、みんな死んだ! あなたに殺された!」
「もう迷わない! その声にも惑わされない! 今日こそ……お前を倒す!」
「もう迷わない! その声にも惑わされない! 今日こそ……あなたを倒す!」
「あいつは……」
「あの人は……」
「「もう、いないんだ!」」
- 912 :マユ――隻腕の少女 予告編(3/3):2005/09/10(土)
11:13:59 ID:???
- ――それは、原点。
「ハァ、ハァ……」
「マユ、頑張って!」
「大丈夫、目標は軍の施設だ。急げシン!」
――失うところから始まる、物語。
「あー! マユの携帯!」
「そんなのいいから!」
「……うおっ!?」「きゃっ?!」「ひっ!?」
――そして、少女は全てを失って――
「負傷者発生! 早く回収を!」
「船を出すぞ。急いでくれ!」
「悪いが遺体は後回しだ。助からない重傷者も後回しだ。彼らの死を無駄にするな!」
――逃げられぬ刻印が、その小さな身体に刻まれる。
「こいつぁ酷いな……。着弾から時間も経ってるし、もう死体だけじゃねーの?」
「いや……こっちに一人、息があるぞ! 女の子だ!」
「待て岩をどけるな! 傷口が圧迫されてる、そのまま外すと一気に出血するぞ!」
「おい、お嬢ちゃん、大丈夫か? 今助けるからな、しっかりしろ!」
頬を叩かれ、栗色の髪の少女は、微かに薄く目を開ける。
朦朧とした意識のまま、そのすみれ色の瞳が映し出したものは。
かつて両親だった、無惨なモノ。兄が居たはずの場所にできたクレーター。
遠くに転がる、自分の腕。届かなかった、携帯電話。
その上空を、青い翼を広げた死の天使が飛び去って――
マユ――隻腕の少女(仮題)
現在、鋭意製作中