219 :DESTINY Side-C 1/7:2005/09/13(火) 23:13:15 ID:???
揺れる紫の瞳は、かつて自分を収めた鞘。
燃える銅の瞳は、かつて自分を鍛えた熱。
守るため、と願った剣は、奪う為に振るわれる。
帰るべき場所を知らず、憎むべきものも知らず。

黒と偽りに覆われた深紅の瞳は、真実さえ見失う。


 PHASE-03 黒の剣


220 :DESTINY Side-C 2/7:2005/09/13(火) 23:14:54 ID:???
『遅いぞっ!』
助けてあげたのに何様だ。シュウゴの怒鳴り声を聞き流しながら、マユはインパルスをガイアに突っ込ませる。
「えぇぇぇぇぇいっ!!」
右のエクスカリバー対艦刀を縦に一閃。ガイアは辛うじてそれをシールドで受け止めたが、大きく姿勢を崩した。
追撃。左のエクスカリバーを横一文字。ガイアは更に身を屈めそれを回避すると、反動で大きく後ろに跳び退る。
『マユ、命令は捕獲だぞ』
アーサーから通信が入る。こんなときにまで何を言ってるんだこの人は。
マユはガイアの放ったバルカンの雨をVPS装甲に受けながら、フラッシュエッジを抜き放った。
「分かってますよ、そんなことっ!」
投擲。ブーメランは孤を描きガイアに接近するが、横合からのビームがそれを撃ち落とす。
「……ッ!」
カオスが接近。だがその前方を白い閃光が駆け抜け、カオスは急制動をかける。
『迂闊だぞ、マユ!敵は一機じゃない』
「分かってるってば!!」
レイの駆るザクファントムだ。彼はカオスの操る機動兵装ポッドによる三次元攻撃を相手に、互角以上の戦いを見せつける。
「大体、なんでこんなことになったんです!?こうも易々と…!」
マユは毒づく。撃ち掛けられるガイアのビームをシールドで防ぎながら、地を這うように接近。
『おしゃべりしてる場合か!最悪落とせ、じゃなきゃ死ぬぞ!!』
アーサーの反論を遮るように、シュウゴが怒鳴る。彼のザクはアビス相手に、片腕で必死の防戦を繰り広げていた。
言われなくたって、そんなことは分かっている。マユはイラつく。落とせない、落としたい。
エクスカリバー対艦刀をアンビデクストラス・フォームすると、一気にガイアとの距離を詰め――
『シュウゴ、お前は下がれ。その腕じゃ足手まといだ!』
振り上げる。その太刀筋を見切ったと言わんばかりに、ガイアは回避。
「…まだよっ!」
そのまま無理に姿勢を捻り、連撃。だがガイアはそれすらも予測していたと言わんばかりに、易々と避けてみせる。

強い。

『……悪い、頼む!』
シュウゴのザクが離脱していく。それを追撃しようとするアビスに、レイがカオスの攻撃を避けながら挑発するようにビームを撃つ。

最初は連合だと思った。でも――コーディネイターでも、ここまで機体を扱うことはできない。
強すぎる。一体なんなの、こいつらは。マユの背筋を、戦慄にも似た感覚が駆け上った。


221 :DESTINY Side-C 3/7:2005/09/13(火) 23:15:43 ID:???

「アビー、外は!?」
"ミネルバ"ブリッジ。艦長のタリア・グラディスは叫ぶ。
「哨戒に出ている"パブロ"、及び"ラピュータ"からはそれらしき艦影は見当たらないと!」
「MS隊は!戦闘はどうなってるの!?」
「ルナマリア機とシュウゴ機が小破、現在こちらに向かっています」
タリアは逡巡する。ここでどう動くべきか。
「艦長、まずいですよこれ。このまま逃げられたら…」
「そうはさせないわ……絶対に」
ブリッジ後方のエレベーターのドアが開いた。タリアはこんな時に誰だと振り返り、衝撃を受ける。
「議長……!?」
そこに立っていたのはプラント評議会現議長――ギルバート・デュランダルであった。



「酷いわね、これ……」
乱れていた呼吸もようやく落ち着いてきた。ルナマリアは愛機を"ミネルバ"へ向かわせながら、地上を見下ろす。
引き裂かれたアスファルト。燃え上がるMSの残骸。そして、死体。
「まずいな、急がなきゃ」
一人呟きながら、ルナマリアは状況を整理する。
こちらの被害、避難エリア指定、コロニー外の索敵の報告、などなど。
「ん?」
ふと、モニターが何かを認識する。
「人……?」
拡大すると、それが2人の人間であることがわかった。
ここはもう避難エリアに指定されているのに。逃げ遅れたのか?
ルナマリアはゆっくりと機体を着陸させる。すると相手もこちらを認めたようで、片方を庇うように男が正面に立つ。
「そこの2人、止まって。大丈夫ですか?」
外部スピーカーをオンにして、優しい口調で話し掛ける。こちらを警戒しているのだろうか?
男が口を開いた。
「こちらはオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ――恐らく議長がおられるであろう、ミネルバに連れて行って欲しい」



『スティング、バス行っちまうぜ!?』
「解かってると言ったろうが!」
スティングは焦っていた。撤退できないことへの焦り。時間が足りないことへの焦り。
そして……今まで戦ったことのない、強敵への焦り。
何故だ。俺たちの戦闘力が劣っている…?
真っ白い新型がこちらにビームを撃ちかける。スティングはそれを回避すると、カオスをMA形態に変型させた。
「そぉらぁっ!!」
突撃。すれ違いざまに相手の左腕を、脚部のビームクローで斬り落とした。
白い機体がバランスを崩す。そこにアウルが胸部のビーム砲を叩き込むが、紙一重で回避される。
『あぁっ、もう!』
アウルが毒づく。ステラはもう一機の相手をしているが、同様に落とせないらしい。
こいつだってもう、パワーが――

222 :DESTINY Side-C 4/7:2005/09/13(火) 23:17:02 ID:???
『港に突っ込め』

突如繋がった通信の声に、スティングは驚きを隠せなかった。
「ゲン…!?お前、撤退したはずじゃ!」
『どうでもいい、港に突っ込め…時間がないんだ。俺が尻拭いしてやるよ』
その言い方が気に入らなかったが、こちらももう限界だった。スティングは鋭く叫ぶ。
「ステラ、アウル、港に突っ込め!後はゲンに任せるぞ!!」
『…しゃあねぇなぁ。行くぞ、ステラ!』
『まだ…戦える…!』
尚も戦い続けようとするステラに、ゲンは通信を入れた。
『ステラ…大丈夫だ。背中は俺が守ってやるよ』
『…守、る……?』
ステラが攻撃をやめ、回避に専念し始める。先刻までの様子からは想像もできないほど、穏やかな顔だった。
『あぁ。だから先に戻って、ゆっくり寝てな』
『うんっ!』
ガイアが新型にビームを撃ちかけ、反転して急加速する。
その様子を見たスティングとアウルも、同様に撤退を開始した。



「撤退する……!?逃がすもんか!!」
相対していたガイアが、急に撤退を始めた。マユは追跡しながらライフルの照準を定める。反撃が無ければこれくらい…!
カオス、アビスも次いで撤退を始めたが、まずはガイアだ。向こうの二機はレイが何とかしてくれる。
ガイアの機影がロックカーソルの中心に定まっていく。射角誤差修正、照準―――

ピピピピピピピピ!!

「(ロックされた!?)」
マユは機体に急制動をかける。次の瞬間、敵の目指す宇宙港の入り口から音速を超える弾丸が飛来する。
あんな距離から!?マユが姿勢を回復させると、敵機はそこへ突入していった。
逃げられた……いや、まだだ。
『来るぞマユ、構えろ!』
レイの焦った声。三機と入れ違いで、凄まじい速度で黒いMSが突入してくる。
「……っ!」
あれは…そんな。ありえない。データベースで見たことがある。あのMSは……

"GAT-X105 ストライク"……!?

223 :DESTINY Side-C 5/7:2005/09/13(火) 23:18:13 ID:???
『マユッ!!』
一瞬反応が遅れたところに、敵は容赦なくビームの雨を叩き込んできた。ビームガトリングだ。
拡散する弾丸はシールドとこの装甲では防ぎきれない。オマケに敵は――
「(速い……!)」
急速で接近する敵機に相対して、マユはエクスカリバーの連結を解く。
「レイはあいつらを追って!……メイリン、"フォースシルエット"を!」
レイは一瞬の迷いもなく宇宙港へ向けて機体を飛ばす。突如呼びかけられたメイリンが焦った様子で発進シークエンスを開始した。
気付いたストライクがガトリングをザクに向けたが、マユはビームライフルでそれを遮る。
「あなたの相手は私っ!」
その叫びに応じるように、相手が両腰からビームサーベル抜き放った。



出港も出来ずに座礁した戦艦の残骸の脇を抜け、ザクファントムは宇宙空間に飛び出した。
いた―――3つのスラスター光。それらを追ってレイは漆黒の空間を突き進む。
「……!!!」
悪寒。背筋を冷たい舌で舐め上げられたような感覚がレイを襲う。
弾かれたように機体に制動をかけると、進路上に数条の光の矢が降り注ぐ。

これは。

レイはほとんど直感に突き動かされるように機体を駆った。一拍遅れて、次々とビームが撃ち掛けられる。
空間そのものを掌握した戦闘――間違い無い。これはドラグーン、もしくはガンバレル。それに属する武装だ。
この感覚、やはり自分の中には"あの人"がいるのか。レイは不敵に笑う。

望むところだ。

この武器を操ると言う事は、向こうも"そう"なのだ。まさか自分と"彼女"以外に生き残りがいたとは思わなかったが。
レイは先の三機のことを頭の中から閉めだし、集中する。
ブレイズウィザードのスラスターを全開。サイドアーマーに装着されたスタングレネードを放置。
ビームに貫かれたグレネードが爆散する。閃光が周囲の空間を照らし出し、レイは視線を廻らせる。
「(アレか…!)」
赤紫の、サメの様なシルエットのMA。向こうも姿を確認されたと判断したらしく、突然猛スピードで突っ込んできた。
これはフェイクだ。レイは焦らずに、機体を宙返りの動きで制御する。機体の真下を貫く閃光。
ビームが撃ちかけられた方向を割り出し、慣性に身を任せたままビーム突撃銃を三点射。片腕のハンデを感じさせない動きで一基の"ガンバレル"を撃墜する。
続いて本体が放ったレールガンを、レイはシールドで防ぐ。即座に半身を捻り、背後に迫ったもう一機を撃ち貫く。

いける。

ガンバレルの数は減ったものの、更に容赦ない射撃が放たれる。それらを身を縮めて、最小限の機動とシールドでやりすごす。
全身のスラスターを駆使して、サーベル状にビームを展開したまま接近してきた一基を蹴り飛ばした。
本体は、残りは何基だ――レイが気を抜かずに周囲を見回すと、宇宙が再び明るく照らし出される。
「(信号弾だと……?)」
敵艦は見つかっていないはず…いや、そうか。そう考えれば全て辻褄が合う。
彼の予想したとおり、赤紫のMAが撤退する先――何も無いはずの空間が、陽炎のように揺らめき始めた。


224 :DESTINY Side-C 6/7:2005/09/13(火) 23:19:45 ID:???
ミネルバに着艦したシュウゴはコクピットから飛び出し、汗を拭ってからラダーを使って降りた。
格納庫の隅の方に人だかりが出来ていたが、彼は気にとめず駆ける。
「ヨウラン!今すぐ腕の交換できるか!?」
整備クルーの少年――ヨウラン・ケントは赤いザクの上から叫び返す。
「馬鹿言うな、ルナのザクだってヤバいんだよ!インパルスとは違うんだ!」
「……あぁ、くそっ!」
イラついて軽く床を蹴り飛ばす。そこで彼は自分が私服だったことに気付き、待機室に戻った。

扉を開けると、紅いパイロットスーツに着替えたルナマリアと、緑のパイロットスーツの男が2人。
「シュウ!大丈夫だった?」
こちらに気付いたルナマリアが声をかける。続いて二人の男たちも軽く手を掲げてみせた。
「片腕やられて、レイに足手まといって言われたさ…どうなんだ?お前のザク」
「左腕と右足やられた……もう、滅茶苦茶よあいつら。なんなのあの強さ……」
シャツを脱ぎながら話を聞いてると、片方の男がシュウゴにタオルとドリンクを手渡す。
「そんなん強いのか?例の新型」
彼の名はデイル。ミネルバに所属するゲイツRのパイロットで、MS隊のムードメイカーだ。
「サンキュ…ヤバいぜあれは。パワーが段違いだ。インパルス見てればわかるだろ」
「しかし、アレはこちらでもわざわざパイロットの選考を行なったんだぞ?そう簡単にいくものか」
冷静に分析するのはショーン。2人は"赤"でこそないが、エースパイロット級の腕を持っている。
特にこの2人は、ここの能力こそ凡庸なものの、抜群のコンビネーションを誇る。
アカデミー時代も、誰かが2人を"ツイン・バード"などと揶揄していた。
「話は後、とにかく俺も着替えてくる。後は…」
<コンディションイエロー発令、各員は持ち場にて待機してください…>
突然の艦内放送に、4人は凍りつく。

ミネルバが、発進する…?



援護に来た友軍機が次々と爆散する。マユは冷酷な意志をもってその"隙"をも狙うが、当たらない。
モニターが矢継ぎ早に現況を報告するが、マユにはそれを気に留める暇もなかった。
強い。速い。目の前に立ちはだかる黒いストライクは、今まで見たこともないほどの強さ。
性能、技術。どちらも負けてる。この子が、私が。マユは悔しさに下唇を噛む。
「なんなのよっ!」
苛立ちながら投げつけたフラッシュエッジは、弾幕の前に撃ち落される。
来る。敵がビームサーベルを抜き放ち、急接近。マユはエクスカリバーを再び構え、敵に相対した。
激突。シールドで敵のサーベルを受け止めるが、こちらの対艦刀もキッチリと防がれている。
頭部のバルカンを乱射するが、敵は全く意に介さない。
スロットルにかかる抵抗が緩まり、敵が一瞬ふわりと距離を取り―――
「!!」
至近距離からのレールガンの直撃。VPS装甲が拾いきれなかった衝撃が、脳髄まで響く。
「ぐぅっ……!!」
あまりに一方的だ。このままじゃ、やられる。
マユが絶望したその瞬間、ついにモニターの端に待ち望んだ報告が現れた。

<FORCE-SILHOUETTE――System Connect Permission>


225 :DESTINY Side-C 7/7:2005/09/13(火) 23:21:01 ID:???
来た!
マユは機体ストライクに肉薄させ、エクスカリバーで斬りかかる。
相手はそれをシールドで防ぐが、もう片方のエクスカリバーの"みね"を、エクスカリバーに叩き付けた。
増加されたパワーに、ストライクが姿勢を崩す。
油断するな。予想通りにレールガンを撃ち掛けられたが、ギリギリで機体前部を掠めるに留まった。
「お返しっ!!」
急上昇。ブーメランのように、2つのエクスカリバーを投げつける。
片方はシールドで弾かれたが、もう片方は相手の右腕を奪っていった。
その隙にマユは機体を制御して、"軸"を調整する。雲間を割って、白と黒の戦闘機"シルエットフライヤー"が現れた。

「インパルス、あいつを落とすよ……!」

マユは薄々気付いていた。あの黒いストライクは、いずれ世界の"敵"になる。
ここでなんとかしなくちゃ、いずれ代価は――たくさんの人の命で、支払うことになりかねない。
そんなの嫌だ。力のない人は…普通に暮らしている人たちは、守られるべきなのに。
既に武装を失ったバックパックをパージすると、戦闘機の後部がはずれ、誘導レーザーを出してインパルスの背部に吸い寄せられる。

お願い。私に"力"を貸して…!

機体がロックされる。同時に、フォースシルエットが接続された。装甲が青に変色する。
敵の砲口が火を噴く。だがそれより一瞬早く、インパルスは爆発的なスピードで加速した。
ビームライフルを抜き放ち、連射する。いける。このスピードなら、遅れはとらない。
戦闘に集中する余り、マユは"ミネルバ発進"の報にも気付かずにいた。



装備を換装した?ゲンは軽く上唇を舐めて、機体を駆る。
右腕損壊、左肩損傷。先ほど対艦刀による重撃を受けた左腕も異常を告げる。
更にシールドに内蔵されたビームガトリングにも異常発生。ゲンはイライラして指を叩いた。
「この野郎」
スピードが上がっている。あれは恐らく、"エールストライカー"に準ずる装備。
『ゲン、いい加減にしたまえ。離脱するぞ』
何度目になるか、リーの低く押し殺した声。しつこく通信してくるから回線を開いてやったらこれだ。

だが――それも止む無し、か。

所詮は"ストライク"の贋物……だがこの性能、一筋縄では行かない。侮っていた。
ゲンは全砲門を開き、一斉射撃する。敵機はそれを避わしたが、余波を避ける為に大きく軌道を逸らした。
「あばよ、"兄弟"」
フルブーストで緊急離脱。相手はジリジリと距離を詰めるものの、いかんせん差がありすぎる。
決着はいずれつけてやる。俺の、この手で。
背後から撃ちかけられたビームライフルの射線を避わすと、ゲンは機体を宇宙港へ突入させた。