443 :I and I and I(1/7):2006/04/13(木) 23:34:45 ID:???
それは突然のことだった。
何故?どうして?
そう問いかけても、起こってしまったことは、もう元には戻せない。
私は、ただ空を見上げていた。
そこにはわたしが知っている人がいて、ワタシの知らない人がいる。
側には、ワタシの大切な人達がいる。
アナタにも、きっと大切な人がいる。
大切な人がいるのに、誰かの大切な人を、誰かが消し去った。



〜I and I and I〜 第六話「ブレイク・ザ・ワールド」



騒動も一旦は落ち着きを見せる。
私服を着て変装した連合兵が、度々威圧に現れるらしい。
支援物資が見付かることはなかったが、見付かっていたら町は危なかっただろう。
中立とはいえオーブと、そして水面下では敵対しているプラントからの物資なのだから。
長居はできぬ状況に、マユ達は町を出ることにした。
「気を付けて」
「コニールもね」
差し出された左手をマユは握り、二人は堅い握手を交す。
先程のようなことが度々あるというのだから、不安がない方がおかしい。
笑って見送る側も、笑って出発する側も、内心では揺らいでいる。
「ワタシ、絶対また会いにくるね!」

444 :I and I and I(2/7):2006/04/13(木) 23:37:40 ID:???
「うん。待ってる!また来てくれた時も、絶対ここにいるから!」
発進するトラックの窓から身を乗り出し、マユはコニールに向けて手を振り続けた。
コニールはコニールで、必死にトラックを追いかけ続ける。
やがて、トラックはコニールの視界から消えてしまった。
トラックのミラーにも、もうコニールの姿は映らない。
ゆっくりと席に戻ると、マユは潤んだ瞳を拭う。
「出会いもあれば、別れもある。でも、生きてさえいれば、また会えるよ」
運転していたサイが、静かにマユにそう言った。
眼鏡のレンズ越しに映る彼の双眸は、どこか哀しげだった。
「俺はもう会えないから。君みたいに、見えるわけでもないし」
「サイさんも……誰か?」
恐る恐る質問するマユに、サイは苦笑しつつ、返答するために口を開く。
「ミリィがトールを、トールがミリィを好きだったみたいに。俺にもいたんだ」
「好きな人が…?」
「色々なことがあって、時には凄く遠くに感じて…でも、ずっと好きだった」
懐かしむようなその言葉は、やはり哀しげで、そして淋しげで。
それきり会話もなくなり、車内に静寂が訪れた。
未だサイの表情には、憂いが残っている。

445 :I and I and I(3/7):2006/04/13(木) 23:39:41 ID:???
そんな横顔を見て、マユは心配になった。

だが、声をかけていいものか迷う。
「あのさ…」
すると、サイが先に声を発した。
「俺の側に…いてくれてるのかな」
「えっ?」
「その、見えるかなって…」
ぼそぼそとサイが呟く。
狭い車内だけあって、そんな呟きもはっきりと耳に届いてしまった。
見えると、そう言ってあげたかった。
しかし、マユの瞳には何も映らなかった。
気休めでも見えると一言、言ってしまえばサイは救われるのだろうか。
沈黙と言う名の間を置いて、マユははっきりと首を横に振る。
「そっか。やっぱりな…」
「…ごめんなさい」
「ヴィアが謝ることじゃないよ」
人を好きになること、愛すること。
マユにはわからないが、大切な存在を亡くすことに対する恐怖は理解できる。
家族と仲が良かったのかも、親しい友人がいたのかも、今のマユは覚えていない。
だが、ヴィアとして生き、記憶に刻んだものもある。
ヴィアとして知り合った人々がいる。
その者達がいなくなることを想像すると、マユは恐くて仕方がなかった。

出会いもあれば別れもある。
サイが言ったように、またマユに別れが訪れた。

446 :I and I and I(4/7):2006/04/13(木) 23:42:41 ID:???
「それじゃ、あたし行くから」
スーツケースを片手に、ミリアリアは別れの言葉を告げる。
カズイ達と同行していた取材が一旦の区切りをみせ、別行動を取ることになったためだ。
捻った足は痛みも退き、たいぶ楽になってきている。
「ヴィア、色々とありがとう」
「そんな、ワタシは何も…」
「そんなことないよ。ヴィアのお陰で、吹っ切れたから」
マユの頬にキスを落とすと、ミリアリアはウインクして笑った。
「宇宙で何かあったらしいし…サイ、カズイ、しっかりヴィアのこと守りなさいよ!」
そして、サイとカズイの背中をバンッと叩くと、清々しい顔でミリアリアは去っていった。
「…さて、俺達はどうするか」
「オーブに戻る?行く予定だった支援先、もう全部行っちゃったわけだし」
サイとカズイが話し合う中、マユの携帯電話がメールを受信した。足長お兄さん。アフリカから、何度かやりとりは続いている。

447 :I and I and I(5/7):2006/04/13(木) 23:45:37 ID:???
『件名/大変みたいだよ
 本文/こんにちは、ヴィアちゃん。
 まだメディアには公開されてないけど、ユニウスセブンが地球落下軌道に入ってるらしい。
 ザフトがどうにかするようだけど、遠い宇宙にいる彼等を信用できるとも限らない。
 心配だから避難勧告が出たら、安全な場所へ避難してね。』
携帯電話を持つマユの手が硬直した。
そのメールの内容が真実であることが判明するまで、そう時間はかからない。
ユニウスセブンの破砕、その破片の落下。
いわゆるブレイク・ザ・ワールドまで、秒読み段階である。

「ヴィア、大丈夫か!?」
「は、はい!平気です!」
カズイに手を引かれ、マユは山の斜面を登っていた。
マユ達は津波から逃れようと、高い場所へと避難を急ぐ。
オーブに帰国する前に、マユ達はこの事件に遭遇してしまった。
メール到着からさほどかからず、ユニウスセブン落下のニュースは瞬く間に世界に広がった。
ザフトが破砕作業を行っているらしいが、それでもその巨大なプラントの一部は地球に落下しつつある。
地球からでも、落下してくるユニウスセブンの姿を確認できるところまできていた。

448 :I and I and I(6/7):2006/04/13(木) 23:48:05 ID:???
「…え?」
マユが驚いたような声を上げ、空を見上げた。
「どうした?…ヴィア?」
「声が…また、声が聞こえる」
「声?…まさか、あの時の!?」
苦しみ蹲るマユを見て、カズイは一度目の出来事を思い出す。
「ヴィア!」
呼んでも返事はなく、マユはがくがくと震えている。
カズイはマユを背負うと、また歩きだした。
今は、自分達が生き延びなければならない。
多数の人々が核に焼かれ、吹き飛ばされ、死亡したユニウスセブン。
それが今度は地球の人々を殺そうとしている。
そして、その時が遂に訪れた。
赤道を中心とした世界の各地に、破壊しきれなかったユニウスセブンの破片が衝突する。
「ああああぁあぁああぁぁぁあああぁ!!」
声にならない絶叫が、辺りに響き渡った。
焦点の定まらない瞳、滲む涙、半開きになった口。
マユの中に、大量の人の断末魔が流れて込んでいた。
今の今まで生きていたはずなのに、一瞬にして奪われた命の、嘆き、悲しみ、苦しみ。
その全てがマユの中に渦巻く。
激しく震え続けた後、マユは事切れたように気を失ってしまった。

幸いマユ達のいた場所の被害は微々たるものだった。

449 :I and I and I(7/7):2006/04/13(木) 23:49:51 ID:???
しかし、死傷者が出なかったというわけではない。
マユ達が助かったのは運が良かった、それだけなのだ。
ゆっくりと、マユが目を覚ます。
「あの…ここは?」
「あ、起きたのか。ここは飛行機の中さ」
「飛行機…?」
サイの言葉を、マユは今一度口の中に含む。
状況の整理に戸惑っていると、別の席に座っていたカズイが顔を出した。
「無理言って帰国させてもらったんだ。オーブのことも気になるし、それに…」
途中で、カズイは言葉を詰まらせる。
それを見かねてサイが話を続けた。
「結局は落ちたんだ、コーディネイターの作ったプラントが。
連合、というかブルーコスモスがプラントに対してどう動くか」
「…帰れる内にって感じかな。このまま戦争になんてなったら、たまったもんじゃないからさ」
戦渦の中に身を置き続けた者。
やむをえず戦争に巻き込まれ嫌々戦った者。
それぞれの意見だった。
壊された世界は、穏やかな日々の終わりを告げる。
だが、波乱を含んだ運命は、まだ始まったばかり。