PC−486GR

2000年3月5日執筆

486GR Picture

 DA、FAと続くNECの主力機種が性能的に足踏み状態となり、かといって次期98であるH98シリーズの普及の兆しも全くなく、NECの不甲斐なさが目立った1992年春。唯一の98互換機メーカーであるエプソンが、NECの隙をつくような画期的なマシンを発表しました。それがPC−486GRです。

 486−16MHzのノーマル機種FAと同額(定価45万8千円)でありながら、486−25MHzと5割以上も高速。さらに加えてハイレゾモード、FM音源まで搭載するという、当時としては驚異的なマシン。これで売れない訳はなく、あっという間にベストセラー機種となりました。かく言う私も、このスペックと価格を見たとたん購入を決意。ボーナスが出るや否や、当時所持していた9801RA21を下取りに出して、差額20万で購入しました。もちろん実際に使ってみて感じた満足度も非常に高く、いささか不謹慎ですがFAユーザーがかわいそうに思えたぐらいでした。

 欠点を挙げるとすれば、付属のインストレーションプログラムを使ってエプソンプロテクトを外さないと動かないソフトの存在や、SIMM、ローカルバスが98非互換だったことが挙げられます。これらはすべて互換機の宿命であり、特に初心者に対して敷居が高かったのは仕方のないことでした。しかし、エプソン用のSIMMはサードパーティ各社から適当な価格で出ていたし、プロテクト外しも大して難しいものではなく、少し慣れたユーザーなら何ら問題はありませんでした。それより何と言ってもGRは、それらの不都合が気にならなくなるぐらい、当時の98系としては卓越したパフォーマンスを持っていたのです。

 ローカルバスに関しては、世間は未だCバスが主流だったことから、当初あまり使われることはなく、98非互換だったことはあまり問題になりませんでした。H98シリーズのNESAバスですら、ほとんど普及していなかったのです。Windows3.0〜3.1時代なって、ローカルバス専用のグラフィックアクセラレータボードPCSKB4がエプソンから発表になりました。サードパーティのCバス用アクセラレータボードより多少割高でしたが(定価6万8千円)ローカル接続によるバス速度の速さもさることながら、他社に引けを取らないアクセラレータチップの採用で、メーカー純正とは思えないほど魅力的なボードでした。

 486GRの少し前から、エプソンはアップグレードコンセプトを盛んに売り出していまいた。このコンセプトに基づいた機種は、いつでも最新機能に交換でき、いつまでも安心して使えるというものです。実際486GR用に、ペンティアム(60MHz)搭載のアップグレードCPUボードも発表されていました。まあそうは言っても、メーカーとしては最新機種が売れなくなるような価格付けをするわけがなく、実際ペンティアムボードもかなり割高で(定価42万8千円)、結局、買い換えた方が良いということになりがちでした。実際、購入した方も少なかったようです。

 このように発売当初は、価格などの点から人気の無かったペンティアムボードですが、現在では再評価されています。このボードのおかげで、GRは486初期のマシンでありながらPentium系CPUの進化についていけるパソコンとなったのです。すなわち、ペンティアムボードのソケット4から、下駄を履かせてソケット7相当にすることが可能なのです。事実、GRを愛するパワーユーザーの手によって、K6−III(360MHz)を積んだGRが実現しています。エプソンが蒔いたアップグレードコンセプトの種が、6年の年月を越えてひそかに実ったといえましょう。

 NECは、1993年になって9821メイト、9801フェローシリーズを発表するまで、486GRに勝る魅力的な機種を投入できませんでした。ただエプソンもGR以降、GR+やGRスーパーといった、GRに多少手を加えただけのあまりぱっとしないマシンしか投入できず、足踏み状態でした。本家と違った規格を提案することが難しい、互換機メーカーの宿命だったのかも知れません。そのためNECが対DOS/Vに開発した新規格の98、9821メイト、フェローを投入したとき、最も打撃を受けたのは、標的であるDOS/V機ではなく、他でもないエプソン互換機だったと言われています。

 後継機種はどうあれ、486GR自身はとても長く使えるマシンでした。ベースこそ25MHzだったものの、1993年に登場したODP/50MHz、1995年のDX4ODP/75MHzを経て、最終的にAMD5x86/100MHzまで増強できました。結果的に、GRはWin3.1時代を快適に過ごす性能を、十分に有するパソコンであったと言えましょう。すなわちWindows95が登場する95年の末まで、98メイト、フェローの登場や各社DOS/Vマシンの台頭にも関わらず、買い換える必要のない機種だったのです。

 実際、私の購入したGRもODPで50MHzに増強し、メモリーを8MB追加するというパワーアップを経て、94年の夏までメインマシンとして十分に活躍してくれました。その後、GRはパソコンをほしがっていた友人に売ってしまったのですが、そんなことがなければ95年末のWin95時代の到来まで使い続けるつもりでした。これまで私が最もよく活用し、最も満足感を得られたパソコンがGRだったのは間違いありません。(その後、売ったGRを友人から取り戻し、現在、大切に保管してあります)