高齢者虐待防止法



 2006年4月より施行された「高齢者虐待防止法」(正式名称:「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」)について。。


<高齢者虐待の定義>
1.高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること(身体的虐待)
2.高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置(無視または放置という虐待)
3.高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと(心理的虐待)。
4.高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること(性的虐待)
5.高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること(経済的虐待)。
(「高齢者虐待防止法」より)

区分 法による定義 事例
身体的虐待
(暴行)
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。 ・平手打ちをする
・つねる、殴る、蹴る
・無理やり食事を口に入れる
・やけどをさせる
・ベッドに縛り付ける など
養護を著しく怠ること
(ネグレクト)
高齢者を衰弱させるような著しい減食、又は長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠るこ と。 ・入浴しておらず異臭がする
・髪が伸び放題である
・水分や食事を十分に与えられていないことで、脱水症状や栄養失調の状態にある
・劣悪な住環境の中で生活させる など
心理的虐待
(心理的外傷を与えるような言動)
高齢者に対する著しい暴言、又は著しく拒絶的な対応、その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。 ・排泄の失敗等を嘲笑する等により高齢者に恥をかかせる
・怒鳴る、ののしる
・侮辱を込めて子供のように扱う
・話しかけを無視する など
性的虐待 高齢者にわいせつな行為をすること、又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。 ・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する
・キス、性器への接触  など
経済的虐待
(高齢者から不当に経済上の利益をえること)
養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分すること、その他高齢者から不当に財産上の利益を得ること。 ・日常生活に必要な金銭を渡さない・本人の自宅等を本人に無断で売却する
・年金や預貯金を本人の意思、利益に反して使用する など


<高齢者虐待の現況>
 「虐待の内容」(複数回答)では、「心理的虐待」が63.6%で最も多く、次いで「介護・世話の放棄・放任」が52.4%、「身体的虐待」が50.0% となっていた。「虐待を受けている高齢者」の平均年齢は81.6歳で、約8割が75歳以上の後期高齢者で占められ、57.8%が介護・支援を必要とする認 知症高齢者であった。「虐待をしていると思われる中心的な人」は、「息子」が32.1%で最も多く、次いで「息子の配偶者(嫁)」20.6%、「配偶者」 20.3%(「夫」11.8%、「妻」8.5%)、「娘」16.3%であった。


<高齢者虐待防止法の概要>
1)総則
 法律の目的、高齢者虐待等の定義、国等の責務

[目的]
この法律は、高齢者に対する虐待が深刻な状況にあり、高齢者の尊厳の保持にとって高齢者に対する虐待を防止することが極めて重要であること等にかんがみ、
1.高齢者虐待の防止等に関する国等の責務
2.高齢者虐待を受けた高齢者に対する保護のための措置
3.養護者の負担の軽減を図ること等の養護者に対する養護者による高齢者虐待の防止に資する支援(以下「養護者に対する支援」という。)のための措置等を 定めることにより、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等に関する施策を促進し、もって高齢者の権利利益の擁護に資する。

[国及び地方公共団体の責務等]
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止、高齢者虐待を受けた高齢者の保護、養護者に対する支援を行うため、関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の 間の連携の強化等に努めなければならない。
関係機関の職員の研修等必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
高齢者虐待に係る通報義務、人権侵犯事件に係る救済制度等について必要な広報その他の啓発活動を行うものとする。

[国民の責務]
国民は、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等の重要性に関する理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止、養護者に対する支 援等のための施策に協力するよう努めなければならない。

[高齢者虐待の早期発見等]
養介護施設、病院、保健所その他高齢者の福祉に業務上関係のある団体及び養介護施設従事者等、医師、保健師、弁護士等、高齢者の福祉に職務上関係のある者 は、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、高齢者虐待の早期発見に努めなければならない。
高齢者虐待の防止のための啓発活動及び虐待を受けた高齢者の保護のための施策に協力するよう努めなければならない。


2)養護者による高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等
家庭における養護者による高齢者虐待に対する対応システム

[相談、指導、助言]
市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導、助言を行うものとする。

[養護者による高齢者虐待に係る通報等]
養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通 報しなければならない。
それ以外の場合、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
守秘義務に関する法律の規定は、通報することを妨げるものと解釈してはならない。
当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。

[通報等を受けた場合の措置]
市町村は、通報又は高齢者からの虐待を受けた旨の届出を受けたときは、速やかに、当該高齢者の安全の確認等、通報又は届出に係る事実の確認のための措置を 講ずるとともに、老人介護支援センター、地域包括支援センター等当該市町村と連携協力するもの(高齢者虐待対応協力者)と対応について協議を行うものとす る。
市町村又は市町村長は、生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため、迅速に老人短期入所施設等に入所さ せる等、適切に、措置を講じ、又は審判の請求をするものとする。

[居室の確保]
市町村は、虐待を受けた高齢者について、施設に入所させる等の措置を採るために必要な居室を確保するための措置を講ずるものとする。

[立入調査]
市町村長は、養護者による高齢者虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、地域包括支援センターの職員等、高 齢者の福祉に関する事務に従事する職員をして、当該高齢者の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。

[警察署長に対する援助要請等]
市町村長は、立入り、調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該高齢者の住所又は居所の所在地 を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。

[養護者の支援]
市町村は、養護者の負担の軽減のため、養護者に対する相談、指導及び助言その他必要な措置を講ずるものとする。
市町村は、養護者の心身の状態に照らし、養護の負担の軽減を図るため緊急の必要があると認める場合に、高齢者が短期間養護を受けるために必要となる居室を 確保するための措置を講ずるものとする。

[連携協力体制]
市町村は、養護者による高齢者虐待の防止、虐待を受けた高齢者の保護及び養護者に対する支援を適切に実施するため、老人介護支援センター、地域包括支援セ ンター等(高齢者虐待対応協力者)との連携協力体制を整備しなければならない。

[事務の委託]
市町村は、高齢者虐待対応協力者のうち適当と認められるものに、@相談、指導、助言、A通報又は届出の受理、B高齢者の安全の確認、通報又は届出に係る事 実の確認のための措置、C養護者の負担の軽減のための措置に関する事務の全部又は一部を委託することができる。

[都道府県の援助等]
都道府県は、市町村が行う措置の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行うものとする。
市町村が行う措置の適切な実施を確保するため、必要があると認めるときは、市町村に対し、必要な助言を行うことができる。


3)養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等
施設等の職員による高齢者虐待に対する対応システム

[養介護施設従事者等による高齢者虐待の防止等のための措置]
養介護施設の設置者又は養介護事業を行う者は、従事者等の研修の実施、当該養介護施設に入所し、施設を利用し、又はサービスの提供を受ける高齢者及びその 家族からの苦情の処理の体制の整備、その他虐待の防止等のための措置を講ずるものとする。

[養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等]
養介護施設従事者等は、従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これ を市町村に通報しなければならない。
それ以外の場合は、市町村に通報するよう努めなければならない。
養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けた高齢者は、その旨を市町村に届け出ることができる。
刑法の秘密漏示罪等、守秘義務に関する法律の規定は、通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
養介護施設従事者等は、通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
市町村(指定都市、中核市を除く)は、通報又は届出を受けたときは、高齢者虐待に関する事項を、都道府県に報告しなければならない。

[通報等を受けた場合の措置]
市町村が、通報若しくは届出、又は都道府県が市町村から報告を受けたときは、市町村長又は都道府県知事は、養介護施設の業務又は養介護事業の適正な運営を 確保することにより、高齢者虐待の防止及び当該高齢者の保護を図るため、老人福祉法又は介護保険法の規定による権限を適切に行使するものとする。

[公表]
都道府県知事は、毎年度、養介護施設従事者等による高齢者虐待の状況、養介護施設従事者等による高齢者虐待があった場合にとった措置等を公表するものとす る。


4)雑則

[財産上の不当取引による被害の防止等]
市町村は、第三者(養護者、高齢者の親族又は養介護施設従事者等以外の者)による財産上の利益を得る目的で高齢者と行う取引(財産上の不当取引)による高 齢者の被害について、相談に応じ、若しくは消費生活に関する業務を担当する部局等を紹介し、又は高齢者虐待対応協力者に、財産上の不当取引による高齢者の 被害に係る相談若しくは関係機関の紹介の実施を委託するものとする。
市町村長は、財産上の不当取引の被害を受け、又は受けるおそれのある高齢者について、適切に、老人福祉法の規定により審判の請求をするものとする。

[成年後見制度の利用促進]
国及び地方公共団体は、高齢者虐待の防止及び虐待を受けた高齢者の保護、並びに財産上の不当取引による高齢者の被害の防止及び救済を図るため、成年後見制 度の周知のための措置等を講ずることにより、成年後見制度が広く利用されるようにしなければならない。


5)罰 則
守秘義務に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
正当な理由がなく、立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、若しくは高齢者に答弁 をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者は、30万円以下の罰金に処する。
 


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