100 :付き人 0/11:2006/03/24(金) 22:17:09 ID:???
「おいおい、なんだよ? いいところだったのに」
ガーティー・ルーに帰艦したネオは、艦橋に入るなりリーに文句をつけた。

「なんであんなところで帰艦信号出すんだよ」
「一応、目的は達成してますよ」
「そりゃ機関に被弾してるみたいだから逃げ切れるだろーけどさ、うまくすれば沈められただろ?」
「はい、ですが戦闘の最中に重要情報を受信しまして」
「重要情報? ニューヨークに核ミサイルでも落とされたのか?」
「おそらく、そちらのほうがまだましです」

リーのその言葉に、ネオはピクリと眉を動かす。そのまま、リーから通信文の書かれた紙を受け取る。

「ユニウスセブンが……地球への落下軌道!? なるほど、こりゃあ重要だ。
 よし、至急進路変更、全速でユニウスセブンへ……」
「もう向かっております」
「……ご苦労。ああ、悪いが三人の最適化を一時中止するよう、メンテナンス室に伝えといてくれ。おそらくもう一働きしてもらうぞ」
「はい。どちらへ?」
「機体から降りてそのまま来たもんで、パイロットスーツがきつくてたまんなくってね。
 ちょっと着替えてくるからなんかあったらすぐに呼んでくれ。一応、ミネルバの動きからも目を離すなよ」
「は!」

艦をリーに任せ、艦橋を出る。実際、疲労は一息入れないとやりきれない程度にまで蓄積していた。
廊下を歩きながら戦闘を振り返り、自分一人で反省会。
敵がデブリ帯まで入ってくると決め付けていたのは自分のミス。少し思い上がっていたようだ、次からは自重しよう。
それはそれとして気になるのは、白いザクとやりあったときの妙な感覚。たしか前にもどこかで感じたことが、ええとあれは……

「!!!」

記憶を手繰り寄せようとしたところで、ギョッとして振り返る。背後に感じ取った気配は、白ザクに対するそれより数倍恐ろしいもの。
振り返ったその先には、青ざめた顔で恨めしそうにこちらを見つめる幽霊……ではなくガーティー・ルーの機体整備長。

「おい、どうした!?」
「どうしたじゃないですよ、大佐! またガンバレルを、それも今度は四基全部壊して帰ってきて!」
「え、あ、ああ、すまん」
「すまんですみますか、まったく。あれの設定、大変なんですからね!」
「……ごめんなさい。で、直る?」
「そりゃあ直りますよ、というか直して見せますよ。けどねえ……」

その後『大体パイロットって人種は整備員をなんだと』『近頃の若いもんはガンバレルに対する愛ってもんが』
『もともと量子通信システムとは』などの説教を十数分にわたり聞かされて、ふらふらになって自室に戻る。

「あー、怖かった。で、ええと、何しようとしてたんだっけ……ま、いっか。シャワーでも浴びよう」

襟元を緩めシャワー室に入る。同時にさっそく、ネオはユニウスセブンについて考え始めていた。



101 :付き人 2/11:2006/03/24(金) 22:18:05 ID:???


           歌姫の付き人

          第五話 かつて、農場だった場所


「あー、怖かった。あの艦長さん、鬼みたいな顔で怒鳴るんだもん」
「あ・た・り・ま・え・で・しょ!!!」

部屋に戻ってきたマユを、ミーアは怒鳴りつける。

「ほんとに、こっちがどれくらい心配してたと思ってんの! あんな危ないことして」
「えへへ」
「えへへ、じゃなーい!」

マユはザクに取り押さえられて帰艦したところをそのまますぐに艦長室に連行されて、今の今までお説教されていたところ……
に、してはいまいち反省の色がないようで、それがますますミーアの怒りを募らせる。

「もう、なんであんなことしたのよ?」
「なんでって……攻撃受けてこのままじゃ沈められちゃいそうで、それでなにか私にも出来ることないかなって思って……
 それで気付いたらインパルスでとび出してた」
「気付いたらとび出してたぁ!? あーもー、マユ! お願いだからもう少し考えるって行為を学んでよ!」
「はーい」

返事だけはいいものの、本当に分かっているのかどうかは少々不安。
さらに強く言おうとしたミーアに、だがマユのほうが先に口を開く。

「でもさ、考えてるだけで何もやらないでそれで結局後悔するのはもっといやだったから。
 けど……ミーアに心配かけたのは本当に悪かったと思ってる。だから、ごめんなさい」
「私はいいのよ、べつにいくら心配したって。それよりもマユは、もっと自分のこと心配しなさい!」

半分本気で呆れて言う。MSで戦場にとび出して、もしかしたら死ぬかもしれなかったのに、
それで一体どうしたら、自分の体より先に心配かけた相手のことを考えたり出来るのだろう?
なんだか怒るのも馬鹿らしくなって、そのままベットに座り込む。
もう終わってしまったことなのだし幸い怪我もなかったのだから、これ以上色々言ってもしょうがないのかもしれない。
そう思って、顔を上げて……自分を見下ろすマユに気付く。

「それでね、ミーア。私何もやらないで後悔するのって大嫌いなんだ」
「うん、知ってる」
「じゃあさあ、後悔しないように協力してくれる?」
「……え?」

なんか、いまいち話が見えないんだけどー。


102 :付き人 3/11:2006/03/24(金) 22:18:59 ID:???
「来週発表する新曲のプロモーション用ダンスの振り付け、まだミーア完璧に覚えきれてなかったでしょ?
 本番でとちるの見て後悔したくないんだ。と、いうわけで練習練習!」
「えー、今からー?」
「大丈夫、副長さんに聞いたら軍艦は丈夫にできてるから少し踊るくらいなら隣の部屋とかには響かないって言ってたし。
 じゃあさっそく、一番Aパートからいってみよー!」

強引に話をずらされたような、と、多少釈然としないものを感じながらも練習を開始する。
ダンスを見張るマユの目は非常に厳しく、少しでも手を抜こうものならばすぐに気付かれて注意される。
結果練習に集中しないわけにはいかなず、感じていた釈然としない思いなど忘れざるを得ないミーアであった。



「戦闘中の無線機の無断使用、混乱を利用したハッチの独断開閉、MSによる勝手な出撃……
 軍法第8条、11条、21条に違反」
「ですが、相手は軍人じゃありませんからねー」
「ええ、そうなのよ」

艦長室で溜息をついたタリアは、アーサーの入れた紅茶を受け取る。

「しかも結局この艦はアルファワンに助けられた形になっちゃったし、おまけにボギーワンには逃げられるし
……あら美味しい、これ地球産?」
「いえ、ヤヌアリウス8のものです。最近ではコロニーでもいい茶葉が採れるようになって。
艦長は真面目すぎるんですよ。もっと肩の力抜いたほうが、色々と楽ですよ」
「とはいっても、あなたは力抜きすぎよ」

睨むタリアの視線を受けて、アーサーは首をすくめてみせる。

「ごもっともです。あ、そうだ、アルファワンなんですけど、正式名称はインパルスだそうです。
 何でもラクス・クラインのコンサート用に開発された機体らしくて」
「コンサート用MS? しかもそれをあんな子供に操縦させて……一体議長は何を考えているのかしら」
「さあ? でも確かにパイロットは小さかったですね。案外縁故人事で、あの子は議長の隠し子だったり……
 あ、ちょっと、冗談ですよ」

――だからそんな、親の敵を見るような目で睨まないでください、いや、ほんと怖いですから。

うっかり地雷を踏んでしまったらしいアーサーは、話を変えるため慌てて周りを見回して、机の上の点灯したボタンに気付く。

「艦長、ブリッジから連絡です」
「分かったわ。メイリン? こちらタリア……そうよ……いいえ……なんですって!!」

通信にでたタリアの顔が、即座に変わる。何事かとたずねるアーサーに、微かに青ざめて答える。

「ユニウスセブンが動き出したそうよ、地球に向かって」
「ええぇー!」




103 :付き人 4/11:2006/03/24(金) 22:19:49 ID:???

メイリンが総司令部から受け取った情報は、瞬く間にミネルバ中に広がった。
軌道変更したユニウスセブン、それが向かっている地球、両者ともプラントの人間にとって無関係なものではない。
クルーの中にはユニウスセブンに親族が眠るものも、地球に肉親が駐留軍の一員として滞在しているものもいる。
動揺はみなの心に細波のように広がって、タリアも艦の進路をユニウスセブンに向ける一方で、あえてそれを抑えない。
いやむしろ、積極的に情報を公開する。艦長からの報告として司令部から知らされたすべてを、放送の形で艦内に流す。
その放送で、飛び交っていた噂が真実であることを知って、しかしそのことで逆にクルーの動揺は沈静化した。
漠然とした不安と比べ、たとえ大きくてもはっきりしている脅威ならば、人は対策を立てることが出来る。
機関部は被弾したエンジンの修復に努め、整備班はMSの整備と共に使用が予想されるスターシューター、
メテオブレーカーの点検作業を開始する。医療班はけが人の手当てに精を出し、厨房は戦闘糧食の用意を始める。
その中ですることのない、いや、そもそもはこの場にいないはずだった五名のものが、艦長室に呼び出される。
評議会代表は書類のまとめ作業を中断して、歌手とその付き人は踊りの練習を中断して、
国家代表は頭のたんこぶを気にしながら、その護衛は何か考え込んだ様子で、五人はそれぞれ艦長室へと向かう。


104 :付き人 5/11:2006/03/24(金) 22:21:47 ID:???
「先ほど報告したように、現在艦は軌道変更したユニウスセブンに向かっています」

彼等がそろったのを待って、タリアは言う。

「到着しだい、本艦は破砕作業に入ります」
「破砕というと、具体的にはどうするのだね?」
「MSでメテオブレーカーを打ち込んで、割ります。十等分もすれば大気圏内の空気摩擦で燃え尽きるはずですので。
本艦の他にもジュール隊がナスカ級二隻で現場に向かっていますから、彼等と共同すれば可能なはずです」
「分かった、任せよう。」
「私からも、よろしくお願いする」

二人の国家代表の言葉に、タリアは胸をなでおろす。
いくら方法がないとはいえ、遺産かつ墓標であるユニウスセブンを砕くのだ、一艦長の権限では難しい。
だがこの二人の賛同さえ得てしまえば、あとの言い訳はなんとでもつく。
一方そんなタリアの内心など露知らず、隅で控えていたマユは横から口を挟む。

「あの……パイロットスーツって貸してもらえませんか? MSでの作業なら、インパルスでもお手伝いできるはずです」
「マユ!」

その言葉に、ミーアが驚いて振り向く。だがカガリの横で話を聞いていたアスランも、彼女とは別の意味で驚いていた。
こんな子が、自分の意思で、作業の支援を申し出る? いや今だけじゃない、さっきの戦闘でも、この子は自分でとび出したのだ。
なのにそれに比べて、一体俺は何をしているのだ。
確かに俺は迷っている、何をやりたいのか、何をすべきなのか分からなくて。その答えを、前の戦争のときから見つけられなくて。
だが今は、俺の目の前には、確実に一つ出来る、そしてすべきことがある。それをするのに迷う時間も、迷わなきゃいけない理由もない。

「自分も、お願いします。ここに乗ってきたMSを使わせてもらえれば、作業支援を行えるはずです」
「アスランさん! しかしあなたもご存知でしょう、軍人でない人間にそう簡単に……」
「いいんじゃないのかね」

二人の要求を拒否しようとするタリア、しかしそこにデュランダルが助け舟を出す。

「もう今は、軍人だとか民間人だとかの区別をしている場合じゃああるまい。
あれが落ちたら人類の存続すら危うくなってしまう。人手は、一人でも多いほうがいいのだろう?
なら、許可は私が出そう。責任は取るよ」
「議長がそうおっしゃられるのなら……分かりました」
「議長!」
「落ち着きたまえ、ラクス。君がマユのことを心配するのは分かる。が、もう少し信頼もしてやっていいんじゃないかね。
 彼女は君が思っているよりもずっと強い」
「そうそう、心配しないで待ってて」

にっこりと笑って見せるマユにミーアは複雑な表情を浮かべるが、それでもコクリとうなずいてみせる。

「それでは、アーサー!」
「あ、はい。我が艦のパイロットを交えこれからブリーフィングを行うことになっていましたので、お二人はそちらに。
そこでメテオブレーカーの操作説明も行います」

アーサーに連れられてアスランとマユは退室する。部屋に残されたカガリとミーアは、二人を心配そうに見つめていた。


105 :付き人 6/11:2006/03/24(金) 22:22:50 ID:???


心配そうに見つめる整備員たちの視線を浴びながら、ネオのエグザスはガーティー・ルーから発進する。
機体が搭載した四基のガンバレルは、整備班が不眠不休の努力の末何とか新たに設置したもの。
ありがたくはあるのだが、万が一また壊したら何を言われるのかが非常に怖い。

「よーし、戦闘隊形つくるぞ! ステラが前衛、俺が真ん中、アウルが後衛だ。
 一番速く動けるスティングのカオスは遊撃として全体の支援に回ってくれ」
「戦闘隊形? おいネオ、これって単なる状況確認じゃなかったのか?」
「ん、スティングか? ああ、状況確認だ。だが敵がいるって状況だってありえないとは言い切れないだろ。
 指揮官って言うのは常に最悪の事態を想定しておくもんだ」
「なるほどね。お、見えてきたぜ」

蒼き星へと進路を変えた巨大な墓標が姿を現す……その後方に、長大な光の尾をなびかせながら。

「光、きれい……流れ星?」
「違うぞステラ、ありゃあ推進器の噴射炎だ。どうやら本当に最悪の事態みたいだな」
「最悪の事態……軌道変更は人為的なものだってことか」
「じゃああれのせいかよ、こいつが動き出したのは!」

近づくにつれ、ユニウスセブンに設置された巨大推進器が確認できる。

「あれさえ止めれば!」
「待てアウル! あんなものがあるってことは、設置した連中もまだ付近にいるかもしれん」
「そんなこと、言ってる場合かよ!」
「っち! スティング、アウルのフォロー頼む。ステラも行くぞ!」
「うん!」

推進器に向け四機が突っ込む。あれを壊して動かなくすれば、地球に向かうユニウスセブンも止められる……
だが、


106 :付き人 7/11:2006/03/24(金) 22:23:42 ID:???

『やらせは、せん!』

廃墟と化したそのコロニーから無数のビームが降り注ぐ。狙われたのは、突出していたアビス。
機体を捻り、辛くもかわしたアウルの前に、姿を現したのは無数のジン。宇宙用に再設計されたハイマニューバ、その後期タイプ。
半数は残骸の陰からビームライフルを撃ち続け、残りは四機に急接近しながら腰の斬機刀を抜き放つ。

「お前らが……こんなこと!」

アビスが放ったビーム砲が、近づく二機のジンを迎撃。一機は完全に破壊され、だが残りの一機は腕を失いつつ向かってくる。
MA形態でアビスに追いついたカオスがMSに変形し、その半壊したジンをビームサーベルで切り捨てる。
二機の撃墜、二名の死亡、しかし残りのジンのパイロットたちはそれを微塵も気にかける風もなく、
そのままネオたちに襲い掛かる。高速で突っ込むカオスをかわし、放たれるアビスのビーム砲をかいくぐり、
ガンバレルで撃ちぬかれた味方機にかまうことなく、頭部を失った機体でなおもカオスに突っ込んで……

「こいつら、出来るぞ」
「ちっくしょー!」
「あ、おい、アウル!」
逸ったアウルがアビスで突撃するが、ジン部隊はたくみにそれを交わして取り囲む。
正面の機体をビームランスで貫いた隙を突いて、背後で三機のジンが斬機刀を振りかぶる。
しかしその必殺の一振りは振り下ろされる直前に、虚空の宙から出現した六本のビームに貫かれる。
何もない、はずだったそこに浮かぶのは、二色六基、有線無線のガンバレル。

「アウル、お前は出すぎだ。離されると囲まれるぞ……っておい、ステラ!」

カオスとエグザスの二機がアビスの援護に回り、一機残される形となったステラのガイア。
それを目掛けてユニウスセブンからのビームは放たれ、回避してバランスを崩したところでさらに二機のジンが切りかかる。

「これくら……いで!」

一つをかわし一つをシールドで受け止め、しかしその反動で、ガイアはユニウスセブンの地表へと押し出される。

「ネオ、アウルは任せろ、ステラを頼む!」
「分かった!」

地面へと落ちてゆくガイア、それを追うジン、援護に走るエグザス。
ジンがビームライフルでガイアに狙いを定めるため直進機動、その隙をネオは逃すことなく、背後からリニアガンで打ち落とす。
地表への落下を続けていたガイアも衝突の寸前でMAに変形、その四肢でユニウスの地を蹴り廃墟に潜むジン部隊に迫る。
一方のアビスにも高速で飛び回るカオスがジンを近づけず、射撃に専念したアウルは一機また一機と敵を落とす。
一気に劣勢に断たされたジン部隊、だがそれが決定的な被害に繋がる直前で、彼等は素早く撤退する。


107 :付き人 8/11:2006/03/24(金) 22:24:41 ID:???
「よーし、このまま一気に……」
「調子に乗るなって言ってんだろーが!」
「そんなこと言ったって、このままじゃこれが地球に落ちちゃうんだぜ」

追撃をかけようとするアウルと、それを抑えるスティング。地表近くに下りていたネオとステラも、敵が退いたのを見てそこに合流。

「よし、いったん艦に戻るぞ」
「な、何言ってんだよ、ネオ! これ止めないと」
「あー、アウル、少し落ち着け。簡単に止めるって言うけど具体的にはどうするつもりだ?」
「そりゃあ、あの推進器ぶっ壊して……」
「出来るのか、俺たちだけで?」
「……難しい。数多いし、塹壕とかあったら……」
「そう、ステラはアウルと違って頭いいな。向こうも推進器は壊されたくないはずだから、その近くには陣地くらいつくってるはずだ。
 陣(ジン)に篭られたらジンといえど手強いぞ……っておい、なんだよその目は!」
「くだらねーこと言ってる場合じゃないだろ、じゃあ具体的にはどうするのさ、諦めるの?」
「陣地ごと吹き飛ばすのさ、ファントムペイン隊が誇る最大火力で」
「最大火力? アウルのビーム砲でか?」
「ハ・ズ・レ♪」

スティングの言葉に、ネオは思わせぶりに首を横に振る。右手を挙げ、自分たちが来た方向を指差してみせる。

「高エネルギー収束火線砲、二連装六基十二門でだ!」




108 :付き人 9/12:2006/03/24(金) 22:26:01 ID:???

ネオたちの戦闘がひと段落ついた頃、ミネルバでは機体の発進準備が整えられていた。
パイロット控え室では、これから機体に乗る者たちが最後の打ち合わせを行っている。

「メテオブレーカーの打ち込み予定位置はこのコンピューター画像に表示されている通りです。
 先陣を務める我々が一基ずつ打ち込み、まずこのA地区を分離。
 その後残りをジュール隊が四つに分断、その間に我々はミネルバから新たなメテオブレーカーを受け取って、
 この三つ目の破片をさらに分割、これで地球への影響はほぼ消失させることが出来ます」

レイの説明に、アスランが問う。

「ほぼ、というと、それでも被害を与える可能性は残るのか?」
「はい、20パーセントの確率で地表に到達する破片が発生します。ですが艦との往復時間を考えるとそれが限界です。
それ以上の作業を進めるとなるとユニウスセブンの大気圏突入前に艦に戻れなくなる可能性がありますから。
まさか機体が燃え尽きても作業を続けろ、というわけにもいかないでしょう?」
「それもそうだな……だがならば、艦へ戻る時間の節約は出来ないか?
 二基目のメテオブレーカーを艦で受け取るのではなくカタパルトで射出するとか」
「そうか! なるほど、検討させてみます」

アスランの提案にレイが同意、可能かどうかブリッジと格納庫に確認する。
その間、ルナマリアはブリーフィング中から黙りっぱなしだったマユに向かって話しかける。

「よろしくね、マユちゃん」
「……よろしくお願いします、今度はミサイル撃ってこないでくださいね」
「えっ! それは――」
「ルナ!」

マユの言葉に声を荒げるルナマリア、それをレイが押しとどめる。そのままマユのほうに向き直り、頭を下げる。

「確かにアーモリーワンで敵機と間違えたのは俺たちのミスだ、すまない。だからこれくらいで堪忍して欲しい」
「……ごめんなさい」

少々納得いかなそうな顔をしながらも、レイにつられるようにルナマリアも謝る。

「うーん、レイさんがそう言うんなら……でもこれからは、気をつけてくださいよ!」
「分かってるわよ……って、あなたたち知り合いなの?」
「ああ、議長との関係で時々うちに時々来るからな、ミ」
「ラクスと一緒にね!」

レイの声を遮るように、マユが言う。
そういえばレイは、議長の養子だ。ラクス・クラインの付き人と、面識があっても不思議じゃあない。
納得するルナマリアの傍らで、アスランもうなずく。
今の様子だとおそらく、レイもミーアという少女のことを知っているのだろう。ところで……


109 :付き人 10/12:2006/03/24(金) 22:26:49 ID:???
「俺もアーモリーワンで敵と間違われたんだが、何か一言ないのか?」
「ありません」
「ありませんね」
「ないと思います」
「なぜだ!」

三人に即座に否定され、声を荒げるアスラン。それにルナマリアは、すまし顔で答える。

「そりゃあか弱い女の子と前の戦争をしぶとく生き残った英雄の差でしょう」

『レイ、さっきの件艦長の許可が取れたよ。でもヨウランたちがブーブー言ってたから、後で一言いってあげてね。
 それと、機体の準備完了です。パイロットは機体に搭乗してください。
 頑張ってね、お姉ちゃん!』

艦内放送で、メイリンの声が流れる。ルナマリアはブリッジへ繋っているカメラに向け、右手を上げて応えてみせる。

「今の、妹さんですか?」
「ええ、メイリンっていうの」
「……なんかいいな、そういうの」

複雑な顔のアスランを放っておいて、マユとルナマリアは機体に向かう。

「マユ、あまり無理をするなよ」
「大丈夫ですよ!」
「ちょっとレイ、私は無理してもいいの?」
「当たり前だ、俺たちは軍人なんだからな」

二人を追い越して、レイが機体に乗り込む。

「あーあ、またブレイズか。ガナーがいいのに……」
『お姉ちゃん、馬鹿言ってないで。メテオブレーカーとオルトロス、同時に扱えるわけないでしょ。
 パイロット、全員搭乗しましたね? これより発進シークエンスを開始します!』

四機の機体が一基ずつ、メテオブレーカーを抱えカタパルトに乗る。
カタパルトは順々に作動して、機体を一機ずつ送り出す。

「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
「アスラン・ザラ、出る!」
「マユ・アスカ、インパルス、いってきまーす!」


110 :付き人 11/12:2006/03/24(金) 22:27:52 ID:???

全ての機体の発進を終え、このあとどうなるかはもう彼等の働き次第。
あるものは祈るように、あるものは複雑な顔付きで、ミネルバクルーが機体を見送る。
一方機体がいなくなった格納庫では、整備員がぶうぶう文句を言いながら、メテオブレーカーをカタパルトにすえつけている。

と、その時、耳障りなアラームが、ブリッジ内に鳴り響く。

「なに?」
「右舷前方にレーダーに反応あり、数四……いえ、五! うち一つは大型です!」
「データベースに照合して!」
「はい、データベース照合! 大型反応に該当あり、これは……ボギーワンです!」
「てことはもしかして、残りは奪われた新型とあのMA?」
「と、見るべきでしょうね」

ごくりと唾を飲むアーサーの後ろで、タリアは帽子を目深にかぶりなおす。

「ブリッジ遮蔽、面舵20度! 対艦、対MS戦闘用意」



ユニウスセブンに向かうミネルバの存在は、当然ガーティー・ルー側からも探知されていた。

『大佐、あの艦です』
『はあ? あいつらこんなとこまで追いかけてきたのかよ?』
「いや、トレースされていたとは思えないな。大方奴らも軌道変更したユニウスセブンに気付いてやって来たんだろう」

ネオがエグザスの操縦桿を握ったまま、アウルに答える。

『で、どうするんだ?』
「そうだなー、多少任務の達成難度は上昇するかもしれんが、できれば現状での計画変更は避けたい。
 お前ら、できるか?」
『やらなかったら地球が危ないんだろ? なら決まってんじゃん!』
『ステラ……やる!』
『っち、しょーがねーなー』
「よし、なら予定変更はなしだ。このまま前進する。艦長、頼んだぜ!」
『お任せください』

ガーティー・ルーのブリッジで、イアン・リーはネオに応じる。
十二の鎌首をもたげたリバイアサンは、護衛に四機の機体を引き攣れて、生贄を求め突き進む。
その先にあるのは巨大な墓、あるいは平和のモニュメント、そして眼下の蒼い星に厄災をもたらす人類の脅威。




111 :付き人 12/12:2006/03/24(金) 22:28:41 ID:???

その人の手でつくり出された偽りの大地、ユニウスセブンの廃墟の中で、無数の人が、MSが動き蠢く。

「何機やられた?」
「十四機、ハラダ伍長の機体も含まれています」
「そうか、奴も逝ったか」

彼等のリーダー、サトーと呼ばれる中年の男は、ほんの数秒だけ目を閉じて、そしてそれをゆっくりと開ける。

「しばしの間だけ待っていろ、我らもすぐに追いつこう」 
「数え切れぬほどの同行者を連れて、ですよね」
「そのほとんどがナチュラルだということは、多少気に食わんがな」

その言葉に、部下たちが笑う。サトー自身もその狂相を歪ませると、そばに係留してある乗機に乗り来む。
モノアイが起動し、前部モニターが映像を映す。そこに表れる八機の機体、そして二隻の宇宙戦艦。

「やはり来るか、それもよい。だが我等の思い、やすやすと砕かれるほど軽くはないぞ!」

起動したMSたちが、武装を携え持ち場に着く。この悲劇の地が燃え尽きて、消え果るまで守り抜くため。
『平和』という名の偽りの下で、歪められている世界を正すため。



かつて農場だったその場所に、以前の面影はもう微塵もない。
かつて二十四万の人命が失われたそこは、今また更なる命を飲み込もうとしている。
それが何をもたらすのか、それが何を意味するのか、今の時点で知るものはいない。

ファントムペインがその地に向かう、備え付けられた推進器を破壊するために。
ザフト軍がその地に向かう、そこを砕き、割るために。
ジン部隊がその地で迎え撃つ。欺瞞に満ち溢れた世界を打破し、あるべき道へと正すために。

地球に向かうユニウスセブンで、人類の未来と行く末を賭けて、三つの力が激突する。
戦いの第二ラウンド、そしておそらく最後のラウンドが、今、幕を開ける!