- 612 :しのはら :2005/08/20(土) 19:41:43 ID:???
- 第十四話
- インパルスはボナパルトを脱出するなり、ウィンダム部隊の追跡を受けた。
管制システムの集中した頭部を失っていたインパルスの戦闘能力は大きく低下している。マユは戦闘より、味方部隊との合流を最優先とした。
「こちらインパルス!ミネルバ、ミネルバ聞こえますか!?」
返答が返ってこないうちにウィンダムの攻撃が始まる。数にして九機。今のインパルスの状況では敗色濃厚である。
マユは浴びせられるミサイルをバルカンで撃ち落とし、ナイフを投擲してウィンダムを落とす。その間にも彼女は交信を続けた。
「ミネルバ、ミネルバ!こちらインパルス、お願いだから応答して!」
メイリンの驚く声が返ってくる。
「マユちゃん?マユちゃんなの!?」
「そうだよ!」
メイリンはミネルバがインパルスの座標距離から遠すぎることを伝え、最も近い友軍部隊に連絡すると言った。
-
- 615 :しのはら :2005/08/20(土) 19:54:39 ID:???
- 三機目を撃破して、インパルスのバルカンが尽きた。ナイフも既にない。ビームサーベルに回すエネルギーは残っていなかった。
ウィンダムの一撃が左腕を貫く。その隙に一機がタックル、零距離でミサイルをぶち込む。
「ダメ・・・ッ!」
インパルスはPS装甲をダウンさせ、地上に落下していく。だが地上に落ちる直前、オレンジのザクファントムがインパルスを受け止めた。
「おい、生きてるか?」
「あ、あなたは?」「お姫様を助けにきたナイトだ」
オレンジショルダーのザク部隊がウィンダムに襲いかかり、難なく撃破していく。救援が来たのだ。
「俺はハイネ・ヴェステンフルス。よろしくお嬢さん」
「ありがとう・・・」
「まだ礼を言うには早いぜ。ミネルバが危ない」
- 616 :しのはら :2005/08/20(土) 20:05:39 ID:???
- フェイスであるタリアはインパルス救出のため移動した。マユを自分の子供ように感じるタリアは危険を覚悟で艦を動かし、クルーもそれに賛同した。
だがミネルバはミラージュコロイドを搭載したダガーN部隊に発見され、地球軍の攻撃に晒されてしまう。
カガリのムラサメ隊はウィンダムを。ルナマリアとアレックスは地上のダガーを迎撃する。
「どこから沸いてくるんだ!」
「知るかカガリ!ルナマリア、マガジンをくれ!」
地球軍はミネルバ討伐のため大量のモビルスーツを投入した。ザフトの旗頭であるミネルバは地球軍最大の敵なのだ。
アーサーはタンホイザーの使用を提案するが、ムラサメ隊が敵と入り混じり戦闘していることから却下する。
「艦長、マズいですよ!」
「アスハ家の跡継ぎ殺すわけにはいかないでしょう!」
- 617 :しのはら :2005/08/20(土) 20:17:25 ID:???
- その時、「遅れました!」の一声と共に頭部と右腕をザクで代用したインパルスが現れた。ハイネ隊のザクが後に続き、地球軍に襲いかかる。やがて他のザフト増援部隊も到着し、地球軍は撃退された。
戦闘が終わり、ザクインパルスがミネルバに着艦する。ルナマリアは真っ先に走り寄り、マユに抱きつく。泣きながら謝るルナマリアをなだめたマユにアレックスとカガリは声をかける。
「よく帰ってきた。心配したんだぞ!」「怪我がなくて何よりだ・・・」
マユは微笑んだ後、倒れてしまう。肉体的にも精神的にも、彼女は限界だった。
マユを医務室に運んだ後、アレックスはオレンジザクのパイロットに呼び止められた。
「少し話がしたい、アレックス・ディノ」
ハイネは鋭い視線を投げかける。
「いや・・・アスラン・ザラ?」
- 644 :しのはら :2005/08/23(火) 23:25:15 ID:???
- 第十五話
- 艦体の修理も兼ねてミネルバは前線基地へ向かった。
基地に到着するなり、視察に訪れていたオロフスキーがミネルバを訪れる。彼はタリアとマユの二人と話がしたいと自ら艦にやってきたのだ。
「スパイ容疑!?」
オロフスキーから渡された、軍本部からの書類にタリアは目を疑う。マユはインパルスを手みやげに亡命しようとした、ザフトから脱走を図ったなどと書類には上層部の勝手な推測が書かれ、処理はオロフスキーに任せるという。
困惑するマユとタリアだったが、オロフスキーは笑った。
「マユ・アスカは戦闘中、不慮の事故により墜落。敵地領内に潜伏の後、単機で脱出した」
「司令・・・」
「今の忙しい時期に問題は少しでも減らしたいからな」
彼はマユの肩を叩く。
「頑張ってな」
- 645 :しのはら :2005/08/23(火) 23:37:27 ID:???
- カガリ達を見送った後、アレックスはハイネと共にデッキにいた。
活躍は聞いてる、復隊したのは嬉しいと語るハイネだったが、アレックスと偽るアスランを批判した。
「なんでアレックスなんて名前にしてんだよ。お前はアスラン・ザラだろ?アスランはどう頑張ってもアレックスにはなれないんだ」
ミーアのことを思い出し、アレックスは苦悩する。
「親子さんのやったことは俺も知ってるし、憎んでる奴だっている。だけどお前は少しでも世界をよくしようと頑張ってるんだ。胸張っていけよ」
ハイネは続けた。
「・・・人の立場は時代で変わる。昨日の英雄は今日の罪人。だから割り切って考えろよ。少なくとも今のお前は罪人なんかじゃないはずだ」
- 646 :しのはら :2005/08/23(火) 23:46:29 ID:???
- 格納庫にいたルナマリアはマユにかける言葉が見つからないでいた。一度ならず二度もマユに救われ、マユを危険に晒した。
「何が赤よ・・・これじゃ赤点の赤じゃない」
ルナマリアはマユを見つけると、彼女を抱きしめた。
「・・・ルナお姉ちゃん?」
「次は私が絶対に守るから・・・絶対に」
艦内に警報が鳴る。地球軍のベルリン攻略作戦が始まったのだ。
ボナパルトのブリッジでネオが呟く。
「神様、あんた一体何がしたいんだ」
- 726 :しのはら :2005/08/26(金) 22:05:42 ID:???
- 第十六話
- ザフト軍は前線を後退させ、地球軍を後方へと引っ張っていく。やがて地球軍の先鋒がベルリン市街へ侵入し、激しい市街戦が始まった。
一方のミネルバもベルリン市街地への移動を命じられてはいたが、ボナパルトのMS部隊の攻撃で足止めを余儀なくされる。
ネオはアビスを待機させ、自らはウィンダムで出撃。カオスとガイアがそれに続く。
インパルスとウィンダムは凄まじいスピードで交錯し、砲火を交えた。性能で劣るウィンダムだが、ネオの技量と様々な特殊兵器でインパルスを追い詰める。ネオは幾度もチャンスを掴むが、あと一歩で踏み込めなかった。
「機体を達磨にできる奴がいたなら、そいつはキチガイだ!」
- 727 :しのはら :2005/08/26(金) 22:23:15 ID:???
- オレンジショルダー隊が二倍以上のダガーとウィンダムを食い止め、ハイネザクとガイアが一進一退の攻防を繰り広げる。
「オマエ!オレンジ色ぉぉぉ!」
「暴れる犬は調教しなきゃな!」
加勢したいアレックスだったが、カオスの一撃離脱戦法に苦戦する。ルナマリアのブレイズザクもカオスに追いつけない。
アレックスは思考を巡らせ、実行に移す。グゥルから飛び上がって手榴弾を蹴り、急接近するカオスに見舞う。
「映画じゃねーんだよ!」
カオスの砲門が開かれる直前、スタングレネードが炸裂した。スティングはすぐにビームを放つが、爆発したのはスラッシュウィザードだけ。
「なんだと!?」
ザクが太陽を背中に急降下、カオスの右腕を切り落とす。間髪入れずルナマリアがライフルを撃ち、ミサイルポッドを誘爆させた。
- 728 :しのはら :2005/08/26(金) 22:36:17 ID:???
- ウィンダムと戦いながらマユは苦悩した。あのネオとかいう士官が兄シンである確証などどこにもない。だが「君の知っているお兄さんは死んだ」という言葉が脳裏を離れない。
マユはクナイ爆弾を機体分離で避け、ミサイルをバルカンで落とす。
マユもまた幾度となくチャンスを掴むが、引き金を引くことができなかった。
ハイネザクとガイアの戦いは熾烈を極めた。
MA形態に変形したガイアの斬撃をスレスレで避け、二丁ライフルで反撃する。ライフルの残弾が尽きるとミサイルを撃ちまくってガイアを更に追い込んだ。
損傷激しいカオスは二機のザクに追い込まれ、ガイアも苦戦している。ウィンダム隊の損耗も激しい。アビスが投入されても、勝利は遠い。
- 729 :しのはら :2005/08/26(金) 22:44:45 ID:???
- ネオは撤退を決意した。ミネルバが落ちなくても、作戦全体は地球軍有利に進んでいる。少なくとも上の考えはそうだ。
「それに、ここで死ぬ理由もないか」
発光信号が打ち上げられ、MS群がボナパルトに帰っていく。ザフトは彼らを追撃しなかった。
残されたウィンダムの残骸から上る煙が空を黒く染めていた。
その頃ベルリン市街の戦いは激化の一途を辿り、地球軍は市街に侵入しビルの一つ一つを巡る戦いを展開していた・・・。
- 773 :しのはら :2005/08/29(月) 22:32:43 ID:???
- 第十七話
- 市街地での戦いが激化する中、ミネルバに地球軍の後方を寸断する任務が下る。攻撃目標は地中海の物資陸揚げ基地。
出撃前にハイネがマユの元にやってきた。コクピットに上る。
「お嬢ちゃん、敵に手加減しちゃいけないぜ?」
「手加減なんかしてません!」
「いいやマユ。この間の時ウィンダムが撃てなかっただろ?」
押し黙るマユにハイネは言う。
「向こうで何があったかなんて俺は知らない。でも割り切れよ?じゃないと死ぬぜ」
ミネルバを始め、地中海の潜水艦から次々にMS隊が飛び立っていく。
ザフト軍部隊は地球軍と激突、激しい空中戦が展開され、海中でも数で勝るグーンをフォビドゥンブルーが食い止める。マユのフォースインパルスはオレンジショルダー隊と共に艦隊を叩く。
- 774 :しのはら :2005/08/29(月) 22:46:44 ID:???
- MS隊が基地の突破口を開こうとする時、ミネルバから緊急連絡が入った。
アウル・ニーダの搭乗するアビスが単機でミネルバを強襲したのだ。護衛のジン・ワスプやゾノでは全く相手にならず、潜水艦は次々に撃沈されていく。
マユのインパルスに二機のグフが取り付いた。
「三機分のスラスターならすぐだ!」
「そんな!?あなたたちは!」
「帰る場所がなくなったら終わりだ!俺たちをブースター代わりにしろ。うまくいったらおごってやる!」
「ありがと。でもアルコールはなしで!」
三機のバーニアが吠え、凄まじい加速を生み出す。ミネルバを前にして二機のグフは振り払われた。マユは二人の無事を祈り、覚醒した。
ブリッジを狙うアビスにタックルを食らわせ、ライフルで手首を潰す。
「ミネルバ、ソードシルエットを!」
マユはシルエットを切り離してアビスに激突させ、ビームで撃ち抜く。
ソードシルエットとなり、ブーメランで右足と肩の一部を切り裂く。
「こんのぉ!うぜーんだよ!」
アビス最後の反撃がインパルスを襲い、太いビームが間一髪で逸れる。
- 775 :しのはら :2005/08/29(月) 22:54:09 ID:???
- アビスは急速潜行で離脱した。
マユのインパルスはまたもや落下したが、ルナマリアがそれをキャッチする。
「ありがとうルナ」「また落としたら赤服返上よ」
アッシュ隊が切り開いた突破口から、基地内部にMS隊がなだれこむ。
アレックスザクとハイネザクが先陣を切って突入し、ダガーを切り伏せていく。
「量産機でもやるじゃないかアレックス!」
「ホントは量産機が好きなんだよ・・・」
突入して数時間、基地は陥落、大量の物資がザフト軍の手に落ちた。
一方のベルリン市街地では地球軍が都市の八割を制圧下に置き、ザフト軍は劣勢に立たされていた。
- 786 :しのはら :2005/08/30(火) 17:01:16 ID:???
- 地中海基地の陥落はすぐさま地球軍司令部へと伝わった。
地球軍司令官ラウトマン中将は一時撤退をジブリールに進言した。部隊の損耗は激しく、また補給物資の不足は確実であった。
だがジブリールはこの申し出を却下し、徹底抗戦を命じた。
「撤退とは敗北でしかない。全滅するまで君たちは戦わねばならないのだよ!勝利か死かだ」
一方のザフト軍司令部では、ベルリン市街の地球軍に対する反撃作戦が兵士たちに説明されていた。
「地球軍はこっちのMS150機を潰したが、代わりに400機を失った。加えて物資もつき始めている。待ちに待った反撃の時だ!」
ハイネが作戦概要を伝える。まずミネルバを中核とした部隊が地球軍の後方を左翼から突き、軌道から降下したジュール隊他が右翼から攻撃、地球軍を包囲してしまう作戦だ。
- 787 :しのはら :2005/08/30(火) 17:26:41 ID:???
- 作戦前夜、マユはハイネがハーモニカを吹いている姿を目撃した。
演奏が終わるとマユはぱちぱちと手をたたく。
「いい演奏でした!ハイネ隊長」
「やめろって、照れるじゃんかよ」
ハイネは照れた後、少しだけ悲しげな顔をした。マユが聞いてみると、ハーモニカを吹くのは仲間が死んだ時だという。ハイネ隊は先の戦闘で一人のパイロットを失った。いい奴だったのに、とハイネはうつむく。
「わかってる、わかってることだが、嫌なもんだぜ」
いつもと違うハイネに、マユは戸惑った。マユは言う。
「隊長が気にしちゃいけないと思う。隊長が悲しんだってその人は帰ってこない・・・。でも隊長は今生きてるんだよ?今は自分のことだけ考えて、戦いが終わったらその人たちのことを考えればいいと思う」
言い終えた後、マユは気恥ずかしくなった。慌てて「わかったようなこと言ってごめんなさい」と付け加える。
「いや・・・その通りだよな。今日は早く寝な。明日は忙しい一日になる」
立ち去ろうとするハイネをマユが呼び止める。
「隊長!」
「なんだ?」
「ハーモニカ、作戦が終わったら教えてくださいね!」
ハイネは笑って言う。
「もちろんOKだ。あとハイネでいい。隊長ってのは苦手でな!」
- 809 :しのはら :2005/09/01(木) 08:24:45 ID:???
- 第十八話
- 市街地のあらゆる場所から反撃が始まる。ゲリラ化したザフト軍の攻撃で疲労の極みに達していた地球軍はあちこちで敗走を開始した。
ラウトマンは死守命令を無視して全面後退を決意。
ミネルバは撤退する地球軍に追いすがり、次々に叩き落としていく。もはや地球軍に戦闘の意志はなくなり、降伏するものも少なくない。
川を越えて逃げる部隊の支援にファントムペインが駆けつけた。
「さっさと下がれよ!」
「雑魚は帰れってね!」
「はやく・・・逃げて」
ザフト軍に襲いかかる三機のガンダム。攻守は逆転し、損害は拡大していく。
マユは味方を守るため単機Gに立ち向かう。
機体を掠めるビームに怯まず、逆に撃ち返すインパルス。カオスのミサイルを撃ち落としガイアに迫る。
「あの娘が乗っているの・・・?」
- 810 :しのはら :2005/09/01(木) 08:36:15 ID:???
- 一瞬のためらいが隙を生む。水中から飛び出したアビスの攻撃がシールドを撃ち抜き、ガイアのビームが迫る。
「やられる・・・!」
その時、オレンジの機体が間に入り、ビームで撃たれる。ハイネだ。
ビームは致命傷となり、ザクは落下していく。
「ハイネ隊長!」
ハイネの陽気な声が返ってくる。
「ちっちっち、ハ・イ・ネ・・・」
ザクの爆発が空を赤く染めた。自分のためらいが彼を殺したのだ。
「割り切れよ」という言葉が蘇り、マユは覚醒した。
アビスの胸部ビームをシールドで受け止めたまま突進し、零距離で誘爆させる。マユは躊躇なく攻め立てた。二刀流のサーベルでアビスの両手を切り落とし、ガラ空きになったコクピットにナイフを突き刺した。オイルが血しぶきのように飛び散り、アビスは海中に落下していく。
- 811 :しのはら :2005/09/01(木) 08:43:39 ID:???
- ガイアがインパルスを狙った時、三本のヒートロッドが手足に絡みつく。
「捕まえたぜぇ、クソ犬」
神楽、メリル、ヒックスだ。三機のグフは電流を流し、ガイアを痛めつける。
慕われていたハイネの戦死、殺したガイアにザフト軍の怨念は集中した。
凄まじい電流を食らったガイアはオーバーヒートを起こして機動を止め、煙を吹き出す。
「パイロットを引きずり出せ!ぶっ殺してやる」
墜落したガイアの周りにMSが降下、兵士たちがパイロットを引きずり出して暴行を加える。
それを見たマユは衝撃を受ける。袋叩きにされているパイロットは、この間「死」を恐れた少女だったからだ。
「ダメ!やめて!」
マユは走り出した。
- 829 :しのはら :2005/09/02(金) 08:14:33 ID:???
- 第十九話
- 地球軍が撤退した後、降伏した地球軍兵士は人道的な処置を受けた。
だがエクステンデッドのステラは人間扱いされず、容赦のない暴行を加えられた。
マユはインパルスを降りると、ステラに駆け寄った。拳銃を血まみれになったステラに向ける神楽を押しのける。
「やめて!撃っちゃダメ!」
久しぶりにマユと出会った神楽は驚きはしたが、怒りのこもった表情で言い放つ。
「こいつは人殺しの道具だぞ!?お前だって見ただろう、ハイネが殺された所を?」
神楽の言いたいこともわかる。しかしマユはステラが殺されるところを見たくはなかった。
ステラは怯え、震えている。
「どうするんです?神楽隊長」
神楽は兵の問いに「こいつは捕虜だ。連れて行け」と答え、思い切りステラを殴った。
「運が良かったなぁヤク中女!」
- 830 :しのはら :2005/09/02(金) 08:30:47 ID:???
- 戦いが終わり、ミネルバにMS隊が帰還してくる。確かにザフトは勝利したが、その代償も大きかった。ハイネの戦死に加え、アレックスのザクが修理不能の損害を受け、ルナマリアの機体も損傷激しい。
特にオレンジショルダー隊は隊長を失い、悲しみに暮れていた。
マユはかける言葉を見つけられず、コクピットで涙を流した。ハイネを殺したのは自分なのだ。自分のためらいが一人のパイロットの命を散らせた。
アレックスは彼女に優しく声をかけた。
「マユ、今は気にするな。泣いたところでハイネは帰ってこない」
マユは答えず、部屋に引きこもった。「割り切れよ」、自分は割り切れなかった・・・。ハイネとのやり取りが思い出され、マユは声を上げて泣き出した。
- 831 :しのはら :2005/09/02(金) 08:39:21 ID:???
- 一方の医務室では軍医のビショップとタリアがベッドに縛り付けられたステラを前に話し合っていた。
「連合の強化人間を見るのは初めてですが、奴らも人のこと言えないですな」
「・・・同感ね」
検出された大量の薬物反応、異様に発達した身体能力、薬物による脳障害。
コーディネーターを差別するナチュラルが薬物で人間を兵器にする。常軌を逸し矛盾しているとしか考えられない。
「彼女の衰弱は激しい。詳しくはわかりませんが薬物の禁断症状でしょう」
ステラの様子は急速に悪化している。顔は蒼白となり、譫言を繰り返していた。
「マユ・・・守る・・・マユ」
- 865 :しのはら :2005/09/05(月) 16:58:15 ID:???
- 第二十話
- 凄惨を極めたベルリンの戦いはザフト軍が最終的な勝者となった。地球軍は戦線の大幅な後退を余儀なくされたが、ザフトも追撃するには疲弊しすぎていた。
ベルリンを離れたミネルバは一路ジブラルタルへと向かう。港に停泊した傷ついた艦船。ヘリからは途切れなく損傷したMSや負傷者が運び出されていく。
その光景を見たミネルバのクルーたちは改めて安堵するのだった。
意気消沈していた兵士たちは突然始まったラクス・クラインのライブに、少しだけ元気になった。
デュランダル議長も基地に降り立ち、自ら兵士たちを激励した。
ステラの元にいたマユは禁断症状で苦しむ彼女を前に、自分の無力さを感じていた。
縛られた彼女がベッドを揺らして暴れるたび、マユは彼女を押さえることしかできない。
「ごめんねステラ・・・私には何もできない」
マユは涙を押し殺した。
- 866 :しのはら :2005/09/05(月) 17:21:47 ID:???
- 基地に入港するなり、ミネルバは一時待機を命じられた。クルーの顔に少しだけ不満の表情が浮かぶが、モニターに映る死体袋の映像が彼らを黙らせる。
ただマユとアレックスにはデュランダル議長から直接呼び出しを受けた。
二人を乗せた車は基地の外れで止まる。中ではデュランダルとミーアが二人を待っていた。
格納庫に光が灯る。
「二人に私からのささやかな贈り物がある」
現れた二機のガンダム。デスティニーとレジェンド、アレックスは思わず感嘆の声を上げた。
「議長、これは・・・?」
「君たち二人の活躍は聞いている。さらに活躍してもらおう、とね」
アレックスはレジェンド、マユにはデスティニーが与えられるという。アレックスは皮肉を込めて笑い、感謝の意を伝えた。
一方のマユはこれといった反応を見せなかった。
「どうしたね?マユ」
マユははっとして、慌てて礼を述べた。
- 867 :しのはら :2005/09/05(月) 17:32:03 ID:???
- ようやく基地への上陸許可が出、クルーは用意された個室に移動していく。
アレックスはミーアと久々の情事を楽しみ、ルナマリアとメイリンは買い物に出かける。
だがマユは一人部屋で物思いにふけていた。家族を失った後軍に志願し、トップエリートとしてガンダムを与えられ多大な戦果を残した。そしてステラや兄との再会、ハイネの死・・・。
マユは考え事をしばらくして、やがて寝てしまった。
その頃ミネルバの艦内に、ジブリールからの特命を帯びた部隊が侵入していた。彼らはステラを連れ出した後、一人が格納庫のデスティニーを奪いザフトを混乱させ、その隙に脱出に成功。
デスティニーの中でネオは毒づく。
「俺も失敗続きじゃ面目ないからな。手みやげに頂いていく」
- 36 :しのはら :2005/09/07(水) 08:16:26 ID:???
- 第二十一話
- デスティニーの強奪、エクステンデッドの脱走はジブラルタル基地を混乱の極みに陥れた。
部屋から出たマユはとりあえずメイリンの部屋へと向かった。
メイリンは自室のパソコンから情報を集める。定かではないものの、デスティニーが強奪され医務室のステラが連れ出されたという。
メイリンの制止を振り切ってマユは格納庫へと向かい、警備兵を説き伏せてグフに搭乗した。インパルスはマグネット・コーティング及び改修が加えられているため使えない。
「くそっ、いいところだったのに・・・」
議長から直々に連絡を受けたアレックスは情事の半ばで呼び出され、レジェンドのコクピットに収まっていた。
デスティニーの強奪は防がねばならない。
「アレックス・ディノ、レジェンド出る!」
- 37 :しのはら :2005/09/07(水) 08:27:55 ID:???
- グフは基地から逃走するデスティニーに追いつく。
「この泥棒、返しなさい!」
威嚇射撃が海面を撃ち、デスティニーは急機動で回避する。
「マユ、やめろ!」
ネオ、いや兄の声だ。マユは再び衝撃を受ける。
「お兄ちゃん?なんでそんなことするの!」
マユはデスティニーの牽制攻撃を回避しながら、ネオに呼び掛ける。
恐らくステラを連れ出したのは彼らだろう。
「俺はシンじゃない、ネオだ!」
アロンダイトを引き抜き、襲いかかるネオ。グフは間一髪避け、ヒートロッドで反撃、左手のライフルを破壊する。
マユは兄を責めた。
「ステラをどうする気なの?あの子は・・・」
「高い金かけて作った生体CPU、貴重なOSだ」
マユは怒り、剣を抜いて切りかかる。ネオはステラを機械扱いした。人間をなんだと思っている!?
- 38 :しのはら :2005/09/07(水) 08:37:31 ID:???
- グフとデスティニーの性能は明らかにグフの分が悪い。だがネオの躊躇とマユの覚醒が戦いを互角にしていた。
赤く塗られたレジェンドが戦いに介入する。
「マユ、そいつには撃墜命令が出ている。落とす!」
「ま、待って!」
「黙れ!お前が殺されるぞ」
ハイネのことが脳裏をよぎる。ここは戦場なのだ。殺せなければ殺される、それだけがルール。
レジェンドがドラグーンをキャノン代わりにして撃ち、デスティニーを跳ね飛ばした。
「お兄ちゃん・・・」
マユは困惑していた。彼は本当に兄なのか?
レジェンドが左手にサーベルを持ち、デスティニーと鍔迫り合い。
アレックスは躊躇しない。かつて彼は躊躇した故、ニコルを殺された。そしてハイネも。
加勢すればネオを倒せる。背後がガラ空きだが、向こうはマユが自分を撃てないことを利用しているのだ。
- 39 :しのはら :2005/09/07(水) 08:54:14 ID:???
- レジェンドのライフルがアロンダイトを撃ち、爆発させた。マユは意を決してヒートロッドをデスティニーに射出。ビーム砲に絡みつき、誘爆を招く。
「武器はいくらでもあるんだ!」
デスティニーは残像を残して突撃、すれ違いざまに光の翼でグフの両手を切り裂き、レジェンドの火力をかいくぐってグフの頭を右手で潰す。
グフは海面に落ちていく。
「マユ、もしお兄さんが生きていたら・・・君に軍を抜けてほしいと思うだろう」
そう残し、デスティニーは彼方へと消えていく。
マユは呆然としたまま海面へと落ち、レジェンドにスレスレで抱きかかえらえた。
「ごめんなさい、アレックスさん・・・」
「気にするな。世の中にはどうしようもないことがたくさんあるんだ。これもその一つだよ」
- 60 :しのはら :2005/09/08(木) 16:57:37 ID:???
- 第二十二話
- ギルバート・デュランダルを始めとしたプラント最高評議会では今後の動向について議論が交わされていた。
ベルリン攻防戦の後プラント側は地球連合政府にスカンジナビア王国を通した和平協議を申し入れた。
だが連合はそれを却下し、さらなる抗戦の意を表した。
地球連合の裏にロゴス、そしてブルーコスモスの影があることを知るプラント側はブルーコスモス派最大の拠点であるヘブンズベースの制圧作戦を決定した。
ジブラルタル基地にはヘブンズベース攻略のため、世界中から戦力が集結しつつある。オーブ軍空母艦隊、ロンド・ミナの義勇兵部隊が次々に入港していく。
マユは転属を願い出た。彼女はもう、自分の運命に抗う気力が残されていなかったのだ・・・。
元々マユはインパルスの重力下試験を行うために派遣されたのだから、ミネルバにいる必要はなかった。
自室に置き手紙を残し、マユは逃げるようにミネルバを降りた。
「みんな・・・ごめん」
- 61 :しのはら :2005/09/08(木) 17:08:15 ID:???
- ヘブンズベースでは悪魔の兵器が産声を上げていた。
地球連合の大量破壊MSデストロイである。最終調整を終えた機体にステラが乗り込む。
ステラはもう何も覚えていない。アウルの死もマユとの出会いも。体は薬物の過剰摂取でやせ細り、見るからに痛々しい。
ネオはそんな彼女を見て、己の大いなる矛盾を感じずにはいられなかった。
「妹の無事を願う人間が、同じ年頃の少女を殺人マシンにしているなんてな・・・」
複雑な表情を浮かべるネオの前で、デストロイは飛び立っていった。
マユがいなくなったミネルバに突如として緊急警報が鳴り響く。トップレベルの警戒態勢だ。
メイリンが焦った様子で報告する。
「正体不明の巨大MSがジブラルタル基地への侵攻を開始、既にヨーロッパ方面軍にはかなりの被害が出ています!」
ミネルバを始めとしたザフト全軍は巨大MSの迎撃に発進した。敵は巨大MSだけでなく、ベルリン戦の残党もいるらしい。
- 62 :しのはら :2005/09/08(木) 17:29:23 ID:???
- 基地の格納庫でインパルスに向き合っていたマユ。
「本当にありがとう。お疲れ様、インパルス」
マユは自分の愛機に思いを巡らせた。思い出が蘇り、ふと目頭が熱くなる。
その場を立ち去ろとした時、警報が鳴った。パイロットたちがそれぞれに機体に飛び込んでいく。
しかしマユは目を背けた。あれほど充実した時間を過ごしたMSのコクピットが、今では忌々しく感じる。
(もうモビルスーツには、乗らない)
マユに女の声がかけられた。声のした方を見ると、威圧的な長身の美しい女性。オーブ影の軍神、ロンド・ミナ・サハクだった。
- 69 :しのはら :2005/09/09(金) 08:18:09 ID:???
- 第二十三話
- 「お前は出撃せんのか?」
マユはミナの雰囲気に圧倒された。今まで会ったどんな人間にも勝るプレッシャーを感じる。
「・・・はい」
「なぜだ?お前の仲間は戦っているのだろう?」
「私はもう、モビルスーツには乗らないって決めたんです」
マユは緊張を押し殺して言った。息苦しく、手が震えていた。
それを聞いたミナは微笑する。氷のように冷たい笑みだ。
「怖いのだな?」
「違います!」
「嘘を言うな。余は全てわかる」
マユは怖かった。戦場に出て自分と同世代の子供も戦い、兄と命のやりとりをすることが。
「あのっ・・・」
マユは自分でもわからないまま、ミナに全てを話した。家族の死、戦友との別れ、仲間たちのことを。そして兄シン・・・いやネオ。
- 70 :しのはら :2005/09/09(金) 08:32:36 ID:???
- ミナは黙って聞いていた。切れ長の目がわずかに歪む。
「余にも弟がいた。もうこの世界にはいないが」
「えっ・・・」
ミナは語る。弟のギナは馬鹿な男だった。破壊と暴力で多くの命を奪い、自らの過信で死んだ。
「だが弟は心からオーブという国を愛していた。その意志は私に受け継がれている」
「何が言いたいんです?」
「物事は様々な側面から見なければならないのだ」
ミナは語る。弟の行為は一方から見ればただの破壊だったが、違う一面から見れば国を思ってのことだと。
「恐らくはお前の兄も同じだろう。そうでなければ、お前は今ここにいない」
マユは衝撃を受けた。今まで考えたこともない意見だ。
「それに、絶望の中から人を救う方法もあるはずだ」
ミナはマユの肩に手を置き、優しく笑った。
- 71 :しのはら :2005/09/09(金) 08:39:59 ID:???
- マユの中では決意が揺らいでいた。
(絶望の中から人を救う方法もある)
ミナは背中を向けた。
「余は強制しない。自分で答えを出し、行動すれば良い」
「あのっ・・・」
呼び止められたミナは止まり、振り返った。
「ありがとうございました!お、お礼はまた・・・」
「必要ない」
「えっ?」
「もう頂いている。マユ・アスカ」
パイロットスーツを着、再びインパルスのコクピットに収まるマユ。
もう少しだけ、運命に抗うことにした。ミナが話を通し、格納庫の扉が開いていく。
「マユ・アスカ、インパルス行きます!」
- 92 :しのはら :2005/09/10(土) 15:01:52 ID:???
- 第二十四話
- 大量殺戮兵器のある種極限だな、とアレックスは感じていた。
ヘブンズベースから発進したデストロイはザフト軍防衛ラインを次々に突破し、ジブラルタルへと接近していた。
殺到するMS部隊は蹴散らされてしまい、踏み潰されていく。
タンホイザーも弾く陽電子リフレクターに、レセップス級を一撃で沈める武装を誇るデストロイ。
ミネルバは三隻同盟ヤマト隊ドムと合流した後、デストロイの阻止作戦を開始した。
だが歴戦のパイロットが束になってかかっても、傷一つ与えることができない。
「この化け物を潰すにはどうすればいいんだ、キラ!」
「自分で考えろアレックス!」
レジェンドの固定ドラグーン攻撃を浴びても、リフレクターは破れない。
その間にもザフト軍MSは面白いように撃墜され、被害が拡大していった。
- 93 :しのはら :2005/09/10(土) 15:15:45 ID:???
- 空域に到着したマユはリフレクターの内側から奇襲し、発生器を破壊した。すかさずドムのビームバズーカが追い討ちを加える。
「イン・・・パルス?殺す」
ステラはデストロイを人型に戻した。そのおぞましいフォルムにマユは戦慄したが、怯むことなく向かっていく。
火線の合間をわずかに縫って懐に入り、デストロイのインコムハンドを切り落とす。
コクピットにサーベルを突き立てようとした時、デスティニーが間に割り込んだ。
「ステラ、油断するな!マユ、お前・・・」
兄の口から出たステラという言葉。死を怖がっていたあの強化人間の少女がこの悪魔を操縦しているのか?
「わかった、ネオ」
混線している通信からステラの弱々しい声が聞こえ、マユは怒りを露わにした。
「お兄ちゃん、ステラは人間なんだよ!?兵器じゃない!」
「俺を兄と呼ぶな、マユ!」
レジェンドとルナマリアのザクファントムが割って入り、デストロイの胸部ビーム砲を破壊した。
「お兄ちゃん、私の大好きだったお兄ちゃんに戻れ!」
「黙れ!」
インパルスとデスティニーは剣を交え、激しく交錯した。
- 94 :しのはら :2005/09/10(土) 15:36:51 ID:???
- 「うぇーい!」
兄弟の間を太いビームが貫く。
「ネオを殺そうとする奴は私が殺してやる!」
「ステラ、私だよ!マユだよ!」
マユ必死の呼び掛けも、ステラには聞こえていなかった。ステラに残されたのは人殺しの能力、ネオへの偏愛。そして死への恐怖。
「ステラ、私がわからないの?ステラ!」
「無駄だ、そいつにはわかりゃしねぇ!ただの殺人マシーンだ!」
カオスから通信が入った。マユは彼を知っている、ボナパルトで出会ったスティングという青年だ。
「何もかも忘れてるんだ!」
「嘘!」
「嘘じゃないんだよお嬢ちゃん、これが現実・・・」
次の瞬間、赤いドムが放ったビームがカオスのコクピットを貫いた。キラ・ヤマトだ。
「敵となれ合ったら死ぬぞ!」
非情なキラの言葉に、マユは自分が戦場にいることを実感させられた。
損傷激しいデストロイと、地球軍は撤退した。死のみを残して・・・。
- 149 :しのはら :2005/09/11(日) 20:05:33 ID:???
- デストロイの攻撃でザフト軍は大きな損害を受けたが、その士気は健在だった。ザフト軍は弔い合戦の合い言葉で大いに盛り上がり、ヘブンズベース攻略作戦を開始した。
一方のヘブンズベース内部ではデストロイの修理が急ピッチで進められ、ステラの再調整が行われていた。
ステラの体力や精神の問題から、「使用できるのは残り一回」という答えが出、これまでにない薬物投与が繰り返される。
「マユ・・・ネオ・・・わからない・・・」
ヘブンズベースに迫るザフト軍艦隊。だが数はさほど多くなく、オーブ艦隊の方が大規模だ。
作戦はパナマ戦と同じく、MS部隊が目標地点を制圧、グングニール2で基地を制圧するというものだ。
- 150 :しのはら :2005/09/11(日) 20:20:04 ID:???
- ミネルバから次々にMSが飛び立っていく。
インパルスとレジェンド、ドムは攻撃の中心として。ルナマリアは艦上で待機し、対空戦を行う。
マユはステラを絶望の中から救う方法を反芻した。
「ステラを・・・殺すしかない」
ゾノ、グーン部隊が地雷原で動きを止め、ランチャーやキャノン砲搭載ダガーの十字砲火を浴びせ、ユークリッドが艦船を血祭りにあげていく。
「動けない敵を撃って、それで勝ったつもりか!?」
レジェンドが立て続けにダガーを葬り、ユークリッドに風穴を開ける。
「墜ちなさい!」
アレックスザクのパーツを流用してザクファントムとなったルナマリアの機体。オルトロスが三機のウィンダムを貫く。
「ヤマト大尉、あの四つ足をやりましょう。ナチュラルのセンスは素晴らしいね!」
「平和のために人を殺すか」
「二人とも問題発言はやめてくれ。ジェットストリーミングアタックだ!」
先頭がスプレッドビームで目をくらませ、二機目がバズーカでゲルス・ゲーのリフレクターを破壊、キラのドムがサーベルでトドメを刺す。
「ビンゴォ!」
「他愛無かったな」
「次行くぞ!みんな」
「コクピットは外さないようにお願いしますよ、ヤマト大尉」
- 151 :しのはら :2005/09/11(日) 20:30:50 ID:???
- 第二十五話
- 基地司令は水際での撃退が失敗したことを察し、デストロイの発進準備をさせる。
「司令、デストロイの修理はまだ四割しか終了していません!」
「ロアノーク大佐、こちらのMSは既に六割を失っている」
基地内部からデストロイが現れ、ザフト軍を焼き払っていく。
「お前ら・・・お前らがぁ!」
ステラに施された調整は常軌を逸脱し、彼女は自分で考える力すら残されていなかった。
「やめてーっ!」
マユがステラの前に出、必死の通信を試みる。
「ステラ、私だよ!マユだよ!」
「マユ・・・死ね!」
口のビームが放たれ、インパルスの右腕をもぎ取った。
「マユ!」
キラとアレックスが加勢、破損している胸部ビーム砲に連携攻撃を叩き込む。
「ステラ・・・」
剥き出しになったコクピット。そこには機械の一部と化したステラの姿があった。
マユはインパルスをデストロイに肉薄させ、コクピットを開いた。
「ステラ、私だよ?あなたを守るって言った・・・」
- 198 :しのはら :2005/09/13(火) 08:17:10 ID:???
- 第二十六話
- 「やめろ、マユ!」
「死にたいのか!?」
キラやアレックスの制止を無視して、マユはコクピットを開いた。
立ち上がり、自らの姿をステラに見せた。
「ステラ、私だよ」
「・・・マユ」
ボロボロになったデストロイの動きが止まる。
死闘が繰り広げられる中、二人だけの静寂。
「来てくれた・・・マユ」
ステラの顔に儚い笑みが浮かぶ。彼女も立ち上がり、自らの姿を見せた。
「ステラ、もう大丈夫だよ。一緒に行こう?」
明るい未来は望めないだろう。だが殺人マシンとして消耗されることに比べれば、幾分はマシな気がした。
「・・・だめ。ステラ、行けない」
- 199 :しのはら :2005/09/13(火) 08:33:56 ID:???
- ステラは涙を流す。もううっすらとしか考えられない。
「ステラ・・・もう人間じゃない」
これが現実。もはや自分は兵器、暖かい世界に戻ることなどできない。
ステラは優しく笑い、マユに語りかける。
「・・・殺して」
デストロイは全ての防備を解除した。
「ステラ、何をしているんだ!」
キラのドムと戦っていたデスティニー、ネオがこちらに向かってくる。
「ステラ、やめろ!」
光の翼を展開し、インパルスに突撃する。
「お兄ちゃん!?」
「ネオ、やめて!」
悲劇が始まった。対艦刀が降り降ろされ、インパルスを切り裂く。
シールドを破壊され、無防備の機体をデスティニーが突貫。
「やられる・・・!」
その時、デストロイがインパルスを庇った。対艦刀が頭部に突き刺さる。
「ステラ!」
マユとネオの悲鳴が共鳴した。
- 200 :しのはら :2005/09/13(火) 08:44:55 ID:???
- 泣かないで。
そう聞こえた瞬間、デストロイが大爆発を起こした。
「離れろ!」
レジェンドがインパルスを引っ張る。核融合炉はメルトダウン寸前、へブンズベースからザフト軍MSが退避していった。
「ステラァァァァ!」
泣き叫ぶマユの前で、核爆発の光が広がっていく。ヘブンズベースで抵抗していた地球軍が光に包まれ、基地と共に消滅した。
マユはただ泣き続けた。ステラを絶望の中から救うには、殺すしかなかった。わかっていたことなのに・・・!
レジェンドとドムに支えられ、インパルスはミネルバに収容される。
キラはフレイを、アレックスはニコルを思い出していた。
「人はいつだって、同じことばかり・・・」
「そうだな、キラ」