- 439 :序章 1:2005/10/08(土) 23:04:53 ID:???
- コズミックイラ71 6月 15日
―オーブ首長連邦国 オノゴロ島―
頭上を無数のMSが飛び交う乱戦模様の中、オーブを脱出する避難船に向かって走る一組の家族。
母親に手を引かれながらも走る速さに追いつけず、少女はつまづき転んでしまう。
その拍子に、彼女のポシェットから転がり出た携帯電話。それは彼女にとって、大切な大切な宝物。
取りに行くとごねる少女を制して、代わりに彼女の兄が斜面を滑り降りていく。
その様子を上から心配そうに見つめていた少女は、自分の携帯を手にして戻ってきた兄へ礼を言いながら、引き上げようとして手を伸ばし
た。
その時。ごく至近の上空を白い、巨大なシルエットが駆け抜けた。
ごう、と吹き荒れた熱い大気に悲鳴を上げ、少女は目を閉じる。
次の瞬間、瞼を貫くほどの暴力的な光が生じ、視界を白く焼く。続いて襲ってきた激しい衝撃に、彼女の意識は途切れた。
…そして、後に意識を取り戻した時、彼女はその光景を目にすることになる。
無残にえぐられた故郷の地面。なぎ倒され、未だくすぶり燃え続ける木々。ほうぼうから立ち上る黒煙によって汚された空。
山肌に叩きつけられ、壊れた人形のようにへしゃげて動かない両親の姿。
朦朧とした意識のまま、周囲へ向けていた虚ろな視線を己の足元へ落とすと
そこには、片手しか残らない兄の姿と、その手に握り締められた携帯があった。
未だMS同士の戦闘が繰り返される空に、少女の号泣が響き、轟音にかき消された。
後に、地球と宇宙の間で繰り広げられた戦争は、第二次ヤキンドゥーエ攻防戦をもって終結した。
戦争の中で疲弊した人類は、これでようやく平和が訪れると信じていた。…信じるように、願っていた。
しかし、世界の闇に住まう者たちは違っていた。彼らの中では、戦争はまだ続いていたのだ。
- 440 :序章 2:2005/10/08(土) 23:05:40 ID:???
- コズミックイラ73
大西洋連邦を中心とした地球連合軍は、前大戦によって傾いた体制を恐るべき速さで立て直しつつあった。
その威勢の裏には、前世紀より利害と陰謀によって織り成される戦争の絵図…それを描く者たちがいた。
月面に新たに建設されたアルザッヘル基地。そこには新型のMS、そしてそれらよりも巨大なMAが隊列を組んでいた。
まるで主の命を待つ騎士達のように、整然と立ち並ぶ鋼の軍勢を見下ろしながら、かの男は笑みを浮かべていた。
「今度こそ、彼奴らを屈服させてみせよう。その準備は整った。」
―L−4 新造プラント アーモリーワン―
時を経て、プラントへと渡った少女は、ザフト軍に入隊する道を選んだ。
彼女が所属することになった、新型戦艦ミネルバの進水式を間近に控えた日、彼女は出会う。
「お姉ちゃん、ステラっていうんだね!あたしマユ。マユ・アスカ!」
「私はステラ・ルーシェ…あなたは、マユね。」
にっこり笑顔を見せるマユへ、金髪の娘もつられたように微笑む。
「ラクスさんの曲って全部好きなんです、あたし。落ち着くし、それになんだか元気が出るから」
「…そうだね、僕も思うよ。彼女の歌なら、世界全てを癒すことも出来るんじゃないかって…」
店先で隣り合わせた青年の言葉に、マユは顔を上げて彼の横顔を見た。その紫暗の瞳に映る深い哀しみの色に、彼女は息を呑んだ。
そして、式典間際に起きた不明勢力による襲撃。ザフト新型MS強奪事件より、運命の歯車は突然、急速に再動する。
強奪された機体の追撃任務に就くミネルバ…だがその最中、もう一つの事件が起きる。
「これが『グレムリン』…僕らに大儀を授けてくれる妖精さ」
強奪事件の騒動に隠れて、ある者が持ち込んだ一枚のディスク。それが、より凄惨な悲劇の扉を開く鍵だった。
- 441 :序章 3:2005/10/08(土) 23:06:24 ID:???
- ザフト軍所属の人型兵器が、地球から上がってくる多くの船を再び大気圏へと墜としていく。
その惨劇を止めるべく向かうミネルバ。そこでマユは、運命の再会を果たす。
自分と敵機の間に割って入ってきた黒いガンダムから伝わってきたのは、二度と聞けないと思っていた声だった。
「無事か!? ザフトのパイロット!!」
「ぇ……う、うそ…その声、お兄ちゃん!?」
ザフトが試験的に開発した新たな戦闘システムの暴走により、生まれた悲劇。
マユたちの必死な奮闘も空しく、多くの地上民間人の犠牲が出てしまう。
「これで大手を振って戦争を再開できる。 今度こそ連中を我々の家畜にしてくれよう!」
巨大モニターに映し出される凄惨な映像を前に、男は立ち上がり、勝ち誇るように両手を広げた。
後に『セレネの悪夢』と語られるこの事件。 これを境に地球、プラント間に再び戦渦が巻き起こる。
人々はまた、それぞれの意思を胸に戦いの渦中へと赴いていく。
- 442 :序章 4:2005/10/08(土) 23:07:26 ID:???
- 家族、友人、隣人…多くの人が眠る慰霊碑の前で、マユは涙滲む瞳でカガリを見つめる。
「あたし…この国がやっぱり好きなんです。お願いです。もうあたしのような思いをする人を、オーブに作らないでください。」
アレックスと名乗っていた彼は戦争早期終結のため…親しき者を襲った悲劇の真実を見極めるために、再びプラントへ戻る。
「…俺はザフトに復隊する。この力を、戦争の早期終結に役立てたい。そしてあの人の真意を確かめる」
オーブの代表であるカガリ。彼女もまた、国を守る為に戦いを始める。
以前の自分とは違う戦い方で。
「スカンジナビア、赤道連合らと連携を取る。…大西洋連邦の思い通りにはさせない。我々に、この愚かな争いに参加する意思はない!」
傷を背負い、過去を失い、それでも駒として利用され戦った男。
記憶を取り戻した時、彼はいち早く真実を知り、真の敵へと戦いを挑む。
「わりぃ…俺まだ、お前のとこへ帰れないよ。止めなきゃいけない奴がいるんだ」
惨劇の記憶を自ら封印した少年。妹と敵対する位置に立つ彼もまた、己を探しながら戦い続ける。
「どいてくれ!俺は行かなきゃいけないんだ!!」
ブルーコスモスの盟主を前に、青年は淡々と語る。紫の瞳に、暗い憎悪の炎を揺らめかせながら。
「彼は僕から大切な者を奪いました。僕は彼と彼に従うものが許せません。でも僕は奪いはしません…与えます、死と絶望を。」
憎しみのままに、全てを薙ぎ払う彼へ少女は立ち向かう…仲間を、愛する地を守る為に。
「ケイは間違ってる!そんな事したってあの人は喜んだりしないよ!絶対に!!」
大切な人を失いながらも、新たに得た絆を守る為に戦う少女。
最愛の人を奪われ、復讐のために戦乱を巻き起こす青年。
二人の運命が今、交錯する。
『運命の舞踏』
憎しみの連鎖、断ち切れ!デスティニー!