- 121 :I and I and I(1/10):2006/07/10(月)
21:56:18 ID:???
- いつかはこうなるって、わかっていた。
それを望んだのもワタシで、それを拒んだのもワタシ。
ワタシはワタシでありたい。
いつかは、ワタシでなくなってしまうと思うから。
だから今だけはって、それまではって、そう願う。
でも結果は、願いを叶えてはくれなくて。
ワタシも、自分のそんな願いから背を向けるしかなかった。
〜I and I and
I〜 第十七話「あなたの妹じゃいられない」
久しぶりにマユの携帯電話にメールが到着した。
メールアドレスは、一件しかメモリーには登録していない。
足長お兄さんだ。
『件名/久しぶりだね
本文/もうメールが届く場所に帰ってきているのかな?
今度は僕が遠くへ行くことになってしまったよ。
といっても、ちゃんとメールはできるんだけどね。
答えを出すことはできたのかな?
君の行きたい道を選べばいいと、僕は思う。
君の味方の足長お兄さんより』
短い文章の中に、篭っている優しさ。
どんな気持ちで相手がこの文章を打ったのかはわからない。
だが、今のマユにとっては、その言葉が決意に足る原動力になる。
「ありがとう、足長お兄さん」
何が正しいのか、未だその答えは出てはいない。
- 122 :I and I and I(2/10):2006/07/10(月)
21:57:59 ID:???
- それとも答えは、もう出ているのであろうか。
「ミネルバを降りる?」
気持ちが変わってしまわぬ前に、マユはアスランにその思いを告げた。
「これ以上ここにいてもシンさんやみんなにに迷惑をかけるだけだと思うし」
「迷惑ということはないと思うが…」
「でも、また戦闘なんてことになったら、大変でしょう?」
「その戦闘のことなんだけどな…」
両目をきょろきょろと泳がせて、言い辛そうにアスランは口を動かしている。
息をゆっくりと飲み込んだ後、アスランはやっとのことで口を開いた。
「……オーブが本格的に連合の傘下に入った」
「え…?」
「すぐにでも戦うことになる」
「そんな…ウソ……」
地球連合と同盟を結んだということのは、そういうことなのである。
「君が降りたいというなら引き留めはしない。だが…保護してくれるところがな」
プラントに行かせるといっても、今ミネルバは地球にいる。
シャトルの手配や諸々はFAITHであっても、要請するそれだけで時間と手間がかかってしまう。
基地に残すのも、アスランの中ではあまり納得のいく選択ではなかった。
「あいつ等がいれば、な」
- 123 :I and I and I(3/10):2006/07/10(月)
21:59:34 ID:???
- 失踪したカガリ。そして恐らく、カガリを保護しているであろうアークエンジェル。
不沈艦とまでいわれたアークエンジェルなら、マユを帰しても安心なのだが。
「アスランさん?」
「あ、あぁ…そのことは、もう少し待ってくれ。ミネルバももう出港する…連合と、オーブと戦うためにな」
慎重な行動を取りたいアスランの考えを優先して、了解したマユは頷いた。
しかし、アスランの待ち望むアークエンジェルの一行とは、すぐにでも遭うことになるのである。
戦場になる黒海並びマルマラ海に向けて、ミネルバは進んでいた。
緊迫する艦内。
マユも自室で、状況が悪化しないことを祈っていた。
そんな部屋に訪れる客人が一人。
「ハイネ・ヴェステンフルスだけど、マユちゃんはいるかな?」
「え…あ、はい!います!」
戦闘が開始される前になんの用なのか。
不思議に思いつつも、マユはハイネを部屋に通す。
「いなくなる前に、少し話をしておこうと思ってね」
「ワタシが艦を降りたいって話、アスランさんから聞かれたんですか?」
「いーや。いなくなるのは俺…というのは、元の世界のことか」
「?」
- 124 :I and I and I(4/10):2006/07/10(月)
22:01:06 ID:???
- 「ごめんごめん。なんとなくかなぁ。君、そんな顔してたから」
瓢々として話すハイネに、マユはよく理解できずに首を傾げる。
そんなマユをよそに、ハイネは話を続けた。
「君は艦を降りる。そして、また様々に事象に出会す」
「なんだが…わかってるような言い方ですね」
「わかるよ」
きっぱりとハイネは答える。
その言葉、その眼差しは、全てを見通しているようにマユには思えた。
「俺と君は似ている。ただその力の使い方が違うだけでね」
「力…?」
「じゃあもう行くとするかな。ミネルバじゃあ初陣なんでね、敗けるわけにはいかないのさ」
理解できずにいるマユを無視して、ハイネはさっさと部屋を出ていってしまう。
一人残されたマユは、ぽつんとハイネの言葉の意味を考えていた。
ただ、彼の言った通りになるのだろうと、その時マユは漠然とそう思った。
ミネルバはダーダネルス海峡に進入すると同時に、戦闘態勢を敷いた。
両軍のモビルスーツが、各機出撃していく。
敵は連合、そしてオーブ軍。
シンもアスランも、オーブと関係の深い二人の内心は、不安と焦りに満ちている。
何か起こらないはずもない。
- 125 :I and I and I(5/10):2006/07/10(月)
22:03:14 ID:???
- そんな嫌な予感が、マユの脳裏を横切った。
「空から何かが来る…!!」
マユが声にならない声を上げたのと同時、ミネルバが激しい揺れに襲われる。
それはミネルバがタンホイザーを発射する直前、何者かが艦首砲を撃ち抜いたからだった。
そのせいで艦首を含め、その付近で爆発を巻き起こす。
艦は傾き、被害は甚大。
着水する衝撃でまた艦は揺れ、事態がより深刻であることを悟る。
慌てふためく艦内で、マユはモニターのあるブリーフィングルームに向かった。
「私は、オーブ連合首長国代表!カガリ・ユラ・アスハ!」
「え…カガリさん…?」
モニターに映し出されるストライクルージュ、フリーダム、アークエンジェル。
そしてストライクルージュから寄越された通信が、ミネルバに流れた。
カガリが誘拐されたという話は、マユも耳にしている。
アスランの言った「あいつ等」という言葉が、ここで繋がった気がした。
「ワタシもあの艦へ?」
うっすらとした、だが明確にも近い予感。
そんな予感を感じた直後、オーブ軍の艦が攻撃を開始する。
放たれる無数のミサイル。
だが、そのミサイルはフリーダムによってアークエンジェルやストライクルージュに届くことはなかった。
- 126 :I and I and I(6/10):2006/07/10(月)
22:06:03 ID:???
- ミネルバや連合、オーブにとっては予期せぬ介入者だっただろう。
しかしそんな介入者を呑気に見ている暇もない。
ミネルバは残りのザク2機と、そしてハイネの駆るグフイグナイテッドを、
連合は連合で、カオス、アビス、ガイアを発進させた。
激化する戦況。
それに感応するように、マユの心も人の死に圧迫されていく。
戦いを止めたいと思う者…
戦わなくてはならない者…
カガリとオーブ軍の擦れ違う気持ち。
どちらともに、足りないものがあるのか。
「シン・アスカ、お前は沿岸にいるガイアを頼む!」
「え?あ、はい!」
発進して間もなく、ハイネはシンにそう命令を送る。
そして、M1アストレイやムラサメを次々と薙ぎ払いながら、フリーダムに向かっていった。
「死なない方法…というか、死ななかった方法を選べば死にはしないからな」
ぽつりと呟き、ビームソードを構える。
「墜ちないその理由、見せてみろ!フリーダム!」
「新型!?しかも、カスタム機?」
ビームソードの斬撃を躱しながら、キラが呟く。
「敵パイロットの命を奪わずして敵機を墜とし、そして自機も攻撃を寄せ付けない」
「なんなんですか!あなたは!」
- 127 :I and I and I(7/10):2006/07/10(月)
22:08:03 ID:???
- 「その感じる力、最初から持ってたわけじゃないだろ!?」
「!!」
通信ではない会話だった。
別の何かが働いている。
「少なくとも、俺を含め4人は力を持つ者がいることを感じれるはずだ」
「あなたは、何を!?」
「その無敵ともとれる力、単なる操縦技術だけではあるまい!?」
ビームソードをしまい、グフイグナイテッドはスレイヤーウィップを取り出した。
そのスレイヤーウィップを、フリーダムに向けて放つ。
「最大出力だ、受け取れェ!!」
フリーダムの腕部に絡み付くスレイヤーウィップが、電撃を迸らせた。
「ぐっ!ああああ!!」
叫び上げ、だがキラは、絡み付くスレイヤーウィップを切り落とす。
ハイネはうねる電撃の中に、あるものを見た。
「守護者……そういうことか」
確信したように、言葉が漏れる。
そして、一気にフリーダムの元から離脱する。
「これ以上の戦闘の続行は、あの子の体力も気力ももたないぞ」
ハイネの頭に、マユの顔が浮かんだ。
デュランダルから聞かされたマユの存在。
そして、自分がミネルバに着任する前の経緯。
「望まぬ戦いに命をかけてそれで死んでさ…その念が、彼女を押し潰すんだよ」
- 128 :I and I and I(8/10):2006/07/10(月)
22:09:39 ID:???
- 説明するようなハイネの言い方だが、その言葉は的中する。
オーブ軍パイロット達の後悔の念をダイレイクトに受け、マユはあの時と同じように倒れてしまっていた。
マユが目を覚ますと、そこにはアスランの顔があった。
「アスランさん…」
「やはり、倒れたな」
「何日、眠ってました?」
「丸一日かな、あの戦闘から」
「そうですか」
身を起こし、ベッドから降りる。
軍医が気遣うが軽く断り、マユはアスランを見て口を開いた。
「シンさんは?」
「今、別の任務の説明を受けているところだ。あいつも、心配してたよ……」
そう言うと、アスランは目を泳がせる。
前の時のように、また言い辛そうにしていた。
「まだ何か?」
「……君を降ろすことができる。今すぐにでも」
急いでるように見える。
恐らく突発的に可能となったのだろう。
もしマユがまだ眠っていたとしても、そのまま連れていったのかもしれない。
「目が覚めたそのすぐ後にこんなことを言ってすまない」
「いえ、ワタシは平気です」
驚きもしなかった。
戸惑いの感情もなかった。
ハイネの言葉が色濃く記憶に残っていたせいだろう。
「夕刻に会う約束をしてある」
- 129 :I and I and I(9/10):2006/07/10(月)
22:11:18 ID:???
- 「わかりました。あの、その前に…」
「ん?なんだ、言ってくれ」
「シンさんに、お別れの挨拶をさせてください」
綺麗に髪を整えて、可愛い色のゴムで髪を結んで、ディオキアで買った新しい服を来て……
彼の前では、別人でいたかった。
他人で良かった。
そうならばきっと、恋だって自由にできる。
「ごめんなさい、急で」
呼び出したシンに、そう告げる。
「何がだよ?」
「ワタシ……ミネルバを降ります」
不思議そうに聞き返してきたシンの顔が、マユの言葉を聞くなり一気に硬直した。
驚きに満ち、もう一度なんと言ったのか確かめようとしているのか、口をパクパクと動かしている。
「ずっと前から思っていたんです。ここはワタシのいる場所じゃないって」
「な、なんでだよ!?」
「だって……ワタシは、ワタシはヴィアだからっ!」
迫るシンから顔を背けて、マユは声を振り絞ってそう答えた。
「マユの方がいい、早く記憶よ戻れって、そう思っても…そんなの簡単にできないし…」
それが正しいと思い込もうとした。
だが、それはできなかった。
「それとは逆に、どんどん気持ちが膨れ上がって……」
「マユ…」
「ワタシはヴィアです!」
- 130 :I and I and I(10/10):2006/07/10(月)
22:12:32 ID:???
- 思わず声が大きくなる。
そんな自分にマユ自身も驚きながら、それでもシンに伝えたい思いは収まらなかった。
「記憶が戻るそれまでは、マユじゃなくてヴィアでいさせてください!」
そして、最後の言葉を…
「ワタシは、あなたが好きです」
目線を合わせ、マユは精一杯自分を落ち着かせて、最後の言葉をシンに告げた。
「さよならっ!」
これ以上、この場にいるのがいたたまらなくなって、マユは逃げるように走り出す。
振り返らない。振り返りたくない。
マユの瞳は、濡れていた。
続
- 131 :479:2006/07/10(月) 22:14:00 ID:???
- これにてプラント・ミネルバ編は終了です
次回からはアークエンジェル・ファクトリー編をお送りします