- 51 :DESTINY Side-C 1/4:2005/09/07(水)
21:14:01 ID:???
- 炎は焼き尽くす。南海の宝箱の、宝珠を一つずつ。
揺ぎ無いと。そう信じていた「当たり前の輝き」を。
少女はただ願った。世界の安息を。
少年はただ祈った。少女の無事を。
優しいその指が、"終わり"に触れるとき
世界が、加速する
PHASE-00 世界の始まり
- 52 :DESTINY Side-C 2/4:2005/09/07(水)
21:15:23 ID:???
- 「マユ!頑張ってぇっ!」
お母さんの叫び声が聞こえる。無理だよ、もういっぱいいっぱいなのに。
C.E.71。地球軍の理不尽なオーブへの侵攻。
炎に焼かれるオノゴロ島を、少女は家族とともに駆けていた。
少女――栗色の髪と、すみれ色の瞳を持つ少女――マユ・アスカは、一瞬黒く光る何かを視界の端に捕らえた。
「マユッ!!」
大好きな兄の叫び声と共に、突然身体が強い力に押し付けられる。
突風に煽られた後、顔を上げると、兄――シン・アスカの顔がすぐ近くにある。
どうやら自分をかばってくれたらしい。膝が少しヒリヒリしたが、そんなことは言っていられなかった。
「大丈夫か?」
「うん」
短いやり取りを終えると、父が自分を立たせてくれた。
マユはスカートに付いた砂埃を払い落とし、持ち物をチェックする。
「大丈夫……目標は軍の施設のはずだ。こっちまでは」
あれ?マユの携帯が……ない。
ポーチから落としたのだろうか?マユは何気なく、脇に広がる斜面を見下ろした。
ドンッ
「えっ……?」
突然背後から突き飛ばされた。ゆっくりと落下していく身体が、自分のものではない様に感じられる。
視界の端に映った父は、何かを叫んでいた。母は頭を抱えていた。兄は自分を突き飛ばし、2人に向き直る。
その背後には、青い翼を持った死の天使。
そして次の瞬間、機械仕掛けの死の天使は翼を翻し、急上昇する。
一拍遅れて、マユの大切な全てを、炎と光の渦が飲み込んだ。
- 53 :DESTINY Side-C 3/4:2005/09/07(水)
21:16:38 ID:???
- 「う……ぅっ……」
熱い。
身体ごと痛覚以外の全ての感覚が吹き飛ばされた気がした。起き上がろうと思っても、力がはいらない。
「…ユ…マユ……!」
やっと聴覚が戻って来た。誰かが自分の名前を呼んでいる声が聞こえる。
「くそっ…シン!」
しかし声の主は、すぐに離れていってしまった。
「君、大丈夫か」
次に、視覚が戻って来た。
目を開くと、軍服を着た男がこちらを覗き込んでいる。マユは右腕に激痛を感じたが、無視して頷いた。
男の肩を借りて立ち上がったマユは、信じられない光景を目にする。
「お兄ちゃん……?」
ない。
さっきまで、マユが立っていた斜面が、爆風で抉られていた。
いや―――あった。
そこに広がる、自分の家族"だった"ものと血で描かれた地獄絵図。
「シン……シン……ッ!!」
聞き覚えのある声が、兄の名を一生懸命呼んでいた。
マユがそちらに目を向けると、オレンジ色の髪の少年が、遠くの大きな岩の傍にしゃがみこんで狂ったように叫んでいた。
―――あの血の海の中に、お兄ちゃんが?
「お兄ちゃんッ!!」
マユが絶叫し、男の支えを振りほどいて走り出す。
だがそれに気付いたオレンジ色の髪の少年が、すぐに立ち上がってマユに駆け寄った。
「ダメだ、マユ!行くぞ!」
「離して、離してよ!シュウッ!!お兄ちゃんっ!!」
オレンジ色の髪の少年――"シュウ"と呼ばれた少年が、マユの身体を抱き留めて離さない。
「シンはいない!早く、船に!」
どうして?どうしてなの?どうしてウソをつくの?
お兄ちゃんはあそこにいる。あの岩の下に。
私がお兄ちゃんのこと大好きなの、知ってるくせに。
お兄ちゃんに、ただ会いたいだけなのに。
どうして、会わせてくれないの?
- 54 :DESTINY Side-C 4/4:2005/09/07(水)
21:18:01 ID:???
- 「伏せろっ!!」
軍人の声が聞こえた。更なる爆撃が、オーブの軍港を抉る。
シュウはマユを抱えて身を伏せる。
マユはつい先刻、同じことを兄にしてもらったことを思い出し、絶叫して身を捩る。
イヤだ。
お兄ちゃんじゃなきゃ、イヤだ。
「コイツを頼みます!俺はアイツ……を…」
シュウはマユを男に押し付け、先ほどまで自分――"彼"がいた岩の所に戻ろうとした。
ない。
更なる爆撃で、斜面の地形が更に変わっていた。
"彼"がいた岩は粉々に砕け、血の池は蒸発してなくなっていた。
「……いやぁぁぁあぁぁあぁぁぁーっ!!」
マユの絶叫。シュウは彼女の小さな身体を抱きとめると、引きずるように避難船に向かう。
ちくしょう。
「いやっ!離して!お兄ちゃんが死んじゃうよ、シュウ!!離してよっ!!」
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。
悔しさで涙が止まらない。なんであいつが。なんでこいつが。
「離してええぇぇぇぇぇぇぇーっ!!」
ちくしょう…っ!
ポケットの中の携帯を落とさないように注意しながら、シュウはマユを抱きかかえるように避難船へ向かった。
マユの絶叫が止む。シュウは進みながら、懐中のマユの様子を窺う。
どこを見ている…空…?
すみれ色の瞳が恐ろしいほどに見開かれ、食いしばる歯から彼女の悔しさが伝わってくる。
シュウは彼女の視線の先を見て、目を細めた。
機械の天使たちが、終わることなき死と破壊を撒き散らしながら、踊り続けていた。