89 :隻腕26話(01/18):2006/02/28(火) 21:32:35 ID:???
プラント近郊宙域に浮かぶ、ザフト軍の大型軍事基地。葉巻のような円筒形をした、人造の浮遊物。
ヘブンズベースの攻略失敗とカーペンタリアの防衛成功、そして次なる大規模作戦の噂――
ザワザワと落ち着かぬこの基地の中、ちょうどパトロール任務を終えたジュール隊は、帰還して一息ついていた。

「じゃ、イザーク、お疲れさん!」
「ちゃんと休んでおけよ! いつ次の任務があるか分からんのだからな!」

口うるさい同期の上司と別れて、浅黒い肌の男は自分の私室へ向かう。
白服のイザークは隊の責任者だけに、まだいくつか仕事が残っている。面倒な報告書の作成やら、補給の手配やら。
その気になれば後回しにもできる仕事だが、生真面目な彼のこと、きっと今日のうちに済ましてしまうのだろう。
親友の苦労を想像し、ディアッカ・エルスマンは軽く苦笑すると、人気のない廊下を進む。

「――ディアッカさん」

そんな彼の背に、声をかける人物が1人。
赤いザフト制服に艶やかな黒髪。ジュール隊の同僚、シホ・ハーネンフースだった。

「おやおや何だい、シホちゃん。ひょっとしてこんなところで愛の告白でもする気かい?
 いやいや困ったね、もてる男ってのはさ〜♪」
「……馬鹿言わないで下さい、誰が貴方なんかに。
 任務で出てる間に、手紙が来てたようですよ。貴方にも『同窓会のお知らせ』とか言うのが」
「お、サンキュ〜。助かるぜ♪」

シホの素っ気無い態度もなんのその。ディアッカはウィンクひとつすると、彼女から封筒を受け取る。
彼らのように宇宙を行ったりきたりする部隊の場合、部隊単位で手紙類が整理され、保管される。
きっとシホ自身の手紙をチェックしたついでに持ってきてくれたのだろう。
そのままディアッカは、自室へと身を翻した。背中に突き刺さる鋭い視線に、気付くことなく――


久方ぶりに戻ったディアッカの自室は、散らかっていた。
プラントには自宅があるが、そちらは両親もいるし、いわば実家のような感覚。
長期任務では戦艦の中に自室が用意されるが、これは旅先のビジネスホテルのような感覚。
そしてこの基地の自室は、さしずめ職住近接した独身寮、とでも言った感じだろうか。簡単な自炊設備もある。

彼は片付けや着替えもそこそこに、端末を立ち上げ、シホから受け取った封筒を破る。
「同窓会のお知らせ」との文字以外、何も書かれていない封筒だ。何の同窓会なのか、一言も説明がない。
それでもディアッカは迷うことなく、封筒の中にあったディスクをPCに叩き込み、中のデータを表示して――

「……いつ開かれるんだ、『同窓会』は? 
 そもそもそれは、どこの同窓会なんだ? 誰が参加するんだ? あァン?」

唐突にかけられた嘲りの混じった声に、ディアッカは凍りつく。
振り返らずとも誰だか分かる。分からぬはずがない。
勝手知ったる他人の部屋。いや、他人と呼ぶにはあまりに近すぎる親友。
ノックもせず、勝手に踏み込んでくることもしばしばあったのだが――しかし、今このタイミングというのは。

――口調とは裏腹に、戸口に立つイザーク・ジュールの目は、怒りに燃えていた。別れた時そのままの白服姿。
燃える目で、信頼していた部下を、付き合いの長い親友を睨みつける。

90 :隻腕26話(02/18):2006/02/28(火) 21:33:27 ID:???

「い……いや、あのな、イザーク。これは」
「ディアッカ。俺とお前の腐れ縁、忘れているわけじゃあるまいな?
 幼年学校からアカデミー卒業まで、俺とお前は、ずっと同じ学校、ずっと同じクラスだったんだッ!
 お前だけに来て俺に来ない『同窓会のお知らせ』なんて、あるわけないだろッ!」

イザークは吼える。激怒を隠さず、吼える。
素早く懐から拳銃を取り出すと、容赦なくディアッカの眉間に狙いを定めて。

「――今はまだ、保安部には連絡しておらんッ。
 だが万が一俺が戻らぬ場合、シホが通報することになっているッ! 洗いざらい、全部吐いてもらうからなッ!」
「……あ〜あ、やっぱりシホちゃんか〜。女って妙にそういうトコ鋭い時あるよな〜。
 最近あの子冷たくてさ、そろそろヤバいかな〜、とか思ってたんだけど。やっぱりねぇ……!」

観念した様子で、大袈裟に肩をすくめてみせるディアッカ。けれど、その態度はいつものディアッカのままで。
イザークの怒りはさらに増す。銃口がフルフルと震えている。

「答えろ、ディアッカ! その封筒は、そのディスクは何だ! 誰と、どんな連絡を取り合っていた!
 おおかた、あの『ラブレター』とやらもそれと関係してるのではないか? 貴様まさかスパイ行為でも――!」
「――『同窓会』ってのは、本当だぜ。イザークの知らない、俺の『同級生』たちからの連絡だ」

ディアッカの顔が、急に引き締まる。
銃口を真っ直ぐ見据えたまま、しかしなおも平然と語る。

「嘘をつけ! 貴様と俺は、ガキの頃から思い返しても、別の場所にいたことなど、ほとんど――!」
「2年前。2年前、確かにあったんだぜ。もう忘れたか?」

ニヤリと笑うディアッカ。その表情に、イザークもようやく思い至る。
思い浮かぶのは、同じように銃を向けたメンデル。そういえば、あの「ラブレター」の相手も……!

「厳密な意味じゃ『同窓会』ってのはおかしいのかもしれないが――
 大体みんな同じような年だったから、そういう名前にしておこう、って決めてな。
 おっさんたちは、さしずめ担任の先生ってとこなのかね? ……ま、確かに半分くらいは、偽装なんだけどよ」
「ディ……ディアッカ……」
「考えてみりゃ、お前も仲間みたいなもんか。ヤキンの時には、アークエンジェルで補給受けたわけだし。
 悪かったな、イザークだけ仲間はずれにしちまってよ」

そう言ってディアッカは、受け取った手紙を映したモニターを示す。手紙の冒頭に書かれた、5文字の略称。

「三隻同盟軍同窓会。Three-ships Alliance Forces Alumni。3SAFA、通称『スリーサファ』。
 かつて一緒に戦った仲間同士、困った時には互いに連絡取って助け合おうぜ、って趣旨の組織さ。
 時々こんな風に援助要請が来たりするんだ。と言っても何の強制力もねぇし、助けるかどうかは個人の自由。
 俺はさ、『プラントを裏切らない範囲でのみ協力する』って自分で決めてっから、今回は傍観だけど――
 これはまた、世界が動くぜ」


91 :隻腕26話(03/18):2006/02/28(火) 21:35:29 ID:???
――その封筒は、世界中に散らばる『同級生』たちに届けられていた。

復興続くオーブの工事現場で怒鳴り声を上げる、コジロー・マードックの所にも――
メイリンと一緒にどこかの空港で飛行機を待つ、ミリアリア・ハウの所にも――
北アメリカの大きな湖で観光遊覧船の舵を握る、アーノルド・ノイマンの所にも――
宇宙港での整備が続く戦艦クサナギを見上げる、レドニル・キサカの所にも――
南米の山中に篭って1人過酷な修行に汗を流す、バリー・ホーの所にも――
デブリ帯でジャンク屋の面々と行動を共にする、ジャン・キャリーの所にも――
その他、アークエンジェル、クサナギ、エターナルの各艦にかつて乗っていた、それぞれのクルーの所にも――

……その一部は、居場所が分からなかったり、名前を変えていたりして、本人の手に届かなかった。
モルゲンレーテ造船局に届けられたマリア・ベルネス宛の封筒は、彼女の机の上に置かれたままで。
アスハ家の個人秘書として未だ名前の残るアレックス・ディノ宛の封筒も、郵便受けに突っ込まれたままだ。
けれど、その多くはそれぞれに様々なルートを取り、それぞれの手元まで届けられて。
皆、それぞれに封筒を開ける。それぞれにディスクの内容を開き、内容を確認する。


雪の降り続けるスカンジナビア王国、旧クライン邸。
義足を軋ませながらラクスの所を訪ねた彼女は、桃色の髪の娘がPCを覗き込んでいる姿を見た。
PCの傍には、開けられた封筒。そこに書かれているのは「同窓会のお知らせ」という文字。

「ちょっと、お願いしたいことがあるんだけど……って、何を見てるの?」

アンディならともかく、ラクス自身がこういう端末を弄るというのは珍しい。思わずマユは尋ねる。
ラクスは振り返ると、フワリと笑った。

「良いニュースですわ。キラからの連絡です」
「キラって……あの男から?」

未だラクスにもキラにも微妙な気持ちを抱くマユの表情は、少し険しくて。
それでもラクスは、構わず画面を示す。そこには、電報のように簡潔なメッセージが映されていた。

 『 マルキオ導師からの情報。カサブランカの無事を確認。
   ついては、彼女の復帰に助力を願いたし。キラ・ヤマト 』

カサブランカ――それは、百合の品種の名前。白獅子の横顔と共に、ある人物のパーソナルマークに描かれた花。
その意味するところを理解したマユの顔に、大きな笑みが浮かぶ。
と、そんな2人のいる部屋に、隻眼の男が入ってくる。手には何やら印刷された紙を持っていて。
どうやらこれも、どこかから入ったメールを印刷したものらしい。

「あら、バルドフェルド隊長。良いニュースが入りましたわ。あの方が……」
「コッチは悪いニュースだ。しかもあまり時間に余裕がないと来た」

のんびりとしたラクスの言葉を、不機嫌そうに遮るアンディ。彼は厳しい表情のまま、2人の娘に告げる。

「プラントにいる同志たちからの情報だ。ザフトがまた動くらしい。
 作戦目標、オーブ領内に駐留する連合軍の駆逐。攻撃目標、オーブ連合首長国――!」
「え……!?」

92 :隻腕26話(04/18):2006/02/28(火) 21:36:35 ID:???

              マユ ――隻腕の少女――

            第二十六話 『 黄金の意思 』


アスラン・ザラは、混乱していた。
ミネルバのデッキの上で手すりに寄りかかり、朝日に照らされるカーペンタリア基地を眺めながら、溜息をつく。

考えなければならないことが、山ほどあった。事態の急変に次ぐ急変に、思考がついていけない。
とりわけ気になるのは――

「シン……お前は、何を考えている……? お前は『どこに辿り着いた』んだ……?」

憎み合い、殺し合い、そして倒してしまったその相手が、自分自身にとっても大切な者だった――
アスランはどうしてもそこに、過去の自分を重ねてしまう。2年前のストライクとイージスの死闘。

あの時――アスランは、キラを殺した。殺したと信じた。
ニコルを討たれた怒りと哀しみを、そのままストライクに叩き付けて――自爆という最後の手段を用い、倒した。
……今でも覚えている。その後、気絶から目覚めた時の感情。
達成感も何もなく、復讐を果たした喜びも何もなく。ただただ、大きな虚脱感だけがそこにあった。
後悔だけが、そこにあった。

後にアスランは、キラの生存を知るのだが――そして後悔を脱し、やがて彼と共闘する道を選ぶのだが――
それでも、考えてしまう。考えずにはいられない。
もしキラが「本当に死んでいた」なら、自分はどこに「辿り着いていた」のだろうか、と。
あの出口の見えない後悔と苦悩を越えて、新たな決意を固めることができたのだろうか、と。
いくら考えても……全く想像がつかない。答えが出ない。

……そして、あの頃の自分と同じ状況、その「想像がつかない」状況に、シンは居るはずなのだった。
いや、シンの陥った苦しみは、アスランの陥ったそれよりも、遥かに深刻だっただろう。

シンには、あの時のアスランにとってのカガリのような存在は、居なかった。
シンが奪われたのは、ただの同僚や戦友ではなく、未来を誓い合った恋人だった。
シンが倒してしまったのは、親友よりもなお関係深い、実の妹だった。死んだと思っていた妹だった。
シンがその仇の正体を知ったのは、アスランの時と違い、全てが終わり取り返しがつかなくなった後だった。

憎しみの相手と慈しみの相手が重なるという矛盾。持って行き場のない怒りと後悔。
「ではどうすれば良かったのか?」と問うても、決して出ない答え。
実際、フリーダムを倒した直後のシンは、明らかに精神の平衡を欠いていた。傍目で見てもおかしかった。
懺悔の叫びを上げたかと思えば、呪詛の呟きを漏らし、笑い出したかと思えば、そのままの表情で泣き出して。
精神の病として病院に送られたのも、仕方がないと思った。静かに療養し、じっくり治すべきなのだと思っていた。

――そんな彼がこの短期間の間に、あんな表情を浮かべ、前線に復帰している。
そしてあの強さ。フリーダムを倒した際の、あの神懸った雰囲気そのままの――あるいはそれさえも上回る強さ。
どう考えてもこれは、普通ではない。何かあったとしか思えない。

93 :隻腕26話(05/18):2006/02/28(火) 21:37:44 ID:???
「分からないと言えば……彼女もそうか」

シンと共に姿を現し、同じような笑みを浮かべていたコニール。
いささか若すぎるにも関わらず、ガルナハンのレジスタンスの有力メンバーだった彼女。
ゲリラ兵としての実戦的能力なら、かなりのものを持っているとは知っていたが……

何故、その彼女がガイアなどに乗っているのだ? 何故、ザフトの軍服を着ているのだ?
彼女はごく普通のナチュラルだったはずだ。MSなど操縦できなかったはずだ。彼女の身に、何が?

……答えの出ない問いを考え続けるアスランは、ふと、眼下に何やら動きがあることに気付いた。
一群の人々が、何やら大きな機材と一緒にミネルバに向かってくる。
軍事基地には少し場違いな、白衣をまとった人々。卵型の、ベッドにも似たモノが2つ。
どうやらその機材は、ミネルバに運び込まれるようで……アスランは、白衣の人々の中に、見知った顔を見出す。

「あれは……? 確か、ベリーニとかいう……!」
「彼女たちもウチのフネに乗り込むそうよ。『アスカ隊隊員のメンテナンス要員』として」

突然、背後から声がかけられる。
驚いて振り返ったアスランの前には……仏頂面の、ミネルバ艦長タリア・グラディスの姿。
つかつかと歩み寄ってきた彼女は、アスランと並ぶように手すりにもたれ、眼下の搬入作業を見下ろす。

「コニール・アルメタは、今や『エクステンデッド』だそうよ。私もついさっき聞かされたばかりなのだけど」
「エクス……! じゃ、じゃあ、ガイアに乗っているのも……!」
「貴方も議長から聞いているのでしょう? 『デスティニープラン』のことを。
 なんでも彼女はそのテストケースだとか。まだ公表できる段階ではないから、内密な話なのだけれど……」

どこか愚痴っぽいタリアの言葉。おそらく彼女も、コニールのような少女を戦わせることに躊躇いがあるのだ。
彼女が議長のプランを知っていることに少し驚いたアスランだが、同時に彼女の気持ちも良く分かった。
タリアもまた、その立場ゆえに孤独なのだ。彼女にとってもアスランは、本音を吐ける数少ない相手なのだ。

「デスティニープラン……。しかし、まさかこんな……?!」
「……少なくとも、その必須条件の1つを世界にアピールするためには、分かりやすい方法かもしれないわね。
 私も本当は、そういうやり口は好きではないのだけれど……。ま、いかにもあの人がやりそうなことだわ」

必須条件。確かにそうだ。それが机上の空論でないことを示さねば、議長の計画は前には進まないだろう。
コーディネーターと同等の能力があることを示さねば、誰も納得しないだろう。
しかし、ならば……

「……艦長。じゃあ、シンはどうなのですか?」
「え?」
「コニールについては、納得はできませんが、理解はできます。文句はありますが、疑問は解けました。
 けれど……シンはどういうことなのです? あんな状態だった彼が、こんな短期間にあんな風になるなんて……」
「……ごめんなさい。私も彼については聞かされてないわ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、『アスカ隊のパイロット2名の心身の管理については、専従スタッフに一任せよ』と言われているの。
 1人はエクステンデッドであるコニールとして、もう1人ってのは……」
「……!? シンも!?」
「詳しいことは、ベリーニ主任にでも聞いてみることね。というか、私も教えて欲しいくらいだわ」

94 :隻腕26話(06/18):2006/02/28(火) 21:38:45 ID:???
眼下では既にベリーニたち「メンテナンス要員」たちの機材搬入が終わり、続いて弾薬類が運び込まれていた。
食料らしきコンテナも見える。どうやら補給を一気に済ませてしまうようだ。

「……そうは言っても、あまりこの件を調べている時間もないのだけどね」
「時間……ですか?」

少しの沈黙を破って吐き出された溜息交じりの声に、アスランはタリアを見る。
タリアの横顔には、どこか苛立たしさにも似た感情が浮かんでいて。

「どうも、宇宙に上がるのは後回しになりそうよ。公式な発令は、もう少し後になりそうだけど……
 上層部は、オーブへの攻撃を考えているみたい」
「オーブを!?」
「正確には、オーブに居座る連合軍への攻撃、ね。
 カーペンタリアの安全を守るためには、あの位置に連合の拠点があってはマズい、ということのようよ」
「い、いや、しかし……!」
「私が貴方と話をしたいと思ったのは、むしろコッチについてなの。
 どうやらこの艦も、地上での最後の任務として、攻撃への参加を命ぜられる雰囲気なのだけど……
 貴方はどうするの、アスラン?」

タリアがアスランの方を振り向き、射るような目で見る。
アスランの魂の底を見通さんとするような視線。彼女の目が、言葉よりも雄弁に彼を問い詰める。
「お前は信用できるのか?」「オーブ相手に戦うことができるのか?」と。

脳裏に蘇るのは、2年前ジャスティスで降り立ったオーブ。
与えられた任務を棚上げし、フリーダムと共闘した戦場。
あの時のあの判断、アスラン自身は間違っていたとは思わないが……ザフトの人間から見れば、確かに不安だろう。

「スエズ沖で、オーブの姫獅子を倒して見せた貴方を、いまさら疑うべきではないのでしょうけれど……
 それでも、何か嫌な予感がするのよね。予想もしていなかったような横槍が入るような、そんな予感が」
「…………」
「貴方はフェイス特権を持っているわ。貴方が何かを言えば、一般兵は貴方を無視できない。
 もし、貴方が、戦場で不用意な発言をすれば……それだけで、ちょっとした混乱が起こる恐れがある」
「…………」
「戦場では有能な敵より、不安の残る味方の方がよっぽど怖いものよ。
 お願いだから、私のこの心配を杞憂に終らせて頂戴。作戦の実行までに、覚悟を決めて頂戴。
 ――いいわね?」

タリアはどこか嘆願するような口調で言うと、身を翻す。陽光降り注ぐミネルバのデッキを後にする。
1人残されたアスランは、眩い程の光の中、その拳を硬く握り締めた。


95 :隻腕26話(07/18):2006/02/28(火) 21:40:18 ID:???

「……どうだ、シン。具合の方は」
「ああ、絶好調だ。早く戦いたくてウズウズするよ」
「そうか。良かったな」

ミネルバの上、アスランとタリアが会話を交わしていたのとは反対側のデッキ。ほぼ同時刻。
艦自身の影になって日の差さぬそこに、2人の青年の姿があった。シン・アスカと、レイ・ザ・バレルである。
虚空を見上げ不敵な笑みを浮かべるシンと、その横顔を観察するようなレイ。

「言葉にしづらい感覚なんだけどな。ベタな例えになっちまうが、生まれ変わったような気分って感じか。
 世界が今までとは違って見えてるんだ」
「……どんな風に?」
「全体に色彩がはっきりして見える。で、その上に、うっすら赤いフィルターでもかかってるような感じで」
「…………」
「それで……ヒトを見ると、『殺せそうだな』と感じる。どこをどうすれば死ぬのか、手に取るように分かる。
 モビルスーツを見ると、『壊せそうだな』と感じる。何をどうすれば壊せるのか、手に取るように分かる。
 なんというか……ウズウズしてくるんだ」

実に物騒なことを、楽しげに語るシン。面白そうなオモチャを前にした子供のような表情。
レイは、そんな彼を淡々と観察していたが……急に振り向かれ、ビクッと身体を強張らせる。

「ど、どうした?」
「レイはどうなんだ? 身体の調子は大丈夫か? お前も『普通の身体』じゃないんだろう?
 ……どうやら俺とは、ずいぶん事情が違うみたいだが」

目を大きく見開いた、少し壊れた笑顔を浮かべたまま。シンはレイの眼の中を覗き込む。
思いもかけない言葉に、レイは一瞬絶句する。感情の起伏の穏やかな彼が、珍しく動揺している。
数秒の沈黙の後、彼は視線を逸らしたまま、絞り出すような声を上げる。

「……そのこと、誰に聞いた? いつ、どこで、誰から聞いた!?」
「誰からも聞いちゃいないさ。ただ久しぶりに会って、なんとなく『分かった』。直感した。
 どれだけ長いこと一緒に戦ってきたと思っているんだ? 下手な敵よりもよっぽど良く分かるさ」
「…………」

以前シンの語っていた、「敵の事情が分かる」という共感能力。
これもまたその延長線上にあることなのだろうか。以前にも増して、冴えまくっている。
レイは観念して大きく深呼吸すると、真正面からシンの視線を受け止める。

「……どうやらお前には、隠しても無駄なようだな。
 そうだ、俺もまた、普通のコーディネーターじゃない」
「ほぅ?」
「俺は……クローンなんだ。テロメアが短いんだ」

レイは、天を仰ぐ。直接日の射さないこのデッキ、しかし頭上に広がるのは、残酷なまでに蒼い空。

「俺の居る場所は先のない行き止まりで、俺には残された時間さえも少ない。
 だから俺は、お前に、お前たちに『未来』を託したいんだ。オーバエクス・オメガワン……!」

96 :隻腕26話(08/18):2006/02/28(火) 21:41:16 ID:???

「『未来』は結局、我々ナチュラルのモノなのだ。だからコーディには道を開けて貰わねばならぬのだよ。
 分かるな、ウナト・エマ?」
「はぁ……」

……オーブ連合首長国、セイラン邸。
その豪華な応接間で長い足を組み、屋敷の主であるウナト・エマ・セイランに滔々と語っているのは。
つい先日、ブルーコスモスの盟主であることが暴露されたメディア王、ロード・ジブリール――

そう、あの騒ぎ以来、「表」から姿を隠した彼は、極秘裏にオーブを訪れていたのだった。
一般には騒ぎから遠ざかり、社会的な糾弾を逃れるために姿を消した、と思われていたが……

『次のニュースです。大西洋連邦の事業家、ルクス・コーラー氏が爆破テロと見られる爆発に巻き込まれました。
 すぐに病院に運び込まれたものの、容態は絶望的と見られており……』

応接間のモニターが、ニュースの映像を垂れ流している。画面に映る被害者の写真。豊かな白い髭に、禿頭。
見覚えのある顔に、ウナトの表情は強張り、ジブリールは冷たい笑みを浮かべる。
それは――かつて議長のロゴス暴露の際にも出てきた人物。ロゴスの中でも、かなりの大物。一派閥の長。

「ロゴスの中でも新参者のキミには、分からないかもしれないがね――
 ロゴスとて、その内部でも微妙な方針の違いというものがあるのだ。意見の対立というのがあるのだ。
 ――彼も『私と戦争の考え方が違う』以外は、優秀な人物だったのだがね。実に惜しいことをした。
 一体、どこの誰がこんな卑劣なコトをしたのだろうねぇ? キミもせいぜい、気をつけたまえ」
「…………ッ!」

まるで他人ごとのように、楽しげに呟くジブリール。その冷たい微笑に、ウナトは脂汗を滲ませる。
言うまでもなく、爆弾攻撃はブルーコスモスの得意とするテロの1つ。しかし、まさか連合の大物をも狙うとは。
ウナトの背に、嫌な汗が流れる。目の前に居るのが本当にテロリストのリーダーであることを、改めて認識する。
コイツは、追求から逃げるためにオーブに来たのではない――そもそも、簡単に逃げだすような奴ではない――!

「……それで、私は何をすれば宜しいのでしょうか? ジブリール卿」
「物分りが良いね。このような指導者に恵まれれば、オーブはしばらくは安泰だろう」

引き攣った表情を浮かべるウナトに、ジブリールは鷹揚に頷く。
現在は事実上オーブのトップであるウナトであるが、一回り以上も年下のこの男には従うしかない。

「いやなに、私とて特別なことを求めたりはしないよ。今まで通りにやってくれれば、それで良いのだ。
 先の作戦こそ失敗したが、オーブはカーペンタリア再攻略のためにも重要な拠点だ。
 国を挙げて連合軍に協力する、その態勢を維持し続けてくれれば、それで良い」
「はぁ……」
「たとえここでカーペンタリアが落とせなかったとしてもね――あと少し時間を稼ぐだけで、戦争は終るのだ。
 あと1月もしない内に『レクイエム』が宇宙(そら)に流れる。そうすれば、コーディどもなど」
「レクイエ……ム?」
「その時、勝ち残っていたければ、今どうするべきかは……聡明な貴方のことだ、語らずともよくお分かりだろう」

葬送曲を意味する、聞き慣れぬ名前。ウナトは意味が分からず首を傾げるが……
ジブリールは、ただ自信に満ちた笑みを浮かべるだけで、それ以上説明する気はないようだった。


97 :隻腕26話(09/18):2006/02/28(火) 21:42:09 ID:???

――オアシスの街の、病院の一室。カガリが人知れず身を隠す、その部屋で。

「……音沙汰ありませんね」
「マルキオ導師とは連絡が取れたと言っているんだ。あとは待つしかないだろう?」

不安そうな声を上げるアマギに、カガリは汗を散らしながら答える。
既に彼女の服装は、病人用のパジャマ姿ではなく、動き易そうなトレーニングウェア。
広い病室に持ち込まれたエアロバイクを漕ぎながら、カガリははっきりと答える。室内には他にも無数の運動器具。

ジャンク屋の持つネットワークを使い、彼らが発した2つのメッセージ。
片方はマルキオ導師を介し、キラを経由して、かつての戦友たちの所に無事を知らせ。
そして、もう片方は……未だ彼らの手元に届いたのかどうかさえ、分からない。分からないのだが。

「とにかく私自身が帰国しないことには、どうしようもあるまい。
 そのための『彼ら』だ。そのためのリハビリだ。今ここで焦ったところで、どうにもならないぞ」
「それは、そうなのですが……」

他人を信じ全てを任せ、自身は「今できること」であるリハビリ運動に励むカガリ。眩しいほどに、前向きな姿勢。
……アマギ一尉は、つくづく思い知った。トダカ一佐が何としても彼女を守ろうとした理由が、ようやく分かった。

カガリ・ユラ・アスハは、その存在だけで人に希望を与えるのだ。
政治も外交も決して上手とは言えないし、感情に走りがちな部分もあるが、それでも天性のリーダーなのだ。
彼女と一緒にいると、それだけで今の窮地が何とかなりそうな気がしてくる――

と――そんな彼女たちの病室のドアが、唐突にノックされる。
ノックされ、室内の者たちが何か答えるよりも先に、扉が開かれる。
そこに居たのは――アマギの頭に、無数の疑問符が浮かぶ。なんだってこんな場違いな人物が、この部屋に?

「……?? お嬢ちゃん、ひょっとして部屋を間違えては――」
「来てくれたか!」

アマギの不審の声を、カガリの嬉々とした声が遮る。アマギはびっくりして振り返る。
この少女を――こんな少女を、待っていた、と?

そう、そこに居たのは、1人の少女だった。マユ・セイラン三尉よりもなお幼い少女だった。
年齢で言えば10歳にも満たないだろう。髪の短さもあって、下手すれば少年にも見間違えてしまうような外見。
体格も見た目もごく普通の少女。ただその視線だけが、歳に似合わず鋭く、力強い。

その少女が、羽織っていた袖なしの上着を、開いて見せる。
その裏側にあったのは、稲妻のようにも見える蛇の紋章。戦場で知らぬ者無き、最強の傭兵部隊のマーク……!

「傭兵部隊『サーペントテール』、風花・アジャー。ご依頼を受けて参上しました。
 カガリ・ユラ・アスハの本国への護送任務、サーペントテールの全力を挙げ、受けさせて頂きます」


98 :隻腕26話(10/18):2006/02/28(火) 21:43:44 ID:???
――スカンジナビア王国、旧クライン邸……近くにある、大きな工場。

「もうっ、どれだけ待てばいいのよッ! 時間ないって言うのにッ!」
「だからちょっと見てもらおうと思ってね。『何を待って貰っているのか』を」

廊下を歩きながら、大きな声を響かせる。
苛立ちを隠せないマユ、飄々とした態度を崩さぬアンディ。
その後ろからは掴み所の無い微笑を浮かべたラクスが、車椅子でついてくる。車椅子を押しているのは樹里だ。

カガリ健在、オーブ攻撃間近のニュースに、マユは一刻も早くオーブに帰りたいと申し出て。
けれどもアンディもラクスも、「ちょっと待ってくれ」と言ったきり、何もしようとする気配がない。
どうやら彼らも何かを待っていたようだが……数日経っても動かぬ彼らに、とうとうマユは癇癪を破裂させて。
それで仕方なく、アンディは彼女をここに連れてきたのだった。

「まだ、最終調整の途中なんだがな――まあ、文句は見てから言ってくれよ。
 おーい、ロウ、バルドフェルドだ。明かりつけてくれ!」
「おうっ、ちょっと待ってな!」

カッ! カカッ!
明るい声が応えたかと思うと、工場の中に眩い明かりが灯って――

「アンタがコイツのパイロットかい? どうかな、コイツの仕上がりは」

暗がりの中で作業をしていたらしい、バンダナを巻いた青年がマユに声をかける。
しかしマユは答えられずに。呆然と目の前のMSを見上げる。
その唇が、ふるふると震える。

「ど……どうして……! これは……?!」
「最初はそのまま直そうと思ったんだが、ザフト系の純正パーツが手に入らなくてよ。
 結局フレームから何から全部に手ェ入れた、新規設計みたいなMSになっちまった。
 ともあれコレが――ジャンク屋ロウ・ギュール謹製、『Sフリーダム』だッ!」
「どうですか。マユさんが行きたいと望む道に、この『剣』は必要ではありませんか?」

楽しそうに語るジャンク屋のロウ。静かに微笑むラクス。
マユはしかしそれらに応える余裕もなく、目の前の機体を凝視する。未作動のPS装甲独特の、灰色の姿。

――それは、撃破されたはずのフリーダムだった。そして確かにフリーダムでありながら、全く違うMSだった。
両肩はより上に向けて張り出し、全般的によりマッシブな印象になって。
目立つところでは、背中に背負った翼の形状が全く違うモノになっている。
前腕の形状も大きく変わり、盾と呼ぶにはいささか小さ過ぎる装甲板が張り出して。あとは、腹部に……

「……なぁ、ロウ」
「なんだい?」
「お前さんの腕にケチつける気はないんだがね……あのヘソの所にある、不恰好な大砲は何だ?」
「え〜、そうか〜? そんなに格好悪いかねぇ?」

そう、腹部の中央には、かなり目立つ大きなビーム臼砲が大きな砲口を開いていた。
アンディの言う通り、お世辞にも格好いいとは言い難い。

99 :隻腕26話(11/18):2006/02/28(火) 21:46:03 ID:???
「背中の羽根、あんたらが持ってきた『追加パーツその1』に換えたから、正面撃てる武器が減っちまっただろ?
 だから火力の足しにと思ってね。ちょうどイイ掘り出し物が手に入ったもんで、組み込んでみた」
「掘り出し物って……ああ、そういえば以前、地上で仕入れたジャンクがあるとか言ってたな」
「おう。この『複相ビーム砲』も、スエズ沖の海底でサルページされたMSについてたモノさ。
 ボディは完全に大破してんのに、この大砲だけは奇跡的に無傷でよ。大きさもまるで計ったかのようにピッタリ!
 『俺を使ってくれ!』っていう『メカの声』が聞こえた気がしたね、俺は!」

ビーム砲の由来を楽しそうに語るロウ。メカの声、などといった妄言について行けず、呆れ顔のアンディ。
と――ずっと無言で聞いていたマユが、俯いたまま一歩前に踏み出して。

「……そのMSって……どんなMSだったの?」
「ん? どんなって言われてもなァ……そうだな、確か……
 俺が手に入れたのは、上半身だけでさ。ちょうど腰のところで爆発かなんかがあったらしくて……な。
 コクピットが吹っ飛んでたから、型番とか名前とかは分かんねーんだけど……
 あれは水陸両用機だったのかなぁ。水圧対策なのか、やけに頑丈なフレームが印象的だったな。
 あとは……PS装甲使ってて……そうそう、なんか両肩に大きなバインダーつけてたな。丸っこい奴」

ロウの説明に、マユは息を飲む。息を飲んで、目の前の新生フリーダムを見上げる。
見上げたマユの目から、ポロポロと涙がこぼれ出して……その涙に、ロウとアンディ、男たちは大いに慌てだす。

「お、おいロウ! てめぇよくもあんな珍妙なモンつけやがって! 泣き出しちゃったじゃねぇか!」
「ちょ、ちょっと待て俺のせいなのか!? 泣くほど酷いのかよ、俺の自信作は!?」
「……ううん、違うの」

ヒソヒソ声で互いをなじり合う男たちに、マユはポロポロと泣き続けながら、微笑む。
穏やかな微笑みを浮かべたまま、なお泣き続ける。

「――嬉しいの。もう、会えないと思っていたから。もう、思い出だけだと思っていたから。
 この子と一緒なら……このフリーダムなら、あたしはどんな時でも1人じゃないって、分かるから――!」


「しかし……フリーダムの修復が済んだのはいいが、どうやってオーブまで帰るんだ?」

マユが泣き止み、一通り機体の性能説明が済んだ後。アンディはぼやいた。
いくらフリーダムでも……Sフリーダムでも、ここからオーブは地球の裏側。いくらなんでも遠すぎる。
地上はどこも戦争の真っ最中で、軍用MSが素直に通して貰えるとも思えない。
ロウは「手段はコッチで確保するぜ!」と言ってはいたが、アンディたちもその方法までは聞いていなかった。

「まあ、任せときなって。今、アイツが手配を進めているとこだから――」
「ロウ先輩! 今帰りました!」

ロウの言葉を遮るように、工場に声を響かせたのは。
色のついた眼鏡をかけた、理知的な雰囲気の青年。ジャンク屋として生きる道を選んだ、サイ・アーガイルだった。
マユにとっては命の恩人だが、こうして顔を合わせるのは初めてのこと。
だがマユは、いやマユに限らず全ての人々は、サイと一緒に運び込まれてきた、巨大な物体の方に目が釘付けで――

「これ……何の冗談?!」
「ヘヘッ。コイツがさっき言ってた『手配してたモノ』さ! さっそくセッティングと調整、始めるぜ!」

100 :隻腕26話(12/18):2006/02/28(火) 21:47:10 ID:???
――オーブ連合首長国は、夜の闇に包まれていた。
多くの職員が忙しげに働く行政府は、未だあちこちに明かりが灯っていたが……

その最上階の一角。代表首長代理の執務室は、外と同じような暗闇に包まれている。
ユウナ・ロマ・セイランは、壁際に背を預けたまま、ガランとした部屋を虚ろな目で眺めている。

ガランとした部屋。荒れ果てていたあの部屋は、綺麗に掃除がされて。
部屋の中には、もう何も残っていない。豪華な調度品も散らかったゴミも、全て運び出されて何もない。
ただ、以前からあった執務室の机と、机の上の認印だけが残されて。形式上の仕事を果たすために、必要最低限の品物。

本当にユウナの身を案じるなら、専門家の治療を受けさせるべきだったろう。療養させてやるべきだったろう。
しかしウナトは、それをしようとはしなかった。
外での仕事こそ体調不良を口実に断らせていたが、表向きは未だにユウナを形式上の「代表首長代理」に据えて。
その実、彼自身には何の決定権も与えず、ただウナトの認めた書類に判を押すだけの存在に仕立て上げた。
食事さえも摂ろうともしなくなったユウナの所に医師を送り、点滴で栄養を摂らせることさえした。

――この実態は、オーブの中枢に近い、限られた人間だけが知ることだった。
彼らはまた「転んで怪我をした」と公表されていたウナトの頭の傷についても、真相を知る者たちでもあった。
彼らは陰で囁きあった。「ウナトは息子に復讐をしているのだ」と。
「飼い殺しにして死ぬことさえも許さず、いずれユウナが折れて謝ってくるのを待っているのだ」と。
それが本当かどうかは、ウナトにしか分からぬことだったが、しかし――

そしてユウナは、相変わらずこの部屋に居る。泊り込んでいるというか、動く気力も残ってないと言うか。
ただ、生きている。目的もなく希望もなく、絶望すら通り越して、ただ息をしている。
誰かが入ってきて、書類に勝手に判を押して、そのまま出て行くのを、虚ろな目で見守るだけの存在。
お茶目な2枚目半の面影など、どこにも残っていない。キレ者の若き政治家の面影など、どこにも残っていない。
代表首長代理というより、ホームレスとでも呼んだ方が相応しいような外見。文字通りの、生ける屍。

窓の外には、満月が浮かぶ。穏やかな夜。
ザフトの攻撃が近いとか何とか、周囲が騒いでいたのが嘘のような静けさ。
そういえば――オーブ艦隊を送り出す決断をしたあの夜にも、月が煌々と照っていたっけ。
果たしてあれから、何度目の満月なのだろう。ユウナには既に、時間の感覚がない。現実と夢の区別も曖昧だ。

と――
静かに月を見ていた彼は、カラカラカラ、と引き戸が開けられる音を聞いた。
視線を少し動かすのも億劫だ。億劫だから、そっちを見ることもしない。
けれども、音と気配で感じられる。執務室のベランダから、誰かが入ってきたのだ。

「……夜分失礼します。
 ユウナさん、急なお願いで申し訳ないのですが、あなたの判が欲しい書類があるんですよ」

侵入者は丁寧な口調で、壁際に座り込んだ青年に話しかける。
テラスから、という異常な侵入ルートに違和感を感じる感性すら残っておらず、ユウナは無言で机の上を指す。
判が欲しいなら勝手に押して行くがいい、との意思表示。どうせ今のユウナには、決定権などないのだ。

「では、失礼して……。はい、ありがとうございました」

101 :隻腕26話(13/18):2006/02/28(火) 21:48:04 ID:???
カラカラカラ……。ベランダに出るための引き戸が、再び開かれる。侵入者の気配が、しかし戸口で一度止まる。
ふわり、と夜風が舞って、ユウナの髪が揺れる。

「書類の写しは机の上に置いておきました。ヒマがあったら見ておいて下さい。
 ――ああ、あとそう言えば」

何やらまだ言いたいことがあるらしい侵入者。
もういいだろう、用事が終ったならさっさと帰れ――そう思ったユウナに、侵入者は意外な言葉を告げる。

「カガリとマユは、まだ生きていますよ。
 2人とも遅くなってしまいましたが、こっちに戻ってくるそうです。……じゃあ、僕はこれで」


――その言葉の意味を理解するのに、十数秒かかった。
麻痺しきった表層意識を越え、彼の魂の奥底まで届くのに、十数秒の時間を必要とした。

その意味を理解すると同時に、はッと顔を上げるユウナ。
しかし既にその時には、部屋にもベランダにも、礼儀正しい侵入者の姿はなく。夢か幻のように消えうせて。
無人のベランダ、その手すりにただ1羽、小さな鳥が止まっていた。
いや正確には、それは鳥ではない。月明かりの中、カシャカシャと音を立てて跳ねる、鳥型のペットロボット。

『トリィ! トリィ!』

電子音を上げ、満月に向けて緑の翼を広げるロボット。ふわりと風に乗り、眼下に広がる夜の街へと飛んでいく。
数日ぶりに立ち上がったユウナは、それを追うようにフラフラとベランダの方に進んで……ふと、机の上。
あの侵入者が置いていった「書類の写し」とやらに、目が止まった。

「……い……今のは……?」

震える手で、書類を取り上げる。彼が「代表首長代理の直々の命令」を欲したその書類。
そこに書かれていた名前に、ユウナは目を見開く。
そうか――今のは『彼』だったのか。ならば。

「本当に――彼女たちは、生きてるのか――!」

ユウナの目に、力が戻る。一気に意識が覚醒する。
動かねばならない。戦わねばならない。呆けているヒマなど、もはやない。
彼は執務室に唯一残された調度品、その大きな机の引き出しの中を漁り始めて――

「――あった!」

やがて出てきたのは、1つの封筒。カガリが国を出る際、ユウナに託した「万が一」に備えての最後の手段。
そこには、他に何の説明もなく、ただ『同窓会名簿』とだけ書かれている――

そしてユウナ・ロマ・セイランは、数週間ぶりに、動き出した。
静かに、鋭く、最高の手際で。

102 :隻腕26話(14/18):2006/02/28(火) 21:50:13 ID:???
――開けきらぬ薄明の中を、艦隊が進んでゆく。カーペンタリアから出発した、ザフト側の攻撃艦隊だ。
数日前に行われた連合軍の襲撃、その際にカーペンタリア基地が発した救援要請。
それに応じてジブラルタル・スエズ両基地から馳せ参じた応援部隊が、そのまま攻撃部隊になっていた。
グフとザクを主力とし、そこに水陸両用機やバビなども取り混ぜた、実に贅沢な構成となっている。

宇宙からは、同時進行的に降下作戦も展開されることになっていた。
失敗に終ったヘブンズベース攻略戦、その際に使いそびれた第2波、第3波攻撃用の降下部隊。
それらに追加の部隊を加えて再編成し、ザフトに残っていた降下ポッドをありったけ掻き集めて。
オーブにはニーベルングのような対空砲はない。空挺攻撃を受けた経験もない。有効な攻撃ができるはずだった。

一応、作戦の目的は「連合軍の駆逐」となっていたが……
そもそも今のオーブ自体が、親連合国家なのだ。オーブ軍もまた、攻撃対象として認識されていた。
さらに、それに加えて……

「ブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールがセイランの屋敷に逃げ込んでいるという情報もある。
 コイツも攻撃目標だ。生死は問わん、決して逃がすなよ!」


「何ボーッとしてるんだ、アスラン?」
「あ……コニールか……」

ミネルバの艦内。パイロット控え室で少し早めに待機していたアスランは、小柄な少女に声をかけられた。
薄緑色のザフト系パイロットスーツに身を包んだコニール。未だに彼には、慣れることができない。

「いや……俺はどうするべきなのかな、とか思って、さ」
「どうするって……何を? 何について?」
「……それが分からないから悩んでいるんだ」
「??」

自分でもまとまらない思考に苦しむアスランを、コニールが不思議そうに眺める。
あれから結局――シンやベリーニを問い詰める時間は、取ることができず。議長を問いただすチャンスも得られず。
アスランは未だ胸にモヤモヤしたものを溜め込んだままで。
しばらくの沈黙の後、アスランはコニールに問い掛ける。

「……コニールは……どうして、その……」
「エクステンデッドになったのか、だろ?」

不敵な笑みを浮かべ、彼の質問を先取りする彼女。
元々強気な彼女ではあったが、何と言うか……どこか歪な印象を受ける、その微笑み。アスランは、少しだけ怯む。

「あ、ああ……」
「力が欲しかったから、に決まってるじゃないか。あんただってそうだったんだろう? もう忘れたのかい?」
「……ッ! だ、だが、その力で何をしたいのか、それが問題なんだッ!」

自らの後悔を踏まえ、アスランは力説する。だがコニールは、歪な笑みを浮かべたまま、はっきりと答える。
その至極真っ当な内容に反し、ひどく不安を掻き立てられるような、そんな雰囲気――

「アタシはただ、平和が欲しいだけ。悪い奴らから、世界を取り戻したいだけ――!」

103 :隻腕26話(15/18):2006/02/28(火) 21:51:17 ID:???
――開けきらぬ薄闇に包まれた早朝の街に、大きな足音が響く。
オーブの街の中に展開していたのは――ウィンダムの大部隊。
砲戦パックを背負い、海の方から来るであろうザフトの攻撃を想定し、良い位置を探す。
立ち並ぶビルディングを遮蔽物に、一方的に海に向けて攻撃できる位置。

と――その頭上を飛ぶ、1機の航空機。
いや航空機ではない、前進翼を持つそのシルエットは、MA形態のムラサメだ。

『ちょ、ちょっと待て! 誰だそこの部隊の責任者はッ! そんな所に居たら街が戦場になるだろッ!』

連合軍の展開の様子に、思わず声を荒げるムラサメのパイロット。
しかし、その抗議を受けたウィンダム部隊の隊長には、全く動じる様子がない。

『我々は命じられた通りに展開しているだけだ。どこが戦場になろうと、我々の関知することではない』
『命令だと!? こちらは聞かされてないぞ、そんな布陣!』
『オーブ軍の事情は知らんな。おおかた、そちらの連絡が行き届いてないのだろう?
 ともかく我々は正式な命令に従って行動している。文句があるなら諸君らの上の方に言いたまえ』
『…………ッ!』

言葉遣いこそ丁寧ながら、完全にバカにしきった態度。
――今、この場だけではない。
この国に派遣され、オーブの基地を利用している連合軍は、オーブ軍を舐めきった態度を取り続けていた。
横暴で、傍若無人で、高圧的で……2言目には「2年前のようになりたいのか?」
前の戦争でこの国を蹂躙した事実を持ち出し、戦勝国としてオーブ軍を見下して。

派遣艦隊の全滅による甚大な損害。遺体さえ帰って来ない国家元首。象徴的存在だったフリーダムの撃墜。
相次ぐ絶望的なニュースに、オーブ軍の士気は下がる一方だった。
そんな中で、2年前、彼らを打ち倒した軍を相手に、反抗する気力など、残ってはいなかったのだが――

「しかし、冗談じゃないぞ!?
 コイツらにとっては他人の国かもしれんが……
 この街は、俺たちが必死になって復興させ、ここまで持ってきた街なんだぞ……!」


「……連合軍は、街を盾にするように展開しているみたい。オーブ本土を守る気は、まるで感じられないわ」
「そうですか――」
「なんとか機体の方は間に合ったけど、設定の調整は完了してないわよ? それでも行くの?」
「ええ。細かい調整は、出てから自分でやりますから」

――オーブの群島の中の小さな島、モルゲンレーテの隠し工場。
その存在を知る者も限られる、新技術の開発や研究に使われている施設で。
2人の人物が、仕上がったばかりのMSを前に言葉を交わしていた。
片方は、先の大戦でクサナギにも同乗したアストレイシリーズの開発責任者、エリカ・シモンズ。
そしてもう片方、茶色の髪を持つ、穏やかな雰囲気の青年は――

104 :隻腕26話(16/18):2006/02/28(火) 21:52:10 ID:???
間もなく、陽が昇る。ザフト艦隊の行く先、水平線上に群島の姿が見えてくる。
ザフト艦隊の側から、第一波攻撃用の航空MSが、次々と飛び出して行く。
軽量のディン、大火力のバビ、格闘戦に強いグフイグナイテッド。
どうやら連合側は、島の上で迎え撃つつもりらしい。木々の間や街の中に布陣している様子が見える。
ザフトのMS隊は、何の抵抗もなく海の上を走り、オーブ群島へと迫ろうとする。
迎撃の態勢を整える連合軍。もう少し外側に戦線を築きたいと思いつつ、彼らだけではどうしようもないオーブ軍。
もうすぐ双方が射程圏内に入る、と思えた、その時――

――1つの影が、洋上を滑るように走っていた。一体どこから出現したものか、かなりの高速で。
両軍の間に割り込むように海面を駆ける、たった1機のMS。
連合・ザフト双方、いやオーブ軍も含め誰にも見覚えのないシルエット。黄色みがかかったスマートな印象の――

「――なんだ、コイツは?!」
「連合……ではなく、オーブ軍?!」
「ロイヤルコード! アスハ家の縁者だと?!」

3軍の誰もが驚きの声を上げる。
識別信号はオーブ軍。所属部隊を示すコードは、代表首長の関係者だけに許された、通称、ロイヤルコード。
その謎のMSは、洋上で向かい来るザフト軍の前に、大きく手を広げて立ち塞がる――

「邪魔だ、コイツ! オーブ軍なら我らの敵ッ!」
「バカめッ、たった1機で飛び出しやがって!」

血気に逸ったザフト側の何機かが、問答無用で攻撃を浴びせ掛ける。
バビの胸のビーム砲が大きな光の槍を放ち、グフの腕の4連装砲が続けざまに火を噴く。
謎のMSは、避けようともしない。何本ものビームが、その謎の機体に真っ直ぐ突き刺さる――ように見えた。
だが。

「……プラズマ臨界良し全ビーム回折格子制御良好。『ヤタノカガミ』出力最大で前面に展開。
 着弾予測と敵の移動予測統合し反射角度算出、そこから上方に2.7度修正 続いて下方に1.2度修正――」

MSのコクピットの中で、パイロットの指が恐るべき速度で動く。リアルタイムで書き換えられるプログラム。
同時にその装甲表面が、急に輝きを増して――

「――なッ!?」

バビのパイロットたちが、驚くヒマがあればこそ。
眩いばかりに輝くそのMSに、ビームが触れるか触れないかのところで、急に止まってしまい――
そのまま、逆に撃ったバビ自身のところに跳ね返ってくる。見えない鏡に当たって反射したかのように。。
身構える間も避ける間もなく、バビの頭が、自らの撃ったビームに撃ち抜かれる。
グフの両手両足が、自らの撃った4連装ビーム砲の攻撃で、吹き飛ばされる。
その信じがたい光景に、3つの軍の誰もが、我が目を疑う。

「な――なんなんだ、アレは?!」
「ゲシュマイディッヒ・パンツァーの応用技術?! いやしかし、いったいどんな制御をすれば――」
「ビームが効かない、だと!?」

105 :隻腕26話(17/18):2006/02/28(火) 21:53:36 ID:???
息を飲む彼らをよそに、太陽が水平線から顔を出す。
朝の最初の光に照らされた、その謎のMSの姿は金色に輝いて。強烈なまでの存在感を万人に示す。

「――僕が必要としていたのは、敵を打ち倒す刀でもない。運命を切り開く剣でもない」

ORB−01、『アカツキ』。2年前の遺産とでも呼ぶべき忘れられた機体。
元々、ストライクのデータとアストレイの基礎技術を融合させ、オーブの次世代MSを作る計画だったのだが……
新型の装甲や様々な武装など、あまりに「欲張った」設計は、前大戦時の技術では実現できなかった。
2年の長きに渡る基礎研究を経て、ようやくこうしてプロトタイプの第1号が完成したばかり。

いや、このアカツキ、未だに「完成」しているとは言い難い。未完成のままに戦場に躍り出てきたようなもの。
あまりに敏感過ぎてコントロール困難な操縦系統。乗り手を振り回す過剰なパワー。不十分な調整。
撃ち込まれたビームを反射させる新型装甲「ヤタノカガミ」は、未だ手動で設定せねば正確な制御ができない。
こんな不良品、マトモに乗れるパイロットなど、他にはまず居るまい。
戦闘の真っ最中にMSのOSを操作してしまうような、この規格外の男しか――

「――僕が欲っしたもの、それは全てを受け止める盾。力無き者たちを、守り抜くための盾――」

青年は、迷いのない目で呟く。歌うように、誓いの言葉を口にする。
2年前の英雄。姿を隠していた男。かつてあの伝説のMS・フリーダムを駆り、前の大戦を終戦に導いた青年。
キラ・ヤマト。

 『そんなに守りたかったって言うなら……避けたりしないで、全部受け止めなさいよ!』

キラの耳に、少女の叫びが蘇る。涙の混じった、血を吐くような叫び声。
守れなかったシャトル。守れなかったスカイグラスパー。守れなかった脱出艇。
そして、守れなかったことに気付くことすらできなかった、隻腕の少女。
それらの悲劇の果てに、彼がやがて望むようになった、「全てを受け止められる盾」こそが――

「もう、戦うつもりはなかった。もう、誰も傷つけたくはなかった。
 けれど、彼女たちが居ないのなら。彼女たちが帰ってくるまでは。
 僕が代わりに、彼女たちが守りたかったものを守ろう。命を懸けてでも守り抜こう。
 たぶん僕には、それくらいのことはしなきゃいけない責任が、あるはずだから――!」

そしてキラは、新たな愛機を身構えさせる。
ストライクの流れを汲む金色のMS、アカツキ。エールストライカーの流れを汲む翼、オオワシパック。
目の前には絶望的な数の、ザフトの大艦隊。
背後には、まるきり国を守る気のない連合軍と、未だ呆然としたままのオーブ軍。
それでも、キラの表情には、絶望はない。ただ真っ直ぐに、正面を見据えて――!

「オーブ軍、聞こえますか。僕の名は、キラ・ヤマト。
 ユウナ・ロマ・セイラン代表首長代理の命の下に、MS『アカツキ』はオーブ防衛に参加します!」


106 :隻腕26話(18/18):2006/02/28(火) 21:55:05 ID:???
その金色のMSの姿は、未だ控え室で出番を待つアスランとコニールの所にも届けられていた。
パイロット控え室にあるモニターに、ビームを反射する様子が映される。思わず言葉を失うアスラン。

「……どうやら、厄介な敵が現れたようですね」

そこに入ってきたのは、パイロットスーツに身を包んだレイ・ザ・バレル。彼にしては随分遅い控え室入りだ。
もう1人、この場に来るはずのMSパイロット、シン・アスカは、相変わらず顔を見せない。

「珍しく遅かったじゃないか。シンはどうした?」
「発作が……いえ、少し体調が悪かったもので。薬は飲みましたから、もう大丈夫ですが。
 ……シンなら、もうデスティニーに乗っているのでは? 1時間も前に部屋を出ていますから」
「え!?」

アスランは思わず驚きの声を上げる。
彼がこの控え室に来たのは、いつもよりもかなり早い時間。一番乗りのつもりで来ていた。
その目的は、もちろんシンを捕まえること。彼から詳しい話を聞く時間を、作ること。
しかし、まさかそれ以上に早く彼が来ていて、しかも既にMSに乗り込んでいるとは――

「さ――行きましょう。アレは相当に危険な敵です。他の隊に任せられません。我々の手で、確実に仕留めねば」
「あ……ああ。そうだな」

レイに促されるまま、アスランも自分の機体に向かう。向かいながら考える。
何かこの戦い、一波乱も二波乱もありそうな気がする。素直に連合軍を蹴散らすだけでは済まない予感がする。
実際に何が起こるかまでは、まるで見当がつかないのだが――。

アスランがふと見上げれば、そこにはデスティニー。
コクピットハッチから身を乗り出すようにして座っていたシンと、目があった。
シンは黙ってニヤリと笑うと、コクピットの中に身を翻す。言葉をかけるヒマもない。
ミネルバのMS格納庫に、オペレーターのアビーの声が響く。

『各パイロットは搭乗機にて待機願います。繰り返します、各パイロットは搭乗機にて待機願います――』


――急速に夕闇に包まれていく、スカンジナビア王国。
雪の平原の中、アンディが、ラクスが、ロウが、樹里が、サイが、天に向けて飛んでいく影を見上げている。
煙の尾を引いて遥かな天空に上っていく影。もうこの距離では、その大まかなシルエットしか見えない。
旧世紀、宇宙開発の初期に使われた、大型のロケットのようなシルエット。
天に、文字通り天空に向かって消えていくその姿を見送りながら――ラクスは、柔かい微笑みを浮かべた。

「今は僕よりも必要としている子が、あそこにいる……、あの人が言った通りでしたわね。
 ……さて、マユさんも行ってしまったことですし、そろそろわたくしたちも動き出しましょう。
 わたくし自身の責任に、決着をつけるために。あの『彼女』と、決着をつけるために――!」


                           第二十七話 『 集結する光 』 につづく