- 278 :264:2006/07/25(火) 18:04:50 ID:???
- (覚悟、完了)
「うっは……グチャグチャだ」
「あんまり見るな。今日の晩飯、ビーフシチューだぜ?」
「キツいね」
あちこちから黒煙が上がり、焼けた木々が転がるオノゴロ島山中。
白いコートを羽織った2人の男が、何かを探し求めるように歩き回っていた。
1人はセンサーのような物を持ち、もう1人は医療用のバックパックを背負っている。
2人とも肩からサブマシンガンを提げてはいるが、引き金に指を当てる必要は無さそうだった。
爆撃で出来た大穴の中を覗き込んでいた1人が、表情をゆがめて顔を背ける。
「損傷の少ないコーディネイターの体組織と、出来れば生きてるサンプルか。どう思うよ?」
「後者はボーナスが出るんだっけ? 望み薄だが…」
「そうじゃなくてさ、ブルーコスモス的にアリなのかなって」
「『次期盟主』のリクエストだからな。絶滅戦争よりも金儲けに興味をお持ちらしいぜ」
「平和主義者か。良い上司だ」
「相対的にな。……と! 生存者がいる! 炭酸ガスと微弱な体温を検知!」
「コーディか?」
「解らん、ナチュラルなら殺す必要があるが……そこの瓦礫だ。探すぞ」
ブザー音を鳴らすセンサーを切って、2人は傍の瓦礫に歩み寄る。1人のブーツに、柔らかい
物体が当たった。
「右腕……女の子かな。組織を採取しろ。掃除は俺がやる」
「ああ」
1人が医療用バックパックから試薬を取り出す中、もう1人が瓦礫を取り除く。やがて、
右腕の無い少女の身体が現れた。薄い膜が張っているような虚ろな瞳を男に向ける。
「状態が良い! どうだ、コーディだろ!?」
「まあ待て。あと少しだ」
「……、い」
「ん?今喋ったな。何か、言ったか?」
カサついた唇が何かを言いかける。男が聞き返そうとした時、もう1人の声が上がった。
「ビンゴ! こいつ、コーディネイターだぞ!」
「よし、ヘリを呼べ! ……腕はどうなる?」
「……め、なさ……」
「応急処置で何とかなる。ヘリの設備なら、ロドニアのラボまで保つさ」
「そうか! ボーナス頂きだな!」
「ああ、今日はたっぷり飲もう」
男達の声と、近づいてくるヘリのローター音が、少女の掠れ声を掻き消していく。
「ごめん……なさい……」
――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
- 279 :264:2006/07/25(火) 18:07:26 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE01:マリア
「あー! マユの携帯!」
転がっていく、ピンク色の携帯端末。買ってもらったばかりのお気に入りで、友達の写真も
沢山入っていた。大切な物だった。
「そんなの良いから!」
そう、命に比べればどうでも良い。けれどもあの時、叫んでしまったのだ。
「いやっ!」
その声を聞いて、兄が携帯の方へと走っていく。悪い事をしたという気は起きなかった。
だって、携帯は何をするにも大切だったのだから。
そして、閃光、爆発。右腕の激痛と共に小さい身体が宙を舞って、地面に叩きつけられた。
瓦礫が降り注ぎ、身動きが取れなくなる。
「あぁっ!! お兄ちゃん! パパ、ママぁ!!」
叫ぶ。否、叫んだつもりだったが、聞こえない。爆音で耳をやられたのだ。
そして、瓦礫の隙間から見てしまった。
半分になった、母親の身体。何かがべっとりとついた父親の服。兄の姿だけは見えなかったが、
どうなったかくらい、その時の自分にだって想像がつく。
自分の所為だ。
自分さえわがままを言わなければ、あの場から、少しでも離れていれば。
家族は誰も死ななかった。港の船に避難できた。携帯だって買い直して、
友達にアドレスを聞き直せば済んだ話なのだ。
「ごめん、なさい……」
その凄惨な光景を見たくないと、目を閉じようとしても、顔を動かそうとしても叶わなかった。
まるで、見ろ、と誰かに押さえつけ、目を開かされているかのように。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめん、なさ……い……」
右腕の傷からとめど無く流れる血が、ようやく彼女の視覚を奪ってくれた。
次に目を覚ましたのは、全てが真っ白な、病室のような場所だった。白衣を着た女性が、
状況を簡単に説明してくれた。
君は辛うじて命を救われ、腕も取り戻した。しかし自由はない。この研究施設で、君は
人間としての権利を奪われ、生きた兵器として造り変えられていく事になる。
実際、今ひとつ理解できなかった。
ただ解ったのは、死ねなかったという事と、死ぬより辛い目に遭うという事だけだった。
- 280 :264:2006/07/25(火) 18:13:24 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
そしてそれは、思考の冷え切ったマユにとって、至極当然の成り行きだった。
自分の下らないわがままの所為で、家族は皆死んだのだ。ただ死んで楽になってしまっては
釣り合いが取れない。
ならば。
この世界に在る全ての苦しみを、痛みを、哀しみを吸って生きよう。
兵器になれと言われれば兵器になり、人を殺せと言われれば殺そう。憎まれよう、恨まれよう。
あらん限りの苦痛を背負い、汚らしくもがき続けよう。何時の日か、避け得ない運命が訪れるまで。
説明を終えた女性研究員に対し、マユは頷いた。
こうして、少女マユ=アスカは殺された。他ならぬ、彼女自身の手によって。
「どうかね、あのサンプルは」
紫のルージュを薄く引いた男が、長い廊下を歩きつつ傍らの研究員に問い掛ける。
「良好です。アズラエル理事が亡くなられた後は尚の事。設備もより使いやすくなり…」
「それは良かった。報告によれば、何度か危険な状態に陥ったそうだが」
「ええ。ナチュラルならば4、5回は死んでいるでしょう。コーディネイターの頑健さは
素晴らしい。いや、コーディネイターだからというだけでは説明がつかない程です。彼女は」
そして2人は、1人の女性が納められたカプセルの前に立つ。溶液で満たされた内部で、
胸の前で指を組み、眠り続ける彼女。
「驚いたな……別人のようだ」
「強化手術の副作用です。まず、最低限の戦闘が行えるように成長を速めました。
その上、額と首筋に制御チップを埋め込み、合成レトロウイルスによる後天的な…」
「先進かつ違法な全ての医療技術を彼女で試したわけか。まあ、指示したのは私だが」
「彼女自身の希望でもあります。どんな実験にも使ってくれ、と」
そして、彼女は全てを乗り越えた。異常成長による全身の圧迫感と激痛にも、制御チップ
の最適化時に起こる昏睡状態にも、ウイルス感染における免疫低下にも。
全てを終えて最終段階に入った時、そこにマユの面影はなかった。
170半ばの長身白皙。銀に近いライトグレーの、腰の下まで伸びた髪。アスリートのような
無駄のないしなやかな体躯。
そして、
「サンプルM、覚醒します」
オペレーターの声と共に、晴れ渡った空を思わせる双眸が見開かれた。
- 281 :264:2006/07/25(火) 18:21:12 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
艶やかな銀髪が揺れ、裸体を覆い隠す。強化ガラスの壁面に、ほっそりとした手を突く。
虚ろな瞳に、オペレーターと2人の男が映し出された。
「いかがですか? ジブリール卿」
「……いや、いかがと言われてもね。彼女、特に問題は起こさなかったか?」
顎に手をやったジブリールの問いに、研究員はしばし逡巡した。
「眠っているサンプルへの暴行を企てた3人の職員を殺害した以外、何も」
「……拘束具を着けていなかったと?」
「いえ、ベッドに固定してありました。設定限界を超える力が加わったのです」
淡々と報告した後、どこか抑えきれぬ口調で研究員は一言付け足した。
「素手で引き千切られた人体を、私は初めて見ました」
「ふふっ。無礼は許さんというわけだな」
「はい。ジブリール卿の御希望通り、服従因子も植え付けておりませんので」
「うん。そこは妥協できなかったんだよ」
そう言った後、ジブリールは再びカプセルを見遣った。
「彼女、何時まであの中で調整を受けているのだ?」
「今日で最後です。本来は一週間前に期間を終えていたのですが、用心を重ねました。
白兵訓練、MS操縦訓練などは問題なく進んでおりますので、ご心配なく」
「素晴らしい。では私は仕事に戻る。これでも多忙だからね」
そう言って踵を返そうとするジブリールを、研究員が呼び止めた。
「お待ちを。サンプルのコードネームですが……」
「ん?
まあ、流石にマユ=アスカと名乗らせる訳にはいかんな」
「ええ。ジブリール卿に決めて頂こうかと」
「……なぜかね?
私が口出しする領域ではあるまい?」
「貴方のリクエストを全面的に盛り込んだ個体です。是非」
研究員に重ねて言われ、ジブリールはしばし腕を組む。たっぷり30秒経った後に、
1つの名前を告げた。
「『マリア』は、どうか?
イニシャルも同じMだしね」
「マリア……ですか?」
「旧世界の宗教書に登場する、救世主を出産した聖母の名だ」
ありふれた名前に今ひとつピンと来ない研究員に、ジブリールは笑いかける。
「男と交わる事無く子を身ごもり、天使ガブリエルに受胎を告知される……まあ、気に
入らなければ変えてくれて良い」
「あ、いえいえ是非!
マリア、ですか。では早速!」
ジブリールが去った後、研究員が手元のコンソールキーを叩く。
蒼穹の瞳は閉ざされ、聖母の名を冠された兵器は束の間の眠りに落ちた。
- 282 :264:2006/07/25(火) 18:28:01 ID:???
- というわけで投下させて頂きました。囂々たるお叱りの声が今から聞こえてきそうです。
医療技術の設定ですが、CEに存在する諸々の科学技術を見まして、これくらいあるだろう
という推測の元、書きました。
髪の色瞳の色、更に言えばプロポーションまで変わってしまっているので、「マユじゃない!」
にも程がありますが、平に御容赦願うしかありません。
特に問題が無ければ続けさせて頂きたいのですが、駄目だろうなあw
- 304 :264:2006/07/27(木) 18:04:29 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE02:ファントムペイン
地球連合軍第71駐屯地。そのハンガーに、若い3人の男女が集められていた。
彼らの目の前にはダークグレーと朱色で塗り分けられた仮面を身に着けた士官制服の
男が立っており、手には『第81独立機動群ご一行様』と書かれた小さな旗を持っている。
「はい静かに! これがお前らの乗る機体だ!
どうだ、格好良いだろう?」
「えええぇ! オレ達の乗る機体ってこれ!? 超、量産機カラーじゃんか!」
真っ先に反論の声を上げたのは、水色の髪の少年。露骨に口を尖らせる。
「Xナンバーズのアッパーバージョンって聞いてたが、そのまんまだな……」
次に薄緑の短髪を持った青年が、何処か疲れを感じさせる口調で続ける。仮面の男の背後には、
ネイビーブルーとホワイトでカラーリングされた4機のMSがベッドに固定されていた。
「OK説明しよう!
GATシリーズ最新型、その名もコードXX(ダブルエックス)!
右からブリッツMkU、バスターMkU、イージスMkU、デュエルMkUで…」
「名前までそのまんまかよ……」
「大体これの元ネタって、ザフトに盗まれた挙句、ストライク単機に振り回された尻馬だろ!」
「黙れアウル!
そしてそれを言うなら当て馬だっ!」
ズレた仮面を直しつつ男が叫ぶ。
「それにスティング、これはそのまんまじゃない。見た目こそXナンバーにクリソツだが、
各性能はザフトの新型『ザクウォーリア』に匹敵する!
いや、TP装甲と耐電磁処理の併用
によって、耐久力はザクを上回る!」
「それは確かに凄いかもしれないけどさ。なんでまたブイアンテナにツインアイの頭なんだ?」
腕組みしながらスティングが発した問いに、仮面の男がしばし沈黙する。
「…………ほ、ほら、ストライクが文字通り顔を売ってくれたし、えっと」
「開発連中が思ってるより目立つんだ、この頭! 的になれとでも!?」
「良いじゃん、目立って何が悪いのさ」
「悪いよ! お前……」
仲間割れを始めたスティングとアウルを見ていた金髪の少女が、声を上げた。
「ネオは……?」
「あん?」
「ネオはどれに乗るの?」
「ほんとネオ好きだな、ステラってさ! もう結婚しちゃえよ!」
横から入ったアウルの茶々はさておいて、仮面の男、ネオはあっさり答えた。
「ああ、俺の機体は無い。俺はあくまでお前らの主任だからな」
- 305 :264:2006/07/27(木) 18:06:14 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
「そうだ。今の内に機体割り当てを言っとこう。
スティングがイージスMkU、アウルはバスターMkU、ステラはブリッツMkUだ」
「デュエルは? 俺達の『4人目』は確か事故ったって聞いたけど?」
「デュエルMkUのパイロットは、もうすぐ来る。新人だから、余り苛めんように」
「マリアはどうだ?」
「整髪を済ませて、格納庫へ向かっています。……大丈夫でしょうか?」
長い通路を歩く、男物の制服を着た『マリア』。腰の下まであった銀髪は、背中の半ば
でバッサリと無くなっていた。
「良いじゃないか。イレギュラー同士を引き合わせるというのは、興味深い」
「チーフ。念の為、マリアの制御チップをテストしておいた方が……」
「ん? 君は知らなかったか」
恐る恐る進言する研究員の言葉に、先日ジブリールと言葉を交わした男は笑みを浮かべた。
「あのチップはあくまでマリアを補助する機能しかついておらん。彼女の行動を束縛する
能力は無い。感情を抑制し続けるのが関の山だ。ああ、発信機でもあるが」
「な、チーフ!? しかし貴方は会議の席で……」
「ああ、嘘だ。なに、心配しなくて良い。ジブリール卿の指示なのだから」
マリアを見つめるその男は、何処か熱に浮かされているようでもあった。
「ジブリール卿によれば、これで完璧なのだそうだ。今の私も同意見だよ…」
「『最適化』できないのですよ、あの個体は!! 何という事を……」
悲鳴に近い声で抗議する研究員に対し、男は低く笑うばかりだった。
格納庫のドアがスライドし、女性が入ってくる。最初に彼女を見たステラは、
怯えた目をしてスティングの背中に隠れた。アウルが一歩後ずさる。
スティングは辛うじて踏みとどまったが、音を立てて唾を飲み込んだ。
落ち着き払ったネオの声が耳に障る。
「彼女が、デュエルMkUのパイロットだ。おカタいのが玉に瑕だな」
「初めまして。この度ファントムペインに補充要員として配属されました。
マリアと、お呼び下さい」
抑揚の乏しい声で告げた後、マリアは踵を合わせる。軍靴の音が響き、指先を伸ばして
敬礼した。
- 306 :264:2006/07/27(木) 18:08:03 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
視線をネオに向けるスティング。仮面越しとはいえ、何食わぬ様子の彼を見れば、
再びマリアを見つめる。
こいつは、違う。同じ調整された兵器としての感覚が、本能が警告を発しているようだった。
自分達エクステンデッドは、比較的初期の段階で薬物と最適化、そして教育によって、
兵器として不要な面を削り取られ、丁寧に均される。流石に実験体同士殺し合うなどという
時代錯誤な通過儀礼は無かったが、それでも完成した時、彼はある種の均質化を遂げていた。
こいつは、違う。感情が抜け落ちたような表情を見せてはいるが、解る。
心の一番暗い所が、未だに死んでない。
美しく塗り込められた真っ白な壁の向こう側で、傷だらけになり、壁を引っかいて
血だらけになった爪を尚振りかざし、叫び声を上げる『何か』が見え隠れするようなイメージ。
「スティング……」
制服の袖を握り締めたステラが、震える声で囁いた。
「怖い……」
その時、マリアが一歩踏み出した。澄み切った蒼い瞳の中に、スティングが映り込む。
スティングの胸元につけたネームプレートを一瞥し、白い手を差し出した。
「よろしくお願いします、スティング=オークレー様」
不意にそれまで感じていた違和感が消え、冷や汗がじっとりと滲んでくる。
だがスティングには解っていた。彼女がそれを『仕舞いこんだ』だけだ、と。
「……よろしく。って、様ぁ?」
硬い調子が一気に砕ける。
「階級の無い方に対しては様をつけるよう、規則で定められています」
「す、スティング! そんなのあった?」
「あ、ああ。俺達の軍規に、そんなのがあったような無かったような……」
「来年度の改訂で消える項だけどな。余りに形骸化したもんで」
横から口を挟んだネオが、わざとらしく咳払いした。
「という事で、4人チームで動いて貰う。ついでに早速初任務だ」
「はぁ!?」
驚愕するスティングには構わず、ネオは言葉を続けた。
「小隊長はスティング。30分後に基地の滑走路前に集合する事。私物は最低限で頼むぞ」
そのまま、さっさと行ってしまうとするネオの背中を見送った後、スティングは鳩尾の辺りを
押さえつつ呻いた。
「胃壁は強化されねぇんだな、エクステンデッドって……」
- 307 :264:2006/07/27(木) 18:11:11 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
夜。ブリュッセル郊外に建つ邸宅の書斎に明かりが灯っていた。
「ああ、そう。それは結構……」
受話器を手に上機嫌のジブリール。テレビの音を下げつつ2、3度頷く。
「現場指揮は君に一任するよ、ネオ。彼らをどう使うも君次第だ」
その後、二言三言のやりとりがあった後、ジブリールは受話器を置く。テレビの音を戻した時、
丁度速報が入った。
『たった今入った情報によりますと、プラントの軍事都市『アーモリーワン』にて大規模な
破壊活動が行われた模様です。詳しく状況は未だ不明のままですが、ザフトの新兵器が……』
「おやおや、物騒な事だな。2年前を思い出させる……」
穏やかな笑みを浮かべたジブリールは、紅茶のカップに口をつける。
雲の切れ目から覗いた月から、淡い輝きが降り注いでいた。
ファントムペインら4人とMSを乗せて基地から飛び立った大型輸送機は、充分な高度を
確保した後に姿勢を安定させた。
「……あのさ、それって本当にジブりんの命令なの?」
「そうだ。てかジブりんって誰だよ。あの妖怪ムラサキクチビルに『りん♪』とか付けんな」
作戦を説明し終えたネオは、口をへの字に曲げてアウルに言った。
「いやー、解るけどさー。でもなんか……」
「気にすんな、アウル。昨日の友は今日の敵だ。大人の事情ってヤツさ」
「うん……別に、それは良いんだけど」
むすっと押し黙ったアウルが、機内のブリーフィングルームを出て行くマリアを睨む。
「……オレ、マリアの事信用してるわけじゃないからね、スティング」
「ステラも。なんか……冷たくて、怖い」
ステラも少なからず同意している。そしてそれはスティングも同じだった。
「あのな。俺だって、怖いし……ちょっと信用出来ない所もあるんだ」
しかし、何時までも敬遠しているわけにはいかない。彼は隊長なのだから。
意を決し、席を立ってマリアを追った。
「お、アタックか?
青年」
「コミュニケーションだよ、エロオヤジ」
「オヤジじゃない!!」
言い捨て、ドアを閉めたスティングは腹に力を込める。通路を歩くマリアに声をかけた。
「マリア、着くまで1時間ある。ちょっと話さないか?」
回答はすぐに返って来た。
「はい、わかりました」
「そ、そうか。邪魔したな……あ?」
拍子抜けしたスティングが顔を上げる。マリアの瞳の中に、口をぽかんと開けた
間抜けな自分がいた。
- 308 :264:2006/07/27(木) 18:16:17 ID:???
- 投下終了しました。早速歴史を曲げてしまいました。モビルスーツを強奪するきちんとした
理由が考えつかなかったので……。
次回、戦闘になります。頑張っていきたいと思います。
- 321 :264:2006/07/29(土) 10:01:28 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
PHASE03:変わる世界
「どういったお話ですか?
小隊長」
「スティング、で良い。他の奴も、アウル、ステラ、って呼んでやってくれ」
「……解りました」
機内の休憩室でマリアと向かい合ったスティングは、彼女の返答を聞いて肩の力を抜いた。
「悪いね。こういうタイプの交流に慣れてない事は解るんだが、あの2人は難しいんだよ」
「というと?」
「ワケありでさ。避けられてる雰囲気ってか、よそよそしい態度が苦手なんだ。だからネオも、
軍人さんと思えないような軽い感じで話してるだろ?」
「ワケあり、ですか」
「ああ。アウルの場合、あいつの保護者がラボの研究員らしくてさ、自分の成績が悪いと、
その人の立場が悪くなるんだって、ミスをやらかすと何時も言ってる。
ステラは……あんまり良い家族に恵まれなかったらしくて、ラボに売られてきたんだ。
それでラボに入っても、最初の内は戦い方が覚えられなくって。何度も逃げ出した。
その度に捕まって、何度も何度も最適化されて……最後には、ああなった」
マリアから僅かに視線を反らし、スティングは所々言い淀みつつ続ける。
「スティングは、どうしてエクステンデッドに?」
「俺? 俺はあの2人に比べりゃ気楽さ。物心ついた時から孤児で、三食風呂付きのラボが
人集めしてたから自分で行ってやった。そのお陰で、今も快適その物だ」
自分の事を軽く笑い飛ばすスティングを、マリアはただ黙って見つめた。
しばし、沈黙が訪れる。所在無げに薄緑の髪へ手をやるスティング。
「あー……のさ、マリアは何で? もし良ければ教えてくれないか?」
「私は……」
初めて、マリアの表情が揺らいだ。眉根を寄せ、唇をほんの少し歪める。
「いや、言いたくなきゃ……」
「苦痛を、欲して」
「へ?」
意味が解らず、聞き返したスティング。マリアの瞳は、何処か遠くを見ているようだった。
「大切な人達を殺してしまった私の罪が、私自身の苦痛で軽くなるかもしれない……軽くなって
欲しい。そういう自己満足の為に、私は今、更に人を殺そうとしています」
「…………」
マリアの澱み無い言葉に、スティングはしばし返す言葉を失った。ややあって、天井を
仰ぎ見る。
「そっか……」
何とはなしに、2人の視線が窓に向けられる。曇った夜空は何も映そうとしない。
「そっちも、ワケありか……」
- 322 :264:2006/07/29(土) 10:03:14 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
大型輸送機から4機のMSが放出され、スラスターを断続的に点火させつつ地面に降り立つ。
鬱蒼とした森の外れで、8つのアイセンサーが赤い輝きを放った。
『作戦内容を確認する』
スティングの幾分硬い声が、各機のモニターに表示される。
『目標は此処から10キロ先にあるブルーコスモスの基地だ。テロリストのアジトだが、
実際はケチな連合軍の前線基地よりも重装備。金掛かってるぞ』
『ね、オレ達も一応ブルーコスモスだよね? ジブりんの私物だし』
『まー諸般の情勢云々ってやつだろ。別にそれは問題じゃない。問題は…』
スティングが一度言葉を切る。渋面が浮かんでいた。
『どう見ても、各スペックが設定の半分も出てない、って事だ。メカニックが調整間違えたか?』
『いいえ、整備に問題はありません』
マリアが割り込む。
『どうやらエネルギー消費と全体のキャパシティが適合していないようです。概算の結果、
出力100%で稼動させた場合、私のデュエルMkUでも4分で停止します』
『……欠陥品?』
ステラの言葉に、スティングが胃の辺りを押さえた。
『……各自、最初期のジンに乗ってると思え。データベースに載ってるアレな』
各機のモニターに、スティングのイージスMkUが拾ってきた地形データが表示される。
GAT−Xのイージスとの大きな相違点は大口径ビーム砲の排除と、通信、電子戦能力の
大幅強化だ。大隊同士のターミナルとしても機能し、まさに隊長機に相応しいMSである。
『基地は高台に設置されてる。
周囲を囲む4基のビーム砲とミサイル砲台で防御を固めつつ、
MS用の格納庫は地下に埋まってる』
『歩兵隊は?』
マリアが質問した。
『幸運にも、配備されてないそうだ……ネオの話じゃな』
スティングが自嘲気味に笑う。
『さ、そろそろ行こうか。ECMを展開する。アウルとマリアは、効力圏内から機体を離れ
させないようにしろ。ステラは別ルート。ブリッツのステルス機能は解るな?』
『了解』
『了ー解』
『うん……』
『テキスト通りに先手を取って、テキスト通りに終わらせる。……出発』
直立していた4機が中腰になる。脚部の着地音を抑えつつ、森へ分け入っていった。
- 323 :264:2006/07/29(土) 10:07:15 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
ブルーコスモス基地。アズラエルが盟主だった頃、資金を湯水のように投入され、半ば要塞化
されたそのアジトの監視塔に、2人の深夜番が立っていた。
「レーダー、どうだ? 何か映ってるか?」
「いや?
何も。大体、襲撃なんか無いだろ。連合軍のエリアの縁にあるんだから」
「ああ、連合軍は黙認。俺達は何時でも好きに襲えて、やばくなったら此処に戻る。これまでも
そうだったよなぁ。最近、ちょっとばかしやり難いが……」
「そ。青き清浄なる世界の為にって言っときゃ何でもアリ。好きにブッ壊して、殺して、
好きなだけ眠れる。ブルーコスモス様様、宇宙の化物にも感謝しなきゃな」
タバコの煙を窓に吹きつけた男が、荒んだ笑みを浮かべる。
思想集団ブルーコスモスの根腐れは、以前から指摘されていた事だった。ストイックに
コーディネイターの問題性を説き、彼らとの真の共存を模索していた者は、金に乱れる『同志』
に絶望し、去り、残るは暴力的な盟主に上辺だけ従うゴロツキの集まり。そんな彼らに
求める限りの武器、資源を渡せばどうなるか。想像は容易についていた。
最大の問題点は、アズラエルがそれらを認識しつつ、コーディネイターへの憎悪ゆえに彼らの
『浄化』を行わなかった事にある。衝動のままにコーディネイターを迫害する彼らを放置し、
野放しにしたのだ。そして彼は死に、ジブリールが新盟主の座に着いた。
「今度の盟主とも上手くやってけそうだ。明日、MSを4機届けに来るらしいぜ。
パイロット付きでな。……っと、もう今日かぁ」
ブランド物の腕時計の文字盤を覗きこんで、もう1人の男がしゃっくりする。
監視任務に付く前、ボトルを1つ空けてきたのだ。
「じゃ、また派手にやらかせそうか?」
「ああ。派手にな。久しぶりに殺せそうだ。ははははっ!!」
『派手に行こうぜ! アウル!』
『おっけー!』
窪地に身を潜めていたバスターMkUが身体を起こし、背部のマウントホルダーから
125mmキャノンと高収束火線ランチャーを取り外した。ランチャーの後部にキャノンを
接続する。
接続部分で点灯するインジケーターが赤から緑に変わり、長距離実弾砲と化した大筒を横抱きに
構え、両脚で踏ん張って腰を深く落とした。砲撃姿勢である。
『行っけぇ!!』
ツインアイとカバーに保護された頭部メインセンサーの輝きが強まり、特殊冷却装置が作動。
砲身が真っ白な霧に覆われた。
- 324 :264:2006/07/29(土) 10:11:10 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
咆哮と共に、125mm徹甲弾が撃ち出された。開発母体である350mmガンランチャーの弾に比べれば、確かに
小口径。だが、小さいだけでは無かった。
1秒に約2発ペース。電磁レールで加速された対装甲弾頭が緩い弾道を描いて基地を襲った。
最初の5連射で監視塔が土台から爆砕し、ビーム砲台の1つをひしゃげさせる。
何発もの砲弾が火花を散らして外壁に食らいつき、亀裂を生じさせた。
鬱蒼と茂る森の中で断続的に輝くマズルフラッシュがバスターMkUの横顔を照らし出し、衝撃波が
木々をしならせ、へし折り、柔らかな地面を抉る。
『砲撃止め!! 撃ってくる! マリア、準備は!?』
『問題ありません』
スティングから通信が入るや否や、アウルは機体に膝を突かせる。回頭した砲台から速射ビームが
火の雨となってバスターMkUの潜む窪地の周辺に降り注いだ。積もった泥が蒸発し、跳ね、
ネイビーブルーの装甲を汚す。
『急げ!
照明弾の前に…!!』
『攻撃します』
基地を挟み、バスターMkUの対角線上に潜んでいたデュエルMkUが立ち上がる。大型バッテリーが
搭載されたビームアサルトライフルを右腕に構え、左腕のシールドを前に突き出して
スラスターを全開させた。青白い噴射炎が木の葉を燃え上がらせ、夜風を焦がす。
そして機体が駆け出した瞬間、基地から照明弾が上がった。太陽のような輝きが周囲を
照らすと同時、バスターMkUの横で森に伏せていたイージスMkUが高エネルギーライフルを構える。
狙うはアウルの砲撃によって見当をつけ、更に照明弾によって場所がはっきりした、4基の内
2基のビーム砲台。銃身が上下に割れ、その中間に光が集まる。真紅の閃光が矢となって疾り、
砲台の根元を破壊した。
同時に両開きの扉があく。地下からせり上がってくるダガーLの姿が垣間見えた。
背負った無反動砲が黒光りを放つ。
『MSが出てくるぞ、ステラ、前へ!』
『うん……!』
それとほぼ同タイミングで、突撃したデュエルMkUがビーム砲台に対し斜め前方にダッシュ。
緑のビームを盾に掠めさせ、ミサイルの爆発に足元を掬われかけながらライフルを2連射。そして
残った2基のビーム砲台が炎を上げて用を為さなくなるのを確認した後、大ジャンプ。照明弾の
輝きが消えぬ内に、デュエルMkUが空を舞う。逆光の中、赤いツインアイが光の筋を引いた。
- 325 :264:2006/07/29(土) 10:14:29 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
発進したダガーLが、残存するミサイル砲台が、良い的となったデュエルMkUへ狙いを
つけてくる。その殺意を嗅ぎ取ったかのように、マリアは蒼穹色の瞳を見開いた。アラートが
鳴り響き、白煙を上げてミサイルが迫り来る中でビームライフルを連射。計4基のミサイル砲台が
次々と瓦解するのを見届けてから、ライフルに取り付けられたグレネードを
射出。再び開いたエレベーターの内部に飛び込み、上がってきていた2機目のダガーLごと
昇降プレートを強制停止させた。
「……!」
だが多弾頭ミサイルを受け止めた盾が砕け散り、機体が煽られる。そしてバランスが崩れた所に
無反動砲が放たれた。
操縦桿を捻って空中でかわそうとするが、低出力でそんな曲芸は出来ない。
咄嗟に両腕で
コクピットを庇いつつ、頭部イーゲルシュテルンで弾幕を張った。
まず1発目。機銃が当たったか、腕の直前で爆発。更に機体がよろける。
そして2発目。右脚部に直撃。TP装甲が作動したが、装甲がめくれ、機体が独楽の
ように回転した。そのまま、低地を流れていた河川の川底に落下する。
「か、は……っ」
スラスター噴射をするも殆ど落下速度を緩められず、激突。衝撃がコクピットを走りぬけ、
マリアは意識を飛ばした。
「っあああぁ! 畜生! 畜生ッ!!」
ダガーLのコクピットの内部で、男は半狂乱に陥っていた。
最初の先制攻撃から僅か1分が経過しただけで、周りは火の海だった。瞬く間に防御システム
が壊滅させられ、仲間が大勢死んだ。地下に納めたMSはエレベーター自体を破壊された。
当然補助通路はあるが、無駄だろうと男は悟っていた。逃げられない、と。そう思えた。
「クソ、クソッ……!! 腐れコーディめ!」
炎の中でビームライフルを乱射する。泥酔し、胡乱な瞳は何も映さない。
「俺から仕事と女を奪っただけじゃ足りないのかよ!」
恐怖と酒が、判断力を完全に殺していた。炎に潜む機体が、ダガーLの背後に立つ。
「どうして俺がこんな目に遭わなきゃならない! どうして……」
刹那。接近警報と共に光剣がダガーLの胸元を貫く。赤いツインアイが、直ぐ後ろで
瞬いていた。
- 326 :264:2006/07/29(土) 10:22:46 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
ユニウス条約によって、ミラージュコロイドの使用が禁じられた事を受けた連合軍の開発局は
急遽代替案を探さねばならなくなった。
そこで目をつけたのが、ストライクルージュに見られた、電圧変化によるPS装甲の変色
である。ブリッツMkUの特殊TP装甲は、他の3機と比べて耐久力に劣る上に消費電力は
他より多い。しかし、機体のカメラが撮り込んだ周囲の映像に対応させ、各部を変色させる、
カメレオン迷彩の機能を持っているのだ。
無論レーダーECM、ジャマーなどの従来のステルス装置は搭載済み。兵装が心許ないのは
相変わらずだが、ビームサーベルが届く距離まで近づければ問題はない。
そう、今のステラのように。
背後からコクピットを一突きされたダガーLは爆発しなかった。焼けた傷口から過熱したオイルを
血のように滴らせ、地面に落ちて発火する。脚部の力が抜けて機体が沈み、
ハッチが内側から弾けた。跪くようにしてパイロット諸共、機能を停止させる。
ブリッツMkUの赤とオレンジの装甲が変色し、元のネイビーブルーに戻っていった。
『スティング……終わったよ。でも、マリアが……』
「……アウル。もう目立った障害はない。前進して撃ちまくれ」
『おっけー。マリア大丈夫かな?』
「あいつの事は良いっ!!」
『おお、怖』
若干冷静さを欠いたスティングの声に耳を塞ぐジェスチャーをした後、アウルはバスターMkUを
起こし、砲の連結を解いた。続いて両肩、両脚のロケットポッドを開放する。
そしてスティングの言葉通り、撃ちまくった。照明弾が光を失った空の下、ビーム、実弾砲、
ロケット弾が無抵抗な施設に着弾し、次々に撃ち砕いていく。それを見るスティングが
歯を食い縛った。
「くそ……!
応答しろよ、マリア……!!」
『はい』
「うわっ!?」
スピーカーに飛び込んできた無感動な女の声に、シートから尻を浮かすスティング。
「ぶ、無事か?」
『数十秒か数分、気絶していたようです。申し訳ありません』
「いや……現状を知らせてくれ」
『現在、当該基地の指揮官らしき人物を追跡しています。単身で脱出した模様です』
「解った。こっちを終えたら直ぐに合流する」
『感謝します』
「気をつけろ」
通信を切ったスティングは、頭部、胸部に合計4門搭載されたイーゲルシュテルンを
対歩兵モードに切り替え、基地へと向かっていった。
- 327 :264:2006/07/29(土) 10:24:53 ID:???
- ――機動戦士ガンダムSEED Destiny 灼熱の咎、凍える枷――
こんな事が、あるはずがない。何かの間違いだ。
燃え盛る基地の地下道を通ってただ1人逃げ出した、連合の正規軍人。つい数時間前まで、
『ブルーコスモスに選ばれた者』として幅を利かせていた彼は、口の中でうわ言のように
そう繰り返していた。
こんな事があるはずがない。ブルーコスモスは不滅だ。地球連合の後ろ盾があるのだから。
その思考を、1発の銃声と太腿に走った焼け付く痛みが寸断する。
「ぐあっ!?」
たまらず、転倒する。太ってきつくなった制服に、泥水が滲み込んで汚れた。
「止まって下さい」
涼やかな女性の声が彼を追う。ハンドガンの銃口から硝煙を上らせ、確実に距離を詰めて来る。
雲は何時の間にか切れ、月光が風に波打つ銀髪を照らし出した。底光りする蒼の瞳は、
男へと向けられている。
「止まって下さい。頭部を狙えません」
即死させるから動くなと言った目の前の女からは、実際殆ど逃げられなかった。
「な、何故こんな事をする! 貴様たちは何者だ!?」
「私は第81独立機動群のMSパイロットです。手続き上、地球連合軍に属しています」
「ファントムペイン…! な、ならばジブリール卿の私設部隊ではないか! どうして……!?」
「はい。ジブリール卿の指示によって、私達は現在、作戦を遂行しています」
マリアのその言葉を、男はせせら笑う。この女は何も解っていない、と。
「馬鹿な、あの方は最大限の援助を約束して下さった。青き、清浄なる世界の為に……力を…」
脚からの出血が体力を奪っていく。視界の中心に映った銃口がぼやける。
「ジブリール卿は……確かに……約束して、下さったのだ……」
暗い森に、2発目の銃声が響き渡った。
「…そうだ。任務完了した。早く回収に来てくれ。それからデュエルが…」
不機嫌全開で通信を終えたスティングが、3人の方を振り返る。
「ネオが来るってさ。20分くらいで」
「あ、そう。にしても、今回は楽だったなー。MS1機しか出なかったし」
「油断しきってたからな。相手が」
アウルに頷いた後、燃え続ける基地跡へと歩いていった。
炎の中に転がる人影が幾つも見える。舞い上がる火の粉が空に散って、煤は月の光を遮る程。
「俺達が、やったんだ。これを……」
拳を握り締めて空を仰ぐスティングを、マリアがじっと見つめていた。
- 328 :264:2006/07/29(土) 10:32:12 ID:???
- PHASE3終了です。ブリッツMkUのTP装甲迷彩は、ちょっと苦しいかな
と自分でも思いましたが、他にアイデアが無く……。
次回から序盤の山場が始まる予定です。そろそろ空が落ちてきます。
今後とも、よろしくお願いします。