132 :DESTINY Side-C 1/6:2005/09/11(日) 15:33:43 ID:???
混迷の戦場に、三体の獣が放たれる。
牙と、爪と、感覚を、極限まで研ぎ澄ませ。
焼け、焼かれよ、その身朽ちるまで。
救いを求める声は、己の耳にすら届かない。
照らし出すは魂の響、奏でるは焔の旋律(しらべ)

戦場に、衝撃の音が鳴り響く。


 PHASE-02 衝撃の音


133 :DESTINY Side-C 2/6:2005/09/11(日) 15:35:06 ID:???
「そろそろ、だな…」
アーモリーワン近海、漆黒の空間が、微かに揺らめく。
戦艦"ガーティー・ルー"ブリッジ。仮面の男は、ひたすら待っていた。
「何度目になりますかな…その発言も」
「おいおいリー、別にそこを突っ込まなくてもいいじゃないか」
リーと呼ばれた男が軽く笑うと、仮面の男――ネオは軽薄そうに言う。
「俺だって…心配なんだよ、あいつらが」
心配――そんな言葉を使う権利が自分にあるのかと、ネオは自嘲する。
「心配、ですか…やれますよ。スティングとゲンがいる」
「おいおい、アウルとステラは頼りないってか?」
ネオが軽く肩を竦めてみせると、リーは再び軽く笑う。
「……これは……ロアノーク大佐。来ましたよ、ゲンです」
待ち望んだ報告。通信士のもとへ寄り、通信機の向こうの"相手"に呼びかける。
「うまくやったか、ゲン」
『まぁな。ディスクの所在は報告通りだった。軽かったぜ』
冷たく、低い声が返ってくる。ネオはほんの少し安堵した後、更なる報告を待つ。
『次いでアレだ。ザフトの"セカンドシリーズ"三機の強奪にも成功』
ブリッジに歓声が上がる。ネオも思わず顔が綻ぶ。
「よくやった。お前はすぐに戻って来い」
『了解。待ってろ、ネオ』
通信が切れると、ネオはブリッジクルーを見回す。彼らは全員、たった一つの指示を待っていた。
「よーし、行こう諸君!…慎ましくな!」



「くそったれ…!」
ルナマリアがハンガーに到着すると、赤い機体と薄紫の機体は瓦礫の下敷きになっていた。
駆け寄ると、メカニックたちが必死に撤去作業を行なっている。
「コックピットさえ開ければ、動かせればいい!」
鋭い、凛とした声で叫ぶと、周囲は慌しく動き出す。
「ルナ!」
声のした方に振り返ると、こちらに向けて私服の少年が駆け寄ってくる。
「シュウ!」
「うわ…酷いなこれ、まともに動けるのかよ」
シュウゴは自分たちの愛機を見てつぶやく。ルナマリアは苦々しい表情で返答した。
「わかんない…中身がやられてなきゃ良いけど」
それを聞き終えるより早く、シュウゴは近くの通信機に飛びつく。
「ミネルバ……ミネルバ、聞こえるか?メイリン!アビー!」
数秒遅れて、赤毛の少女――メイリン・ホークがディスプレイに映った。
『お姉ちゃん!シュウ!』
「メイ!…現状報告を、どうなってるの!?」
『あ、はい!第六ハンガーの新型が何者かによって強奪、現在ロンド隊とフェーン隊が交戦中です!』
ルナマリアは思考を廻らせる。"何者か"――愉快犯がこんなことをするはずがない。
海賊か、あるいは……だが、シュウゴの思考は別の所にあった。
「(第六ハンガーだと…!?)」
そこは新型の調整の為に、マーレさんがいた所―――即ち、マユが向かった所だ。

134 :DESTINY Side-C 3/6:2005/09/11(日) 15:36:24 ID:???
『ルナ、シュウ、聞こえるか!』
通信席に割って入ってきたのは、ミネルバ副長アーサー・トラインだ。
『司令部からは新型との交戦権が出ている。ただし、"撃墜はするな"!』
「なっ……」
ルナマリアは絶句する。何を言っているのだ。下手をすれば、命だって落としかねないというのに。
『我々はその命令に従うしかない!――他に質問は!?』
アーサーの苛立った様子が気に入らなかったが、シュウゴはあえてそれを押し殺す。
「マユとレイの位置は?」
『それはこちらでもうキャッチしています』
次に画面に映ったのは、副通信士席に座るアビー・ウィンザー。
『2人はこちらに向かっています。ルナとシュウは時間を稼いで…』
シュウゴはほっと胸を撫で下ろす。その時、瓦礫の撤去作業を行なっていた場所から、声が上がった。
撤去完了。即ち――ルナマリアの機体が起動できる、と。
ルナとシュウゴは目を合わせると、こくりと頷く。ルナが愛機に駆け寄り、コクピットに飛び込んだ。
『シュウ』
アビーから声が掛かる。ルナマリアの愛機――"ザク・ウォーリア"が立ち上がり、シュウゴのそれを覆う瓦礫を退け始めた。
『"インパルス"も出撃許可が出ました……マユのサポート、お願いね』
「…OK、任せろ」
そう言って軽く敬礼すると、シュウゴは自身の機体のコクピットに駆け上がった。



アレックス・ディノは焦っていた。
カガリを連れてシェルターに行くはずが、誘導していた兵士が目の前で炎に飲み込まれてしまった。
「くっ……なんで…なんでこんなこと…!」
腕の中でカガリがうめく。当然だ。この火種は、再び世界を焼き尽くす焔になりかねない。
父が遺した負の遺産。彼の呪縛は、今でもアレックスを縛り付けて離さない。
だがどうすればいい?今の俺は力を捨てた。あの時のように、世界を誤った方向へ向かわせないための力など――
「大丈夫だ……カガリ」
この時、アレックスの中に本当に小さな、"力"を求める心が芽生えた。



アウルは湧き上がる笑いを堪えられずにいた。
自分が少し"コイツ"を弄ってやるだけで、敵はあっけなく爆散する。
楽しい。楽しい。目標の宇宙港がとても近く感じる。あそこに到達する前に、もっともっと暴れたい。
「あっひゃっはぁっ!!なぁんだよこれ、最高じゃねーかぁ!!」
ジリジリと宇宙港に向かう機体の中で、アウルは叫ぶ。
『ゲンにも言われただろう、アウル!あまりはしゃぐな!』
「わかってるよスティング、バスには遅れないからさぁ!」
飛来した"ディン"を、"アビス"の火線が捉える。ろくな抵抗もできないまま、敵機は錐揉みして爆散した。

135 :DESTINY Side-C 4/6:2005/09/11(日) 15:37:16 ID:???
『何……?』
ステラの呟き。と同時に、赤と紫の機体が接近してきた。
「なんだァ!?」
全ての火器を放つと、二機は急速で回避する。それを認めたアウルは、はしゃいでいた気持ちを切り替えた。
『気を付けろ、奴らはやるぞ!』
スティングの鋭い声が飛ぶ。なるほど、今までの木偶人形とは違うらしい。
そうでなければ、暴れ甲斐がない。



タラップを駆け上り、コクピットに飛び移る。既にレイのザクファントムの発進シークエンスはスタートしているようだ。
彼女はパネルを弄り、機体を立ち上げる。モニターが息づき、エンジンが心拍を打つ。
平和の為の力。私が何より求めた力。力の無い者を救う力。
そして――あの驕り高ぶった機械の天使たちを引き摺り下ろし、等しく死を与える為の力。
「行こう…インパルス!」
恐れることなんてない。私たちの力は、誰かを救えるんだから。
<インパルス、発進スタンバイ…>
エレベーターが上階に上って行く。コクピットの中で、マユは驚くほど落ち着いた気持ちでいた。
<モジュールはソードを選択、シルエットハンガーは二番を解放>
遂にやってきた。この"力"を行使する日が。
<射出システムのエンゲージを確認。カタパルト、推力正常>
カタパルトの先にプラントの青い空が広がる。美しい景色に立ち上る黒煙が、マユの怒りを煽る。
マユはシートに深く身を沈める。両足で踏ん張り、スロットルを固く握り締めた。
<コアスプレンダー、発進どうぞ!>
次の瞬間、自らが機体の一部となり、マユの駆るコアスプレンダーは弾丸のようにミネルバを飛び出した。



宇宙港を背にして、赤と紫のザクは抵抗を続けていた。
援軍にやって来たディンやジンも、アビスの圧倒的な火力の前に虚しく散っていく。
『ルナ、大丈夫か!?』
「かなりキツいけどね…なんとか!」
人工重力の影響を受けないプラントの中心部で、5機の機体が激しくぶつかり合う。
カオスがシュウゴのザクに対して機動兵装ポッドを射出する。
『……ッ!』
次々と打ちかけられるビームを、シールドで防ぐので精一杯のようだ。
だがルナマリアも他人の心配ばかりはしていられない。こちらはこちらで二機を同時に捌かなければならないのだから。
「(早く来てよ……レイ!)」
アビスが放ったビームに、ルナマリアは機体の脚部を貫かれた。
バランスを崩したところに、MA形態に変型したガイアが急速で接近してくる。
「えぇい!」
ビームトマホークを展開し投げつける。突然の挙動に、ガイアは跳び退って回避した。
その隙にビーム突撃銃を構えなおし、アビスに三点射。素早く機体を上昇させる。

136 :DESTINY Side-C 5/6:2005/09/11(日) 15:38:59 ID:???

「ちくしょう…!」
シュウゴは苛立つ。
敵の機動兵装ポッドによるオールレンジ攻撃が、少しずつこちらを追い詰めていく。
高出力のビームがMA形態のカオスから放たれ、それを回避すると、ミサイルの雨が彼を襲う。
シールドで辛うじてそれらを防ぐも、右肩のアーマーが吹き飛ばされた。
カオスは兵装ポッドをマウントし、距離を取る。ヒット&アウェイ……奪った機体の特性をもう熟知している?
反応速度、戦闘センス、狙いの正確さ……こいつらは、ただの海賊じゃない。だが、これほどの力は……
『シュウッ!!』
気を抜いた一瞬の隙に、カオスが急速で接近していた。ビーム突撃銃を連射するが、全て最小限の動きで回避される。
「くそっ!」
ビームトマホークを引き抜こうとした瞬間、カオスのクローがシュウゴのザクを捕らえた。
両肩を鋏み込む形で、機体の自由を奪う。肩のアーマーを吹き飛ばされた右腕が、異常な唸りを上げ始める。
ふとモニターを見ると、下方でルナのザクがガイアに腕を斬り落とされていた。

終わりか。こんなところで…約束も守れずに。

死を覚悟した次の瞬間、機体が衝撃に揺れた。



その背にミサイルを撃ちかけると、カオスはバランスを崩してシュウゴのザクを解放した。
ガイアとアビス相手には、レイのブレイズザクファントムが弾幕を張る。
敵機の動きを封じた所で、損傷の激しいルナマリアのザクは後退していった。
「(あとは…!)」
マユは手元のパネルを素早く叩き、"合体"シークエンスを進める。
レッグフライヤーとの相対軸合わせ。誘導レーザー照射。ドッキング――完了。
続いてチェストフライヤーとの相対軸合わせ……ドッキング、完了。
機体に魂が宿る。機体前部を覆っていた両腕が展開し、あるべき場所に戻る。
シルエットフライヤー、ドッキング解除。誘導レーザー照射……ソードシルエット、ドッキング完了。
機体に焔が宿る。装甲表面が深紅に色づくと、マユはそのまま"インパルス"を加速させた。
エクスカリバー対艦刀を双方ともに展開。両手に構えると、フルブーストで真っ直ぐにガイアに突撃する。
「なんでこんなこと…!」
マユはその言葉に、怒りと、呪いを乗せる。
二機のザクがそれぞれインパルスを援護するように動き、油断なくビーム突撃銃を構えた。
「また戦争がしたいの!?…"あなたたち"はッ!!」


137 :DESTINY Side-C 6/6:2005/09/11(日) 15:40:23 ID:???
漆黒のノーマルスーツに身をつつんだゲンは、宇宙港の脇にある扉の前に辿り着くと"面白いもの"を見た。
撤退途中の三機のセカンドシリーズに対して、"同型"の機体が立ち塞がったのだ。
「おいおい、なんだよあれは」
彼は呟き、真っ暗な通路に入っていく。既に使われなくなった連絡通路は、どこか薄気味悪かった。
「トラブル発生、か……」
通路の先は、気密シャッター。つまりこの扉の向こうは、漆黒の宇宙というわけだ。
ノーマルスーツのシールを確認すると、彼は気密シャッターを開放する。
すぐ脇には"敵"の軍艦があり、すでに周囲を警戒して出航した艦もある。だが彼は、全く臆せず宇宙空間に飛び出していく。
と――彼の姿が突然消えた。いや、ちがう。そこに"存在するはずのない"コクピットの中に彼はいた。
「通信コードAKUSA570901、ゲン・アクサニス…聞こえるか。ネオ」
数秒送れて、真剣な声が返ってくる。
『おいおい、以降の通信は傍受される恐れがあるって言ったろ』
「まずいぜネオ、トラブルだ」
『何……?』
相手の声がますます強張る。ゲンは淡々とした様子で――しかしどこか落ち着かない様子で話を続ける。
「情報に無い新型だ。そのせいで時間食ってる…ミスったな、ネオ」
『……時間に余裕がないな』
「ギリギリまで暴れたい奴らなのさ。そんぐらい分かってたろ」
ネオが舌打ちすると、ゲンはコクピットのパネルを弄り始める。
『……解かった、解かったよ。確かにこれは俺のミスだ。とりあえずお前は一回戻れ。いいな?』
「……あぁ、大変だ、ネオ」
通信の相手が黙り込む。何故かそれが愉快で、ゲンは唇の端を醜く歪めた。
「"俺"も"トラブル"だ」
そう言うと、ゲンは一方的に通信を切る。コクピットの中の計器類の数値が見る見る上がっていく。
"機体"を立ち上げたゲンは、バイザー越しに漆黒の宇宙を睨む。
「さぁて…いくぞ、"ストライク"…!」
かつてそれを駆った者こそ、自分の最も忌むべき存在だとも知らず、ゲンは笑う。
漆黒の空間が、染みだすように色づく。

やがてそこに、灰と黒のツートンカラーの機体――ストライクMk-2が現れた。