- 195 :I and I and I(1/11):2006/06/14(水)
01:07:28 ID:???
- 未来に希望を持つ。
何かを目指して向かう。
それだけで、人は強くなれる。
でも、それは本当に正しいことなのかな。
それとも、間違っていても進めれば、それは正しいことになるのかな。
たとえ後悔することになっても、それでいいと、思ってしまうのかな。
〜I and I and I〜 第十五話「夢見る少女じゃいられない」
ミネルバに同乗しているマユにとっては、そう長くガルナハンにはいられない。
カズイ達との別れの時が刻々と迫っていた。
「俺達はガルナハンに残るよ」
「この騒動で怪我した人が結構いるし…」
それより何より、街にはまだ活気がない。
二人にはやり残したことがある。
それがわかっているマユは、ニッと笑って見せた。
「はい。それじゃあ、またいつか」
いつ会えるかなど、この戦況ではわからない。
だが、会える、会いたいという意思がある。
だから不安なく笑えた。
そんなマユに対して、カズイはどこか心配したような、しかし優しい表情を見せる。
「まだヴィアなら、俺が兄さんかな」
問いかけるような、また曖昧な言い方をしてみせて、そう言った。
- 196 :I and I and I(2/11):2006/06/14(水)
01:09:03 ID:???
- 「抱きつかれて、ヴィアが馴染めてないんだなってわかったよ」
ここで引き留めることも可能だろう。
引き留めてまた一緒に旅も続けることもできる。
言ってしまったら駄目なこともわかった上で、カズイはその言葉を紡ごうとしていた。
「ヴィア、良かっ…」
「平気です」
カズイが言い出す前に、マユが声を発する。
「逃げたしたいって思うことはないけど、ミネルバにいることが嫌になることはあります」
満面に笑っていた表情も薄れてはいくが、笑みを消すことはなかった。
「でもみんなの側にいたいって思うから、ヴィアのままでも……………平気です!」
長い沈黙の後、マユは空元気ながらもそう言い切る。
「コニールには、また絶対会おうって伝えてください。今はちょっと、顔合わせられそうにないから」
手を振ると、マユはミネルバに向かって走っていった。
最後に声をかけることもできず、サイとカズイは二人、立ち尽したまま。
「役立たずな兄さんだね」
カズイは苦笑して、サイに言う。
「ヴィアって、意志は強いけど、依怙地になる部分があるんだよ」
サイは静かにそういうとガルナハンの街に向けて歩きだした。
- 197 :I and I and I(3/11):2006/06/14(水)
01:10:31 ID:???
- それに、カズイも続く。
「だから夢の中よりも、現実を選んだ。そういうことなんじゃないか」
そう付け足して、慰めるようにサイは返した。
兄から、娘が自分の手から離れた親になったような心境に、カズイはどこか物寂しく感じる。
ミネルバはガルナハンを離れ、ディオキアへ向かう。
そこには何が、待っているのだろうか。
様々な者達が初めて出会い、または再会することになるディオキア。
「みなさーん!ラクス・クラインでーす!」
ピンクのザクの手に乗り、ステージで踊り歌う少女が一人。
「ラクスさんじゃ、ないのに」
思わずマユは呟いていた。
マユの瞳にだけは、ラクスの姿をした彼女が、ミーアの姿形で見えている。
「マユ、どうかしたのか?」
「いえ…なんでもないです。シンさんはコンサート見ないんでしょう?」
「え?まぁ、呼び出しがかかるまで基地でも見て回ろうかなって」
「じゃあ私も!」
シンの背中を押して、マユは会場から少しでも離れようとしていた。
ラクスと似ても似つかない人物を、ラクスと呼び、声援を送るこの状況。
マユからして見れば、違和感以外のなにものでもない。
- 198 :I and I and I(4/11):2006/06/14(水)
01:12:16 ID:???
- そんな場所から逃げ出そうとするマユを、遠くから一人の男性が見ていた。
ミーアだけではなく、デュランダルもディオキアに訪れている。
基地内の保養施設にて、デュランダルはレイを呼んだ。
デュランダルに呼ばれた部屋には、デュランダル本人と、一人のザフトレッド兵が待つ。
「元気そうで何よりだ、レイ」
「ギル…」
「活躍は聞いているよ」
デュランダルの優しい言葉に、レイは表情を緩ませ、思わず抱きついていた。
「よしよし、しばらく会わない内に随分甘えん坊になったようだね」
「す、すみません、ギル」
「夜に、またゆっくり話そう。今はまだ別に話すことがあるんだ」
頭を撫で、静かにレイを離すと、デュランダルはテラスに用意されたテーブルに着席する。
「先に紹介しておこう。ミネルバに配属になる、ハイネ・ヴェステンフルスだ」
「どうも」
「ハイネ…灰色の猫」
気のせいか、レイの眼光が鋭くなった。
それを察して、デュランダルに紹介されたハイネは溜息混じりに軽く笑って見せた。
「戦果を上げると、噂だけが先走りしてね。ミネルバもそうだろ?」
「え…いえ、まあ」
- 199 :I and I and I(5/11):2006/06/14(水)
01:13:45 ID:???
- 気さくなハイネの物言いに、レイは少々うろたえながら言葉を返す。
「ハイネはレイと初めて会うわけだが、何か感じるかね」
そんな二人を眺めながら、思わせ振りな聞き方で、デュランダルはハイネに尋ねた。
「感じるというのはアレですがね、そのまぁ、感受性は高いみたいだ」
濁すような、しかしはっきりとした言い方をして、ハイネは答える。
「そうか…」
うっすらと笑みを浮かべて、デュランダルはハイネを眺めた。
ハイネの視線がこちらへ向くと、わざと一度視線を合わせて、デュランダルはレイに視線を移す。
「それでレイ、ヴィアは、いやマユ・アスカだな。彼女はどうかね」
「戦闘中に、俺の思考の中に直接声が届いたような気がしました」
「ほう…それは興味深いな。後でまた詳しく聞かせてくれ」
マユの力に興味を示し、そしてマユの力を欲している。
レイもハイネも、そのことはすぐにわかった。
「レイ、ハイネ、君達の力は新たな世界には必要なのだ。そして、ヴィア…マユ・アスカ、彼女も」
その長くウェーブのかかった髪を軽く掬うと、デュランダルはまた笑みを浮かべる。
- 200 :I and I and I(6/11):2006/06/14(水)
01:15:45 ID:???
- 「議長、タリア・グラディスです。ミネルバパイロット達も一緒ですわ」
ノックと共に、廊下から声が聞こえた。
デュランダルは席を立ち、何食わぬ顔で出迎える準備を始める。
そんな彼を見ながら、レイとハイネは席を立つのだった。
「くしゅん!ん〜…誰か噂してるのかなぁ…」
デュランダル達の会談など露知らず、保養所のカフェでマユは一人シンを待つ。
デュランダルに呼ばれ、タリアやミネルバのパイロット達は揃って行ってしまった。
「相席、よろしいやろか?」
不意に声をかけられ、思わず顔を上げる。
コンサートのせいで人がいなく、閑古鳥が鳴くような、がらんとしているカフェだというのに。
「どうぞ」
「すんまへんなぁ。ワテのこと、見覚えありまへんか?」
「え……あぁ、ラクスさんのマネージャーさん」
前に一度プラントで、挨拶もせずに会っただけだが、特徴ある容姿は覚えている。
「キングT@KED@いいますねん、ごひーきに」
「タケダ、さん」
「ちゃうちゃう、T@ーKEーD@や。アルファベットで、Aは@ですねん」
(な、なんでわかったんたんだろ)
愛想笑いと苦笑いがあわさって、微妙を笑みを浮かべるマユ。
- 201 :I and I and I(7/11):2006/06/14(水)
01:17:18 ID:???
- 「すんまへんなぁ。実を言うと、ヴィアはんにお願いがありますねん」
深刻そうに言うキングに、マユの顔から笑顔が消えた。
「議長からヴィアはんのことは聞いてます。ラクス様、いや…ミーアはんのことですねん」
随分と思い詰めている様子だった。
デュランダルから聞いているということは、マユの目に映るミーアがどんな姿なのかを知っているということ。
それで何故、キングが悩んでいるというのか、その答えにはまだ繋がらない。
「ミーアはんとは、ラクス様の代役をやる前からマネージャーをやっとったんです」
「じゃあ、長い間一緒にいるんですね」
マユの言葉に、懐かしい思い出が蘇ったのか、キングの表情が和らいだ。
だがすぐに、深刻な顔に戻ってしまう。
「アイドルとしても歌手としても、プラントで人気といえばラクス様しかおらへん」
ラクスがプラントで人気なのは、マユも知っていた。
ミーアがこうして騒がれているのがいい証拠である。
テーブルの上に置かれていたキングの拳が、悔しそうに震えた。
「そんな中でプラントでデビューしても、ブレイクなんか期待できへんのや」
- 202 :I and I and I(8/11):2006/06/14(水)
01:18:54 ID:???
- 「だから、人気のあるラクスさんの姿をしている…そういうことなんですか?」
「ミーアはんが満足できればそれでええんです、それで…」
確信を突くマユの発言に、キングは動揺する。
「それにラクス様の代役は、議長から与えてもらはった重要な役割です」
社交辞令のように、付け加えられた一文。
それで自分に言い訳して、言い聞かせているのだろう。
「だからヴィアはん、ミーアはんのことはくれぐれも誰にも言わんといてください」
立ち上がると、キングは深く深く頭を下げて、マユに懇願した。
そんなキングに、マユも慌てて立ち上がる。
「い、言いませんよ。だから顔を上げてください」
「ホンマでっか!?いやいや、良かった。ヴィアはんがええ人で」
表情を一変させて、キングは狂喜乱舞しそうな勢いでマユの手を握ってぶんぶんと振り続けた。
「おや、マユ君じゃないか」
「あ、副長さん」
「じゃあワテはこの辺で。ヴィアはん、このことはくれぐれも、でっせ」
そう言うと、そそくさとキングは立ち去っていく。
キングの後ろ姿は嬉しさが滲み出ていた。
- 203 :I and I and I(9/11):2006/06/14(水)
01:20:26 ID:???
- (ワタシは言わないけど…でもミーアさんは、きっと後悔するんじゃないですか?)
そんな後ろを見つめて、心の中でマユは問いかける。
誰かを装ってその人気を得ているのだとしたら、もし偽物だと知られたらその人気はどうなるのだろうか。
ミーアは、どうなるのだろうか。
「知り合いかい?」
アーサーの声で我に返る。
振り向き、何事もなかったかのように微笑んでマユは口を開いた。
「ラクスさんの、マネージャーさんです」
「なんだってぇ!?じゃあラクス様のサインを貰ってきてくれないかなぁ」
先程のキングより対応に困るアーサーに、マユの笑みは途端に歪む。
「あぁごめん。ちょっとたまに周りが見えなくなっちゃうんだよ」
「は、はぁ…そうなんですか…」
さほど興味もない。
早くシンが戻ってこないかと、マユは心の中で急かすのだった。
すると、そんな願いが届いたのか足音がこつこつと近付いてくる。
「シンさ…」
「ご期待に添えなくてすまないね、マユ・アスカちゃん」
期待していたマユの表情が崩れた。
現れたのは、ハイネだった。
「それに久しぶりだな、アーサー」
- 204 :I and I and I(10/11):2006/06/14(水)
01:22:11 ID:???
- 「ハイネ・ヴェステンフルス…まさか、ミネルバに配属になるパイロットって」
「ご名答。俺だよ俺。懐かしいなぁ、同じ隊になるなんて前の戦争以来か」
感慨深く言いながら、ハイネはアーサーの肩をぽんぽんと叩く。
話題についていけないマユは取り残されるだけ。
「三人は?元気にしてんのか?」
「終戦を折りに退役して、今はプラントにもいないって話は前に聞いたが」
「そうか。そりゃ残念だな。ま、アーサーはこれからよろしくっと!」
背中をばんと叩くと、笑いながらハイネは通路の奥へと消えていった。
「相変わらず…食えない奴」
背中をさすりながら呟いたその言葉は、意外にも鋭い。
「トライン副長!」
ハイネが現れた通路から、今度はルナマリアがやってくる。
続けてシン、アスラン、タリアが姿を見せた。
「アーサー、あなた何やってるの?」
「いやぁ、私も議長に挨拶しておこうかと」
「はあ…なんのためにあなたをミネルバに残したと思ってるの!」
「ヒィ!すびばせ〜ん!」
アーサーは元のアーサーに戻っていた。
だがマユは、アーサーの雰囲気が変わったことに気付いている。
- 205 :I and I and I(11/11):2006/06/14(水)
01:23:11 ID:???
- 「マユ、今日は保養所に泊まっていいんだってさ」
「へっ?」
「なんだよ、聞いてなかったのかよー」
「ご、ごめんなさい」
アーサーに気を取られて、シンの声も上の空になってしまった。
「保養所に泊まっていいから、マユも一緒に寝ようぜ」
「ふぇ!?」
「だって前は一緒に寝てたんだぞ」
胸がドキドキする。
妹だからというはわかっている。
シンは深い意味もなく言った。
だが、その言葉を受けた時の胸が高鳴りは、マユの中で一つの気持ちの確信に繋がる。
(好きなんだ…)
頬が熱いのがわかった。
この気持ちを落ち着かせようとしても、簡単には収まらない。
変に思われないか不安になって、マユは散歩に行くと言って保養所を飛び出した。
続