353 :1/13:2005/10/24(月) 00:08:09 ID:???
新造プラント、アーモリーワンで突如起こった何者かによる新型MS強奪事件。
逃走を試みる新型機と、それを捕縛しようとするザフト軍の機動兵器。
現在の被害は、軍需施設の敷地内に収まっているが、いつ他へ飛び火してもおかしくないほど状況は荒れていた。

ミネルバの進水式に出席する予定だった、要人や一般招待客が集まっていた式典会場のホール。
軍の施設に比較的近い位置に建つその中は、いまや逃げ惑う人たちでごった返していた。
高級なスーツを着た中年男性も、豪奢なドレスを纏うマダムも、
一般公開の抽選に当選したのだろうか。親に手を引かれる、よそ行きのワンピースを着た幼い少女も、
皆、一様に血相を変え、悲鳴や罵声を上げて、転げるように逃げ惑う。
エントランスホールの天井は全面ガラス張りで、時間の経過によって降り注ぐ光や広がる夜景を楽しむ造りとなっているのだが、
今やそれは、頭上を飛び交うMSや周囲の爆煙をダイレクトに見せ、恐怖を煽る豪華なスクリーンと化していた。

「ん、始まったか。あまり遊び過ぎずに、まっすぐ帰るんだよ?」
轟音に震え、ビリビリと盛大な音響を立てるガラス天井を見上げ、ラウンジのそばに立つケイは至って平静な様子。
あまつさえ、子どもをたしなめるような言葉を呟きながら、微かに苦笑していた。
その視線の向こう。ガラス越しの空を駆け抜けていく三機のMSへ向かって。


354 :2/13:2005/10/24(月) 00:09:08 ID:???

「閣下、遅くなりました」
大勢の人間が足で床を踏みつける乱打の音の中、ケイの背後に近づいてきた眼鏡姿の男。
控えめに発された低い声は、周囲の騒ぎに紛れて彼ら二人の間でしか聞こえない。
そも、自分や家族の生死が関わるこの状況下。
行く手を阻む周囲の人間ならまだしも、人波から外れたわき道を歩く彼らを、他の誰かが気にかけるはずもなかった。

「ご苦労さま。今回は、思ったよりも状況が荒れて大変だね」
まるで今日の天気を評するようにそう言いながら、ケイはジャケットの内ポケットに手を差し入れる。
「待たせたね。これが『グレムリン』…僕らに大儀を授けてくれる妖精さ」
引き抜かれ、見せつけるように口元へ動かされた右手。
そこには、一枚の記憶媒体ディスクが光っていた。
男は彼から手渡されたディスクを丁重に受け取り、持っていた金属製のブリーフケースにしまう。

「確かに受け取りました。 …しかし、まさか閣下自らがプラントまでお出でになるとは」
ケースを大切そうに小脇に抱えなおした男は、ずれた眼鏡の位置を指で直しながら言う。
自分より一回り以上は年下のケイへ、畏敬と僅かな恐怖の入り混じる視線を向けながら。
「ははっ、たまには息抜きがしたくてね。 旅行さ、ちょっとした」
彼の言葉に答える言い回し、整った横顔に見せる気だるげな笑いも、冗談か本気かの判断を狂わせる。
そして男は、青年へ抱いていた不快かつ不可思議な印象を、更に強く塗りかえていくのだった。

355 :3/13:2005/10/24(月) 00:10:07 ID:???

「で、君は? 帰りの便は確保しているのかい?」
「幸い、今ここにはプラントのセレブリティが集っていますからね。特別警護付きの本国行きシャトルに便乗します」
青年の問いかけに、眼鏡の男は己の胸元に付けたIDカード…プラント要人のデータに偽造されたそれを示しながら答える。
なるほど、それはいいねとケイは頷く。
一般人と同様のシェルターに避難するよりは、幾分安全性が高く、かつ迅速に目的地へ向かえることだろう。
「して、閣下はいかように……」
男が同じ内容を問い返そうとしたその時。
一際盛大に鳴り響いた音が、透明な屋根を激しく震わせた。

短く悲鳴を上げて耳を押さえる男の隣で、
今まで気だるそうな雰囲気を纏っていたケイは、表情を変え即座に視線で大音響の主を追った。
それこそ、見えない銃を掲げて標的を狙う狩人か、獲物を追う鷹のような鋭い眼差しで。
後ろに続くように一連に連なる、奇妙な編隊を組んで駆ける四機の飛行物体。
それらは空中で変形し、連結し、巨大な剣を背負った人型機動兵器に姿を変える。

それは部分的に赤が混じってるものも、白を基調としたカラーリングで。
頭部には特徴的な、二つの眼を模したセンサーアイ。その上を飾る、斜め後方へ伸びる二対のアンテナ。
大剣の形状が二つの剣を接続させた双身刀だったり、装備面を見ればただ似ているだけの別物だと理解できるのだが。
「…白いMSか」
それでも、自分がよく知る機体に酷似してるようにしか見えないのだ。
極めて非現実的な観点なのだが、その鉄の身に纏う気配を感じてしまうのだ。
あれは『 護る者 』なのだと。
そして確実に、『今』の自分の前に立ちはだかる邪魔者になるであろうと。

「あれも新型だね。 新型は三機という話だったのに。情報部の怠慢だよ、まったく」
苦々しい思いを、深い嘆息に乗せて吐露すると、ケイは荒い歩調でエントランスへ向けて歩き出した。
「さっさと脱出するとしよう。君も早くプラント本国へのシャトルへ急いでね」
急にきびきびと動き始めたケイに気づき、男も慌てて傍らに駆け寄り、急ぎ足になる。


356 :4/13:2005/10/24(月) 00:10:57 ID:???

「あの、閣下はこれからいかがなされるので…?」
混乱模様が更に激化するであろう予感を感じながら、男は青年へ問う。どのようにして脱出するのかと。
「僕? 適当に足を借りていくよ。 ここにはゴロゴロあるんだし、全部は壊れてないでしょ」
そう答えるケイの顔には緊張のかけらもなく、けろりと言ってのけているのだが。
問うた方はといえば、彼が示す方法を理解しかねたようで、喉に物でも詰まったような顔で声を出せずにいる。

「ああでも、出来るだけ新型の方がいいかな? 技術部の人たちも喜ぶだろうしね」
男の様子を全く気にかけるわけでもなく、一人言葉を続けながらうんうんと頷くケイ。
その言葉で、やっと気づく。 彼の選んだ移動手段に。
「…了解しました。 道中、お気をつけて下さい、閣下。」
「うん。…それじゃあ後はよろしく頼むよ。 期日はきっちり守ってね?」
まるで状況を楽しんでるような笑顔を見せる彼へと、眼鏡の男は一礼をすると足早に去っていった。
この、つかみどころのない空恐ろしい青年に、関わり合いになりたくないと心底から思いながら。

ほとんどの人間が脱出し、ガランとしたエントランスの回転ドアをくぐり抜けたケイ。
悠然とした様子で、周囲に広がる駐屯地の施設を見渡し、目的の物を探す。
戦線は宇宙港方面へと移動した後で、周囲には消火活動や救援活動を行う者以外の兵士はあまり居ない。
ケイは顎元に指を添えながら、物色するような視線を巡らせながら小さく、んーと唸る。
ふと、難しげに寄せられていた眉がひくと動いた。

「…うん。アレにしようか」
すぃと細められた紫の瞳。 微かに口の端をつり上げながら。
ケイは近くにある、屋根の破壊された格納庫へと歩みを進めていった。
レザージャケットに隠された、腰のベルトに引っ掛けた鞘から大振りのナイフを抜き放ちながら。


357 :5/13:2005/10/24(月) 00:11:45 ID:???

「…なによ、あれっ…!」
突然、上空から目の前に落下してきたMSを目の前にして、ガイアのコクピット内でステラが呻く。
白と赤のカラーリングの、巨大な双剣を構える…恐らく自分の機体と、同系統と思われる鉄人形を睨みながら。

「それを奪って…また戦争するつもりなの!?」
両手で構えるエクスカリバーの切っ先の向こう。正面に立つ黒いMSを見据えながら、マユが吼える。
奪われた三機と同時期に開発されたザフト軍の新型MS『インパルス』のコクピットの中で。

ほんの僅かな間の睨み合い。最初に挙動を見せたのはインパルス。
対艦刀を腰溜めに構え、一気に距離を詰めんとばかりに駆け出す。
「やああぁぁっ!!」
少女の気合の声と共に一閃。ブゥンと大振りに薙ぐ一撃をガイアへ向けて繰り出す。
紅い光で構成された刃を、ガイアはビームコーティングのされたシールドで止めた。
一歩後退しながら腕を捻り、シールドに押し付けてくる相手の剣の角度を変え、滑らすように流す。
一撃を流されたマユは負けじと、受け流された刃を、さらに前へ踏み込みながら再び返す。
素早く斬り返された刃が、ガイアの胸部装甲の表層を走り、浅い亀裂を刻み付ける。
「なにっ?! ……こいつぅぅっ!!」
届かないほど浅い攻撃だったのだが、コクピット近くを狙われたことが、ステラの頭をより熱くさせる。
己も腰部に付属する二本のビームサーベルを引き抜き、インパルスへと躍りかかった。


358 :6/13:2005/10/24(月) 00:13:00 ID:???

「ちっ、もう一機新型だと!?」
突如上空から降ってきたインパルスを前に、奪取したカオスに乗るスティングは驚愕の表情を見せていた。
その機体のフレームのシルエット、特徴的な頭部の造りを見れば、
自分たちの機体と同系統だということは一目瞭然だった。

『マジかよ!? ネオもケイも、そんなこと言ってなかったぜ!』
コクピット内に飛び込んできた音声は、同じくアビスに乗るアウルからのものだ。
『なー、どーすんのスティング? バス行っちゃうかもしれないぜー』
メインカメラが捉える光景を投影する正面スクリーン。その片隅に苛立ってるらしい彼の顔が映る。
「…分かってる! だが、こいつをほっとくわけにもいかないだろう!」
歯噛みするような苦い表情で唸りながら、アウルの言葉に答えるスティング。

彼は推測していた。 もし、これが自分たちのものと同じ新型MSだとすれば。
新型機を奪った自分たちのことを、大人しくは見逃してくれるはずがないし
たとえこちらが逃げれたとしても、恐らく追撃に向かってくるであろうと。

「じゃあ、さっさと片付けて行こうぜ!」
複数で相手した方が早く済むと判断したアウルがいち早く、ガイアと交戦中のインパルスへと迫る。
手にしたビームランスを構え、組み合っている二機のうち、白い方の横腹へ向けて突きを繰り出した。
  ガキィィィンッ!!
アビスの狙いすました槍の切っ先をはね上げたのは、横合いから振られた槍だった。

「やらせないっ…!」
マユの乗るインパルスを護るように立ち塞がるもの。
アゼルが駆る緑色のMS、スラッシュザクウォーリアがハルバードを構えなおす。
『アウル、そっちの緑のを黙らせろ。 俺がステラの援護に回る!』
「オーケィ分かったよ。 ちゃっちゃと片付けてそっち行くよ」
スティングからの通信を耳にしながら、アウルは一撃の邪魔をした眼前の敵を睨みつける。
「そんなに邪魔したいんだったら相手してやるよ、一つ眼の!!」


359 :7/13:2005/10/24(月) 00:14:48 ID:???

互いに剣を振るい、盾で弾く攻防を二、三度繰り返していたインパルスとガイア。
拮抗した状況に埒が明かないと判断したステラは、バーニアを吹かせ、高いバックジャンプでインパルスとの距離をとる。
頭部の機関砲から銃弾の雨を降り注がせ、相手の動きをけん制したその間に。
ガイアは空中で身を捻り、バクゥのような四足獣型のMAに変形した。
バックジャンプの勢いを背後の壁で殺し、そのまま三角跳びの要領で再びインパルスへと肉薄する。

「うっ…速いっ!」
即座に近接戦に持ち込めないよう、インパルスと距離を置きながら
その周りを大きく旋回し、背中のビーム突撃砲を見舞うガイア。
マユも対抗して、相手をビームライフルで狙うが
そのスピードと、周囲の残骸を遮蔽物として利用した回避行動のせいで、うまく命中しない。

ガイアとは、模擬戦で何度も戦ったことあるのだが、乗り手が違うせいだろうか。
今まで戦ってきた相手とは異なる、まさに獣のような反射速度と追い込むように的確な攻撃に翻弄される。
「強奪したばかりの機体で…ここまでやれるの?」
速度を緩めることなく、縦横無尽に走りながらこちらの動きを伺うガイアを見据えながら、マユは呻いた。

反撃の機を伺っていたマユへ、苦難は更に降りかかる。
横あいから放たれた一条の閃光。 ガイアを援護すべく、カオスが撃ってきたのだ。
とっさにビームをシールドで防ぎ、直撃は避けたものも
注意が反れ、動きの止まったインパルスへここぞとばかりにガイアが体当たりしてきた。
「きゃああっっ!!」
強烈なタックルに体勢を完全に崩し、跳ね飛ばされたように地面に倒れるインパルス。

「もらったっ!」
その致命的な隙を、逃すわけがない。
ほくそ笑みながらスティングは、インパルスへ向けてビームサーベルを振りかぶり、そして打ち下ろした。

しかし、その一撃は届かなかった。
倒れるインパルスと、剣を振り下ろせないまま立ち尽くすカオスの間。
先ほど襲われていたザクが、インパルスとカオスの間に割って入り、トマホークでカオスのサーベルを受け止めていた。
転倒の衝撃でまだ揺れるような感覚の残る意識の中、それに気づくマユ。
危ないから下がって、と彼女はザクのパイロットへ向かって叫ぼうとしたのだが。

ビームトマホークとサーベルで競り合っていたザクは、不意に足を上げ、カオスをしたたかに蹴りつけたのだ。
体勢を崩し、後ろへよろめくカオスから、今度は背後から飛びかからんとしていたガイアへと
振り向きざま、すかさずビームトマホークを投げつけ、その横っ腹を打ちすえる。
その見事な身のこなしを、マユはインパルスを立ち上がらせながら、驚きの眼差しで見ていた。


360 :8/13:2005/10/24(月) 00:16:43 ID:???

「ちぃっ、この野郎ぉっ!!」
突然乱入してきた一般機。しかも、損傷している相手に出し抜かれ、怒りをあらわにするスティング。
ふらついた足を立て直し、即座に胸部に装備されたバルカンの弾をザクへと向けて浴びせかける。
前後を敵に挟まれたザク。 ガイアへとトマホークを見舞った後、背後のカオスへと振り向いた瞬間だった。
とっさに右腕を跳ね上げ、コクピット部をかばっただけ上出来だったかもしれないが
断続的な衝撃と共に右腕は爆散し、片手を失ったザクはガレキの上に倒れこんだ。
「っ!? …させないっ!!」
さらに追撃をかけようとするカオスとガイアの前へ突進するインパルス。
挟撃に備えるべく、分離させた対艦刀を両手に構えて駆け寄るそれに向け、カオスがライフルの銃口を向ける。

その時、上空からビームのつぶてが降り注ぎ、カオスの動きを阻んだ。
予期せぬ援護に驚き顔を上げるマユの瞳に、黒煙漂う中でもその色を損なわない真白のザクが映る。
「レイお兄ちゃん!」
ビームマシンガンを携えながら傍らに降りてきた白いザク、ブレイズザクファントムへと声を上げる。
『無事か? マユ、アゼル』
「あたしは大丈夫!」
『こっちも、なんとか』
白いザクのパイロット…マユたちと同僚で、同じくミネルバに所属するレイ・ザ・バレルの声に各々返答する。
「ルナお姉ちゃんは無事なの?」
もう一人の同僚の姿が見えないことに気づき、心配になったマユはレイへと尋ねる。

…彼女、ルナマリア・ホークは確かレイと一緒に行動していたはずだ。
『機体が瓦礫に埋もれてな。俺の機体は無事だったが、ルナの機体は少々損傷していた。途中までは一緒に来ていたんだがな』
モニター越しに見えるマユの心配そうな顔を見てか、レイは彼女を安心させるように声のトーンを和らげる。
『大丈夫だ。 ルナは修理のために引き返し、既にミネルバに着艦している』
その言葉にふっと息をつき、安堵するマユ。
『こいつらをこのまま逃がすわけにはいかない。 ここで取り押さえるぞ』
「うん!」
隊の指揮官であるレイの言葉にマユは深く頷き、力のこもった眼差しで目の前の二機のGを睨み据えた。


361 :9/13:2005/10/24(月) 00:17:47 ID:???

アーモリーワン内部でMS同士の戦闘が繰り広げられる中、その近辺宙域にも突如戦いの烽火が起こる。
コロニー内部での新型機強奪事件の報を受けたザフト軍の艦隊が、コロニー周辺を哨戒していた。
必ず訪れるであろう、強奪者たちへの迎えの艦をいち早く押さえるために。

しかし彼らが、それを発見することはなかった。
突如、何もない空間より放たれた幾条もの砲撃がナスカ級戦艦を貫く。
断続的な爆発と共に、折り紙細工のように容易く折れ曲がり、爆散する最中。
まるで闇色のカーテンをまくり上げるように、船首部分から徐々に色付き、その姿を現す蒼い戦艦。

何かの物影からではない。 全くの虚空から現れたそれは、ミサイルや艦砲を周囲の艦へと容赦なく浴びせかけていく。
周辺全ての戦艦を、あっという間に沈めた所属不明のその艦から、次々とMSが射出されていく。
青いサングラスのようなバイザー型のメインカメラが特徴的な、灰色のフレームの機体。
先の戦争で地球連合軍が主力MSとして運用したストライクダガーの後継機、ダガーLだ。

彼らは、戻る艦を失う突然の出来事にうろたえるように停止しているジンやゲイツへ向けて、群れを成して襲いかかる。
続いて、蒼い艦から発進する赤紫色のMA。
戦闘機のような流線型のフォルムに、大振りのリニアガンを二門。
そして、機体後部にガンバレルユニットを4機装備したその機体は
自慢のスピードをもってしてザフトのMSの脇をすり抜け、アーモリーワンへと進路を向ける。

「いいか、出来るだけ時間を稼げ! 彼らも直に出てくるからな」
マゼンダカラーのMA、エグザスを駆る仮面の男…蒼い艦の指揮官、ネオ・ロアノーク大佐は随伴するダガー隊に指示を出す。
ザフトのMS部隊との交戦が始まり、そこかしこで爆発が起こる中、脇目もふらず眼前のコロニーへと近づく。
彼は目にする。コロニーの港湾部から、盛大な爆風があふれ出す光景を。

前もって隠密に向かわせていたダークダガー隊が、奇襲に成功したことを理解し、予定通りだと彼は笑みを見せる。
敵襲の報を受けて、発進を間近に控え宇宙港にひしめいていたザフト軍の戦艦が
急襲され、為す術もなく一方的に破壊されていく爆風だ。
たち込める煙塵の中から飛び出してくるダークダガー数機。 爆発をかいくぐり、皆無事に逃げおおせたようだ。

「…ん?」
ふと、怪訝げな声を漏らすネオ。顔の上半分を覆う仮面に隠れて見えないが、眉もしかめていたかもしれない。
帰還してくるダガー隊に混じって、緑色のMSがこちらに向かってくるのだ。
特徴的なモノ・アイカメラは、明らかにそれがザフト製であることを物語っている。
『ただいま、ロアノーク大佐。』
ザフトのMSから飛んできたのは、暢気な青年の声と、コクピット内の彼の映像だった。


362 :10/13:2005/10/24(月) 00:18:59 ID:???

ネオはといえば、驚きと呆れのあまり思わずシートから滑り落ちそうな気分だった。
帰る方法は適当に探すよ、とだけ告げて下艦した上司。
自分がアーモリーワンで新型機強奪作戦を行うことを聞きつけて
突然、バスに乗り合うような感覚で乗船を求めてきた上司。
明らかに自分よりも十歳は年下のその上司が、敵軍のMSに乗って戻ってきたのだ。

「…聞いていませんよ、そんな方法で戻ってこられるとは。 味方に狙われたらどうするんですか。」
モニターに映るケイへ、深い深い嘆息と共に、低い声でそう言うネオ。
『問題ないよ。識別コードは友軍のものに変えてるしね? それに、当たるような僕じゃないし』
相変わらずの穏やかな表情のままの、不敵な発言。
『で、彼らは? まだ来てないの?』
「若干、トラブルが起きているようです。 いま少し時間が必要かと」
ケイが問うた対象は、強奪作戦に向かった三人の少年少女のことだ。
ザフト軍の追撃を受け、足止めされているとの情報は伝わっていたので、ネオはそう答える。
ふぅん、と画面向こうで頷く青年。

『なら、僕も手伝うよ。 久々にシミュレーターじゃなくて、実際の戦闘を楽しみたいからね!』
遊びを見つけた時のように楽しそうにそう言うと、
一方的に通信を切って、強奪した機体、ザクのバーニアを吹かし戦闘の只中へと向かうケイ。
装備していた大型のビームキャノンを構え、胴ばかりを狙う正確無比な射撃で敵MSを撃ち抜いていく。
「おいおい! …ったく、こっちの都合を考えないお方だな! イゾルデの旦那の苦労がよぉく分かったよ!!」
応答も聞かずに、勝手気ままに行動し始める自分の上司の背中を睨みながら
ネオは、常日頃彼の命令の元で動かなければならない立場の同僚のことを憐れんでいた。


363 :11/13:2005/10/24(月) 00:20:03 ID:???

一方、アーモリーワンの内部での戦闘はいまだ続いていた。
マユのインパルスとレイのザクファントムが、ガイアとカオスと交戦している中
スラッシュザクを駆るアゼルは、アビスと対峙していた。

「ほらほらぁ、守ってばっかりかよ!?」
コクピット内で勝ち誇るような笑いを見せながら、吼えるアウル。
アビスに装備されたビームランスを振るい、ザクを追い詰めるように攻め立てる。
相手は最初から防戦一方で、両肩のシールドで突きを流したり、少しずつ後退しながら回避するばかりだ。

「ははっ! 威勢よく出てきた割に、大したことないナァ!!」
消極的な敵の行動に調子に乗った彼は、盾ごとへし折るつもりで、大上段に槍を振りかぶった。
その大きな挙動。 わずかに生まれる隙。
それを狙っていたかのように、突然身をかがめて前へ大きく踏み出すザク。
いざ打ち下ろさんとしていたアビスの手元を狙い、ハルバードを振り上げ、ランスの柄を弾いた。

「なにっ!?」
手から離れた武器は宙で放物線を描き、後方の地面に落ちる。
それこそ、襲っていたネズミに噛み付かれた猫のように、唐突な出来事にアウルは驚く。
上へ向かって振るったハルバードを、その勢いのままグンと回転させ、真正面へ突きの構えに向けるザク。
それと共に、ハルバードの先端に閃光が生まれる。
柄の長さと等しいほど長大な、ビームによって構成された槍の穂先が。
それを合図に、ザクは背中のブレイズユニットのブースターを全開にし突撃。アビスへと槍を突き出す。
しかし、隙を的確に狙ったその突撃を、アビスは間一髪で空中に上昇し回避した。
「…速いなぁ。 向こうは相当の手練か」
立て直しの早さ、尋常ではない反応速度を目の当たりにし、アゼルは呟きながら宙にいるアビスを睨んだ。


364 :12/13:2005/10/24(月) 00:21:33 ID:???

戦闘の最中。突如響く、大きな爆発音。 それと共に彼らが立つ地面、コロニーが大きく揺れる。
その振動に、戦闘を繰り広げていたマユたちも、そして相手の方も一瞬身を強張らせる。
『爆発っ?』
『…こいつらの仲間かもしれんな。 コロニー外にも敵がいるようだ』
アゼルの驚きの言葉に答えるレイ。 爆音が聞こえた方を見ると、宇宙港の方向だという事に気付く。
その音は、敵方にとって何らかの兆しだったらしく。カオスとアビスは空中へ上昇し、離脱する様子を見せる。
だが、ガイアだけは逃げる素振りを見せず、執拗にインパルスへと接近し攻撃を繰り返してくる。
浴びせられる砲弾と、合間に混ぜられる剣閃。その中でマユは、くぅと呻きながら防戦の構えで耐えている。

彼女が反撃の糸口を見つけ出せないでいたその時、不意にガイアが凍りついたように動きを止める。
そして、まるで何かに怯えるように、数歩後ずさると身をひるがえし、空中に上昇した。
こちらに無防備に背中を向けたまま、わき目も振らずに離脱していく姿に、思わずマユは呆然となる。
残りの二機も、それを追いかけて飛び去っていく。
「…っ! 逃がしてたまるもんですか!」
突然の変容に、しばしぼぅとしてしまった少女。 離れていく三機に気づき、続くように宙へ飛び上がる。
しかし、三機に追いつこうと考えると、近接戦仕様のソードでは難しく。
また、機動性の問題で空中戦には不向きだと判断したマユは、ミネルバへと通信を送る。
「ミネルバ!フォースシルエットの射出をお願いします!」


365 :13/13:2005/10/24(月) 00:22:36 ID:???

破壊された港湾部を中心に、いまだ混乱と破壊の只中にあるアーモリーワンの周辺宙域。
MAならではの、疾風のような敏速さで敵の群れを突き抜けていくエグザス。
その後部から分離されたガンバレルが、敵を囲み、絶え間なく移動しながら射つ全周囲攻撃でゲイツを翻弄する。
携えたビームキャノンを持ってして、己と同系機であるザフト軍の機体を撃ち落としていくザク。
識別コードより先に、視覚的な情報から判断に迷い、動きを止めるジンのコクピットをためらいもなく破壊する。

「ダガー部隊は後退を開始 ガーティー・ルーは前進し、彼らの到着に備えろ!」
エグザスから飛んだ、ネオの指示に従ってダガー部隊は後退し、次々と母艦へ着艦していく。
自らは戻らず、全機の着艦を見届けていたネオは、ふと隣に視線を向ける。
「閣下もお下がりください。 しんがりは自分が務めます」

静止しているエグザスの脇に佇むザク。コクピット内でネオの言葉に耳を傾けていたケイは、やんわりと首を振る。
「いや、このまま残らせてもらうよ。 ちょっと気になることがあるんでね」
モニターの向こうで、ネオは不快そうに口元をしかめているが、気にもかけずに周囲へと視線を巡らせている。
「…来たか」
紫の眼差しが認めた異変。 コロニーの外壁に開いた穴を見て、小さく漏らす。
コロニー内部と宇宙の気圧差による、強烈な空気の流れに身を任せ飛び出してくる三機のMS。
それらを追って、同じように三機のMSがその穴から出てくる。
白と緑のザク。 そして、先ほど目にした白いGが。

「やっぱり追ってきたか…」
暗い宇宙空間に一際冴える白の機体は、武装を変更したのか先ほどとは若干異なるカラーリング。
そんなところまで見覚えのあることに気付き、憎々しげに吐き捨てる言葉。
「ロアノーク大佐! あれが四機目の、未確認の新型だよ」
『ほう。 …では、あれも手に入れるとしますか?』
画面の向こうで応じ、答える仮面の男は不敵に笑いを見せ、乗り気の様子だ。
「そうだね。 盟主殿へのサプライズプレゼントにでもしようか?」
にぃ、と邪悪にほころぶ端正な口元。
その言葉と共に二人は機体を迅らせ、三機のGを追うザフトのMSへ向かい迫っていった。