518 :舞踏の人:2006/02/22(水) 02:08:01 ID:???
本編がなかなか進まない中、なんとなしに思いついた小ネタを投下いたします…
マユちゃんは全然出てきません。 ケイとぬこ様のお話です。

519 :1/3:2006/02/22(水) 02:08:45 ID:???

とにかく大きく、とにかく繊細な模様の描かれた、いかにもゴージャスな絨毯を踏みしめながら
私は部屋の真ん中に置かれたソファーへと歩み寄り、真紅のビロウドの上に飛び乗った。
……うん、さっきの跳躍は我ながら見事なものだった。 98点というところか。
自らの華麗なる動きへの評価を付けて、満足した私はソファーの上に横たわり、身を丸める。

やや、申し遅れた諸君。 ご覧の通り、私は猫である。
名前は…………むむ? 私の名前は………………


……はて、なんだったろうか。



     舞踏閑話 ― ぬこ様とケイ。―



…突然取り乱してしまい、申し訳なかった諸君。
あまりに考え込んでしまったがためにイライラしてしまって、ついそこなクッションに当り散らしてしまった。
部屋中に舞い散る、極上のガチョウ羽毛が雪のようでなんとも美しい…そうは思わんかね、いやそういうことにしておこうよ。


しかし、どうにも腑に落ちない。 私の名前はいったいなんだったんだろう。
……あらかじめ断っておくが、私は決して下賎の猫のように阿呆ではない。
トイレの場所も熟知しているし、主であるロード・ジブリール氏の顔もよく覚えている。
更に言えば、私の品種名がノルウェイジャンフォレストキャットという長たらしいものだということも理解している。
どうだ、すごいだろう。 猫としては信じられないことだろう。 ささ、ここは褒めてもいいところだよ。


…おっと、自慢げにしている場合じゃなかったな。 さしあたっての問題が全然解決していないじゃあないか。
そも、ここしばらくの記憶を辿ってみれば、主が私の名を呼んだような記憶が無い。
呼びかけられるときはいつも、おい、だのキミ、だのしか言われていないような気がする…。
これは主とはいえ、あまりにヒドイ仕打ちではないだろうか! 
虐待だ、絶対に動物虐待だペット虐待だ、いわゆる一つのネグレクトというやつだ!
ふつふつと湧いてきた怒りのあまり、自慢のふさふさ尻尾がよりもっさり膨らんできたのを、私は実感した。


ううむ、ここは不満を主張すべく少々悪戯をするべきであろうか。
そう思った私は、さてどんな悪事を実行しようかと悪魔の如き頭脳を回転させていた。
…その時。 突然部屋に響く扉の開閉音。
不在の主が帰ってくるには早い時間ということもあり、私は驚き身体を跳ね起こした。

「あれ、やっぱりまだ帰ってきてないなジブリールさん。 ここで待たせてもらおっか」

部屋の中をキョロキョロと見回しながら、そう呟いた侵入者は
黒い軍服を着た、随分と若そうな人間のオスであった。

520 :2/3:2006/02/22(水) 02:09:48 ID:???
豪華な内装に物怖じした様子もなく、無造作にソファーへと近寄ってきた侵入者を
私は自慢のふっさり毛の奥に隠された、日頃から手入れを欠かさない鋭い爪を出す準備をしつつ、睨みつけた。
主不在の今、彼の無二のパートナーであるこの私こそが、この部屋の管理を任されているとも言えよう。
だから、不法侵入者がなにか一つでも不審な動きを見せれば、飛びかかって追い出してやろうと考えていた。
……しかしこの男、私の放つ殺意にも近い気迫にも全く動じず、平然と向かいのソファーに腰を下ろすではないか!

「あ、猫だ」

腰を下ろしてふっと息付いて、少しの間を置いた後、彼は私を見て声を上げた。
……どうやら、たった今私の存在に気付いたばかりのようだった。
周囲の気配に注意を払わない、間抜けな侵入者を前に、私は大きくため息をついて自慢の爪を引っ込めるのだった。


とりあえずのところ警戒を解き、再びソファーの上で丸まった私だが
真向かいにいる青年の、興味津々と言った様子の眼差しがなんとも鬱陶しくてのんびりくつろぐことも出来ないでいた。

「ねえ、こっち来ない? 待ってる間ヒマだから遊ぼうよ」

ずっとこちらを観察し続けていた彼は、自分の膝を叩いて示しながら声をかけてきた。
が、そんな誘いに尻尾振って行くほど私はお安くないのだ。 つんと顔を背けてその意志を示しておく。
すると彼は、なぜ来ないんだろうと言わんばかりに不思議そうな顔で首を傾げていた。
私は主の操るような、見事な猫じゃらし捌きでないと満足できないタチなのだ。あんな若造じゃあ、到底及ばないだろう。

一向に自分の方を向かない私を見て、青年はうぅんと唸り、考え込むように口元に手を当てていたが
やがて、ソファーの上に転がっていた猫じゃらしの存在に気付くと、それを手にした。
いや、だから無理だって。 主の卓越した猫じゃらし捌きじゃないと、私は乗らないんだってば。
なにも言わず、ただジト目で見ることで興味が無いことを伝えていた私だったが…

「ほら、ほらほら、おいで?」

そんな呼びかけと共に動かされた小さなもけもけは……まるで、活きのいいハツカネズミかと思うほど軽やかに動いていた。



さながら、炎に近づけられたひとひらのティッシュペーパーのように
私の理性は真っ白に焼かれ、あとかたもなく消え去っていた。

「うにゃぁぉん! うにゃんうにゃぉ!!」

私との距離が開いている時は、まるで怯えるかのように小刻みに震え、私の嗜虐心を刺激してきたが
それに誘われ、飛びかかると脱兎の如く私の手足の間をすり抜け、いずこかに逃走する。
着地し、相手の逃げた方を振り返れば、ニコニコと笑う青年の前で、共にあざ笑うかのようにトントンと跳ねる猫じゃらし。
まるで狩猟の獲物を思わすような、絶妙な猫じゃらし捌きを前に
私は、先ほどまでの怒りも退屈も忘れ、一心不乱にじゃらされていたのだった。

521 :3/3:2006/02/22(水) 02:10:56 ID:???
「…おや、ケイ。 来ていたのか」
「ジブリールさん、お邪魔してます」

主と、それに答える青年の声に我を取り戻した私は
青年の肩や足の影から誘うように、出ては引っ込む猫じゃらしを追うのを止めて、にゃあんとお帰りの挨拶を主へと向けた。
…もっとも、それは若干荒い息に乱された無様なもので、主はどうしたと言わんばかりの顔で私を見つめてくる。

「ねえ、ジブリールさん。 この子どういう名前なんですか?」

その言葉と共に、私の身体は不意にソファーから離され、青年の手によって膝の上に乗せられていた。
不覚を取った、と思いはしたのだが激しい動きでじゃらされたことによる疲れで、逃げ出そうにも身体がいうことをきかない。
……しかし、彼はまるで私の欲求を読み取ったように私好みの動きを繰り出しただけでなく
先ほどから私の心を悩ませていた疑問まで、代弁するように問うてくれた。
なんだ、ものすごくイイやつかもしれない。 青年に対する認識を変えた私は、彼と共に問いかけの視線を主へと投げかけた。

「名前…か? そう言えば、シュタウフェンベルグと名付けたはずだが……」

むむ、と困った風に眉寄せながら主はそう答えた。 なんか、妙に自信なさげな語尾が気になって仕方ない。
……しかし、なんと長い名前なんだろう。 いくら賢い私でも、何十回も呼ばれなければ覚えられないかもしれない。

「そんな長い名前じゃ、呼んであげれないでしょう。 もっと短くて分かりやすい名前にしてあげましょうよ」
「む、そうか……ならばどうするかな……」

…彼の指摘は、大当たりだったようだ。
主は、私にカッコつけた長い名前をつけたのはいいが、長すぎて自分でも使っていなかったのだ。
それを証拠に、あからさまに顔色を変えた主は、ブツブツと様々な名前を口にしては、
これはいまいち、とか可愛くない、だのと一人会議を繰り広げている。
今まで、主のことを一分の隙も無い完璧な紳士と思ってきた私だったが、
案外、いい加減な面があることを知って少々幻滅していた。

「じゃあ、"ミヒャエル"ってのはどう?」

不意に聞こえた、感じのいい響きは青年のものだった。 主にではなく、私を見ながらそう聞いてきた。
……ミヒャエル…ああ、けっこういいかもしれない。 短い上に、なんだが高貴な感じがする。
彼の提案した名前が気に入った私は、機嫌の良い声でにゃあと応じた。

「ほら、これでいいらしいですよ?」
「む、私が飼い主なんだが……しかし悪くない名前だしな…」

あくまで名付け親になりたかったらしい主は、少し不満げな顔をしていたが、最後には渋々納得して、頷いた。

「決まりですね。 …改めて、僕はケイ・サマエル。 よろしくね、ミヒャエル?」

名前をくれた青年、ケイは私を抱き上げると頭上高く持ち上げながら、にこりと笑った。
……彼とは、良い友達になれる気がする。
なんとなくそう思った私は、自分の中でもとびきり良い声で、にゃあおんと一声鳴いた。

522 :あとがき :2006/02/22(水) 02:14:17 ID:???
ぬこ様、公式にも名前が無いので勝手に決めてしまいましたorz
自分ところの話では、ジブリの出番も多いのでぬこ様もしょっちゅう出てくるかなー…と思って考えた次第です、はい。

きっと、ケイの猫じゃらし捌きがスペシャルなのは彼がスーパーコーd(ry


悪乗り的な内容でした。 お目汚し失礼いたしました…。