438 :DESTINY Side-C 1/22:2005/12/31(土) 23:44:54 ID:???
平和な世界で生きられるなら。きっと誰もが、かつてはそう願った。
長い時間をかけて、怒りと憎しみはこの世界に蓄積されて。
それは間違っているのかもしれない。けれど彼と彼女の魂には、どこまでも正しい声。
落ちていく世界の中で。

少女の叫びは、確かに、届いた。



 PHASE-06 落ちていく世界の中で


439 :DESTINY Side-C 2/22:2005/12/31(土) 23:46:01 ID:???
「作戦を確認するぞ」
"ミネルバ"パイロットアラート。白いパイロットスーツを着込んだレイ・ザ・バレルの言葉に、全員が頷いた。
今は既に全員パイロットスーツ姿だ。皆神妙な面持ちで彼の言葉に耳を傾ける。
「俺たちはジュール隊が運び込んだ"メテオブレイカー"を使用しての破砕作業の支援を行なう」

地球への落下コースに入ったユニウスセブンの破砕作業。

始めメイリンからこの話を聞いたとき、マユは背筋が凍りついた。
立て続けにこう事件が起こっては、疑わざるを得ない。そう――

何か巨大な意志が、再び世界を混乱に陥れようとしている。

そんなことばかり考えてしまう。
そんなはずない。誰だって、平和に生きられる世界がいい、と自分に言い聞かせながら。
恐ろしくなってその考えを振りほどこうとしていた矢先に、アスハに会って。
今は少し落ち着いたけれど―――あの、アレックスという青年と話したおかげだろうか?

とにかく、強奪部隊とMSたちの動向も気になるが、今はこの任務に集中するしかない。
手元のディスプレイに表示された機械"メテオブレイカー"は、MSの全高の三倍ほどだろうか。
正直、こんなものであの巨大な構造物を破壊できるのか、と少し不安になってみたりもする。
隣に立っていたルナマリアが、肘でこちらをつんつんと突付いて、小声で話し掛けてきた。
「ねぇねぇ、ジュール隊って言ったらさ。ザフト伝説の狙撃王、ディアッカ・エルスマンに会えるかも…」
「静かにしろ、ルナマリア。…俺たちは二つに分かれて作業を行なう。俺とルナマリア、そして残りだ」
咎められて少し頬を膨らませたルナマリアを見て、マユは苦笑した。
「俺とルナマリアはB-7ブロック、マユたちはF-4ブロックに向かってくれ
 装備はザク各機はガナー、インパルスはブラストでいく。質問はないな?」
レイが全員の顔を見渡す。どうやら誰も異論はないらしい
話を切り上げると、彼は真っ直ぐにエレベーターに向かった。
ルナマリアが「なによアイツ…」なんて呟いているが、まぁ、自業自得と言えなくも無い。
「(……)」
マユは先刻の出来事を思い出す。アレックスと名乗った青年。
不思議だった。あの青年に、どうしてあんなにも自分のことを話す気になれたのだろう。
正直、アスハの従者というだけで、彼の事はあまり気に入らなかった。なのに、どうして。
「(……そっか)」

似ていたんだ。

あの人の柔らかな表情が―――お兄ちゃんに。

そう思うと、「居場所が無かった」というウソをついて正解だと思えた。
―――自分でここにいることを選んだと、言わなくて良かった。

440 :DESTINY Side-C 3/22:2005/12/31(土) 23:46:58 ID:???
「どうかした?」
心配したルナマリアが、こちらを覗き込んだ。マユは作り笑いをして、大丈夫だよ、とだけ答える。
エレベーターに向かうと、シュウゴが隣に並んできた。デイルは相変わらずぼーっとしたままだ。
「(ねぇ、シュウ…)」
「(ん?)」
誰にも聞こえないぐらい小さな声で、マユはシュウゴに話し掛ける。
彼は大体何を言われるか解かっている様子だったが、あえてマユの言葉を待った。
「(さっきはごめんなさい)」
やっぱり、とでも言いたいかのように、彼は小さく笑う。
「(気にすんな。俺も少し、スッキリした)」
おどけてみせているが、やっぱり少し苛立っているみたいだ。無理もない。

これから向かうユニウスセブンには、彼の母親が眠っているのだから。

四人が乗り込むと、エレベーターが動き出す。デイルは俯いたまま、何か考え込んでいる様子だった。
「デイル、いけるんだな?」
「ん…あぁ、ワリ、だいじょぶ、任せとけ」
シュウゴの問いに慌てて答えるデイル。ルナマリアは溜め息をついて、彼の背中をバシバシと叩く。
「あのねぇ…あんた、戦場に出てもボーッとしてたらケツ蹴り上げるからね」
「うっへぇ、おっかねぇの…」
そういってデイルは笑ったが、やはり覇気が無い。
皆無理してる。マユはなんとなく暗い気持ちになって、俯いた。
エレベーターがデッキまで下りると、四人はそれぞれの機体に向けて歩き出す。そこで―――

<状況変化。ジュール隊がアンノウンMS部隊と交戦中。各員は対MS戦闘の―――>

突如響いた艦内放送に、マユは硬直する。
モビルスーツが…?
「まずいことになった」
いつの間にか現れたレイが、無表情なままで告げる。
何があった、と問うような表情を向けるルナマリアとシュウゴに、レイは頷いて答えた。
「ジュール隊の破砕作業が何者かによって妨害されている」

やっぱり、とマユは思う。

誰かが動かしたんだ…ユニウスセブンを。

地球に、落とす為に。

441 :DESTINY Side-C 4/22:2005/12/31(土) 23:48:20 ID:???
寒気がする。そんな恐ろしい事が、あってたまるか…ずっとそう信じていたのに。
いや―――信じたかったのに。
シュウの拳が、強く握り締められていた。肩が小さく震えている。多分…怒ってる。
「とにかく、俺たちも対応に出るぞ」
レイはあくまで冷静に告げる。
「マユとデイルがアタッカー、俺と…シュウゴがアシストに入る。ルナマリアは狙撃ポイントの確保を優先」
「……」
抜けたショーンの穴を、元々アタッカーだったシュウが埋める事になった。
ショーンはもう、いない。その事実がまた湧き上がってきそうになり、マユは大きく頭を振る。
「質問は無いな。では各員、気を抜くなよ」
レイはこうしている間も惜しいと言わんばかりに、自分のザクへと向かう。
「まさか、人の手でやられたものだったなんてね…」
「…どうだっていいさ、止めることにゃ変わりねぇ。シャキッとしろや、お前ら」
ルナの呟きに、デイルが返す。シュウゴは深呼吸すると、笑ってデイルの頭を小突いた。
「お前には言われたくねぇよ…よし、俺たちも行こう」
「ははっ、同感」
少し調子が戻って来た。暗い気持ちのままやったって、上手くいきっこない。
きっとやれる。誰が相手だって、絶対にユニウスセブンを止めてやる。

だがこの時、マユはまだ気付いていなかった。



同時刻、"ガーティー・ルー"ブリッジ。こちらにも既に、"ユニウスセブン"が動き出したという情報は入っていた。
「やれやれ、なんでこうも…って、いつまでふてくされてんだ、ゲン」
「出撃できるまで」
ゲンはムスッとした表情で、ブリッジの一角に立っていた。
漆黒のノーマルスーツを着込んで、ヘルメットを手元であそばせている。
「おいおい、命令違反したのはお前だぜ?こんだけの処置で済ませてやってるんだ、感謝してくれよ」
仮面の男、ネオ・ロアノークのその言葉に、ゲンはますます不機嫌顔になる。
「…大体、アレはどうするんだよ。本部に着くのが遅れるし…
 …もし、もしもだ、俺たちが失敗したとしたら、それこそ宇宙の藻屑だぜ?」
ネオは顎に手を当てて、考え込む仕草を見せる。ゲンはバイザーの奥から鋭い視線を送る。
「自分もアクサニスの疑問は気になります、大佐」
普段滅多に口を挟まない艦長のイアン・リーが、珍しく話し掛けた。
「さぁ〜てね。アレ自体、鬼が出るか蛇が出るか解からんようなもんだしなぁ」
「どちらが出ようと、既にこっちのものだ」
「言うねぇ、ゲン。ま……俺個人の意見で言うと、だな…」
ネオはニヤリと笑って、ゲンを見る。

「どうしても押えておきたいもんがあるんだろうな…ユニウスセブンに」

442 :DESTINY Side-C 5/22:2005/12/31(土) 23:49:37 ID:???

仮面の奥のその感情は、やはり見抜くことは出来なかった。
どういうことだ、と訊こうとした所で、MSデッキから通信が入る。
『カオス、ガイア、アビス、全機発進準備できました!』
「よぉーし、しっかりやってくれよ!」
ネオが景気よく言うと、モニターにスティングのコクピットが映し出された。
『今回は休んでろ。任せとけ、俺たちが絶対止めてやる』
「スティング…頼む」
続いてアウル、ステラのコクピットも映し出される。
『ゲンと出るといっつも撃墜スコアトップ持っていかれるんだよ…今回は僕が貰うぜ!』
アウルは嬉しそうにしながら、こちらに向かって言い放った。ゲンはやれやれと言った様子で肩を竦めて見せる。
『ゲン、ネオ…行ってくるね。…ねぇ、ゲン』
「ん?」
『帰って来たら…トランプのルール教えてね?』
ステラの奴、何を言うのかと思いきや。ゲンは苦笑して、わかったよ、とだけ答えた。
「よーし、MS隊各機発進!ガーティ・ルーも微速前進!」
ネオの指示が飛ぶ。それに応えて、モニターのスティングはその眼光を鋭く変える。
『スティング・オークレー、カオス、発進する!』
スティングの駆るカオスに続いて、2つのスラスター光が宇宙へと飛び出していった。



「(……母さん)」
絶対に来る事は無いと思っていた。嘆きの墓標―――ユニウスセブン。
血のバレンタイン…たくさんの命が漆黒の宇宙に散ったあの日、母の魂はどこへ行ったのだろうか。
コクピットで機体を立ち上げながら、シュウゴはぼんやりと考える。
母さんだけじゃない。ショーンだって…おじさんや、おばさんだって―――

―――シンだって。

死者はどうなるのか。誰にも解からない。それでも自分は、ずっと答えを求めている。
そして訊きたい。自分はあれで良かったのか。

自分は、これでいいのか。


443 :DESTINY Side-C 6/22:2005/12/31(土) 23:50:22 ID:???
「兄貴、か……」
自分は醜い。アイツの代わりだと自分に言い聞かせて、いつまでマユの傍にいるつもりだ。
マユがザフトに入るのを反対しなかったのだって、彼女を否定できなかったんじゃなくて―――
「……ッ!」
違う。俺は、そんなことの為に彼女といるんじゃない。
余計な事を考えるな…集中しろ。地球がヤバいんだ。今やれるのは俺たちしかいない。

『各機、聞こえますか?』
ブリッジからの通信。メイリンが少し困ったような表情で続けた。

『本作戦において、オーブからの"協力者"である
 アレックス・ディノさんに、ミネルバ隊と一緒に出撃してもらいます』

『……は?』
モニターに映るデイルが素っ頓狂な声を上げた。ルナもマユも、レイですら目を丸くする。
『ちょっ、ちょっとタンマ!どういうことよ、メイ!?』
『アスハ氏の随員であるアレックス・ディノさんが、協力してくださることになりました。ゲイツRで出撃します』
ルナマリアの問いにも、メイリンは困った表情で答える。彼女自身混乱しているのだろう。
『…アレックスさん…?』
「マユ…どうした?」
『え?あ、いや、えへへ…なんでも』
あの野郎。話す事はないと言ったのに、マユにひっついて行きやがったな。
シュウゴが舌打ちすると、今度は別のモニターが開く。
『どうしようもないだろう。アレックスさんのアシストにはマユとシュウゴが就け』
「は?マユも?」
レイはわけもなく言ってのけたが、それでは戦力のバランスが崩れてしまう。たまらず反論する。
「マユまで下げてどうすんだよ。決定力に欠けるぞ」
『元々俺たちゃオールラウンダーだ。それに今回は防衛戦だぜ?攻め込むわけじゃねぇんだ』
『それにオーブの人間に死なれたら困る…ってこと?』
デイルが至極真っ当な意見を言って、ルナマリアがそれに付け足した。
「あぁあぁ、解かったよ…くそっ、なんなら俺がゲイツに乗るか」
『無茶言わないでよ、民間人にザクは無理でしょ』
マユが苦笑する。確かに、ただの民間人にこの機体を扱うのは不可能だ。そもそも―――
「第一、ちゃんとモビルスーツ乗れんのかよ?その…アレックスさんとやらは」
『さぁな……っと、来たぜ』

モビルスーツ隊発進一分前の放送と同時に、格納庫に人影が入ってくる。
深紅のパイロットスーツを身に纏ったその姿は―――不自然なほど、板についていた。

『…なるほど、ね』
ルナマリアも気付いたのだろう。小さく呟くと、モビルスーツのセッティングに手を戻す。

「経験はアリか…なんとかなるかね」


444 :DESTINY Side-C 7/22:2005/12/31(土) 23:51:10 ID:???

「あぁ、大変、だ」
薄暗い室内。広大な空間に、モニターの明かりだけがぼんやりと白く。
おどけた口調で男が言うと、モニターの向こうの老人は顔をしかめる。
『軽口を叩いている場合か…アレが落ちれば、地球がどうなるかぐらい』
「わかっていますよ、もちろんね」
男は膝に抱えた猫を撫でながら、ワイングラスをゆっくり傾ける。

「それでもアレは落ちてくれた方が都合がいいんですよ…色々と」

『…本当に上手く行くと思っているのか?』
先ほどとは別の老人が、男を睨みながら言った。
「行きますよ。私には駒が居ますから…とびきり優秀な、ね」
『その自信がどこから来るのかは解からんがな…手を誤るなよ、ジブリール』
男―――ジブリールと呼ばれた人物は、ワイングラスを掲げて言い放つ。

「もちろんですとも。蒼き清浄なる世界のために…」



『モビルスーツ隊、発進願います…あのぅ』
オペレーターの赤毛の少女が、何か言いたげにこちらに呼びかけてきた。
「何か?」
『いえ、その…気を付けて、くださいね?』
「…あぁ、ありがとう」
アレックスは微笑むと、機体をアーム下部まで操作する。
この"ゲイツ"の操縦系統は、ジャスティスと似通っていた。なんとかいけそうだ。
『アレックス・ディノさん』
突如通信が入り、アレックスは慌ててモニターを見る。
映しだされていたのは、先ほどの少女と一緒にいた少年―――暗く、冷たい目をした、あの少年だった。
「あ、あぁ、そうだ。君は?」
『自分はシュウゴ・ミハラです。本作戦では俺のザクとマユのインパルス、デイルのゲイツRと行動してください。いいですね』
何…?
「…インパルスのパイロットの名前、もう一度教えてもらえるか?」
『は?どうして…』
「たのむ」

『…マユですよ。マユ・アスカ。さ、発進しますよ』


445 :DESTINY Side-C 8/22:2005/12/31(土) 23:52:05 ID:???
やっぱり…マユ・アスカ。あの子だ。
じゃああの新型に乗っているのは、やはり―――?

『発進後はインパルスが先導します。遅れないで下さいよ…シュウゴ・ミハラ、ザク、出ます!』

紫色のザクが発進する。続いてアレックスのゲイツもアームに持ち上げられて、カタパルトへと移動。
機体の脚部とカタパルトが接続。アレックスは眼前のレールと宇宙を見据えて、ぼんやりと考える。

「(……ただいま)」

俺の戦場…俺はようやく帰ってきたよ。

『ゲイツR、アレックス機、発進どうぞ!』
「…ア……」

けれどその名を名乗るには、まだ少し勇気が足りなかった。

「……アレックス・ディノ、ゲイツ、発進する!」



「急げっ、モタモタしてると間に合わんぞ!!」
そう言った次の瞬間にも、"彼"は機体を大きくひねり、背後から迫ったジンを長大なビームアックスで叩き斬る。
「(チィッ…この数、そう長くは…)」
彼―――イザーク・ジュールは舌打ちすると、愛機をメテオブレーカーの一基へと急がせた。
『イザーク、コイツらとんでもないぜ!?このままじゃユニウスセブンが…』
同僚のディアッカ・エルスマンが解かり切ったことを言うので、イザークの苛立ちはさらに募る。

ユニウスセブン市街跡上空。
そこかしこで爆発が起こり、イザークはひっきりなしに周囲を見渡していた。
「そんなことは解かっている!クソっ、ミネルバはいつになったら…!」
『とにかく、俺は狙撃ポイントを確保する!シリーとレンダを三番に回すからな!』
ディアッカからの通信が切れる。
イザークは手近にいたザクのパイロットに二、三指示を出すと、ビームアックスを抜き放ち、再び機体を移動。

「(よく統率された動き…頭を潰せば)」

地を這うように高速道路跡を滑空していたイザークのザクファントムの前に、2機のジンが飛び出してきた。
「邪魔だッ!!」
2機の間をすり抜け、機体を弾丸のように回転させながら、ビームアックスを一閃。
一瞬で2機のジンはただの鉄塊になり、地面にくずおれてから爆散する。
イザークは機体を上空へ飛ばすと、周囲へと視線を張り巡らせた。

446 :DESTINY Side-C 9/22:2005/12/31(土) 23:53:17 ID:???

「…やはり市街にはいないか?俺一人で炙り出すしかないか」

他の機体はメテオブレイカーの設置、及び護送で持ち場を離れられない。
全体への指示は、俺には勿体無いほど高い実力を持つ副官に任せておいた。

あと一機でも増えてくれれば大分楽になるというのに。ミネルバはまだか…!?

「…えぇい、クソッ!」

接近警報。機体の動きを止めてしまっていたらしく、3方向を包囲されている。
イザークは一瞬で肩のビームガトリングを敵の一機に向け、ビーム突撃銃をもう一機に。
発射。
二機が爆散するが、残る一機の銃口はしっかりとこちらに向いていた。

その一機が、横合から現れた光の柱に叩き潰される。

『間に合いましたね!』
幼い少女の声。そうか、この娘が例の…

新たに機体が4機現れる、ザクが1機、ゲイツが2機に―――

『遅くなりました!グラディス隊所属、マユ・アスカ以下四名です!』
インパルス、か。
「まったくだ…いいか、事態は切迫している。一秒の余裕も無いことを忘れるな!」
現在の状況、予測される敵の配置。手際よくイザークが説明していくと、通常色のザクのパイロットから通信が入る。
『それなら敵の頭を潰した方が良いかと。回せる機体は?』
その声を聞いて、イザークは思わず目を丸くした。
忘れるものか、この声は…
「ア……ッ!?」
そこまで言いかけて、慌てて言葉を飲み込む。そういえば彼は今偽名を名乗っていたはずだ。
「…機体を回すほどの余裕は無いぞ。ザクとゲイツ両機は指定したメテオブレイカーへ、インパルスは俺について来い!」
『了解!』
紫色のザクと、ゲイツが指定されたポイントへ移動を開始する。イザークは一瞬迷って…

「そこのゲイツ、お前もついてこい!」

アレックスのゲイツを引き留める。
疑問符を浮かべるマユを他所に、アレックスは「やはり」とでも言いたげに笑うと、その指示に従った。

その何もかも見透かしたような態度…やっぱり、どうにも気に入らない。



447 :DESTINY Side-C 10/22:2005/12/31(土) 23:54:10 ID:???
「…思ったよりヤバそうね」
ユニウスセブン郊外跡、廃墟群の陰に隠れて、赤と白の二機のザクが潜む。
遠くに見える砲火、敵のMSはジン…戦況はこちらの想像以上にまずいことになっているらしい。
『構わん、俺たちは』
「レイ、やっぱアイツらのとこ行ってあげて。私は大丈夫だから」
どうやら上空から予測した通り、この辺りは敵の警備もないようだ…思う存分、集中できるというわけだ。
『しかし』
「いいから!自分の身ぐらい、自分で守れるってば」
『…わかった、頼む』
正直不安な部分もあったのだろう。レイはろくに迷いもせずに、ルナマリアを置いて飛び立った。
ショーンの戦死は、戦力的にかなりの痛手になった。それに加えてアレックスさんが参入して、レイも戸惑っているのだろう。
それは不安になってもしょうがない…

「(違うじゃん、バカ…)」

ショーンが死んで本当に痛いのは、戦力なんかじゃない。
心だ。心が痛いから、不安になる。

いつもバカみたいに陽気なあのデイルが、あんなに泣いてた。
あの子はアカデミーの頃から私がよく面倒を見ていたが、あんな顔は初めてだった。
心が痛い。でもこれは多分、いいことなんだと思う。

どれだけ強くなりたいと思っても、この痛みは忘れたくない。

「…ハッ、いかんいかん」
ぼーっとしてる場合じゃない。
狙撃ポイントの確保、友軍との連携。やることは山積みだ。

ルナマリアは両の頬を叩くと、深呼吸してから機体の移動を開始した。



敵はジン、敵はジン、敵はジン…
その事実が、重圧となってマユに圧し掛かる。

即ち―――敵は、コーディネイター…!


448 :DESTINY Side-C 11/22:2005/12/31(土) 23:55:42 ID:???
『大丈夫か?』
こちらの不安を感じ取ったのだろうか。アレックスさんが声を掛けてくれた。
「すみません、大丈夫です…あの」
『ん?』
「アレックスさんは…どうして来てくれたんですか?」
『……イザーク、まだ見つからないか?』
無視されてしまった…そのことによって、マユの中の疑問がまた大きくなる。
先ほども突然の奇襲に対して、軽々とジンの射撃を回避した後、たったの2射で逆に撃墜してしまった。
それに加えて、"あの"ジュール隊の隊長を呼び捨てに。まるで、昔からの戦友であるかのように。
アレックス・ディノ…一体何者なのだろうか。いや―――

―――そもそも彼は、本当に"アレックス・ディノ"なのだろうか?

『待て、いや…来るぞ!12時!』
突如イザークが叫ぶ。12時の方向に、熱源が3。

「(新型?いや…ジン!?)」

漆黒の装甲に、紫の鎧を纏った姿。脇にはMSサイズの太刀を装備している。
この3機…違う、他の機体とは性能も―――気迫も。

モニターの向こうの3機が抜刀した。
それを見るや否や、イザークとアレックスは左右に動き、マユは"ケルベロス"ビーム砲とライフルをそれぞれ展開する。
照準、一斉射。

敵機は肩や脚を吹き飛ばされながら、尚インパルスに迫ってきた。

「あ……っ!?」
すれ違いざまに、一箇所を狙った2連撃。肩部VPS装甲に深い傷が刻まれる。
加えて右手に構えていたビームライフルまで斬りおとされた。姿勢を崩しながらシールドを掲げて、それの爆発を防ぐ。
『マユッ!』
「ッ…!」
衝撃に揺れるコクピットの中で、マユは歯を食いしばる。
ドジった。あの程度の攻撃も予測できないなんて、十分に考えられる動きだったのに―――

『市街地の外まで誘き出せッ!』

イザークが叫ぶと同時に、敵機が反転して再び迫って来た。
回避運動を取ろうとしたマユだったが、思わずその手が固まってしまう。


449 :DESTINY Side-C 12/22:2005/12/31(土) 23:56:36 ID:???
"考えられる動き"?―――本当に?

こいつら、死ぬことを恐れていない―――?

『動けマユ、死ぬぞ!』
インパルスとジンの間に、アレックスのゲイツが割り込んできた。
シールドから展開したビームサーベルで斬りかかると、敵のジンがそれに応えるかのように刀で受け止める。
背後から迫った2機のジンが逆制動をかけると、その眼前をイザークの放ったビームガトリングの驟雨が駆け抜けていく。

なんて、強い。

「アレックスさんっ!」
マユは"デファイアント"ビームジャベリンを抜き放ち、投擲する。
ゲイツと鍔競り合っていた一機が、素早くシールドを掲げてそれを弾いた。全く無駄の無い動き。
だがその一瞬の隙を突いて、アレックスのゲイツがタックルをかける。
敵機がバランスを崩すと同時に、最大出力でスラスターを噴射、離脱する。
「ごめんなさい!」
『構うな!誘い出す、ついてこい!』



"ジン・ハイマニューバー2型"のパイロット―――サトーは、今しがたの光景に思わず息を飲んだ。
「(ザフトにもまだ、骨のある男がいるようだな)」
それと同時に嬉しくもなる。かつての自分を思い出し、自嘲気味に唇を歪めながら。
冷静にこちらの連携を断ってきた青いザク、一瞬で機体を離脱させたゲイツ。

そしてすぐ傍に友軍機がいるにもかかわらず、迷わずビームジャベリンを投げた新型機。

『どうするサトー、追うのか?』
僚機のパイロットに話しかけられて、サトーは雑念を振り払う。
「追うぞ。アリューゼたちをポイントC-8に集結させろ…あの新型、ここで叩く」
『そうこなくちゃな…しかしなんだ、義理立てかい?』
「あの男のおかげで俺たちはこうしてここにいる。もう間に合わん、どの道コイツは落ちる。俺たちの勝ちだ」
『あとは心中ってわけか…アンタ、ってか、俺たちらしいな』
通信が切れる。サトーはコクピットの片隅に貼ってあった二枚の写真を見る。
ハイネ、ヒルダ、マーズ、ヘルベルト…駄目な教官ですまない。
アラン、クリスティン…俺も今、逝くぞ。

「欺瞞の大地に突き刺され…この剣が、世界を変える」

拳を強く握り締め、サトーは一人笑みを浮かべた。

450 :DESTINY Side-C 13/22:2005/12/31(土) 23:57:27 ID:???

設置率79%。届いたメッセージを見て、デイルは舌打ちした。
「…急げよな」
横から出現したジンの一機を、ビームアックスで斬り伏せる。

どうしてだ。

どうして俺は、こいつらを倒すことに戸惑いを覚えるんだ。

『デイル、そっちは大丈夫か?』
「ん、あぁ…シュウてめぇ、俺がこんなザコにやられるか」
『はは…全く、キリが無い』

そうか。

俺は落ちて欲しいんだ。このユニウスセブンに。
ショーンを奪った奴らが憎くて、憎くて…地球の奴らを。

―――殺してほしいんだ。

酷い裏切りだった。
マユも、レイも、ルナもシュウも、皆一生懸命コイツを止めようとしてるのに。
俺だけこんな、醜いことを考えてる。

『インパルス、及びアレックス機が敵の本隊と交戦に入りました。フォースシルエットの換装に―――』
ミネルバのアビーから通信が入る。マユたちが敵の本隊と?
これを落とそうとしてる奴らの、リーダーと…?
「ハーネンフース副隊長」
ジュール隊所属の、指揮を執っていた少女に通信をつなぐ。
この娘だって、俺と大して変わらない年なのに。
『…どうしました?』

「すんません」

デイルは一言だけ残し、通信をカットする。
スラスターを噴かすと、機体を上昇させ、市街の方向へとゲイツを飛ばした。


451 :DESTINY Side-C 14/22:2005/12/31(土) 23:58:14 ID:???

ユニウスセブンは農業プラントだが、中核となる市街地には高層ビルが立ち並ぶ。
高速道路に沿って市街地を抜ければ、長閑な牧草地帯が広がり、途端に視界が開ける。
『あと少しだったんだがな…!』
イザークが唸る。アレックスのゲイツが油断無くライフルを構え、マユはケルベロスを展開する。

現在自分たちを囲む機体の数…7機。
それら全てが、紫の鎧を纏ったカスタム型のジンだった。

『待ち伏せをかけられるなんて、ここまで読まれていた…?』
アレックスの呟きに対して、マユは答える事ができない。
見事な手並みだった。こちらの行動を全て読み、行き先に戦力を集結させる。
後は取り囲んで、一網打尽というわけだ。

「(でも…まだよ、まだ諦めない。こんな奴らに…負けてたまるか!)」

ジンの一機が突然動いた。それに合わせて、全ての機体が銃口を―――
「ジュール隊長っ!!」
敵の狙いは、イザークのザクファントム。マユは"デリュージー"レールガンを照準して、発射する。

命中。

敵機の左腕が吹き飛んだ。だがやはり敵は怯まずに、真っ直ぐザクファントムに突っ込む。
『コイツっ!!』
イザークがビームガトリングを発射。正面からそれを受けた敵機は、ズタズタに引き裂かれ―――

―――引き裂かれながら、イザークのザクファントムにしがみついた。

「自爆!?」
『イザークッ!』

一瞬だった。
目にも止まらぬ早業で、アレックスのゲイツが1機ジンを撃ち抜き…
イザークのザクファントムにしがみついたジンを、タックルで巻き込んだのだ。


『アスラァンッ!!』



452 :DESTINY Side-C 15/22:2005/12/31(土) 23:59:09 ID:???

「え?」
敵機が爆発する。それと同時に残る5機のジンが一斉にビームカービンを発射。

―――アスラン?

アスラン・ザラ…?

イザークのザクファントムの右腕が吹き飛ぶ。バランスを崩したところに、左脚への直撃。
「ジュール隊長、逃げて!」
ロック警報。敵の銃口がこちらに向く。マユは素早くバーニアを噴かして、機体を沈ませる。
発射。ブラストシルエットへ直撃。慌ててパージすると、爆風に背中から機体を叩かれる。
「ぐっ…!」
負ける。このままじゃ。そう思った刹那。

上空からの射撃が、敵の一機を撃ち抜いた。



「やっぱりテメーらかよ、これをやったのはぁっ!!」
アウルは激昂して、トリガーを引いた。眼下のジンが撃ち抜かれ、地表に叩きつけられて爆散する。
『落ち着けアウル、こいつを止めるのが先だ!』
「わかってる、でも!」
スティングのヤツ、冷静ぶりやがって。こいつらは地球にコレを落とそうとしてるんだぞ!?
だってあそこには…あそこには―――!!
『おいおい、合体野郎までいやがるぜ!?』
スティングが驚きの声を上げる。アウルは視線を巡らせて、"敵"の姿を確認する。

いた。

前回はなかった、黒色の装甲。背中に何も背負っていないが…
「どの道、ブッ潰す!」
ジン各機のビームカービンを防ぎながら、全砲門を展開。
『ステラ、お前は下から回れ!俺とアウルは上から叩く、当たるなよ!』
『わかった…』
発射。
2機のジンが爆散。合体野郎――アビスにデータがあった。たしか、インパルスだったか――は避けた。それが益々、気に入らない。
まぁいい、こいつでケリをつけてやる。

アウルはビームランスを引き抜くと、直下のインパルスへ機体を突っ込ませた。


453 :DESTINY Side-C 16/22:2006/01/01(日) 00:00:38 ID:???

「ジュール隊長、離脱して!」
『しかし…!』
「足手まといです!…アレックスさんは私が!」
『…頼む!』
ザクファントムが離脱しようとする。ジンの注意は強奪部隊に向いていたが、カオスがイザークのザクの進路を防ごうとした。
援護に入ろうにも、こちらはアビスに狙われている。今まさにこちらに―――
マユはインパルスのサイドアーマーから"フォールディングレイザー"対装甲ナイフを引き抜き、頭上でクロスさせる。

激突。

重力が小さいとは言え、凄まじい衝撃が走る。
もともと構造上あまり頑丈じゃないインパルスでこんな荒業…保つのか。

「…この……ッ!?」
視界の端で、アレックスのゲイツが立ち上がった。右腕を丸々損失しているが、それ以外は無事のようだ。
「ぐッ!!」
今度は横薙ぎにアビスが槍を振るう。機体がなぎ倒されそうになり、マユは素早くインパルスを立て直す。

イザークはカオスを相手に、防戦一方になっていた。
ガイアはジン2機を翻弄しながらも、決定打は出せずにいる。

「(カオスをなんとか…!)」

アビスが迫る。マユはフォールディングレイザーを投擲し、高く跳躍する。
アビスがそれを打ち払い、再びインパルスに照準を向けようとしたところで―――

ビルの陰から飛び出してきた純白の機体に、思い切り蹴り飛ばされた。

『俺が時間を稼ぐ』
「レイ!」
レイだ、レイが来てくれた!
彼は瞬く間にビーム突撃銃をアビスに照準すると、三点射する。
アビスはシールドでそれを受け止めると、返しと言わんばかりに胸部のビームを発射。
レイはビルの壁を蹴り、MSとは思えぬ流れるような動きでそれを回避。轟音を立ててビルが崩れていく。
『アレックスさんと市街地を出ろ、ルナマリアの援護が入る。油断するなよ』
「うん!」
カオスの注意がレイに行った瞬間に、ジュール隊長は離脱できたようだ。
マユはインパルスを上昇させると、アレックスに通信を繋ぐ。
「アレックスさん!」
『すまない…大丈夫だ、動ける』


454 :DESTINY Side-C 17/22:2006/01/01(日) 00:02:31 ID:???

ゲイツを狙ってカオスが動くが、レイのザクのミサイルがそれを遮った。
隙を狙って、ゲイツがこちらに飛んでくる。マユは彼を庇うように、高速道路の終わりを目指す。
レイが2機―――いや、ガイアも含めた3機を相手にしながらこちらへ後退してくる。
あのジンの部隊は全滅したのか?
援護しようにもこちらの武装はバルカンとナイフ一本。アレックスのゲイツは、時折振り返って牽制のためにレールガンを放つが、当たるはずも無い。

「(見えた…!)」
道の向こうで、高層ビルがピタリと消えていた。その先に広がる開けた荒地へ―――

抜けた。

遠くに廃墟群が見え、近くに――破棄されたのだろうか――大きく傾いたメテオブレイカーが一基。
強奪部隊からの射撃の雨をギリギリの所で避わしながら、アレックス機を庇う。
遅れてレイが飛び出し、続いてアビスが飛び出そうとしたところで―――

遠方からの狙撃が、彼らの間の空間を貫いた。



『グゥレイト!いい腕してるな嬢ちゃん!』
「そりゃどうも…!」
ルナマリアは吐き捨てると、再びオルトロスの照準を合わせる。
彼女のザクに装備された特別なセンサーが、敵機の動きを捉えて離さない。
「無駄無駄…落ちんのよっ!」
仇討ちなんて、ガラじゃないんだけど…落とし前はキッチリ、ね。
『よっしゃ、俺も手伝うぜ』
「ご自由に、私が全部いただきますけど!」
緑色のガナーザクに乗った青年―――ディアッカ・エルスマンが笑い、オルトロスの砲口を上げる。
『見てな、これが狙撃の真髄ってヤツ』



ビームの奔流が次々と戦場を駆け抜ける。冷徹な意志をもって、敵の動きを追いながら。
『ハァ、ハァ…』
アレックスもすっかり息があがっている様だ。だがここまでくれば、もう勝ったも当然だろう。


455 :DESTINY Side-C 18/22:2006/01/01(日) 00:03:42 ID:???

<FORCE-SILHOUETTE――System Connect Permission>
<設置率100%、破砕開始>

「よし…!」
マユはゲイツを置いて、インパルスを上昇させる。
敵は3機ともルナ…と誰かの狙撃相手に手一杯のようだ。今の内に…!
フォースシルエット接続…完了。
機体装甲が青基調のトリコロールに変色する。

「(今度こそ、チェックメイト!)」

敵機はオルトロスのビームを避けながら、それでも執拗にレイのザクを狙っていた。
マユはビームサーベルを引き抜いて、それの援護に向かおうとしたところで…

ユニウスセブンの表層が明るく照らし出される。

「…撤退、信号?」
尚止まぬ狙撃を掻い潜りながら、3機が宇宙空間に上昇していく。
スラスター光が小さくなったところで、ようやく"狙撃主"たちはそれらを追うのをやめた。

『限界高度が近い。俺たちも撤退するぞ』
轟音と共に、ユニウスセブンが大きく揺れた。
地表はひび割れ、砕けた岩塊がゆっくりと大地から離れて行く。

「うん…あ」

1つだけ残っていたメテオブレイカー。それを動かそうと、アレックスのゲイツが必死にスラスターを噴かしていた。

「アレックスさん!?これ以上は…!」
『駄目だ、少しでも小さく砕かないと!』

レイがそんなアレックスを、メテオブレイカーから引き離そうとする。
マユは一瞬迷って―――やがて提案した。

「レイは先に戻って。私はアレックスさんとあれだけ起動させてから戻る」
『しかし』
「大丈夫だってば。ほら、急いで!」
『…わかった。くれぐれも気を付けてな』
「うんうん!」


456 :DESTINY Side-C 19/22:2006/01/01(日) 00:04:38 ID:???

レイを追い払うと同時に、スラスター光が次々とユニウスセブンから離れていくのが見えた。
残っているのは私とアレックスさんぐらいだろうか。なんだか妙な気分だった。

「アレックスさん」
『…そっちを頼む』
「アスラン、さん?」
『マユ…それは』
「大丈夫です、言いませんよ。誰にも」

アレックス―――いや、アスランは以外そうな顔で、マユを見ていた。
偽りの名を名乗る以上、それ相応の何かを彼は背負っているのだ。
救国の英雄と謳われるアスラン・ザラ。そんな彼がオーブにいる。
気に入らなかったが、彼にとっては"それ"こそが正解なのだ、多分。

そろそろ大気圏の摩擦熱が来る頃だ。
フォースシルエットだからこそ、ギリギリまで作業ができる。
そう考えると、マユはまたこの"力"が誇らしく思えた。

「さ、これだけすませて、私たちもさっさと」

直撃。

どこからか放たれたビームがメテオブレイカーを大きく穿ち、爆発する。
「なっ…!?」
『マユ、無事か!』

市街から現れた1つの機影。

鎧を剥がされ、片脚を失った漆黒のジンだった。



「やらせはせん…」

サトーは唸る。

突然の乱入で、アリューゼやグリフ、ガリィまで失った。
これ以上、失うものなど無い…!
「我らの想い…これ以上、やらせはせんぞぉっ!!」


457 :DESTINY Side-C 20/22:2006/01/01(日) 00:06:19 ID:???

両手でしっかりと太刀を握り締め、突撃する。
視界が赤い。血のせいか。それとも―――

俺の目には、もう焼かれる世界が映っているのか。

ゲイツが飛び出してきた。温い。そんな動きで、この俺を止められると思っているのか!
一撃の元にゲイツを叩き伏せ、戦闘不能にする。ビームサーベルを2本引き抜いた新型が、激昂して迫ってきた。
「温い、温い、温いわぁ!!」

一閃。

ビーム発生器を斬り落とした。敵機はそのサーベルを放り投げ、残る一本で突撃してくる。
何故だ、貴様は…!!

「何故笑うか!貴様らはぁっ!!」

激突。最期の咆哮。

「軟弱なクラインの後継者…やつらの作り上げたこの欺瞞だらけの世界が、本当に正しいか!?」
敵を圧す。意志の力をぶつけるかの如く。

「偽りの世界で笑う、貴様らの存在は間違いだ!我が娘の眠るこの墓標で以て、世界は変わるのだ!!」
『…ふざけないでよ……!』

底冷えのするような声。だがそれは確かに―――幼い、少女の声だった。

「な……!?」
『ふざけないでよ、このバカッ!!』

今度は逆に、こちらが圧され始めた。サトーは歯を喰いしばる。
こんな少女を、戦場に…!?

『嘆き続けることなんて、できっこないのよ!偽りだっていいじゃない、皆笑えるなら…!』
「貴様のような小娘がッ!」
『大切なものを失って、笑えるようになるまでどれだけかかると思ってんのよっ!?』
「知った風な口を聞くかぁっ!」
『知ってるから言ってるんでしょうがぁーっ!!』


458 :DESTINY Side-C 21/22:2006/01/01(日) 00:07:25 ID:???

太刀の中腹が、ビームの熱で融解した。
振り下ろされる閃光、サトーはそれを受け入れながら、折れた太刀の切っ先を刺し出す。

俺がお前を、この歪んだ世界から解放してやる。

『マユーッ!!』
その声が聞こえると同時に、脇からの衝撃がサトーを襲い―――

彼の意識は、そこで途絶えた。



ボロボロになりながらも、アスランのゲイツはインパルスのすぐ傍まで来ていた。
「…デイル!?」
今聞こえた声は、確かにデイルだ。じゃあ、自分を助けてくれたのは…けれど、何故?
『マユ、急げ!』
既に周囲の空間は赤く燃えている。早くしなければ、本当に地球へ落ちてしまう。
アレックスのゲイツの手を取ると、マユは真っ直ぐデイルの元へ向かう。
「(デイル…デイル…!)」

生きなきゃダメだよ―――?

自分の声が蘇る。なんで、どうしてこんなことを。

いた。

「デイル、良かった…」

『来んな』

レールガンがこちらに向けられる。

『このまま…死なせてくれねぇかな?』
「…ふっざけんなぁっ!!」

マユが叫ぶ。デイルはそれでも、嗚咽が止まらない様子だった。


459 :DESTINY Side-C 22/22:2006/01/01(日) 00:08:21 ID:???

「なんでそんなこと言えるわけ!?死にたいから死ぬ?そんな選択、許されると思ってんの!?」
『マユ、いいんだよ。ショーンがいないんだ…ありがとう、俺は』
「いいわけ無いから言ってんでしょうが、このバカ!バカ!」

マユは自分が泣いているとも気付かずに、なりふり構わず叫び続ける。
「私の家族、オーブで死んだ!ビームで滅茶苦茶、死体なんて微塵も残らなかった!!」
『マユ…!?』
「それでも私はここにいる!皆がいてくれるから!デイルがいるから、私はここで笑えるの!」
『……』
「だからお願い…!一緒に、帰ろう…!?」

『わかったよ』

「え…?」
以外なほどあっけなく、デイルはこちらに従った。

『お前の強さ見てたら、情けなくなっちまった…俺、ショーンの分も生きれるかな?』
「…知らないわよ、バカ。自分で考えて」
機体を少し、ゲイツに近づける。もうすぐで手が届く。
『はは、わりぃ…マジ、ごめんな。うし、そんじゃいっちょ』

ザッ

「?」

雑音が通信を遮る。

「デイル?」

ボンッ。
突如、デイルのゲイツの脇腹が音を立てて爆ぜた。

「ッ…!!」

一拍遅れて、粉々に四散する機体。
衝撃に揺られながら、マユは咄嗟にアスランのゲイツを庇う。

タンホイザー発射のメッセージが、少し遅れてインパルスに届いた。