*“各キャラのセリフでマユと言っていますがヴィアで脳内変換お願いします”

343 :I and I and I(1/8):2006/04/09(日) 21:01:55 ID:???
流れる雲は形を変える。
時間が過ぎゆくと共に、忘れてしまうことがある。
でも、忘れてはいけないこともある。
忘れたくても、忘れられないことだってある。
ワタシにはわからない感覚。
何を忘れているのかもわからないワタシにとっては……
でもこの出来事で、ワタシはその大切さが少しだけわかった気がした。
無情にも時は過ぎて、人は新しい記憶を刻むけど、胸にしまって残ってるモノもあるから。
ワタシにもあるのかな?
あるよね。あるはず。……あってほしい。
でも、あったとしてもそれはワタシのじゃなくて、たぶんわたしの…なんだろうけど。



〜I and I and I〜 第五話「モビルアーマー乗りの少年」



坑道を抜けてガルナハンに着いたマユ達は、早速配給を始めた。
例の如く、ミリアリアは取材に出かけている。
「物資は充分ありますから、落ちついで並んでくださ〜い」
ガルナハンの住民に声をかけつつ、三人は作業にあたった。
食糧、生活必需品等々を配っていき、時に励まし、住民達の相談や愚痴を聞く。
ガルナハンの町は寂れていた。
前大戦の被害もあるが、ここ最近の連合による圧力の方が原因である。

344 :I and I and I(2/8):2006/04/09(日) 21:04:08 ID:???
建物はところどころ壊れており、住民にも活気はない。
「…はぁ」
マユの口から思わず溜息が出る。
住民達の愚痴やガルナハンの現状に、マユは憂鬱な気分になっていた。
「マユ、大丈夫か?」
「あ…はい」
心配してやってきたカズイに、マユは力なく笑って返した。
それが余計、カズイを心配させる。
「少し休んできなよ。後は俺達でできるから」
「…そうします」

マユは町から外れ、渓谷近くに散歩へ出た。
ごつごつとした岩肌と、立ち込む砂煙。
殺風景でどこか殺伐として、町の状態を表しているように感じる。
「マユ…だったっけ?」
不意に声をかけられ、マユは振り返った。
「コニール…さん」
「さんはいらない。あんま変わらないんだからさ」
笑いながらコニールはそう言う。
「あと、敬語も」
「そう?じゃあ、そうするね」
マユも笑って、そう返した。
コニールが先導するように歩きだし、マユがそれについていく。
少しだけ、コニールを冷たい空気が包んでいた。
そんな空気を察したマユは、ただ黙ってコニールの後に続く。
傾斜のある道を登り、着いたのは花が添えられた小高い丘だった。

345 :I and I and I(3/8):2006/04/09(日) 21:06:26 ID:???
「最近の紛争とか、前の戦争とかで、結構…死んじゃってる」
コニールの言葉を聞き、花が供え物なのだとマユはすぐに理解した。
「連合の中でユーラシア連邦の立場が危ないっていうのはわかるけど…
でも、だからって強制したり、拒否したら殺したりってのは許せない」
怒りや憎しみの入り混じった言葉。
コニールも誰か大切な人を亡くしたのか。
その言葉だけでは、どうなのかはわからない。
マユはただ、コニールの言葉を受け止めて、飲み込む。
二人が静かに佇む中、突然谷から風が吹き抜けた。
花が空に舞い上がる。
「あ…」
花を目で追っていったその先には、戦闘機が飛んでいた。
「どうかした?」
「…あそこ」
戦闘機がいた場所を指差す。
だがそこには、大きな雲が形を成しているだけで、他には何もなかった。
(まただ…)
アフリカでもあった二度目の感覚。
自分にしか見えない何か。
風を切る音もジェット音も聞こえなかった。
突然現れて、そして消えてしまった。
幻ではないが、確かに存在しているわけでもない。
マユは息を吐いて、もう一度見えないかと空を眺めていた。

346 :I and I and I(4/8):2006/04/09(日) 21:09:33 ID:???


その夜。
コニールの家にマユ達は泊まらせてもらえることになり、夕食後の団欒を楽しんでいた。
だが、マユが戦闘機を見たことをコニールが皆に話してしまう。
そのせいで、見た、いなかった、という口論のような状態になっていた。
「いたならなんでみんなは見てなかったのさ?」
「それは…私にしか見えなかったっていうか、その」
「はあ?それじゃいた説明にはならないだろ!」
「でも、確かに見たんだから!」
互いに譲らない。
やはりこの辺は子供なのだと、カズイ達は思った。
「でもマユには、不思議な力があるのかもしれないね」
カズイが口論を止めるように口を挟む。
「ジェネシスが撃たれた時も急に倒れちゃったりしたし、アフリカでもあったみたいだし」
「見えちゃう体質ってこと?」
まじまじとマユを見つつ、ミリアリアがカズイに訊いた。
「かもね。フラガ大尉がそうだったんだろ?よくは知らないけど」
「大尉は見えるというより感じてたらしいんだけど、似てるかもしれないな」
カズイの話にサイも同意し、マユの話は一応、信じてもらえることとなった。
一人を除いては。
「でもマユしか見えないんじゃ仕方ないよな」
「む〜…」

347 :I and I and I(5/8):2006/04/09(日) 21:11:57 ID:???
未だ半信半疑のコニールが呟く。
示せる証拠がないマユは唸るしかない。
「どんなモビルアーマーだったけわけ?その、色とか」
見かねたミリアリアが助け舟を出す。
「えっと…白と青かな。トリコロールカラーっていう感じの…」
マユの説明の途中、椅子が倒れ大きな音を立てた。
質問を投げかけたミリアリアが、驚いた表情して立ち上がっている。
「ご、ごめん。あたしもう寝るから。おやすみっ!」
慌ててそう告げると、ミリアリアは部屋を飛び出していった。
突然のことに静まり返る部屋の中。
「トール……」
廊下をとぼとぼと歩きながら、ミリアリアは大切な者の名をぽつりと漏らした。

翌日。
マユ達は残りの物資の配給を再開する。
あれから、ミリアリアとの会話は無い。
朝もミリアリアが先に出かけていたため、顔をあわせることもできなかった。
マユが見た戦闘機は、スカイグラスパー。
アークエンジェルが大気圏内で運用していたモビルアーマー。
ムウ、カガリ、そしてトールが乗っていた機体。
ミリアリアが部屋を出ていってた後、マユはカズイとサイから、トールの話を聞かされていた。

348 :I and I and I(6/8):2006/04/09(日) 21:13:58 ID:???
「孫がねえ…連合に連れていかれて、帰ってこないんだよ」
「それは、大変ですね…」
住民達の相談も家族や恋人を亡くしたという話が少なくない。
胸が強く締めつけられる。
自分に家族がいるのかはわからない。
だが、今のマユには、カズイ達がいる。
カズイ達がいなくなることを想像すると、とても苦しくなった。
「相談、いいかな?」
次の相談者がやってくる。
カズイ達と同じぐらいか少し年下の少年だ。
「はい。聞くだけしかできませんけど」
「いいよいいよ、それで」
苦笑すりマユにおちゃらけた感じで返すと、少年は話を始める。
「彼女を守ることができなかったんだ。本当に…本当に心から大切に思ってたのに。
彼女は別の男が気になってるみたいで、守れなかった俺より、ソイツがいいと思うんだ。
俺のこと気にしなくていいからって言いたくても言えなくて。…君から伝えてほしい」
少年は思いの全てをマユに話す。
最初は軽そうに見えた少年だが、マユは彼の彼女を思いやる気持ちを深く感じた。
だが、今初めて会った人物にこんな頼み事をされるのか、わけがわからない。

349 :I and I and I(7/8):2006/04/09(日) 21:16:47 ID:???
何故そんなことを言うのか訊こうと口を開いたその時、突如として銃声が鳴り響いた。
「連合が!連合が来たぞ!!」
住民の一人が逃げながら叫ぶ。
呆然とするマユが振り返ると、そこには先程の少年の姿はない。
一目散にマユの横を通り過ぎる住民達。
少年も逃げたのだろうか。
マユも逃げようとした刹那…
「キャッ!」
この騒ぎで人の声など掻き消されてしまうはずなのに声が聞こえた。
しかもその声は聞き覚えのある、ミリアリアの声であった。
思わずマユは走り出す。
何故か、走っていけばミリアリアがところに着く気がした。
「ミリアリアさん!!」
「マユ!?早く逃げなきゃ駄目よ!」
角を曲がるとミリアリアがいた。
「ミリアリアさんも早く!」
「立てないの…足くじいちゃったみたい…」
空笑いして、ミリアリアは言う。
「もういいよ。あたし、死んじゃっても」
「なに言って…」
「あたしも…トールに会いたいよ…」
座り込むミリアリアの腿に、水滴が落ちる。
うつむいているせいで表情こそわからないが、泣いているのだろう。
声もか細く、震えていた。
そんなミリアリアを見ながら、マユは口を開く。

350 :I and I and I(8/8):2006/04/09(日) 21:18:57 ID:???
「本当に大切な人だったのに、守ることができなかった」
不思議そうに顔を上げ、ミリアリアはマユを見る。
伝えてほしいといわれた相手。
それが誰なのかはわからない。
だが、マユはミリアリアに、彼と話した全てを伝えることにした。「彼女は、別の人が気になってるみたいだって」
連合の兵士らしき男が現れ、ライフルを構える。
マユは左腕を広げ、ミリアリアの前に立った。
ライフルから、銃弾が飛ぶ。
流れる沈黙……
マユの頬から血が流れ、綺麗な茶髪が宙を舞う。
「いたぞ!連合だ!!」
「チッ!!」
武装した住民がやってくると、男はその場から急いで立ち去った。
力が抜けたように、マユはぺたんと尻餅もつく。
「もう俺なんか気にしなくていいからって……そう、言ってましたよ」
笑って、最後にマユはそう告げた。
「馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!!マユも…あいつも…馬鹿なんだからっ」
泣きながらも、笑って、ミリアリアはマユの頭を撫でる。
誰からの伝言なのかは告げられていない。
しかし、ミリアリアにはわかる気がした。
空には、戦闘機のような形をした雲が一つ、二人を見守るように流れている。