- 244 :I and I and I(1/8):2006/05/06(土)
20:42:07 ID:???
- 生きたいと、生き続けたいと…
そう思うのは罪ですか?
希望を抱くのはいけないことですか?
未来は感じることができますか?
太陽の光は浴びれますか?
暗い暗い夜は明けますか?
明日は誰にでも来ますか?
例え、もう生きていなくても。
〜I and I and I〜 第八話「アナタハ、イキテイマスカ」
無事、宇宙に出たマユとアスランを乗せたシャトル。
向かう先は、マユにとっては待ち人のいないプラント。
「ヴィア、この辺りがヤキン攻防戦で俺達が戦っていた宙域だ」
窓の外の宇宙を見ながら、アスランは隣に座るマユにそっと声をかけた。
だが、返事はない。
不思議に思い、アスランが顔を向けると、マユは静かに寝息を立てていた。
「なんだ…眠っているのか」
苦笑してそう呟くと、アスランはまた窓の外を眺める。
この宙域は、自分達にとって深く記憶に残っている。
「アレックスさん、知っていますか?」
すると、同行しているオーブの役員がそっと近寄ってきた。
「なんですか?」
「最近、この辺りの宙域で幽霊船が目撃されているようです」
「幽霊船…?」
- 245 :I and I and I(2/8):2006/05/06(土)
20:43:47 ID:???
- 「私も先程耳にしたばかりですが、いったいなんなんでしょうねぇ?」
役員は不思議そうな顔でアスランにそう話すと、自分の席に戻っていく。
幽霊船などという話を、もちろんアスランは信じていない。
だが、幽霊船は実在するのかもしれない。
気付くと、マユはどこかの通路にいた。
シャトルではないとすぐに理解する。
明かりがついていない、薄暗い通路。
「ここは…」
夢と現実の狭間のような、不思議な感覚であった。
恐怖といったものはなく、ただマユは先に進む。
自分が何故ここにいるかもわからないのに、迷いはなかった。
「ボス敵到達!滅殺!」
突然聞こえた声に、マユはビクッと体を震わせた。
怖くて体を震わせたというよりは、驚かされてびっくりしただけである。
「〜〜♪〜♪〜〜〜♪」
今度は、どこからか音漏れした騒がしい曲が聞こえた。
そしてビートを刻む鼻唄。
「うっせーよお前等!読書の邪魔だ!」
また声が聞こえた。
先程の二人に向けられた言葉。
何故、自分は淡々と、こんなやりとりを傍聴しているのだろう。
マユは自分でも変に思いながら、聞くことをやめはしなかった。
- 246 :I and I and I(3/8):2006/05/06(土)
20:45:50 ID:???
- 「何を騒いでいるか、お前達!」
すると、今度は女性の声が聞こえる。
「まぁまぁ、別にいいんじゃないですかぁ?」
男性の声も続いた。
「しかし…」
「だって僕達…もう死んじゃってるんですから」
男性の言葉に、マユはハッとする。
そして、その言葉をきっかけにするように、場面が一瞬にして変わった。
マユの横を、モビルスーツが通りすぎる。
生身でマユは宇宙空間を漂っていた。
その宇宙空間では、モビルスーツ戦、艦隊戦が繰り広げられている。
マユに、一機のモビルスーツが近付いた。
ぶつかる!
そうマユが心の中で声を上げた。
だが、モビルスーツはマユを擦り抜けて、そのままいってしまう。
「うらぁー!撃滅!」
「オラオラオラァー!」
「はぁぁぁー!!」
誰かの叫ぶ声が聞こえた。
先程の声だ。
「ローエングリン、1番2番…テェーッ!」
「さぁ、どんどん撃って敵を倒してくださいよ。じゃないと、僕達は生き残れませんからねぇ」
別の場所で、戦艦からビームが放たれる。
誰かの声が、またマユの中に響いた。
「隙だらけだぜ…必殺!」
一機のモビルスーツが鉄球を放ち、敵らしきモビルスーツを撃破する。
- 247 :I and I and I(4/8):2006/05/06(土)
20:48:18 ID:???
- 「ウザイんだよ」
別の一機が鎌を振り、敵モビルスーツを分断する。
「ヒャッハァ!狙い撃ちだぜコラァッ!」
また別の一機が、ビームを放ち敵モビルスーツを爆散させる。
そんな彼等の声が、マユに届く。
「何故、あなた達は戦っているの?」
そんな疑問が、浮かんだ。
「殺らなきゃ殺られる、それだけだろーが!」
「殺されるよりは殺すほうがマシってね」
二人の少年が、そう返す。
「殺らなきゃ殺られる?殺すほうが、マシ?」
二人の言葉にマユは困惑した。
戦場で、人を殺す意味など知らない。
殺すことは間違っているのか、正しいのか。
そんなことを考えていると、少年達の乗るモビルスーツの一機に向けて、ビームが撃たれた。
「誰だよ?俺を撃とうなんて奴は!」
撃たれたビームはモビルスーツの装備により弾かれるが、激昂した少年は反撃に向かう。
敵機を撃破し、ニヤリと笑う。
「生きたいから…殺す?殺さなくても生きる方法はないの?」
「そんなこと僕は知らないね!」
マユの疑問を撥ねつけるように、敵機を破壊し続ける三機。
「ウザイけどさ、やんなきゃなんないんだよ…生き続けるためにさぁ!」
- 248 :I and I and I(5/8):2006/05/06(土)
20:50:10 ID:???
- 彼等の手によって、次々と撃たれるモビルスーツ。
そのモビルスーツにも、人が乗っているというのに。
「違う…違うよ」
「違かねぇよ!それが俺達の、やり方だ!!」
「そんなの違う!」
マユが叫ぶと、全てが消えてなくなった。
シートが並び、レーダーやセンサーなどの機械が置かれた場所。
そこにマユはぽつんと立っていた。
目の前には、三人の少年が、後ろには女性と男性が立っている。
「彼等はブーステッドマン、軍では消耗パーツ扱いだ」
「そんな…酷い……」
「ですが、僕達は戦争をしているんです。勝つためには手段を選べません」
「それっておかしいです。ただの言い訳です!」
生体CPU。
飢餓の曼延する地球に溢れる孤児達を集め、非人道的な利用を行う地球連合。
実験、投薬、記憶操作……
様々な情報が、マユの中に流れ込んだ。
「そんなことをしたから、この人達を生きるため戦いじゃなく、人を殺すための戦いに引き擦り込んだんじゃないですか!!」
マユは男性に罵倒を浴びせる。
「生きるために戦わせて、戦いの中で死んだら用無し、戦いが終わったら用済みって…」
- 249 :I and I and I(6/8):2006/05/06(土)
20:51:48 ID:???
- 苦しみ、痛み、生きることに対する執着、死に対する恐怖。
「そんなの…そんなのないよ…」
マユは力無く、床に膝をついた。
「君は優しいのだな」
そんなマユを見て、女性が声をかける。
「私は、そんな訴えがあったとしても…飲み込むことしかできなかった」
全てを滅ぼせばそれで終わる。
彼女は確かにその通りだと思った。
だが、それが根本的な解決にはならないこともわかっていた。
「その間違いを正そうとした時には、自分の命を引き換えにするしかなかった」
隣の男性をチラッと見て、女性はそう言う。
「…僕にだって果たすべき役目があります。それを無視することはできません」
「その役目は、本当に正しかったんですか!理事!」
「コーディネイターが僕に…僕等ナチュラルに何をした!?奴等を滅ぼせば、全て終わるだろ!!」
「地球にも、地球連合にも、コーディネイターがいることをお忘れですか!!」
口論が続いた。
しかし、女性の最後に放った言葉に、男性は黙る。
「私は知っています。戦争に巻き込まれ、やむを得ず同じコーディネイターと戦った一人の少年のことを」
かつては同じ艦に乗っていた。
- 250 :I and I and I(7/8):2006/05/06(土)
20:53:23 ID:???
- 友人を守ろうし、友人に銃口を向けたコーディネイターの少年。
ナチュラルの視点のままでは、軍人の視点のままではわからなかった。
わかった時には、そんな彼とも、同じ艦に乗っていた仲間達とも、敵同士になっていた。
「貴方は、自分に降りかかり払えなかった火の粉を、もうありもしないのにまた払おうとしているだけです」
核心を突かれ、男性は言い返すこともできない。
私怨を含んでいたことは事実だ。
それが、原動力にもなっていた。
「なら僕はどうすれば良かったんだ…」
自分のしたこと全てを否定され、男性は絶望したような表情を浮かべる。
そんな顔を見上げて、マユは口を開いた。
「探しましょう?」
この男性は、自分が正しいと思ったことをした。
間違っていたと思っても、これは正しいのだと自分に言い訳して。
「ワタシの人生なんて、ちっぽけなものかもしれませんけど…。ここにいるよりは、ね?」
何が正しいか、何が間違っていたか。
どんな答えが正解なのか、マユにはわからない。
答えなどないのかもしれない。
だが、マユは生きている。
探せる力がある。
- 251 :I and I and I(8/8):2006/05/06(土)
20:56:03 ID:???
- 「ねぇ、ゲームやるかい?」
「そんなもんよりこれ読めよ。おもしれーぜ!」
「……聴く?」
三人の少年が寄ってきて、楽しそうにそれぞれの持っていた物を勧める。
女性と男性は互いに顔を見合わせ、笑っていた。
「ヴィア、起きろ。プラントに着いた」
「……え?」
目が覚めると、アスランの顔が映った。
不思議そうに辺りを見回す。
そこはシャトルの機内。
「やっぱり、あれは夢?」
「どうした?」
アスランに訊かれ、マユは慌てて首を振る。
だが、マユはしっかりと覚えていた。
シューティングゲーム、ジュブナイル小説、デスメタルの音楽。
渡され、困惑しながらも、しっかりと受け取った数々の品。
そして、五人の顔をマユは忘れず、しっかりと瞳の奥に残っていた。
続