222 :I and I and I(1/13):2006/07/18(火) 20:35:06 ID:???
ワタシは、艦を降りた。
この決断が正しかったのか、間違ってたのか、そんなのわからないけど。
でも、もう後戻りはできない気がする。
前に進むしかない。
後ろを向いたら、きっと戻ってしまうと思うから。
自分の想いを守るためには、もう進むしかない。



〜I and I and I〜 第十八話「その手で」



ホテルでしばしの休息を済ませると、アスランとマユを乗せたセイバーは目的地へと飛ぶ。
真っ直ぐとモニターを見つめ操縦するアスラン。
その脇でマユは、静かに目的地に到着するのを待った。
長く時間はかからず、セイバーは目的地に辿り着く。
セイバーが降り立ち、アスランはマユを抱えコックピットを出た。
ザフトのモビルスーツで現れたことへの動揺が、キラ達に広がる。
再会できた安心。そして、今はザフトであるアスランへの疑念。
だが、キラ達のアスランへの疑いと同じように、アスランもキラ達に対して疑いにも似た思いを感じていた。
先の戦闘でフリーダムが現れたこと。
そのせいで、戦場は混乱した。
納得できないで唸るアスランだが、そんなアスランにカガリも納得できない。

223 :I and I and I(2/13):2006/07/18(火) 20:36:55 ID:???
「あそこで君が出て、オーブが素直に撤退するとでも思ったか!」
「うっ…だが私は!!」
「君のするべきだったことは、オーブを同盟になんか参加させないことだ!」
「それは…。私もそうしたかった。だが、それでまた連合に目をつけられ、国を焼かれたら!」
互いに気持ちがぶつかる。
しなければならないことを、できずにいる。
その葛藤が、互いの感情を昂ぶらせていた。
「それは、カガリのせいなのかもしれない」
そんな二人の言い合いに、静かにキラが割って入る。
「でも君が、今はまたザフトだというなら、これからどうするの?僕達を探してたのは何故?」
「もうあんなこと、やめさせたかったからだ。俺も、ミネルバのみんなも!」
「本当にそうかな?ザフトもプラントも本当にそう思ってるの?あのデュランダル議長って人も…」
キラの刺すような視線が、アスランを捉えた。
アスランの言うこと、それすらも信じられぬほど、疑う心が深い。
「なっ…お前だって議長のしていることは見てるだろ!?言葉だって聞いたろ!」
「じゃあ、あのラクス・クラインは何?」
「あ、あれは…」
「そして何で本物のラクスはコーディネイターに殺されそうになるの?」

224 :I and I and I(3/13):2006/07/18(火) 20:39:24 ID:???
「えっ!?」
キラの告白に、アスランは思わず声を上げた。
マユも驚きを隠せないでいる。
「オーブで、僕等はコーディネーターの特殊部隊とモビルスーツに襲撃された」
しかし、キラが嘘を言うはずもなく、その眼差しは実に真剣だった。
「狙いはラクスだったんだ。だから、またフリーダムに僕は乗った」
「そんな……」
「彼女もみんなも、もう誰も…誰一人も、死なせたくなかったから」
また刺すような視線が、アスランに向く。
「それがはっきりしない内は、僕はデュランダル議長が信じられない。プラントも信じられない」
「プラントにだって色々な人間がいる!ユニウス7を落とそうとした犯人達のように!」
キラに嘘がないということはキラを見れば一目瞭然だったが、アスランにも譲れないことがあった。
「その襲撃のことだって、議長のご存じのない極一部の人間が勝手にやったことかもしれないじゃないか!」
デュランダルを信じたい。
デュランダルを指示をしたわけではないと、アスランはそう考える。
「そんなことくらい、わからないお前じゃないだろ!」
頭に血が昇り、思わず叫んでしまった。

225 :I and I and I(4/13):2006/07/18(火) 20:40:52 ID:???
「と、ともかく、その件は俺も艦に戻ったら調べてみるから。だからお前達は、ヴィアを連れてオーブへ戻れ」
そんな自分を落ち着かせながら、アスランはマユをキラ達に託す。
「オーブを戦わせたくないと言うんなら、まず条約からなんとかしろ。戦場に出てからじゃ遅いんだ!」
「じゃあお前は戻らないのか!?アークエンジェルにも、オーブにも!」
マユを寄越してそう言うアスランに、またカガリが声を上げた。
「…オーブが、今まで通りの国であってくれさえすれば、行く道は同じはずだ」
オーブがそうならば、きっと今の理想であるザフトやプラントと同じ道に行ける。
だが、アスランの言葉に返答するように、キラは口を開いた。
「なら君はこれからもザフトで、またずっと連合と戦っていくっていうの?」
「……終わるまでは、仕方がない」
「じゃあオーブが出てきたら、またこの間みたいにオーブとも戦うっていうの?」
「…俺だって討ちたくはない。だが、あれじゃあ戦うしかないじゃないか!」
何度も問いかけてくるキラに、アスランはまた声を荒げた。
わかっているなら、こうも聞き返してくるはずがない。
それはわかろうとはしていないということだろう。

226 :I and I and I(5/13):2006/07/18(火) 20:42:40 ID:???
「連合が何をしているかお前達だって知ってるだろ!?それはやめさせなくちゃならないんだ!」
アスランが叫んだ。
「だから条約を早く何とかして、オーブを下がらせろと言っている!」
「それもわかってはいるけど、それでも僕達は、オーブを討たせたくないんだ」
押し問答になることはわかっている。
しかし、キラも譲ろうとはしない。
「本当はオーブだけじゃない。戦って討たれて失ったものは…もう二度と戻らないから」
「自分だけ、自分だけわかったような綺麗事を言うな!!お前の手だって既に何人もの命を奪ってるんだぞ!!」
「…うん。知ってる」
知っているからこそ、言わなくてはならない。
「だからもう、ほんとに嫌なんだ、こんなことは」
「キラ…」
「討ちたくない、討たせないで」
アスランを見て、キラははっきりとそう言う。
「ならば尚のことだ。あんなことはもうやめてオーブへ戻れ。いいな」
キラの言葉を何度も頭の中で繰り返した。
それでもアスランは、キラ達にやめるよう、その言葉だけを返す。
「…理解できても、納得できないこともある」
アスランはそう呟いて、キラ達に背を向けた。
「待ってください、アスランさん!」
「ヴィア…」

227 :I and I and I(6/13):2006/07/18(火) 20:44:34 ID:???
「アスランさんの気持ちは?」
セイバーに向かうアスランを止め、マユはそう投げかける。
「議長さんの言葉とか関係無い、アスランさんはどう思ってるんですか!?アスランさん自身の気持ちは!?」

「…俺の気持ちは、ザフトで戦いを終わらせたい。それだけだ」
そう言うと、アスランはセイバーに乗り込み、この場を後にした。
残されたマユ達は後味の悪い気持ちになりつつも、それぞれの再会を喜ぶ。
「久しぶりね、ヴィア」
「ミリアリアさんも元気そうで良かった」
「実はね、サイ達から連絡を受けてて、ヴィアがミネルバにいることは知ってたの」
ガルナハンでサイ達とは再会できた。
その後、ミリアリアにそういう知らせがいっても不思議ではない。
「あぁもう!今すぐここで抱き締めて頭撫で回したいけど…あたしはまだ取材の残りがあるのよね」
マユを見て両手をわなわな動かしながら、ミリアリアは苦笑する。
「というわけで、それが終わったら合流するわ。キラ、カガリ、この子をお願いね!」
「うん、わかった」
「任せろっ!」
キラとカガリの表情を見て、最後にミリアリアは頷いた。
そして、マユの頭を優しく撫でると、ミリアリアもこの場から立ち去る。

228 :I and I and I(7/13):2006/07/18(火) 20:46:17 ID:???
マユ達も、キラの操縦するフリーダムに乗って、アークエンジェルに向かった。

海中に潜伏するアークエンジェル。
そんなアークエンジェルにやってきたマユ。
フリーダムから降りると、そこはミネルバと余り変わらない格納庫だった。
格納庫から出て、カガリはブリッジに、キラはマユを連れて居住区へと足を運ぶ。
「じゃあマユちゃんは、この部屋で休んでいて」
「でもこの部屋、一人部屋じゃないですよね。誰も使ってないみたいだけど、私だけで使っちゃっていいんですか?」
「アークエンジェルに今いる搭乗員、たいぶ少ないから」
苦笑してキラは言った。
キラの中での、マユのイメージがだいぶ変わりつつある。
マルキオハウスで一緒に暮らしている頃は、滅多に話すこともなかった。
マユも、キラも、お互いに心を閉ざしている節があった。
マユはカズイ達と世界を巡ってたいぶ明るくなったが、キラはあまり変わったとはいえない。
「あ」
「ん?どうかしたの?」
「香水の良い香りがする」
物思いに耽っていたキラだったが、マユの声に我に返る。
マユは小さな鼻を動かしながら、部屋に漂う香りを堪能していた。
「まだ残っているものんだね」
「え?」

229 :I and I and I(8/13):2006/07/18(火) 20:48:10 ID:???
「うぅん、なんでもない。じゃあ僕はブリッジに行くから」
笑っているが、キラの顔は悲しげで、思わずマユは心配になる。
だが、キラは行ってしまい、引き止めるに引き止められなく、マユは仕方なくベッドの一つに横たわった。
「なんだか、疲れちゃったなぁ…」
シンへの告白の疲れが、一気に出たのだろうか。
瞼がゆっくりと閉じられ、マユは夢の世界へと誘われていく。

ゆっくりとマユの瞼が開かれた。
何時間眠っていたのか。
時計を確認する気力もない。
体を起こし、眠気眼の瞳を擦って、マユはベッドから降りる。
「寝ちゃったんだ…」
何をするでもなく、マユは通路に向けて歩きだした。
何故か、ドアは開いたまま。
そんな時、通路を誰かが横切った。
ピンクの服とスカートを着た少女の、赤い髪がなびく。
「だれ…?」
通路に出ると、その少女の姿はなかった。
寝惚けていたのかと、またマユは目を擦る。
だがその時、今度はマユの後ろから足音が聞こえた。
振り返ると、先程の少女が連合のピンクの制服を着て、通路の角へ入っていくのが見えた。
マユはその少女を追いかける。

230 :I and I and I(9/13):2006/07/18(火) 20:50:03 ID:???
角を曲がると、少女の服装は連合の制服からザフトの緑の制服に変わり、更に先を歩いていた。
「待って!」
マユが声を上げる。
すると少女は振り返り、そして微笑むと、また別の分岐へと消えていく。
走り、遂に分岐に辿り着いた。
「ヴィアちゃん…?」
「あれ?キラさん?」
やっと追い付いた。そう思った瞬間、マユの目の前に飛び込んできたのは、キラだった。
「女の人、来ませんでした?」
「うぅん、ずっとここにいたけど、誰も来てないよ」
キラが嘘をつくとは思えない。
首を傾げるマユだったが、一つあることを思い出す。
バナディーヤ、ガルナハン、宇宙、ブラント。
生きてない人がいることを、マユは思い出していた。
「やっぱり、なんでもありません」
「そう?」
マユが笑って誤魔化すと、キラは視線を窓の外に映る海中に移す。
「ごめんね、ヴィアちゃんがミネルバにいるなんて思わなかったから」
「え?」
「もしかしたら、巻き添えにしてたかもしれないから」
窓の外の景色を見ながら、キラは言う。
マユも窓へと、顔を向けた。
「ミネルバも酷く壊れていたし、爆発で死んだ人達が運ばれていくのを見ました」

231 :I and I and I(10/13):2006/07/18(火) 20:51:49 ID:???
タンホイザーが撃たれ、その爆発で、何人もの死傷者を出した。
艦の揺れが凄まじかったことは、マユも知っている。
「あの時、ミネルバの艦首砲が撃たれてたら、オーブの艦隊は確実に沈んでいた」
オーブを守りたい。
その強い思いは、マユにもわかる。
「アスランが言ったことは正しいんだと思う。でも僕は、神様じゃないから、全ての人を救えはしない」
前大戦のフリーダムの逸話は、マユも聞いたことがある。
戦争を終結まで導いたヒーローのような存在。
だがその存在が、ヒーローでも神でもなく、ごく普通の人間だということもマユはわかっている。
「僕は守りたかった、オーブを」
「ミネルバの人達を見捨てても…?」
「…うん。僕にはそれしかできない。あの時、艦首砲を撃たないで止める方法が思いつかなった」
コックピットに当てず、機体を爆発させず、敵機を撃墜できたとしても、
それで何もかもできる人間というわけではない。
キラの言葉は、それを表していた。
「なんだが、歯痒いですね」
「もう、泣かないって決めたたから。悲しい思いはしたくないし、誰にもそんな思いさせたくない」
静かにそう言うキラだが、握られた拳は震えている。

232 :I and I and I(11/13):2006/07/18(火) 20:53:44 ID:???
「守れなかったから、今度こそはってそう思っても、結局僕はたくさんの人を傷付けてる…」
言葉の節々に滲み出る悔しさ。
その悔しさを、マユも感じていた。
「前にアスランも言ってたんだ、まだわからないって。僕もそうだ…まだわからない」
「ワタシも」
「え…?」
マユの肯定の言葉に、思わずキラはマユを見る。
「ワタシもわからないです。どうすればいいのかも、どうしたらいいのかも」
シンに告白し、ミネルバを降りた。
その決断が果たして正しかったのか間違ってたのか。どうすればよかったのか。
迷った末の決断で、今でも、マユは迷っている。
「でもそれは、答えを探せるってことじゃないですか」
だが、悔いはない。
「わからないまま迷って、それで動いて周りに迷惑をかけて…それがいけないことだっていうこともわかる」
キラ達の取った行動と、自分のした行動が重なる。
そして去り際に見たアスランの表情や、今のオーブ、連合に打ち勝った後のガルナハンなど、様々に重なるイメージ。
「でもそれは、たぶん今この世界を生きてる全ての人に言えることで…たぶんみんな、まだわからないままなんです」
わからないまま、生きている人々。

233 :I and I and I(12/13):2006/07/18(火) 20:55:05 ID:???
何が正しいのか、何が間違っているのか、その明確な答えなどありはしない。
「だから探さなきゃ。探して、自分自身が正しいと思う答えを見付けなきゃ」
「見付かるといいね」
力強く言ったマユにキラも笑ってそう返した。
だが、マユは首を振る。
「違います。見付かればいい、じゃない。見付けるんです、自分達のその手で」
本当は、マユ自身は答えを出していたのかもしれない。
ただ、その想いが強過ぎて、出した答えも埋もれてしまっていた。
気持ちの浮き沈みが激しくて、迷っているのだと勘違いしていたのではないだろうか。
「見付けた答えが間違っていたとしても、それに気付いて、直していけばいいんです」
本当は出ていた答えを、マユは口にする。
また迷い苦しむ時、マユはこの答えを見付けられるのだろうか。
だが、今のマユの力強い言葉はマユ自身はおろか、キラにも何か力のようなものを与えていた。
「それじゃ、ワタシは部屋に戻ります」
そう言うと、マユは走って行ってしまった。
「キラ」
「ラクス…ずっといたの?」
「すみません。声が聞こえましたもので…」
盗み聞きしていたことを素直に謝り、ラクスはキラの隣へゆっくりと立つ。

234 :I and I and I(13/13):2006/07/18(火) 20:56:17 ID:???
「答えは自分自身の手で見付ける。それが間違っていたとしても、それに気付いて、直していけばいい」
「うん」
「わたくしも自分自身で答えを見付けに行きますわ…プラントに行って参ります」
「え?そんな!危険だよ!」
心配するキラに、ラクスは優しく微笑んで、大丈夫だと顔で言って見せた。
「行くべき時なのです。行かせてくださいな、ヴィアさんも共に」
そして、更に驚くべき発言に、キラは目を丸くする。
だが、当の本人の強い眼差しを見れば、キラがラクスを止める理由もなくなってしまった。
「ヴィアちゃんがいいなら、僕は構わないけど」
「わたくし…ヴィアさんと一緒なら、答えをこの手で見付けられそうな気がするのです」
「僕も…なんだがそんな気がする」
アークエンジェルにやってきた一人の少女。
それはどこにでもいるようなごく普通の少女で、そして誰かの心を動かしてしまうような不思議な少女だった。