- 98 :隻腕28話(01/27):2006/05/02(火) 21:41:03
ID:???
唐突に現れた黄金のMS。始まった戦闘。
そして、天から舞い降りてきた「フリーダム」と、海の果てから飛んできた「黄色いムラサメ」――
オーブにいるほとんどの者が、急転を続ける状況について行けない中で。
「――やれやれ。まさかあの2人が生きていたとはね。
アカツキとやらも、『あの』キラ・ヤマトが乗っているようだし……
ザフトは撃退できるかもしれんが、それでも厄介なコトになりそうじゃないか、ウナト?」
「…………!」
セイラン家の所有する、とある施設。山の中に掘られた、軍事基地にも似た内装。
その広い空間の中、巨大なモニター越しに事態の推移を見守る男たちがいた。
ブルーコスモス盟主ロード・ジブリールと、オーブ宰相ウナト・エマ・セイラン。
「し、しかしジブリール卿、彼女たちは始末したと貴方が……!」
「ふむ――確かに不出来な部下を持ったことについては、謝らねばならぬようだな。
だが、1つ2つ予想外の事態が起きた程度で揺らいでもらっては、困るのだが?
この国はキミのモノなのだろう? なら、キミが何とかしたまえ。
あのお姫様もフリーダムも、ニセモノとでも言い張って部下をまとめたまえ」
必死に食い下がるウナトに、ジブリールは笑みすら浮かべて言い放つ。
嫌味の篭った歪な笑み。とてもではないが、自らの不始末を謝罪する態度ではない。
ウナトは脂汗をダラダラ流しながら、奥歯をギリリと噛み締める。
カガリを陥れ表舞台から消し、ユウナというブレーキ役を封じて以来、好き放題やってきた彼。
連合に寄り添い連合のご機嫌を伺う一方、オーブでは威張り散らし増税し国民の不満は聞かず……
そんな状態だったから、オーブの国民も軍人たちも、帰ってきたカガリを諸手を上げて迎えるだろう。
この今の状況、とてもウナトに収拾できるモノではない。
――そういった事情をすっかり把握しているジブリールは、ニヤリと嫌な笑いを浮かべる。
「ふむ。もはや、なんともならないようだね――
ウナト。こうなった以上、どうやらキミにできる仕事は1つしかないようだ」
「……仕事?」
「そう。コレは、ワタシがキミに与える最後のチャンスだよ。
――忘れるな。レクイエムが宇宙(そら)に流れる時、勝利を掴んでいるのはワタシなのだ。
その時キミが、そしてオーブが救われるためには、何をすれば良いかは分かっているだろうね――?」
セイラン家の秘密基地、とでも呼ぶべき広い空間の中。彼らの背後にある巨大な影。
それは、どうみても宇宙船。セイラン家の紋章の入った民間用のシャトル。
マスドライバーを持つオーブでは逆に珍しい、単独で大気圏脱出できる、ブースター付きの代物――!
マユ ――隻腕の少女――
第二十八話 『 新たなる道 』
- 99 :隻腕28話(02/27):2006/05/02(火) 21:42:05
ID:???
戦場が沈黙したのは、一瞬だった。
最初に動いたのは――Sフリーダムに後ろ足を打ち抜かれ、地面に倒れこんでいた赤いガイア。
「フリーダム……!? フリーダムなのかァッ?!」
「あなたは……? え、まさか、コニールなの?!」
絶叫しながら瞬時に人型形態になり、一本足で大地を蹴るガイアR。翼を広げSフリーダムに迫る。
そのパイロットの正体に気付き、一瞬驚いたマユだったが……
「マユッ……! お前さえ……お前さえ居なければッ! オーブが、最初っから無かったらッ!」
「…………ごめん、コニール。あたしのことは恨んでくれていいよ、でも……」
互いにビームサーベルを両手に握りしめ、空中で交差する2機。駆け抜ける閃光。
通り過ぎ、一呼吸の間を置いて――ガイアが、ガイアだけが、動きを止める。
赤い両腕が、残された足が、頭部が。ズルリと落ちて、小さな爆発を起こす。
「くッ……! マユ、お前だけはぁぁぁッ!」
「でもあなたは、あんなことをするような人じゃなかったはず……。
あなたはどこで間違えたの? どこでそうなってしまったの?
……ううん、違うね。誰があなたを、そんな風にしてしまったの……?」
呪詛の叫びを上げながら落ちてゆくコニール。哀しげな目で呟くマユ。
しかしマユには、ガイアRの残骸を最後まで見送る余裕が無い。
コニールから僅かに遅れて、もう1機、混乱と恐慌のままに突進してくる機体がもう1機――
「マぁぁぁぁユぅぅぅぅッッ!?」
「――え?! お兄ちゃん、なの!?」
光の翼を広げ、何も持たぬ手をかざして突進してくるデスティニー。
――いや、武器はある。掌に仕込まれたパルマ・フィオキーナ。それが光を放っている。
だがこの武器、破壊力は抜群だが、射程は短い。ビーム砲と名付けられてはいるが、格闘用の武器だ。
それに一種の隠し武器であり、こんな見え見えの体勢では当たるものも当たらない。
デスティニーとは初めて対峙し、その機能も性能も知らぬマユだったが――
「お前は、お前はお前は、俺が、俺が俺が殺した殺した殺したはずはずはずはず……」
「…………ごめん、お兄ちゃん」
- 100 :隻腕28話(03/27):2006/05/02(火) 21:43:05
ID:???
- それはあまりにも分かりやす過ぎる、素人のような突撃だった。
マユは小さく謝罪の言葉を口にする。その目元に僅かに涙を溜めて。
ゆらり、と静かな、必要最小限の動きで、Sフリーダムはデスティニーの突進をかわす。
空振りしたデスティニーの右掌底、その腕が途中から断ち切られる。通り過ぎざまの静かな斬撃。
空中で、標的を捉え損ねたデスティニーが、呆然と動きを止める。
「あ……。お、俺は、今、何を……? ま、また、マユを殺そうと……??」
「お兄ちゃんも――違うんだね、もう」
マユの哀しげな呟き。シンがはッと振り返ろうとしたその時には、背後から迫るSフリーダムの足。
デスティニーは背中に鋭い蹴りを受けて、無様に海面に落下していく。
とても、先ほどまでアカツキ相手に神業のような技量を見せていたMSとは思えない。
海面に、大きな水しぶきが上がる。
「また、戦うかもしれないって覚悟は、あったけど……。
何か、おかしい……。あたしが生きてることに、ただ驚いたって反応じゃない……!?」
考えるよりも早く身体を動かし、デスティニーと戦いながらも、マユは敏感に違和感を感じ取る。
コニールもシンも、何かがおかしい。そして、この「おかしさ」について、既に知っている気がする。
そもそもナチュラルであるコニールが、ガイアに乗ってあれだけの動きをするのも、普通ではない。
そう、ザフト側の兵士とは言え、これではまるで……。兄のあの反応も……!
「!!」
しかしマユにはゆっくり考えている時間は与えられなかった。
回転しながら飛んでくる、巨大な光の刃。マユは紙一重のところで仰け反るようにして回避する。
とてつもなく巨大なビームブーメラン。大きく弧を描いて、戻る先に目をやれば……!
「……シン。その状態では戦闘続行は不可能だろう。
コニールのガイアを回収しつつ、一旦ミネルバに戻るんだ。コイツは、俺が相手をする」
「あ……アレックス・ディノ?! いや、アスラン・ザラ!」
「まったく、キラといい、カガリといい、お前といい……! 次から次へと……!
だが俺は、もう迷わないと決めたんだ!」
間髪入れずにSフリーダムに襲い掛かる、第三の敵。
コニールやシンと異なり、怒りつつも冷静さを失っていないアスラン。その構えには、全く隙がない。
三隻同盟軍で最強を誇ったMS、フリーダムとジャスティス。2年前には共闘したオーブの空。
その改造機と後継機が、今、同じオーブの空で剣を交える――
- 101 :隻腕28話(04/27):2006/05/02(火) 21:44:07
ID:???
戦闘が再開されているのは、Sフリーダムの周囲だけではなかった。
カガリの唐突な言葉に一瞬動揺した兵士たちだが、しかし。
ザフトや連合軍には従う義理はないし、オーブ軍の兵士たちも反撃せねば生き残れない。
カガリは「意思」を示したが、正式かつ現実的な「命令」でなければ「軍人」は従えない。
そして今、彼女は正式な命令を出せる立場になく、また戦況も把握できぬため現実的判断もできない。
「くッ……! やはり無理かッ……!」
黄色いムラサメの中、ザフトからの激しい攻撃をかわしながら、カガリはギリリと歯を噛み締める。
このムラサメ、アマギたち派遣艦隊の生き残りが所持していた、唯一にして最後の「戦力」。
脱出できた数少ない兵たちの中に居た3機のムラサメ。イケヤ、ニシザワ、ゴウの3パイロットの機体。
しかしそのどれもが中破あるいは大破に近い損傷を受け、とても戦える状態にはなかったのだ。
彼らの立場や潜伏場所を考えれば、オーブ軍最新鋭MSのパーツなど手に入らない。
仕方なく、3機の使えるパーツだけを継ぎ合わせ、共食い整備で仕上げたのが、このカガリのムラサメ。
黄色く塗ったのは……本当はアマギたちは金色に塗りたかったのだ。金色の代用としての黄色である。
オーブ軍では一部の例外を除き、MSの色はその位置付けによって変えられることになっている。
赤は一般機。青はカスタム機や局地対応機。金色、あるいは黄色はスペシャル機。
アカツキが金色なのも、故のないことではないのだ。
カガリの前の愛機、ストライクルージュも金色にする案があったが、これは技術的問題で見送られた。
黄色いムラサメ――その色に込められた意味、オーブ軍の兵士には分かる。
カガリ機に向けられる攻撃、その間に割り込むようにして、ムラサメの1部隊が翼を広げる。
「カガリ様! 本当にカガリ様なのですね!?」
「ああ! 戻るのが遅れて本当に済まない! 私は正真正銘、カガリ・ユラ・アスハだ!」
「我々が援護します! カガリ様は国防本部へ! そこからご命令なされば、きっと……!」
「……分かった、ではここは頼む!」
カガリは大きく頷くと、ムラサメを大きく傾け、国防本部へと向かう。
背後で彼女を庇ったムラサメ隊の1機が、被弾し爆発する。が、振り返りもしない。
己を守って散った派遣艦隊の兵士たち、今こうして自分を守る兵士たち。
その想いの全てを背負って、カガリは急ぐ。
- 102 :隻腕28話(05/27):2006/05/02(火) 21:45:10
ID:???
同じ頃、戦場の別の一角で――
黄金のMS、アカツキは、レジェンドと激しい空中戦を続けていた。
マユとカガリ、2人の乱入で仕切りなおしの格好になった、ミネルバの面々とキラとの戦闘。
頭に血が上ったコニールとシンはSフリーダムに突撃し、アスランは一瞬どうすべきか迷った。
決断を促したのは、それまで静かに戦況を見守っていたレイ・ザ・バレル。
「アスランは2人を助けに行って下さい。あの様子では勝ち目はない。
この金色のは自分が押さえます」
「しかし――」
「大丈夫、盾のない今なら、レジェンドでも色々とやりようがありますから――」
そして∞ジャスティスはSフリーダムに襲い掛かり、レジェンドはアカツキと1対1の戦いに入った。
4対1、3対1だった時には控えめな支援しかしてこなかった彼だが、今は……
「――やはりアスランは甘い。隙を見せたその瞬間に攻撃を加えられぬようでは。
やはりどこまで行ってもかつての戦友同士、というわけか」
口の中で呟きながら、レイはレジェンドで激しい攻撃を加え続ける。
背中の6本のドラグーン、それが前方を向き、アトランダムに雨のようにビームを浴びせ掛ける。
流石のアカツキも、その全弾を跳ね返すことはできない。
かといって、受け流せばその流れ弾が、味方やオーブの市街地に飛んでいきかねない……
暴風雨のようなビームの嵐の中、回避に徹するしかないアカツキ。
たまに1発2発ビームを反射するが、これはレジェンドのビームシールドで受け止められてしまう。
アカツキの中、操縦桿を握るキラの額に汗が滲む。
実のところ、レイの放つ大量のビームは、直接当てようとして撃たれたものだけではなかった。
アカツキの進路を遮り、回避の選択肢を狭めるような攻撃も取り混ぜていて、実に厄介。
キラの技量とアカツキの性能があって初めて掻い潜れているような代物だ。
キラの中で、過去の記憶がオーバーラップする。
目の前のレジェンド、それに良く似た姿形をした、あの強敵。その戦い方、その殺意。
似ている。MSの外見や性能だけでなく、パイロットの性格や雰囲気も、また――!
「くッ……! き、君は!? クルーゼ……なのか!?」
「フ。良く気付いたな、キラ・ヤマト。究極のコーディネーター。メンデルの兄弟」
「…………!」
レイの答えに、キラの目が驚きに見開かれる。動きを止めるアカツキ。
その一瞬の隙を見逃さず、レジェンドのバックパックから1本の光の槍が放たれる。
ビームスパイクを伸ばした片方の大型ドラグーンのが、アカツキを貫かんと飛び出して……!
「そうだ、キラ・ヤマト! 俺は『ラウ・ル・クルーゼ』だ!
未完成だったラウの『完全版』、それが俺、レイ・ザ・バレルだッ!
『俺自身』の仇――ここで取らせてもらうッ!」
- 103 :隻腕28話(06/27):2006/05/02(火) 21:46:10
ID:???
オーブ、国防本部前。
この本部にも戦線が近づきつつある中で、建物の中から駆け出してきたのは。
ごく少数の護衛を連れただけの、ユウナ・ロマ・セイランだった。
「早く車を回してくれ! 急いで行くぞ!」
「しかしユウナ様、今は危険です! もう少し戦闘が落ち着いてから……」
「そんなの待ってたら間に合わなくなる! 戦場を突っ切って最速で行くんだよ!」
制止する部下たち、怒鳴るユウナ。
と、唐突に……そんなユウナたちの眼前の地面が、盛り上がる。砕け散る大地。
「!?」
コンクリートを突き破り、顔を出したのは……巨大な灰色の影。
ザフトの水陸両用機、グーンを改良した地中用試作MS、UTA/TE−6Pジオグーン。
地中からオーブの国防本部を叩くつもりで来て、しかし顔を出す座標が少しズレてしまったのだ。
ジオグーンのモノアイが、ギラリと光る。巨大な目が、ユウナたちを見下ろす。
そしてジオグーンは、ユウナたちの頭上に、その大きな腕を振り上げて……!
「……させるかァッ!」
そんなジオグーンを、頭上から貫く一条のビーム。ユウナたちは爆風と閃光に目を細める。
大きな爆発を起こすことなく、その場で動きを止めるジオグーン。
窮地を救われた皆の視線が、空に向き……そこに翼を広げている影を見た。
MS形態の、黄色いムラサメ。ゆっくり国防本部前に降り立つと、そのコクピットハッチが開く。
「大丈夫か、ユウナ!」
「……お陰さまで助かったよ。
そして――お帰り、カガリ。本当に生きてたんだね」
「私は悪運が強いって言っただろう? 約束は、守るさ」
カガリとユウナ。柔らかい微笑を浮かべ、見つめ合う2人。その表情は、すぐに引き締まる。
互いの無事や再会を喜んでいる時間は、どちらにもない。
「つい先ほど、隠れていた父が見つかった。僕はこれから現場へと向かう。
何とかジブリールの決着をつけなきゃ、ザフトも引くに引けないだろうしね」
「そうだな。連合軍の方については、撤退させる意思を示す――それでいいんだな?」
「ああ。国防本部はクサナギのクルーを使って、既に押さえてある。
後は全て任せる。代表代理としてのボクの権限も、口頭で済まないがこの場で返上しておくよ」
「任せておけ。戦闘は続いている。市街の方にも近づいているようだ。気をつけてな」
「カガリも。連合軍の士官がまだ中に居る、奴らも変なことはしないと思うけど――気をつけてね」
カガリとユウナは、国防本部の前で互いの手を打ち合わせて。
そのまま2人は、別の方向に向けて駆け出していく。カガリは国防本部の中へ、ユウナはウナトの所へ。
オーブという国を、守るために――
- 104 :隻腕28話(07/27):2006/05/02(火) 21:47:07
ID:???
海面近い低空で、赤い影と白い影が何度もぶつかり合う。
アスラン・ザラの駆る∞ジャスティス。マユ・アスカの駆る、Sフリーダム。
∞ジャスティスが、左手のシールドのビームブレードを振るう。紙一重で交わす。
∞ジャスティスが、右足のビームブレードで蹴りつけてくる。ビームシールドで押さえるように受ける。
∞ジャスティスのリフターが、本体の背中から瞬時に離れて突進。……これは、避けきれない。
「……ッ!!」
息もつかせぬ連続攻撃に、マユは一瞬で決断する。咄嗟に右手を伸ばしてリフターを受け止める。
その突端の実体剣を、右の手で握るようにして止める。片手での真剣白羽取り。
――否、受け止め切れるものではない。リフターの先端から伸びたビームの刃が、その右腕を貫く。
貫いて、吹き飛ばして……けれど、Sフリーダムは胴体へのリフター直撃を回避する。
マユは右腕1本を犠牲にして窮地を逃れ、大きく距離を開ける。
距離を開けつつ、腹の複相ビーム砲が∞ジャスティス本体を狙って火を噴く。
だが足を狙ったその攻撃は、悠々と避けられてしまう。戻ってきたリフターに飛び乗る∞ジャスティス。
一方的に押し続ける展開になったアスラン。けれど、彼の表情には苛立ちが滲む。困惑が滲む。
Sフリーダムを、マユを倒しきれないから――ではない。
彼女の強さは既に良く知っている。容易な敵でないことは知っている。むしろ、だからこそ。
「フリーダム……! お前ッ、俺を殺すつもりがないのかッ……!?
この期に及んで、なお殺さずに勝ちを得るつもりなのか……!?」
――アスランとマユだけが知る、真実がある。
ベルリン上空、セイバーとフリーダムの死闘。セイバーの手足を奪われたあの一瞬の刹那。
マユはあの時、確実にアスランの命を取りに来たのだ。
目にも留まらぬ速度で振るわれたビームサーベルは、一瞬の間に生死を賭けた二択を強要した。
腕を切り飛ばされるか、コクピットを切り裂かれ即死するか。
足を切り飛ばされるか、動力炉を切り裂かれ無力化するか。
頭を切り飛ばされるか、推進剤のメインタンクを焼かれ爆死するか。
片方を防げば片方は免れぬ、そんな状況の連続。王手飛車取りのようなエグい攻撃。
それがあればこそ、セイバーはバラバラにされたのだ。
アスランの高い技量と判断力があればこそ、セイバーは達磨のような姿になっても生き延びたのだ。
あれが並大抵のパイロットなら、途中で判断ミスを犯し即死しているか、墜落死しているかだろう。
だが、先ほどマユがコニールとシンに対してした攻撃は。
結果こそ似通っていたが、まるで意味が違う。まるで意図が違う。
今のマユは、最初から相手を殺さずに無力化することを狙っているとしか思えない。
相手が未熟だったり、機体性能が低かったり、冷静さを失っていたりすれば、それでも勝てるだろう。
けれど、アスランはそうではない。技量も互角かあるいは上、機体性能もおそらく上。
なのに、マユはなお、アスランを「殺そう」としない。「殺しかねない」攻撃をしない。
相手が自分に勝る存在であることを認識しつつも、その戦い方を変えようとはしなかったのだ。
己の命を、危険に晒してまで。
「……どういうつもりだッ!」
- 105 :隻腕28話(08/27):2006/05/02(火) 21:48:03
ID:???
- アスランの脳裏に、過去のフリーダムの戦いが蘇る。
マユが乗るよりも前、2年も前の戦い。キラ・ヤマトが駆っていた頃の戦闘。
……思えばキラのフリーダムまた、「敵を殺そうとしない」MSだった。
ストライクとイージスの相打ち以降、彼の内面に何が起きたのか、アスランはよく理解できていない。
理解できなかったが、しかし戦闘スタイルの大幅な変化だけは良く分かった。
「キラと同じなのか……? いや、違う……」
似ている。しかし、やはり違う。
それでもキラは、結局は敵を殺している。殺さずには済まない攻撃を何度かしている。
戦艦をミーティアの刃で真っ二つにしたり、プロビデンス相手に容赦のない攻撃をしたり……。
何を基準に判断しているかまでは分からなかったが、それでも彼は、マユとはまた違う。
「お前らは……お前は何を考えているッ!
戦争をしているんだぞ!? 殺し合いをしているんだぞ!? なのに……!」
「殺し合い……それが嫌だから、あたしは戻ってきたんです」
アスランの苛立ち混じりの声に、マユは反撃しながら、しかし静かな口調で応える。
残された腕に連結ライフルを持ち、両腰のレールガンと共に∞ジャスティスに反撃を加える。
だが、攻撃の狙いがMSの末端だと分かってしまえば、アスランに防ぎきれないはずもない。
どれもかわされ、あるいは左手のビームシールドで受け止められる。
「……傲慢だな、マユ・セイラン!
おまえは――強さを手にして、ヒトの生死を自由にできる権利でも得たつもりか?!」
「あたしは、人を殺したくない。そして、殺させたくない。シンプルにそう思っただけ。
そのために精一杯頑張ることが『傲慢』だと言うなら――あたしは、傲慢でもいい!」
マユの叫びと共に、Sフリーダムの翼が大きく広げられる。
海面近くにホバリングしていたSフリーダム、その翼の先端、ドラグーンからビームが放たれて……
続けざまに、海面を撃つ。もうもうと舞い上がった水煙が、Sフリーダムの姿を隠す。
「!!」
「憎しみの連鎖……『断ち切れる』ものじゃない、誰かが『受け止め』ないと止まらない。
なら――あたしが受け止める! 受け止められる限り、ココで受け止める!」
水煙に紛れ、突進をかけるSフリーダム。一瞬虚を突かれたように見えた∞ジャスティス。
けれど、全身の勢いを乗せた鋭い飛び蹴りに、アスランは対応してみせた。
リフターの上に立ったまま、Sフリーダムの蹴りに自分の回し蹴りを重ねる。
足に仕込まれたグリフォン・ビームブレイド。通り過ぎざまにSフリーダムの左足を斬り飛ばす。
「……やはりお前は、傲慢だッ! そんなことができるなら――俺だってッ!」
多対1の戦いを志向したフリーダム。1対1の格闘戦向きのジャスティス。
その特性は、それぞれの後継機にも色濃く引き継がれていて。
アスランの叫びと共に、ビームブーメランが投擲される。片足を失い姿勢の崩れたSフリーダムは……!
- 106 :隻腕28話(09/27):2006/05/02(火) 21:49:04
ID:???
「……ユウナ、貴様ッ……!」
「父上……いや、ウナト・エマ・セイラン。探したよ」
――山の中のセイラン家の施設、ではなく、そこから程近い宇宙港の建物の1つ。
後ろ手に縛られ椅子に座らされた格好のウナトは、部屋に入ってきたユウナを睨み付けた。
2人を取り囲むのは、完全武装したレドニル・キサカ一佐とその直属の部下たち。
「聞きたい事は色々あるけど――まずは教えて貰えるかな。ロード・ジブリールの居場所について」
「ユウナ……お前は、分かっておらんッ。
この先、我々が生き延びるには、奴との関係を切るわけには……!」
「分かってないのは、貴方の方だよ」
ユウナは醒めた目で実の父を見下ろす。窓の外には、遠くの戦闘。
やがてこのあたりも戦場になるかもしれない。ユウナはあまり時間が残されていないことを感じ取る。
「……まあ、貴方が語ってくれなくても、見当はつくけどね。
大体、こんな時期にこんな場所で貴方が1人で捕まっていること自体、不自然なんだよ。
ワザとボクたちに見つかるような行動を取った……そういうことなんだろう?」
「うッ……!」
「ジブリールに時間稼ぎでも命ぜられたかな? でも、貴方が稼げる時間はたかが知れているよね。
貴方をこの場所で捕まえた、というのも重要だ。直前まで奴と一緒に居たはずだからね。
……となると、この近くだとセイラン家の隠し基地あたりが怪しいか。
そういえばブースター付きのシャトルが1機、直接宇宙に出られる形で用意してあったよね?」
「ううッ……!」
「キサカ。コイツはもういい。キミは部下を率いて、今言ったトコを当たってくれ。急げよ?」
「了解だ。では失礼する」
足早に出て行くキサカとその部下たち。後に残されたのは、ウナトとユウナ、ユウナの護衛の兵2人。
ユウナは自分の護衛たちにも部屋の外で待つように促すと、2人きりでウナトと向き合った。
「……貴方の負けだよ、父上。分かっているんだろう、それくらいのことは?」
「…………」
「何で身体張ってまで助けたかな――。命を救われた恩など、あの男はまるで気にも留めないはずさ。
あの男は、ある意味『誠実さ』からは最も程遠い男だよ。確かに有能ではあるけれどね」
「…………」
「それとも何か逆らえないような話でも聞かされたかな? ま、ハッタリもアイツの有力な武器だが」
芝居がかかったいつもの調子で、天を仰いでみせるユウナ。
そんな彼の耳に、父親の小さな呟きが飛び込んで来た。一度では聞き取れず、思わず聞き返す。
「ん? 何だって?」
「……『レクイエム』。月面にレクイエムが響けば……我らがオーブなど、ひとたまりもない」
「レクイエム……?」
鎮魂歌、葬送曲を意味するその単語。意味が分からぬユウナは首をかしげる。
しかしウナトは、もうそれ以上のことを語る気が無いようだった。
- 107 :隻腕28話(10/27):2006/05/02(火) 21:50:03
ID:???
ザフトと連合軍の戦いは――ここに来て、少しだけザフト側が押し始めていた。
先ほどのカガリの唐突な登場と停戦勧告によって、オーブ軍の一部が混乱した隙に押し込まれたのだ。
僅かに押されて、主戦場が海上から島の海岸沿いへと移行する。
オーブ軍の基地、そしてそこに駐留を続ける連合軍の後方部隊にも、ザフトのMSが近づく。
当然、未だ出撃していない部隊は、いささか混乱と恐慌に襲われる。
「ロッティ! あたしらのデストロイはまだ出せないのかい!?」
「おかしなことを言わないで下さい、エクステンデッド07サニィー・エルマ。
貴女の機体は両腕損傷、本体にも被弾しており、戦えるような状態では……」
「敵が来てるんだよ! 動けばいいんだ!
オーブの連中なんてどうでもいいんだけどね――こっちから裏切るような真似は御免なんだよ!」
防菌服に身を包んだ女研究者を、浅黒い肌の娘が吊るし上げるようにして揺さぶる。
彼女たちの背後には、巨大なMSデストロイが2機。うち1機は装甲などを外して修理中。
カーペンタリア攻撃に参加した4機のうちの、生き残った2機。彼らもオーブに逃げてきていたのだ。
と――突然。
サニィーの乗機ではない、もう1機のデストロイが、軋みながら動き出す。
こちらのデストロイも無傷ではない。右腕は肘から先が欠けている。他にも小さな損傷は多い。
けれど構わず、立ち上がって……。
「れ、レイア!?」
「何をする気です、エクステンデッド05! まだ正式な出撃命令は出てませんよ!
それにデストロイを出せば、オーブの街や友軍にも甚大な被害が……!」
2人の驚きの声に、しかし少女は答えない。
レイア・アスト。デストロイのパイロットたちの中でも比較的小柄で、子供っぽい雰囲気の少女。
そんな彼女が、厳しい表情で操縦桿を握り締めて。
「ミネルバが、来てるんだから……! ダーボやガルの仇が、来てるんだから……!
あたし、じっとしてなんて居られないよ……!」
少女を突き動かしていたのは、激しい憎悪。お団子にまとめられた髪が、フルフルと揺れている。
常に素直に感情を示すレイア、その彼女の表情は、今は激怒に染め上げられ。
周囲の制止も動揺もの声も聞かず、過剰な火力の塊、デストロイを戦場に踏み出させた。
- 108 :隻腕28話(11/27):2006/05/02(火) 21:51:09
ID:???
『改めてザフト、連合軍、オーブ軍の全てに告ぐ。
私はカガリ・ユラ・アスハ、オーブ連合首長国の、代表首長である』
カガリの言葉が、戦場に響く。
全軍に向けられた映像通信。途中で着替えたのだろうか、カガリはパイロットスーツではなく軍服姿だ。
『オーブ軍の諸君に告ぐ。
まずは、様々な障害により、オーブに戻ってくるのが遅れたことをこの場にて詫びたい。
戦闘の混乱が続いてはいる最中ではあるが、オーブ軍の指揮権は私が取り戻した。
己の職権を濫用していたウナト・エマ・セイラン宰相は、我が手の者が拘束している。
正式な裁きは後ほどになるが、ここに私の権限において、彼を宰相の任から解くことを宣言しよう』
オーブ軍に向けた、カガリの実権回復の宣言。
動揺と混乱の中にあったオーブ軍の士気が、一気に高まる。一部では歓声まで上がる。
『続いて、ザフトの諸君に告ぐ。
重ねて申し入れる、軍を引かれたい。戦闘を停止されたい。
先ほどオーブ軍に向けて言ったように、セイラン元宰相は更迭された。オーブの方針は大きく変わる。
私はこの戦闘終了後、セイラン元宰相の独断で受け入れた連合軍艦隊に、撤退を求めるつもりである。
諸君らの作戦目標の1つが、これで意味を失うはずだ。
またプラントが重要なテロリストとして追うロード・ジブリール氏についても、現在捜索中である。
捜索中ではあるが、戦闘の混乱により未だ所在を把握できずにいる状況だ。
彼の捕縛に我々の全力を注ぐためにも、戦闘の停止をお願いしたい』
ザフトの攻撃部隊に向けたカガリの言葉。
手順に則った停戦交渉など、している時間はない。あけすけに事情を曝け出し、停戦を求める。
『最後に、連合軍とオーブ軍の諸君に告ぐ。
このような事情であるから、防戦に徹し、敵が逃げても決して深追いするな。
そしてザフト側が戦闘を停止した場合、速やかに戦闘を停止せよ。
これは正式な命令である。連合軍駐留艦隊に対しても、これは艦隊司令も認めた命令だ。
そして、『命令』として以上に……カガリ・ユラ・アスハ個人として『お願い』したい。
この無為な戦いを、止めて欲しいのだ』
連合軍に向けたカガリの言葉。画面の片隅には、苦虫を噛み潰したような連合軍士官の姿。
確かにこの命令、彼らも承認したのだ。承認せざるを得なかったのだ。
先ほどカガリがザフトに向けて言った連合軍の撤退要求、これは実は、政治的な話だ。
まだ正式な決定がされていない以上、現場の軍人は、まだ同盟関係が維持されているとするしかない。
また、先ほどまでオーブ軍が連合軍に従っていたのは、代表代理の名による命令による。
しかしその命令はユウナによってウナトの越権行為と暴かれ、また代表であるカガリが全面否定した。
そうなれば――形式上、連合軍艦隊の司令より、カガリの方がこの場は発言力が上となるわけで。
『もはやこの戦闘、誰にとっても意味はない! だから……!』
カガリが大声で訴えた、まさにその時――
事態が、動いた。それも、2箇所同時に。
- 109 :隻腕28話(12/27):2006/05/02(火) 21:52:08
ID:???
アカツキに迫る、ビームスパイク付きの大型ドラグーン。
避けられる体勢ではない――そう思われた攻撃だったが。
アカツキの背中に装備されていた航空戦闘用オプション、「オオワシ」。
それが切り離され、アカツキ本体は落下、オオワシ自体は航空機のような姿になって上昇。
ドラグーンは虚しく両者の間を空振りして……アカツキの振り返りざまの射撃に、撃ち抜かれる。
オオワシはアカツキの下に滑り込むように、大きく旋廻。アカツキはその上に着地する。
かつてキラが愛機としてきたストライク、その流れを汲んで作られたアカツキ。
その専用装備の1つである「オオワシ」は、エール装備とランチャー装備を融合させたようなもの。
機動力と火力の両立、という発想は、フリーダムの設計思想にも通じるものだが……
同時にこのオオワシ装備、ジャスティスのリフターのコンセプトも取り入れている。
本体の推進ユニットになるだけでなく、MSを乗せて飛ぶことも、単独で飛行し戦闘することも可能。
三隻同盟軍に参加し、その戦いを見てきたエリカ・シモンズ設計の「いいとこ取り」装備なのだ。
思いもかけないその機能に、流石のレイの猛攻も一瞬止まった、その時である。
カガリの放送が、彼らの所にも流れてきたのは。
Sフリーダムに迫るビームブーメラン。
片足片腕を失い、バランスを失ったように見えたSフリーダムだが――その翼が、弾ける。
翼に仕込まれたドラグーンの射出。もっともこのドラグーン、地上では単独飛行はできない。
つまり、使い物にならないのだが……その射出の反動を利用し、Sフリーダム本体が大きく動く。
まるでドラグーンを捨て去るような格好で、回避困難なブーメランを避けるマユ。
8本のドラグーンは海へ落下していき、スリムになった翼を広げてSフリーダムは姿勢を立て直す。
仕切り直しの体勢となり、互いの隙を伺うマユとアスラン。そのタイミングで始まるカガリの放送。
マユもアスランも、思わず攻撃の手を止めてそれに聞き入る。
『もはやこの戦闘、誰にとっても意味はない! だから……!』
『カガリ様! ロード・ジブリール、見つかりました! セイラン家の施設です!
現在キサカ一佐が身柄確保のために戦闘中とのこと!』
『……!? おい、デストロイが動いているのか!? 誰が出撃など命じたか!』
『セイラン家の地下基地、ハッチ開きます!
シャトル射出準備に入ってる模様……いや、今打ち上げられました!』
国防本部に響く怒鳴り声。それはカガリの手元のマイクに拾われ、全ての者に届けられる。
いや、状況は放送を聞かずとも明らかだ。戦場のどこからでもそれは見える。
オーブ軍の基地、連合軍に接収されていたエリアから、街の方へと出てきた巨大な影。
連合軍駐留艦隊の中で最強最悪の決戦兵器、デストロイ。
宇宙港の近く、山肌に偽装されていた大きなハッチが開き、天に向けて飛び出していくシャトル。
この戦闘の中、強引に宇宙への脱出を図るなど、ジブリール以外にありえるはずがない。
カガリは叫ぶ。全軍の全部隊に向けて流していた通信をそのままに、大声で叫ぶ。
『……誰か止めろ! どの軍の誰でもいい!
あのシャトルとデストロイを……止めてくれ!』
- 110 :隻腕28話(13/27):2006/05/02(火) 21:53:10
ID:???
カガリの叫びが響く中、ミネルバを倒すべく戦場へと踏み出したレイアのデストロイ。
そもそもデストロイを出さなかったのは、敵への攻撃以上に味方の巻き添えが懸念されたからだ。
手加減のできないその破壊力、放たれればオーブの街や環境にどれだけの被害を及ぼすか分からない。
けれど、カガリの放送を聞いても彼女が止まることはなく。それどころか。
「もう戦いやめるって言うなら……邪魔される前に、さっさと倒しちゃうんだから!」
距離を詰める間も惜しんで、砲撃体勢に入るデストロイ。
背中に背負われていた巨大な4連装砲を、沖合いに留まるミネルバに向ける。
その射線上にはオーブの街、そして友軍機がかなりの数存在していたが、気にも留めない。
4連装砲の砲口から、溢れんばかりの光が全てを薙ぎ払おうと……!
「……やらせないッ!」
もはや誰にも止められない、そう思われた砲撃の前に飛び出してきたのは。
左手を欠いた、黄金色のMS。
キラのアカツキが、自殺願望でもあるかのように、砲口の直前に飛び出して……!
「着弾予測プログラムOFF前方に単純反射設定、全エネルギー注入ヤタノカガミ出力全開!
……間に合ってくれッ!」
放たれる高出力のビーム。街を守るべく、それを至近距離で受けるアカツキ。
眩いばかりの光は、アカツキを守る不可視の力場に受け止められて。
そのあまりの圧力に、アカツキも空中に吹き飛ばされるが……ビームは全て、跳ね返される。
跳ね返されて、デストロイ自身に、攻撃を放ったビーム砲自身に叩きつけられる。
円盤状のデストロイ、その上面がごっそりと削り取られ、巨体はその場に横倒しに倒れる。
「な……何よ何よ何よ! 何で邪魔するのよ!」
レイアは泣き叫ぶ。オーブサイドからの理不尽な妨害に、泣き叫ぶ。
コイツが邪魔しなければミネルバを討てたのに。ザフトを蹴散らせたのに。
大好きなみんなの仇を、取ることができたのに――
しかし満身創痍のデストロイは、泣きながらもなお立ち上がる。
使い物にならなくなった円盤部分を背後に倒し、人型形態をとってよろめくように立ち上がる。
せめて一矢。一矢報いねば――
「……いや、駄目だな。ミネルバには、指一本触れさせん。この俺が許さない」
よろめきながら立ち上がったデストロイ、その眼前に立ち塞がった灰白色の影。
それは、つい先ほどまでアカツキと死闘を繰り広げていたレジェンドだった。
その背から円錐状の槍が射出される。咄嗟にビームシールドで身を守ろうとするレイア。
しかし大型ドラグーンは、掻い潜るようにして回りこみ、そのままコクピットに吸い込まれる。
エクステンデッド04、レイア・アストの意識は、そして閃光の中に消えて。
暴走しかけていたデストロイは、オーブに破壊を撒き散らすことなく、ゆっくりと崩れ落ちた。
- 111 :隻腕28話(14/27):2006/05/02(火) 21:54:09
ID:???
崩れ落ちるデストロイを、眼下に見ながら――
遥か高い青空に向け、ブースター付きのシャトルが飛んでいく。
ムラサメが、バビが、グフが追いすがるが、しかし速度が違う。追いつけるものではない。
彼らは追いながらもビームやミサイルを放つが、シャトルを捕らえることはない。
最高速度で飛びながらの遠距離射撃、そうそう当たるものでもないのだ。
「フフフ……。こうして脱出が間に合ったことも、こうしてキミたちの攻撃が当たらぬことも。
ワタシが世界に必要とされているということの証明なのだよ!」
シャトルの窓から眼下を見下ろしながら、ロード・ジブリールは笑う。
自分は神に、世界に運命に愛されている――そう彼は考えている。その自信がある。
多少は汚い手段も使いはするが、それも全ては勝利のため。正義のためだ。
勝てば、全てが許される。
と――ジブリールはふと、眼下の様子に気付き、眉を寄せた。
ぐんぐん引き離されていくMSたちの中で、唯一距離を縮めつつある機体があった。
赤い航空機風の影。アスラン・ザラの∞ジャスティス、そのリフターだけが飛んできているのだ。
∞ジャスティス、その本体ごと追えば、ムラサメやディンのように追いつけない。
けれど、重荷を取り除いたリフター、ファトゥム01だけなら。
攻撃はAI任せとなり、命中精度は格段に落ちてしまうが、追いつける可能性が出てくる。
ブルーコスモスの盟主を止める可能性が、出てくる。
「届けッ……!」
その後方、本体だけの推力で追いかけながら、アスランは祈る。アレが追いついてくれれば――!
……しかし、アスランの祈りは届かなかった。
シャトルから切り離された、加速用のブースター。
それが、後方に流れ落ちていき……ファトゥム01の進路を遮ったのだ。
大質量との正面衝突。リフターはブースターを突き破るが、速度が大幅に落ちてしまう。距離が開く。
「悪いな! ワタシにはまだまだやらねばならぬコトがあるのだよ!
ザフトの『正義』とワタシの正義……この場は、ワタシの勝ちだ!」
そのままシャトルは大気圏を突破。青空を抜け、地球を俯瞰できる大宇宙へと飛び出した。
もう完全に追撃がありえない高度にまで達してから、ふと思い出したように呟く。
「しかし――危ういところだった。
機動力と狙撃能力とを併せ持ったMSに狙われたら、ワタシも逃げ切れたかどうか。
例えばそう、カーペンタリアで大暴れしたあのMSのような、ね――」
- 112 :隻腕28話(15/27):2006/05/02(火) 21:55:07
ID:???
……天に消えていくシャトル。それを見送るMSたちの中に、Sフリーダムの姿もあった。
その左腕には連結ライフル。狙撃専用MSにも匹敵する、射程と命中精度を誇る武器である。
広げた8枚の翼は、ドラグーンを失っているが、それでも量産航空MS並みの機動力を備える。
それはまさに、ジブリールがまさに危惧していたMS。
しかし――マユは結局、撃てなかった。
追いかけながら、銃を向けながら……結局、1発もビームを撃てなかった。
傍から見れば、機体に受けたダメージのせいで狙いが定まらなかったように思えただろう。
実際、片腕片足を失ったこの状態では、撃っても当たったかどうかかなり怪しい。
だが……
「あたしは……殺したく、ない……。
けど、あの人をここで止めないと……」
シャトルは――シャトルを撃つとなると、MSの手足をもぐようには行かない。
当たれば大破、乗員の死亡は確実だ。即死しなくても墜落死は免れない。
マユはそのことに思い至り、撃てなくなってしまったのだった。
生きたまま無力化しようとして、しかし当たり所が悪くてうっかり殺してしまっても。
後悔はするだろうが、やらないよりはマシだったと信じられただろう。
無力化した後、誰かがトドメを刺してしまっても。
それはかえって残酷なことになってしまうのだろうが、彼女にはその罪を背負う覚悟があった。
けれど、確実に殺すしかない、という状況では。
殺す以外に止めようがない、という状況では。
……マユは思わず、迷ってしまった。動きが止まってしまった。
再び戦場に戻る覚悟を決めた時、色々と考えていた状況。
できうる限り殺したくない、その単純な思いを現実に近づけるための、様々な方策。
――けれどそれは、基本的にMSや戦艦などを相手にしての戦闘で。
今回のような、非武装で無力な存在を狙撃せねばならぬ状況は……考えてなかった。
マユは、誰にともなく呟く。
「あたしは――どうすれば良かったの?」
あのシャトルに乗っているというロード・ジブリール。マユも過去1度会ったことがある。
今思い返せば、彼は確かに危険な人物だ。この場を生き延びてしまえば、必ず大きな災いとなるだろう。
それがわかっていて、なお、マユは……
「あたしは……」
- 113 :隻腕28話(16/27):2006/05/02(火) 21:56:15
ID:???
白い煙の尾を引いて、天に上がっていくシャトル。
後ろ手に縛られたウナトを連れ、建物から出てきたユウナは忌々しげにそれを見上げた。
「……逃げられたか。まいったねェ。
捕まえておけば、連合にもザフトにも有効な切り札になったかもしれないのに」
「…………」
「たぶん彼は、父上を助けたりはしないよ。利用価値がなくなれば容赦なく切り捨ててしまう人間だ。
ボクが以前、貴方に奴との協力を進言した時には、それも計算に入れた上のことだったんだけど……
父上はちょっと深入りし過ぎたね。本来なら奴が逃げ込んできた時点で拘束するべきだったんだ」
「…………」
「さて――急いで移動しよう。恐らくカガリが改めて停戦を呼びかけるはずだが、まだこの辺は危険だ。
早く遠くへ……」
いつも以上に饒舌に、いつも以上に早口に。何かを誤魔化そうとするかのように喋り続けるユウナ。
それを俯いたまま、黙って聞いているウナト。
ユウナの部下が車を回してきて、ウナトをその中に促そうとした、その時……。
「……!! な、何をッ!?」
諦めきったかに見えたウナトが、急に抵抗を始めたのだ。
護衛の1人に体当たりして倒してしまうと、そのまま必死の形相で道の向こうに駆け出す。
「な――父上、いやウナト・エマ・セイラン! 往生際が悪いぞッ!」
今のウナトに、逃げるあてなどあるはずもない。
ユウナとカガリによる電撃的な「クーデター」によって、もうほとんど何も残されてはいないのだ。
なのに、逃げる。あてもなく逃げる。後ろ手に縛られた太った体を、ヨタヨタとよろめかせながら――
「――父上ッ!」
――ウナト・エマ・セイランにとって、世界は理不尽に満ちていた。
セイラン家。第6の氏族。予備の血筋。名門と呼ぶには立場は弱く、庶民と割り切るには歴史は重く。
ウナト自身、未練がましく「予備の血筋」の出番を待ち続けていたために、結婚は遅くなってしまった。
結局見合いによって迎えた若い妻。愛のない結婚。最初から冷え切っていた夫婦関係。
遅くになって得た1人息子、ユウナに対しても、ついにウナトは親子の情を抱けなかった。
その有能さを喜びこそしたが、あくまでユウナは「セイラン家の跡継ぎ」でしかなく。
ここまで自分が背負わされ運ばされてきた、ずしりと重いバトンを受け渡す相手でしかなかった。
だが――2年前の大戦で、ウナトを取り巻く世界は大きく変わる。
アスハ家の外交上の大失策。五大氏族有力者たちの相次ぐ死亡。
そして明かされたカガリの出生の秘密。ついにやってきた「予備の血筋」セイラン家の出番。
ウナトは、セイラン家代々の悲願が達成されると喜んだ。
鬱々と過ごしてきた長い人生、遅咲きにも程があるが、ともかくようやくにして、花開く時が来たのだ。
- 114 :隻腕28話(17/27):2006/05/02(火) 21:57:07
ID:???
- けれど――世界はなお、ウナトに対して残酷だった。
あるいは、どこかで彼は間違えたのだろうか? 何をどう間違えたのだろうか?
表向きカガリを立てることで、将来の義父として手にしたオーブの実権。
権力を握り富を溜め、宰相の地位を得、国を仕切り外交を仕切り。
代々のセイラン家当主の悲願を、ここぞとばかりに実行していった。
自分には、その権利があると思っていた。
これまで舐め続けてきた辛酸の分、甘い蜜を啜る権利があると思っていた。疑いもしなかった。
少しずつ、歯車が狂っていく。
テロリストの急襲から始まった、この新たな戦争。
その強さを信じ寄り添うことを決めた地球連合は、失策を重ね。
自分と同じ思いだったはずのユウナは、しかし途中からウナトに反発。
良かれと思って接近した秘密組織「ロゴス」は、存在を暴かれその信頼と地位を大きく落とした。
目の上のタンコブ、お飾りにしては勝手に動き過ぎるカガリの抹殺に成功したと思えたのも束の間。
ユウナとの対立は決定的なモノとなり、国民からは嫌われ、やること成すこと全て裏目に出て。
挙句の果てに、抹殺したはずのカガリがこうして帰還し、頼みの綱のジブリールは自分を見捨てて……。
「何故だ……! 何故、自分だけが……!」
ウナトは逃げる。息を切らして、走って逃げる。
どこに逃げるかなど、考えることもできない。ただただ世界を呪いながら、あてもなく駆ける。
彼には、自分が悪かったのだ、などと考えることはできない。思いつきもしない。
オーブ建国以来、五大氏族の影・セイラン家に積もり積もった怨念が、彼の魂を縛っていた。
「何故……! 何故、こんな……!」
「父上! 止まって、危ないッ!」
追いかけてきていた、息子の足音が急に止まる。恐怖の混じった声色。
そして突然曇る空。荒い息をつきながら走っていたウナトは、ハッとして見上げる。
頭上に迫る、青い影。
コクピットを貫かれ、コントロールを失ったグフ・イグナイテッドの身体。
圧倒的な、破滅的な質量が、ウナトの頭上に避けようもない速度で迫り来て――
「なぜ……自分だけが、こんな……!」
ウナトの呪詛の言葉ごと、青い巨人の身体は、無慈悲に全てを押しつぶした。
呆然と膝をつく、ユウナの眼前で。
- 115 :隻腕28話(18/27):2006/05/02(火) 21:58:07
ID:???
――遠くで崩れ落ちる、デストロイの巨体。天に昇っていく、止め切れなかったシャトル。
ミネルバのブリッジで、タリア・グラディスは大きな溜息をついた。
「艦長、デスティニーとガイアR、帰還しました。
早速ベリーニら専属スタッフがパイロットを確保、治療と再調整に入るとのことです」
「そう……。後で色々聞かせて貰いたいところだけど、今は彼らに委ねるしかないわね。
レイとアスランも帰還させて。2人とも消耗しているはずよ。機体も、パイロットも」
「はい、分かりました」
新オペレーターのアビーの報告に、タリアは淡々と指示を与える。
アビーは優秀なオペレーターではあったが、艦に来てまだ日が浅い。
先任のメイリンと違って、シンたちに対して少し機械的に対応する部分があった。
メイリンなら、もう少しシンの身を気づかってくれたのだろうが……
「……今さら考えても仕方ないわね、そんなこと」
「どうかしましたか?」
「別に。――そうね、セントヘレンズに通信を繋いで」
タリアは愚痴っぽくなりかけた考えを振り払うと、別のことに思考を向ける。
もはやこの戦い、カガリ代表の言う通り、誰にとっても意味のない戦いだ。
軌道上から降下してくる手はずの増援部隊も、姿を現さない。
彼女はザフト艦隊の旗艦、潜水空母セントヘレンズに通信を送る。
「ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。僭越かとも思いますが、司令に進言します。
ここはもう、撤退すべきです。
当艦所属のエースたちも消耗激しく、作戦目標も――」
――やがて戦場に、信号弾が続けざまに上がる。
ザフト全軍に向けた、撤退命令。タリアの意見が採用されたのだ。
水が引くように下がっていくザフトのMSたち。対するオーブ軍も連合軍も、それを追うことはしない。
オーブ軍はこれで作戦目標を達成したわけだし、連合軍としては単独で意地を張っても仕方がない。
先ほどのデストロイのように暴走する兵もなく、極めて紳士的に、戦闘は速やかに終了して――
こうして、オーブを巡る一連の戦闘は、終結したのだった。
オーブ軍側としては、街にいささか被害が出たものの、かなりの部分で目標を達成。
ザフト軍は、ジブリールこそ逃がしてしまったものの、連合軍撤退の言質を取った格好で。
連合軍には不満の残る結末ではあったが、しかしこれを認めねばオーブ軍をも敵に回しかねず。
オーブ軍とザフト、双方を同時に敵に回せば、この場の連合軍艦隊は間違いなく全滅してしまう。
それぞれに痛みを受けながら、一応の戦闘の終結を受け入れたのだった。
- 116 :隻腕28話(19/27):2006/05/02(火) 21:59:05
ID:???
オーブ、国防本部前。
全ての戦闘が終結し、防衛ライン外にザフトが撤退した頃。
この戦いの関係者が、この場所に集まっていた。
国防本部前に、片膝をついた黄金のMS、アカツキ。その左腕は途中から無く。
同じく国防本部前に、座り込んだSフリーダム。こちらは右腕と左足が無い。
カガリが乗ってきた黄色いムラサメも、その場に停められたままだ。
アカツキから降りてきたキラ。その肩に止まる緑色の鳥型ロボット。
Sフリーダムから降りてきたマユ。義足と義手が、軋んだ音を立てる。
国防本部から出てきたカガリ。国防本部に戻ってきたユウナ。
カガリのムラサメを吐き出した後、空っぽの輸送機で追いついてきたアマギたち。
キラの出撃を支援したエリカ。ユウナの作戦を助けたキサカ。
大勢のオーブ軍兵士に、未だ苦虫を噛み潰したような表情を崩さぬ連合軍の士官――
「――みんな、ありがとう。みんなのお陰で、なんとかオーブを守りきることができた」
カガリが頭を下げる。その場の全ての者に対し、素直に感謝の意を伝える。
そして彼女は、取り巻く人々の片隅に隠れるようにして居た、連合軍の士官たちに向き直る。
「特に連合軍の諸君。君たちにとっては異国であるオーブのために、よく戦ってくれた。
……残念ながら、君たちの上層部が進もうとしている方向には、もうついていけない。
これからオーブは、諸君らとは道を違えることになるだろう。同盟も破棄されるだろう。
けれど、私たちは――私たちのために戦ってくれた諸君らに、本当に感謝しているんだ。
また我々が一緒に同じ道を歩ける日が来ることを、諸君らも祈って欲しい」
カガリの丁寧な感謝の言葉。連合兵たちは、思わず顔を見合わせる。
素直に感謝している。共闘した戦友への共感もある。でも、政治的には、もう一緒には行けない。
――連合軍の士官たちの全てが納得できたわけでもないようだったが、それでも、何人かは。
「――カガリ」
静かに、呟くように彼女の名を呼んだのは……どこか落ち着いた表情となった、ユウナだった。
彼はゆっくりカガリに歩み寄ると、静かに言った。
「まだ、終ってない。まだ、やらねばならないことがある」
「……どういうことだ?」
「外に向けて示さねばならない。オーブの進む道が大きく変わったことを。
以前までのオーブと、違うということを。
誰の目にも明らかに、分かり易く、示さねばならない」
「ユウナ……?」
深い覚悟に満ちたユウナの言葉に、カガリは首を傾げる。
一体彼は何を言っているのだろう?
ユウナは……そして、自らの両手を揃えて差し出しながら、静かに言った。
- 117 :隻腕28話(20/27):2006/05/02(火) 22:00:02
ID:???
「カガリ……ボクを逮捕するんだ。
ここまでの間にオーブが犯した過ち、その責任者として――逮捕するんだ」
「ええッ!?」
「ゆ、ユウナ!?」
思いもかけぬ発言に、カガリも、マユも、キラも驚きの声を上げる。
だが、ユウナの表情はどこまでも真剣だった。
「実際に舵取りをしていた父は、つい先ほど、死んでしまった。
そしてあの父の死は――あんな死に方をさせてしまったのは、ボクのミスだ」
「いや、しかし!」
「それに父のやっていたことは、全て代表代理であるボクの名を利用して行われている。
ボクが認め、代表代理として判を押したことになっている。ボクに罪が無いわけではない」
「でもお前は! お前は実際には……!」
「それにね。犯人も容疑者も何もなく、全てを死人に押し付けては、人々が納得しないよ。
他の国々に対する、アピールのためにも……分かりやすい『犯人』を上げてみせる必要がある。
失敗した時に責任を取るのが、トップに立つ者の最後の仕事だからね」
「ユウナ……!」
どこか寂しさを含んだ表情で、微笑んでみせるユウナ。言葉に詰まるカガリ。
それは、ユウナなりの贖罪だった。大事な時に動けなかった自分の罪に対して課す、罰だった。
同時に、冷徹な政治家としての判断だった。オーブの今後の国際的な信用を考えての、決断だった。
「罪状は、そうだな。『国家反逆罪』あたりでいいんじゃないかな?
セイラン家の私利私欲のため、オーブという国を危機に陥れた罪だ。
……まぁ、極刑さえ逃れられるなら、ボクは何でも喋るさ♪
捜査にも積極的に協力しよう。刑務所の中に入った後も、模範囚になってみせるよ♪」
「ユウナ……」
「ほらほら、早く。問題は山積みなんだからさ。ボクの問題で時間を無駄に浪費すべきじゃない。
……あ、後処理を押し付けちゃう格好になるけど、それは勘弁してくれな♪」
いつもの茶目っ気を取り戻し、ウィンクまでしてみせるユウナ。
カガリは泣き出しそうになる自分を押さえこみ、大きく深呼吸すると頷いた。
「……誰か、手錠を」
「本当にいいのか、カガリ?」
「ああ。確かにユウナの言う通りだからな。
セイラン家の重ねてきた罪、正式な法廷の場で明らかにするべきだ。
良い弁護士をつけてやる。」
キサカの持っていた手錠。ウナトとジブリールの捕縛に使うつもりだった手錠。
カガリはそれを受け取り、ユウナにかける。
「ユウナ・ロマ・セイラン元代表代理。国家反逆罪の容疑で、逮捕させてもらう――!」
- 118 :隻腕28話(21/27):2006/05/02(火) 22:01:02
ID:???
――力が無いのが、悔しかった。
突然の戦禍に巻き込まれた一家。バラバラになった両親。千切れた妹の腕。
家族「だったモノ」をその場に残し、岸を離れる避難船の中で。
思い出の品を掴み損ねた手は固く握り締められ、己の掌を爪が食い破る。
何気なく仰いだ青い空には、なお続く戦闘。青い翼を広げたモビルスーツの姿。
少年はふと、思ってしまった。
そしてその思いは、彼の脳裏に強烈に焼き付けられた。
もし自分にあれだけの――いや、アレをも凌ぐ、圧倒的な『力』があったなら――
――力が、欲しかった。
地球連合に打ち倒されたオーブ。国に留まることに危険を感じた、一部のコーディネーターたち。
少年は彼らの群れに混じり、単身プラントに渡った。政治亡命者として受け入れられた。
何の後ろ盾もなく何の特殊技能もなく、ただ「コーディネーター」という生まれのみが頼りの亡命。
見知った者が1人もいない、異郷の地。
目の前の日々を生き抜くため、少年が「売る」ことができたのは、「己の未来」のみ。
すなわち、ザフト軍人になることを確約した上での、アカデミー入学だった。
衣食住は保障され、在学中に給料すら出るが、卒業後の就職の自由は失われる。
人生で最も輝ける10代後半から20代半ばまでの間を、ザフトに縛られザフトのために働かねばならない。
これではまるで、自分の未来を売り渡したようなものだった。
それでも、少年は喜んだ。素直に喜んだ。
これで『力』が手に入る、と。『力』が手に入るなら『未来』などいらない、と。
今も時折浮かべる、あの歪な笑みを浮かべ――喜んだ。
――力は、そして彼のものとなった。
入学時には目立つもののなかった彼だったが、しかし彼はめきめきと頭角を現していった。
格闘も射撃もMS操縦も、全て初めて触れることばかりだったが、貪欲に学習し習得して。
そもそも、気迫が違った。覚悟が違った。目指す境地が違った。
同期の仲間が家族の下に帰る休暇の期間も、帰る場所なき彼は1人で自主訓練を積み重ね。
やがて卒業する頃には、数々の逸話と無数の異名をその身に纏うことになる。
同期の仲間とのささいなトラブルから、相手を半殺しにし。
ナイフ格闘術の教官相手に「手加減できずに」重傷を負わせ。
MS操縦において、あらゆる戦闘について驚異的なスコアを叩き出した。
狂犬。フレッド殺し。血染めの赤。暴力装置。オーバーキル。黒髪のジョーカー。狂戦士。
彼を表す無数の異名。アカデミー史上に残る最強の優等生にして最悪の問題児。
そして与えられた、あの時点で最新最強の剣。1機で3機の特性を持つ万能MS、インパルス――
けれども彼の渇きはなお癒されず。彼の魂は血を求めて叫び続けた。
もっとだ! もっと力を! さらなる力を! 圧倒的な力を! 何者にも邪魔されぬ力を!
彼はさらに暴力に傾倒し、再び始まった戦争の中、笑いながら駆け抜ける。
時折不安げな表情を浮かべるルナマリアを傍らに従え、無口なレイと背中を守りあい。
彼は、力そのものになった。望んでいた力を手に入れたと思っていた。
- 119 :隻腕28話(22/27):2006/05/02(火) 22:02:04
ID:???
――力は、しかしそのためのものではなかったのか。
戦いの中に、ルナマリアは散った。
またも守れず、手の届くような距離、紙一重の状況で。
もはや大事な者など作らぬつもりでいた彼。遊びのつもりで関係を持った彼。
けれども、失われて初めて気付かされる、ルナマリアは彼にとって本当に大切な――
力を。もっと力を。さらなる力を。誰よりも優れた力を。
そのためには、怒りすら邪魔だ。憎しみすら邪魔だ。思い出すら邪魔だ。
機械のように正確に。ナイフのように鋭利に。結晶のように純粋に。
ただ、力だけを目指し、極限まで己を研ぎ澄ました。自己の限界、その向こうにまで到達した。
――力は、そして仇を捕らえた、はずだった。
激闘の末、全身の勢いを乗せた対艦刀エクスカリバーがフリーダムの腹を深々と貫いて/
でもフリーダムに乗っていたのはすっかり死んだと思っていた実のい/
勝利を祝福する仲間たちしかしアスランが叫んだ真実は/
力が無いのが悔しかったでも元はと言えば/
2年前転がる腕あれは/
再びオーブに舞い降りてきた白いMSそれに乗っていたのは間違いない確かに殺したと思ったマ/
――暗闇の中。
いつしか断片的な思い出は遠くに遠ざかり、彼の周囲は淡い光に包まれて。
いつの間にか彼は一糸纏わぬ姿で虚空に浮かび。
心地よい暖かさと、虹色の光が彼を包み込む。
どこかから、声が響く。虚空に浮かぶ彼を、包み込むような声。
『 思い出しては、いけない……。
あの時の哀しみ、思い出してはいけない。あの時の後悔、思い出してはいけない。
思い出したら、戦えなくなるから。思い出したら、また傷つくから。
けれど、忘れることなどできはしない。そうでしょう?
だから――鍵をかけよう。鍵をかけて、心の奥底に、隠しておこう。
そうすれば貴方は、悪夢を見ることもない。
そうすれば貴方は、哀しみも恐怖も動揺もない、無敵の戦士になれる―― 』
知る者が聞けば、それは催眠術師の口調そのもの。
知る者が聞けば、それはエクステンデッド調整マニュアルに書かれた文章の丸写し。
設定されていた禁句、それに触れてしまったエクステンデッドを元に戻す、基本的作業の1つ。
けれども、それは光の海に浮かぶ彼にとって、唯一示された救いの言葉で――
『 では、良く聞いて。
貴方のトラウマを閉じ込める鍵、『ブロックワード』は、―― 』
- 120 :隻腕28話(23/27):2006/05/02(火) 22:03:04
ID:???
『 ―― 五 月 蝿 い ! 』
――それは、唐突に。
何人たりとも抗することなどできぬはずの深い深い催眠術。その真っ最中にあって。
心地よく魂に染み込むはずの声を、彼は遮った。
かッと見開いた赤い目。彼は激情も露わに、歪みに満ちた笑みを浮かべる。
『この程度の催眠術で、この俺が縛れると思ったか!?
この程度のトラウマで、この俺が竦むと思ったか!?
こんな下らないモノで、俺を支配できると思うな。俺を操縦できると思うな!
俺は―― 俺 こ そ が 『力』 な ん だ !
俺 こ そ が 最 強 な ん だ ! 』
シンの激しい一喝。世界を震わすほどの声。虹色の光に照らされた世界が、真紅に染め上げられる。
そして、彼を取り巻く幻の世界は、粉々に砕け散って――!
「きゃあッ!?」
――オーブで撤退を余儀なくされ、カーペンタリアまで戻ってきたミネルバの一室で。
エクステンデッドの再調整を行っていた研究者、ヘンリエッタ・ベリーニは悲鳴を上げる。
突如響き渡った打撃音。粉々に砕け散った、調整ベッドの透明なカバー。
そして、それを内側から叩き壊した者は――
「――『力』だ。さらなる力が必要なんだ」
煌く破片のが飛び散る真ん中で、赤い目を見開き、全裸のまま仁王立ちしていた。
シン・アスカ。コーディネーターをベースとした改造人間「オーバーエクス」の、第一号被検体。
それが、彼を「創造」した研究者たちを傲然と睨みつけ――
「――記憶を寄越せ。中途半端な術を解け。邪魔っけで動きづらいだけで何も得る物がないぞ。
俺の『改造』に関するデータを見せろ過去の実験データを見せろ全ての資料を見せろ。
お前らが何をやり何を狙い何を成さんとしていたのか、全て俺の前に曝け出してみせろ!」
「で、でも、これは極めて専門的なモノで、貴方などには……」
「俺のことは俺が一番良く知っている。お前たちに強化された脳は、お前たちよりも鋭い。
コニールがナチュラルを越えた存在であるように、俺も既にコーディネーターを超えた存在さ。
ここから先は俺自身が指揮を執る。とてもとてもお前らのような連中には任せておけない。
高みが見たいんだろう?! ヒトの能力の限界が見たいんだろう!? なら、俺に従えッ!」
シンは叫ぶ。怯え、震える声で抗弁するベリーニを、シンは圧倒する。
狂気と、傲慢と、確信とに満ちた声。もはや誰にも止めること適わぬ絶対的な迫力。
「痛みを忘れることで到達できる境地など、たかが知れている!
俺が必要としているのは――俺の望んだ『力』は、もっともっと先の世界にあるんだ!」
- 121 :隻腕28話(24/27):2006/05/02(火) 22:04:05
ID:???
――オーブから遠く離れたプラント。首都アプリリウス市。
最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、ここしばらくの状況の推移に頭を抱えていた。
目の前のチェス板、その駒の1つを指で弾く。ドミノ倒しのように続けて倒れる、いくつかの駒。
「やれやれ……悪いことというのは、重なるモノだね」
スエズ基地を奪取したところまでは、良かったのだ。順調だったのだ。
だが、地球連合の足並みの不一致を突いてヨーロッパに広げた勢力圏は、結局取り戻され。
ヘブンズベースに対して仕掛けた総攻撃は、完全に失敗して敗退。
プラントのアイドルとして作り上げた「ラクス」ことミーアの正体が暴露されるオマケ付きだ。
続くカーペンタリアへの攻撃を撃退できたのは良かったが、その後オーブに向けた反撃は。
「オーブが連合を離れ、中立に戻ったのはまあ悪くない結果ではあるが……
ジブリールを逃がし、降下ポッドを失い、連戦連勝のミネルバに土をつけてしまったのはな」
デュランダルの政治は……実は、政策論争などはさりげなく回避している。
中道寄りの穏健派。良くいえば柔軟。悪く言えば日和見主義。明確な方針らしい方針を持たぬ彼。
そんな彼が代わりに多用したのは、アイドルやヒーローを演出し、その人気を利用する方法だった。
ミーア、アスラン、ミネルバの面々。彼の脚本・演出による『デュランダル劇場』の役者たち……。
しかしその方法も、今行き詰まりかけている。危機にある。
ここしばらくの間にプラントにおけるデュランダル政権の支持率は大幅にダウン。
この調子が続けば、やがて彼は今の地位を失うことになるだろう。
いや、おそらくそれは、そう遠い日のことではないはず……
「……動かねばならないか。
今、議長の座を追われてしまったら、永遠に機会は巡って来ないだろうからな。
実験データもまだまだ足りないが、それでも道筋を示すための最低限のモノは……」
デュランダルは立ち上がる。この局面で、大きな賭けに出ることを決断する。
本来はもっとザフトの優位が固まって、連合サイドが反論できなくなってから出すつもりだったプラン。
しかし考えようによっては……
「それに新たなる道を示すことで、この不利な戦局を打開できるかもしれん。
ガルナハンの住民のような、ザフトに協力する者も増えるかもしれん。
いずれは実行せねばならぬことだ、ならば今、この時に……!」
そしてデュランダルは、決断した。
あのプラン、戦後統治に使うつもりだったプランを、起死回生の一手として使うことを。
- 122 :隻腕28話(25/27):2006/05/02(火) 22:05:03
ID:???
『親愛なるプラントの皆さん、そして、地球に住む全ての皆さん――
私は今、皆さんに1つの提案をしたいと思います』
オーブへのザフトの攻撃が失敗に終った、その2日後。
その放送は、敵味方全ての陣営、全ての人々に向けて発信された。
偽ラクスの件や作戦失敗の件で、ここのところ責められ続けていたデュランダル。
モニターを背負い、演台に立った彼は、静かに語り始めた。
最高評議会を通すことなく独断で始めたこの放送、おそらく謝罪なのだろうと誰もが思っていた。
しかし彼は、人々の予想もつかない話を始めたのだった。
『みなさん。この戦争の大元を、もう一度思い出してみて下さい。
2年前、プラントと地球連合の争い、という形式をとって戦争が始まりました。
けれども問題の中心には、常にコーディネーターとナチュラルの間の対立があったのです。
コーディネーターとナチュラル、この両者がどのような世界を作るのか。それが争点でした』
デュランダルは大きな身振りを交えて語る。ごく当たり前のことを、まずは整理していく。
指を4本立てて見せて、1つ1つ折って見せる。
『ナチュラルに有利な条件でコーディネーターを封じ込めたかった地球連合。
コーディネーターの能力を存分に発揮させたいと考えたプラント。
この両者の間の争いは、やがてさらなる過激な思想を生みました。
コーディネーターの存在そのものを全否定するブルーコスモス。
ナチュラルの存在そのものを全否定する、パトリック・ザラとその信奉者たち。
このどれにも属さぬ中立の陣営も、無いわけではありませんが、ここでは省略しましょう。
これら4つの立場を踏まえた上で――私は、さらに新たなる道をここに示したい』
デュランダルはここで軽く間を空けた。
極めて簡単に、各陣営の基本的な考え方を示し、それが聞き手に浸透するのを待つ。その上で。
『そもそも我々コーディネーターは、ナチュラルにはない2つの特徴を持っています。
1つは、ナチュラルよりも優れた能力。
もう1つは、己自身の天性の適性を知る者が少なくない、ということです』
デュランダルの言うコーディネーターの特徴。後者については説明が必要だろうか。
第一世代コーディネーターは、意図をもって設計され、生まれてきた「デザインされた子」だ。
ある者は運動能力を主眼に据えて。ある者は高い音楽的才能を。ある者は美しい容姿を。
その「デザイン」の内容を知ることができれば、コーディネーターは己の適性を知ることができる。
もちろん、全てのコーディネーターが実際に知っているわけではない。
親の方針で伏せられていたり、データが失われたり、意図しない特徴が現れたりすることもある。
けれど、「ナチュラルと違って」知ることができる余地があるのもまた事実で。
第二世代以降のコーディネーターについても、両親のそれらの特性が分かれば容易に推測できる。
『しかし同時に、我々コーディネーターは、出生率の問題を抱えています。
第二世代以降の大幅な出生率低下……残念ながら、これに対する有効な策は見つかっていません。
僅かに可能性があるのは婚姻統制のみ、それとて十分な結果を得られていません』
- 123 :隻腕28話(26/27):2006/05/02(火) 22:06:03
ID:???
- デュランダルは、溜息をついてみせる。見ている人々を意識した、計算づくの溜息。
実は――この事実を公式に認めてしまうのは、最高評議会議長としては極めて危険なことだった。
デュランダル自身、「現在研究が進められている」などと言ってお茶を濁し続けてきた問題だ。
しかし、認めてしまう。手詰まりとなった現状を、彼ははっきりと言ってしまう。
『我々は過去の人類より優れた能力を持ちながら、それを次世代に継げずにいるのです。
これは現在のプラントのみならず、未来の人類にとっても大きな不幸と言えるでしょう。
コーディネーターとプラントによって得られた高い技術力が、いずれ失われてしまうのです。
……誰かに、受け継いでいかねばならない。
我らの能力、そして、より高みを目指すこの想い。継いでいかねばならない』
デュランダルは力説する。
彼の背後のモニターに映るのは、ファーストコーディネーター、ジョージ・グレンの映像。
ジョージ・グレンが示した人類の可能性。彼の登場が変えた世界。
『さて、ここで考えて見て下さい。
もし……もしもの話です。
ナチュラルが後天的に、コーディネーター並みの能力を得られたとしたら。
我々コーディネーターと同等の能力を獲得できたとしたら。
プラントの後継者の問題も、一挙に解決します。技術も想いも、彼らに受け継がせることができる。
それだけではない、そもそもコーディネーターとナチュラルが争う必要も無くなるのです。
ナチュラルとコーディネーターの能力格差、それを埋めることが出来れば』
……夢物語だ。両者の格差が大きなものだから、そして埋められないから、対立が生まれたのだ。
ナチュラルの一握りの天才はコーディネーターをも越え得るが……それにしたって、極めて珍しい話。
しかしデュランダルは構わず言葉を続ける。
『そして――その夢の実現の時が、近づいているのです。
天性の適性を知るために、遺伝子の解析技術が。
そして、後天的に高い能力を得るために、『エクステンデッド』技術、人体強化技術が。
それぞれ、現実的な可能性が見えてきたのです!
既に、プラントに協力的な地域の住民から志願者を募り、実験を開始。
様々なデータは、彼らがコーディネーター並みの能力の獲得に成功したことを示しています。
中にはザフトに参加し、コーディネーター用のMSで絶大な戦果を上げている者も居るのです!』
デュランダルの背後に映るのは、赤いガイアの勇姿。
もちろん、オーブの戦いでSフリーダムに一方的にやられるシーンは採用されていない。
ミネルバとの合流前、模擬戦闘の映像が主体だろうか。それでもその動きは乗り手の能力を感じさせる。
その映像をバックに、デュランダルは高らかに宣言する。
『ナチュラルの皆さんの天性の才能を、遺伝子解析で割り出して。
その能力を、人体強化技術で高みに引き上げる。
コーディネーターとの格差を、後天的に解消する――
そして、終わりのないこの対立に、本当の意味で決着をつける。
これが私の提案する『デスティニープラン』。人類の最終解答なのです!』
- 124 :隻腕28話(27/27):2006/05/02(火) 22:07:06
ID:???
――唐突に提示された、デュランダル議長の『デスティニープラン』。
同時に、断片的ながらも公開された、一部の実験データ。
それは、世界に激震をもたらした。
ナチュラルとして生まれた者がコーディネーターに「成れる」という、その可能性。
ここまでの戦争の枠組み全てをひっくり返す、新たな発想。
オーブの人々も。連合の人々も。ザフトの人々も。全ての人々が、大きな驚きに包まれる。
エクステンデッドの存在を知っていた人々も、その発想の飛躍に衝撃を受け。
アスランやタリアなど既に知っていた者たちも、このタイミングでの発表には驚きを隠せない。
そんな中――オーブ連合首長国、主の戻ってきたアスハ家の屋敷。
カガリと共に、屋敷の一室で放送を見ていたマユは、呟いた。
「おかしい、よ。
だって――だって、もしそんなコトができるなら――」
『あー、いいねー、そういう『普通の生活』……」
『僕にもできるのかな、そういう普通の生活……こんな僕にも、さ……』
「あの時、アウルが泣く理由がない――」
マユの脳裏に蘇るのは、スエズでアウルと交わしたあの会話。
まるで『普通の生活』ができないような事を言っていたアウル。
あの涙の意味は、何だったのだろう? あれは、どういう意味だったのだろう?
マユは思う。議長のプランには、ひょっとして何か、致命的な落とし穴が――!?
第二十九話 『 人の夢、人の業 』 につづく