- 417 :9:2006/06/27(火) 17:30:55 ID:???
- 《機動戦士ガンダムSEED Scars of…》
Episode “笑顔”
「今日は休みだって言ってたのに……」
「御免……けど、ユニウスセブンから3時間も掛からない場所だからさ。何かあったら直ぐ
帰ってこられるよ」
公営住宅の一室で、男はネクタイを締めつつ傍らの女に詫びた。
「あの子も楽しみにしてたのよ? だって、今日は……」
「今日は……何だ」
男の訝る声に、女は大きく溜息をついて肩を竦めた。
「2月14日よ、今日」
「……あっ!
わ、解った。ここの日付が変わらない内に帰ってくるよ」
「ええ、そうして」
まるで子供に注意するよう、腰に手を当てて身を乗り出していた女は、唐突に表情を曇らせた。
男の顔の真中を横切る大きな傷に、そっと触れる。
「……気を、つけてね」
「え、何を?」
「3日前に、地球連合がプラントに宣戦布告したでしょ?」
「ああ。……大丈夫だよ。ユニウスセブンは農業プラントだ。喩え戦争が始まったって、
標的になるのは一番後だ。そうなる前に避難できるさ。大昔の虐殺とは違う」
「けど……けど、ナチュラルは、私達コーディネイターを憎んでるって……」
背広を羽織り、書類鞄を持った男が呆れたようにかぶりを振った。
「ナンセンスだ。それ、ブルーコスモスとかいう過激派の話だろ?
俺達コーディネイター
の中にだって、ナチュラルをあからさまに差別する連中もいるし。どっちもどっちだよ」
「そう、ね……そうなんでしょうね」
「今はギクシャクしてるけど、何時か上手くいく時が来るさ。先月まで一緒に仕事してた
俺が言うんだから、間違いないって」
「パパぁ……お仕事?」
ふと聞こえたあどけない声に、男の動きが固まる。話している声で起きてしまったのか、
寝室のドアが開いて幼い少女が男を見上げていた。
「うん……ごめんな。でもお父さん、直ぐに帰ってくるから」
「本当? 約束よ?」
「ああ、約束する。絶対今日中に帰るからな。じゃ!」
慌しく靴を履き、シャトルの時刻表に目を通していた男は、ふと自分の家族を振り返った。
笑顔で見送る妻。妻に抱かれ、同じく笑顔を浮かべて小さな手を振る娘。
「……行ってきます!」
ドアを開け放ち、サトーは人工光が差し込む公営住宅の通路を歩いていった。
最後の、会話だった。