166 :しのはら ◆LFzv0/sNaQ :2005/12/05(月) 16:05:41 ID:???
乙でした

皆さん、お久しぶりです。
以前自分が書いたマユ戦記をリライトして投下したいのですが、宜しいでしょうか…?

175 :しのはら ◆LFzv0/sNaQ :2005/12/05(月) 19:06:35 ID:???
運命の歯車は誰もが持ってはいるが、実際にどう回るかわかる人間はいない。

機動戦士ガンダムSEED DESTINY ーある少女の戦記ー

第0話

二つの人類…コーディネーターとナチュラル…の間に入った亀裂は埋まることなく、日を追うごとに深まっていった。
コーディネーターはナチュラルを劣等人種と見なし、ナチュラルはコーディネーターを人間扱いすらしないようになる。
多くの人間が持つ歯車が狂い始めた。
ごく普通の少女マユ・アスカでさえ、その例外でいることはできなかった・・・。

オーブ近海。
オノゴロ島にあるマスドライバー施設「カグヤ」には、難民と化したコーディネーターたちが押し寄せていた。
彼らは皆、宇宙に浮かぶコーディネーターのみが居住するコロニー国家群、プラントを目指していた。
だが、約束の地へと行ける人間は数少ない。
押し寄せる人数全員分を乗せられるシャトルはここにはないのだから。

「乗せてくれ!」
「子供だけでも!」

オーブの兵士たちは空に発砲して難民を抑えようとするが、彼らに構わずシャトルに人が乗り込んでいく。
そしてシャトルが一機、また一機とマスドライバーから射出されるたびに、彼らの顔に絶望にも似た表情が浮かんでは消えていく。

176 :しのはら ◆LFzv0/sNaQ :2005/12/05(月) 19:07:40 ID:???
マユ・アスカにとって頼れるのは父親でも母親でもなく、実の兄シン・アスカだけ。
マユには両親がいない、ナチュラルに殺されたのだ。
コーディネーターで家族がいない人間というのは決して珍しくない。

「お兄ちゃん、私たち大丈夫かな?」
「大丈夫だよマユ。全然心配いらないから」

シンはそう言って頭を撫でてやる。
口ではこう言うが、実際のところ彼自身大丈夫かどうか全くわからないでいる。
「(俺たち、どこへ言っちゃうんだろう…)」

家族を失い、追い出されるように飛び出た日本。
オーブに受け入れられたはいいが、今度はプラントへの出国を命じられた。
オーブは地球で唯一コーディネーターの居住を許す国家で、事実コーディネーターが政治や工業の分野で活躍し、ナチュラルと仲良く暮らしている。
が、オーブは地球の国家である。
ナチュラルに支配された地球連合、それを牛耳るブルーコスモスが何らかの圧力をかけているのは素人のシンから見ても明らかなこと。

少しして、シンは考えるのをやめた。
今は自分、そしてマユをどうにかしてプラントに向かわせるかということだ。

177 :しのはら ◆LFzv0/sNaQ :2005/12/05(月) 19:12:49 ID:???
シンの腕を掴むマユの手の力が強まる。
「お兄ちゃん」
「なんだマユ。お腹でも空いたか?」
「もし離れ離れになっても、マユのこと忘れないよね…」
「何言ってるんだよマユ。マユはお兄ちゃんと一緒にプラントへ行くんだ」

シンはまた頭を撫でてくれた。
嬉しい気持ちだが、今はなんだか不安な感じがする。
大好きな兄と、もう会えなくなってしまうのではないか?マユの胸中でそんな想いが芽生えた。

「次が最後のシャトルだ!」

それを聞いた、行き場のないコーディネーターが悲鳴に近い声を上げる。
無理もない、噂ではあるが、シャトルに乗り損ねた難民は地球軍に引き渡されるらしい。

「行こう、マユ!」

シンは人混みを掻き分けて、マユの手を引きながら進んだ。この際体裁など関係ないこと。
あと一歩のところでマユもろとも地球軍に拘束されたら、どんな目に遭うかわかったものではない!

「マユ、頑張れ!」

二人は必死で走る。天国行きの扉はあと少しで閉じるのだ。
「ダメだ!もうシャトルは満員だ!」

あと数メートルのところで、銃を持ったオーブ兵が前に立つ。
シンは兵士の後ろを見た。
シャトルへと通じる通路、その奥に希望がある!

マユの手を引っ張って通路へやり、自らは兵士に組み付く。
「早く行け!マユ」
「で、でも…」

「忘れない、俺、マユのこと忘れないから!」

マユは走り出す。振り返らずに。

ここから彼女、そしてシンの運命の歯車は回り始めた。
それが何を産み、何をもたらすのか、今の二人にはわからないこと。



第0話 終