- 369 :付き人 1/20:2006/04/10(月) 20:03:39 ID:???
- 「状況に変化発生! ユニウスセブンにアーモリーワンを襲撃した宇宙戦艦が出現!」
MS発進準備を進めていたウォルテールに、オペレーターの声が響く。
「奪われた新型三機らしき機影も確認されたとのことです!」
「どういうことだ?」
「さあ、俺に聞かれても」
考え込んだイザークに、ディアッカが律儀に応じる。イザークは彼をギロリと睨んでから指示を下す。
「ボルテールの五機を対MS戦闘用に武装変更して先行させろ、それで脅威を排除した後ルソーの六機で作業に当たる」
「おい、五機だけで大丈夫か? 相手は新型だぜ」
「だからといってユニウスをほっぽり出すわけにもいかんだろうが。
それに相手が新型だという理由だけで簡単に堕とされる様なやわな連中がうちにいるか?」
「そりゃまあ、いないわな。普段からあれだけ実戦並みの訓練やらされてりゃ、ヒヨッコだっていやでも上手くなるぜ」
「そういうことだ……ディアッカ、最低の場合でも足止めだけはやってくれ、やつらをルソーの機体には絶対に近づけるな」
最後の台詞は、ディアッカにしか聞き取れないよう小声で言う。ルソー隊の粉砕作業完遂の為なら多少の犠牲は容認する、という意味だ。
「イザーク隊長、ルソーより緊急の私信です」
再び、オペレーターの声。それにイザークが応じる前に、スクリーンにシホ・ハーネンフースの顔が表示される。
『隊長、私も対MS装備で出させてください』
「駄目だ!」
シホの具申を、イザークはにべもなく却下する。
『ですが、』
「お前にはメテオブレーカー設置の士気をとってもらわなばならん。地球の運命を左右させる重要な仕事だ。
ボルテールの機体が参加できなくなる分一機あたりの設置数は増えるんだ、戦闘などに関わらせる暇はない! いいな」
『……はい』
「機体を発進させたあとは、ボルテール、ルソーも随伴して前進する。そのほうがメテオブレーカを取りに戻る時間が省ける。
いいか、今の俺たちの敵は新型じゃない、ユニウスセブンと時間だ。それを忘れるなよ」
そう言うと、通信を切る。チャンネルを回して格納庫に、自らのザクをスラッシュ装備で整備させる。
「なんだ、イザークも出るのか?」
「状況によってはだ。ここが落とされてはかなわんからな」
指揮官席に腰を下ろし、うんざりしたように呟く。
「前の戦争のときは楽だった、ただ戦ってさえいればよかったからな。
それが今じゃなんだ? 昇進するたびに面倒ごとが増えていく」
「それが、責任を背負うってことだろ」
ディアッカはそういうと、格納庫に向かう。ブリッジのメインモニターには、地球に向かうユニウスセブンが表示されていた。
- 370 :付き人 2/20:2006/04/10(月) 20:04:38 ID:???
歌姫の付き人
第六話 破砕作業
ボルテールとルソーがMSを発艦させようとしていたちょうどその頃、ユニウスセブンでは戦闘が開始されようとしていた。
四機のミネルバMS隊が右上方から向かってくるガーティー・ルーを警戒しつつ、砕くべき大地を目指して進む。
そこに、突如のアラーム音。ロックオンされたことを知らせるものだ。
慌てて機を反転させ、攻撃を逃れようとする。が、重い荷物をぶら下げていてはいつものようには動けない。
放たれたビームは狙いを誤らず、レイとアスランの運ぶメテオブレーカーを貫いた。
「またガンバレル?」
「違う、新手だ」
下方に向けられたレイの視線の先からは、六機のジンがビームライフルを手に上昇してくる。
「ルナ、マユを連れて破砕作業に」
「ええ、分かったわ。マユちゃん、行くわよ」
「え……え、あ、はい」
突然のビームに呆然としていたマユが、ルナマリアの声で何とか立ち直る。
そのまま二人はユニウスに向かい、メテオブレーカーを失った二機が彼等とジンの間に立ちふさがる。
「申し訳ありません、アスランさん。あのジンを引きつけるお手伝い、お願いできますか?」
「断る……ってわけにもいかないだろ、この状況じゃあ。武器は盾の裏についている斧だけか」
「いえ、ウィザードに搭載されている誘導ミサイルと腰部についたグレネードもあります。
本来なら、加えてビーム突撃銃も携帯しているはずなのですが……」
残念ながら今回は、作業任務のためミネルバにおいてきてある。不完全な状態での戦闘にレイは顔を曇らせる。
逆に把握していなかった武装を知ったアスランは、感心したように頷く。
「初期のジンに比べればよっぽどの重武装だ。だが射撃系の武器は実戦で初めて扱うには不安が残るな。
よし、前衛は俺がやるから援護を頼む」
「分かりました」
レイのザクがミサイルを発射、かわすため陣形を崩したジンに、ビームをかわしつつアスランが迫る。
- 371 :付き人 3/20:2006/04/10(月) 20:05:43 ID:???
「ありゃりゃ、どうなってんだ?」
エグザスのコクピットで、ネオが呟く。
「なあネオ、あいつらザフト同士でやりあってるぜ」
「仲間割れ?」
「なんにしろ俺たちには有利だな」
スティングの言葉を、リーがガーティー・ルーのブリッジで否定する。
「残念ながら、我々にもお目こぼしは無しのようです。右方向より接近するジン、数、およそ十。
全ミサイル発射管にスレッジハマー装填、面舵三十度、最大戦速!」
「よし、こっちも応戦準備だ。今回はアウル中心でいく。先頭はステラ、左を俺、右をスティングで固めるぞ。
アウルはとにかく火力で敵を落とせ。他は敵をアウルに近づけるな。それと、今回の目的はガーティー・ルーの護衛だ。
あまり艦から離れすぎるな、ただし近づきすぎて対空砲火に邪魔になってもだめだぞ!」
「ようは、たくさん敵をやっつけて艦を沈まないようにすりゃあいいんだろ」
アウルが作戦を豪快に要約し、素早く編隊を整える。そのまま敵に突き進み、アビスのビーム砲で先制する。
射撃を受けた一機のジンが爆散し、のこりが左右に分離する。右の五機がネオたちに向かい、彼等を囲むように散開する。
その隙に左の六機は二機ずつ三編隊に分かれ、三方向からガーティー・ルーを襲う。
「イーゲルシュテルン起動、下げ舵十五、面舵二十!」
「敵機、来ます!」
「一番から五番、照準正面の敵機、撃っ! 続いて左舷より迫る機体、二十番から二十五番!」
二つの編隊に五発ずつ、迎撃ミサイルが放たれる。四機のジンは、巧みな機動でそれをかわす。
ミサイルに内臓されたコンピューターが敵との再接近点を識別、そこで十の矢は自らの体を裂き、破片を真空中にばら撒く。
その一部は目標に到達したものの、決定的な戦果を上げるには至らない。
それでも回避行動を強制された彼等は一時的にとはいうものの、目標から大きく引き離される。
結果残ったジン二機編隊は、単独でガーティー・ルーに向かう。彼等を迎え撃つのは艦最後の防衛線、片弦八基のイーゲルシュテルン。
無数の弾丸が二機のジンに集中し、うち一機を早々に藻屑に変える。
「ジン一機、撃破。もう一機も反転……」
「いや、まだだ! 総員対ショック体勢!」
オペレーターの報告を、リーの緊迫した声が遮る。
撃破し残骸と化したはずのジン。手足を失い攻撃手段がないはずのそれは、だがしかしバーニアの推力でなおも突っ込んでくる。
更なるイーゲルシュタインの迎撃、艦直前で爆散させるも時既に遅し。
ばらばらになった機体の破片はそのまま慣性でガーティー・ルーに命中する。
「死兵か、こいつらは」
半ば青ざめていうリーの元に、ダメコン班からの被害報告。破片は全て第一装甲で受け止め、航行するぶんには支障は無し。
ただし右舷バルカンは八基中三機が大破して、対空能力は大きく低下。
そしてその右舷から、ミサイルをかわした先ほどのジンが、編隊を組みなおしてなおも迫る。
- 372 :付き人 4/20:2006/04/10(月) 20:06:42 ID:???
一方五機のジンに囲まれたネオたちも、予想以上の苦戦を強いられていた。
機体性能、操縦技術は共にこちらのほうが上、の、はずなのに、落とせない。巧みに距離を取り連携して、その場に縛り時間を稼ぐ。
敵を追い詰め兵装機動ポットを分離させたカオス、その背後から別のジンの攻撃。
カオスはMAに変形して離脱、カオスを狙ったジンを今度はガイアが追い詰め、背後からビームライフルを向ける。
だが、
『甘い!』
さらに別のジンがガイアに接近、斬機刀に切りつけられたビームライフルが爆発する。
そこをアビスがビーム砲で射撃、斬機刀ごとジンの右腕を奪い取り、アビスの背後を取ろうとした別のジンは
四基のガンバレルの弾幕で進路をふさがれ、さらにエグザス本体がビームソードで斬りかかるものの、
これは横転してかわされる。
間違いなく攻めているのはネオたちのほう。なのに、攻めきれない。あと一歩のところで取り逃がす。
両方の技量が一定以上であるため、必殺の一撃を打ち込む隙がどうしても見出せないのだ。
「あー、これじゃきりがないぜ!」
苛立ちと共にアウルが漏らす。その目に映るのは、他のジンに襲われて前進出来ずにいるガーティー・ルーの姿。
「ステラ、もっと前に出ろよ!」
「え、でも……」
「なんだよ、恐いのか?」
「!! 恐くなんか、ない!」
アウルがステラを急かして、二機が強引に前に出る。
- 373 :付き人 5/20:2006/04/10(月) 20:08:46 ID:???
「あの大馬鹿野郎!」
スティングが二人を追おうと慌てて反転、その隙を突こうと接近したジンを、ネオがエグザスで撃破する。
「すまねえ!」
「いいから、さっさと二人に追いつくぞ……後ろだ、スティング!」
二機を追おうとしたスティングが、気を抜いたほんの一瞬。そこに撃破したはずのジンが喰らいつく。
四肢がもげ、ジャンクに等しい状態にもかかわらず、背中のブーストを全力でふかし、カオスの進路に立ちふさがる。
- 374 :付き人 7/21:2006/04/10(月) 20:10:23 ID:???
「こいつ!」
カオスは慌てつつも相手の頭部にビームサーベルを突きつける、が、
『ぬるいわ!!』
ジンはかまわずカオスにしがみつき……そのまま爆発した。
「スティング!!」
「…あ……オか? くそったれ!」
爆発煙の中から、カオスが姿を現す。機動兵装ポットが一基失われたが、戦闘継続は十分可能な程度。
乱れが直った無線の声は、三人中では一番冷静なスティングとは思えないほど興奮している。
「アウルとステラは!?」
「ガーティー・ルーに向かった。完全に分断されたな。さっさと片付けて俺たちも追いつくぞ」
「ああ。それにしてもなんなんだ、この連中は?」
敵のジンはあと四機、そのうち二機がアウルたちを追って、残りの二機がネオたちの前に立ちふさがる。
- 375 :付き人 7/21:2006/04/10(月) 20:11:34 ID:???
ガーティー・ルーを中心に、繰り広げられる戦闘。放たれたビームが、破裂したミサイルが、漆黒の宇宙に光点を生み出す。
だが彼等の前方を進むユニウスセブンの大地でも、閃光は点滅を繰り返している。
アスランとレイが、ジンの猛攻を食い止めようと奮戦する。ミサイルを放ち、ビームを避け、ビームトマホークで斬りつける。
マユ・アスカの乗ったインパルスは、その後ろで必死にメテオブレーカー設置作業を進めていた。
周囲に、ジンから放たれたビームが着弾する。ユニウスの大地に弾痕を付け、土煙を舞い上がらせる。
思わず生じた悲鳴を強引に飲み込んで、震える手で操縦レバーを操作する。緊張で、作業はちっとも思うように進まない。
「設置……完了!」
無線から、ルナマリアの声が響く。
「マユちゃん、そっちはどう?」
「あ、はい! ちょっと待ってください」
ルナマリアが作業を終えたという事実が、マユの焦りを加速させた。
『何故、邪魔立てする?』
スピーカーから、ジンのパイロットの声が流れてくる。周波数が近かったのか、無線が混戦したらしい。
『歪められた世界、偽りの平和、そんなものに何の価値がある!』
「何の価値がある? 偽りには何の価値も無いとでも言うつもりか!?」
珍しく感情をあらわにしたレイの声が、そこにかぶさる。
レイはそのまま加速しながら直進、ライフルを構えたジンの腕をトマホークで斬り捨ててすばやく反転する。
腕から切断されたジンの右手は、しかし自らの最後の役目を果たす。
右手に握られたライフルからビームが発射されたのは、それが爆発するのとほぼ同時だった。
「きゃあ!」
放たれたビームはインパルスの右足を掠め、驚いたマユはレバーを思いっきり引いた。
インパルスが大きくバランスを崩し、大地に無様にしりもちをつく。慌てて立ち上がろうとするものの、緊張とあせりでうまくいかない。
今度はレバーを押しすぎて、頭から前のめりに倒れこむ。右足を掠めたジンのビームは機体にこそ損傷を与えられなかったものの、
マユの緊張の糸をぷっつりと断ち切ってしまっていた。
起き上がれずにいるインパルス、その周囲に更なる着弾。右肩と左足の装甲が欠け、湧き上がってくる死の恐怖。
息が詰まり、視野が狭窄する。貸してもらったパイロットスーツが湿度も気温も一定に保っているはずなのに、
寒さで全身に鳥肌が立つ。なのに、頭だけは妙に熱い。体が硬直し、動かせそうにな……
- 376 :付き人 8/21:2006/04/10(月) 20:12:31 ID:???
「しっかりしなさい!」
無線から飛び込んできたルナマリアの声で、マユはハッと顔を上がる。モニターの前に迫る赤いザク。
それはインパルスの直前で、歩みを……止めずに蹴飛ばした。
「ンィアギャ!」
言葉に出来ない衝撃がコクピットを襲い、中のマユが奇声を上げる。機体は二、三回転したあと大地に叩きつけられる。
舌を噛んで、涙が出た。それを拭こうとした右手は、パイロット用ヘルメットに阻まれる。思わず顔を赤く染め、叫ぶ。
「なにするんですか! ルナマリア、さ…ん……」
声は相手の機体を認識した途端、か細く途切れた。
蹴り飛ばされたマユの機体、それがもとあった場所には新たな弾痕が生じている。
蹴り飛ばしたザクの右足はそのビームの直撃を受け、膝の部分で切り離されていた。
「大丈夫、マユちゃん?」
「あ、はい……って、ルナマリアさんこそ右足!」
「え? ああ、これぐらいなら宇宙ではまだ動けるわ。壊れたのは機体で、本物の足がちぎれたわけじゃないのよ」
「あ、そっか」
ほっと、息をつく。いつの間にか、緊張は体から消えていた。
「二人とも、無事か!」
二機の隣に、アスランが降り立つ。ウィザードのミサイルを撃ち放ち、近づくジンを牽制する。
「ええ、何とか」
「平気です!」
作業を再開したインパルスを見て頷くと、アスランはミサイルをすり抜けたジンに向かって上昇する。
同時に、腰からハンドグレネードを取り出す。ジンも斬機刀を振りかぶる。
- 377 :付き人 9/21:2006/04/10(月) 20:13:27 ID:???
『我らが悲願、邪魔立てするならザフトといえども容赦せぬ!』
「悲願だと? これを落として、世界を壊して、それで一体何を願う?」
『壊すのではない、正すのだ、捻り歪められたこの世界をな!』
ジンの斬機刀を紙一重で避け、そのまますれ違う。
急旋回で振り返ったところで、交錯の瞬間に手放したグレネードがジンを巻き込んで爆発。
ぼろぼろになって落下するジン。しかしその中のパイロットは、勝ち誇った声で叫ぶ。
『我らが墓標、まだここで割らせるわけにはいかん!』
奇跡的に、アスランの側からすれば悪夢的に残った左腕。それが握ったライフルの、照準が向けられたのはインパルス。
引き金を弾く、その瞬間に、しかしそのジンは後方から放たれた高エネルギー砲に貫かれる。
「おーい、ミネルバ組、無事か?」
「ディアッカ?」
「へ? え、アスラン?」
オルトロスを放ったディアッカのザク、そして彼の指揮するゲイツ。
彼等が側面を突いたことで、優勢を誇っていたジン部隊は大きく崩れる。
さらにその後方からは、二隻のナスカ級、ボルテールとルソーがMSを発進させながら向かってくる。
『アスラン! 何故お前がここにいる!!』
ウォルテールで指揮を取っていたイザークの声が、無線に乗ってあたり一帯に響いた。
ジュール隊の乱入は、ユニウス中央に本陣を敷くサトーの下にももたらされた。
「二個小隊、ついて来い」
報告を聞いたサトーは周りの兵に命じると、自らのジンを発進させる。
「破砕作業の妨害、困難になりつつあります」
「動じるな!」
声を上ずらせる部下を、一喝する。
「案じるな、MSにコロニーは砕けん」
六機のジンを引きつれ、飛び立つ。向かった先は、二隻のナスカ級。
彼等が飛び立ったユニウスセブンはその瞬間も、刻一刻と地球に向けて進んでいた。
- 378 :付き人 10/21:2006/04/10(月) 20:14:21
ID:???
地球に向かうユニウスセブン。その軌道変更は、当然地球側にも報告されていた。
報告を受けた各国の軍は、撃退準備を開始する。軍事衛星は接触軌道を選択し、地上ミサイル基地は迎撃体制を整える。
だがしかし、そうしている間にも、ユニウスセブンの軌道のずれはさらに大きくなっていく。
来るはずの位置を通過せず、来ないはずの宙域を通り過ぎる。その誤差は、計算上は絶対にありえないほどのもの。
事実ユニウスセブンには、設置された推進機で絶えず加速が加えられていたのだが、
この時点でそれを知るものは地球上にはほとんどいない。
結果予測軌道に網を張った地球側の迎撃体制は、大半が空振り、無駄足に終わる。
大気圏突入前に接触できたのは、衛星、連合艦が共にゼロ、ザフト軍の艦が僅かに三。
刻々と変わる軌道の前に、各国の軍は落下地点の予想を放棄。
全ての地域に落下可能性があると仮定して、全基地で高高度到達可能なミサイルの発射準備を整える。
南国の島国オーブでも、もちろんそれは例外ではない。
オノゴロ島の国防本部で、対衛星、対弾道弾の両ミサイルが発射シークエンスの開始を急ぐ。
「だーかーら、発射準備は対弾道弾用を優先させてよ。目標はオーブおよびその近海に落下する破片!!」
「しかしユウナ様、それでは命中しても落下位置をずらすだけ、地球に落ちることに変わりはありません!」
「落下速度を落とせる可能性はあるんでしょ?」
「あくまで可能性です! それよりも高軌道で対衛星用を当てて砕けば、大気圏突入時の摩擦で燃やし尽くせます」
その国防本部で、本来の指揮官ソガ一佐とユウナと呼ばれた長髪巻き毛の青年が、つばを飛ばして言い争っている。
「そーいう面倒な仕事は大西洋連邦かユーラシアにでも任せておけばいいの。
オーブは島国なんだ、一個でも破片が落ちたら国家滅亡だよ。
僕らが守らなきゃいけないのはオーブ、地球全体の防衛は広大な国土を持ってる連中が勝手にやってくれるよ!」
「そのお言葉、大西洋連邦の市民たちを前にしても同じように言うことが御出来ですか?」
「まさか、政治に携わってるんだから時と場合に合わせて使う言葉くらいは選ぶさ。でも今はそんなこと気にしている場合じゃない。
大体、対高軌道衛星用ミサイルなんてものアメノミハシラに篭ってるサハク家に対するあてつけで開発された
五大氏族の勢力争いの産物なんだから、他国には存在自体秘匿されてるはずでしょ。
だから撃たなきゃ撃たないで、そんなもの持ってるなんてばれないよ」
ソガに対して畳み掛けるユウナ・エマ・セイランの後ろでは、護衛役の黒髪の少年が手持ち無沙汰な様子で立っている。
彼の眼部は灰色のバイザーで覆われて、その目に宿る感情は、ほとんど外部からは読み取れない。
言い争う二人に向けられていた少年の視線が不意にずれる。その先のテレビに映るのは、脂ぎった禿親父。
オーブ現宰相にしてユウナの父、ウナト・エマ・セイラン。
ユウナとの外的相似点は皆無だが、見るものが見ればそっくりだ、とは、セイラン家に使えるメイドたちの間での評判だ。
コホン、と咳払いを一つして、ウナトはおもむろに話し始める。その内容は、現在落下中のユニウスセブン。
『オーブ国民、ならびに地球でこの放送を聞いている全ての皆様に緊急かつ重要な報告があります』
- 379 :付き人 11/21:2006/04/10(月) 20:15:06
ID:???
その放送は、プラント全土に流される。
海岸近くに設立された資金繰りが少々不透明な孤児院も、その例外にはなりえない。
『既にご存知の方もお在りかと思いますが、現在ユニウスセブンがその軌道をはずれ、地球に向けて接近中です』
「はい、これは一体どのようなことなのでしょうか?」
放送内容を気にかけながら、部屋の主は受話器を握る。電話の向こうのどこかの相手に、穏やかながらも鋭い口調で話しかける。
その声、その姿は、ミネルバでマユを見送っていた少女と瓜二つ……いや、そう表現するのは語弊があるかもしれない。
なぜなら本来オリジナルなのは彼女のほう、ミネルバにいる少女のほうが彼女に似せてつくられたものなのだから。
「いいえ、聞いておりませんわ。ええ……分かりました。そちらがそのようにお考えならば、仕方がありませんわね。
では、次回からはこの話は白紙に戻すというという方向で。はい、また連絡いたしますわ。
それまでに今回の件の説明を……ええ、ではまた」
受話器を置き、そのまま厳しい表情で考え込む。彼女の足もとで、球状の機械が転がり跳ねる。
「ラクス、みんなで裏のシェルターに避難を……どうかしたの?」
「いいえ、何でもありませんわ。いきましょう、キラ」
「うん」
扉の向こうからかけられた声に、明るく応じる。机の上の小物入れを手に持ち、部屋の外に出る。
その顔にあった厳しさはいつの間に消え、代わりに穏やかな微笑が浮かんでいる。
「ほら、ハロもこちらへ」
『合点承知!!』
床をはねていたハロと呼ばれた機械も彼女の声に応じると、転がりながら部屋の外に。
その途中テーブルとぶつかって、その拍子に上に置かれていたリモコンが床へと落ちる。
床に落ちた衝撃でボタンが押され、新たに映し出されたのは外国放送。同じ事件について話す、大西洋連邦大統領の姿。
『我が大西洋連邦政府といたしましては、今回の件に関し非常事態宣言を発令する……』
- 380 :付き人 12/22:2006/04/10(月) 20:18:18
ID:???
『……発令すると共に、軍に対し被害を最小限に収めるための諸対策を講じるよう命じてあります』
同時刻、同内容の放送を、個人の地下シェルターで聞くものがいた。シェルターといっても、どこにでもある緊急避難専用のそれではない。
家具食料はもちろんのこと、大型コンピューター、通信機器その他C4ISRに必要な主要装備を完備しており、
中央の机の前に設けられた数十のモニターには、世界各地から寄せられた軍事や経済の重要情報が映し出されている。
新興財閥ジブリール財団会長の個人邸宅脇の地下。複数の最新レーダーと地対空、地対地ミサイルで守られたそこは、
その気になれば一国の軍中枢としての機能すら、余裕でこなすキャパシティーを持っている。
「モニター、Dの九番を」
そこの主、ロード・ジブリールの一声で、モニター中央の画面が即座に移り変わる。
大西洋連邦軍パナマ基地のミサイル発射準備進捗状況に変わり映し出されたのは、どこの村にも一人はいそうな初老の男性。
穏やかなカーブを描いて垂れ下がった両の目じりが、いかにも温和そうな雰囲気を醸し出している。
「お久しぶりです、ブルーノ・アズラエル様」
『うむ、久しぶりだな。こうしてさしで話すのは、馬鹿息子の葬儀の時以来か?』
アズラエルと呼ばれた老人が応じる。柔らかな口調だが、目は笑っていない。
ブルーノ・アズラエル。先の大戦で実子ムルタ・アズラエルを亡くした後急遽現役に復帰した男だが、
若かりし頃培った胆力は微塵も衰えていないようだ。
まあそうでなくては、曲者が集まる軍需産業複合体ロゴスの総裁など到底務まらないのだが。
- 381 :付き人 13/22:2006/04/10(月) 20:19:14
ID:???
『それで、今回の件はお前の仕込みなのか?』
「まさか! これでは下手をすれば戦争をする体力さえも残らない。さすがの私でも、もう少し手は選びますよ」
『なるほど、それもそうか』
まったく信用していない様子で、アズラエルは言う。ジブリールも表面上の笑顔でそれに応じる。
そのまま十数秒にらみ合い、モニター越しで視線がぶつかる。先に折れたのはアズラエルのほうだった。
『まあよい。こうなったからには我々としても手を打たねばならん。結果、労せずしてお前のプランは採用されるというわけだ。
満足か?』
「満足など、滅相もない。私はただ我ら全ての繁栄のために……」
『心にもないことを言うな。確かに貴様は聡いかもしれん、が、誰もが貴様考えているほど愚かなわけではない。
そのことだけは心しておけ』
「は、申し訳ございません」
一転して厳しい目つきになったアズラエルに、ジブリールは平身する。
それをなおしばらく睨みつけた後、アズラエルはようやく表情を緩める。
『被害が想定内に収まれば、次の集会でテュケープランは採用されよう。
その場合、貴様に剣の握り手の権限が与えられるよう根回しをしておく。
せいぜい、息子よりはましなところを見せてくれ』
そう言い放ち、アズラエルは通信回線を落とす。
ジブリールは通信が切れて暗転したモニターを見つめると、チチチと小さく舌を鳴らす。
どこからともなく表れた見事な毛並みの黒猫が、彼の膝にするりと飛び乗る。
「過去と地球に縛られた御老人はまだまだ元気がよろしいようで。
だがもうあなたたちの時代は終わるべきだ、コーディネーター共と一緒にね」
その猫の背を撫でながら、ジブリールは一人呟く。撫でられている猫が喉を鳴らし、気持ちよさげにニャアと鳴いた。
- 382 :付き人 14/22:2006/04/10(月) 20:19:58
ID:???
「オッケー、そこでチョイ右!」
「赤い色のザク、設置位置をもう100m右にずらしてください」
「これで……一個目打ち込み終わり!」
「そこの新型、作業はまだ終わりじゃないんですよ。さっさと次のメテオブレーカー取ってきてください」
「は、はい」
シホ・ハイネンホースの指示の下、破砕作業は進められる。新たに六機の機体が加わったことで、作業は大いにはかどった。
もちろん予定よりは遅れているし、それをさらに遅らせようとジン部隊は果敢に妨害を試みる。
だがアスランとレイ、ディアッカとその部下たちの活躍により、彼等は作業機に近づけないでいた。
『メテオブレーカー、射出します!』
「射出確認しました」
『機体との速度同調完了! 接触まで……三、二、一、接触!』
「接触成功! インパルス、メテオブレーカーキャッチ。再度ユニウスセブンに向かいます」
マユがミネルバからメテオブレーカーを受け取る。
その隣では、ユニウスぎりぎりまで近づいたウォルテールに、ゲイツが緊急着艦する。
そこで破砕機を受け取ったゲイツはバッテリー交換の暇さえ惜しみすぐに再び急発進。
さらにまた、別のゲイツがメテオブレーカーを取りに戻り……。
この分なら、最悪の事態は免れる。破砕作業に携わっていた誰もがそう思った。
ミネルバブリッジで作業を見守ることになった文民三人ですら、その例外ではなかった。
カガリは拳を握り締め、デュランダルは顔に微笑を取り戻し、
ミーアも無事に戻ってくるだろう親友の笑顔を想像して、大きな胸を撫で下ろした。
サトー等七機のジンが戦場に乱入したのは、まさにその瞬間だった。
レーダーをごまかすため行っていたユニウスセブンすれすれの超低空飛行を取りやめて、隙を見せた獲物に喰らいつく。
たちまち、二機のゲイツがビームに貫かれ、自らが発した爆炎に飲み込まれる。
戦術教本に載せたくなるくらいの、完璧と言うしかない奇襲。
爆発した機体、その光で、ミネルバはようやく彼等の存在に気付く。
「なんなの?」
「ポイント0428に新たな機体出現! 数は五、六……いえ、七機です!」
「そんな馬鹿な!」
「なんで気付かなかったの!?」
「すみません。機影がユニウスセブンの影に隠れて」
唇をかみ締めながらメイリンは答え、味方MSに現れた機体の位置を報告する。
それを受けたディアッカたち護衛隊は、敵と守るべき作業機との間に立ち塞がる。
新たに現れたジン部隊は、彼等に向かって殺到……しなかった。
- 383 :付き人 15/22:2006/04/10(月) 20:21:34
ID:???
「狙いは艦だ!」
アスランが叫ぶ。破砕作業に従事する機体を守ろうとしたザクとゲイツ、彼等をあざ笑うかのように、ジンはボルテールへと向かう。
応戦する機銃をかいくぐり、ビームライフルを放つ。砲塔、機関、そして艦橋。これ異常ないほど的確に、射撃は艦の急所を貫く。
一航過して、そのまま離脱。背後のウォルテールでは、艦体の所々で断続的な爆発が始まっている。
『もう一隻、征くぞ!!』
サトーの声で、ジンは反転する。二機ほどは被弾しているものの、戦闘に支障がありそうな様子はない。
最大加速を行いながら陣形を崩さない彼等の機動が、その技量の高さを表している。
そのまま、今度はルソーに向かう。ナスカ級二隻を沈めれば、邪魔をする艦はミネルバだけだ。
いくら新型でいくら性能が高くても、一隻では積んでいるメテオドライバーには限界がある。
そしてMSがいてもメテオドライバーがないならば、ユニウスセブンは砕けない。
狙いに気付いたアスランが、バーナーをふかし彼等に向かう。他の機体も、それに倣う。
が、間に合わない。
「くそ!」
操縦レバーを前方へと押し付けながら、呪詛の声をアスランが上げる。
ジンの腕が持ち上がり、目前に迫った新たな標的にビームライフルが向けられる。
その後方、ウォルテールの破壊されたカタパルトで何かが動いた。
- 384 :付き人 16/22:2006/04/10(月) 20:22:23
ID:???
『我らの悲願がこれでかなう!』
『そして開かれる、新たなる人類の未来が!』
「ふざけるな!!!」
歓喜の声をあげルソーに襲い掛かるジン達を、遮ったのはイザークの怒声。
声と同時に、機関を被弾して速度を落としたボルテールから、くすんだ青色のザクが這うようにして現れる。
装備しているスラッシュウィザード、その両肩のガトリング砲が、ジンとルソーの間を裂く。
一機のジンが弾幕に飛び込み、四肢を引き裂かれて爆墜。残りは四方に散開して、ザクの攻撃から逃れる。
そこにようやく、アスランたち護衛の機体が追いついた。
「無事か、イザーク?」
「当たり前だ!」
ルソーから危機が去ったことを確認し、イザークは再びウォルテールの艦内に。
機関が爆発を始めた艦は、既に総員退避を始めている。その格納庫で、ザクは鉄の塊を引っ張り出す。
「アスラン、俺の艦はもうダメだ! メテオブレーカーは全て貴様にくれてやる、さっさとあれを叩き割れ!!」
引っ張り出したメテオブレーカーを、艦の外に放り出す。
「分かった、任せろ!」
アスランたちがそれを受け取り、ユニウスセブンへと反転する。
破砕機を抱えたザクとゲイツ、動きが鈍くなった機体の背後に、二機のジンが銃を向ける。
「この……中古のMSが!」
さらにその後ろに、イザークのジンが回りこむ。
「よくも俺の艦を!!」
一機をガトリング砲で破壊、もう一機は盾から取り出したビームトマホークの投擲で切断する。
残ったジン四機はルソーを諦め、守りの薄くなった作業機へと転進した。
- 385 :付き人 17/22:2006/04/10(月) 20:23:14
ID:???
「このー!」
MS形態に変更することで強引に方向転換し、ガイアがビーム突撃銃を放つ。
「これで、終わりだよ!」
ジンはガイアの攻撃回避のため姿勢を崩し、そこにアビスのビーム砲が殺到する。
手が捥げ足が千切れ、ついに胴体が爆発してようやくジンは動きを止めた。
相手を完全に破壊したことを確認して、アウルは大きく息をつく。
残っていた最後のジンが撤退すると同時に、二機のジンを始末したネオとスティングも戻ってきた。
「アウル、テメーなに勝手に行動してんだ! ステラものこのこ付いて行ってんじゃねーぞ!」
スティングが機体の中で目を吊り上らせて言った。
「ま、結果オーライってやつじゃん?」
「そういう問題じゃねーよ!」
「にしても、大分やられたな。リー、大丈夫か?」
言い争い始めた二人をひとまず置いておき、ネオはガーティー・ルーへの無線を入れる。
襲ってきたジンは何とか全機叩き落したものの、その過程で艦もかなりの被害を浴びていた。
特に戦闘開始早々にイーゲルシュタインを失った右舷はひどく、集中砲火を浴びた部分は装甲の破損が外部からもはっきりと分かる。
「心配ありません、大佐」
ブリッジからリーが答える。
「戦艦にとってはMS搭載ビームライフルの十発や二十発など、どうということはありません。
主砲回路、オールグリーン。まだいけますよ」
事実であった。
イーゲルシュタインのほぼ全てとミサイル発射官の約半分を潰されたものの、発射不可能となった主砲はいまだ一門もなかった。
驚くというより呆れるしかないような頑丈さだった。
「艦長、前方より新たなMS、数約十!」
オペレーターが報告する。ネオが顔をしかめた。
主砲こそ健在なものの、先ほどまでの戦闘でガーティー・ルーの対MS戦闘力は大きく低下している。
四機の艦載機は皆健在ではあるものの、いずれも損傷は受けており、エネルギー残量も気にかかり始めていた。
今度の敵を耐え切れる保障は、どこにもなかった。
「直進すれば五分で主砲の有効射程圏内に目標を捕らえられます」
「……わかった、直進しろ。敵はこっちで引き受ける。守りきるぞ、お前ら!」
リーの言葉を受けしばし考えてから、ネオは言う。三人が頷き、ガーティー・ルーを取り囲むようにして散った。
- 386 :付き人 19/21:2006/04/10(月) 20:24:22
ID:???
その後の五分の戦闘は、ある種異様とも言えるものだった。
四機の機体が、ジンを迎撃する。そこを潜り抜けたジンが、ガーティー・ルーを攻撃する。
ガーティー・ルーはそれを避けようともせずに、ただただまっすぐ進み続けた。
艦の旋回性能が上がりMSに対しても有効な回避行動が取れるようになったコズミック・イラ七〇年代とは思えない、
どちらかといえばアフター・クリスチャン一九〇〇年代中盤、太平洋で繰り広げられていそうな類の戦いだった。
瞬く間に、ガーティー・ルーには無数のビームが集中する。
機体を操る四人には、それを見て息を呑む暇さえ許されない。そんな暇があれば一機でも余計にジンを落とすべきだったし、
それより何より余所見などすれば自身が撃墜されかななかった。
艦体に多大な傷を負いながら、それでもガーティー・ルーは耐え抜いた。
第二、第三砲塔がビームで貫通され使い物にならなくはなったものの、班員の決死のダメコン作業によって
誘爆という最悪の事態だけは回避していた(ただしその引き換えに、第二砲塔付近に配属されたものはほぼ全員が死亡していた)。
主火力の75パーセントはいまだ健在であった。
「ゴッドフリート撃ち方用意」
直進を始めてから308秒後に、リーが命じる。
「目標、ユニウスセブン中央巨大推進器。よく狙えよ」
「狙わなくても外しっこありませんよ、あれだけでかい的だ」
リーの言葉に、管制官の一人が応じる。確かに、目標の大きさは通常の戦艦の優に三倍はあった。
「そうか。なら一発でも外したら、今月貴様は減棒処分だ」
「え……いやー、そいつはご勘弁」
管制官のおどけた声に、ブリッジで笑い声が起きる。程よく空気が緩んだところで、リーは改めて命じる。
「撃ち方、始め!」
射撃可能な一、四、五、六番砲塔が、それぞれ一門ずつ高エネルギー砲を放つ。
四つのエネルギー砲は、微かに歪んだ正方形を形作って推進器の前後に落ちる。
撃ち一発は推進器本体に命中し、推力を十パーセントほど低下させた。
いくら目標が大きいとはいえ、初弾から夾叉である。ブリッジに上がった歓声は、ジンの放ったビームの命中音をかき消した。
「第二射より、斉射に移る」
命じたリーの視線の先、ブリッジメインモニターでは、ガイアの突撃砲を浴びたジンが一機砕けて墜ちた。
- 387 :付き人 20/22:2006/04/10(月) 20:25:58
ID:???
「何、あれ……ユニウスセブンを砲撃してる?」
三機目のメテオブレーカーを打ち込んだマユが、顔を上げて言った。
「ルナマリアさん、あれって……」
「分からないわ。でもとにかく今は、作業を続けるわよ。アスランさん!」
「ああ、頼む!」
アスランが、運んできたメテオブレーカーをマユたちに向け放る。マユとルナマリアがそれを受け取り、二人で設置作業に入る。
「そろそろ、割れるはずなんだけど……」
抑えきれなくなった焦りをにじませながら、ルナマリアが言う。
ユニウスセブン中央で大きな爆発が起こったのは、その時だった。
ガーティー・ルーの放った第四斉射、内推進器に命中したのは四発だった。
撃ち一発は既に破壊されていた部分に当たり、何の影響ももたらさなかった。
二発は推進器本体を貫き、推力を低下させることで地球への到達までの時間を増やした。
だが、もっとも大きな効果を上げたのは推進剤予備タンクを貫いた最後の一発だった。
その一発は、タンクの中に入っていた推進剤を誘爆させる。そこから広がった爆炎は、ユニウスセブンの四分の一を覆った。
既にメテオブレーカーを打ち込まれ脆くなっていたユニウスは、爆発に耐え切れず己のみを三つに裂く。
内二つは爆発の衝撃で地球落下起動から離脱、だが残りの一つは落下を継続した。
三つに割れたユニウスを前に、ガーティー・ルーで歓声が上がる。が、それはすぐに声にならない悲鳴に変わった。
ガイアを振り切った一機のジンのライフルが、まっすぐブリッジに向けて構えられていた。
「面舵五〇度、アップトリウム四〇度」
リーが命じるが、長時間直進を続けていた艦はすぐには進路を変えられない。
「この、邪魔だー!!」
別のジンを撃破したステラが急いで艦の救援に向かうが、間に合いそうにない。
引き金を引かれたライフルは製造者の意図通りの働きを示し、高温のビームを発射する。
ブリッジ目掛け直進するビーム、それは命中した物質を溶解、爆発させた。
思わず目を閉じたガーティー・ルーの管制官が、恐る恐る目を開ける。途端に、新たな爆発が生じた。
二つ目の爆発はガイアの突撃砲を浴びたジンのもの、一つ目はそのジンのビームを防いだエグザスのガンバレルのものだった。
「スティング、ステラ、アウル、帰還しろ! リー、ミラージュコロイド展開、後宙域を離脱する!」
「は!」
額に浮かんだ冷や汗を拭ったリーは頷くと、ネオの指示を実行に移す。
四機が着艦すると同時に、ガーティー・ルーは姿を消す。
あとに残された数機のジンもしばらくあたりを旋回し、やがて散っていった。
- 388 :付き人 21/22:2006/04/10(月) 20:26:50
ID:???
三つに割れたユニウスを見て、ミネルバブリッジで歓声が上がる。が、艦長タリアは厳しい表情を崩さない。
割れたのは、いい。だがあれではまだまだ不十分だ。そしてMSによる破砕作業は、高度的にそろそろ限界となりつつあった。
「ルソーより発光信号……MSへの帰還命令です!」
メイリンの報告に、頷く。
「こっちも引き上げさせるわ、発光信号用意! それと、内火艇の発進準備を」
後ろを振り向き、そこにいた三人に言う。
「ユニウスセブンはあと少しで大気圏への突入を開始します。MSによる破砕作業は、もう切り上げねばなりません。
本艦はユニウスと共に大気圏に突入し、限界まで艦主砲による破砕作業を行います」
「そんなことが可能なのかね?」
「スペック上は。ただし当然危険は伴います。ですから、皆様にはルソーにお移りいただきます。
幸いジン部隊はユニウスへ引き上げたようですので、本艦の内火艇でなら大気圏突入前に移乗できます」
「分かった、そうさせてもらおう」
「いや、私は残る」
タリアの説明を聞いて、プラントの代表は縦に、オーブの代表は横にその首を振った。
- 389 :付き人 22/22:2006/04/10(月) 20:28:14
ID:???
「代表?」
「アスランがまだ戻らない以上、私だけが移るわけにはいかない」
驚いた顔を見せたデュランダルに、カガリは答える。さらに、彼の後ろに控えていたミーアに問う。
「お前も、そうではないのか」
「……え?」
「友達なんだろう、あのマユという子」
「ええ、でも……」
話を振られるとは思っていなかったミーアが、慌てて目を白黒させる。
「ラクス」
前に立っていたデュランダルが、振り返って彼女の名を呼んだ。
呼びかけられて、何とか平静を取り戻す。デュランダルの顔を見て、微かに頷いて言う。
「友達です。でも、だからここにいる訳にはまいりません」
「なに?」
「マユは今自分にやれることをやっています。だったら私もやるべきことをしっかりやらなきゃ、あの子に叱られてしまいます」
「……そしてお前のやるべきことはここにいることではない、そういうことか?」
「はい」
カガリに頷き、ミーアはタリアのほうに向き直る。頭を下げて、言う。
「どうか、あの子のことをよろしくお願いいたします」
「お任せください」
タリアは、一部の隙もない敬礼でそれに応じた。
ミーアとデュランダルがブリッジから去り、カガリは彼等を黙って見送った。
ミネルバから内火艇が発進する。カガリが、タリアがそれを見つめる。
二人が向けた視線の先で、内火艇はルソーへと登っていく。
ルソーに内火艇が収納される。デュランダルが、ミーアがそこから見下ろす。
二人が向けた視線の先で、ミネルバはユニウスセブンと共に降下していく。
ミネルバから、発光信号が放たれる。MS隊に帰艦を命じるものだ。
同時に艦首タンホイザーの発射準備、降下シークエンスフェイズ1への移行を並行して行う。
ユニウスセブンをめぐっての彼等の戦いは、まだ、終わってはいない。