86 :1/10:2006/08/17(木) 20:47:35 ID:???
 地球衛星軌道上に停泊した連合艦隊が密集陣形を取り、その艦首を輪郭が見え始めた
ユニウスセブンへ向ける。艦底を照らす蒼白い地球光が、4つの巨大な影を浮かび上がらせる。
「提督、更に1隻、軌道上に上がってきます。『ソロネ』です」
「定刻通りか。良い腕だな、イアン=リー」
 連合艦隊提督はその皺の刻まれた表情を綻ばせ、ブリッジのメインスクリーンを見遣る。
「しかし、何とか間に合いましたね。ザフトから笑われずに済みましたよ」
「フン、本来ならばこの1.5倍の戦力で臨む予定だったのだ。来期の選挙で
頭が回らん連中が邪魔立てしたのよ」
 地球圏未曾有の危機に際し、連合が差し向けたのはわずか4隻の艦だった。
改ネルソン級、ドレイク級2隻ずつから成るこの機動部隊は、まさに連合の腰の重さ
を一身に背負わされた形となった。
「……ともかく、作戦には3時間以上割けん。メテオブレイカーで複数の縦穴を作り、
ミストラルが13基のB4弾頭を仕掛け、脱出、起爆……保てば良いがな」
「計算上、1時間もの余裕があります。何か問題が?」
「アーモリーワンの事件があったろう…プラントは詳細を明かしておらんが」
「それが、ユニウスと関係があるのですか?」
 問いを重ねる若い副官見習いに、提督はブルドッグのような顔をしかめた。
「今回はな、少尉。ザフト側からローラシア級2隻、ナスカ級1隻に加え、あの新造艦
ミネルバまで参加しているのだよ」
「それは…っ」
「あの虎の子をな……まあ良い、全艦に打電。出かけるぞ」
「ハ…!」
 通信コンソールを操作する士官を横目に、提督はしかめ面のまま禁煙ガムを噛み締めた。

87 :2/10:2006/08/17(木) 20:49:22 ID:???
 蒼光の中、アークエンジェル級3番艦ソロネはリング状の大型ブースターを切り離す。
火花と共に焼け焦げた金属が弾かれ、漆黒の輪天使は後部ウィングを展開。力強い噴射炎と共に
1Gを振り切って安定軌道に乗った。高出力スラスターを搭載し、大型化した『前脚』
からも翼が伸びて行く。更に推力を上げ、巡航速度に達していた他の艦船に軽々と追いついた。
「リー少佐、旗艦から発光信号です。『漏らすなよ』と」
「……いい加減、士官学校の話題を持ち出すのは止めて頂きたいものだ」
 制帽のズレを直した艦長イアン=リーは、礼儀を損なわない程度に最大限の不快感を示す。
 直後、ガスが抜ける音と共にブリッジのドアが開いた。


88 :3/10:2006/08/17(木) 20:50:49 ID:???
「リー、怖がり……?」
「なに? リーお前、ちびった事あるの?」
「答える義務はありません」
 入ってきたネオとファントムペインの面々に、イアンは溜息をつく。
「何だよつれないな。俺の『引き』で出世できた癖にぃ」
「パテントの問題が解決していないピーキーチューンの最新鋭艦に乗せられ、二階級特進のうえ
艦長の椅子に座らされ、加えて配属されたモビルスーツ隊のパイロットは半年前から記憶編集
の最適化を施されていない強化人間。この状況を出世と言えるものかな? スティング君」
「え、何で俺に振るんスか? いや、御愁傷様ですけど……俺達も何度ネオに……」
「そうだったな。お互い、頑張っていこう……」
「……好き勝手言ってやがるとこ悪いが、リー。例のシステムは大丈夫か?」
 苦労人同士で慰め合う2人に、口元をヒクつかせるネオ。
「ランゼンエミッターですか? あれ自体は問題ありません。何時でも動かせます」
「ほう、そりゃ良い。いよいよコードXXがザク並になる」
 低く笑うネオに、アウルが疑問の声を上げた。
「なに? その、何とかエミッターって」
「データベースにありました」
 応えたのはネオではなく、マリアだった。
「艦で生んだエネルギーをマイクロウェーブに変換し、受容機を搭載したMSへ常時送電する
システムです。コロイド技術によってエネルギーロスを軽減し、MSの長期活動を可能とします」
 マリアの解説に苦い表情で頷くイアン。
「そう。ザフトからデュートリオン送電システムの技術盗用として訴えられている」
「ちなみに、ブリッツMkUの特殊TP装甲もザフトのVPS装甲を盗用したものとの指摘を
受けています。訴訟は終わっていません」
「……いや、その」
 ブリッジ要員とファントムペインからの視線にたじろぎ、ネオが後ずさる。
「こ、細かい問題はだな、ゴリ押しした例のムラサキクチビルに言っ……」
 ネオの言葉は、ブリッジに響き渡る警報に掻き消された。
「か、艦長!!」
「何事か!」
「ザフト艦ミネルバより入電! ユニウスセブンにMSを多数確認!先行部隊との
交戦状態に入った模様です!」
「何だと……敵機は判別しているのか!」
「ジン、シグーなど……全てザフト製だそうです!」
「……!」
 オペレーターからもたらされた報告は既に連合艦隊に通達され、そして、彼らに一つの
疑念を植えつけた。
「ザフトは……本当に『友軍』なのだろうな……?」
 イアンの呟きは、重石でも飲んだかのようだった。

89 :4/10:2006/08/17(木) 20:52:37 ID:???
 ユニウスセブンの先行偵察にあたっていたサトー隊は、今やその数を3機にまで減らしていた。
「隊員は、全て脱出できたか!」
『ハッ! 残るは我々のみです!』
「よしお前達も離脱しろ! 此処は私が食い止める!」
 出力低下を示すレッドアラートがヘルメットのバイザーを染める中、サトーはモニターの端に
貼り付けた写真に目をやる。穏やかそうな女性に抱かれた、幼い少女が映っていた。
『小隊長!?』
「勘違いするな! 直ぐに私も逃げる! だからさっさと離脱せんか!」
 左のショルダーアーマーを砕かれ、モノアイに皹の入ったサトーのジンハイマニューバU型が、
エネルギー残量の少なくなったビームカービンで牽制射撃する。
 ユニウス内部の大地に着弾した光熱の矢が弾け、近づいてきていたジンとゲイツを退かせた。
「行け! 義務を……果たせッ!」
『……申し訳ありません!』
 部下の乗った2機が飛び去り、ユニウスセブンの外へ脱出するのを確認した後、
汗に濡れたサトーは大きく息を吐く。真横に走った古傷が機内灯に照らされた。
 脱出させた部下には貴重な情報を預けている。ユニウスセブンに取り付けられていた
フレアモーターは全て焼き切れていた事。構造体の加速が予測を上回っていた事。そして―
「この加速……セカンドシリーズの、ガイア……だな」
 ユニウスの護衛に、アーモリーワンから奪取された新型3機が加わっている事。
 レーダーから顔を上げたサトーは、物資搬入口だった通路の枝道からやってくる多数の
MSに備え、カービンの残弾を確認した。
「させるものか……」
 機体を其処に入り込ませ、カービンを左手に持ち替え、斬機刀を抜き放つ。
「我が娘の眠るこの『墓標』を! 新たな戦争の火種になど!」
 1機のジンが枝道から身体を出した瞬間、マシンガンを持ったその右腕を一射で弾き飛ばす。
間髪入れずにそのジンへ飛び掛り、斬機刀を残った左腕の付け根に深く突き入れる。
焼けた火花と推進剤の残滓と共に、機能を失ったジンの左腕がシールドを手放した。
「させる、ものか……!!」
 ペダルを踏み込み、両腕のもげたジンを暗がりから迫るガイアに向けて蹴飛ばす。しかし、
「うおっ!?」
 直後、そのジンがマシンガンとビームライフルによって蜂の巣となり大爆発を起こした。
「躊躇が、無い…ぬかった!」
通路を満たす爆圧に吹き飛ばされる中、爆風を突き破ったMA形態のガイアが迫る。
 背中の翼部分でビーム刃が起動した。

90 :5/10:2006/08/17(木) 20:55:11 ID:???
 不安定な姿勢のまま、狭い通路の壁を蹴って接近するガイアに対してサトーが出来たのは、
ビームカービンを撃ち尽くし、刀を突き出す事だけだった。
 しかし、撃ち出された二筋のビームは壁面を穿つに終わる。
「ジンのようにはいかんか! 機動性も、速度も……!」
 そのまま胴体と左足を押さえつけられて倒される。機体各所のカメラが潰され、サブモニターが
死んだ。エネルギーの無くなったカービンが通路の奥へと流れていく。
 ガイアの背部に搭載された二連装ビーム砲がサトー機に狙いを付け、その咆口を睨む
サトーの目が見開かれた。
「く……っ!」
 刹那、ビームの乱射がガイアを跳び下がらせ、他の敵機を枝道に隠れさせた。
それが納まった後、間髪入れず太い真紅の光槍が通路の奥まで貫き、眩い光と共に通路を
炎で染め上げる。
「っ……味方!?」
 左腕でコクピットを庇わせつつ、衝撃に頭を振って機体を起こさせると同時に、
スラッシュウィザードを装備したライトブルーのザクファントムと、長銃身のビーム砲を
抱えたザクウォーリアがサトー機を庇うように降り立つ。
『こちらジュール隊! 無事か!?』
 聞こえてきた通信に、サトーは顔を上げた。
「イザーク=ジュール! 私の部下は……!」
『問題ない。連合艦隊にもデータを転送した! ユニウスの解体作業は始まっている!』
「そうか……」
『脱出しろ!』
「済まない」
 斬機刀を鞘に納め、サトー機は床を蹴った。効きが悪くなった操縦桿を倒し、残り僅かな推進剤を
使ってユニウスの外へ流れていく。先程の写真にもう一度目をやった。
「……済まない」
 視界の真中に浮かぶナスカ級の艦影が、微かにぼやけた。
『作業チームをやらせるわけにはいかない! 道を切り開く! 付いてこいディアッカ!』
『はいはい、何時も付いてきてるだろ?』
 体勢を立て直すMAガイアに、大型ビームアックスを上段に構えたイザーク機が立ちはだかる。
 オルトロスの砲口をビーム光でギラつかせたディアッカ機が、枝道に隠れたその他を威嚇した。
『ザフトを嘗めるな! テロリスト共ッ!!』


91 :6/10:2006/08/17(木) 20:57:08 ID:???
『こちらポイントK8、配置についた。作業開始する』
『ポイントA6、配置についた。作業開始する』
「急げ! グズグズすると、割れても間に合わん!! クソ、デカブツが……」
 2機がかりでメテオブレイカーをセットして掘削を始めるミストラルを護衛するダガーLの
パイロットは、ユニウスセブンに着地した時よりも確実に近づいている地球に舌打ちした。
「この一大事だっつーのに、上の連中はウィンダム1機寄越さん。大気圏で全部燃え尽きちまう
とでも思ってんのか!?」
『大方、我々ともう一度戦争する気じゃないのか』
「あぁ?」
 ザフト側の作業を護衛するゲイツRの女性パイロットが通信を繋いでくる。
『このユニウスを中途半端な形で落とし、地球に被害を出せば開戦の口実に出来るだろう。
セカンドシリーズやザフト製MSが敵機になっている事は確認済み。お前達ナチュラルの
気運を高めるには充分だ』
 コーディネイター特有の、パーツが均整取れて並ぶ作り物めいた美形に、男は再び舌打ちする。
「俺らが、そんなに単純そうに見えるかい? 『宇宙の化物』さんよ」
『推論を言ったまでだ』
 休戦から2年が経ち、ザフト、地球連合双方が戦争に慣れてきた。引き金を引くのに
最早憎しみは要らず、人殺しがより職業的に、事務的に処理されつつあった。
「パナマで好き勝手された事は、今でも覚えてるぜ」
『私もこの場所で両親を失った。だから、MSなどに乗っている』
 ダガーLのバイザーとゲイツRのモノアイが交錯し、次の瞬間の互いにビームライフルを
向け合った。
「避けなっ! コーディネイター!」
『かわせよ、ナチュラル!』
 そして光条二筋。ダガーLが岩陰から顔を出したゲイツの頭部を、ゲイツRがミストラルを
狙ったシグーの右肩を撃ち砕く。
「一緒くたに墜とされないよう、気をつけるんだな!」
『留意する』
 ダガーLの背部インジケーターが灯り、重厚な無反動砲が両肩に下りた。 ゲイツRの両腰で
レールガンが跳ね上がり、先端の照準機と単眼が輝く。
 その両機の相対的上方を、イーゲルシュテルンで弾幕を張るソロネが凄まじい速度で
飛んで行った。瞬きするほぼ一瞬で視界を過ぎ去り、撃墜されたらしいMSの残骸が雨のように
ユニウス表面へ『降り注いだ』。
「な、んだあれ……艦、なのか?」

92 :7/10:2006/08/17(木) 20:59:58 ID:???
『スゲーな。艦つーかデカいMAだ……』
「陽電子砲をオミットした分、余剰エネルギーを推進機関に回せます。豪華客船に使われる
ショックアブゾーバーを採用していますので、乗っても死にませんよ!」
 ベルトで身体を固定した艦長席で、イアンがモニターに叫ぶ。推進機関の轟音は戦闘機並だ。
 暴れ馬。戦闘機動に入ったソロネを喩えるにこれほど相応しい表現は無いだろう。間違えて
泥酔した娼婦を乗せてしまったユニコーンのように、両脚のスラスターによって巨大な艦体が
縦横に振れる。
 その最高速度は並の量産機では追い付けず、PS装甲、耐電磁処理によって強化された
『正面装甲』の耐久力はザフト、連合両軍の中においてトップクラス。生半可な障害であれば
艦首前面に起動させた弱収束の超大型ビームサーベルと質量で薙ぎ倒す。
 上下前後左右から襲い掛かる加速Gは最高性能のショックアブゾーバーでも殺しきれず、艦の
内装はまるで一昔前の宇宙船。側面、後方を守る為に増設された砲塔群が狂ったように
機銃弾と速射ビームを吐き散らかす。
 艦体の随所にMSの繋留器具が取り付けられており、ファントムペインのMSがそれぞれの
持ち場で近づく敵機を迎え撃っていた。
「MSを打ち出すカタパルトが使えないんですよ!? 前に突出する為に造られた艦なんです。
設計に口を出したらしいジブリール卿には『乗ってみろ』と申し上げたい!」
『……お、おい大丈夫かお前ら! 吹っ飛ばされてないか!?』
『す、すてら……なんか、キラキラしてる……』
『ネオ、俺当分ジェットコースター良いや……』
『そ、速度自体は大丈夫なんだが、自分で操縦できないのがちょっと』
『問題ありません』
『凄ぇなマリア……い、良いか! 現場に着き次第、俺もエグザスで出る!
ザフトのMS隊がいるから撃つんじゃないぞ! って、ちょ、リー! 壁ぇ!』
「強度的に問題ありません。突入します! バリアント! ゴッドフリート!!
直接照準で構わん!
撃ちまくれ!ビームフェンスの出力から目を離すな! 挽肉になりたくなければな!!」
 骨伝導フォン越しにイアンが怒鳴りつける。ソロネの各部装甲からレールガンと
エネルギー収束火線砲が突き出し、眼前の岩壁に破壊の奔流を叩き付ける。
 艦首に纏う緋色の輝きが弾け、電光と共に衝角を為す。
『待て、リー! 俺が悪かった!』
「突入!!」
 ネオの悲鳴を引きずって、機関を全開にしたソロネの艦首が脆くなった壁を焼き、砕き、
打ち貫いた。

93 :8/10:2006/08/17(木) 21:01:50 ID:???
『出過ぎるな、シン。 ポッドにやられるぞ』
「大丈夫だ! カオスはインパルスで止める! レイとルナは周りの相手を!」
 ミネルバのMS隊は苦戦していた。敵機を潰しながら通路を進み、エネルギーと残弾を消耗した
所で奪われたセカンドシリーズの『カオス』と接敵、交戦状態に陥ったのだ。
「くっそおぉ! 何でこんなにザフト機が湧いて出るんだよ!」
『……定期パトロールは、週に一度ユニウス表面を調査していた。パイロットの事を
考えても、これらが配置されてから3日も経っていないだろう。しかし……』
『それにしてもこんな大部隊……無理よ。絶対何処かに引っ掛かってた筈!』
 スラッシュウィザードを装備したルナマリアの赤いザクが、ビームガトリングの掃射で
敵を追い散らす。
『其処は、俺にも解らない……解っている事は、このまま戦い続けても状況は悪化するばかり
という事だ』
「だが、俺達が少しでも敵を減らさないと……作業班が!」
 フォールシルエットを装備したインパルスが加速する。化学精製工場跡、まるで墓標のように
折れ曲がった柱が立ち並ぶ中、深緑色のカオスへ迫る。
『シン! 冷静に!』
「冷静になんてなってられるか!時間も!……ッ!?」
 焦燥感で我を忘れかけたシンは、己の迂闊さに気付いた。カオスの右肩に装着されていた
ポッドが、無い。
 カオスのライフルが光った瞬間、強引な機動で柱に機体を擦らせながらかわす。しかし
続くアラートが背筋を凍らせる。
「上!」
 頭上に放たれ、獲物を待っていたポッドがインパルスに狙いを合わせた瞬間、
ソロネの巨体が天井を崩落させながらポッドを弾き飛ばし、反対側の壁に激突した。

イアン=リーの下した判断はある意味で適切かつシンプルなものだった。
MSを発進させ後方で待機という基本スタンスが取れない以上、前に出るしかない。
そして前に出るからには、的として狙われる。ユニウス表面の侵入路を探して
MSを降ろしている間に、側面と後方から集中砲火を受けて沈む。
 ならば1秒でも速く目的地へと辿り着き、比較的安全な場所を確保するしかない。
 シンプルにしてロジカル。しかしロジックは人を幸福にしない。
「各員……っまだ吐くな! ハッチ開け、エグザスを出す! 大佐!!」
『……ぁあ?』
「御武運を!」
『あぁ……』
「対空銃座を支援モードに設定…し、っむ……PS装甲、再調整急げ!」
 指示を終え、イアンは真っ青な表情でシート脇の袋をひったくった。

94 :9/10:2006/08/17(木) 21:06:27 ID:???
『ザフトと通信を共有する。友軍を撃つなよ!』
 スティングの言葉の直後、停泊したソロネの後部ハッチが開いてエグザスが出撃する。
デュエルMkUがカオスを追うべく飛び出した。他の3機は、援護射撃で遮蔽物に隠れた
残敵を掃討するべく向かっていく。
『マリア! モビルポッドに気をつけろ!』
「了解。ネオ、援護をお願いします」
 マリアの言葉が終わらぬ後に、柱を縫って飛ぶエグザスからビーム刃を展開した
ガンバレルが展開される。射出された4つの攻撃端末が時間差でカオスの周囲を飛び交い、
ポッドを放つ暇を与えない。
「……」
 大柄なビームアサルトライフルを構えさせ、カオスに狙いをつける。蒼穹色の瞳に
三角のロックオンマーカーが映り込み、トリガーを引いた。
 1発2発と回避され、3発目がガンバレルに足止めされた所で脇を掠める。
 MAに変形したカオスがスラスターを全開させ、ガンバレルを振り切った。
「速い……っ」
 レーダー上で霞む光点に眉を寄せた直後、マリアは反射的にレバーを倒す。
デュエルが右に跳ね、さっきまで居た場所をカリドゥス改の高出力ビームが抉った。
 岩片が溶けて、一際大きな爆発を起こす。化学プラントに残留していた可燃物質の引火だろう。
「後ろ……相対的上方……!」
 爆発で煽られたデュエルを制御しつつ、マリアは射撃がきた方向へ機体を向けた。
 MSに戻ったカオスが素早く方向転換し、ライフルを2連射。盾で受け止め、内側の放熱ダクト
が白煙を噴き出した。間髪入れずに再び変形して上方を飛び回るカオス。
「2発で放熱限界を超えた……何て、威力。これでは……」
『マリア、下がれ!』
 ネオとマリアの2人が同時に結論に達する。厳しい、と。しかし下がる暇を与えまいと、
カオスが真上に飛び込んだ。脚部ビームブレードを伸ばし、獲物を引き裂かんと急降下する。
 2機の中間をインパルスのビーム射撃が貫いたのは、その時だった。

『レイ、上に空いた大穴にミネルバを呼んでくれ! デュートリオン送電で持ち直す!
ウィザードも交換しないとまずいだろ!?』
『そうだな。ルナマリアはガナーに換装しろ。開いた場所から狙い撃て』
『射撃、苦手なのよね……っ!』
 白いブレイズザクが、ソロネが開けた破孔へ信号弾を上げる。
 脱出させまいと立ち塞がるゲイツ目掛け、ルナ機が突っ込んだ。ビームアックスでフェイントを
掛け、突き出されたビームサーベルをかわしざま、ショルダータックルで跳ね飛ばした。

95 :10/10:2006/08/17(木) 21:07:53 ID:???
「そろそろ打ち止めか? しっかし気色悪い連中……」
 最後のジンが連装ロケットによって頭、腕、腹部の中身を吐き出し崩れ落ちる様を一瞥し、
 スティングは苛立たしげにコンソールを叩く。レーダー感度を上げて索敵を再開した。
 此処にやってくるまで、撃墜した敵機は10を越える。だがその全ての挙動に、スティングを
含むファントムペインの面々、そしてネオは違和感を覚えていた。
「シミュレーターの延長で戦ってみましたって感じか。課外授業気分で」
 互いの命が掛かっている筈の戦闘だというのに、ザフトの旧式達はまるでマニュアルに書かれた
機動パターンを試すような回避、攻撃を繰り返してきた。さして苦も無く撃墜できはしたが、
アウルは更なる違和感に気付いていた。
『それだけじゃないよ。ダメージ食らったり仲間がやられる度にパターンが変わってた。ほら、
シミュレーターの実戦モードLv6みたいな感じ?』
『それに……誰も、逃げなかった。助かりそうなのもあったのに……』
 僅かに怯えを孕んだステラの声に、スティングの苛立ちは募っていった。
「こいつら、まさか…… ッもう1機! 近いぞ!」
 スティングのその叫びと共に、3機が遮蔽物に使っていた柱が爆砕した。
 連装ビームの青白い閃光が幾つもの柱を撃ち抜き、炎の尖塔へと変える。
続いて紅の光が地面を削り、気化した大地が無音の爆発を起こした。
 ブリッツMkUのグレイプニルが吹き飛ばされ、バスターMkUの右肩のロケットポッドに岩欠が
突き刺さって大破する。残弾が無かったのは不幸中の幸いだった。
『障害物関係無しか! どういう火力だよ!?』
「敵機……データにない! じゃあ、ザフトの新型!?」
 炎と粉塵が納まった後、其処に悠然と立つのは海洋色のセカンドシリーズ、
ZGMF-X31Sアビス。
 まるで反撃がないと見切っているかのようにスラスターを噴かして機体を浮かせ、
ツインアイを暗闇に灯らせる。
「何? こっち全機に……マルチロック!?」
 そして再び砲撃。全身のビーム砲を順繰りに撃つ『斉射』ではなく、同時砲撃。
 猛禽のように飛び回っているカオスに上方面を抑えられたままなので、ファントムペインは
逃げ回る事しか出来ない。
「マルチロックに同時砲撃か! ふざけた真似しやがって! この……」
 何とか機を掴もうと周辺地図を呼び出しかけたスティングの脳裏に、訓練時代に見せられた
戦闘映像が去来した。
「え……?」
 アビスの蒼いショルダーアーマーが翼のように展開し、光が集まる。
「フリーダム……キラ=ヤマト……?」

96 :264:2006/08/17(木) 21:10:51 ID:???
投下以上です。ユニウスセブン編は前、中、後の3つに分ける予定です