第15回社会福祉士国家試験問題 


問題 91 障害者に関する国連を中心とする動きについての次の記述を
古いものから、年代順に並べた場合、その組み合わせとして正しいもの
を一つ選びなさい。

 A 障害者の権利宣言
 B 障害者に関する世界行動計画
 C 障害者の機会均等化に関する標準規則
 D 知的障害者の権利宣言

(組み合わせ)
1 A→D→B→C
2 B→A→C→D
3 B→C→D→A
4 D→A→B→C
5 D→B→A→C


<問題91解説>
A.「障害者の権利宣言」は1975(昭和50)年に採択された。すべての障害者が,同年齢の市民と同等の権利を有し,また必要な各種サービスを受ける権利を持っていることなどを宣言した。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P68)

B.国際障害者年(1981年)のテーマである「完全参加と平等」を実現するために,国連は1982(昭和57)年に「障害者に関する世界行動計画」を採択し,加盟各国に本計画に沿った取り組みを求めた。同時に「国連・障害者の十年」(1983〜1992年)が宣言され,継続的な取り組みを図ることとなった。(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P77〜79)

C.「障害者の機会均等化に関する標準規則」は1993(平成5)年に採択された。「障害者に関する世界行動計画」の進行状況の検討から,障害者の差別撤廃国際条約が提案されたが,種々の理由により賛同が得られなかったため,条約ではなく,強制力のないガイドラインとして採択された。(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P79〜80)

D.「知的障害者の権利宣言」は1971(昭和46)年に採択された。ノーマライゼーションの理念の広がりを受け,知的障害者が可能な限り通常の生活を送れるよう,各種の権利を列記している。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P68)



解答4




問題 92 障害者の定義に関する次の記述のうち、適切でないものを一
つ選びなさい。

1 国連の国際障害者年行動計画では、障害者は、「その社会の他の異
なったニーズを持つ特別の集団と考えられるべきではなく、その通常の
人間的なニーズを満たすのに特別の困難を持つ普通の市民と考えられる
べきなのである」としている。
2 知的障害者福祉法では、知的障害者とは、「都道府県知事から療育
手帳の交付を受けた者をいう」としている。
3 障害者基本法では、障害者とは、「身体障害、知的障害又は精神障
害があるため、長期にわたり日常生活又は社会生活に相当な制限を受け
る者をいる」としている。
4 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律では、精神障害者とは、
「精神分裂病、精神作用物質による急性中毒又はその依存症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有するものをいう」としている。 
5 ADA(障害を持つアメリカ人法)では、障害を「主たる生活活動を著しく制限する身体的・精神的機能障害」ととらえている。


<問題92解説>
1.適切
1981年の国連障害者年に先立ち,1980年に国連総会で決議された「国際障害者年行動計画」でのノーマライゼーションの理念を踏まえた障害者の法的定義である。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P3・P31)

2.不適切
知的障害者福祉法では「知的障害者」の定義を設けていない。「療育手帳制度について」(昭和48年発児第156号厚生事務次官通知)では、「手帳は、児童相談所又は知的障害者更生相談所において知的障害であると判定された者に対して交付する。」と規定している。2000年(平成12年)9月の厚生労働省「知的障害児(者)基礎調査」では知的障害の定義として知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ,日常生活に支障が生じているため,何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」とされた。(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P32・P41)

3.適切
障害者基本法第2条で定義されている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P31)

4.適切
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第5条で定義されている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P33)

5.適切
1990年に公布されたADA(障害を持つアメリカ人法)の第3項第2号(A)で定義されている。(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P70)
参考図書「アメリカ障害者法全訳」斉藤明子訳・現代書館


解答2
問題 93 障害者基本法の第1条である次の文章の空欄A、B、Cに該
当する語句の組み合わせとして、正しいものを一つ選びなさい。
「この法律は、障害者之ための施策に関し、( A )を定め、及び国、地方公共団体等の( B )を明らかにするとともに、障害者のための
施策の基本となる事項を定めること等により、障害者のための施策を総
合的かつ計画的に推進し、もって障害者の( C )と社会、経済、文
化その他あらゆる分野の活動への参加を促進することを目的とする。」

    A     B   C
1 基本的理念−−責務−−自立
2 基本的権利−−役割−−自立
3 基本的責務−−任務−−保護
4 基本的権利−−責務−−尊厳
5 基本的理念−−役割−−保護


<問題93解説>
・「障害者基本法」第1条(目的)の本文からの出題である。
・障害者基本法は1993年(平成5年),心身障害者対策基本法(1970年・昭和45年成立)の改正により成立した。長年の懸案だった精神障害者を障害者の定義に加え,参議院の付帯決議において,自閉症・てんかん患者・難病患者もこの法の対象になることが確認された。
・主な内容は,「障害者の日」や国による障害者基本計画の策定(国の義務,都道府県や市町村の努力義務),『障害者白書』の刊行,交通施設等の公共的施設のバリアフリー化,電気通信・放送など情報分野の関係者に障害者の利用に便宜を図る努力義務などについて定めている。
・この法は「国連・障害者の十年」の最終段階において,障害のある国会議員が中心となり,超党派で関係団体の意見も取り入れながら改訂された。成立の背景には,戦後の保護・収容などの福祉観が残る,時代にそぐわなくなった従来の基本法改正への気運の盛り上りがあった。1990年の「障害を持つアメリカ人法(ADA法)と,国連でポスト国連・障害者の十年として案が提案されていた1993年の「障害者の機会均等化に関する標準規則」の影響を受けている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p110からp114)


解答1














問題 94 次の記述のうち、正しいものの組み合わせを一つ選びなさい。
 A 精神障害者保健福祉相談員は、精神保健及び精神障害者福祉に関
する法律に基づいて設置されている。
 B じん臓機能障害者の人工透析療法は、更生医療の給付対象になる。
 C 知的障害者グループホームの入居者は、ホームヘルプサービスの
利用はできない。
 D 障害者施策で導入予定の支援費制度は、肢体不自由児施設には適
用されないこととなっている。

(組み合わせ)
 1 A B
 2 A C
 3 B C
 4 B D
 5 C D


<問題94解説>
A.誤り
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づいて設置されているのは「精神保健福祉相談員」である。精神保健福祉相談員は保健所と精神保健福祉センターに配置され,精神障害者やその家族からの相談に応じ,指導を行う。
(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第48条)
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P141)

B.正しい
更生医療は身体障害者の日常生活能力は職業能力の改善のための医療である。その範囲は明確に規定されていないが,例示として視覚障害者の角膜移植,肢体不自由者の人工関節置換術などとともにじん臓機能障害者の人工透析療法が挙げられている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P155〜156)

C.誤り
2000(平成12)年から,知的障害者グループホームの入居者も,ホールプサービスの利用ができることになった。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P179)

D.正しい
児童福祉分野においては,支援費制度が適用されるのは,児童居宅介護等事業(ホームヘルプサービス),児童デイサービス事業,児童短期入所事業(ショートステイ)だけであり,障害児施設の入通所や補装具の交付などは支援費制度の対象にはならない。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P106〜107)


解答4


問題 95 次の記述のうち、正しいものに○、誤っているものに×をつ
けた場合、その組み合わせとして正しいものを一つ選びなさい。
A 1970年代に入り、アメリカの自立生活(Independent Living)運
動は、重度の身体障害児のもつ親の会の活動として出発し、発達保障と
いう考え方を提唱した。
 B 我が国における精神障害者の家族会の全国組織は、1940年代後半
に設立されたが、精神障害者本人による全国組織はまだ設立されていない。
 C 1950年代に、知的障害児の親の会として出発した全日本手をつな
ぐ育成会(当時は、全日本精神薄弱児育成会)は、現在では知的障害者
の本人部会を設けている。
 D 我が国における小規模作業所づくりは、1980年代から精神障害者
の自主運営活動として始まったが、1990年代に入り、知的障害者や身体
障害者の作業所づくりが始まった。

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ ○ × ○
3 × ○ × ○
4 × × ○ ×
5 × × × ○


<問題95解説>
A.誤り
IL運動は1970年代初にアメリカの重度障害を持つ学生たちが,自立とは「自らの責任と判断により主体的に生きること」だという運動を展開した。「発達保障」は,糸賀一雄氏の実践の中から生まれた教育思想で,重度・重複障害を伴っていても,どんな子どもたちでも必ず発達するものであるという確信を持ち,その発達を促す援助の重要性を強調したのである。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P21・P22・P68)

B.誤り
1965年(昭和40年)に全国精神障害者家族会が結成された。1990年頃から精神障害者本人の活動が徐々に活発になり,1993年(平成5年)に全国精神障害者団体連合会が結成された。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P292・P294)

C.正しい
1952年(昭和27年)に知的障害児の親たちにより「全日本精神薄弱児育成会」が結成される。1959年(昭和34年)に「全日本精神薄弱者育成会」と改称された後も親の立場からの運動が展開されてきた。1980年代に国際障害者年を契機として,他の障害当事者団体が当事者の立場での主張と運動が展開されたことやスウェーデンやデンマークにおける当事者活動の影響を受け,知的障害者本人の当事者活動の場として1989年(平成元年)に本人部会を設置される。その後、本人部会の活動から「精神薄弱という,差別を感じる言葉を改めて欲しい」という,本人たちからの強い要望を受け,討議を重ねた結果,1995年に「全日本手をつなぐ育成会」へと改称した。 
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P290・P294)

D.誤り
1970年代から知的障害者や身体障害者を主対象に自主運営活動としてはじまり,国の障害者の小規模作業所への補助制度が,1977年(昭和52年)より知的障害者通所援護事業,1987年(昭和62年)より在宅重度障害者通所援護事業及び精神障害者小規模作業所運営事業として行われるようになった。1980年代に入って精神障害者を対象にした小規模作業所が設立されはじめた。1990年代には脳血管障害等中途障害者やアルコール依存症等への広がりをみせている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論P229)
参考図書「小規模作業所問題に関する第3次政策提言」(1999年・共同作業所全国連絡会)


解答4













問題96 障害者の所得保障制度等に関する次の記述のうち、正しいも
のに○、誤っているものに×をつけた場合、その組み合わせとして正し
いものを一つ選びなさい。
A 障害基礎年金の受給権者に対しては、国民年金の保険料免除の制度
がある。
B 障害基礎年金では、障害の程度に応じて1級から3級まで定められ
ている。
C 知的障害児施設に入所している重度障害児には、障害児福祉手当は
支給されない。
D 所得税法上、障害者控除の制度がある。

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ × ○ ○
3 ○ × × ○
4 × ○ × ○
5 × × ○ ×



<問題96解説>
A. 正しい
 国民年金の保険料の免除制度では,届けることによって免除される法定免除の制度と,申請して承認を受ければ全額又は半額の保険料の納付が免除される申請免除がある。
 法定免除は@生活保護法による生活扶助を受けている人 A障害(基礎・厚生・共済)年金の1・2級を受けている人が該当し,申請免除は@所得がないとき A生活保護法の生活扶助以外の扶助を受けているとき Bその他保険料を納めることが著しく困難なときに承認を受ければ,その一定期間中は免除される。なお学生には,納付特例制度が設けられている。(「国民年金法」第89条)

B. 誤り
 障害基礎年金は1級と2級の2段階である。平成12年4月での障害基礎年金額は,2級で老齢基礎年金と同額の年間80万4200円,1級はその1.25倍に当たる100万5300円である。それに子の加算額(第1子・第2子については,それぞれ23万1400円,第3子以降については7万7100円)が合わせて支給される。子供の対象は18歳到達年度の年度末までの間にある子(または20歳未満の1〜2級の障害児)である。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p232)

C. 正しい
 「肢体不自由児施設その他これに類する施設で厚生労働省令で定めるものに収容されている時はこの限りではない」との規定があり,施設入所児に関しては障害児福祉手当は出されない。障害児福祉手当は,20歳未満の重度の障害児に対して,その障害のため必要となる精神的,物質的な特別の負担の軽減の一助として手当を支給することにより,重度障害児の福祉の向上を図るための手当である。特別障害者手当等と共に介護にかかる金銭面における所得保障の一環となっている。
(「特別児童扶養手当等の支給に関する法律」第17条第1項第2号)
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p235)

D. 正しい
 所得税法上の障害者控除とは,居住者または控除対象配偶者もしくは扶養親族が障害者(3〜6級)である場合には,障害者1人につき27万円を控除する制度である。特別障害者(1〜2級)である場合には,1人につき40万円を控除する特別障害者控除が該当する。他に住民税における障害者控除や特別障害者控除などもある。
(「所得税法」第79条)
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p240)


解答2













問題 97 障害児に関する次の記述のうち、正しいものに○、誤ってい
るものに×をつけた場合、その組み合わせとして正しいものを一つ選び
なさい。
 A 障害児・知的障害者ホームヘルプサービス事業によるサービスは、重度の障害のため日常生活を営むのに著しく困難な障害児のいる家庭等
にホームヘルパーを派遣して適切な家事、介護などの援助を提供するも
のである。
 B 療育・訓練の場として、障害種別に、知的障害児通園施設、肢体
不自由児通園施設、難聴幼児通園施設の三種があるが、身近な地域の施
設への利用希望があるものの、提供できるサービスの専門性の違いから
相互利用は見とめられていない。
 C 育成医療は、身体に障害のある児童に対し、生活の能力を得るた
めに必要な医療の給付を行う現物支給制度であるが、その対象にはHI
V(ヒト免疫不全ウイルス)による免疫機能の障害は含まれていない。
 D 平成12年の児童福祉法改正により、情緒障害児短期治療施設には、母と子の生活環境を調整するために、社会福祉士を必置することとなっ
た。

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ × × ○
3 ○ × × ×
4 × ○ ○ ○
5 × × ○ ○

<問題97解説>
A. 正しい
 児童福祉法において障害児に対する児童居宅生活支援事業,知的障害者福祉法において知的障害者居宅生活支援事業が規定されている。それぞれ居宅介護等事業(ホームヘルプサービス),デイサービス事業,短期入所事業(ショートステイ)の3つが中心となっており,知的障害者には地域生活援助事業(グループホーム)も加えられている。平成15年4月から居宅生活支援費の対象へと移行される予定である。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p167.p178)
(「児童福祉法」第6条の2および第21条の10)
(「知的障害者福祉法」第4条および第15条の5)

B. 誤り
 障害児の通園施設の相互利用については,障害のある児童が身近な地域にある施設の利用を図る観点から,平成10年度から認められている。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p175)

C. 誤り
 育成医療にはHIVによる免疫機能障害も含まれる。他に,肢体不自由によるもの,視覚障害によるもの,聴覚,平衡機能障害によるもの,音声,言語,そしゃく機能障害によるもの,内蔵障害によるもの(心臓,腎臓,呼吸器,ぼうこう,直腸および小腸機能障害を除く内部障害については,先天性のものに限る)がある。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p168)(「児童福祉法」第20条)

D. 誤り
 情緒障害児短期治療施設に社会福祉士は必置となっていない。「医師,心理療法を担当する職員,児童指導員,保育士,看護婦,栄養士および調理員を置かなければならない」とあり,子どもの心の問題に対応する専門的なスタッフが必置とされている。(「児童福祉施設最低基準」第75条)
 情緒障害児短期治療施設は児童福祉法で「軽度の情緒障害を持つ児童を,短期間入所,あるいは通所させて治療する施設」と定められている。不登校,学習障害,不可解な行動など,多様でしかも症状の重度化したケースが全国的に増加し,子どもへの虐待が深刻な社会問題となっている中,心理治療,教育,生活指導,家庭・学校との連絡・調整など,総合的な心理療育と援助ができる唯一の専門機関として期待と要望が高まっている。児童心理療育施設ともいう。
(参考:全国情緒障害児短期治療施設協議会 ホームページ)


解答3









(障害者福祉論・事例問題)

次の事例を読んで、問題98から問題100までについて答えなさい。
(事例)
 Aさん(10歳・女性)は、出生後1週間のときに呼吸停止となり、その後、脳性麻痺による重症心身障害者となった。医師から寿命は長くないと告知されていたこともあり、父親はAさんの障害を受け止めきれずに、母親への暴力が始まった。暴力が毎日のように続くので、Aさんが3歳のときに母親は離婚した。しかしながら、介護が大変でAさんが4歳のとき、施設に入所させた。
 その施設では、食事は経口摂取がままならないため点滴に頼らざるを得なかったが、面会のたびにベッドに縛りつけられているAさんの姿を見るにつけ、いたたまらない気持ちになり、母親は、施設入所後1ヶ月もたたないうちに、誰に相談することもなく施設から家に連れて帰った。以来母親は、Aさんが睡眠を取っている夜の数時間スナックで働きながら、Aさんとの二人の暮らしを支え、必死で在宅介護生活を続けてきた。
 この間、Aさん親子の介護疲れと状況を、見かねた担当地区の民生委員・児童委員は、Aさん宅を訪問した(問題98)。
 民生委員・児童委員の再三の訪問、助言にもかかわらず、専門機関への不信を募らせている母親は、どこにも相談に行かなかった。
 小学生になったAさんは、養護学校に在籍し訪問教育を受けているが、外出する機会もほとんどなく家の中で母親の介護を受けて暮らしている。しかし、介護生活に心身とも疲れきった母親は、最近うつ状態に陥り総合病院で診察を受けたが、それをきっかけに同病院のソーシャルワーカーがAさんと母親の家族支援を開始するようになった(問題99)(問題100)。

問題 98 民生委員・児童委員が行う母親に対する社会資源の活用に関
する助言、対応として、次の記述のうち、適切なものに○、適切でない
ものに×をつけた場合、その組み合わせとして正しいものを一つ選びな
さい。
 A 母親の心身の状況が深刻なので、母親の意思にかかわらず、Aさ
んを再度施設入所させるよう勧める。
 B 民生委員・児童委員としてAさん親子を支えるのが使命だと考え、毎日、訪問し介護を手伝うこととした。
 C 生活困窮状態の回復のため、福祉事務所に行き、生活保護の相談
をするよう助言した。
 D Aさんの介護及び母親の健康状態が悪化しているので、保健セン
ターの保健婦に相談するよう助言した。

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ ○ × ○
3 ○ × ○ ×
4 × × ○ ○
5 × × × ○


<問題98解説>
A.不適切
 児童虐待でもない限り,保護者の意思尊重が必要。

B.不適切
 民生委員・児童委員の職務は,民生委員法第14条により、@住民の生活状態を適切に把握A要援助者への相談助言その他の援助B要援助者への福祉サービスの情報提供その他の援助C社会福祉事業経営者又は社会福祉関係活動者と密接に連携・支援D福祉事務所その他の関係行政機関の業務に協力E住民の福祉増進を図る活動,が挙げられ直接要援助者へ介護を行うのが業務ではない。

C.不適切
 事例を読むかぎり,「Aさんが睡眠をとっている夜の数時間スナックで働きながら,Aさんとの暮らしを支え」という点から無理をしても働かざるを得ない状況であり,それが介護疲れを増幅し,母のうつ状態に陥った原因とみられるが,直接的な経済的困窮の話はない。母自身が問題を認識しているのは,介護疲れとうつ状態であり,このために福祉事務所での相談を勧める必要があるものの,生活困窮状態の回復のために相談を勧めるのではない。

D.適切
「経口摂取がままならない」重症心身障害児のAさんの療育相談はもとより,母親のうつ症状もあり保健師の相談は必要。



解答5

問題 99 病院のソーシャルワーカーがこの時点で採るべき対応策とし
て、適切なものに○、適切でないものに×をつけた場合、その組み合わ
せとして正しいものを一つ選びなさい。
 A 民生委員・児童委員へAさん親子のことを直ちに情報提供する。
 B 養護学校の教師や民生委員・児童委員、巡回相談員、保健師など
と連携を取り、ケース検討会を開催する。
 C Aさん親子の問題解決には、より高い専門性が必要とされるので、Aさんのことは児童相談所に、母親は保健所に別々に任せることにより、病院のソーシャルワークを終結させる。
 D 母親の気持ちを受けとめた上で、障害児短期入所事業等を活用し、当面、母親の介護の負担を軽減することにより、母親が治療に専念でき
る環境を整える。

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ ○ ×
2 ○ ○ × ×
3 ○ × ○ ○
4 × ○ × ○
5 × × ○ ×


<問題99解説>
A.不適切
 母親のうつ状態による受診については,母親本人の意向を慎重に確認してからでなくては,民生委員・児童委員に情報提供してはいけない。
B.適切
 本事例のように,関係する分野が多方面にわたる場合は,関係者を集めてのケース検討会が有効である。

C.不適切
 本事例の解決のためには,関係機関の継続的な連携が必要であり,児童相談所や保健所に「別々に」任せることは適当ではない。また,母親のうつ状態は本事例の中で重要な要素なので,担当医と関係機関をつなぐ意味でも,病院のソーシャルワーカーは今後も関わりを持つべきである。

D.適切
 母親のうつ状態の原因のひとつが介護疲れと考えられるので,障害児短期入所事業の活用は有効である。ただし,今までの経緯から,母親は施設というものに良い印象を持っていないと考えられるので,設問のように,まず母親の気持ちを受けとめることが大切である。



解答4 






問題 100 Aさん親子の支援を考える際、資源として連携を持ち、活用
されるべきサービス、機関等に関する次の組み合わせのうち、適切なも
のに○、適切でないものに×をつけた場合、その組み合わせとして正し
いものを一つ選びなさい。

 A 保健所 −− 民生委員・児童委員 −−障害児(者)地域療育
等支援事業
 B 肢体不自由児施設母子入園療育事業 −− 障害児・知的障害児
ホームヘルプサービス事業 −− 母子生活支援施設
 C 重度障害児・者日常生活用具給付等事業 −− 重症心身障害児(者)通園事業・A型 −− 医療機関
 D 障害児通園(デイサービス)事業 −− Aさんの父 −− 児
童自立支援施設

(組み合わせ)
  A B C D
1 ○ ○ × ×
2 ○ × ○ ○
3 ○ × ○ ×
4 × ○ ○ ×
5 × × × ○


<問題100解説>
A. 正しい 
・保健所〜保健所は,広域的,専門的,技術的支援を行い,保健センターは健康相談,保健指導,健康診査や,地域保健に関して住民の皆様の身近な保健活動を行うとその役割分担を地域保健法で規定されている。母子保健活動のほとんどが保健センターで行われるようになったことを考えると,保健所より保健センターの方が適切である。しかし,保健所は未熟児や低体重児に関する技術的支援も行っており,重症心身障害児であるAさんにとっては必要な社会資源の1つであろう。
・民生委員・児童委員〜地域での見守りという点で非専門職との連携が必要である。
・障害児(者)地域療育等支援事業〜在宅の重症心身障害児の療育等の相談,指導,各種サービスの利用の援助などを行っており,活用されるべき機関である。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p166)

B. 誤り 
・母子生活支援施設〜「母子家庭の児童の健全な育成を図るために母子を入所させて保護し,その自立の促進のために生活を支援する施設」また「女性に対する暴力への対応の為心理療法担当職員の配置と夜間警備が強化された(平成13年)」であり,このケースは対象として誤りである。
・肢体不自由児施設母子入園療育事業〜子供の状態を正しく理解し適切な家庭療育ができるよう,母子ペアで短期間泊り込み,介助方法や療育等の相談,指導を受ける事業であり,活用できる資源である。
・ 障害児・知的障害者ホームヘルプサービス事業〜問題97のAの解説を参照。

C. 正しい
・重度障害児・者日常生活用具給付等事業〜特殊マット,訓練いす,特殊便器,特殊尿器,入浴補助用具などはAさんにも必要と思われる。
・重症心身障害児(者)通園事業A型〜在宅で生活する重症心身障害児(者)に対し,通園の方法により日常生活動作,機能訓練等必要な療育を行う。養護学校の学齢期の子供も利用でき,医療的ケアが必要と思われるAさんには適している。A型施設は,重症心身障害児施設又は肢体不自由施設を原則とし,適切な医療体制が整っている肢体不自由児通園施設である。
・ 医療機関〜重症心身障害児にとっては欠かせない社会資源である。問題99のCの解説も参照。

D. 誤り
・児童自立支援施設〜児童福祉法第4条に規定されている,不良行為をなし,またはなす虞のある児童と,環境上の理由により生活指導などを要する児童が対象なので誤りである。
・障害児通園(デイサービス)事業〜通園事業の対象となる児童は,通園による指導になじむ障害のある幼児であるが,事業の目的,地域の実情など諸般の事情を考慮し市町村が必要と認めた学齢児も利用できるので活用できる可能性はある。
(新版第2版社会福祉士養成講座B障害者福祉論p167)
・Aさんの父〜Aさん3歳の時に離婚しており,母親への介護面での協力は期待できない。しかし,養育費などの面で支援の可能性をさぐることはできる。



解答3



あなたは 人目の訪問者です。