65 :付き人 1/12:2006/02/28(火) 00:08:31 ID:???
混乱の広がるアーモリーワンで、七体の巨人が対峙する。
ザクが三体、新型が三体、謎の正体不明機が一体。
誰が味方かは分かっている、味方以外は敵と判断する。
それは常識的で、通常ならば正しい判断。
だが今だけは誤った判断、混乱をさらに加速させる判断。



66 :付き人 2/12:2006/02/28(火) 00:10:13 ID:???


     歌姫の付き人
    
    第二話  乱戦 アーモリーワン!


「この……」
「待て、ルナ」

先手を取って動こうとした赤いザクを、白いザクが押しとどめる。

「相手は五機だ、突っ込んだら逃げられる。
 こっちには増援がある、彼等が来るまで射撃で牽制して時間を稼ぐぞ」
「分かったわ、ごめん。 艦長!」

『ええ、今聞いたわ』

ルナマリアの呼びかけに、タリアがミネルバから応じる。

『司令部からの命令は機体の奪回……だったんだけど、五機もいるんじゃ不可能ね。
 独断だけど命令を変更。逃がさないことを最優先に、目標の破壊も許可します』
『破壊って……あれセカンドステージシリーズの新型ですよ、いいんですか?』

副長のアーサー・トラインの声が無線に乱入する。

『この状況じゃ仕方が無いわ、責任は私が取ります。
 なんなら、今の命令を録音しといてもいいわよ』
「さすが艦長、話が分かりますね」
『おだてないで! 
 敵の正体不明MSをこれ以降アルファ1とする。
 初陣からきつい仕事だけど、2人ともよろしく頼むわよ』
「はい!」
「了解しました。
 こちらより敵の数のほうが多いため格闘戦は不利、
 射撃戦になる公算が大なので周囲の避難を急がせてください」





67 :付き人 3/12:2006/02/28(火) 00:11:35 ID:???

緑色のザクのコクピットで、アスランは必死に機材に目を通す。

「おいアスラン、あの赤いのと白いのは……」
「これと同じ機体だ。ザフト軍が来たのか、それともあれも奪われたのか」
「なんか、こっちのほうも睨んでるみたいなんだが」
「当たり前だろ、少なくとも味方だとは思っていないはずだ。
 だがあれがザフト軍なら、完全に敵とも思われていないはず……」
「だといいんだがな。
 とりあえず今は軽率に動かないほうがよさそうだ」
「ああ……くそ、無線はどれだ? 連絡さえ付けばはっきりするのに」

とはいえ初めて触る機体、いくら彼がコーディネーターでも機材の配置までは分からない。
そして彼が無線機を見つける前に、事態はさらに複雑に……




「くっそー、四体目の新型なんて聞いてないぜ!」
「……スティング、どうする?」
「そうだな……アウル、お前の機体が火力は一番強力だな」
「ああ、ビーム砲がやたらと一杯付いてる」

新型機に乗るスティング、アウル、ステラ、事を起こした側の彼等は自分たち以外に襲撃者がいないことを知っている。
ならば自分たち以外は敵、簡単に下せる正しい判断。

「よし、アウルは射撃で白と赤の足止め、その間にステラは緑を仕留めろ。
 相手は量産機だ、出来るな?」
「……わかった、ステラ、やる」
「あれ、じゃあスティングは?」
「あの新型をやる。スペックがわかんねーのは不安だが……
 出来ればあれもネオへの土産にする」
「ちぇっ、ちゃっかり自分だけおいしいところ持っていきやがんの……っておい、スティング!」

無線での打ち合わせで役割を分担、それを実行しようとした矢先……
奪取できなかった四体目の新型がくるりと背を向けて逃げ出した。





68 :付き人 4/13:2006/02/28(火) 00:12:22 ID:???

「三十六計逃げるに如かず!」
「あれ、マユ、戦わないの?」
「当たり前でしょ!」
「でもマユ、MSの操縦の仕方、習ってたじゃない」
「私が習ったのはMSの動かし方で、MSでの戦い方じゃないの!
 それに大体この機体、鉄砲とか積んでないもの!」
「あ、そっか……ってマユマユ、うしろうしろ、なんか撃ってきた!」




「何だあいつ、敵に背中見せるなんて臆病者だぜ」
アウルのアビスが、逃げる機体に向けてビーム砲を撃つ。

「艦長!」
『六番ハンガー周辺の避難、おおむね完了。射撃、許可します』
「はい!」
ルナマリアのザクが、アルファ1に対してミサイルを放つ。

インパルスはアビスのビームを受けて転倒、さらにそこを補足したザクのミサイルが襲う。
PS装甲によって破壊は免れるものの、その衝撃はコクピットにも伝わる。

「きゃあ!」
「ミーア! 大丈夫?」
「うん……なんとか」





69 :付き人 5/13:2006/02/28(火) 00:13:08 ID:???

「これは……」
「一体どうなっている?」

混乱した声が上がったのは、緑色のザクの中。

「カガリ、議長の話だと完成しているセカンドシリーズは……」
「ああ、あの奪われた三機だけだったはずだ」

合体して表れた四体目は、もちろん量産機のザクとも違う。
当然、襲撃者側がひそかに持ち込んだ機体だと思ったのだが……

「赤いザクはともかくとして、なぜ奪われたアビスからもあれが攻撃を受けている!」
「仲間割れか……襲撃計画を利用してのプラントへの亡命者か?」

いまだ無線は繋がらず、判断は与えられた情報の中から下すしかない。

「亡命者……ありえるかもしれない。プラントにMSを持ち込めるような組織で一番に思いつくのは連合だが、
 最近では連合内でもそのやり方に不満を持つものも多いと聞いたことがある」

さすがはカガリ、オーブの代表だけあって他国の事情にも通じている……
確かに通じてはいるのだが、それが役に立つかどうかは実は全くの別問題。
かくして『合体したMSは襲撃者(おそらくは連合)側からの亡命者』なる見当はずれの推論から、
緑色のザクは行動を決める。

「よし、あの亡命者が乗っている機体を助ける」
「戦闘に介入するのか?」
「今の時点でここの破壊を目的としていないことが分かっているのはあの機体だけだ。
 あれと共同しこの場を離脱、ザフト軍の保護下に入る……
本当なら今すぐ逃げ出したいんだが、あの赤と白も襲撃者に奪われた機体だとしたら、単機じゃ離脱も困難だ」
「……分かった、任せる」
「多少無茶な動きをするかもしれない、しっかり摑まっていろ!」

亡命者の機体(と、彼等が考えているもの……実際はインパルス)と赤いザクの間にわって入り、ザクの放ったミサイルを防ぐ。
その行動に白いザクが反応、素早くビーム突撃銃を構える。
放たれるビームを後方への跳躍でかわす……が、着地点を黒い影が襲う。

「スティング、言った……ステラ、緑のザク、やる!」

MA形態、四足で地を駆ける獣の姿となったガイアの突撃、
空中でのバーニア制御により何とかかわすものの、機体左手首を持っていかれる。
ガイアは速度を緩めずそのまま反転、ビーム突撃砲を放ちつつ、緑のザクに再度迫る。
対するアスランは放たれたビームを巧みに避けつつ、左腕に残されたショルダーからビームトマホークを取り出し迎え撃つ。




70 :付き人 6/13:2006/02/28(火) 00:14:34 ID:???

「ちょっと、どーなってるのよ?」
ルナマリアが、ミサイルを撃ちながらレイに訊く。

「おいおい、何だよこれ?」
アウルが、ビーム砲を放ちつつスティングに不満を漏らす。

『自分が見たことの無い――つまりおそらくは敵の機体に、どうして敵が攻撃を加えている?』
両者の疑問はなぜか一致、とはいえそれは攻撃を緩める理由にはならない。
結果、一番割を食っているのはインパルスの中の2人の少女。

「マユ、来る来る来る!」
「分かってる分かってる分かってるー!」

アウルの放つビーム砲は、まだ機体の癖を把握できていないので照準が甘い。
ルナマリアによるミサイルの攻撃は、PS装甲に頼れば何とか耐えられる。
PS装甲にも有効なザクのビーム突撃銃は、コロニーへの被害を考え使用は控えられている。
それらの幸運、さらにマユの巧みな操縦も加わって、インパルスは何とか持ちこたえる。
もちろん乗っている本人たちは、そんなものを幸運だとは思わない。

「ザフトの警備隊とか、まだ来ないのー」

……もう来てます、そんでもって今あなた達にミサイル撃ってます。

「――!」

それでも何とか攻撃を避けつつ後退を続けていたインパルスだが、その動きが突如停止する。

「どうしたの……どこかぶつけた?」

その変化に、ミーアが尋ねる。マユは頭を横に振り、何もいわずに手元の機械を操作する。
その顔に苦悶の表情が浮かんでいることに、ミーアは気付く。
それはここ二年弱、常に一緒にいたと言っていいミーアでさえ、初めて見るマユの表情……。
マユの操作にしたがって、モニターの一部が変化する。
映し出されたのは、インパルス進路下方の拡大映像。そこにいる、多数の逃げ遅れた人々の映像。

「このまま進めば、多分逃げ切れると思う」

そう言ったマユの声は、かすかに震えていた。





71 :付き人 7/13:2006/02/28(火) 00:16:27 ID:???

レイ・ザ・バレルは整理する、自分たちの置かれた状況を。
この場にいるMSは全部で七機、内ザフト軍のものと確定しているのは、自分とルナマリアの二機のザク。
仮定し得る最悪の事態とは……残りの五機全てが敵であること。
だが今アビスがアルファ1を攻撃し、ガイアが緑のザクを襲っている、これを、どう考える?
敵は奪われた新型三機だけ……という可能性は極めて低い。
正体不明機、アルファ1……その形状は今まで見たことの無いもの。
当然ザフトの機体ではない、アーモリーワンに在るはずがないもの。何者かが秘密裏に、このコロニーに持ち込んだもの。
この機体、そしてそれを先ほどかばったザクは、おそらくは敵。
そして奪われた新型三機を操るのは、間違いなく敵。
問題はその敵同士がなぜか戦っているということ。

「襲撃者が二組いるとしたら……」
「はあ?」

無意識に呟いていた言葉に、ルナマリアがミサイルを放ちつつ反応する。
その声が、逆にレイに自分の正しさを確信させる。

「前の戦争のヘリオポリスは知ってるだろう」
「ザフトが連合の新型を奪ったやつ?」
「ああ、今回の事件は恐らくそれの模倣だ。ならそれを真似ようとした奴等が複数いたとしてもおかしくない」
「つまりあのアルファ1を持ち込んでザクウォーリアーを奪った敵と、新型三機を奪った敵が、
互いの機体を奪おうとして争っている……
あ、やばっ、まずった」

話しながらも攻撃を続けていたルナマリアが、突然ミサイルを放つのをやめる。

「どうした?」
「アルファ1、軍事区画を離脱して市街地方向に……あそこ、まだ住民の避難済んでないのに!」

流れ弾の被害を考えると、確かに射撃の継続は困難。だからといって黙って逃がすわけにもいかない。
周囲を確認、ガイアと緑のザクの戦いは、いまだ決着が付きそうにない。
アビスとカオスを自分一人で止められれば……

「ルナ、格闘戦で三十秒以内にアルファ1を機能停止させろ。その間他は俺が止めておく」

出来るか、とは決してきかない。それが彼なりの、彼女への信頼の証。

「三十秒? 二十秒で十分よ!」

言い放ち、アルファ1へと向かうルナ。その赤い機体を確認しつつ、レイはアビス、カオスと対峙する。





72 :付き人 8/13:2006/02/28(火) 00:17:41 ID:???

スティング・オークレーは考える。自分たちの果たすべき目的を。
ネオの命令、新型機の強奪。それを無事に持って帰ること。
全てはそのための作戦であり、ほかの事はみな手段に過ぎない。
今行っている戦闘も、迎えが来るまでの時間つぶしに過ぎない。
ならばここで大切なのは、奪った機体を必要以上に傷つけないこと。
そのためには、敵のMS同士がなぜか争っている現状はきわめて有利。
その原因の解明は、少なくとも今やらなくてはならないことではない。
緑のザクは、ステラが抑えている。
四体目の新型はこの場からの離脱を目指している。
赤いザクは、その新型を攻撃している。
ならば今脅威たり得るのは、自分の前にいる白いザクのみ。

「アウル、計画変更だ」
「はぁ?」
「白いザクをやる、援護頼む」
「へいへい、でもあんま期待すんなよ……
なんかこの機体照準ずれてるみたいでさー、小さい的にはうまく当たんないんだよね」
「ああ、なら牽制だけで十分だ」

奪ったばかりで癖とのすり合わせもしていない機体、射撃が当たらないのはある意味当たり前。
だが近距離での格闘戦なら、細かい狙いなどつけずにすむ。
アビスのビーム砲が着弾し、もうもうと土煙があがる。
その中心にいるはずの白いザクに向け、スティングはカオスを突撃させる。



突っ込むカオを白いザクがかわす。ザクの射撃をカオスが避ける。
どちらも、無理はしない。それぞれの目的は足止めと機体の保持。
もっとも避けるべきは敵に倒されること、その点は両者の共通の見解。
倒すよりも倒されないことを目的としたその攻防は、互いに詰めの一歩を踏み出させず、
見た目の激しさにも関わらず、奇妙な均衡を生じさせる。

ステラのガイアとアスランのザク、決め手が無いのはこちらも同じ。
初めて乗るガイアの操縦に手間取るステラ、相手がエース以上だとさすがに攻めきれない。
保護すべきカガリを隣に乗せたアスラン、この状態では急な機動は厳禁。
それでもザクは何度かガイアに迫るものの、そのたびに襲うのは遠距離からのアビスの砲撃。
致命傷は受けないものの、逆に与えることもまた出来ない。
アビスはアビスで照準の癖をつかめていない上、カオスとガイア、両者を共に援護していては、
決定的な戦果はとても望めない。





73 :付き人 9/13:2006/02/28(火) 00:18:35 ID:???

「このまま進めば、逃げ切れる……」
モニターの中の、進路上の人々を眺めながら、ミーアはマユの言葉を反芻する。
操縦の出来ないミーアにも、マユの言った言葉の意味くらいは理解できる。
進むには、路上の人々の上を進むしかない。
その場合たとえ踏み潰さなかったとしても、この機体を狙った他のMSからの砲撃で、
多くの犠牲が出るのは疑う余地が無い。
だがもし進まなければ――他の六体のMSにより、おそらくは……。
しなければならないのは命の選択。自分たちか、モニターの中の人々か――

――そこまで考えて、思い出す。マユの家族が死んだ理由を。
自分が『ラクス』になるか悩んでいたあの頃、マユが自分に聞かせてくれた話を。

『自分の肉親はオーブで殺された。足もとなんて気にもせずに戦う、青い翼を持ったMSに』

そう言ったあと、マユは久しぶりに泣いた。

自分が決めたことが正しいのかなんてことは分からない。でも思う。
彼女の肉親を殺したのと同じことを、決して彼女にやらせてはならない。
だから強引に微笑んで、それでもこわばっている自分の頬に失望して、そして言った。

「マユ、進んだら駄目。
平和の歌姫が自分の命のために人踏み潰して逃げ出したら、しゃれになんないでしょ」
「……いいの?」
「うん」

『ラクス・クライン』、自分が演じている女性、
本物の彼女ならきっとそうするだろう笑顔で、ミーアはマユにうなずいた。

「……ありがと」
「え、なに?」
「なんでもない。分かった、じゃあしっかり摑まっててよ!」

マユが機体を反転させ、そのまま全速で前進させる。
確かに摑まっていなくては、体をぶつけてあざをつくりそうな強い加速。
何しろ民間機、飛び道具なんて気の利いた代物ビーム砲どころか火縄銃一丁積んでいない。
近づかなくちゃ、どうしようもない。
インパルスの進む正面には、なぜかミサイルを撃つのを止め、こちらに向かってくる赤いザクがいた。




74 :付き人 10/14:2006/02/28(火) 00:22:07 ID:???

「アルファ1、近づいてくる?」
怪訝に思うルナマリア、が、その疑問はすぐに消し飛んだ。
格闘戦は望むところ、近づいてきてくれるのも、自分にとっては好都合。
射撃戦より被害は少ないかもしれないけど、市街地でMSの格闘戦をやるなんて悪夢と比べたら、
相手の意思がなんであれ、基地区画に戻ってきてくれるのはありがたいことこの上ない。

レイのことが気にかかる。
本人はおくびにも出さなかったけど、複数の新型機を一人で足止めするのは実際は無茶もいいところ。
もちろん振り向くなんて無駄なことはしない。
目の前の機体を速攻で仕留めて加勢にいく。
相手との距離を見計らって、
左肩に付いたショルダーから、
ビームトマホークを引き抜いて振りかぶる。


赤いザクが、左肩から斧を取り出して振りかぶる。
振り下ろされたら、切り裂かれる。
避けようにも速度が付きすぎて止まれない。
だからマユはさらにスピードを上げ、
インパルスの手を前に伸ばし、
斧を持った赤いザクの腕を掴む。


「っ!! こいつ!」
腕をつかまれたルナマリアが唸る。
パワーは相手のほうが上、このままだと逆に押し切られる。
強引に機体を下に俯かせる。
機体に装着したウィザードがアルファ1のほうを向くように。
この距離なら外すことはない。
周りへの被害を気にせず思いっきり撃てる。
「食らえ!」




75 :付き人 11/14:2006/02/28(火) 00:23:48 ID:???

「きゃあ!」
ザクの撃ったミサイルがインパルスを襲う。
零距離射撃、全弾命中。
揺れる機体、揺れるコクピット。
でも、手だけは離さない。
離したら即切り裂かれる。
機体自身はPS装甲で無事。
パワー勝負なら、こちらに分がある。
操縦桿を押し倒し、インパルスを前に進める。


受けたミサイルを気にする風も無く、アルファ1は前に踏み出る。
その姿が呼び起こす恐怖を、ルナマリアは強引に押さえ込む。
PS装甲は魔法じゃない。
長所もあれば、短所もある。
まして普通のバッテリー機なら……
「フリーダムやジャスティスでもない限り!!」
ミサイルを、さらに浴びせる。
だんだんと相手に押されながらも。
それは全てPS装甲に弾かれるが、
やがて遂に変化が訪れる。
「やった!」


機体の色が、変化する。白と青から灰色に。
装甲に負担を掛けすぎて起こった、エネルギー切れ、フェイズダウン。
一つの戦闘の勝敗が決し、青くなるマユとミーア、大きく息を吐くルナマリア。
その三人傍らで、更に状況は変化する。




76 :付き人 12/14:2006/02/28(火) 00:25:00 ID:???

一つはコロニーの地に響く振動。やっと着いたザフト軍の援軍。
三機一組が三組、合計九機のゲイツ隊。
マユもミーアもそしてルナも、三人が三人とも待ちわびていたもの。
それを見て僅かに緩んだ顔が、もう一つの変化で再び強張る。

大きな振動、破壊音。空が映し出されていた外壁に、宇宙へと抜ける穴が開く。
「やっと来たぜ、バス」
アウルはついた溜息と共に、アビスの全砲門を開いて斉射。緑のザクを、白のザクを、ガイア、カオスの両機から引き離す。
その隙に、ガイア、カオスは穴から宇宙へ。最後にそこをくぐるアビスが、おまけとばかりにもう一斉射。


アビスの最後の攻撃を避け、レイは状況を再確認。
残った敵は緑のザクとアルファ1。フェイズダウンしているアルファ1には、もう戦闘力は残っていない。
最後の脅威、緑のザク。煙の中にたたずむそれに、レイは素早く近づくと、背後からビーム突撃銃を突きつける。

『おお、ナイス!』

増援のゲイツ隊から通信が入る。緑のザクに対する構えを崩さずに、レイはゲイツ隊の言葉に応じる。

「すみません、奪われた新型機三機を取り逃がしました」
『なーに、その二機は押さえたんだろ? 初陣でそれだけやれりゃあ立派なもんだ。
 追撃は俺たちがやる。その二機の拘束を頼む』
「はい」

そのまま通信を切ろうとして、通信が緑のザクにも繋がっていることに気付く。
乗っているだろう襲撃犯に、レイは自らの意思を伝える。

「ザクウォーリアーの搭乗者に告ぐ」
『え、わたし?』
「……ルナじゃない、緑のほうだ」

ルナマリアの横槍で気勢をそがれ、それでも何とか仕切りなおす。

「緑のザクウォーリアーの搭乗者に告ぐ……」




77 :付き人 13/14:2006/02/28(火) 00:25:56 ID:???

無線のスイッチが入ったのは、アビスの攻撃をかわしたとき。
急な機動にガガリが倒れこみ、彼女の頭が機材にぶつかり、雑音と共に通信が入った。
その通信に気を取られ白いザクに後ろを取られたものの、無線の内容で相手がザフトと分かりアスランはほっと溜息をつく。

『……に告ぐ。貴官を拘束する、指示に従え。こちらの意思に了承してもらえるならMSの左腕を挙げてもらいたい』

指示通り、機体の左腕を挙げる。

「やはり、敵機と思われているか」
「なーに、説明すれば分かってもらえる。少なくとも殺されることはない。
それより、あの亡命機は?」
「あそこだ、フェイズダウン起こして倒れている。
 カガリ、ぶつけた頭は大丈夫か?」

 やたらと前向きなお姫様、その元気に呆れながら、そっと頭を撫でてみる。

「今はそんなこと言ってる場合じゃ――痛っ!! ……こぶになってるかもしれない」
「落ち着いたら、医務室で見てもらうか」

そう言って、シートに体を預ける。無線機から、軍の通信が漏れてくる。

『では、我々は十番ハンガーに……』
『待って。レイ、ルナマリア、至急ミネルバに帰艦してちょうだい』
『帰艦って、捕獲した二機はどうするんですか?』
『そこらへんにいる部隊に……じゃあ間に合わないわね、いいわ、その二機も艦内に連れてきて』
『了解しました。搭乗者、聞こえたな。指示に従って進め』
『え、この機体もですかー? あーあ、それならフェイズダウンなんかさせるんじゃなかったわ』

久しぶりのMSの操縦は、ひどく疲れた気がした。





78 :付き人 14/14:2006/02/28(火) 00:27:27 ID:???

エネルギーが切れ、動けなくなったインパルスが、赤いザクにずるずると引きずられていく。
その中で、2人の少女が顔を見合わせる。

「ねえミーア、これってどういうこと?」
「多分……私たち、襲撃犯と間違えられたんじゃないかしら」
「つまり、赤と白のザクはザフトってこと?」

やっと何とか、状況認識。戦闘の緊張と死の恐怖から逃れ、マユはガックリと前に倒れこむ。

「大丈夫?」
「……うん」

何とか気力を引き出して、頭を上に持ち上げる。
目の前にあるのは、エネルギーが切れてもう何の反応もしない操縦機器。その中でただ1つ光っているモニター。
モニターの中に映るのは、破壊された倉庫、燃え盛る工廠。
今のインパルスも加わった戦闘で、破壊されたコロニーの姿。

「ねえマユ」
「うん?」
「キングさんたち、大丈夫かなあ」
「うーん、大丈夫だよ、きっと」

何の根拠も無い言葉、でも今はそう信じるしかない。
赤いザクに引きずられ、たどり着いた先は巨大な艦。
明日進宙式が予定されていた、その式典で『ラクス』のサプライズコンサートが行われるはずだった、
プラント自慢の新造宇宙戦艦。
インパルスは赤いザクに抱えられ、その艦ミネルバの格納庫へと、強引に収納された。