- 43 :9:2006/05/30(火) 13:29:56 ID:???
- 《機動戦士ガンダムSEED Scars of…》
Episode 2-1“蠢動”
アーモリーワン、最機密区画。正面ゲートに一台の軍用ジープが入ってくる。
「止まって。IDを提示して下さい。荷物の簡易チェックも行います」
「ほい。…此処に来るまで、3回くらい同じ事言われたよ。厳重なのは良い事だけどな」
運転していた草色の髪の男が通行証を手渡した。別の兵士が通行リストをチェックする。
別の兵士が同乗者と荷物を確認した。空色の髪の少年が屈託無く笑いかけ、何処か
ぼうっとした金髪の少女が軽く手を振る。3人とも整備兵の制服を着ており、一様に若い。
しかし兵士は気にした風も無かった。ザフトでは至極当たり前の現象だからである。
最後に、2つのスーツケースにスキャナーを近づけ、危険物の反応をチェックした。
「……技術スタッフの増員および物資の搬入、ですね。確認済です。どうぞ」
「ご苦労さん」
分厚い鉄扉が左右に開いて、トラックが中へと入っていく。無人の通路を抜けて行く。
「偽造カードばれなかったね、スティング。意外とチェック甘いのかな?」
「3ヶ月かけてセキュリティを調べたからな。…それよりアウル、ステラ」
スティングと呼ばれた男が、後ろの2人を振り返る。
「作戦、解ってるよな」
「オッケーオッケー、新型機の強奪だろ?」
「モビルスーツ、泥棒…?」
「ちがあぁう!」
2人の言葉に絶叫するスティングだったが、直ぐに声を潜めた。
「頂くのはあくまでデータだけだ。何でお前らはいちいちそう……」
「だってさぁ、地味すぎね? 『非常用ツール』も使ってみたいし」
「ザフトの新型はダガーと違うぞ。機体のクセ掴む前に袋叩きにされるのがオチだ!」
「袋…袋に、詰められる、の?」
「そうかなあ?
結構いけると思うんだけどなあ」
「頼むぜ…ホント」
痛み出した鳩尾の辺りを押さえつつ、スティングはハンドルを切る。
長い通路を抜け、格納庫が姿を現した。3機のモビルスーツが、ライトに照らし出される。
V字型のアンテナにツインアイという特徴的なフォルムを持つそれらを横目で確かめ、
スティングの声音が緊張を纏う。
「セカンドステージの…、か」
パーキングエリアにジープを止め、ケースを持ったアウルとスティングが先ず降りた。
ステラが後に続く。
- 44 :9:2006/05/30(火) 13:31:58 ID:???
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Episode 2-2“蠢動”
「ん?交代……な、ぁっ…!!」
3人は2秒未満で事態を『収拾』した。メンテ用の小ブースに入ったスティングが
持っていたケースを監視カメラの下に置く。その脇をステラが抜け、硬質ゴムのナックルで
整備兵の1人のこめかみを撃ち抜いた。そして、慌てて警報装置の元へ駆け寄ろうとした
2人目の首筋に小型の注射器が突き刺さる。麻酔銃を構えたアウルが短く口笛を吹いた。
「く…ぅ……む」
パネルに這いずる兵士の口をスティングが塞ぎ、手をやんわりと押さえ、眠らせる。
その状態で5秒間待つ。何も起こらないと解れば、スティングが大きく息を吐く。
「よし、ECMが効いてる。……始めるぞ」
ナックルと麻酔銃を入れていたケースからケーブルを引っ張り出し、端末に繋いだ。
「ね、この2人、殺さないの?」
「バイタルサインを検知する警備用チップってのがあってな…ま、念の為だ」
ケースからせり出したキーを叩きながら、端末の表示に目をやるスティング。
「それにデータの吸出しも3分掛からないし、効率良くいこうって話さ」
「ふーん、そう……」
若干不満顔で頷くアウル。各所のLEDを光らせるスーツケース型ECMを突付くステラ。
「よし、終わっ…」
スティングがケーブルを抜こうとした瞬間、ブースが赤い光に包まれる。
「た…あぁ!?」
けたたましいアラーム。端末画面を埋め尽くす『Intruders ALERT!!』の文字。
「うるさ、い…」
「警報!
ちょっ…スティング、ミスった!?」
「俺じゃねえ!い…いや、俺だけど! マニュアル通りにやったぞ!?」
『セクション21! 其方で何があった!
応答しろ! 応……』
音声をカットし、スティングは赤いキーを押し込む。重厚な響きと共に格納庫の隔壁が
あちこちで降り、この区画をシャットアウトした。
「セキュリティが改良されてたのか! 畜生…!」
「もう!
最初っから皆殺しで良かったじゃん!」
整備兵達に向けて、アウルがスモークグレネードをまとめて投げつけた。
元々1発ずつ使うように設計されたそれは、あっという間に格納庫を白く染める。
「スティング……」
「持ってきた武器、これで終わりだよ!
どうするの、スティング!」
2人に名を呼ばれ、スティング=オークレーは天を仰ぎ見た。
「隔壁はもって2分、スモークはもっと早く晴れる……どうすりゃ……」
- 45 :9:2006/05/30(火) 13:36:22 ID:???
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Episode 2-3“蠢動”
コクピットの中で、スティングは『非常用ツール』を渡された時の言葉を思い出していた。
緊急脱出用と言ったが、これを使う事になった時点で君らの命運は尽きたも同然。
恐らく生きては帰れまいが、死に際に足掻けないのも辛かろうと思ってね。
「死に際の……足掻き、か」
溜息をついた時、通信画面にアウルとステラの顔が表示された。
『大丈夫、スティング……ステラが、ついてるから』
『落ち込むなってスティング。ミスはリカバーすれば良いじゃない』
「…お前は楽しそうだなあ? アウル」
『そ、そんなわけないだろ。残念だよ。作戦、半分は失敗だしさ』
「チッ」
喜色満面のアウルに苦い表情を浮かべ、スティングは起動キースロットに填まった
卵形の機械を見遣る。
非常用ツール。それは機動兵器のOSにハッキングを掛け、強制的に書き換える代物だった。
有体に言えば、初乗りの機体を乗っ取ってある程度意のままに操縦できるのである。
しかし作戦中におけるこのようなスタンドプレーが成功する事など稀だ。
スティング達の運命はこの時点でほぼ決まったも同然だったのである。
「ZGMF-X24……カオス、か。この肩のは……機動兵装、ポッド……?」
『でさあ、スティング。もう大暴れして良いんだよね?』
「駄目だ」
『えー!』
「軍事施設のど真ん中でドンパチドンパチやったらどうなるか解るだろ!」
『じゃ、何!
ビデオで見たアイツみたいにコクピット外せとか言うの!?』
「足止めに徹する。戦力だけ奪えば、俺達に有利な障害物になるしな」
『そういうのつまんないよ! 元々スティングの所為でこうなったのに…!』
「ああ、失敗したのは俺だ。だからミスはリカバーしなくちゃならない、な?」
澄まし顔で頷き、頬を膨らませるアウルに薄く笑って見せた。
『……解ったよ。でも、貸しだからね』
「良いぜ。…っと、来た来た」
メインモニターに『System Integration Completed』というグリーンの文字が浮かぶ。
「こっちは準備できた。アウル!ステラ! どうだ?」
『行けるよ!』
『ステラも……!』
3機のツインアイが晴れ始めたスモークの中で輝き、機体がゆっくりと起き上がっていく。
PS装甲が起動し、3機の色をそれぞれ緑、黒、青に染めた。
「よし、やるぞ……!!」
- 46 :9:2006/05/30(火) 13:38:23 ID:???
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Episode 2-4“蠢動”
正面シャッター前でライフルを構えていたゲイツRは、その姿勢のままMAガイアに
両脚を切断される。浮き上がった機体の腕が虚しく宙を掻き、地面に叩きつけられた。
スラスターを噴かして僅かに浮き上がったアビスが両肩のアーマーを開き、ビーム砲を斉射。
斜め下に向けて放たれた熱衝撃破はアスファルトを砕き、守備隊に襲い掛かる。
焼けた破片をマトモに浴びて視界を殺された数機をMAカオスが飛び越えた。
両側の機動ポッドを射出し、アスファルトの被害から逃れた1機の両腕を狙い撃ち、破壊する。
その肩を踏み付けて押し倒し、ポッドを再装着。その隣にMAガイアと、アビスが並ぶ。
「……どうだ、やれそうか?」
『なんか…動かす度に引っ張られる感じ……なんか、変』
『この機体さぁ、パワーだけはあるんだけど追従性がイマイチ……』
「前途多難だな……良いか、さっきも言ったが戦闘は最小限だ。一番近くの整備用
エアロックから宇宙に出る!」
『あのさ…思うんだけど……もうオレ達、見捨てられてるんじゃない?』
「……その時はガーティ・ルーを墜としてザフトと取引だ!
被害者面の演技を忘れるな!」
『ボクら、無理矢理戦わされてたんですぅ!って? 大丈夫かなあ……』
「ともかく、今は合流だけ考えて……!」
3機が散開する。直後、大出力のビームが立っていた地面を撃ち砕いた。
「急ぐぞ!」
『ち、ちょっと待って!足遅いんだよこの機体!
っああ、もぉ!!』
後方に向けて牽制射を撃ち込んだ後、アビスはスラスターを全開して2機に続いた。
ジュール隊母艦ボルテールのブリッジに、イザークの声が響き渡る。
「なにいぃ!? 何故そんな容易に……チッ…解った。急行する!」
受話器を置いたイザークが、艦長と視線を交錯させる。軽く頷き、指示を飛ばす艦長。
「回頭! アーモリーワンに向けて最大戦速!」
「あ、あの…どうしたんですか、隊長。何か……あったんですか?」
自分の演習記録ファイルを胸元に抱えたマユが、おずおずと上目遣いにイザークを見る。
訊ねられたイザークはしばし黙考したが、やがて静かに告げた。
「アーモリーワンが謎の部隊の襲撃を受け、新型機が強奪されたそうだ」
「…!?」
「パイロットスーツを着用し、MSにて待機しろ。良いな」
「は、い……」
反射的に敬礼しつつ、イザークに言われた言葉の意味を頭の中で反芻する。
背筋を震えが走り、ファイルが床に落ちて広がった。
To be continued…
- 47 :9:2006/05/30(火) 13:55:47 ID:???
<次回>
Episode3"発露"
「マユ=アスカ、ザク、発進します!」