- 190 :I and I and I(1/8):2006/03/31(金)
02:40:29 ID:???
- コーディネイターだから、とか。
ナチュラルのくせに、とか。
そんなこと言うのはおかしいことかもしれません。
あの人が嫌い、とか。
あの人が好き、とか。
そんなことどうでもいい、とかも。
誰もが持ってる気持ちのはずだから。
でも、コーディネイターとかナチュラルとか、そんなことも言っていられない人達もいる。
ワタシ達が向かう場所は、危ないかもしれません。
〜I and I and I〜 第四話「それはちっぽけな何か」
マユ達の次の目的地は、ユーラシア連邦にあるガルナハン。
だが、現在マユ達は汎ムスリム会議にやって来ている。
それは何故かというと、マハムール基地に持っていく支援物資が届けられているからだ。
応接室に通され、サイ達は司令官のラドルと挨拶を交わす。
「まさかあの足付き…アークエンジェルのクルーの方とこうして会えるとはな」
「もう昔の話ですよ」
代表としてサイが手続きの書類に記入を行っている中、ミリアリアがラドルと話をしていた。
かつては敵だった者達と席を同じくする。
ラドルにとってそれは少々違和感を覚えるのものだった。
サイーブの時と同じで、それは誰でも抱く感情なのかもしれない。
- 191 :I and I and I(2/8):2006/03/31(金)
02:43:42 ID:???
- 「それはそれとして、物資の運搬に基地と人手を貸して頂いて感謝致します」
「いや、こちらもこういった活動に協力できて光栄だ」
いくら平時とはいえ、軍人ではない者が容易に基地を利用できるわけではない。
評議会やザフト上層部の穏健派、つまり旧クライン派の根回しがあるからこそだが。
それはラドルや他の士官も、感付いているところではある。
「それに、平和な時こそ、民間の者達に尽せることができる」
しかし、ラドルは嫌々で基地を貸しているわけではなかった。
戦争になってしまったら民間人に気を遣っている暇もない。
そして何より、戦争をしている自分達が民間人を傷付けてしまうかもしれない。
今だからできることであり、今しかできないことでもあった。
そうラドルは考えていた。
「それで、あの少女は?」
小脇に座っているマユを横目に、ラドルが呟いた。
出された砂糖とミルクの多いコーヒーを口にしながら、マユは一人じっとしている。
片腕だけのマユは、基地内でも兵士達の目を引いた。
「俺達の同行者ですよ。ヴィアは、右腕と記憶を、戦争で失いました」
今まで黙っていたカズイが、少し怒っているような口調で話に割り込んだ。
- 192 :I and I and I(3/8):2006/03/31(金)
02:46:10 ID:???
- ラドルの言葉が気に食わなかったのか、表情も穏やかではない。
「あの、聞いていたより物資が多いんですけど…」
ピリピリとなりそうな空気だったが、サイの一言でそんな空気もミリアリア達の話も途切れる。
「あ、あぁ…それはカナーバ前議長や、第一線を退かれた方々など、プラントからの支援品だ」
「プラントから…」
「非プラント理事国があるように、プラントと友好的なナチュラルの国がある。
逆に、地球連合軍に参加しているコーディネイターがいることもまた事実。
結局は助けあっているのさ。それを具現化でかているのが、君達のオーブだ。
ナチュラルだコーディネイターだと騒ぐ以前に、我々は同じ人間だからな」
未だ両人種の差別は続いている。
ナチュラルはコーディネイターに嫉妬し、コーディネイターはナチュラルを蔑む。
しかし、大きな目で見れば、その感情は人が誰でも持つもの。
ラドルが言うように、結局は同じ人間ということなのかもしれない。
「プラントの気持ちとして、物資を無事にガルナハンへと届けてくれ」
「…わかりました、お預かりします」
ラドルから差し出された手をカズイは握る。
- 193 :I and I and I(4/8):2006/03/31(金)
02:49:29 ID:???
- 自分にも、コーディネイターに苦手意識を持っていた頃があった。
薄れてはいるが、今でもそれは残っている。
マユも、そんな苦手なコーディネイターの一人だ。
しかし、記憶障害のせいで本人はそれをあまり実感してはいないようである。
カズイの中にあるマユの印象は、弱々しく、守ってあげなくてはいけない存在だった。
コーディネイターと知らないままでも、今のままでもマユに対する扱いは変わらない。
ナチュラルとコーディネイターの差異など、実際にはないのだろうか。
平和だと思っていた日常から、訳もわからず戦争に巻き込まれた。
ザフトの攻撃に怯え震えた。
そして、逃げ出してしまった。
今と比べたら随分変わったと、カズイ自身も驚いている。
ジープからトラックへ乗りかえて、一行は一路ガルナハンへ向かっていた。
マハムール基地を出発し、国境を越え、数日を経ての到着を予定している。
カズイとサイが運転する、非常食と生活必需品が積み込まれた2台のトラック。
本当なら1台で済むはずだったが、プラントからの分が増えて2台となった。
「まぁヴィアとミリィを荷台に乗せるよりは良かったのかなぁ」
- 194 :I and I and I(5/8):2006/03/31(金)
02:52:37 ID:???
- 運転を任されたカズイは、隣に座るマユに聞こえるように言ってみる。
「プラントだけじゃなくて、マハムール基地からもコーヒーとか貰っちゃいましたからね」
笑ってマユも言った。
荷台には支援物資だけではなく、コーヒー豆が詰まった大きな麻袋がいくつもある。
マハムール基地の付近で栽培されているものを、ラドルが持たせてくれたのだった。
「でも美味いよな。あのコーヒー」
「途中でコーヒーメーカー買っちゃって、毎日飲んでますもんねぇ」
「へ、変かな…?」
「いーえっ。でもなんかバルトフェルドさんみたい」
「確かに…そうかも」
明るい雰囲気が二人を包んでいる。
まるで仲の良い兄と妹がじゃれあっているような光景だった。
今のマユは、兄がいることも知りはしない。
無意識の内にマユは、兄であるシンとの会話を、信頼しているカズイとの会話で再現していた。
和気あいあいと会話も続き、そろそろガルナハンが間近に迫っている。
通りすぎる家屋は、時たま倒壊しているものもあった。
前大戦時、アルテミス陥落などでユーラシアの連合内での地位は低くなる。
その汚名を返上しようと、ユーラシアは終戦した今でも躍起になっていた。
- 195 :I and I and I(6/8):2006/03/31(金)
02:56:27 ID:???
- だがそのやり方は、ユーラシア各地で民衆の不信感を募らせている。
内乱が起きるかもしれない。
そんなユーラシア国内を、2台のトラックは走っている。
「そろそろガルナハンだな。現地の案内人を頼んであるんだけど…」
「あれじゃないですか?」
前を走るカズイ運転のトラックが、誰かを発見した。
クラクションを鳴らし、トラックを止めると少女が乗り込んでくる。
マユが真ん中に体を寄せて、少女がドアを閉めた。
「案内人のコニール・アルメタです、よろしく」
「子供…?」
コニールと名乗った少女を見て、カズイが不思議そうに呟く。
「怪しまれないためです。まぁ、甘くは見られたみたいですけど」
「いや、そんなことは…」
「とにかく行きましょう。一旦迂回してください」
カズイの言葉を遮って、淡々とコニールは続けた。
「直行できるルートには連合がいます」
だが、その淡々とした言葉の裏側にあるものを、カズイとマユはすぐに気付く。
重い詰めた表情をして、コニールがまた口を開いた。
「この辺は連合の圧力が強いんです…最近は、抵抗したら何されるか」
- 196 :I and I and I(7/8):2006/03/31(金)
02:58:32 ID:???
- 「その上、連合に参加していない他国からの支援物資が見付かったら…ってとこかな」
「援助してもらって、みんな喜んではいます。でも、連合は恐いから…」
「ユーラシアの連合が意地悪いのは知ってるから、気にしなくていいよ」
情勢が深刻なのはコニールの顔を見れば明らかだった。
そしてカズイは、アルテミスの一件の渦中にいた一人だ。
アークエンジェルクルーが大西洋連邦の人間だったとはいえ、監禁までされたことを覚えている。
思い出して、カズイは呆れてしまった。
「そんなに、大変なんだ…」
二人の会話を聞いていたマユがぼそっと呟く。
「そうさ。平和呆けしてそうなあんたにはわからないかもしれないけど」
流れる景色を見ながら、コニールが棘のある言い方をした。
「平和呆けなんて…してないです」
むっとして、マユは言い返す。
コニールがマユに顔を向けた。
その顔は、少々怒りを含んでいる。
「あたし達は必死に生きてるのに、あんたはまるで旅行みたいについてきてるじゃないか!」
自分も子供だが、相手も子供。
だから怒りが溢れるのだろうか。
そんなことを頭の片隅で考えながら、怒りに任せてマユの両腕を掴む。
- 197 :I and I and I(8/8):2006/03/31(金)
03:02:04 ID:???
- 「そんな奴のどこが平和呆けして…ないって……」
コニールの言葉が途切れた。
位置的に今まで目に入らなかったせいでわからなかった。
掴もうとしたマユの右腕の部分は、服だけしかない。
「ヴィアは平和呆けなんかしていない。戦争のせいで無くしてしまったものも…あるんだ」
唖然するコニールに、カズイが言葉をかけた
ゆっくりとコニールの手が離れる。
「ごめん…」
「うぅん。ワタシも、無神経なこと言ってごめんなさい」
戦争で無くしたといっても、マユは自分の身に何が起きたのかは覚えていない。
覚えていない。それこそが、失ったものの一つではあるが。
「…あ。そろそろ坑道が見えてくるはずですから探してください。
町のみんなもほとんど知らないから、連合にも気付かれないはずです。
トラックぐらいなら通れますけど、暗いから気を付けてください」
マユのことがショックだったのだろうか、力無くコニールが説明した。
荒れているユーラシア連邦。
まだ世界は、平和とは言い切れない。
続